似て非なるもの   作:アヒルのおもちゃ

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雪柱
──それは誰よりも速く、姿を見せずに鬼を斬る者。





第一話:柱合会議

 

 

 月明かりに照らされる忌々しい影。

 森の中から今か今かと、人が住む家に飛び込もうとしてる鬼の姿を捉える。片足で軽く飛び、無駄な力を削ぎ落とし、地面を勢いよく踏み付けて鞘から蒼色に染まり、刃先にかけてガラスのように透き通った日輪刀を出して頸を切り落とす。

 

 ──雪の呼吸 壱ノ型 氷雪一閃(ひょうせついっせん)

 

 そのまま勢いを殺すように地面にもう一度足をつけ、屋根上に着地をして鬼へと目を向ければ、頸を斬られたことに気付いておらず、鬼は自分の頸が地面に落ちたことで斬られた事実に気付いたのか、煩く騒ぎ出すが身体の崩壊は止まらない。

 

 狐面を外し、しっかりと砂のようにサラサラと鬼が完全に消えたことを確認して狐面をまた付ける。

 すぐ側に待機していた相棒とは別の鴉が飛び立っていく姿を眺め、飛んでいく姿が見えなくなってから日輪刀を軽く振って血を落とし、鞘に戻してから羽織に付いた砂埃を軽く落とす。

 

 

「…じゃあね」

 

 

 ふーっと息を吸って、相棒が帰ってくるまでに少しでも屋敷に向かって帰っておこうと思い、近くまで一緒に来て待機していた隠に後処理などは任せ、木々の枝を飛び越え、唯一の光である月明かりを頼りに飛んで走る。

 

 帰る方向から、この組織に所属してから家族同然に同じ時間を共有している鎹鴉が空を飛び、お揃いの藍色に染められたスカーフと呼ばれる異国の首に巻く物を靡かせながらこちらに向かってくる姿を見つける。

 

 御館様に呼ばれて先に屋敷に帰ったはずだから終わって戻ってきたのだろうかとも思ったが、普段はあの子自身がのんびり屋な性格のもあって、ゆっくりなのに今回は速度はかなり速い気がしてならない。

 

 森を抜けて丁度いい場所に大きな岩があったため、その岩の上に立ち止まって腕を出せば、バサッと翼を閉じて着地した鎹鴉を撫でると嘴でコツコツと腕を突っつく。

 

 

(ゆい)、そんなに慌ててどうしたの?」

 

「御館様!」

 

「御館様?」

 

「今日、柱合会議!絶対参加シテ!急グ!」

 

「……え、今から?」

 

 

 普段なら遠方での任務の時は、無理に参加しなくてもいいとされている柱合会議だが今回ばかりは今までの柱合会議と違うらしい。

 首を傾げる私に巻いてるお揃いのスカーフを噛みながら、とにかく走って向かうぞと言わんばかりに急かすから只事では無いと理解して岩から飛び出して走る。

 

 御館様の屋敷にこの場所からどんなに走っても、恐らく着くのは柱合会議が始まる直前ぐらいになりそうだがと言いたいけれど、どうやら相棒はそんなことを聞く時間も勿体ないと判断したのか何も言わずに飛び続ける。

 

 一体、私が遠方の任務中に何があったって言うんだ。

 その言葉が口から出かけたが、今は相棒の言う通り早く走った方が良さそうなので、雷の呼吸の柱がいない今、鬼殺隊一と言って貰えてる自慢の速さをここぞとばかりに発揮しながら走る。

 

 やっとの思いで着いた御館様の屋敷に着いた頃には、柱で体力には自信があっても息が上がって肩も上がるが、普段ならここまで騒がしくない御館様の屋敷が騒がしくて私は違和感を感じる。

 案内してくれる隠も何処か様子がおかしい。本当に何があったんだ。

 

 

「それにアイツが来ないのは何故だ」

 

「先日の任務から直接、別の遠方の任務に行ってたそうで、今こちらに向かってると私の鴉から連絡を貰いましたよ」

 

「よもや!流石の速さだな!この短時間で来れるのは彼女ぐらいだろう!」

 

「だが、冨岡が関係してるのならアイツが無関係とは俺は思えない。どうせアイツのことだ、いつもの如くまた秘密だなんだ言うんだろう」

 

「おい、冨岡。お前も地味に黙ってないで何か言ったらどうだ?」

 

「………。」

 

 

 聞こえてきた会話の内容で、まさかあの会話能力が乏しく、しょっちゅう勘違いを他人に引き起こす良く知ってる人物の名前が聞こえ、いったい何をやらかしたのかと頭が痛くなるが私は隠の案内で御館様の庭に入る。

 

 ザクっと庭の砂利を踏んだ音が向こうにも聞こえたのか、一気にまだ来ていない不死川くん以外の8人の視線を受けるが私は普段から狐の面を付けているため、視線が会うことはない。

 

 

「久しぶり〜、どういう騒ぎ?」

 

「息災で何よりだ!」

 

「あら、結から聞いていませんか?」

 

「何も聞いてないよー、とにかく走って柱合会議に参加しろって言われただけ」

 

「派手に重要な部分飛ばしてんな。簡潔に話すが、そこにいる隊士が鬼を連れてて、その隊士を冨岡が地味にかばうわ、鬼を斬ろうとした胡蝶の邪魔をして隊律違反したってわけだな」

 

「……は?」

 

 

 突然の情報量に頭がついていかず、私は思わず本人を睨みつければ、私の視線からそっと目を逸らすだけで何も言わない。

 

 正直に言うと理解が出来ないし、全くもって意味がわからなかった。

 何で鬼を連れているのか、鬼を連れた隊士が鬼殺隊にいるのかも、そもそも柱にもなって義勇が隊律違反を犯しているのかも分からない。

 

 普段、感情は表に出さないようにしてるが、今日ばかりはそんなことも言ってられず固まっていれば、隣に誰かが近寄ってきて背中を撫でられる。

 

 驚いて目を向ければ、そこにはどこか心配そうな顔をする同じ柱で友人である──蟲柱の胡蝶しのぶと恋柱の甘露寺蜜璃。

 

 2人よりも私は歳上なのだ、心配させたら悪いと思って大丈夫だと意味を込めて、笑顔を向けようとした瞬間にさっきまで静かにしていた鬼を連れた隊士が口を開けた。

 

 

「……俺の妹は鬼になりました、だけど人を喰ったことはないんです。今までも、これからも人を傷つけることは絶対にしません」

 

「くだらない妄言を吐き散らすな、そもそも身内なら庇って当たり前。言うこと全て信用できない。俺は信用しない」

 

「…あぁ、鬼に取り憑かれているのだ。早くこの哀れな子供を解き放ってあげよう」

 

「聞いてください!俺は禰豆子を治すために剣士になったんです!禰豆子が鬼になったのは2年以上前のことで、その間に禰豆子は人を喰ったりしてない!」

 

「話が地味にぐるぐる回ってるぞ、アホが。人を喰っていないこと、これからも喰わないことを口先だけでなくド派手に証明して見せろ」

 

 

 今、彼は鬼になった妹を治すために剣士になったと言っただろうか。

 鬼殺隊に入る以前に刀や剣に触れる一般人は、廃刀令が出てからは殆ど居ないし、持っていたとしても竹刀かそれなりの地位にいる家庭ぐらいのはずだ。

 

 つまり彼は剣士になるために2年間もの間、誰かに教わっていた事が今の会話から簡単に推測ができる。何より、今この場に隊律違反として立たされてる彼を見れば私は簡単に想像がついてしまい、しのぶの手から離れて彼の元に行く。

 

 

「…まさか、あの隊士を育てたのって鱗滝さんじゃないよね」

 

「俺たちと同門だ」

 

「…え」

 

「2年前、俺が紹介した。お前には関係ない」

 

 

 言葉が足りないから全ては理解できないが、彼はあの隊士をどういう訳か関わり、私達の育手である鱗滝さんを紹介する流れになって紹介し、今まで私には何も言わずに黙っていたということは理解した。

 

 彼の言葉に、しのぶも聞こえていたのか青筋を浮かべ、普段の笑顔を消して詰め寄るが私が首を横に振って止める。

 彼ら兄妹にとっては酷いとは思うが、あの兄弟の勝手な都合に家族が巻き込まれたという事実だけで私がすることは決まったも同然。

 

 いつの間にか来ていた不死川くんは、どうやらその鬼が入ってる箱を隠から奪い、勝手に持ってきてしまったようで私の隣にいたしのぶが怒って言ってるが私は動くことが出来ない。

 

 不死川くんが言ってる通り、どんな理由であろうと鬼を斬首する事が鬼殺隊では当たり前だし、鬼を擁護するなんて隊士は以ての外だ。

 そのことは何も間違いでは無いし、反対にしのぶが言う通り、御館様が鬼と隊士を連れてこいと言ったなら、下手に危害を加えずに何もせずにいろというのも間違いでは無い。

 

 立場的にも私は危険な立場にいる。今回は何も言わず、中立に立った方が良さそうだと決めた時だった。

 

 

「善良な鬼と悪い鬼の区別がつかないのなら、柱など辞めてしまえ!」

 

 

 その言葉を聞いた瞬間に地面を蹴り、ふわりと花柄の羽織を靡かせながら少年の前に降り怪我をさせない加減をしながら手で頭を押え、彼の頬を地面に押し付ける。

 周りが一気に息を飲み、ざわつくがそんな事は放っておいても構わないだろう。

 

 

「あぐっ…!?」

 

「初めまして、少年」

 

「っぅ…!」

 

「家族が鬼になったけど人を食べてません。だから殺さないでください、鬼でも善良な鬼がいることをなぜ分からない。分からない柱は辞めてしまえ。これが君の言い分ね、君の言い分は分かったよ」

 

「それならっ!」

 

「だけどね、家族や大切な人、親友、仲間を殺された。それでも死ぬ気で鍛錬して鬼に全てを奪われた人達に突然、ただの一般隊士で実力もない君が、人を食べてないから鬼の妹を守ってくださいって言って、はい、分かりましたって言う人いるかな?」

 

「……っ」

 

「家族を鬼にされたのは君だけじゃないし、君と同じように殺さないでと懇願されたこともあるよ。でも結果的には、その鬼も自分の家族を人を食べたんだよ。改めて聞くね、私達には鬼を殺す理由があるし証拠もある。君の妹さんがこれから先も食べない証拠はどこ?」

 

 

 冷静に言えば、目の前の彼もわかってくれるかと思ったけれど、彼は真っ直ぐに私の目を見つめて言葉を探している。分かってもらうのは難しそうだ。

 

 私が話している間に、不死川くんが隠から奪った箱を片手に持ち、日輪刀を抜いて中にいるだろう鬼の少女に向かって三回刺した。

 私の手の下にいる少年が無理やり起き上がり、飛び上がろうとしているが私が軽く押えているのと、伊黒くんが強く押えているから動けない。

 

 伊黒くんが押えているならと思い、私が手を離せば少年は顔を上げて更に不死川くんに対して怒鳴り散らす。

 私も騒いでしまった要因だが、あの隊士と鬼の存在を御館様が全く知らないはずはないと考えていれば、御館様の気配を感じて私は少年から離れ、しのぶと無一郎くんの隣に移動する。

 

 

「御館様の御成です」

 

「おはよう皆、今日はとてもいい天気だね。空は青いのかな、顔ぶれが変わらずに半年の柱合会議を迎えられた事うれしく思うよ」

 

 

 先程までざわつき殺伐としていた空気が一転して静まり、一気にこの場の空気が変わる。

 その空気の変わりように鬼を連れた少年は驚いていたけれど、不死川くんが手加減抜きで彼の頭を落とさせて地面に叩きつけるものだから、あれでは怪我してもおかしくないため私が加減した意味が無くなったな。

 

 

「お館様のおかれましてもご壮健で何よりです。ますますのご多幸を切に申し上げます。」

 

「ありがとう、実弥」

 

「…畏れながら、柱合会議の前にこの竈門炭次郎なる鬼を連れた隊士についてご説明いただきたく存じますがよろしいでしょうか?」

 

 

 どっかの言葉足らず義勇のお陰で、少年の顔を見なくても彼が今何を考えてるのか何となくわかってしまうような気がするけど、こればかりは不死川くんの第一印象に問題があるとしておこう。

 

 

「そうだね、驚かせてしまってすまなかった。炭治郎と禰豆子のことは私が容認していた。そして、皆にも認めて欲しいと思っている」

 

「あぁ……、たとえ御館様の願いであっても私は承知し兼ねる」

 

「俺も派手に反対する!鬼を連れた鬼殺隊など派手に認められない」

 

「私は全て御館様の望むままに従います」

 

「…僕はどちらでも、すぐに忘れるので」

 

「……。」

 

「……。」

 

「信用しない、信用しない。そもそも鬼は大嫌いだ」

 

「心より尊敬する御館様であるが理解できないお考えだ!全力で反対する!」

 

「鬼を滅殺してこその鬼殺隊、竈門、冨岡の両名の処罰を願います」

 

凪仁(なぎと)はどうかな」

 

 

 しのぶや義勇も黙っていたし、何も知らなかったとはいえ同門なら彼の姉弟子にあたる私は置かれてる状況は悪い。

 義勇がどういう理由で隊律違反をしたのか分からないため、黙っていたのだけれど、まさか名指しで呼ばれるとは思わなかった私はピクリと動いてしまう。

 

 顔を上げれば微笑む御館様と目が合い、私は隣から心配の念を受けながらも口を開こうとはするが、何とも言えないというのが伝わったのか御館様は優しく微笑んでくださった。

 

 

「…ごめんね、難しい質問をしてしまったね」

 

「…いえ」

 

「今から手紙を読むから、その後に改めて凪仁の気持ちも教えてくれるかい?」

 

「…はい」

 

 

 手紙っていったい誰の?なんて一瞬思ったが、さっき義勇とした話を思い出して私は手をぎゅっと握り締める。

 恐らく、私の予想が外れていなければ──────

 

 

「こちらの手紙は元柱である鱗滝左近次様から頂いたものです。一部抜粋して読み上げます。炭治郎が鬼の妹と共にあることをどうかお許しください。」

 

 

 ──禰豆子は強靭な精神力で、人としての理性を保っていること。

 飢餓状態である事にも関わらず人は食わず、そのまま二年の歳月が経過いたことが事実であること。

 

 

 手紙が読み上げられていけばいくほど、信頼する師範であり親のような存在である鱗滝さんの言葉を信用したい気持ちと、鬼に対する憎しみで私の手を握る力は強くなる。

 

 

「もし、禰豆子が人に襲い掛かった場合は竈門炭次郎および鱗滝佐近次、冨岡義勇が腹を切ってお詫び致します」

 

 

 最後の一文に柱全員が狼狽えた。

 それもそうだろう、元柱と水柱が腹を斬るという所にもう一人の名前が無い。冨岡義勇が隊律違反を犯してまでかばったということは弟弟子か、血縁関係のある隊士の可能性が一番高く、もしそのような関係なら私だって無関係のはずがないと考える。

 

 だから不死川くんと伊黒くんは私を怪しんだわけだし、しのぶと蜜璃ちゃんも私のことを心配してくれたのだ。

 鱗滝左近次が育てた水の呼吸一門が関係者だと睨んでいたのに、そんな中で私の名前がないということは、文にはしていなくても私は一切関与していない事になるし、私だけだなんて誰が想像つくか。

 

 

「切腹するからなんだと言うのだ。死にたいのなら勝手に死にくされよ!何の保証にもなりはしません、それに何故冨岡の名しか無いのですか」

 

「不死川の言う通りです!人を食い殺せば取り返しがつかない!殺された人は戻らない!それに同門である彼女の名がないという事は恐らく無関係なのでしょう!何故彼女は何も知らないのですか!」

 

「確かにそうだね。皆も気になるだろう凪仁の名前が無いのは、本当に彼女は知らなかったのだよ。これは鱗滝左近次と義勇、私の三人しか知らなかったからね」

 

「では!」

 

「御館様!」

 

「人を襲わないという証拠が無い、人を襲わないという証明ができない。ただ、人を襲うということもまた証明ができない」

 

「っ!」

 

「禰豆子が二年以上もの間、人を食わずにいるという事実があり、禰豆子のために三人ものの命が掛けられている。これを否定するためには否定する側もそれ以上の物を差し出さなければならない」

 

「……っ」

 

「皆にその意思はあるかな?それに、私の子供たちに伝えておくことがある。この炭次郎は鬼舞辻と遭遇をしている」

 

 

 あぁ、だから御館様は容認されていたのか。と思わず納得してしまった。

 鬼舞辻無惨と遭遇しているのは、私達を含めた柱ですら遭遇したことがない中で、ただの一般隊士である彼は遭遇して、しかも生きている。

 

 柱は冷静な人達だ。そんな人たち、それもあの無一郎くんですら反応して問い詰めている現状、その事実が御館様が容認していた大きな理由であるのは間違いない。

 

 ざわつく柱達の空気の中、私はそんなことよりも違う事の方が重要すぎてため息を吐いてしまうのは柱としては失格なのだろう。

 

 

「鬼舞辻はね、炭治郎に向けて追手を放っているんだよ。その理由は単なる口封じかもしれないが、私は初めて鬼舞辻が見せたしっぽを離したくない。恐らくは禰豆子にも鬼舞辻にとって予想外の何かが起きてると思うんだ。分かってくれるかな」

 

「……大変申し訳ございません、御館様。発言をお許しください」

 

「構わないよ。なんだい、しのぶ」

 

「まだ凪仁さんの話を聞けておりません。凪仁さんは、この場において誰よりも苦しい立場。どうか、凪仁さんの意見を」

 

「そうだね、しのぶの言う通りだ。改めて教えて欲しい、凪仁の考えはどうかな」

 

 

 どんな時でも普段、御館様の話を止めることをしない彼女が止めたのは私の立場があるからだ。

 正直、こんな状況で止められても発言がしづらいのだが、最初にも御館様に意見を聞きたいと言われてしまった。

 

 そして何より、友人の彼女が出来る範囲で私のために動いてくれた以上、意見を言わないわけにはいかない。

 

 

「…柱としての意見は御館様の望むままに従います。ですが、私個人の意見は竈門炭治郎、並びに竈門禰豆子の両名を処罰願います」

 

「……ぇ」

 

「…確かに竈門炭治郎と竈門禰豆子は御館様の言う通り、今までの鬼とは違う何かがあると思います。鬼舞辻無惨も関与しているなら尚更のこと」

 

 

 そこで言葉を止め、昂ってきた感情を抑えるためにふーっと息を吸いながら目を瞑る。

 めいいっぱい吸って感情を落ち着かせ、吸った分だけ息を吐き出し、瞼をゆっくりと開いて御館様の目を見る。

 

 姉弟子として、柱として、この選択は恐らく間違っているだろう。

 関与していなかったとしても鬼舞辻無惨が関係しているし、何より家族が命を懸けて守ろうとしてる弟弟子に対して私は慈悲を向けないと宣言してるのだから。

 

 きっと私の親友達なら彼を守る側に立つだろう。それに、しのぶが黙っているのは彼女の帰りを待つ姉の存在があるから。

 でも私は守る側立てない、彼女のように強く居られなかった。

 

 

「人の兄妹なら分かります、でも鬼なら話は違います。そんな勝手な都合に、義理とはいえ家族の命を危険に晒すなんて出来ません」

 

 

 私がそう言えば、竈門炭治郎が目を見開いて私を見つめてくる。

 彼は考えたこと無かったのだろうか、確かに鬼殺隊は家族を失っている隊士は多いが、冨岡義勇に家族がいるということを一度も考えたことはなかったのか。

 

 確かに私と義勇は血は繋がっていないけれど、鬼によって奪われた私たちにとって、お互いにもう家族と呼べる間柄はいない。

 

 

「分かりません、御館様。人間なら生かしておいていいが鬼は駄目です。これまで俺たち鬼殺隊がどれだけの思いで戦い、どれだけの者が犠牲になっていったか。それに冨岡は隊律違反を犯しているが凪仁の家族、今までの彼女の功績で冨岡のことは見逃しますが承知出来ない!」

 

 

 不死川くんが、まさか私のためを思って毛嫌いしてる義勇のことを許すとは思わなかった。

 私は驚いて目を見開き、不死川くんに目を向ければ彼は、そのまま日輪刀を持って自分の腕を切って血を流した。

 

 嘘でしょ、色々と突っ込みたいとこが多い。御館様の庭が血で汚れてるけど、不死川くん的には御館様の庭を汚すのありなのか。

 

 

「御館様、証明しますよ俺が!鬼というものの醜さを!」

 

「……実弥」

 

「おい鬼!飯の時間だぞ、食らいつけ。無理することはねぇ、お前の本性を出せばいい。俺がここで叩き斬ってやる」

 

「不死川、ここでは駄目だ。日陰に行かねば鬼は出てこない」

 

「御館様、失礼仕る!」

 

「やめろー!!」

 

「出てこい鬼!お前の大好きな人間の血だ!どうした来いよ、欲しいだろう?」

 

 

 禰豆子と呼ばれる鬼が入る木箱を日輪刀で滅多刺しにする不死川くんと、少年を強く押え付ける伊黒くん。

 暗がりでよく見えないが、恐らく禰豆子と呼ばれる鬼らしき少女が木箱から出てきた。

 

 不死川くんは鬼が好きな稀血をもつ隊士。

 少し離れているが、涎が出ているのを見る限り反応してしまっているのはこちらからでも確認できる。

 

 

「伊黒さん、強く抑えすぎです。少し緩めてください」

 

「動こうとするから抑えているだけだが?」

 

「竈門くん、肺を圧迫されている状態で呼吸を使うと血管が破裂しますよ」

 

「血管が破裂!?いいなぁ!響きが派手で!よし行け!破裂しろ!」

 

「…宇隨さん、冗談でもやめてほしいな。気分悪いんだけど」

 

「わ、わりぃ。凪仁が怒ると怖ぇんだよ」

 

「可哀想に、何と弱く哀れな子供。南無阿弥陀仏」

 

「竈門くん!」

 

 

 しのぶが注意しても少年は呼吸を止めることなく、手を縛られていた縄を破った。義勇がすぐ側まで来ていた気配はしていたが、まさか伊黒くんの手を掴むなんて私も予想外で目を見開く。

 

 ……そこまで、鬼に対して慈悲なんて持ってない義勇が慈悲を向けるほど彼ら兄妹に何か想いがあるってことなの。

 私には自分の命を懸けてる事も、師範が関与してることも何も教えてくれなかったのに彼らがそこまで大事?

 

 

「禰豆子!!」

 

「どうしたのかな?」

 

「鬼の女の子はそっぽ向きました」

 

「不死川様に三度刺されていましたが、目の前に血まみれの腕を突き出されても我慢して噛まなかったです」

 

「ではこれで、禰豆子が人を襲わないことが証明できたね」

 

「……何のつもりだ冨岡、凪仁にこれ以上迷惑をかける気か」

 

 

 皮肉にも、一番鬼の存在を許したくなかった不死川くんの稀血で人間を襲わないことが証明できてしまった今、こちらから兄妹を追い詰めることは不可能になった。

 あぁ、これはとんだ面倒な事になったな。

 

 

「炭治郎、それでも禰豆子のことを快く思わない者もいるだろう。証明しなければならない、これから炭治郎と禰豆子が鬼殺隊として戦えること。役に立てること。十二鬼月を倒しておいで、そうしたら皆に認められる。炭治郎の言葉の重みも変わってくる」

 

「俺は、俺と禰豆子は鬼舞辻無惨を倒します!俺と禰豆子が必ず、悲しみの連鎖を断ち切る刃を振るう!」

 

「今の炭治郎には出来ないから、まずは十二鬼月を倒そうね」

 

「っ…!…はい……!」

 

 

 彼の言葉に蜜璃ちゃんの堪えようと頑張る笑い声が聞こえ、次第に他の柱もクスクスと笑い出す。

 隣に座るしのぶも堪えきれないようでクスクス笑っているし、私もただの鬼にそこまでボロボロにされてるのにと呆れて何も言えない。

 目標が高くていいとは思うけども。

 

 

「鬼殺隊の柱たちは、当然抜きん出た才能がある。血を吐くような鍛錬で自らを叩き上げ死線を潜り、十二鬼月を倒している」

 

「うむ!いい心がけだ!」

 

「だからこそ、柱は尊敬され優遇されるんだよ。炭治郎も口の利き方には気をつけるように、それとちゃんと凪仁には話をするんだよ?彼女は義勇の家族だからね」

 

「は、はい」

 

「それから実弥、小芭内。あまり下の子に意地悪をしないこと」

 

「…御意」

 

「……御意」

 

「凪仁には何も言ってない中で、大切な家族の命を賭けさせてしまってごめんね」

 

「……いえ、義勇が決めたことのようなので」

 

 

 とは言え、彼ら兄妹には申し訳ないけど私から歩み寄る事はしない。

 御館様が認めたからには、こちらから何か手を出すようなことはしないけれど出来れば彼らとは関わりたくないというのが本音だ。

 

 血は繋がっていないけど、ただでさえ鬼殺隊の柱で危険な任務が多いのに、彼らの都合に巻き込まれて家族が命を賭けるなんて良しと思えるわけが無い。

 話をするようにって御館様が言っていたけれど、私が彼らと毛頭関わる気がないのもバレていそうだな。

 

 

「ありがとう、凪仁。炭治郎の話はこれで終わり、下がっていいよ」

 

「でしたら、竈門くんは私の屋敷でお預かり致しましょう」

 

「……え?」

 

「はい!連れて行ってくださーい!」

 

「前、失礼しまーす!」

 

「では、柱合会議を始める」

 

 

 この後、まさか隠に連れていかれたはずの竈門炭治郎が走って戻ってきたかと思えば、御館様の話を遮るとは思いもよらなかったし不死川くんに頭突きしたいとか言うと思わなかった。

 

 それでもやはり、私は──鱗滝(うろこだき)凪仁(なぎと)は竈門炭治郎が嫌いだと改めて思った。

 

 

 

 

 








流行に乗れない人が今更ハマって手を出した。
どうか、暖かい目で見てください。




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