いってこい実力至上主義の教室へ   作:嘴広鴻

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1-4 だってよ・・・!! 親父・・・!! 額が!!!

 

 

 

『清隆、欲しいものはあるか?』

『藪から棒に何だ? ……欲しいもの、か。あるにはあるな』

『おまえの欲を知りたい。

 おまえは、いったい何を差し出されたら俺を裏切る?』

『毛生え薬』

『……何故、そんなに俺の額を凝視する?』

 

 

 

――― 軽井沢恵 ―――

 

 

 

「うん、遺伝ってのはどうしようもないものもあるんだ。

 脂肪が増えやすいから太りやすいのか、それとも筋肉がつきにくいから痩せにくいのか。ダイエットも個人にあったものがある……らしい」

「“らしい”なのっ!?」

「いや、俺は体重減らすダイエットはしたことがないから、実践したことがなくて断言できないんだよ。むしろカロリーを意識して多めに取らないと、運動量の多さで体重が落ちていくタイプ。

 だから食べなきゃいけないとは思うけど、食べたいって思うことはあんまりないな」

「人の心とかないんか?」

「綾小路くんを吊るそう」

「賛成」

「女子の敵ね」

「これだから男ってヤツは……」

「体重減らすんなら、素直に運動量を増やせばいいぞ。食事量は普段が常識的な範囲なら、減らすよりはむしろ運動量増やすのに合わせて少し増やせ」

「そんな簡単に運動を続けられたら苦労しないのよっ」

 

 

 入学してから3週間。あたしたちのクラスの女子に限っての話だけど、入学当初にあった興奮が醒めたように落ち着いてきた。

 これは1年の男子イケメンランキングの2位の平田くんと、3位の綾小路くんが大きく関係している。

 2人とも騒がしいのがあまり得意じゃないみたいで、クラスメイトが騒がしくすると、平田くんは困ったような顔をして、綾小路くんは表情は変えずに注意をしてくる。それがイヤで、次第に授業中に騒がしくする女子は減っていった。

 

 あたしは綾小路くんが注意してくるのが苦手だ。

 怒っていないのに圧迫感があるというか、小さな頃にお父さんに真顔で怒られたときの感じを思い出してしまう。

 それだけなら綾小路くんに反発する女子もいるかもしれないけど、逆にそれがイイという子もいるし、何よりも綾小路くんに反発している姿を平田くんに見られたくない、という子が多いのだと思う。

 というか、そんなことしたら反発したせいで平田くんにガッカリされた女子を生贄にして、別の誰かが平田くんに取り入る気がして動けない、と女子同士で牽制しあっているのが正しいのかもしれない。

 

 まぁ、綾小路くんも間違ったこと言っているわけではないし、例えば勉強のことなんかを相談しても、時間が空いているときは快く相談に乗ってくれるから、女子からの人気は悪くない。いや、むしろいい方だ。自分が悪いことさえしなければ、理想的な彼氏ともいえるかもしれない。

 多少、口煩いところはあるけど、頼りにはなるし、頭もいいし運動もできる。国会議員の息子で、オリンピックの金メダリストで、日米のSAS〇KE完全制覇者で、賞金を合わせて2億円ぐらい獲得しているのが判明しているからね。

 

 ……凄すぎて逆に近づけないです。

 というか引くわっ!! ここまでいくと別世界の人間で引くわっ!! 玉の輿なんて狙えねぇわ!!

 

 いや、ホントに。Dクラスで人気がある男子は平田くんと綾小路くんが二大巨頭なんだけど、綾小路くんは凄すぎて見てキャーキャー言うだけの対象で、彼氏にするなら平田くんの方がいい、って思っている女子がほとんどだった。

 もし綾小路くんと付き合えたとしても……その、困る。小野寺さんが『イ〇ローの奥さんみたいな人じゃないと無理だよね』って言ってたけど、調べてみたら同感だったわ。

 

 それに綾小路くんには坂柳さんのこともあるしね。何度かあの2人が一緒にいるところを見かけたけど、あの2人の関係は未だに理解できない。

 坂柳さんは、綾小路くんが女子に囲まれていても不愉快にしていないというか、むしろ誇らしげにしてるように見える。“ファン”という想いが一番強いから、あんな風になるんだろうか?

 

 それと綾小路くんの空いている時間というのも、スポーツ理論?に沿った休養日を設けているためか、意外と体育会系の部活の他の男子よりも休んでいる日は多い。最低でも週の3分の1は休んでいる。

 なので自分のスケジュールを変更したりとか、スイーツ巡りなんかは一緒に行ってくれはしないけど、カラオケとかは付き合ってくれたりもする。奢ったりとかはしてくれないけど、それはお父さんの仕事の関係上で譲れないことらしいから仕方がない。

 多いんだけど、その代わりに運動しているときは凄い。特に筋トレしているとき。使ってるダンベルとか怖くて近寄りたくない。

 

 

 そんな平田くんと綾小路くんだからこそ、あたしは困ったことになった。

 

 中学の知り合いがいない、孤立しているともいえるこの高校に入学して、あたしは全てをやり直す。

 そのためにイメチェンをして、中学のときとはうってかわって高圧的な態度をとるようにしたら、幸いにもクラスの女子の中でも上位の位置に立つことができた。

 

 でも足りない。それだけじゃ足りない。

 あたしの力だけでは及ばないことがあるのはわかっている。そんなものから身を守るためにも、あたしはあたしを守ってくれる誰かが必要だった。そしてそれは、女子にはできないこともあるだろうから、男子が望ましい。

 最初に目を付けたのは綾小路くん。でも直ぐに諦めた。坂柳さんがいることは、あっという間に学校中に知れ渡っていたし、彼の凄さを知ってからは……その、言葉は悪いけど引いた。付き合うなんて無理でしょ、アレ。

 次に目を付けたのは平田くん。だけど彼のことも諦めた。綾小路くんよりかは付き合う目はあっただろうけど、その綾小路くんのせいで平田くんの競争率が跳ね上がったからだ。綾小路くんと平田くんのどちらが凄いかと聞かれたら、クラスの女子全員が綾小路くんと答えるだろう。でも綾小路くんと付き合うのは無理だからこそ、代わりに二番手の平田くんへの関心が集中してしまっている。もし綾小路くんがいなかったら平田くんが単独トップになるんだろうけど、その場合は逆に競争率自体は下がっていたんじゃないだろうか?

 だからこれでもし、あたしと平田くんが付き合い始めたとしたら、せっかく確立した女子の間の力関係が崩れてしまいそうだった。皆からの嫉妬でマズいことになりそう。

 それでは意味がない。あたしを守ってくれる男子は必要だけど、それで女子との仲を拗れさせたら意味がない。

 

 だって結局のところは、女の敵は女なのだから。

 

 まぁ、綾小路くんが彼氏だったら、学校中の女子が敵にまわっても守ってくれそうではあるんだけどね。

 

 

 このままでいいとは思っていないけど、このままでは打つ手がない。

 

 平田くんと綾小路くんと敵対するのは駄目だ。あの2人は仲が良いから、1人と敵対したら自動的に2人が敵になる……とまではいかないけど、もう1人が味方になってくれることはないだろう。

 もちろん、非がアチラにあるなら話は別だ。先日の綾小路くんの『何でそんなに甘いものを我慢できないんだ?』という発言に対しては、平田くんは消極的な女子の味方になってくれたし。

 

 あたしが女子の中ではある程度の地位を築いているのと、綾小路くんの口煩さに閉口している子はいることはいるけど、逆にその口煩さが頼りになっていることもあって、あたしが彼ら2人と敵対したら女子のほとんどは彼ら2人の味方をするはず。というかあたしでもそうする。

 2人以外の他の男子を味方につけるのはもっと駄目。授業中騒いだりして綾小路くんに注意されたりすることで、池や山内を始めとした2人に反発してる男子は多いけど、そもそもの実力が違い過ぎる。他のクラスにまで知れ渡って、人気もある2人を離れる理由がない。

 

 このままでいいとは思っていないけど、このままでは本当に打つ手がない。

 

 

 だから、あたしは2人に……2人へ同時に助けを求めた。事情を話してあたしを守ってくれるようにお願いした。

 短い間しか2人を見ていなかったけど、この2人なら大丈夫だと思った。平田くんは、その度を越えた優しさから。綾小路くんは、その無関心さから。

 

 事実、平田くんは私を守ってくれるといってくれた。綾小路くんは『軽井沢が悪いことした状況じゃないなら』という条件はついたけど、守ってくれるといってくれた。

 平田くんは、傍から見たら異様なまでにクラスの和を守ろうとしていたのがわかっていたので、そう応えてくれると思っていた。

 綾小路くんは、あたしのことはどうでもいいクラスメイトとしか思っていないのがわかっていたので、そう応えてくれると思っていた。言っちゃ悪いけど、綾小路くんに“他人をイジメて楽しむ”なんて、ある意味では人間らしい感情があるとは思っていない。自分の逆鱗に触れない限り、どうでもいいと思うタイプだろう。

 

 賭けには勝った。あたしはこの2人から守ってもらえる。綾小路くんを味方につけるため、ある程度は品行方正に振る舞わないといけないけど、それはどうでもいい。正直、女子との付き合いでも、彼女たちを鬱陶しいと思う気持ちがあったからだ。

 次に考えなければならないのは名目。

 どういう理由で彼ら2人と親しくしているかを、クラスの皆にわかるようにしておかないと、何かあったときに守ってもらうための説得力が弱くなってしまう。

 

 平田くんは交際している振りをしてもいい、とは言ってくれたけど、女子を敵にまわすから却下。綾小路くんとの偽交際は『めんどくさい』の一言で却下された。ぶちころがすわよ?

 それじゃあどうしようかと頭を捻っていたら、綾小路くんがこう言った。

 

 

『筋トレ好きかい?』

 

 

 どうして???

 待って! 私をどこに連れて行こうとしているの!? お許し下さい、綾小路くん!

 

 

 

――― 堀北鈴音 ―――

 

 

 

 突然の抜き打ちテストがあった日、授業も終わって帰ろうと教室内が騒めいている中、何も言わずに綾小路くんが教壇に立った。手にはプリントの束を持っている。

 それを見た男子、特に池くんや山内くんといった、日頃から綾小路くんから授業中に騒いでいることを咎められている生徒が顔を顰める。いくら綾小路くんに注意されても騒ぐのをやめない彼らは、自分のことを理不尽に怒られている被害者だとでも思っているのだろうか? 被害妄想も甚だしいわね。

 彼らがいくら騒いでも私のすることには変わりないけど、それでも授業の妨げになっている。綾小路くんには頑張って彼らを止めてほしい、と思っていたところ、

 

 

「高校生活が3週間ほど過ぎたが…………太ったか?」

 

 

 と、いつもの澄ました顔で、とんでもないことを言い放った。

 

 数秒の沈黙の後、「「「カヒュッ!?」」」という呼吸を失敗したような音が複数響き渡り、自らのお腹を見詰める女子や、二の腕を掴んで太さを確かめる女子の姿が、クラスのアチラコチラで見られた。

 対して男子は信じられないものを見る目で綾小路くんを見ている。例外は苦笑いしている平田くんと、爆笑している高円寺くんぐらいだろう。「勇者か、アイツ」なんて呟いている男子もいる。

 きっとクラスの誰もが、綾小路くんがあんな発言をするとは思っていなかったに違いない。私もそう思っていた。

 

「あ、綾小路くん……いきなりどうしたのかな?」

 

 女子の中でも復活が早かった櫛田さんが、綾小路くんに問いかける。

 

「よし、掴みはオッケーだな。

 このプリント、オレがダイエットとか筋トレについてや、それと一人暮らしを始めた新社会人の体調不良の原因とかをまとめた資料なんだが、欲しい人いるか?」

「え? ちょっと見せてもらってもいいかな」

「男子の分もあるぞ。

 須藤、おまえも読んでおけ。カップラーメンだけで食事を終わらせたりするから、バスケで最大のパフォーマンスを発揮できないんだよ」

「…………チッ」

 

 いつも授業中に寝ていて、綾小路くんに対して何かと反発的な須藤くんも、バスケのことも持ち出されたためか、綾小路くんのプリントを素直に受け取って読み始める。

 1週間ぐらい前に男子が騒いでいたけど、どうやらバスケ部の須藤くんが綾小路くんにバスケで負けたという話は本当だったみたいね。というか、バスケ部の先輩含めて全員負けたらしいけど。

 

「わー、凄い。これ、綾小路くんが作ったんだ。本屋で売っててもおかしくないんじゃない?」

「いや、そこまではいかない。画像やグラフを無断転載しているし、引用を略したりしてるから売り物としては不適切だ。あくまで個人の使用範囲内に留めてくれ」

「貰えるならありがたいけど……これ、どうしたの?」

「ああ、元々は軽井沢が太「綾小路くん!!」……軽井沢から健康について相談を受けたんだ。それでこういうのをまとめるのも、スポーツ生理学の勉強や復習になっていいと思って作ったんだよ」

「そっか。綾小路くん、教室でスポーツ関係の難しそうな本をよく読んでるもんね」

「しばらく軽井沢に実践してもらったら、良い結果が得られてな。

 もちろん個人差があるだろうから効果は保証できないけど、せっかく作ったんだから皆にも渡そうと思ったんだ」

「えっ? 結果でてるの?」

「10日間で-1.2kg、ウエスト-2cmよ」

 

 サムズアップをしながら軽井沢さんが答える。

 それを聞いた女子の目の色が変わって、資料を読む気迫が増した気がする。

 

「実践するかどうかは個人の自由だが、まぁ、やるんなら参考にしてくれ。

 オレたちのほとんどが一人暮らしなんて初めてだから、生活が乱れたりもしているだろう。体重が増えたのもいれば、肌とか髪とかが荒れてきたのもいるようだしな」

 

 綾小路くんの言葉に、ピクリと目じりが動いてしまったのを自覚する。

 兄さんの好みに合わせて長くしたこの髪の毛。兄さんと会った時に見苦しい姿を見せるわけにはいかないので、髪の毛の手入れを怠ったつもりはないけれど、ポイントを節約するために実家で使っていたのとは違う安価なシャンプーにしてしまった。それが髪質にどう影響しているか……。

 それに一人暮らしで今まで通りの生活スタイルを維持できているかと問われると……どうなのだろう? 不摂生な生活はしていないつもりけど、何しろ“初めて”の一人暮らしだもの。実家にいたときに比べたら、至らないところは絶対にでてくるはず。

 もしかすると、自分でも気づかないうちに…………とりあえず、せっかく綾小路くんから貰ったんだし、この資料はシッカリと読んでおくことにしましょうか。

 

「軽井沢さん、トレーニングジムに通い始めたの?」

「うん、意外と運動楽しくなっちゃってさ。佐藤さんも一緒に通う? トレーニングマシンとか凄かったけど、体組成っていうの? 身体のどこに脂肪がついていて、どこの筋肉が少ないとかわかる凄い体重計もあったのよ。

 4月中なら新入生入会キャンペーンやってるし、会員のあたしが紹介すれば更に特典も貰えるよ。綾小路くんと平田くんも同じジムに通っているから、もし通うのが同じ時間帯だったら綾小路くんからアドバイスも貰えるし。

 ……実験体としてだけど」

「実、験体?」

「軽井沢、言い方が悪い」

「分厚いスポーツ生理学の本を見ながら「次はこれチャレンジしてみてくれ」って、どう考えても実験体でしょーに!?

 普段、運動しない私には辛いんだからね!」

「……前から聞いてみたかったことを聞いていいか?」

「なによ!?」

「どうして運動(覚醒)しないんだ?」

「綾小路くんは人の心がわからない!」

 

 軽井沢さんを中心に女子が集まり、ダイエット談義に花を咲かせている。その会話の中で気になることがあった。

 ……体重計?

 そういえば寮の私室には備え付けの体重計なんかあるわけないから、ここ1ヶ月は体重を測れていないわね。

 

 綾小路くんから貰った資料をカバンに仕舞い、湧き上がっている教室を後にする。

 …………うん、体重計ぐらいは、健康管理のためにあった方がいいわね。何しろ初めての一人暮らしなのだもの。

 ちょっと電機屋に寄ってから帰りましょうか。

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

『今度の日曜日、ゴルフ行ってくる』

『なに? 1人でか? コース……ああ、打ちっぱなしか。いいぞ、それぐらい好きにしろ』

『コースに決まってんだろ。大日本銀行総裁の片原の爺さまに誘われたんだ』

『…………ハァ?』




 これから毎日筋トレしよーぜ!
 ス〇薬局の無料の体組成計にはお世話になっております。
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