似て非なるもの   作:アヒルのおもちゃ

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「── ゆびきりげんまん、約束ね」

薄れ始めてる幼い記憶。
母と一度だけやった事があった。









第四話:最速の柱

 

 

 蜜璃ちゃんオススメのお店は"かふぇ"と呼ばれる異国の食べ物が食べられるお店だった。私は疎い方のため詳しくないが、ハイカラが流行っている今はこういったお店が増えてると教えてくれたのを覚えてる。

 

 

「すげー!なんだここ!甘い匂いすんぞ!」

 

「落ち着けって!すいません!すいません!」

 

「失礼します、こちらお絞りとお水置いておきますね。お決まりになりましたらお呼びください」

 

「ありがとうございます」

 

「おぉ!喉乾いてたんだ!これ飲んでいいのか!」

 

「飲んでいいから出してんだろ!てか、その被り物取れよ!」

 

 

 その勧められたお店に入ってすぐ、そんな会話が繰り広げられた。

 水を飲むために猪の被り物を取って初めて見た少年の顔は、とっても綺麗な顔で私はびっくりしてしまい、面をしていなかったら変な顔を彼らに見せていたと思う。

 

 そんな猪の頭をかぶっていた姿からは全く想像がつかない綺麗な顔だった事にも驚きだったけど、必死にぱんけぇきを頬張って食べる少年の姿は少し予想外で面を食らう。

 

 とは言え、好きな物を好きなだけ頼んでいいと言ったら、まるで小さい子のように何度も「本当にいいのか!?」と確認し、運ばれたものをキラキラした眼差しで食べ進める姿は何だか見ていて気持ちがいい。

 

 隣に座っている黄色い少年は、そんな彼の食べっぷりに何度も注意しているけれど私が止めて、彼にも好きなものを頼むように勧めれば申し訳なさそうに頼んだ。

 

 柱となってから給料の使い道は蝶屋敷の子達へのお土産ぐらいしかないのだ、ここでどれだけ食べてもらっても痛くないほど貯金してある。

 

 

「あの、雪柱…様…?」

 

「あ、ごめんね。自己紹介がまだだったよね、私は鱗滝凪仁です。君たちの名前ちょっと自信ないから教えて貰ってもいい?」

 

「俺様は嘴平伊之助だ!」

 

「お前なぁ!相手は柱!俺らの上官なの!上から目線するな!」

 

「いいっていいって、気にしないで。黄色い君は?」

 

「あ!えっと、お、俺は我妻善逸です!」

 

「伊之助くんと善逸くんね、よろしく」

 

「オウ!」

 

「は、はい!!」

 

 

 注文した商品が届いて善逸くんも食べだし、夕食が近いのもあって軽そうなものを選んだ私のにくっついてきたナッツを掴んで結にあげる。

 カナヲの同期なのは知っていたけれど、二人はいったいどういう呼吸を使うのだろう。特に山育ちらしい伊之助くん。

 

 二人の顔を見ながらそんなことを考えつつ、目の前の届いたものを見つめる。

 名前からして甘そうだとは思ってたけど食べ切れるかな。夕食も近いから軽そうなものを選んだけど、と一人で考えていたら頬張っていた伊之助くんの方から視線を感じ、顔を向ければ口をもぐもぐさせながら私の顔を見ている。

 

 

「伊之助くん、どうしたの?」

 

「お前、いつまでそれつけてんだ?」

 

「伊之助!」

 

「ん?」

 

「その狐面!」

 

「ふふ、そうだね。食べるから外そっかな」

 

「え!あの!無理に外さなくても!」

 

「平気平気、別に何か隠してるとかじゃないから」

 

 

 後頭部にある紐を取り、厄除の面を取って机の上に置けば善逸くんから変な声が聞こえてくる。

 髪の毛を整えて前を向けば、伊之助くんの綺麗な瞳と目が合う。

 

 

「ふふ、これでいいかな?」

 

「いいぜ!」

 

「んんん!めちゃくちゃ綺麗です!」

 

「嘘、ありがとう。初めて言われた〜」

 

「えぇ!?嘘でしょ!?そんな顔だけで食ってけそうなのに!?」

 

 

 普段、厄除の面を付けてるから人に顔を見られる方がほとんど無いとは言えず、善逸くんの真っ赤にさせてる顔に笑って返す。

 今はスカーフと隊服で隠してるからいいけど、私の首から肩には小さい頃にできた大きな傷跡があるから顔だけで食べていくって言うのは残念ながら無理だ。

 

 大興奮状態の善逸くんを何とか抑えさせ、伊之助くんの追加注文をしながら私も結にナッツをあげつつ食べ進めていく。

 

 

「…あの、すいません」

 

「んー?」

 

「その、今更なんですけどなんて呼べばいいですか?」

 

「ん?普通に下の名前呼んでくれていいよ?」

 

「え、でも炭治郎には……」

 

「…あー、さっきの見てた?」

 

「まあ、その、はい」

 

 

 ぱんけぇきを食べていた善逸くんが恐る恐ると言った感じ、フォークとナイフを紙の上に置き、聞きずらそう聞いてきた内容に私は苦笑いを浮かべてしまう。

 

 蝶屋敷の庭で、それなりに大きい声で話していたのだから聞こえていても仕方ないかと思い、私は結を撫でながら上手く言葉が出てこなくて、何て言うべきかを必死に考える。

 

 さっきまで嬉しそうに食べていた伊之助くんも、どうやら気になるようでもぐもぐと口を動かしながらも目線はしっかり私を見ている。

 

 

「…さっき彼と私の会話を聞いていたなら何となく察すると思うんだけど、私、彼が少し苦手で」

 

「そうなのか?権八郎はいいやつだぞ!」

 

「伊之助はちょっと黙ってろ!」

 

「…あはは。んー、何て言えばいいかなぁ。水柱は二人とも分かる?」

 

「多分、分かります」

 

「わかるぞ!半々羽織りだな!」

 

「そうそう、半々羽織の人。あの人、私より歳は1つ上なんだけど弟弟子で家族みたいな人なんだけど」

 

 

 多分、二人は義勇と鱗滝さんが命を懸けて、あの兄妹を守っていることを知らないはずだからこの話題は触れないようにしよう。

 

 それより半々羽織という伊之助くんに、私は色んな意味でクスッと笑ってしまう。

 あの羽織を作る時も、わざわざ任務とかで忙しい癖に狭霧山まで帰ってきて私に確認しに来たのだ。

 

 ── 凪仁、お前の兄の羽織を着てもいいだろうか

 

 最初は実のお姉さんの着物を羽織に変えて着ていたのに、どうやって着るのか不思議だったけれど、私は厄除の面を形見で貰ったのに義勇に何も無いのは嫌だったから頷いたのをよく覚えてる。

 

 それから暫くして、義勇の鴉から久しぶりに帰ってくると聞き、次に会った時には羽織が半々羽織になっていたのだ。

 私と真菰、鱗滝さんの三人で目を見開いたのはいい思い出。

 

 

「あの羽織、亀の甲羅みたいな模様の方はね、私の実の兄が着ていたものだったんだ」

 

「…実のお兄さん」

 

「雪野郎の兄ちゃんも鬼殺隊か!」

 

「や、野郎って私は女だけど……。ううん、私の兄は鬼殺隊じゃないよ」

 

「…もしかして」

 

「義勇……水柱と同じ年の最終選別を一緒に受けて、兄さんだけ帰ってこなかった。その年の犠牲は、うちの兄だけ。兄さんね、凄く剣の才能があって正義感が強い人だったから誰よりも多く鬼を斬ってたんだって。だから刀が刃こぼれしてて、強い鬼に襲われてる子供を助けに行って頸を切ろうとしたら折れちゃって」

 

「…雪野郎の兄ちゃん、すっげえ強かったんだな」

 

「ふふ、うん、自慢の兄だった」

 

「…その、炭治郎とは」

 

「…彼がさっき言った名前。どうして知ってるかは分からないけど兄と親友の名前なの、でも二人は5年以上前に亡くなってるんだ。彼は私が妹で、その子が親友だってこと知らないみたいだけど」

 

 

 伊之助くんと善逸くんに何だか目が合わせずらくて、私は顔を逸らして結に目を向け、優しく撫で続ける。

 二人も言葉を探してるのか、それとも何か思うことがあるのか、黙ったままで私は口の中を潤すために一緒に頼んでいた紅茶を一口飲む。

 

 

「…初対面もあんまり良くなかったら、ちょっとね」

 

「ほんっとうにすみません!炭治郎が完全に悪いです!アイツ、変なとこ鈍感で、こっちの気持ちとか気付かずにズカズカ踏み込む時があって!俺の方からも突っ込むなって言っておきます!」

 

「大丈夫、私もちょっとびっくりしただけだから。ごめんね、二人とも気まずいよね」

 

「んな事はいいけどよぉ、なぁ、雪野郎」

 

「だーかーらー!伊之助!お前、女性に向かって野郎は!」

 

 

 どうやら、この短時間で彼の中で私は雪野郎で定着してしまったようだ。

 まあ、私のせいで少し空気が良くなかったから彼なりに空気を変えてくれたのだろうと勝手に解釈して心の中で感謝する。

 

 ただ、他の女の子に野郎って言わないといいけど。と思いながら、焦って注意する善逸くんをやんわり止めて、私は伊之助くんの真っ直ぐな目を見る。

 

 

「…ん?」

 

「俺達とあの女、何が違ぇんだ」

 

「あの女?」

 

「…あのー、蝶屋敷の子です。俺たちと同期の」

 

「カナヲ?何かあったの?」

 

「勝てねぇんだ!アイツなんかすげぇ早くてよ!」

 

「善逸くん、ちょっと話してもらっていい?」

 

「も、もちろんです!」

 

 

 善逸が順序立てて教えてくれた限り、彼ら三人は怪我の具合が良くなってきたので機能回復訓練をする事になった。

 でも、実際にやってみるとアオイまでは勝てても、カナヲには一度も勝てずにボロボロに負けてしまったらしく、どうやっても勝てないから心が先に折れてしまい、最近機能回復訓練をサボってるらしい。

 

 あぁ、だから結がサボリって言ってたのかとここで話が繋がり、私は三人とカナヲの違いを考えるが、機能回復訓練に特別な技術は要らないし、承子かそうでないかの違いも関係ない。カナヲは目がいいけど、それが大きな差とも思えない。

 そうなると、三人とカナヲの大きな違いは多分、竈門炭治郎が最近気付いて鍛錬し始めた常中じゃないだろうか。

 

 

「二人って全集中の呼吸・常中って知ってる?」

 

「ジョウチュウ?」

 

「爺ちゃんから少し……」

 

「全集中の呼吸は知ってると思うんだけど、それを起きてる時も寝てる時も、つまり四六時中やってるのが全集中の呼吸・常中」

 

「四六時中!?はぁー!?そんなん無理でしょ!あれ一瞬使うのも死にそうなのに!」

 

「何だ、あれやりゃあいいのか?」

 

「馬鹿じゃないのお前!そんな簡単に出来るわけないじゃん!」

 

「でも君たちとカナヲの違いって、それぐらいじゃないかな?常中は出来るまでは苦しいけど、出来ちゃえば色々応用できるし」

 

「嘘でしょ!?え、凪仁さんも出来るんですか!?」

 

「うん、今もやってる」

 

「今も!?今もって言ったこの人!?」

 

「簡単じゃねえか!ずっとやればあいつに勝てんだな!」

 

「あ、伊之助くん、急にやらない方がいいよ。多分、耳から心臓でそうな気分味わうし普通にしんどい」

 

「サラッと怖いこと言った!いやー!無理!絶対無理!俺には無理!」

 

 

 いつの日か聞いた善逸くんの叫び声に私は近くにいたお客さんの眉間にシワが寄ってることに気付き、すみませんと謝り、とりあえず静かにしてもらうように善逸くんを黙らせる。

 

 任務の準備で街に来たけど、これは買い物出来なさそうだなと、もう少しで日が暮れそうな空を見て、私は残っていた自分の頼んだぱんけぇきと紅茶を食べ進める。

 

 二人にも日が暮れ始めてることを伝え、残ってる分を食べきってもらい、食べ終わったのを確認し、外していた厄除の面を付ける。

 店員さんを呼んで会計を済ませ、二人を連れて外に出る頃にはもう夕暮れの時間。

 

 

「二人とも、もう日が暮れるからそろそろ帰ろうか」

 

「はい!すいません!てか、本当に奢ってもらっちゃってすいません!ご馳走様でした!」

 

「すげぇ美味かった!雪野郎また来ようぜ!」

 

「どういたしまして。気に入ってくれたみたいで良かった。と言っても、私もここ勧められて初めて来たけど楽しかったからまた来ようか」

 

 

 二人の服装からして日輪刀は持っていない。

 蝶屋敷までの帰り道に鬼に遭遇するとは思えないけど、何かあった時に戦えるのは私だけだ。背中近くの羽織の下に隠していた日輪刀を取りやすい腰の位置に戻して歩く。

 

 伊之助くん、私、善逸くんで並んで歩いて帰っていると、急に横にいた二人の表情が変わり、私も嫌な予感がしていつでも抜刀出来るように左手を日輪刀に添える。

 

 

「…いやがるな」

 

「ひぃぃ!鬼の音がする!凪仁さん!すいません!俺たち日輪刀を持ってないです!」

 

「一匹、いや二匹いるね、二人とも私の後ろに来てくれるかな」

 

 

 二人を背後に来てもらい、私は右脚で何度かその場で軽く飛びながら全身から無駄な力を抜いて気配を探る。

 

 日が暮れて、月明かりだけが照らされる夜道。

 私たち人が暮らしやすい時間が終わり、鬼の時間が来る。

 

 ガサッと草木を踏む音と善逸くんの悲鳴が同時に耳に聞こえ、私は善逸くんの手に藤の花のお守りを握らせる。

 

 森から飛んでくるように出てきた鬼を捉え、私は軽く飛んでいた右脚に力を込め、音をその場に置いていく勢いのまま、鬼に向かって飛ぶように地面を蹴り飛ばす。

 

 鞘から完全には抜くことなく、少しだけ日輪刀を抜いた状態で、ヒューッと雪の呼吸特有の呼吸音と共に肺に、深く短い空気を送り込み、鞘から蒼色でガラスのように透き通った刃先の日輪刀を抜く。

 

 ── 雪の呼吸 壱ノ型 雪氷一閃(せっぴょういっせん)

 

 抜刀する速度を極限まで速くし、吹雪が目の前で吹いてるように私の姿が見えないまま、氷のように尖った雪で斬られたことにも気付かない速さで斬る技。

 雷の呼吸 霹靂一閃を参考に、私の強みである得意な抜刀を用いた剣術と脚の速さを活かして作った壱ノ型。

 

 スパッと頸を斬り、空中でその勢いのまま回転し、後ろで待機してる二人の後ろから飛びつこうとしてる鬼を目で捉え、私はまた深く短い空気を吸い込み、肺に空気を送って整える。

 

 今度は日輪刀を逆に頭を前に、後ろに切先が行くように持ち、左手を日輪刀の目貫に添える。

 一気に二人の後ろにいる鬼の頸を狙うため、重心を前に向けて落下しようとする重力を使って、鬼に向かって突っ込む。

 

 しのぶやカナエの技を見て思い付き、試しに刀の持ち方を変えてみたらという発想で出来た技で、雪の結晶を描くように一瞬で6回の斬撃を与える剣術。

 

 ── 雪の呼吸 参ノ型 六辺香(ろっぺんこう)

 

 四肢を切り飛ばして最後に鬼の頚を斬り、念の為伊之助くんと善逸くんを抱えて鬼から離れる。

 善逸くんが何やら叫んでいるが二人を地面に下ろし、斬られたことに対して怒り、もがいてる鬼に目を離さない。

 

 

「……じゃあね」

 

 

 鬼の身体が砂のように消えていくのを確認し、私は刀を振って鬼の血を飛ばし鞘に戻す。

 警戒を怠らず、辺りの気配を探るけれど鬼の気配は感じない。

 

 それに鬼の音がすると言っていた善逸くんは多分、聴覚が優れてるんだろうし、またすぐに鬼の気配に気づいた伊之助くんは感覚が優れてる。そんな二人も特に感じてない様子だから多分この辺りに鬼はいないだろう。

 

 

「なんだお前!消えたぞ!雪野郎すげぇ速えな!」

 

「…速すぎて見えないし、音が聞こえないし、人辞めてるだろ柱!」

 

「私は速さしか取り柄ないから柱の中でも最弱だよ?他の柱の方がもっと強いから」

 

「嘘でしょ!?凪仁さんが最弱!?怖すぎるだろ柱!!」

 

「君たち二人で分かりやすく言うなら、しのぶは鬼を殺す毒作ったし血鬼術を治す薬も作ってるお医者さんだよ?」

 

「イヤー!そうじゃん!しのぶさん綺麗な顔して凄い強いんだった!」

 

「おい!雪野郎!俺と勝負しろ!」

 

「馬鹿じゃないの!?柱と勝負とか!」

 

「勝負?」

 

「勝負!」

 

「嘘でしょ!?マジでやんの!?」

 

 

 猪の頭を被っているのに、キラキラした眼差しを向けられてるように思えるのは、さっきまでぱんけぇきを喜んで頬張っていた姿を知っているからか。

 

 柱を相手にここまではっきりと勝負しろという隊士はなかなかいないから、私はびっくりするけど何だか悪い気はしなかったし、それどころか可愛い後輩だなとらしくない事を感じてしまった。

 

 

 ── 凪仁は優しい子ねぇ。でも辛い時は我慢せずに泣いていいの、父さんと母さんが守るからね。ゆびきりげんまん、約束ね。

 

 

 もう随分と前の記憶だ。

 母は私が生まれ、少ししてから亡くなってしまったから親子の記憶はあまりないけれど、それでも兄と私を父と共に沢山愛してくれた人だった。

 

 私の髪色は兄と違い2色だ。

 宍色は父から貰った色だけど、毛先の灰色のような白のような色は母の色だし、私の目の色も母の色。

 

 そうだ、久しぶりにこれをやろう。

 伊之助くんはやったことがあるか分からないけれど、たまには昔を振り返るのだって悪いことじゃない。

 

 

「勝負はいいけど、伊之助くんの怪我がちゃんと治ったらかな。善逸くんもやる?」

 

「今じゃダメなのかよ」

 

「俺は遠慮します!!絶対負けるんで!俺すっごく弱いんで!」

 

「簡単に私が負けちゃったらそれこそ問題だよ〜。伊之助くん、今やって怪我が酷くなったら、またしのぶ達に怒られちゃうよ。ほら、小指出して、ゆびきりげんまんすれば忘れないから」

 

「しのぶと同じやつか!」

 

「ふふ、やったことあった?伊之助くんが怪我治ったら1回勝負。ゆびきりげんまん、約束ね」

 

「おう!やくそくな!」

 

「マジで約束したよ!伊之助の馬鹿!」

 

 

 目の前で騒ぐ二人に私は何とも言えない感情に浸る。

 二人は私を何だか凄い人のように言ってくれるけれど、私は10人いる柱の中で最弱の柱だ。

 

 一端に鬼を斬る強さだけで言うなら、岩柱の悲鳴嶼さんはもちろん、風柱の不死川くんや炎柱の杏寿郎、音柱の宇髄さん、水柱の義勇が強いし優秀だ。

 

 剣術なら天才と呼ばれる霞柱の無一郎くんがいるし、恋柱の蜜璃ちゃんも女性では珍しく体格が恵まれて天才の部類に入るし、蛇柱の伊黒くんは技の柔軟さや的確な洞察力に優れている。

 

 何より対応力、指揮力、隊士の治療など、あらゆる面で鬼殺隊を支えてるのは他でもない蟲柱のしのぶだ。

 彼女は体格が小さくて、鬼の頸を斬れないことを気にしてるけど、今の鬼殺隊を大きく支えてるのは間違いなく彼女。

 

 私なんて鳴柱がいない今だからこそ、柱の中で最速だと言って貰えているけれど、速さと得意の抜刀を取られたらもう何も残らない。

 

 兄さんならきっと義勇と並んで強い柱になっていただろうし、真菰ならもっと隊士との会話をとって上手く連携させ、怪我人を増やさない頼れる柱になってた。

 

 ── こんな私が柱を名乗っていいのだろうか。

 

 

「…凪仁さん?」

 

「あ、ごめんね、ちょっと考え事してて。また鬼が出たらあれだし、早く帰ろっか」

 

「おせーぞ!紋一!」

 

「はぁ!?お前、何一人で突っ走っちゃってんの!?俺たち今、日輪刀持ってないんだって!」

 

 

 賑やかな二人が走っていくのを私も鬼が出ないとは言えないため、追いかけていけばあっという間に見えてきた蝶屋敷。

 今日、しのぶが任務とは特に聞いていないから二人は怒られるってこと気付いてないのかなと思いつつ、逃げそうだったら捕まえればいっかと考えていれば、蝶屋敷の入口に佇む一人の影。

 

 あれは間違いなく、二人は気付いてないけど蝶屋敷で一番怒らせてはいけない人物だ。

 

 

「あらあら、善逸くんと伊之助くん。何処に行ってたのかしら」

 

「カナエ!雪野郎が甘いもんくれたぜ!」

 

「……ヒィィィ!!!」

 

「こら、善逸逃げちゃだめだよ」

 

「凪仁さん!?掴まないで!?聞こえちゃいけないぐらい凄い怖い音するんだって!イヤー!」

 

 

 耳がいいと言っていた彼が最初に気付きそうだと思っていたから、羽織を掴んで逃げないようにすれば、ひぃひぃ泣いて叫ぶ。

 そんな善逸くんを見て何かを感じとった伊之助くんは、ガチガチに固まったままカナエの方にゆっくり顔を動かす。

 

 

「ふふ、伊之助くん?」

 

「ゴメンナサイ」

 

「あらあら、何かいけないことをしたしたのかしら?お姉さん、ちょっと分からないわぁ」

 

「凪仁さん!!助けてください!!」

 

「いやぁ、無理だね〜。あんな怒ってるカナエ、私どころか、しのぶも対応できないかな」

 

「なぎちゃん?」

 

 

 カナエが昔の呼び方に戻ってるのを聞き取り、私の背中に冷たい汗が流れる。

 下手なことを言うと私も怒られそうだし、そもそも二人がサボってることを気付いた時点で連れて帰ってこなかったことを怒られるかもしれない。

 

 カナエからゆっくりと目を逸らし、私は他人のフリを決めるものの、カナエの後ろから同じように怖い顔をした般若様の姿が見えて、私はすぐに顔を逸らして片手で掴んでた善逸を前につきだす。

 

 

「どうぞ、お納めください」

 

「イヤー!凪仁さん!俺を生け贄にしないで!」

 

「ゴメンネ、ニゲテ」

 

「サボってすみません!逃げてごめんなさい!もう逃げません!許してください!!」

 

 

 そのあと笑顔を浮かべているけどお怒りなのが伝わってくるしのぶに、伊之助くんと善逸くんは問答無用で引っ張られていき、口に薬でも突っ込まれたのか大きな叫び声を善逸くんがあげていこう静かになった蝶屋敷。

 

 私は何とも言えない空気の中で、どうしようと考えていたら、カナエが溜息を一つ零し、私の手を握る。

 びっくりして顔を上げれば怒った様子はどこにもなくて、怒りよりも眉毛を八の字にし心配そうに私を見つめてくるものだから予想と違って驚いて声が出ない。

 

 

「…心配したわ」

 

「え?」

 

「ほら、お昼にあんなことがあったでしょう?だから、凪仁は自分の屋敷に帰るんじゃないかって思って」

 

「…やっぱ気付いてたんだ、空気悪くして出ていっちゃってごめん、本当は買い物したらすぐ戻ってくる予定だったんだけど。彼、どんな感じだった?」

 

「そうねぇ、どうして凪仁が怒ってたのか分からないって顔をしてたわ」

 

「そっか」

 

 

 彼からしてみれば、そう思うのも無理ないか。

 善逸くんの話だと彼は鈍感で、鼻は良くても相手の踏んで欲しくない部分にも踏み込んで首を突っ込みたくなってしまうような性格みたいだし。

 

 草履を脱ぎ、廊下を歩きながら私とカナエは、しのぶ達がいるだろう座敷に向かう。

 鬼の戦闘後、結の姿が見えないとは思ってたけど先に蝶屋敷に帰宅していたのか、庭でしのぶの鴉と突っ付き合ってる姿を見つめる。

 

 

「そういえば買い物って珍しいわね、何か買いたいものあったの?」

 

「いや、買いたいものって言うよりは次の任務の準備」

 

「準備?また遠方の任務に行くの?」

 

「ううん、杏寿郎との合同任務。無限列車での被害、しのぶから聞いてる?」

 

「えぇ、御館様が派遣した隊士全員と連絡が取れてないっていう話よね」

 

「うん。だから私と杏寿郎で七日後に列車で合流していくことになった」

 

「…そう、合同任務なのね」

 

「恐らく十二鬼月なのは間違いない。それに、私と杏寿郎が向かうってことは御館様の予想では多分だけど」

 

「…上弦ね」

 

「うん」

 

 

 座敷に通じる最後の廊下の前で突然立ち止まるカナエ。

 この任務の話は別に隠す気がない、元々はこの後皆に話そうと思ってたからここで話題を無理に切らなくてもいいのだけどと思い、カナエの顔を覗き込むように見つめ、名前を呼べばどこか不安げな瞳と目が合う。

 

 

「…カナエ?」

 

「…だめね、私だって柱だったのに貴方が上弦と戦うかもしれないって考えたら怖くて仕方がないの」

 

「無傷は難しいとは思うけど、生きることを諦める気は無いから大丈夫だよ?」

 

「…そうだけど」

 

「それにほら、私は杏寿郎のように強くないけど、杏寿郎が強いのはカナエもよく知ってるでしょ」

 

「…何言ってるのよ、貴方だって十分強いわ」

 

「私から速さと抜刀を抜いたら何も残らないって。上弦ノ弍にだって腕を切り落とすぐらいしか出来なかった」

 

「凪仁」

 

 

 先程までもの不安げな瞳に僅かばかりの怒りが混じる。

 不味い、またやらかしてしまった。

 昔からカナエの前で私が自分を下に見ることを極端に嫌うし、その度に私は怒られているのだけど、こればっかりは治らなくて私は気まづくなる。

 

 

「…ごめん、でも本当に死ぬつもりは無い」

 

「…わかってる、分かってるけど帰りを待つ側になって初めて感じることもあるのよ」

 

「……。」

 

「しのぶが任務に行く時も、カナヲが任務に行く時も、凪仁が任務に行く時も。ずっと同じ、十二鬼月と遭遇したらどうしよう。厄介な血気術にかかってしまったらどうしよう。キリがないことばかり考えちゃうのよ」

 

「…しのぶもカナヲも弱くないよ」

 

「えぇ、わかってる。 ……お願いだから、必ず帰ってきて」

 

「もちろん、お土産買ってくるから楽しみに待ってて」

 

 

 まだ兄さんと真菰と交した約束を叶えられていないし、カナエの仇も取れていないのにこんな所で死ねるわけが無い。

 

 泣き出しそうなカナエに私は安心させようと笑顔を見せれば、カナエも笑ってくれる。

 目尻から溢れてしまった涙が流れるけれど、私はそれを羽織の裾で軽く拭う。

 

 

「…お土産、期待してるわ」

 

「沢山買ってくる」

 

「無駄遣いはダメよ」

 

 

 無駄遣いなんてしませんって答えようとしたら、私たちが向かっていた座敷の障子が勢いよく開き、そこから出てきた少女は目を見開き、頬を膨らませて年相応に怒ってる。

 

 蝶の髪飾りを取っているけれど、服は隊服とカナエから譲り受けた羽織であるのを見る限り、湯浴みに行こうとしたけれど行けなかったのだろう。

 

 

「姉さん!凪仁さん!こんな所にいたんですか、アオイのご飯が冷めちゃうわ」

 

「あらあら、それはいけないわ」

 

「しのぶ、湯浴みに行こうとしてたの?」

 

「えぇ、善逸くんと伊之助くんがやっと捕まえられたので行こうと思ったんですがアオイに夕食が出来たって言われて辞めました」

 

「髪下ろしてて、その姿ってなんか新鮮だね」

 

「そうねぇ、可愛いわ!しのぶ!」

 

「もう!そんなのいいから早く座って!皆待ってるから!」

 

 

 照れてるしのぶの背中をカナエが押し、私はそんな二人を微笑ましく思いながら後を追い掛け、いつもの定位置の座席に座って皆で手を合わせて夕食を食べる。

 

 ぱんけぇきを食べたから、そこまでお腹すいていないと思っていたけど、鬼との戦闘もあったからか、いつも通り食べる事が出来た。

 

 

「しのぶ、私、七日後から任務でちょっと蝶屋敷離れるね」

 

「七日後ですか?」

 

「うん、カナエにはさっき伝えたんだけど杏寿郎と合同任務なんだ」

 

「……すみません、今、誰と合同任務と?」

 

「ん?杏寿郎だけど」

 

 

 皆が揃う時間というのは、この蝶屋敷ではなかなか無いため、さっきカナエとも話していたし、このまま話してしまおうと思い、ご飯を食べながら話せば何故かぎこちなくなるしのぶ。

 

 杏寿郎と私が合同任務を行うこと、しのぶからしたら珍しいことだろうか。

 確かに柱になってからはあまり組まなくはなったけど、柱になる前やなりたての頃はよく組んでいたのだけど。

 

 

「しのぶ?どうしたの?」

 

「……姉さん、その、凪仁さんが行く任務って無限列車じゃないわよね?」

 

「無限列車よ?前にしのぶが教えてくれたじゃない、派遣した隊士全員と連絡が取れないって」

 

「……どうしよう」

 

「しのぶ様、顔色悪いですよ?お疲れですか?」

 

「…いいえ、あの、ごめんなさい、凪仁さん」

 

「何が?」

 

「……私、御館様に推薦してしまったんです」

 

「推薦?」

 

「……その、竈門炭治郎くんと嘴平伊之助くん、我妻善逸くんを煉獄さんに会わせるという名目上で煉獄さんの任務に同行させたい、と」

 

 

 シンっと静まり返る蝶屋敷。

 カナエは口に運んでいた肉じゃがをお椀に落とし、アオイは啜っていた味噌汁を止める。

 すみちゃんときよちゃん、なほちゃんは不思議な顔をし、カナヲは笑みを浮かべてるけど、冷や汗をかきながら橋を落として微動だにしない。

 しのぶは顔面蒼白といった顔で、私から目を必死に逸らしてる。

 

 

「し、しのぶ。姉さんの聞き間違いじゃなかったらなんだけどね、炭治郎くん達も煉獄くんと凪仁の任務に同行する…ってことよね……?」

 

「…うん」

 

「……無限列車の任務に、ですか」

 

「……えぇ」

 

「どうしてそうなったのよ〜!しのぶ〜!」

 

「だ、だって!凪仁さんがいるなんて知らなかったのよ!竈門くんがヒノカミ神楽とか、火の呼吸とかを知ってるかって聞いてきて、でも私は知らないから一番知っていそうなのは由緒正しい家柄の煉獄さんぐらいしか浮かばなくて!」

 

「そうだけど!そうかもしれないけど!」

 

 

 アワアワと慌てるカナエと今にも泣きそうなしのぶが騒いでいるが、私は思わず頭を抱えてしまう。

 関わらない、関わりたくない、距離を置くと決めた相手に、何故こうも関わらなきゃいけない場面に遭遇するのか。

 

 もしかして、兄さんや真菰に試練とでも言われてるのだろうか。

 弟弟子に最初に味方しなかった私への仕打ちの一つだろうか。

 

 だが、必要最低限は関わると決めていた以上、任務に私情を持ち込む気は無いから上手く私が流して行けば、竈門炭治郎がどんなに鈍感であっても何とかなるだろう。

 

 

「しのぶ、大丈夫だよ」

 

「凪仁さん……」

 

「必要最低限は関わるって決めていたし、私は柱の一人。いくら何でも任務に私情を挟む気つもりはないから大丈夫だよ」

 

 

 しのぶはその言葉にホッとして、無事に帰ってきてくださいねと私に微笑んだ。

 

 さっきはあんな事を言ったけれど、絶対に電車の座席は離れた場所に座ろう。

 また変に話しかけられて、自分がボロを出してしまうのを避けるためだ。

 杏寿郎には悪いけど任務外の会話ばかりはそうも言っていられない。

 

 鬼と戦う前に心労でやられそうだと、冗談でも言えないことを思ったけれど私は今だけは忘れてアオイが作ってくれたご飯を食べ進めることにした。

 

 

 

 










「凪仁の髪色は綺麗だね!」
「義勇もそう思う?私も思ってたんだ〜!」
「俺の妹だからな、当たり前だ」
「真菰の髪色も綺麗だよ?」
「凪仁、真菰。椿油で手入れをしておきなさい」

宍色は父と兄、白は母の色。
家族が褒めてくれた自慢の髪色。




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