いってこい実力至上主義の教室へ   作:嘴広鴻

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4-1 よそし

 

 

 

――― 茶柱佐枝 ―――

 

 

 

「……どうしたんだ、おまえら?」

 

 

 無人島試験で単独1位。

 しかも、Cクラスに来月からプライベートポイントを支払わなければならないABや、プライベートポイントを手に入れることはできてもクラスポイントを稼ぐことのできなかったCクラスに比べてデメリットがないような文句なしの1位だった。

 流石は綾小路。このままなら来月から早くもCクラスになれる……と本来なら手放しで喜べるはずなのに、今後も綾小路に振り回されることになるかと思うと気鬱になってしまう。

 

 あれほどAクラスに上がることに拘っていた私なのに、そう思ってしまうのはどうしてなんだろうなぁ?

 

「おや、茶柱先生。何か御用ですか」

 

 綾小路が今回の旅行期間に借り上げたロイヤルスイートを訪れると、ドアを開けて私を出迎えたのはAクラスの神室だった。そして部屋に入ってリビングルームを覗いてみると、そこには堀北を除いた綾小路のハーレムメンバーとAクラスの坂柳、そしてBクラスの一之瀬とCクラスの椎名がいた。

 一之瀬と椎名を除けばいつものメンバーなのだろうが、その櫛田たちの様子がいつもとは違う。具体的にはテーブルに突っ伏して動かない者や、ソファーで仰向けになってグデッとしている者がいる。いつも通りの態度なのは坂柳と椎名ぐらいで、私を部屋に招き入れた神室もどことなく耳が赤い。

 

「坂柳、綾小路はどこだ? ベッドルームか?」

 

 私の言葉に死んでいる櫛田たちがピクリと反応する。

 寝ているわけではなさそうだ。

 

「は? ……いえ、清隆くんはこちらの部屋にはいませんよ。ジムで食後の運動をしているかもしれませんし、もう一つの方で寝ているのかもしれません」

「ん? だから綾小路はロイヤルスイートで寝泊りしているのでは……いや、何でもない」

 

 ……そういえば綾小路は男だった。ならば坂柳や櫛田たちが寝泊まりしているこっちの部屋で寝泊まりするわけはないか。綾小路が寝泊まりしているのは高円寺が使っている方のロイヤルスイートだな。

 アレは“綾小路”という存在だという認識が強くなっていたせいか、すっかり綾小路の性別について失念してしまっていた。坂柳に変な表情をさせてしまったな。

 

 しかし、綾小路は高円寺と同室か。もしかしたらスポット占有で一緒に島を走り回った須藤と三宅もロイヤルスイートに泊めたのかもしれんが、あの高円寺と一緒でよく平気だな、綾小路。

 あの2人の関係は悪いものではないと思っているが、それでもあの2人の関係が今後どうなるか少し不安だ。お互いに細かいことを気にしないタイプだし実力を認め合っている仲でもあるのだろうが、それでもお互いの譲れない部分で争いになってしまったときはDクラスにダメージがあるだろう。

 ただ、綾小路は高円寺に勝つ自信があるらしいので、2人が争ったとしても綾小路の方が残ることになるのは幸いだ。

 どうやら肉体的なスペックや適応力は高円寺の方が上とのことだが、綾小路曰く“初見の技にて適応前に屠る”ことは可能らしいので、綾小路さえ無事なら取り返しのつかないことにはならないだろう。もちろんこのまま険悪な関係にならずに互いに利用し合う関係のままでいてくれれば一番いいとは思っているのだが……どうだろうなぁ?

 

 いや、Dクラスの問題児2人については後で考えることにしようか。

 

「それなら秘書の堀北は?」

「堀北さんこそベッドルームで寝ています。昨晩は徹夜だったそうなので」

「そうか。先ほど船の従業員の方から言われたのだが、12時から生徒全員が入れる広さのパーティー会場を借りたいという申請が綾小路からあったらしいので、それについての確認をしたかったんだが……」

 

 1クラス40人が入れる広さならわかるが、1学年160人が入れる広さっていったい何をする気だ、アイツは?

 しかも申請した時間が12時からの4時間。つまり13時から行われる特別試験の集まりが終わってからも使いたいということだ。絶対、何か企んでいるだろ。

 

 

 無人島試験の終了から数日の休息を挟み、船の上で行われることになった特別試験。

 先のようなサバイバル染みた試験ではなく人狼ゲームにも似た頭脳ゲームとなっている。流石に2連続で体力を使う試験にしないような配慮は学校も持っている。

 

 まず12のグループがある。このグループは干支、子・丑・寅・卯・辰・巳・午・未・申・酉・戌・亥の名前がそれぞれに付けられている。実際に呼ぶ際は鼠グループ、牛グループ……のようになるだろうがな。

 次にA~Dクラスから3~5人ずつがその各グループに割り振られ、14人前後のグループが構成される。

 

 そしてそのグループ内に1人の“優待者”が紛れているのだが、今回の試験はその優待者を基点とした課題となる。

 

 試験開始当日、つまり今日のことだが、先ほど8時に一斉メールを送って優待者を通知したので、既に優待者となったものはその事実を知っているだろう。

 そして1日に2度、グループだけで所定の時間と部屋に集まり1時間の話し合いを行う。今が10時ちょっとなので、あと3時間ほどで最初のグループディスカッションが始まると同時に試験が開始される。

 試験の解答は試験終了後、3日後の21:30~22:00までの間のみで優待者が誰であったかの答えを受け付ける。なお、解答は1人1回までだ。

 解答は自分の携帯電話を使って所定のメールアドレスに送信することのみで受け付けるが、優待者には解答の権利がなく、自分が配属された干支グループ以外への解答はすべて無効とされる。

 

 これが基本ルールなのだが、厄介なのは4つの定められた“結果”だ。

 

 試験終了後の解答の際に、グループ全員が優待者を正解した場合は結果1となる。

 ただし、グループ全員といっても優待者と優待者の所属するクラスメイトは除く。優待者には解答権がないし、クラスメイトは解答権はあっても優待者が同クラスだった場合は無効だからな。

 結果1となった場合、優待者は100万プライベートポイント、優待者以外は50万プライベートポイントを得ることができる。

 

 試験終了後の解答の際に、グループのうち1人でも優待者を間違えたり未回答者がいた場合は結果2となる。

 結果2となった場合、優待者は50万プライベートポイントを得ることができる。

 

 そして結果3と結果4。この2つは試験終了後に解答する結果1と結果2と異なり、試験中24時間いつでも解答を学校が受け付けるし、試験終了後30分間も同じく受け付けられる。

 

 優待者以外の生徒が試験終了を待たずに答えを学校に告げ、正解していた場合は結果3となる。

 結果3となった場合、正解者の所属するクラスは50クラスポイントを得ると同時に、正解者は50万プライベートポイントを得ることができる。また、優待者を見抜かれたクラスはマイナス50クラスポイントとなる。

 

 優待者以外の生徒が試験終了を待たずに答えを学校に告げ、不正解だった場合は結果4となる。

 結果4となった場合、優待者の所属するクラスは50クラスポイントを得ると同時に、優待者は50万プライベートポイントを得ることができる。また、不正解者が所属するクラスはマイナス50クラスポイントとなる。

 

 結果3、結果4で正解者、不正解者がでた時点でそのグループの試験は終了となる。

 ただし優待者と同じクラスメイトが答えを学校に告げた場合は、正解・不正解問わず答えは無効として試験は続行となる。

 

 まとめると

 

 結果1はグループ全体で優待者を共有してクリアする。

 結果2は最後の解答を誰かが間違え優待者が勝利する。

 結果3は裏切り者が優待者を見つけだす。

 結果4は裏切り者が優待者の判断を誤る。

 

 ということになる。

 さて、無人島での試験はDクラスの勝利となったが、この船上試験はどうなるか…………なのだが、堀北が徹夜したということが気になるな。というより既に嫌な予感しかしないぞ。

 綾小路のことだ。おそらく優待者が各クラスに3人ずついて、更には一斉メールにも記しているが厳正な調整を持って優待者を決定したことは既に気が付いていただろう。

 厳正な調整。つまり何らかの法則をもって優待者を決定したということは、その法則を見破れば他のクラスの優待者もわかることということでもある。堀北を秘書のように働かせている綾小路のことだから、徹夜で法則性を予測することに堀北を使ったのかもしれん。

 

 それに今も余裕そうにしている坂柳が要注意だな。

 思えばここに来る前にAクラスの葛城を見かけたが、その際に葛城の目が充血していたように見えたのが印象に残っている。もしかすると葛城も坂柳の命令で徹夜して法則性を予想していたのかもしれん。

 

 下手したら初日の今日で終わるんじゃないか、この試験?

 となると、綾小路は既に50億持っていることからプライベートポイントの優先度は低いので、クラスポイントを目的として結果3で終わりそうだな。

 坂柳と同盟を組んでBCクラスを山分けにするのか、それとも試験が開始される12時のグループディスカッション開始と同時に早い者勝ちで優待者を当てに来るのか。さて、どちらだろう?

 

 ……そういえば優待者当てのメールが同時刻で同着だった場合をどうするか決まっていない気がする。試験開始直後にAとDクラスの全員が一斉にメールが送ってきたらどうなるんだっけか? 後で真嶋に確認しておこう。

 

 

「……ところで櫛田たちは大丈夫なのか? 顔が赤いようだが、風邪でも引いたのか?」

「いえ、先ほどまで清隆くんに手を出してもらうにはどうすればいいのか、という話をしていたのですが、その話の結論がなかなか受け入れられないものだったためにガッカリしてしまったようです」

「ち、違いますよ、茶柱先生。

 綾小路くんに手を出してもらうとかじゃなくて、どうやったら綾小路くんが若さにかまけて暴走するのかという話をですね……」

「話の中身はどっちにしろ変わらんと思うぞ、櫛田。

 ……話には聞いたが、せっかく水着姿を見せたというのに密輸の手伝いを優先させられたのがそんなに気に障ったのか? まぁ、女子高生なら無理ないかもしれんが……。

 しかし、どうやったら綾小路が暴走することになるというんだ? それ以前にアイツに性欲というものは存在するのか?」

「あるかないかで言えばあるでしょうね、多分」

「自分で多分って言っているじゃないか、坂柳。

 それにあったとしても、綾小路ならそういう生理的な欲求をもコントロールしてそうだぞ。アイツ、心臓の鼓動もある程度コントロールできるみたいだからな」

「ええ、同感です。

 ですので清隆くんに手を出してもらうためには、櫛田さんたちの方から清隆くんに手を出してもらうようにお願いする必要があるでしょうね」

「その結論に達したから櫛田たちの顔が赤いのか? 気持ちはわからないでもないが、今どきの女子高生にしては少し純情過ぎやしないか?」

 

 佐倉ならともかく、櫛田はそういうキャラじゃないだろ。

 

「それだけでなく…………こう、高校生にあるまじき不純な異性の交遊をするならば、女性として懸念しなければならないことがあるじゃないですか?」

「……そこら辺は本当に気をつけろよ。

 あまり大きな声では言えないが、学校の敷地内の店舗にそういうのを販売しているところはちゃんとある。買うのを恥ずかしがったせいで、お腹が大きくなって退学になるなんてことだけは勘弁してくれ」

「いえ、別に私はそういうことを綾小路くんとしたいってわけじゃなくてですね……」

「一般論でだ、櫛田。

 それにおまえたち以外のクラスメイトでも、そのうち男女交際する者が増えていくだろう。私も教師として注意はするが、櫛田からも浮かれるようなヤツがいたら注意してくれ、という話でもある」

「そういうことでしたら……まぁ、はい……」

「フン、それにおまえたちなら問題あるまい。綾小路の性格ならコン……そういう()()()()を買うのに躊躇はしないだろうから、綾小路に買わせればいいだろうさ」

「足りませんね」

「うん?」

「コン……()()()()も確実ではありません。理想的に装着した場合でも失敗率が2%ありますし、一般的な失敗率でなら15%にもなると言われています。1回限りならともかくとして、分の悪い賭けが嫌いな清隆くんなら日常的には挑まない確率ですね。

 ですので清隆くんの()()()()だけでなく、女性側としても何らかの対処をする必要があるでしょう。そのことをお話しますと……まぁ、櫛田さんたちがこのように……」

「あー……理解した」

 

 要するに綾小路とホニャララしたかったら病院に行ってピルを処方してもらってこい、ということか。そうすれば妊娠する確率は更に低くなるが生娘には難易度高いだろうな。

 部活動や生理不順を名目に処方してもらう方法もあるだろうが、それでも女子高生なら抵抗を持つことは仕方がないだろうし、そもそも綾小路に『ピル飲んでるから手を出してくれても大丈夫。むしろ出してください』なんて説明するのがキツイ。櫛田たちが顔を赤くしているのも仕方がないか。

 でも確かに綾小路の性格だったら、そういう対策をしていることをちゃんと説明しないと手を出さないんだろうなぁ……。

 

「…………まぁ、頑張れ。

 一応、教師としてと年上の女としてアドバイスしておこう。そういうことをしたいという気持ちは理解するが、それよりもまずは綾小路とキスやハグをするようになってから考えても遅くないぞ」

 

 そもそも綾小路の彼女をやっているのはカモフラージュのはずだろ。

 それなのにそんなことについて考えるなんて、櫛田たちは綾小路のことを遂に本気になってしまったのか? 凄い男だとは思うが、ああいうポンコツと付き合うのは苦労することになると思うんだがなぁ……。

 

「いえ、ですから綾小路くんとそういうことをしたいワケじゃなくてですね……」

「わかったわかった。精々頑張れ。

 ……というか、こんな話題をしていたのに何故に一之瀬や椎名もいるんだ?」

「はにゃっ!? ……えっと、朝食後に綾小路くんに誘われて、葛城くんや龍園くんを含めて皆で話し合いをしたんですけど、解散後の話の流れで女子でお茶をしようってなりましてこの部屋に……」

「はい。それでも一之瀬さんは綾小路くんの話になると興味深く耳を傾けていたようですが……」

「ちなみに私も伊吹さんと一緒に朝食後の話し合いに参加してました。伊吹さんはこのお茶のお誘いを断って映画を見に行ってしまわれましたけど。

 私としてはお茶に誘われたのもありますが、この部屋のソファーが気に入りまして。カフェでも読書は出来ますが騒ぐ人もいらっしゃいますし、落ち着いて読書するために旅行中は今後もお邪魔するつもりです」

「どうぞどうぞ。この部屋は私名義で借り上げていることになっていますが、実際は清隆くんの奢りですからね。それだと流石にこの空間を独り占めしようとは思えませんので、気が向いたら遊びに来てください。

 ……機会があれば伊吹さんもご一緒に是非」

「(……一之瀬の次の坂柳の狙いは伊吹、か。ま、私がターゲットじゃないなら別にいいや)」

 

 葛城や龍園を含めての話し合いだと?

 フーム、これは本格的に何か仕出かそうとしているな。

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 何の成果も得られなかった……。

 

 綾小路の申請通り、12時から生徒160人が入れるパーティー会場を手配したのだが、その会場の中で綾小路たちが何をしていたのを探ることができなかった。

 生徒たちは会場の出入り口を1つ除いて封鎖し、その残った1つの出入り口もAクラスの鬼頭、Bクラスの神崎、Cクラスの山田、Dクラスの須藤たちが陣取ることで私たち教師を近寄らせなかったからだ。

 

 これなら会場に盗聴器でも仕込んでおくべきだった。

 

「おや、茶柱先生。先ほど振りですね」

「……そうだな、坂柳」

 

 そんなことがあったため、13時からのグループディスカッションを教師が監視することになった。

 綾小路たちが何かを企んでいるということは明白なので、その何かに対してすぐさま対応できるようにとのことだが、どうして私が各クラスの主要人物を集めた竜グループの担当になってしまったんだ?

 

 真嶋ァ、おまえが学年主任だろ! だったらおまえが竜グループの監視をすべきだったんじゃないか!?

 知恵ェ、いつまでもグダグダと昔のことに拘ってんじゃないぞ! 今回のことで学生時代のことは全部チャラだからな!

 

 ……坂上先生はお身体を大事にしてください。

 

「あれ? ここで何してんですか、茶柱先生?」

「…………グループディスカッションの立ち合いだ、綾小路」

 

 綾小路の問いかけに対して素直に答える気力がない。そして平田の私を気遣うような視線が私に追い打ちをかけてくる。

 平田自身は気遣っているつもりなのだろうが、その視線はこれから何かが起こりますよって自白しているようなものだぞ。

 

 現在は12時55分。あと5分でグループディスカッションが始まるが、既にグループの全員が集まっている。

 龍園ぐらいは遅れてくると思ったが、どうやら遅刻のペナルティのことを考えたのか素直に時間までに来たようだ。

 全員が席に着き、特に会話もなく時間が流れる。このまま素直にグループディスカッションが始まれば……と思った瞬間、綾小路が胸ポケットから携帯を取り出して机の上に置いた。少し遅れて平田と櫛田、堀北も同じように携帯を置き、それを見た他クラス生徒も同様に机の上に携帯を置き始める。

 その様子を綾小路は腕組みをして静かに見詰めていた。

 

 結果3を得るためには、自らの携帯で優待者の答えを学校側に送信しなければならない。なら、あのように携帯を手放しているとなると、自分は裏切るつもりはないと宣言しているようなものだ。

 ということは、どのクラスも最初のグループディスカッションは他クラスの様子を見るためにも素直に話し合いをするつもりなのだろうか? 次のグループディスカッションのときには私は別グループの監視になるので、いきなり試験終了にならないのなら私の気も少しは楽になるのだが……。

 

 腕時計を見てみると既に試験開始5秒前。

 誰も口を開かない沈黙の中、遂に試験開始のアナウンスが船内スピーカーから部屋の中に響いた。

 

 

『ではこれより1回目のグループディスカッションを開始します』

 

 

 さぁ、試験開始だ……と思った瞬間、机の上に置かれていた生徒たちの携帯全てが一斉に震えた。それと同時に上着の胸ポケットに入れていた私の仕事用携帯もだ。

 おかしい。教師の私だけではなく、生徒全員にまでメールが送信される予定などはなかったはずだ。

 

 となると、もしかすると地震や津波などの自然災害による緊急速報でも送信されたのかもしれない。

 そんな状況だったら特別試験をしている場合ではない。そう思って状況を確認しようと携帯の画面を見てみると、学校から12通のメールが送信されていたのがわかった。

 

 

『鼠グループの試験が終了いたしました。結果発表をお待ち下さい

 牛グループの試験が終了いたしました。結果発表をお待ち下さい

 虎グループの試験が終了いたしました。結果発表をお待ち下さい

 兎グループの試験が終了いたしました。結果発表をお待ち下さい

 竜グループの試験が終了いたしました。結果発表をお待ち下さい

 蛇グループの試験が終了いたしました。結果発表をお待ち下さい

 馬グループの試験が終了いたしました。結果発表をお待ち下さい

 羊グループの試験が終了いたしました。結果発表をお待ち下さい

 猿グループの試験が終了いたしました。結果発表をお待ち下さい

 鳥グループの試験が終了いたしました。結果発表をお待ち下さい

 犬グループの試験が終了いたしました。結果発表をお待ち下さい

 猪グループの試験が終了いたしました。結果発表をお待ち下さい』

 

 

 どうやら自然災害発生の緊急速報などではなく、生徒に送るメールが私にもBccで送られてきたようだった。

 生徒に送られるメールがBccで送られてくるのは、元よりそういう設定だったのでこれ自体に問題はない。わざわざ教師用にメールの内容を書き換える手間をかける必要なんぞないので、結果3か4になったときに生徒へ送られるメールが教師へ同時に自動で送られる設定になっていたわけだから…………って、なんじゃこりゃーーーッ!?

 

「「「「「お疲れ(さまでした)~~~」」」」」

 

 ちくしょう! だいなしにしやがった! 綾小路はいつもそうだ。

 このメールは綾小路の人生そのものだ。綾小路はいつもブッ飛んでばかりだ。

 綾小路はいろんなことに手を付けるが、ひとつだってマトモな方法でやり遂げない。

 

 誰も私を愛さないッ……!

 

「それじゃ、昼メシに行くか」

「ええ、会場の準備もできている頃でしょうね」

「今回ぐらいは付き合ってやんよ」

 

 思わず崩れ落ちた私に見向きもせずに、試験が終了したからと部屋から去っていく綾小路や坂柳、龍園たち。

 平田や櫛田、一之瀬なんかは私を気遣おうとしたのか私に近寄ってきたが、おまえ何やってるんだ綾小路ーーッ! 気遣いはともかく携帯を使わずに答えを送信した方法を言えーーーッ!

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

「熱膨張……じゃない、()()()()って知ってますか?」

 

 

 熱々の紅茶をストレートで飲みながら綾小路が話す。私だけでなく、真嶋や星之宮のような教師連中に囲まれているというのに全然怯える様子は見せない。クソが。

 今いるのは綾小路が借りたパーティー会場。どうやら綾小路が試験開始前に船の従業員に依頼していたらしく、状況の確認をし終えた私たち教師が到着したときには立食パーティーが始まっていた。生徒への情報漏洩を考慮して船の従業員には試験のことは詳しく教えていなかったので、彼らも何の疑問を持たずに立食パーティーの準備をしてしまったのだろう。

 12時に集まったせいで生徒全員がグループディスカッション前に昼食を取っていなかったらしく、早々の試験終了の浮かれもあって楽しく会話しながら生徒が食事を楽しんでいる。

 その会場の一角で私たちは綾小路を半包囲した状態で取り囲んでおり、綾小路の少し後ろには坂柳や一之瀬、龍園を始めとした各クラスのリーダー格が立っている。おい、ニヤニヤ笑ってんじゃないぞ、龍園。

 

「予約送信とは……時間を予約してメールを送信する、ということか?」

「ええ、名前の通りですよ、真嶋先生。

 アンダーマウント社がサービスを提供しているCmailに、そういう指定した予約時間にメールを送信できる機能があるんですよ。一般に使われないのであまり知られていませんが」

 

 メールを予約して送信するメリットなんて特にないですからねぇ、と平然と答える綾小路。

 私もそんな機能は使ったことないな。綾小路の言う通り、メールなんだからわざわざ時間を指定して送信する必要がない。

 

「自分の携帯からしか優待者当てメールの送信はできないってルールでしたが、そのメールを送るメールソフトは限定されていませんでしたからね。

 12時からの集まりで生徒全員の携帯にCmailをインストールさせて、試験開始13時ちょうどにメールを送信するように予約させたんですよ。もちろん優待者は全クラスで共有してです」

「そうか。だから誰も携帯を持っていなかったのに送信されたのか……」

「須藤がバスケのソーシャルゲームアプリをインストールしていたことから、学校から支給された携帯に外部のアプリをインストールできるのはわかっていました。とはいえ、Cmailはメールソフトということもあって使えないかもしれない可能性がありましたが、メールソフトのサーバー設定やアカウント設定をちゃんとすれば普通に使えましたよ。

 外村、設定のやり方の解析ご苦労。褒美だ、10万送る。これからも頑張れ」

「恐悦至極。これからも理乃様に相応しい男になれるよう精進する所存」

 

 目が充血してるぞ、外村。もしかしておまえも徹夜でメールの設定の方法を確認していたのか?

 それにしても一見すると外面や口調は無人島試験前と変わっていないよう見えるが、何だか中身が大きく変わってしまったような気がするぞ。おまえにいったい何があった?

 

 それはともかくとして、真嶋や知恵の話によると他のグループでも試験開始時には生徒全員が携帯を手放していたらしい。

 

 ……コレはもう初っ端のルール作りの時点でミスってるじゃないか。

 私はあまりプログラムのことなどはわからないが、いくらこの学校独自のメールソフトを使用していたとはいえ、おそらくサーバーやアカウントの設定までもを独自の特殊なプログラムを組んでいたわけではないのだろう。

 他とは違う特殊さとはいっても同じサーバー内でしか受送信することができないことぐらいで、メールソフトの基本的な骨子は外で使われているものと似たようなものなのだろう……というか、学校上層部のお偉いさんはそこまでパソコンについてはわからんだろうから、おそらくメールソフトの開発は業者に丸投げしたはずだ。

 業者がわざわざ利益を削ってまで特殊なものを作るとは思えないので、それなら少しパソコンに詳しい生徒ならメールソフトのサーバー設定やアカウント設定方法を解析できてもおかしくはない。

 

 

「昨夜から優待者の法則は色んなパターンを予想していましたので、今朝の8時にメールが来た時点で他クラスの優待者が誰なのかもわかりました。

 クラスや男女関係なしに名前を五十音順に並べ替えて、それぞれのグループの干支に対応する番目の生徒が優待者ですよね。鼠グループだったら1番目、牛グループだったら2番目って感じに……」

「既に試験が終わっているので言ってしまうが、確かにその通りだ。

 ちなみに他にはどのような法則を予想していたんだ?」

「グループメンバーの名前リストを見せられたので、法則は名前関係だろうと絞りました。後は背の順とか出身都道府県の総務省全国地方公共団体コードの順番が関係するとかも考えつきましたが、そこまで複雑な問題にはしないだろうとも思いました。

 五十音順の他に可能性が高いと考えたのは画数順ですかね。漢字、ひらがな、カタカナで名前を書いたときの文字の画数の合計数順です。それと名字ではなく名前を先にした場合の五十音順です。

 名前をローマ字にしてのアルファベット順や画数順なんかも思いつきましたが、こっちは確率が低いと思いました。例えば葛城(かつらぎ)の“つ”を“tsu”にするか“tu”にするかで答えが変わってきます。“つ”だけじゃなくて“ふ”を“hu”にするか“fu”にするか。“ち”を“chi”にするか“ti”にするか等、断定できない情報が多すぎるのでこれだと試験には使えないでしょう」

「……ヒントが多すぎたか?」

「で、どのパターンが来てもいいように、パソコンであらかじめ表を作っておいてもらったんですよ、堀北に。

 その予想した中でも五十音順は各クラスに優待者が3人ずついる配置になっていたので、これが本命だと確信していました」

「Aクラスも同じです。葛城くんが一晩でやってくれました」

 

 堀北と葛城の2人が後ろでまだ眠そうにしているのはそのせいか……。

 160人分の名前を五十音順に並べたり、漢字、ひらがな、カタカナそれぞれで画数を調べたりするのは確かに手間がかかりそうだな。

 

「そして8時に優待者を知らせるメールで本命と予想していた法則、クラス関係なしの名字の五十音順という法則が正解であることがわかりました。

 ですので13時の試験開始直後に結果3にしようかと思っていたのですが…………口惜しいことに清隆くんと違って私はメールの予約送信の存在を知りませんでしたので、清隆くんの誘いがなければDクラスの1人勝ちになっていたでしょうね。まさか綾小路先生のホームページを作っていた経験がこんな場所で活かされるとは思いませんでしたよ」

「坂柳さん、そんなこと言ったら私たちBクラスと龍園くんのCクラスは優待者の法則に気づけなかったんだし……。

 それで一斉メールが送られてきた直後に綾小路くんから呼び出しメールを送られてきたんですけど、そのメールにはBクラスの優待者の名前が書かれていたんです。だから綾小路くんの呼び出しに応じないわけにはいかなかったんですが、呼び出し先で坂柳さんや龍園くんたちと一緒に予約送信のことを聞かされました。その後は先生方にバレないように自分のクラスへの根回しですね」

「チッ、俺も同じだ。

 そして12時からの集まりで全生徒にCmailをインストールさせて、アカウント設定のやり方を教えて13時の予約送信の準備をさせたってわけだ」

「……君たちの動きの流れはわかった。

 しかし、綾小路が予約送信で一斉にメールを送ることをA~Cクラスに提案したのは何故だ? Dクラスのみで独占すればよかったのではないか?」

「真嶋先生、その場合だと学校はその結果をどう処理します? いえ、それ以前に今回の試験の結果はどう処理するんですか?」

「ム?」

 

 今回の試験では全てのグループが結果3で終わった。

 問題なのは、答えを各クラスの優待者と優待者の同クラスの生徒以外の全員が同時に正解メールを送ってきていることだ。

 

 結果3となると

①正解者の所属するクラスは50クラスポイントを得ることができる

②正解者は50万プライベートポイントを得ることができる

③優待者を見抜かれたクラスはクラスポイントを50ポイント引かれる

 という処理が行われる。

 

 え、この場合は……どういう処理になるんだ?

 

「私見ですけど②の“正解者は50万プライベートポイントを得ることができる”というのはそのままでいいでしょう。素直に正解者全員へプライベートポイントを支給すればいいだけです」

「……続けてくれ」

「問題となるのは①と③ですね。

 この場合、主語が“クラス”となっていますので、こちらは正解者の人数自体は気にしなくてもよいと思います。

 1つのグループ内の話に限定すると、正解者が4人いたとしても正解者の所属するクラスが1つだったら①のカウントは1つ。そして正解者が所属するクラスが3つだったとしても優待者を見抜かれたクラスが1つだから③のカウントは1つ。

 つまり1つのグループでは優待者のクラスはマイナス50クラスポイントで、正解者がいるクラスはプラス50クラスポイントです」

「要するに……差し引きして全クラスにプラス300クラスポイントしろ、と?」

 

 1つのクラスの視点で考えると、12グループのうち他クラス所属の優待者がいるのが9グループで、自クラス所属の優待者がいるのが3グループ。つまり“50クラスポイント×9(優待者を当てた)グループ”-“50クラスポイント×3(優待者を当てられた)グループ”=プラス300クラスポイント。

 それに加えて全生徒数160人の4分の3、120人に50万プライベートポイントの支給か。合計6000万プライベートポイントか。こっちは安いな、と思ってしまったのは綾小路のせいだろう。

 

「ルールの文法的にこれが妥当だと思いますよ。皆はどう思う?」

「賛成ですね」「Bクラスとしても異存ないです」「いいんじゃねぇの」

 

 綾小路の提案に坂柳、一之瀬、龍園が同意の声を上げる。

 

 コイツら、対学校だったら手を組むことを覚えやがった……。

 

 これがDクラスの独占となる結果だったとしたら、おそらくA~Cクラスがルールの不備を指摘して試験の無効を要求してくることになっただろう。ルール作りが不徹底だったとはいえ学校としても受け入れ難い結果だから、下手をしたらDクラス対A~Cクラス+学校という事態になったかもしれない。流石の綾小路もそれは避けたいだろうな。

 それにそこまでいくと、学校がこの試験を無効にして別の試験へ変更することだってありえる。

 

 綾小路め。それを避けるために坂柳たちを誘って他のクラスを共犯にしたな。

 これでは“欠陥ルールの試験をさせようとした学校”対“ルールに則って試験に挑んだ生徒たち”になっているじゃないか。しかもどのクラスも均等な利益を得ることができるから、今後のクラス対抗に多大な影響を及ぼすとはいえない。

 これだと結果1と結果3の良いとこ取りの結果になってしまうが、学校としては綾小路の意見を受け入れるか試験を無効にするかの2択しかない。

 そして試験を無効にするということは生徒からの学校への信頼を失墜させることとなり、今後のクラス対抗に甚大な影響を及ぼしてしまうだろう。それを考えると、取れる選択は実質1つしかない。

 

「「「「「…………」」」」」

 

 視線を感じたので振り返って後ろを見てみると、さっきまで食事を楽しんでいた生徒のほぼ全てがこちらを見つめている。例外は今も平然と食事を続けている高円寺ぐらいだろう。

 真嶋も視線に気付いたのか、気まずそうな顔をしている。

 

 Dクラスの担任としてもこの方針だからこその利点があるのはわかる。

 先の無人島試験でDクラスは1人勝ちともいえるほどの勝ちを収めた。しかもA~Cクラスが連合を組んだのを相手取っての勝利だ。

 そして続いて行われたこの試験でもDクラスが1人勝ちしてしまうと、今後のクラス対抗の特別試験でずっとA~Cクラスが連合を組むようになることだってありえる。流石にそれはよろしくない状況といえるだろう。

 だから綾小路は、今回の試験では他クラスと協調して1つのクラスだけではなく学年全体で最大限の利益を上げつつ、他クラスには多大な貸しを作りながら対学校という面で全クラスが組むことの実績を築き上げた。

 

 これでは他クラスもそう簡単に綾小路と敵対する道を選んだりはしないだろう。

 何しろ綾小路が予約送信に誘わなければ、BCクラスはクラスポイントがマイナス150になってしまっていたところだ。AクラスはDクラスの優待者を当てることでプラマイゼロに持っていけるだろうが、それでも綾小路に完全にしてやられたという印象は拭えない。

 しかし、綾小路の誘いに乗ればクラスポイントがプラス300、プライベートポイントだって1クラスにつき1500万ほど手に入れることができる。これなら綾小路に貸しを作ることになったとしても誘いに乗らないはずがない。

 ましてやメールの予約送信なんて方法ならどのクラスも抜け駆けはできないし、乗らなかったクラスは予約送信できずに1人負けになるだけだ。綾小路に誘われた時点で、この試験がこの結果になることは決まってしまっていた。

 

 だからDクラスの担任としてはこの方針が正しいのはわかる。わかってはいるんだ。

 しかし、この胸に宿るやるせない気持ちは何なんだろうか?

 

「……君たちの意見はわかった。

 こちらとしても予期せぬ事態になってしまったため上層部の指示を仰ぐ必要はあるが、1年の学年主任としては…………正当な理由がない場合は君たちの意見を拒否できないと考えている、と言っておく」

 

 真嶋の言葉に生徒たちが歓声を上げる。

 これは仕方あるまい。明らかに学校側のルール設定ミスだ。

 

 Dクラス担任としても悪い結果ではないので嘆く必要はない。必要はないんだがやるせない気持ちで胸がいっぱいだ。

 何なんだろうなぁ、この気持ち。

 あれだけAクラスへ上がることに拘っていたのに、綾小路のおかげでそれが実現可能だと思える状況になっても嬉しいと思えないのは何故だろう?

 

 ……ああ、この後にあるであろう職員会議が憂鬱なんだな、きっと。

 

 いくら私が綾小路の担任だとはいえ、アイツへの苦情を私に言ってこられても困る。

 綾小路は入学前からあんなのだったのはわかりきっていることだから、私の教育が悪いとかそういうことじゃないんだよ! 苦情を言うなら綾小路の入学を許可した理事長に言ってくれ!

 

 いくら綾小路のおかげでAクラスに上がることが可能とわかってはいても、ここまで違う意味でヒドイ生徒の面倒なんて押し付けられとうなかった……。

 

 

 

 




 というわけで、原作4巻は1話で終わったでござるの巻。
 そして茶柱が折れました。縁起悪いですね。

 別の方の作品で同じようにメール同着による複数の正解者を出した作品があったのですが、どうやらその作品では手動送信っぽかったのでそこが違いですね。1年以上前でしたが、その作品を読ませて頂いたときに「……いや、どうして手動送信?」って不思議に思ったのを覚えてます。
 まぁ、予約送信の知名度がないってことなんでしょう。予約送信はホントにGmailであるんですけど、私も使ったことありませんし。
 一応は無人島試験の際にC(G)ooc(g)leの話題を出していたが前振りのつもりだったのですが、繋がる線が細すぎて前振りになってねぇな、コレ。

 それにしても駄目です。原作知識アリだったら特別試験を完封してしまいます。というより、流石に50億ポイントはやり過ぎました。5億ぐらいにしておけばよかったかも。
 こういう知能ゲーム作品の二次創作だと原作知識アリは反則過ぎます。
 話をこれ以上続けるとオレツエーが鼻につきすぎてしまうので、蛇足で話の続きを書いてきましたがそろそろ潮時でしょう。

 ただし、Aクラス所属だった場合の無人島試験の別攻略法が1つ思い浮かんでいますので、最後に今作品のきよぽんが“高校入学前から世間に名を売らず坂柳家との家族付き合いもしない原作通りの境遇でAクラス所属となったIfルート(※ ただし篤臣パッパの胃痛は変わらないものとする)”の無人島試験編を書いて終了にしようと思います。
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