実力者だけど陰の実力者はもういるので陰には潜みません 作:なゆさん
15歳になった。僕は、学術学園と魔剣士学園、両方からめちゃくちゃ勧誘され、悩みに悩み、魔剣士学園を選択した。そしたら何か、学術学園にも席だけ置いてくれる事になった。よほど僕が在校生であるという実績が欲しいらしい。
入学から既に7ヶ月。
僕は順調に学園生活を送っていた。だが、
「はあ!?アレクシアに…ゴホン、アレクシア様に彼氏ぃ!?」
そんな衝撃のニュースが伝えられた。僕が、もう素では敬称をつけなくなってしまったアレクシアは、今まで浮ついた話一つなく、告白されても振っていたと聞く。
学園では仮面を被っているが、彼氏になってくれた人にはちゃんと素で接しているのだろうか? 素で接しても変わらないから気に入ったとか? それともあの婚約者がイヤで抵抗のつもりか? 正直あのゼノンは裏がありそうだし、僕独自の調査で少し怪しげな投資をしている事が分かったので、友達として結婚したくないのは分かるが、彼氏役が可哀想だ。
……時間を空けて、様子を見に行くか。
◆◇◆◇◆
とんでもない物を見てしまった。
「あ、あのぉ、アレクシア様?」
「ジ、ジロ!?」
とりあえず声をかける。
「今、何してました? 多分その人彼氏ですよね?何で、金貨投げて取りに行かせてるんですか?」
「あ、アンタには関係ないでしょ!?」
「イヤ関係なくてもコレを見過ごすのはおかしいでしょ!?」
流石に彼氏に犬の真似事させるのはおかしい。確かにアレクシアはそっちの趣味がありそうな性格をしているが…あ!! まさか!!
「あ、そういうプレイならご自宅とか寮で―」
「違うわよ!!」
あ、違うのね。
「あのー。さっきから僕を無視して話さないでもらえるかな? もう帰りたいんだけど。」
アレクシアの彼氏(推定)の地味な男の子がそう言う。
「あぁ、ごめんね。僕はジロ・クロイ。君は確かシド・カゲノー君、だったかな?」
一応生徒の顔と名前は記憶している。確か普通の平凡な特に特徴も無い男の子だった筈だが。
「あ、ハイ。凄いですね。僕会ったこともない人に名前覚えられてた事ないのに。」
「一応全生徒の顔と名前は頭に入れてるからね。生徒会ではないけど。」
僕はそう言いながらアレクシアの方を見て、
「アレクシア様。僕は彼からこの事態の詳細を聞くので、帰ってもらってもよろしいでしょうか?」
「何? 私、邪魔?」
「隠蔽しようとしてきそうなので。」
「っ!! 分かったわよ!!」
怒って去っていくアレクシア。まぁ後で少し何かプレゼントして落ち着かせないとな。
◆◇◆◇◆
「さてと、シド君。君、何で実力を隠しているのかな?」
僕はいきなり剣に手を掛け、そう尋問する。先程、人避けのアーティファクトを起動した。誰かがこの中に入ると危険だから。このアーティファクトを抜けられるのは、魔力の扱いに長けた者のみだ。このシド君からはとんでもない強さを感覚で感じる。巧妙に隠しているが、少なくともアイリス様よりも強い。
「……フ、フハハハハハ!我が正体を暴くか。」
いきなりシド君の体を黒いナニカが取り囲み、衣服の形になる。
「へぇ。それが、本当の君か。」
赤い瞳をこちらに向け、右手にはいつの間にか黒い剣を持ち、その口を開く。
「我が名はシャドウ。陰に潜み、陰を狩る者。」
シャドウ。彼はそう名乗った。如何にも影野君が好きそうなポジションのやつ来たな。
――こいつに影野君の夢、陰の実力者ポジに相応しい実力があるのか。しっかり見極めてやろう。
「それで? 何で君は実力を隠して学園なんかに?」
「ふん。我だけではない。」
そして彼が指を鳴らす。すると、彼の傍らに黒いスーツを着た女の子が二人。黒髪の人間と、金髪のエルフだ。
「……アルファも来ていたか。」
「ええ。例の件で。」
「……そうか。」
何やら話しているが、隙はない。シャドウ程では無いが、残り二人も凄く強い。一番弱そうな黒髪の人間ですら、アイリス様にも十分勝てそうな実力を秘めている。少し分が悪いかもな。自分用のアーティファクトを持って来て良かった。
「悪いけど、全員倒して目的を吐いてもらうよ。」
手持ちの強化用アーティファクトを全て開放し、魔力を体に巡らせる。それを見た3人も、戦闘態勢に入った。
◆◇◆◇◆
誰も動かない。攻めという行為はリスクが伴う。高レベルの戦闘になればなるほどリスクは高くなる。だから、レベルが高い程こういう睨み合いは起きやすい。
だが、一瞬――何かの物音が聞こえ、張り詰めた空気が一瞬緩んだ隙に――動いた者がいた。
シャドウだ。一瞬で間合いの中へ入ってきた。無駄のない最小の動きに繊細な魔力操作。戦闘技能では明らかに僕と同格、魔力の扱いに関しては僕を上回っている。
剣と剣がぶつかり合う。僕の剣はアーティファクトで、魔力伝導率が120%。無駄なく魔力を通し、増幅させる。大抵の武器ならば容易く切り裂くのだが、
『キン』
相手の漆黒の剣に受け止められた。相手の剣も普通じゃない。となれば次は――
激しい打ち合いになる。斬りつけ、躱し、受け止め、躱し、斬りつけ……
他の二人に介入されないよう、凄まじい速さで動き回りながら、シャドウと剣戟を繰り広げる。速く決着をつけたいが、シャドウのレベルはほぼ僕と互角、というかミリ単位の差ではあるが、僕が負けている。アーティファクトの力で実力が上回っているのは僕だが、それがなければ他の二人を警戒して戦う余裕はなかっただろう。
「余裕だな、ジロ・クロイ。他の二人を気にしながら我と打ち合うとは。」
「嫌味かシャドウ!! 余裕が無いからこそだと分かってるくせに!!」
そうだ。この拮抗状態は他の二人の介入でいくらでも覆る。だから、介入してきても即座に反応できるように意識を割いているのだ。
結果として、状況はシャドウの方が依然として優勢だ。
「クッ!!」
シャドウの剣が頬を掠る。正直、今のは勘で躱した。
「! 今のを躱すか。」
シャドウの瞳に初めて驚きの色が見えた。一瞬見えた口元は、笑っていた。シャドウは楽しんでいる。この戦闘を。
激しさを増す攻防。傍から観れば、美しい花火のように見えるだろう。あちこちで火花が散り、黒い剣と銀の剣がきれいな線を描いて舞う。
搦め手のアーティファクトを使おうにも、そんな余裕は無い。そもそもそんな隙を見せた途端、あの金髪のエルフに殺られる。あのエルフ、僕達の攻防に目が慣れてきているようだ。目が僕を追えるようになっている。
速くトドメを刺しに行きたいが、状況が拮抗している上、アーティファクトも使えない。援軍も自ら断った。非常に不味い。
「考え事か? 動きにムラが出てきたぞ。」
腹の薄皮が斬り裂かれる。咄嗟に避けて魔力を腹に一点集中させなかったら、今頃内臓をお披露目していた。
「ッ!! 舐めるな!!」
初めて僕の剣がシャドウに届く。だが、シャドウの黒いローブは形状を変え、僕の斬撃を防ぎ切る。
だが、攻撃が届いた! 攻めるなら今しかない!!
「ウオオオー!!!」
間合いに入り、揺らいだシャドウに渾身の斬撃を加え―――背中に激痛が走る。
「グハッ!!」
「常に私達に向けていた意識が、やっとシャドウに集中したわね。勝負を焦った貴方の負けよ。」
背後からそんな声を聞きながら、僕の意識は闇に沈んでいった。
◆◇◆◇◆
「ふぅ。助かったよ。アルファ。」
私達の主、シド・カゲノーは、私の上司にあたるアルファ様にお礼を言う。
「どういたしまして。それにしても、まさかアーティファクトを使ってとはいえ、貴方と私とニューの3人を相手にあそこまで出来るなんて。それに貴方の実力を一瞬で見抜いた。最強の魔剣士、想像以上ね。」
「だよねぇ。アーティファクト無しでも僕と互角ぐらいはあるね。最悪相打ちになりそう。」
―なんという事だ。シャドウガーデンのトップ、最強の存在たるシャドウ様と、互角。それも他ならないシャドウ様の口からその事実が告げられる。
アルファ様も息を呑んでいる。現状、ジロ・クロイと教団の関係はまったくもって無いとの調査結果が出ているが、かと言ってシャドウガーデンの仲間でもない。
敵にも味方にもなり得る、いや、教団の規模やその権力を考えれば、意図せずとも敵対の可能性も高い、そんな男がシャドウ様と互角なのだ。私達にとっては衝撃過ぎる事実だ。
「アルファ――」
「分かっているわ。イータが作ったアーティファクトで先程の記憶を改竄すればいいのね?」
「え? ……あ、あぁ。」
我々シャドウガーデンは、潜入捜査をする機会が多い。その際、役立つのが今回使用するアーティファクトだ。脳に残った魔力の残滓からある時間の記憶を読み取り、それを消去、改竄出来る。ただ、使う際は相手を気絶させなければならないし、改竄する記憶によっては、かなりの時間を要する。戦闘で使えるアーティファクトではない。
「これからどうするの?」
アルファ様がシャドウ様に尋ねる。
「フ、この男の観察眼は相当な物だが、魔力の放出量や日頃の佇まい、そしてモブらしい演技さえあれば、次はバレない。」
「流石ね。」
「じゃ、そろそろ僕帰るねー。」
そう言い残し、去っていくシャドウ様。
「……私達も強くならないとね。」
シャドウ様の背中が見えなくなってから、そう呟くアルファ様。
「ハイ。私も力不足を痛感しました。」
今回、私はまったく活躍出来ていない。せいぜいジロ・クロイの気をほんの少し引いただけ。
――悔しかった。世界の闇を知り、あれ程血反吐を吐く努力をして、手に入れた力が、闇を知らず明るい物だけを見ている男にまったく通用しなかった事実が。
だが、だからって止まることは出来ない。我らシャドウガーデンは、陰を、世界の陰を、狩りつくさねばならないのだから。
オリジナル展開なので今後ガバるかもしれません。温かい目で見てね。
アーティファクトについては、作中には出てきてないです。勝手に作った。後悔は少ししている。ただあれしか展開の繋ぎ方が分からなかったんです。許して?