いってこい実力至上主義の教室へ   作:嘴広鴻

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1-9 ペットを飼うなら最後まで責任を持って飼いましょう

 

 

 

『勝ちましたか。若き闘技者の誕生ですな』

『15歳ですから、最年少記録ですかね?』

『いえ、14歳デビューの今井コスモが最年少記録ですね。

 2年前ですから今井コスモは16歳だったはずです』

『では現時点での最年少闘技者ということですか』

『全力をださずに勝ったようですし、正式な仕合が楽しみです』

『お、アチラにいるのが綾小路篤臣氏ですね』

『ほう、動じていない。息子の勝利を当然と受け止めるとは……今後目が離せないですな』

 

『(1億円、無駄にならなくてよかったー)』

 

 

 

――― 平田洋介 ―――

 

 

 

「何でそんなに騒ぐんだ、山内?

 いいじゃないか。ケジメや禊という点でも良い機会だろう」

 

 坂柳さんの提案をアッサリとOKした綾小路くんだけど、立ち上がって反論してきた山内くんに対しては不思議そうな顔をしている。多分、綾小路くんは山内くんたちの気持ちをわかってないんだろうなぁ……。

 綾小路くんが言っていることは正しい。僕だって授業中に話しかけてきた人につい返答してしまって、それでクラスポイントを減らしてしまったことだってあるのだと思う。それについてクラスの皆に謝るというのは当然のことだ。

 だけど今はマズいんだよ。山内くんや池くんたちは受け入れられないかもしれない。

 

「なっ、何で俺にばっかり言うんだよ!?」

「有栖の話を聞いていなかったのか? 別に山内だけじゃないぞ。皆が皆に謝るんだ。

 そうだな……軽井沢」

「えっ!? ……な、何、綾小路くん?」

「改善はしたけど、4月の中頃までは授業中に話したりしてたよな?」

「う、うん……」

「それについてクラスの皆に謝れるか?」

「……謝れる」

 

 綾小路くんに促されて軽井沢さんが立ち上がる。それを見て篠原さんや佐藤さんといった、軽井沢さんと一緒になって騒いでしまっていた女子も急いで立ち上がった。

 軽井沢さんは本当に変わったな。いや、中学時代のイジメのことで周りに虚勢を張っていた入学当初と違って、本来の彼女はああなのかもしれない。綾小路くんと一緒に彼女のことを守るという約束はしているけど、最近は落ち着いてきたせいか大人しめのクラスの女子との関係も良くなってきている。このままの彼女ならイジメられることなんかないはずだ。

 

 ……綾小路くんの実験台役にされているのも、軽井沢さんのイメージを和らげる一因になってるんだろう。

 綾小路くんが効果的な股割りの方法を軽井沢さんで実験してたのは、流石に止めてあげるべきだったんだろうか? でもやっていた柔軟運動には効果があったみたいで、心なしか足がスラっと長く細くなった気がするって喜んでたしなぁ……。

 

「その……前は授業中とかに騒いじゃってゴメンなさい。今後は気を付けます」

「「「ゴメンなさい」」」

「うん、よく謝れたな。偉いぞ」

 

 彼女たちの謝罪をキッカケに、次々とクラスメイトの皆が立ち上がって4月に騒いだことや遅刻したことなど、自分がしたクラスポイントが減る要因となったことについて謝罪し、今後は真面目に生活していくと宣言していく。

 そんな皆の姿を見て、綾小路くんはウンウンと頷いている。無表情ながらもどこか嬉しそうだ。そして坂柳さんはニコニコとしており、茶柱先生は溜息をついている。

 確かにこの光景は喜ばしいことだ。あの4月中のバラバラだったDクラスでは見られなかった光景。自らを省みて、次へ改善していくことを僕たちができていることの証明だ。

 

 もちろん僕も謝ったし、櫛田さんも謝った。

 騒いでいる皆を注意し始めたけど、毅然とした態度で注意し続けた綾小路くんとは違い、優柔不断な態度を取ってしまったことを。

 

 綾小路くんも注意が下手で騒ぐのを止められなかったことを謝ろうとしたけど、それはクラスの皆で止めた。

 綾小路くんが悪いわけじゃない。綾小路くんはクラスポイントがマイナスになるようなことをしていないし、力及ばなかったとはいえクラスのためにたった1人で動いていた。

 そんな彼を謝らせてしまったら、クラスポイントがマイナスになるようなことはしていないけど、クラスのために動いていなかった俺たちの立つ瀬がない、と幸村くんが言っていたけど、堀北さんや長谷部さん、三宅くんといった同じくプラスの行為もマイナスの行為をしていない人たちも同意見のようだったし、僕もそう思う。

 皆が皆に謝まって蟠りをなくせば、これからはAクラスを目指して邁進していけると思う。だから坂柳さんのした提案は間違っていないし正しい。

 

 けど、それを受け入れることができない人がいる。

 

「な、何だよ皆してAクラスの言いなりになって……」

「おい、春樹……」

「……あー」

 

 山内くんと池くんと須藤くん。最後まで綾小路くんの注意を受け入れず、授業態度を改めることなく騒いでいた人たちがまだ謝っておらず、クラスメイトから視線を集めてしまっている。そしてその視線には敵意が込められているようだった。

 言いなりなんかじゃない。キッカケは坂柳さんの提案だけど、僕たちが決めたことなんだ。そう言いたいけど、今の彼らに言ってはただ悪化するだけだと僕の頭が理解してしまっている。

 

 いや、須藤くんはただ単純に眠気に負けて居眠りをしたり、寝坊して遅刻をしたりはしていたけど、綾小路くんにバスケで負けてからは感情面で綾小路くんに反発することはなくなった。どちらかというと、友達である山内くんと池くんとの付き合いを断り切れずに騒いでいた感じがある。

 本当は綾小路くんに勝つためにバスケの方へ注力したいみたいなんだけど、どうやら友達付き合いは断り切れないみたいだった。

 須藤くんはまだ皆に謝っていないけど、明らかに迷っている顔をしているので、須藤くんは今がどういう状況なのかを分かっているんだろう。

 

 問題は山内くんと池くんだ。彼ら2人は、僕にも綾小路くんにも反発している。

 特に山内くんは……何というか、日頃から積極的に行動をしていたため、一番多く綾小路くんから注意を受けていたので、最も綾小路くんに反発してしまっている。

 池くんは綾小路くんのことをちょっと怖がっているところがあって、虚勢を張るために綾小路くんに反発する姿をクラスの皆に見せていたのかもしれない。

 彼ら2人も櫛田さんの言うことなら聞いてくれることもあるけど、押しの強くない櫛田さんでは逆に彼らに押し切られてしまうことがあった。その櫛田さんが綾小路くんのファンであることも、綾小路くんへ反発している理由なのかな?

 

 そしてそれがクラスポイント0に繋がってしまった。そのことはクラスの皆がわかっていて、山内くんと池くん自身も理解できているのだろう。

 ただ、理解できていたとしても、それを受け入れられるかは別の話なんだよ、綾小路くん……。

 

「ああ、ついでだ。クラスポイントが0になったこともそうだけど、4月のプール授業のときに女子の胸の大きさランキングを作ろうとしたことあっただろう。それについても謝っておけよ、男子たち。セクハラだぞ」

「そんなことしてたんですか?」

「馬鹿じゃないの?」

 

 綾小路くんが止まらない。でも、やっぱり綾小路くんが言っていることは正しい。あのときは綾小路くんが上手く流してくれたけど、下手をしたら男子と女子の間に埋まらない亀裂が入ってもおかしくないことだった。

 あの件について男子が女子に謝ったりはしていないので、今回のことをキッカケとして改めて謝るのは正しい。

 それをわかっているのか、外村くんたちランキング制作に参加した男子たちは急いで再度立ち上がり、女子の皆に謝り始めた。

 

「それと山内。おまえ、プールのときに佐倉に告白されたけどフッたとかウソついていたじゃないか。信じてるヤツはいないだろうけど、それについても謝っとけ。見栄を張りたい年頃なんだろうが、やって良いことと悪いことがあるぞ」

「見栄っ張りどころの話じゃないですね」

「うわ、キモッ」

 

 綾小路くん! これ以上、火に油を注ぐのは止めてくれ! 山内くんが拳を強く握り締めながら、顔が真っ赤にしてプルプル震えている!

 とはいえ、坂柳さんと神室さんの遠慮のないコメントにウチのクラスの女子も頷いていることを考えると、男子の僕が止めることなんてできない。

 

「ウッ、ウソなんかじゃ……」

「いや、そういうのいいから。ありえないとは思ったけど、念のために佐倉に確認したからわかってるんだ。佐倉本人がいないところでついたウソとはいえ、見栄のために親しくもない他人を利用するのは良くないぞ。ましてや気の弱そうな佐倉をターゲットにするな。

 佐倉が騒ぎにしたくないってことだったから、ウソがあれ以上エスカレートしなければ放置しておくつもりだったが、おまえは全然態度を改めないからな。今回を機に反省しろ」

「なっ!?」

 

 山内くんが佐倉さんを睨み付け、睨み付けられた佐倉さんが怯えてしまう。

 マズい。綾小路くんは正しいことを言っているけど、物事には限度がある。いい加減、綾小路くんを止めないと。

 

「……おい、佐倉を睨むのは筋違いだぞ。

 葛城、スマンが佐倉の壁になってくれ」

「いいだろう」

「鬼頭と橋本はそのまま有栖と神室の壁を」

「わかった」「OK」

 

 Dクラスの生徒は着席しているし、数少ない立っている男子の僕と綾小路くんは教壇にいるので佐倉さんとの距離が遠い。同じく教壇に立っている女子の櫛田さんにはそもそも頼めない。

 かといって怯えている佐倉さんを助けないわけにもいかないので、綾小路くんは葛城くんに佐倉さんのガードをお願いした。葛城くんは綾小路くんの席に座っている坂柳さんのすぐ傍にいたので距離的に近く、ガードを頼むにはちょうどいい。そして鬼頭くんと橋本くんには坂柳さんと神室さんのガードを。

 葛城くんたち3人に視線を遮られた上に睨み付けられた山内くんは、どうすることもできずに俯いて目を逸らす。

 さっきから山内くんが坂柳さんと神室さんのことも睨み付けたりしていたから、綾小路くんとしてはそう葛城くんたちに頼むのは仕方がないことだろうけど、それを皆の前で言ったということは綾小路くんは山内くんのことをもう完全に敵と捉えてしまっているかもしれないということだ。

 それはマズい。

 

 綾小路くんの方が正しくて、山内くんの方が間違っているのはわかっている。

 だけど駄目だ。僕のいるクラスで()()()()()をさせてしまってはいけない。

 

「山内くん、落ち着いて。

 綾小路くんも今はここまでにしておこうよ。山内くんにだって心の準備をする時間が必要だと思うんだ」

「……有栖、3つ目のお願いはこれでいいのか?」

「不完全ですが、謝らなかった3人のせいで他の方にご迷惑をおかけするわけにはいきません。今はいいでしょう。

 ただし、Aクラスが教師役を派遣する場合、謝らなかった3人は勉強会への参加は遠慮して頂きます。信頼できませんからね」

「わかった。それでいいだろう」

 

 答えた坂柳さんの笑顔に、僕は自分が失敗したことを理解した。

 坂柳さんは正しいことをさっきから言っているけど、これは明らかに山内くんを煽っている。正論だけど、あんな言い方では山内くんが受け入れないことぐらい、坂柳さんならわかっているはずだ。正論を言っているから僕としても咎めることはできないし。

 さっきから思い浮かんではいたけど、もしかして坂柳さんの目的は正論でDクラスを分断することなんじゃないか?

 

「何だよAクラスだからって偉そうにっ!!

 別に勉強会なんかに参加しなくたって、俺だって34点ぐらい取れるんだって!!」

 

 激高した山内くんが立ち上がって後ろのドアから教室をでようとしたけど、坂柳さんの近くを通ろうとしたら鬼頭くんが前にでて威圧してきたので、慌てて直角度で進路変更して前のドアから教室をでていった。

 

「かっこわる」

 

 ボソッと神室さんが呟いたけど、可哀そうだからやめてあげてくれないかな?

 

「34点? ……まぁ、いいか。須藤、池。追ってやれ。友達なんだろ?」

「お、おう……」

「いいのかよ?」

「ちゃんと反省して、心を入れ替えて真面目になると誓うならそれでいいと言っておけ。もちろんおまえたちもだ」

「わかった。行こうぜ、寛治」

「ああ……」

 

 須藤くんが率先して、池くんはクラスの皆の視線を気にしながら教室をでていく。

 この調子なら、須藤くんの方はキッカケさえあれば大丈夫かもしれない。元より綾小路くんにバスケで負けてから、遊んでる暇はないと山内くんと池くんの誘いを断ることもあったぐらいだ。断り切れずに遊んでたこともあったけど、中間テストが真面目になるキッカケになってほしい。

 池くんは……山内くん次第かな。山内くんさえ真面目になってくれれば、池くんもそれに釣られてくれそうだ。

 問題はその山内くんなんだけど、綾小路くんのやり方だと反発を強めるだけの気が……。

 

「綾小路くん、もう少しこう何というか、手心というか……」

「痛くなければ覚えないぞ、平田。

 もちろん山内に非がないならもっと穏便にするが、どう考えても女子に対しての行動としてはアウトだ。反省を促すためにも一度くらいは強く言っておかなきゃいかないだろう、アレは。

 須藤や池がフォローできればそれでいいし、平田が助けようとするのは止めたりはしない。飴と鞭をくれてやるのが同一人物である必要はないからな」

「……いいのかい?」

「自助努力で何とかできるならそれが一番いいけどな。でも自助にしろ他助にしろ、今のうちに成長しておかないと駄目だろう、山内は。

 けど平田、言っておくが助けるということを簡単に考えるなよ。この高校を卒業した後の進路はほとんどがバラバラになるんだ。今回、おまえが必死になって助けた結果で山内の怠け癖が直らなくて、おまえのいない大学で人生ドロップアウト、なんて未来になるのかもしれないぞ。優しい虐待って言葉知ってるか? 今後もずっと責任を持つというなら話は別だけど、そうじゃないなら山内の今後のことも考えて接してやれ」

「そ、それは……」

「山内たちのことは考えておく。だけど今は真面目にやっている人たちを優先すべきだろう。

 それと佐倉、すまなかった。騒ぎにしたくなくて秘密にしておきたかったんだろうけど、あの山内を見てたら今のうちに牽制しておいた方がいいと思ったんだ。何かあったらすぐにオレに言ってくれ」

「だ、大丈夫です……」

 

 ああ、厳しく注意しただけじゃなくて、山内くんのことも考えてくれてはいたんだね。確かに佐倉さんのことも考えると、改めて山内くんに注意しないというのはマズかったはずだ。

 綾小路くんが憎まれ役を買ってでなくてもいいとは思うし、僕がフォローしようとしても反発されるかもしれないけど、山内くんのことを見捨てたりはしていないんだ。少し安心した。

 

 それに綾小路くんの言葉が耳に痛い。

 僕たちはクラスメイトだけど、確かに綾小路くんの言う通りに高校卒業後の進路は皆バラバラとなるだろう。それなのに僕がクラスの平穏を保ちたいがために山内くんを庇うのは、山内くんの将来のためにすらならない無責任な所業だと釘を刺されてしまった。そう言われてしまうと返せる言葉がない。

 

 僕の中学時代のことを綾小路くんへ話したことはない。

 それなのにこんなことを言われたということは、綾小路くんは僕の歪みというものに薄々と気が付いているのかもしれないな。

 

「フフフ、清隆くんはお優しいことで。

 ひとまずは今日のところはこれで終わりましょう。Dクラスの皆さんも話し合いが続くでしょうし、私たちもそろそろAクラスに戻らなくてはいけませんからね」

「ああ、返答は明日の放課後までにする」

「わかりました。それでは失礼しますね、皆さん」

「それにしても山内は女の子のことを考えられないのかね。例えば男だって、いきなり見知らぬ女に『おまえの子を産みたい』とか言われたらドン引きするだろうに」

 

 どういうことなのかな、綾小路くん???

 Aクラスに帰ろうと立ち上がっていた坂柳さんも慌てた顔をしている。

 

「ちょっと待ってください清隆くん!? 何ですかソレ!? 私知りませんよ!?」

「オレじゃないオレじゃない」

「はーい、そろそろウチの教室に帰るわよー」

「待ってください真澄さん!! 清隆くんに聞かなければならないことがっ!!」

「坂柳、興奮すると体に差し障りがあるのではないか……?」

 

 坂柳さんがまるで大型犬を抱き上げるように、神室さんに後ろから抱えられて教室をでていった。学生証端末を胸ポケットにしまった葛城くんと橋本くんがそれに続き、最後に坂柳さんの持っていた杖を手にした鬼頭くんがでていき、教室のドアが閉められた。

 山内くんの態度に憮然とした顔をしていた人や、これからのことについて不安を感じている顔をしていた人が多く、クラス内はどこか暗い雰囲気が漂っていたけど、最後の最後でその暗い雰囲気が吹っ飛んでしまった。

 女子の多くは今まで泰然としていた坂柳さんが、一気に慌てた態度に変わったことにホッコリとした顔をしていて、男子の多くは綾小路くんに対して驚愕、もしくは同情した顔を向けている。

 

「綾小路くん……その、大丈夫なの?」

「いや、だから本当にオレじゃないって。それにこの学校にいたら安心だから」

 

 その言い方って……いや、よそう、僕の勝手な推測で皆を混乱させたくない。

 

 ひとまず、山内くんたちのことは綾小路くんの考えに任せようか。

 僕じゃ山内くんたちを説得できないこともあるし、何よりも僕はクラスの平穏を保ちたいと思うばかりで、クラスメイトの将来のことなんか考えていなかった。そんな考えなしの僕が、考えて行動している綾小路くんの邪魔をしていいわけがない。

 もちろん山内くんたちを切り捨てるというなら意見はするけど、綾小路くんは山内くんたちを見捨てずに考えてくれるようだ。だから、今はまだ綾小路くんを信じよう。

 

 

 

――― 橋本正義 ―――

 

 

 

「―――それで? 今回の行動の説明をしてくれるんだろうな?」

「ええ。もちろんですよ、葛城くん」

 

 葛城の質問に毅然と答える坂柳。

 でも、さっきまでは「女誑しめ」と妙なオーラを発しながら呟いていて、女子たちに囲まれて「純愛だよ」と励まされていたんだよな。なお、その様子を見た葛城が教壇に立って議題を進めようとしたが、女子たちの鋭い眼光に負けて、多少は逡巡しながらもアッサリと教壇から降りていた。

 悪いな、葛城。Aクラスの女子は坂柳の味方なんだ。まぁ、女子から見ても姫さんは可愛いんだろう。いろんな意味で。

 

「だいたいのことは電話越しに伝わったと思います。

 そして今回の行動の最大の目的は、清隆くんをDクラスのリーダーに押し上げることです。私が清隆くんをDクラスのリーダーとみなして話を進めたことから、もう既にDクラスの人たちの中では清隆くんがリーダーだと認識されているでしょうね」

「それは……意味があるのか? 綾小路は有能だ。Dクラスのリーダーになったら強敵になると思うが?」

「確かにそうですが、それよりも清隆くんが自由に動ける方が危険ですね。個人の能力で考えるのなら、ハッキリ言って学校の誰も彼には敵いませんよ。ですので清隆くんに勝つためには、彼にまず足枷をつけなければいけません。

 平田くんがリーダーで清隆くんが遊撃となるよりも、清隆くんがリーダーで平田くんがサポートになった方が清隆くんの行動に制限をかけられます」

「フム、そういうことか」

「40人というのは一見小さな集団のように見えますが、実際はかなり大きな集団です。

 葛城くんのような自らが先頭に立って集団を引っ張っていく方法ですと、まとめ上げられるのは精々10人ぐらいまでですね。もちろん40人全員が小学校からの付き合いで気心が知れていたりすると話は違いますけど、私たちは知り合ってまだ1ヶ月ですから土台無理な話です。目の届かない人がでてくるでしょう。

 清隆くんにはそちらの方に注力してもらわないと、私たちに勝ち目はありません」

「ム……」

「現実的な話ですとリーダーは動かずに指示に徹し、数名で構成された小集団ごとに行動させる、といった感じですか。リーダー1人で残りの39人それぞれに指示を出すのは非効率です。

 まぁ、清隆くんなら平田くんや櫛田さんに動かない役を押し付ける可能性が高いですが、まったくのフリーよりかはマシでしょう」

 

 公然と葛城はリーダーに向いていないって言って、動けない自分でもリーダーはできるって言ってやがる。でも、綾小路が自由に動けなくなった方が、俺たちAクラスにとって都合がいいのは確かだろう。

 それに確かに40人は多いよなぁ。小、中学のときは自然に男女で別れて行動してたし、リーダーっぽいのもいたことはいたけど、高校生になった今なら何となくではなくて理屈で動かなきゃならないしな。

 坂柳がリーダーになったことで葛城派の面々は納得していないツラをしていたヤツもいたが、坂柳の意見自体には全員が反論できていない。

 

 坂柳が綾小路と家族同然に親しく、綾小路のファンと公言していることから、坂柳はDクラス贔屓と中傷するヤツもいたが、この様子だとやっぱり坂柳は綾小路がいても全力でDクラスと戦う気だ。

 まぁ、普段からチェスとかするときもお互いに手加減なしみたいだし、綾小路の成績や実績だとAクラスもDクラスも関係ないもんな。

 それにそもそもの話、坂柳は自分が綾小路よりも実力は上とは思っていないのだろう。これは諦めているというわけではなくて、むしろ挑戦者側の気持ちになっているんだと思う。むしろ坂柳は喜び勇んで、全力で綾小路に対して勝ちに行くつもりだ。

 

 さて、これからのクラス対抗はどうなるのかねぇ?

 

 

「それで姫さん、綾小路のことはどうするんだい?」

「どう、とは? 今言ったじゃないですか、橋本くん」

「違う違う。綾小路をAクラスに引っ張り込むのかってこと。2000万プライベートポイントでクラス変更できるんだろう?」

「橋本、それはっ……いや、しかし……」

 

 やっぱり葛城でさえ、綾小路を引き込むのには迷うのか。いや、この場合は葛城が綾小路を引き込むか迷うぐらいに、綾小路が凄いってことなんだよな。

 当然だな。坂柳派の力が増大するだけの提案だったなら、葛城の立場なら普通なら賛成しないだろう。しかし、綾小路の実力は葛城も知っている。坂柳派の力が増大するよりも、Aクラス自体の力が増大する方がデカいだろう。

 そんじょそこらのヤツだったら一笑に付される提案だが、綾小路をAクラスに移籍できればAクラスの勝ちは決まったようなもんだろ。

 

 俺はこの学校をAクラスで卒業したい。

 だからどんな事態になってもいいように、今のAクラスがBクラス以下に落ちたとしても俺が卒業時にAクラスにいれるよう、それぞれのクラスのリーダーと誼を通じておこうかと思っていたが、綾小路を引っ張り込めるならAクラス一点賭けでもいいぐらいだ。

 

「ちなみに俺は賛成だね。再来年、俺たちが3年生のときのオリンピックで綾小路が金メダル取ったら面白いことになりそうだし」

「確かにそうだな。部活動でプライベートポイントやクラスポイントが増えることもあるようだが、それがオリンピック金メダルともなるとクラスポイント増加量は凄いことになるんじゃないのか?」

「そもそもオリンピック代表に選ばれるだけで、クラスポイントは増えるんじゃないの?」

 

 俺の発言を皮切りに、賛成の声が多く上がる。特に女子に多いな。

 綾小路は坂柳に会いによくAクラスに来てたし、勉強も運動もできることは皆知っている。引き込むには2000万プライベートポイントが必要だが、クラスポイントが980のAクラスなら、余裕を持っても今年度中には揃えることができるはずだ。

 実現の可能性は高く、綾小路の実力からしてかかったポイントに対するリターンも望める。アリよりのアリだな。葛城も真剣に考えている。

 

 しかし、坂柳は浮かない顔だ。

 

「難しいでしょうねぇ」

「そうなのか? 姫さんが言えばAクラスに来てくれそうだが?」

「アンタに対しては過保護じゃない、綾小路って」

「確かに清隆くんは紳士的ですがゲームで手加減とかはしないタイプですし、そういう形でAクラスに来るのは負けと思いますよ、きっと。それにAクラス特権になんか興味はないでしょうし。

 もしこのクラスに来てくれることがあるとしたら、DクラスがAクラスに上がったときですね。そのときなら来てくれるかもしれません」

「何で???」

 

 Aクラスに上がったってことは、このクラスがBクラス以下になったってことだろ。それなのに何でその状況でこのクラスに来てくれるんだ?

 

「清隆くんはDクラスの一員ですよね?」

「ああ、そうだな」

「それなのに私たちがプライベートポイントをだしてAクラスに来るのは、清隆くんの負けに近いですよね?」

「そうかな? ……そうかも?」

 

 俺とは反対の考え方だな。

 

「だったらDクラスをAクラスに上げてからこのクラスに来て、更にもう一回このクラスをAクラスに押し上げたら間違いなく清隆くんの勝ちですよね?」

「めんどくせぇヤツだな、綾小路って」

「あー、でも綾小路っぽいわね」

「そこがいいんじゃないですか。

 ロミオとジュリエットよりも、ロジェロとブラダマンテのカップルの方が私は好きです」

 

 誰だよロジェロとブラダマンテって? いや、ロミオとジュリエットは知ってるけどさ。

 

 それに惚気られても困るんだけど、何故か女子の大半は好意的で、神室は綾小路らしいと納得している。

 そんなアホなことができるのは自分の能力に自信のある男だけだ。そして一緒に釣りをしたときに話をした一見マイペースに見える綾小路という男が、実は自分の能力に揺るぎない自信を持っているということを俺は知っている。

 でも確かに綾小路ならそんなことをしそうだな、オイ。

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

『清隆、戻ってきたアタッシェケースの中が空っぽなんだが……1億円は?』

『は? 挑戦料は仕合に挑戦するための費用だから、勝ち負けに関わらず戻ってこないぞ』

『……そう、なのか』

『将棋の駒に“拳”の字。これが拳願会の会員証か。

 とはいえ挑戦料で種銭がなくなったし、仕合経験を積むためにも非公式仕合で小銭稼ぎだな』

『…………おまえの稼いだ金だ、好きにしろ』




 山内なら、山内ならきっとこれぐらいしてくれる。
 それと平田が使いやすくて困ってしまいます。多用しないように気を付けないと。

 とりあえず5月1日は終了です。思ったより1巻部分が長くなりそうです。
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