いってこい実力至上主義の教室へ   作:嘴広鴻

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1-8 よかったな、月〇さん怒ってないってさ

 

 

 

『ほぅ、若き金メダリストが拳願仕合の闘技者を目指すとはね』

『いくら正式な仕合ではないとはいえ、拳願会の会員権を勝ち取れますかな?』

『それより所属企業の“ホワイトルーム”のことを誰かご存じありません?』

『さて、私は聞いたことありませんな』

『私は少し。何でも天才を作るための教育機関、らしいですよ』

『へぇ、じゃあ綾小路清隆もそこ出身で、もしかしてこれは成果発表ですかな』

 

『(……どうして、俺はこんなところにいるんだ?)』

 

 

 

――― 神室真澄 ―――

 

 

 

 馬鹿がいる。自分が何を言っているのかわかっていない馬鹿。

 綾小路が首を傾げながら、その馬鹿に問いかけようとする。

 

 それにしても、何で私がこんなところに付き合わされなきゃいけないんだか。入学式のあの日、好奇心に負けてクラスの女子に付き合ってしまったのが運の尽きか。

 ……まぁ、私だって年頃の女子だから、テレビで見たことあるスポーツ選手とクラスメイトの親しい関係が気になったのは仕方がないじゃない。クラスの女子全員が集まっていたのに、そこから1人だけ抜けるなんて私でもできないし。

 

 おかげであの日から大変だった。パシリみたく坂柳から調べものを頼まれるし、クラスポイントを減らさないために品行方正にしなければいけなかった。

 貰えるプライベートポイントが減るのは嫌だったから従ったけどさ。

 

「……山内。おまえは何を言ってるんだ?」

「え? 坂柳ちゃんが言ってただろー。綾小路なら他のクラスも0ポイントにできるって。

 俺たちが0ポイントなのにズルいじゃん。だからさー、綾小路に一度他のクラスも0ポイントにしてもらって、最初からやり直せばいいじゃん。これなら公平だろ!」

「何でそれが公平になるんだ?」

「いやだからさー、俺たちは貰えるポイントが0なんだぞ」

「そうだな」

「それなのに他のクラスはポイント貰えるのっておかしいだろ?」

「??? 何で???」

 

 あの綾小路が困惑している。坂柳と会うときも無表情がデフォなのに、あの馬鹿のせいで困惑の表情を見せている。

 ヤバい、そんな状況じゃないはずなのに綾小路の困惑の表情が妙にツボった。ここで笑ったら空気読めてないわよね。

 注目を集めても面倒だ。この場におけるAクラスの主役は坂柳と葛城で、私は空気。お喋りは2人に任せて、私は立っているだけにしよう。

 

「Dクラスのポイントが0になったのはDクラスの行いのせいだ。そして他のクラスがポイント貰えるのは他のクラスの行いのおかげだ。そこにズルいも何もない。

 むしろ真面目にやっていた他クラスと、授業中に騒ぎまくっていた自分たちを同じ扱いにしろと言っている方がズルいだろ」

 

 綾小路の言葉にうんうんと葛城が頷く。

 何だろう、綾小路と葛城の2人って傍から見てたら相性悪そうだけど、実際のところは結構良いのかもしれない。それとも逆か? 傍から見てたら相性良さそうだけど、実際のところは結構悪いのか?

 この2人はルールを守るところは似ているんだけど、葛城はルール通りにしか行動できなくて、綾小路はルールの枠を無理やり広げて行動するところが違うと思う。表面上の付き合いなら仲良くなれるんだろうけど、もし綾小路がAクラスだったら坂柳と組んで葛城を速攻で潰してそうだ。

 

「いやっ……俺はさ、クラスのためを思って言ってんだよ。これから俺たちはAクラスを目指すんだろ?」

「それが?」

「だったらさ。他のクラスも0ポイントにすれば、俺たちだってこれからAクラスになりやすいだろ。

 何しろAクラスのクラスポイントは980だぞ。どう頑張っても追いつけねーじゃん」

「その後は?」

「は?」

「だからその後。他のクラスも0ポイントにして、ABC他全てのクラスからヘイトを集めた後の話だ。まさか『全員0ポイントになったから、これからは正々堂々勝負しよう』なんて言い草が通ると思うのか?

 ABCで連合を組まれて、Dクラスがタコ殴りにされる未来しかないと思うんだが?」

「えっと……それは……」

 

 そりゃそうだわ。

 本当に綾小路が被害者になる形で他クラスのクラスポイントを減らせても、綾小路がしていることってのは全クラスがわかる。そんなことできるヤツのクラスなんて、連合組んで再起不能になるまで潰すわ。

 

「じゃ、じゃあ何で坂柳ちゃんはあんな怖がってるみたいなこと言ったんだよ!?」

「実際にやったら怖いだろう。学校が介入しなかったら、全クラスが最後まで0ポイントで終わることになるんだぞ」

「全クラスが最後まで0ポイント!? 何でそうなるんだよっ!?」

「おまえはさっきの鉄砲玉の話を聞いていなかったのか? 0ポイントになった他クラスもいわゆる無敵の人になるんだぞ。鉄砲玉なんて量産し放題だ。それこそ学年全体で仁義なきバトルが勃発するだろ」

「下手したら話を聞いた上級生も鉄砲玉を利用しようとして、学年全体どころか学校全体で燃え上がりますね」

 

 まるで地獄みたいな未来だ。

 綾小路の言う通り、流石にそうなったら学校側から介入されることになるだろうけど、もう不信感で学校全体が駄目になってるだろうから、終息したように見えても火花があれば再びドカンといきそう。

 山内ってのは、こんなこともわからなかったのだろうか?

 

「オレがもし他クラスのクラスポイントを0にするときは、理不尽でやむをえない、もしくは取り返しのつかない状況になった場合だけだ。例えば、ABCが連合を組んで、ハメ殺し状態でDクラスを草刈り場にしたときだな。

 他クラスがそういう手を使ってきた状況ならコッチも遠慮しなくていいだろうから、反撃としてならやるさ」

「だから清隆くんは敵に回したくないんですよね。1人だけ核ミサイル持ってて、その気になれば相互確証破壊レベルで他クラスを道連れに持っていけるんですから」

「特別試験を尋常に行った結果で負けたとしても、反撃でそういうことをしないから安心してくれていい。一応、そういうこともオレの実力と言えないこともないが、クラス対抗が根元から崩壊するならそもそもする意味がない」

「ええ、そこは信頼しています。勝負事に対して真摯な人というのはね。尋常な勝負なら尋常に、何でもアリなら遠慮ナシに、が清隆くんですから。

 ですので、清隆くんのいるDクラスは正々堂々手段を選んで真っ向から不意打たなければならないんですよ」

「それにやるなら3年次の3月にやる。それまでは怪しまれるようなことはしない」

「清隆くん?」

「階段からいきなり突き落とされたりしたら、加害者のクラスは50ぐらいクラスポイント減らされそうだよな」

「だから清隆くん???」

「そもそもの話、このクラス対…………いや、今は語るべき時ではないな」

「何を言おうとしたんですか、清隆くん???」

 

 きっと今の坂柳と綾小路の言葉は今この場にいるDクラスに向けたものではなく、電話で聞いているAクラスに向けたものだろう。要するにこの2人は、さっきまでのやり取りでクラス対抗におけるルールとマナー遵守の紳士協定、もとい紳士淑女協定を結んでいたということだ。

 その協定を破ると綾小路がランダムエンカウントエネミーとして出没するようになって、しかも鬼頭相手に実践したみたく咄嗟に攻撃させられちゃって、クラスポイントが減らされることになるのか。

 そりゃ協定守るわ。

 綾小路の最後の言葉には不安を感じたけど、確かにクラスポイントを全クラス0にしても仁義なきバトルが始まってクラス対抗の意味がなくなるのなら、綾小路がそんなことをすることについての心配はしなくてもいいだろう。

 まぁ、心配してもどうしようもないというのもあるけどね。

 

「いや、“不意打つ”のはいいのか? そもそも“真っ向”から不意打ちとは矛盾してないか?」

「清隆くんに有効なのは、いわゆるマジックの技術であるミスディレクションですよ、葛城くん」

「ミスディレクション? 右手に注目を集めている間に、左手で何か種になる動作をするというヤツか?

 ……成程。確かに言われてみれば、それは真っ向からの不意打ちだな」

「清隆くんの後ろから不意打ちするのは、耳を誤魔化せませんから逆に難易度が高いです。何より反射行動の際は手加減が苦手なんですよ、清隆くんは」

「どういう意味だ?」

「清隆くんはお父様のお仕事の関係と趣味で、護身術や格闘技を修めています。そしてある日、清隆くんに何も知らせずに突然暴漢が襲ってくる想定の訓練をしたところ、清隆くんの後ろから襲い掛かった暴漢役の方が酷い目に遭いましてね。

 知ってますか? コンクリートを人間で砕くのって可能なんですよ」

「オレがここまで強くなれたのも、親父が国会議員に当選することができたのも、全部、月〇さんが居たからじゃないか……!」

「お元気ですかね、あの人。退院後はボーイスカウトの指導者に転職したみたいですけど」

「人を育てる喜びに目覚めたんだろう、きっと」

 

 ……うん? コンクリートを人間“で”砕くって、言葉の表現が変じゃない?

 

「それと清隆くんは反射行動の際は本能的、かつ培った経験に沿って動くのですが、それはその場だけを考えたら妙手ではあるんです。

 しかし、後々のことを考えるとやらないだろうとコチラが考えていた手や、そもそも考え付かないような手でも思わずやってしまいますので、コチラの思惑も大きく狂わされて場が滅茶苦茶になるということが何度も……。

 まぁ、常人だったらそもそも行動すらできない場合の話ですけどね」

「……いや、そもそも暴力は……」

「スポーツでも知力ゲームでもそうなんですよ。まったくの意識の外から清隆くんを攻めるのが悪手であることを覚えて頂くだけで今はいいです」

「ヨシ、もうすぐ10分経つ。話もズレてきているから戻そう。

 有栖、明日の放課後に返事するということは変更なしでいいんだな?」

「それはいいんですが、あんなことを言われたら教師役を派遣するのを躊躇してしまいます。

 もしかしたら派遣した生徒に文句をつけて、Aクラスのポイントを削ろうと企む人がいるかもしれませんから」

「な、何だよ!? 何で俺を見るんだよ」

「当たり前だ。自分の言ったことを思い出してみろ。

 坂柳、説明を聞くとAクラスにも利があるから反対はしなかったが、山内のような生徒がいる場合は話が別だぞ」

「私も同じですよ、葛城くん。まさか彼のような人がいるとは思っていませんでした」

「というより、山内。よく有栖たちAクラスがいる前でそんなこと言えたな。どう考えてもAクラス全員からヘイトを集めたと思うが?」

 

 綾小路のそのセリフに合わせて、坂柳が山内に通話状態の端末を見せる。最初に坂柳が言った通り、あの端末でAクラスに事情は伝わっているはずだ。

 それを見た山内は途端に焦った表情になるけど、明らかにそこまで考えていなかったが丸わかりだ。

 

「さて、どうしましょうか。私としては競い合う相手とはいえ、Dクラスとは紳士淑女的にやっていこうと思っていたのですが、山内くんのような人がいますとねぇ……」

「わかったわかった。望みはなんだ、有栖?」

「おい、綾小路。Aクラスとの仲が悪くなることはマズいと思うが、山内が仕出かしたことでおまえが責任を取る必要はないし、俺たちだって責任を取るつもりはないぞ。

 山内本人に責任を取らせろ」

「どうやって?」

「どうやってって、プライべー……無理だな。ほとんど使ったって言っていた。

 後は…………スマン。不可能なことを言った」

「だろう?」

「何だよっ!? 綾小路も幸村も何勝手に話進めているんだよっ!?」

「おまえがAクラスに不信感を持たせることを言った。それに対してプライベートポイントも何も持っていないおまえは責任を取ることができない。Dクラス全体として考えたら放置できない。だから綾小路が肩代わりしようとしている。以上だ」

「い、いいじゃねーか! 綾小路は350万も持ってんだろ!?」

「……ああ、だからそうなってるんだ。いいからもう黙ってろ」

「有栖、一応聞いておくが、雑用係とかで使うか?」

「いりませんよ、あんなの」

 

 幸村ってヤツ、ブチ切れ。周りのDクラスの生徒も呆れるか怒っているかのどちらか。無理もないか。

 かといって、綾小路が責任の肩代わりをしなければAクラスと敵対関係になるかもしれないことを考えると、文句をつけることはできないってのはわかるので黙って見ているしかないと。

 葛城も橋本も鬼頭も呆れている。坂柳は……綾小路しかもう見ていない。山内の方には視線も向けない。もう話す価値も見る価値もないってことか。

 

「プライベートポイントで済むならそれでいいんだが」

「ご冗談を。そんなもったいないことするわけないでしょう。お願いしたいことが3つあります。

 1つ目は、5月になって学校もネタ晴らしをしたことですので、1年生も生徒会に入れることになると思います。

 そして清隆くんは生徒会に入るつもりですよね? 特定の部活には入りたくないけど、色々な部活に顔を出したいということでしたので」

「そう考えているが、それがどうした?」

「生徒会に入る際、こちらの葛城くんも連れて行ってください」

「俺を? どういうことだ、坂柳?」

 

 ……あ、コイツ、葛城を型にハメる気だ。

 

「清隆くんがそう考えているということは、既に生徒会に入る算段がついているということです。それに便乗すれば、一度は断られた葛城くんでも生徒会に入ることができるでしょう」

「……綾小路の力添えはいるのか? 確かに先月は生徒会入りを断られてしまったが、それはネタバレを防ぐために断られたのであって、今月改めて生徒会入りを申し出たら承諾されるのではないか?」

「葛城くんができるのならそれで構いません。しかし、できなかったときのことは考えておくべきでしょう。

 それでは清隆くん。まず葛城くんが自分のみで生徒会入りを申し出ますので、それでもし断られてしまった場合は、葛城くんの生徒会入りに協力してください」

「期限を決めておこう。中間テスト終了までだ。中間テストが終わったらオレは生徒会入りをしに行くから、それまでに葛城が生徒会に入っていなかったら連れて行こう」

「ええ、それでいいでしょう。

 お願いしますよ、葛城くん。今後のクラス対抗を考えますと、生徒会メンバーがクラスにいることが重要になってきます。生徒会長になれたらもっといいですね。

 Aクラスのためにも生徒会入りを頑張ってください」

「…………わかった」

「ついでにBクラスの一之瀬も誘うか。彼女も生徒会入りを断られたって話だし」

「いいんじゃないですか。清隆くんも仕事を押し付ける人が多い方がいいでしょう」

 

 絶対に副音声で“その代わりAクラスのことは私に任せてください”って入ってるわ。

 葛城もハメられたのがわかったのか苦い顔をしてるけど、Aクラスのための生徒会入りという正論を断ることなんてできない。これでAクラスは坂柳の一強で決まった。

 

「2つ目です。入学式の日の情報の借りをこれでチャラにしてください」

「わかった。元より貸したつもりはないがな」

「……綾小路、入学式の日の情報の借りって何のことだ?

 いや、綾小路のメールに書かれていたことだと思うが、それを坂柳たちにも今日の午前0時に送ったこと、でいいのか? まさかそれ以前に坂柳に話していたわけじゃないよな?」

「話していたら退学なんだが、幸村」

「あっ……それもそうだな。スマン。変なことを聞いてしまった」

「話していたんじゃなくて、聞かせていただけだ」

「……は? どういうことだ?」

「どうもこうも、オレは入学式が終わった後、茶柱先生に呼び出されただろう。職員室に行く前にAクラスに寄らせてもらって、有栖と連絡先を交換。そして電話を通話状態にして職員室に行っただけだ。

 要するに今有栖の持っている端末の状態だな」

「綾小路っ!! それは裏……切ってはいないな。入学式の日のこ「おいおい! どういうことだよ!? 綾小路はAクラスに情報を流していたのかよ!?」……黙れと言っておいたはずだぞ、山内」

「いやっ、そういうこと言ってる場合じゃねぇじゃん! そもそもどうして綾小路はABCにもあのメールをだしたんだよ!? 教えるのはDクラスだけでいいじゃんか!」

「ム……」

 

 幸村が言葉に詰まった。まぁ、馬鹿の言っていることは間違ってはいるわけではない。

 でも、結局は綾小路にバッサリと切られる。

 

「そんなにおかしいか? さっき話した通り、同じことを有栖は知っていたんだぞ」

「だとしてもBとCに教える意味ねーじゃん!?」

「オレがBとCに流さなくても、有栖が流すかもしれないだろう。その場合、AクラスはBとCに多少の恩を売る形になるな。

 それにメールの内容は今日学校から教えられることと、調べればわかることばかりだ。時間経過で価値を失っていくものばっかりなんだから、後生大事に隠していても無駄になるだけだろう。

 それなら他クラスへの牽制となるように、さっさとバラまいた方がいいと思ったんだ。平田からのメールで知ったが、葛城や一之瀬が朝から来るぐらいのインパクトはあったんだろう?」

 

 成程。今日の午前0時にメールが来たときは驚いたけど、そういうことで私たちにも送ってきたんだ。

 あれ? でもそういうことなら……。

 

「坂柳、何でアンタはメールださなかったの?」

「私がメールで情報をバラまいたとしても、情報流出の経緯がわかれば清隆くんの功績を盗んだと思われるのがオチです。あまり良い手ではありません。

 それに入学式の日に言ったじゃないですか。私たちが清隆くんからの電話で情報を得ていたことは、学校側からすると黒に近い灰色ではなく、灰色に近い黒です。おそらくですが、あのときリアルタイムで聞いていた私たち以外のAクラス生徒にも情報を流していたら、学校側から何らかのアクションがあったはずです。

 清隆くんは情報解禁の日付を取り決めるなど、学校と契約することで身の安全を確保していました。しかし、私たちは学校と契約なんて一切していません。それなのに学校が発表する前に情報を流出させたら、学校側がどう反応するかわかりませんよ。流石にそんな危険なことはできません」

「ああ、そんなこと言ってたわね」

「……俺たちに情報を話さなかったのはそういう理由か?」

「そうですよ、葛城くん。Aクラスにダメージがあることが考えられましたし、下手をしていたら清隆くんが退学になっていましたが、そういうのがお望みでしたか?」

「いや、それでは恩を仇で返すことになる。それに学校側の反応が怖いということについても、確かに考えてみれば当然だな。

 俺たちにも秘密にしていたことに思うところはあるが、そういう理由なら飲み込もう」

「それは何よりです」

 

 あの話の中で理事長は、綾小路が知ってしまった情報が学校の予定より早く漏れることで、クラス対抗に影響を及ぼすことを随分と気にしていた。

 だけど、私たちも情報を知ったことを気付いたのは、教室の監視カメラに映っていたことを後で確認してからだろう。下手したら数日経ってからだ。何しろ当日は綾小路の対応で大変だったみたいだし。

 知ってはいけないことを知った私たちが周りには内緒にしているから、学校としても藪蛇つかないように静観していたってわけか。

 

 まぁ、それらしいことを言ってるけど実際のところは、葛城の影響力を落とそうって意図はやっぱりあったんだろうけどさ。

 

「―――というわけで、クラス対抗のことを知る前だから有栖に頼んだわけであって、別にクラスを裏切ったつもりはないぞ。

 皆も知っての通り、有栖とは入学前からの付き合いだ。むしろ有栖以外に頼むのがおかしいとも言えるだろう」

「いやっ……でもAクラスのクラスポイントを増やしたわけだし……」

「増やしたというより減らさなかった、の方が正しいな。

 それにAクラスのクラスポイントが高くなった要因になったかもしれないが、Dクラスのクラスポイントが0になったこととは全く関係がないな。

 Aクラスのクラスポイントを減らさなかったヤツが裏切り者だとしたら、Dクラスのクラスポイントを減らしたヤツのことは何て呼べばいいんだ、山内?」

「俺だけじゃねーだろ! クラスポイントを減らしたのは!?」

「あ、綾小路くん、その辺にしておかないかい……?

 5時まで時間があまりないし、坂柳さんたちも待たせちゃっているよ」

「そうだな、平田。

 すまない、有栖。待たせたな。3つ目のお願いを聞こうか」

「―――そうですね。長引かせてもなんですし、今日のところは早く済ませましょうか。

 それでは3つ目ですが、これは清隆くんへのお願いではなくて、Dクラスの皆さんへのお願いとなります」

 

 ニッコリと笑う坂柳。それを見た橋本は「あーあ」と嘆息し、葛城と鬼頭は目を逸らしてDクラスの面々を見ないようにし、私は絶対碌なことにならないな、と確信した。

 こりゃ坂柳キレてるわ。

 

「といっても、理不尽なことをお願いしようとは思っていません。むしろ清隆くんなら、この後にでも皆さんへ同じことを言うことかもしれません」

「オレがか?」

「はい。AクラスがDクラスを信頼するためにも、これからは真面目にやるということを何らかの行動で示して欲しいのです。このままDクラスと付き合いを持つというのは、不安になる生徒が多いでしょうからね。

 そもそもDクラスの皆さんはクラスポイントを0にしてしまったことに対して、禊やケジメは必要だと思いませんか?」

「禊やケジメか。間違ってはいないな」

「もちろん特定の個人だけを狙い撃ちにしようなんて思いません。話を聞くと、平田くんや櫛田さんまでもがクラスポイントを減らしてしまったらしいので、むしろ減らしていない人の方が少ないのでしょう。

 ですので、私のお願いしたいことは、4月に行った自らの過ちを反省し、これからは心を入れ替えて真面目にやっていくことを宣言するため。クラスポイントを減らした自覚のある人たちは―――」

 

 溜を作る坂柳。Dクラス生徒の注目を集める。

 坂柳の言いたいことは何となくわかった。それは間違っていないし、まともな人間ならそうするであろうということだ。この後に綾小路が同じことを言うかもしれないというのも正しいのだろう。

 

 

「―――謝りなさい」

 

 

 誰かの息を飲んだ音が聞こえた。多分、Dクラスの女子だと思う。

 声を荒げていないはずなのに、それだけの迫力を今の坂柳は持っていた。

 

 坂柳の言うことは間違っていない。

 禊やケジメは大切だし、他人に迷惑をかけたなら謝るべきだ。

 とはいえ致命的な失敗でなければ、謝られたら(1回ぐらいは)許すべきだろうから、普通だったら「ゴメンなさい。反省してます」「わかったよ。次からは気を付けてね」で終わるはずの坂柳のお願い。

 けど、残念ながら普通じゃないのがいるっぽいんだよなぁ。

 

「もちろん私たちAクラスへの謝罪などではなく、迷惑をかけてしまった同じDクラスの人たちへの謝罪ですよ」

「な、何でAクラスにそんなことを言われなきゃいけねぇんだよっ!?」

 

 予想通り、馬鹿が激高。

 こうなるのわかってて言ったでしょ。やっぱり性格悪いわ、坂柳。

 

 それにしても山内ってのは謝れない性格というか、世の中を甘く見てて自分の思い通りに行くと勘違いしてるんだろうな、コイツ。世の中には冗談ですまないことなんてたくさんあるのに。

 自分の思い通りに行くなんて勘違いだ。特にコイツの場合は、きっと関わり合いたくなくてスルーされていただけだろう。

 

 何か、アレだわ。こういうのを見てると、世の中ある程度は真面目に生きないとなぁ、って思うわ。

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

『しかし、天才を作るために幼いころからの英才教育ですか』

『片原会長お持ちの護衛者養成所みたいなものでしょうかね。

 あそこのように武術偏重ではないでしょうが』

『ああ、成程』

『聞いたときは身構えましたが』

『よくある話ですな』

『そうですね』

 

『(え? よくあるのか?

 ホワイトルーム作るとき、財界の説得が思ったよりスムーズだったのはそれが理由なのか?)』




 ヤバい。まだ5月1日が終わりませんし、会話部分が長いです。
 説明するときは山内が便利過ぎるせい……いえ、山内さんのおかげです。
 前話の感想を多く頂きましたが、山内の行動らしかったという感想が嬉しいですね。やはり私の捉え方は間違ってなかったということです。

 山内くんをすぐネタにするの辞めなよ!
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