実力者だけど陰の実力者はもういるので陰には潜みません 作:なゆさん
申し訳ございません。
アーティファクト解析の依頼から数日後。
シェリーとの協力の甲斐あり、アーティファクトの解析は驚く程速く進んでいた。どうやら彼女の母が亡くなる前に研究していたアーティファクトと同系統のものである可能性が高いらしい。彼女がそれに気づき、彼女の母の遺した研究資料を持ってきてくれたおかげで、格段に解析効率が上がった。彼女の母もまた、相当優秀な学者だったのだろう。
「それにしてもシェリー。ご機嫌だけど、何か嬉しい事でもあった?」
「えへへ、分かりますか?実は、ジロ君に続いて新しくお友達ができたんです!」
「おお!良かったじゃないか!いい人なのかい?」
「はい!チョコレートっていう高級菓子を贈ってくれたり、色々相談にも乗ってもらったりして、ジロ君についてとか――」
「僕?」
「はうっ!な、なんでもないです!」
どうやら、余程嬉しかったようだ。最近のシェリーはずっとニコニコしていた。まあ僕以外友達居なかったみたいだし、いい機会だろう。もっと交友関係を増やしていってもらいたいものだ。恐らくその友達というのは学術学園の生徒だと思うし機会は少ないかもしれないが、仲良くしたいところだ。
◆◇◆◇◆
今日も今日とて解析だ。予定よりも何倍も早いが、既にアーティファクトの解析は殆ど終わっている。このアーティファクトの解析結果から教団の尻尾を掴めるかと言われれば微妙だが、教団がこれを使って何かをしようとしていたというのは分かる。その企みを阻止する為に、この結果は役立つだろう。
「ん?」
何だ?今、一瞬身体に違和感が……。
「シェリー。こっちに来てくれ。何かがおかしい。」
「へ?は、はい。」
念のため、シェリーを呼んでおく。なんだか、嫌な予感がする。気のせいならいいのだが―――
『ガシャン』
瞬間、窓ガラスが割れ黒い外套を纏った集団が数人入ってきた。そして、戦闘に立っていた男が名乗りをあげる。
「我らはシャドーガーデン……いや、シャドーガーディアンだっけか?まぁどっちでもいい。俺はレックス。【
「……すぐにバレる嘘をつくなディアボロス教団。僕は既にお前達について知っている。」
「―!!へぇ……残念だなぁ。秘密を知られてしまった以上、殺すしかねえじゃねえか。最強の男がこんな形で死んじまうなんてホントに残念だ。」
薄ら笑いを浮かべた男は、そう言って剣を抜く。
「お前程度で僕を殺す気か?」
「普通だったら無理だなぁ。……だが、ここでは条件が違いすぎる。そろそろ気づかねえか?自分の異変によぉ!!」
確かに何かが……っ!?魔力が、発動しない!!
これは――
「強欲の、瞳か……!」
「気づいたようだなぁ。魔力もねえ今のお前が、この人数の魔剣士相手に勝てるとでも?」
「……そうか。焦って損したよ。」
「あ?」
本当に強欲の瞳が使われているなら対処は簡単だ。魔力が使えないわけではない。吸い取られるのなら、吸い取られないようにより強固で細い魔力を練ればいい。
コレが魔力を吸い取るのではなく消失させるアーティファクトならヤバかった。
「速くこの騒動を鎮圧しなければいけないんだよ。悪いけど、すぐに終わらせる。」
「おいおい。状況が分かって―――」
男は、それから先の言葉を紡ぐことなく、首を断たれて崩れ落ちた。
「大丈夫か?シェリー。」
「ひ、ひゃい!」
……ちょっと腰が抜けてるみたいだな。
「失礼するよ。」
動けないシェリーを抱き上げる。
「ジ、ジロ君!?何を――」
「腰、抜けちゃったんでしょ?椅子に移動するんだよ。時間も惜しいし、速く強欲の瞳を止める為だ。我慢してほしい。」
「ひ、ひゃい!」
さて、その強欲の瞳だが、僕達が今解析しているこの制御用アーティファクトがあれば止められる。後半日もあれば完全に解析が終わるから、さっさと解析を終わらせこの騒動に幕を下ろすとしよう。
◇◆◇◆◇
外が薄暗くなってきた頃。
「よし、解析完了。」
シェリーの協力もあり、ようやく制御用アーティファクトの解析が完了した。
「さて、後はこれを大講堂に投げ入れるだけだ。地下通路を使おうか。」
「はい!早く捕まった皆やお義父様を助けないと!」
本棚の隠し通路を開き、大講堂へ直行する。
やがて薄暗い通路に明かりがさしている場所に出た。
「大講堂の上に着いた!シェリー!」
「はい!――えい!!」
シェリーが制御用アーティファクトを大講堂へ投げ入れる。
すると、そのアーティファクトはまばゆい光を放ち、強欲の瞳の効果を打ち消した。
魔力が戻り、反撃を開始する生徒達。相手側の動揺もあり、優勢に立ち回っている。僕はシェリーと行動しなければならないので、この調子で立ち回ってほしい。
――ただ
(何だ、あの男は?)
騒ぎの中、隙のない動きで何処かに向かっている。その進路にある物は―――
(アーティファクトを!)
叫ぶのを堪える。今敵に居場所をバラすのは悪手だ。
先程シェリーが投げ入れたアーティファクトを拾い、すぐに人混みに消える男。恐らく、強欲の瞳を持った男だ。そして、
(あの隙のない動きに歩き方。そして僕のアーティファクトが反応した。となれば、あの男は……)
もし、この予想が正しいものであれば、シェリーにはとても伝えられない。
「ジロ君?」
「――いや、なんでもないよ。少し考え事をしていただけさ。それより早く副学園長を助けよう。」
「そうですね!急ぎましょう!」
僕達が先に進もうとしたその時、
「見事だ。美しき剣を振るう者よ。」
生徒会長の傍に一人の男が立っていた。いつからいたのだろうか。今の今までその圧倒的存在に気がつかなかったなんて―――
「シャドウ!」
「…来たれ。我が忠実なる配下よ…!!」
シャドウの声に合わせ、天井のガラスを破り、黒い外套が舞い降りる。
「我らはシャドーガーデン。陰に潜み陰を狩る者。」
突如現れたシャドーガーデンは瞬く間に敵を殲滅し、生徒達を解放した。
「やはり、強い。末端の構成員ですら、一流の魔剣士だ…。」
世界に根を張るディアボロス教団に一勢力で張り合っているのだ。この程度の組織力は必要不可欠なのだろう。
「ジロ君、行きましょう。皆はもう大丈夫そうです。」
「あぁ。そうだな。」
……目的地に行けば嫌でも真実が分かる。もし、本当に僕の想像通りだとすれば、その時は―――
家族の為に懸命に目的地を目指すシェリーを横目に、僕は密かに覚悟を決めた。