実力者だけど陰の実力者はもういるので陰には潜みません   作:なゆさん

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忘れた頃に更新。
別にサボってた訳ではない。多分。


7話

「後少しだ。」

 

隠し通路の出口が近づいてきた。先程からあちこちで魔力の高まりを感じる。

……そして、魔力の反応が消えるのも。

恐らくはその大部分は襲撃犯達だ。シャドウガーデンという超戦力にあの練度では勝ちようがない。だが、生徒たちは別だ。

シャドウガーデンの目的はあくまで襲撃犯の殲滅だろう。生徒たちが大事ならばいつでも助けられた筈だ。あの練度の魔剣士達ならば、強欲の瞳の影響下であろうとも、魔力を練り上げる事ができただろう。確かに弱体化はしてしまうが、生徒たちを逃がす事ぐらいはわけない。それだけの実力があった。それなのにそれをしなかったのは、襲撃犯達をひとり残らず確実に仕留める為だろう。つまり、生徒たちの中に犠牲者が出る確率も低いとは言えないのだ。あの混戦の中、奴らが生徒たちを攻撃しないとも限らない。そもそもシャドウガーデンが来るまでに犠牲になった生徒もいないとは言い切れないのだ。むしろ可能性は十分ある。―――それなのに、自分は彼らを助けることはできない。

 

『ギリ』

 

悔しさに顔が歪む。僕のあの予想が正しいにしても正しくないにしても、ルスラン副学園長に会うのは、今の最優先事項だ。だから、ここでシェリーを護衛しながら進むのは間違っていない。間違っていない―――が、そのために皆を危険に晒しているのは事実だった。僕がいれば危険はないであろう場所に、まだ未熟な人々を置いてきてしまった。ひとえに、ここまで事態が大きくなるまでに解決できなかった、僕の実力不足のせいだ。

 

「……ジロ君?」

「ああ、ごめん。少し考え事をしてただけだよ。」

 

自分を責めるのは後だ。今は一刻も早くルスラン副学園長を――っ!!

 

「シェリー、急ごう!!」

「え!?」

「強欲の瞳の魔力が使われている!! 犯人がこの先にいるんだ!!」

 

そう言って、シェリーと一緒に駆け出す。

この距離ならすぐさま目的地へ行くのは簡単だが、戦闘能力のないシェリーをおいてはいけない。これ以上はスピードを上げられないのだ。

 

「もうすぐ!」

 

ドアが見えた。

 

「もうすぐ――!」

 

すぐ目の前にドアが――

 

『――世界中の罪をここへ持ってくるがいい。その総てを引き受けよう。それでもただ、我らは我らの為すべきことを為すだけだ。』

 

ドアを開けた瞬間、目の前に広がっていたのは、隙のない佇まいのまま、何かを話している漆黒一色の姿の男シャドウと、膨大な魔力を身に纏い、剣を構えるルスラン副学園長だった。

 

「お義父様!!」

 

シェリーが部屋に入ってくる。そして――

 

「ガハッ――!!」

「なっ!?」

 

一瞬。僕の気が逸れた瞬間に、シャドウは強欲の瞳ごと、ルスラン副学園長の心臓を貫いていた。

 

「お、お義父様あああーーー!!!」

 

シェリーが叫びながらルスラン副学園長に駆け寄る。シャドウはそれを横目見ながらも、何もせずにいる。そして、

 

「……それでいい。お前は何も、知らなくていい。」

 

ひっそりとそう呟いた。

 

「シャドウ…お前は、まさか―――」

「我らは影に潜み、影を狩る者。それだけの為にある者。」

「……シャドウ、僕の屋敷に来てくれ。僕は、世界の秘密を知っている! 君と協力すれば、この世界の闇も打ち払える筈だ!」

「――笑止。我らはシャドウガーデン。光の元に立つ事などあり得ん。」

「な!? 僕ならば、シャドウガーデンをあらゆる面でサポートできる。君たちの情報を得られれば、腐っているこの国を今すぐ変えることだって――」

「くどい。我らは影とともにある。」

「……そうか。ならこちらも力ずくだ。君にはこの事件の参考人として、僕の屋敷に来てもらおう!!」

 

アーティファクトの剣を突きつける。すると、彼もまたスルリと構えて、

 

「フッ。――来い」

「行くぞ!! はあああ!!」

 

最初から最高速。シャドウの意識を刈り取る為、アーティファクトを全開放した一撃を放つ。だが、

 

「荒々しいな。だが、捻りがない。」

 

簡単に受け流される。浅く踏み込んだお陰でカウンターをくらうことはなかったが、やはりそう安々と倒せる相手ではないか。

 

「繊細さに欠ける初撃……焦っているな。そこの女が原因か?」

 

シャドウの視線の先には横たわるルスラン副学園長を必死に呼び続けるシェリー。

 

「ハッ!!」

 

その問いかけを無視し、シャドウに斬りかかる。

そして、超高速の斬りあいとなった。

燃え盛る炎は風圧で吹き飛び、互いに数歩程度しか動いていないのにも関わらず幾重にも火花が飛び、剣同士がぶつかる音が響いた。

 

「ふっ! はっ! やあああ!!」

 

押しているのはこっちだ。僕がアーティファクトによって強化されている事で生まれた力の差が、そのまま今の戦況に表れていた。

こちらの剣閃を、シャドウは全く無駄のない動きで躱し、受け流すが、シャドウは防戦一方で攻撃に移れない。

単純にスピードやパワーで圧倒し、シャドウに反撃を許さず攻めたてる。

 

「…………。」

 

やがてシャドウの足元で斬撃が空を切り始め、シャドウの頬には軽い切り傷が刻まれていた。こちらの飽和攻撃は、シャドウの反応速度を上回っていた。

――だが、

 

「…………。」

 

シャドウの赤い瞳は、僅かも揺らぐことなく、その表情は冷静そのものだった。静かに、ただ最適解を選び続けていた。

 

「……シャドウ。このまま戦っても結果は目に見えている。君だって分かっている筈だ。潮時だろう?」

 

剣戟が止まる。剣の音が止み、互いの息遣いのみがこの空間に響く。シェリーは先程から強い魔力にあてられて気絶してしまっていた。

 

「――確かに潮時だ。」

 

シャドウが呟く。

 

「なら――」

「来い」

 

シャドウが誰かを呼んだ。瞬間――

 

『キン』

 

金属音があたりに響く。

 

「君は、あの夜の…!」

 

僕を攻撃してきたのは、ゼノンの事件の時に出会ったあの金髪エルフだった。

シャドウ程ではないが、よく洗練された身のこなし。かなりの実力者だ。僕は警戒して構えをとるが、

 

「――ここは引く。また会おう。光の道を歩む者よ…!」

「……さようなら。」

 

シャドウはその金髪エルフを連れて、去っていった。こちらとしても、今シェリーの元を離れるわけにはいかなかったので、見逃すしかなかった。

 

「……まさか、アーティファクト有りの状態で捕まえられないなんて」

 

シャドウの実力を甘く見ていた。恐らくは、アーティファクト無しの状態ならば勝てる確率は3割程度だろう。相打ちまでなら持っていける自信はあるが、勝てるかと言われたら判断ができない。

魔力無しの素の身体能力は恐らく僕の方が強い。それに、戦闘技術に関しては若干あっちの方が洗練されているが、その辺は才能で補えるのでまったくの互角と言っていい。しかし、シャドウは魔力制御が抜群に上手い。まるで長い間人体実験でもしていたかのような、緻密で、流麗な魔力運用。そして王都を破壊したあの一撃。僕にはとうてい真似できない芸当だ。

 

「もっと、力をつけないと。」

 

シャドウの存在、そしてそのシャドウがここまで慎重に立ち回らなければ立ち向かえない程強大なディアボロス教団。

このままでは駄目だ。自分を超えなければ――

 

こうして決意を新たにしつつ、シェリーを安全な場所へ運ぶのだった。

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