実力者だけど陰の実力者はもういるので陰には潜みません 作:なゆさん
僕は黒井次郎。普通の高校生だった男だ。
そんな僕だが、ある日ヘマをしてヤバそうな奴らに捕まってしまった。
結構暴力を振るわれ、心が折れそうになった。だが、そんな僕を救ってくれた人がいた。
「ヒャッハー!汚物は消毒だぁー!!」
そんな世紀末みたいな叫びを上げながらバールを振り回す同い年くらいの男の子。
その男の子の名前は影野ミノル。控えめに言って頭がおかしい、関わっちゃいけないタイプの人間だ。
だが、僕は影野君に助けられ、そして憧れた。憧れてしまった。その場で彼に共に行動したい事を伝え、家の両親を説得し、夜の自由行動を勝ち取った。昼は普段通り過ごし、夜は影野君と共に過ごす。体を鍛え、技を鍛え、かっこいいポーズを考え、暴走族に殴り込み、事件に首を突っ込んだりもした。
◆◇◆◇◆
そんなある日。
「……魔力だ。魔力がいる。」
影野君がそんな事を言い出した。
「どうしたの?いきなり変な事言って。まぁいつもの事だけど。」
「この前、次郎と温泉に行った時ひらめいたんだ。このままじゃ、いつまで経っても僕は核を超えられない。次郎と二人で陰の実力者を目指すようになってから、僕は飛躍的に成長した。君に教える事で自分の気づきになったし、君が凄まじい速度で成長してくれたお陰で同格との鍛錬という、最も成長しやすい環境に身を置く事ができた。でも、核を受ければ蒸発してしまう。だから魔力がいるんだ。」
影野君はいつも突拍子も無い事を言うが、今回はその中でもぶっちぎりでよく分からない事を言ってきた。
「魔力って……どうやって手に入れるの?」
「大丈夫!その為の鍛錬も考えて来たんだ!」
…碌でも無い事が起きそうな気がする。でも、この人は一度決めたら止まらないのだ。そして僕は、そんな頭のおかしい人に、一生ついて行くと決めたのだ。覚悟を決めよう。これから待ち受けているであろう困難にも、必ず逃げない覚悟を!
◆◇◆◇◆
それから、影野君との、魔力習得訓練が始まった。最初はめちゃくちゃな事だと思っていたのだが、もう最近は感覚が研ぎ澄まされている。目もチカチカするし、周りもグラグラするし、立っているのにフワフワするし、なのに時々急に倒れそうな程の重さを感じる。影野君も同じ感覚になっているそうだ。
コレは恐らく魔力を体が知覚し始めているのだ。そうに違いない。ホラ、今も頭を岩に打ちつけていたら向こうに光が……光!!
「影野君!!」
「ああ!!」
「「魔力だ!!!」」
二人で駆け出し、その光に手を伸ばして…………意識が途切れた。
◆◇◆◇◆
再び目覚めると、眼の前に見知らぬ美人さんの顔があった。そして僕は、コレが影野君と一緒に魔力について調べた際に見た、転生という物だとすぐに察した。
「オギャー!オギャー!」
感覚を研ぎ澄ませれば、周り、そして体内に魔力を感じる。ついに、あの長かった鍛錬の成果が出たのだ。
◆◇◆◇◆
そしてそれから10年後、僕、ジロ・クロイは大貴族クロイ公爵の期待の跡取り息子として、着実に成長していた。
転生直後は影野君の様に陰の実力者を目指そうと思っていたのだが、影野君の夢を丸パクリして、自分だけ叶えるのもどうかと思ったし、もし影野君も転生していたとしたら、主人公ポジや最強キャラポジがいた方がいいだろうと思うので、王道の強者ルートを選んだ。
影野君と鍛えた独自の格闘技に、持って生まれた莫大な魔力。そして小さな頃から必死に磨いた魔力操作。それら全てを遺憾なく発揮し、同年代に敵なしどころか、大人にも負けなくなった。学業面でも、知識面は早々にマスターし、研究等で成果を出した。前世の知識はズルだからあまり使わずに、前世ではあまり興味を持たなかった分野の研究やこの世界独自の分野の研究、例えばアーティファクト等の研究をやった。
巷では、文武両道で全ての分野において敵のいない最強の天才少年として名をはせている。
そんな僕だが、最近困った事がある。
「ジロ君!ジロ君はいらっしゃいますか?」
はぁ。今日も家に来たのか。
「ハァイ。いますから待ってください王女様方。」
この国の王女であるアイリス様とアレクシア様が最近家によく来るのだ。
この二人とは数日前、とある研究の発表で王城に行った時に会った。アイリス様は僕の剣の実力に興味があったらしい。僕との手合わせを望んできた。
結果、ボコボコにした。いくら王女とはいえ、試合なら手は抜かない。そしたら何故かその次の日から二人で家に来るようになった。アイリス様は僕に負けたのが悔しかったのか、僕へのリベンジに。アレクシア様は僕の事は嫌っているようだが、僕の剣に興味があるようだ。悪態をつきながらアイリス様との立ち合いが終わった僕に剣を教えるように命令してくる。
あのぉ、頼むんならそんなに嫌悪感を露わにしないで貰えますか?(怒)
正直、困っている。自分の時間が削れるし、変な噂が流れても困るし、何より王女様達の相手なんて精神的に疲れる。
ただ、二人共、今まで会った権力目当ての女の子達とは違い、僕の事を見てくれるので、友達のように思ってはいる。
ただ、来るペースを落として欲しいだけだ。
ただ、その願いは、アイリス様が魔剣士学園に行くまで叶う事はなかった。