本編 ──曹柱石の女──
──『
──
ああ、彼女だよ彼女。『星野アイ』。今じゃ大成功を収めている「女優」──いやああいうのは「マルチタレント」っていうんだったか──まあこんな言葉の定義みたいなものは、どうだっていい。
数年前、とある「企画」のために取材をしたんだ。彼女にね。
当時から、『一番星の生まれ変わり』だなんだと騒がれているが、ぼくには理解できなかったね。せいぜいが「ショーケース」に飾られた「宝石」っていうのが関の山なんじゃあないかと思ったもんだ。
──
ああ嫌いだね。ああいう無自覚に周囲の人間に迷惑をかけて、それを気にもしないような奴は、この
──二〇一X年。
露伴は東京のとあるライブ会場に来ていた。
これから取材をするアイドルのことをより深く把握しておこうとライブに足を運んだ露伴は、ここに至るまでの経緯を思い出しながら、ライブが始まるのを待っていた。
*
──S市内のとあるカフェにて
「「アイドル」ものの「短編」ねぇ……」
露伴が不機嫌そうに呟く。
「やっぱりィ、露伴先生は
露伴の担当編集者──泉京花が、彼女にしては珍しく申し訳なさそうにしながら、そう返す。
「
露伴も、「彼女にしては珍しいな」と思いつつ、続ける。
「ぼくにかかれば「アイドルもの」の一つや二つ簡単に書き上げて見せるさ。それだけじゃあない。「学園ラブコメ」だろうが、「ギャグもの」だろうが何の問題もない」
一息ついて露伴は続ける。
「「問題」はそこじゃあないんだ。君、その前に何て言った?」
「何って、今の『アイドルブーム』に乗っかって、「アイドルもの」を書いて欲しいって……交通費とか取材費とかはこっちで持つからって……編集長が」
それを聞いた露伴は、立ち上がって一気に捲し立てる。
「そう! そこなんだよッ! そこなんだぼくが気に入らないのはッ! いいか? 今の「アイドルブーム」と、この『岸辺露伴』のネームバリューを組み合わせて売り上げを伸ばそうってのは、まだ許せるさ! ぼくも「プロ」だからなァ……そっちが頭下げて頼むってんなら、「客寄せパンダ」になるくらいどうってことないさ。だがッ!
「そんなこと言われたって……」
泉のしおらしい姿を見て、露伴も態度を和らげる。
「まあ、君が「上」の「考え」を伝えてるだけなんだってのは、ぼくもわかるからな。話くらいは聞いてやるよ」
「ほんとですかァーー!」
露伴の返答を聞いた泉は、持っていたスマホでとあるライブ映像を見せながらこう続ける。
「露伴先生が「リアリティ」を重視するっていうのは、編集部も理解してるのでェ……「取材先」はもうほとんど決まってるみたいなんですゥ……ほら、この子たち『B小町』っていうんですけどォ」
露伴もそのスマホを覗き込む。
──
動画を見た露伴はそう感じた。
瞳の中で光る星に、とある一家と共通する
「……いいよ。その「仕事」引き受けてやる」
気づけば、露伴はその仕事を受けていた。
「ええェェェーー!! さっきまであんなに嫌がってたのに、そんな急に決めちゃっていいんですかァ?」
「ま、今立て込んでる仕事もないし、今後何かの「ネタ」に使えるかもしれないからな。それに……」
(それになんだか面白いことが起こる『予感』がするからな‥…)
*
「本日は「B小町」のお三方にお越し頂きましたー!」
そんな声によって、露伴は現実に引き戻される。
やはり嘘くさい女だ、とアイを見た露伴は思った。多少目を引くところはあるが、気にするほどの事でもなかったか、と考えながらライブをぼんやりと眺めていた時だった。前方がやけに騒がしいことに気づく。
「なんだあの赤ん坊、「ヲタ芸」打ってるぞ!!」「乳児とは思えない「キレ」だ!!」そんな声が聞こえてくる。
(
露伴はその光景を見て衝撃を受ける。
(なんだッ! なんなんだあれはッ! いやわかる! 『乳児がヲタ芸を踊っている』というその現象自体はわかる! 問題は「そんなことが起こり得るのか」ということなんだ!)
「英才教育だなー」なんて声も聞こえてくる。
(
「何あれすっごー……」そんな声もステージ上から聞こえてくる。
(いや、すごいですまして良い事じゃあないだろう、あれは! なぜ誰も「アレ」に突っ込まないんだッ! いやぼくがおかしいのか!? 何者かの「攻撃」を受けているのかぼくはッ!)
露伴はさらに焦る。
(『アレ』を使うか? いやしかし、ここはあまりにも人目につきすぎるッ! だが──)
そんな事を考えていた露伴がふとステージを見上げた時だった。そこには、嘘くさい笑顔しか見せないと思っていたアイドルがいるはずだった。
(そんな「顔」もできるのか……)
しかし、そこにいたのは本当の笑顔を見せるアイドルだった。
(なかなか「
*
ライブ後、
(ま、なかなか「
そんな事を考えながら待っていた露伴だったが、「流石に待たされ過ぎじゃあないか?」とイライラしだす。そうなると、さっきまで穏やかだった内心とは一変して、急に些細な事にも頓着しだす。
(しかし思い返してみれば、「
そんな事を考えながら、露伴は待つ。取材を始める予定時刻はとっくに過ぎていた。
(まだ待たされるのか?もう「予定の時間」はとっくに過ぎてるんだぞ……)
露伴はさらに苛立ちを募らせていく。
(まだなのか? オイオイオイオイ……まさかちゃんと「アポ」とってなかった、なんて言うんじゃあないだろうなァ……)
一応女性の部屋とも言えるからと我慢していたが、良い加減ドア蹴破って入ってやろうかと、露伴がそう考えていた時だった。
「ああ露伴先生!! ずいぶん待たせてしまったみたいですいません!」
中から、金髪でサングラスをかけた男が現れる。
「ウチの『アイ』がなかなか準備、終わらせなくて……あ、自分こういうものです」
男が差し出した名刺を受け取った露伴は、中にズカズカと入っていく。そこには『株式会社 苺プロダクション代表取締役 斎藤壱護』と書いてあった。
「全く……どれだけ待たせるんだ。あと10秒遅れてたら「ドア」ブチ破って入ってたぞ……」
そんな事をぶつくさ言いながら、用意されていた椅子に
「あなたが岸辺露伴?」
彼女は言った。
(アイが初対面の人間の「名前」を間違えないなんて……)
「オイオイ……オイオイオイオイ……さんざん待たせといて何なんだその態度はァ。普通、「さん」か「先生」位つけるだろう……」
「『ピンクダークの少年』だっけ? 一応読んだんだけど、あんまり面白くなくて1巻の途中で読むのやめちゃった」
そんな露伴の態度など意にも介さず彼女は続けた。
「なッ……1巻の途中で読むのやめたって、それ読んだって言わないだろう……」
こういう類の人間には自分の作品はあまり読まれないだろうな、と考えていた露伴だったが、まさか1冊も読み終える事なく
(というか何なんだこいつは……さっきは少しはマシな「顔」見せたと思ったが、また『嘘』だらけの顔に戻ってるじゃあないか……)
「まーまー、そんなことは置いといて。「取材」でしょ! 何聞くの? 私、漫画家の人から取材受けるの初めてなんだよねー」
露伴の言葉などなかったように彼女は喋る。
「
既に疲れた態度の露伴だった。
この女とは
「最初に聞きたいのは──」
そして微妙な雰囲気で始まった取材は数分後──、
「オイオイ何度言ったらわかるんだッ!! ぼくが聞きたいのはッ! そんな「嘘」や「ごまかし」なんかじゃあ断じてない!! ぼくは『本心』が聞きたいんだッ!! じゃないと「作品」に「リアリティ」がでないじゃあないか!」
「だから何度も言ってるでしょ!! ちゃんとほんとのこと話してますって!!」
──大喧嘩に発展していた。
「この岸辺露伴をなめるなよッ!! その辺の『ドルオタ』どもは騙されるかもしれないがッ! この岸辺露伴にそんな「嘘」や「おべんちゃら」が通用すると思うなよ!」
「私の「ファン」のこと悪く言わないで! それにさっきから黙って聞いてれば、『この岸辺露伴』『この岸辺露伴』って一々うるさい!」
「こいつッ! 言うに事欠いて、ぼくの「喋り方」まで批判し出したぞ! 嫌だねェ〜〜。相手に「図星」突かれて論点ずらすヤツってのはさァーーッ!」
「〜〜〜〜〜〜〜ッ!!」
そこまで言って、二人は一度言葉を発するのをやめた。二人とも肩で息をしていた。
(あの『アイ』がここまで『怒り』の感情を表すなんて……)
アイは顔を真っ赤にしていた。怒りのあまり、涙を流してもいた。
斎藤もB小町の他メンバーも驚いていた。全員──いや、露伴を除く全員が初めてアイの本音を聞いた気がした。アイすら、初めて自分の本心を自覚した気がした。アイは最後の言葉を尻目に、ふと我に帰って自分の言動を振り返る。
しかし、露伴はまだまだ捲し立てる。空気など読まない。
「だいたいなァーー。さっきから君、『愛』『愛』『愛』『愛』ってバカのひとつ覚えみたいに繰り返してるけどねえ。「愛」ってのが何なのか……ほんとにわかって言ってるのか?」
「え……」
「どうしたんだ、鳩が豆鉄砲食らったような顔して……もしかして自分でもわからずに使ってたっていうんじゃあないだろうなァ……『愛』」
「そんなこと言われたって……愛されたことなんてないし……」
「はあァァァーーーッ!?」
それを聞くと、露伴の落ち着いてきた怒りが再燃する。
「君ィ、そんだけ周りに愛されといて
「愛されてる……」
「まさか気付いてなかったっていうのかい。そんだけ好き勝手やっときながら、芸能界で生き残ってんだ。多少なりとも周りに愛されてなきゃあ、とっくに干されてるよ君。というかねェ……ぼくほどじゃあないけど君もそれなりにいるだろ、
「それって愛なの?」
「はぁ……このやり取りまだ続けるのかい」
ぼくは取材しに来たんであって、説教垂れてやるためにきたんじゃあないんだがなァ……
呆れたように露伴は続ける。
「良いか? 愛ってのはなァ……古今東西、いろんな宗教で分割されて考えられてるモンなんだ。例えば、キリスト教では「家族愛」「性愛」「友愛」「真の愛」ってな具合にね。ま、これはウィキペディアの受け売りだがね」
「私バカだからわかんないよそんなの……」
アイが弱々しく呟く。
「あのなァ……ぼくが言いたいのは
出されていたお茶で口を湿らせ、露伴は続ける。
「まあここまで色々言ったが……君、『
「………………………」
「口ではなんだかんだ言いながら、愛の形を一つに限定して受け入れないようにしてんだよ君は」
「………………………」
「まあ? 君にも辛い過去やら何やらがあるんだろうさ……理解はできる。納得はできんがね。だがなァ──」
そこまで言った露伴は、
「
「………………………」
取材をする空気でもなくなったな、と感じた露伴は席を立つ。
「ま、あんまり良い取材じゃあなかったが、今後のネタに繋がりそうな
ドアの前まで歩いた露伴は、誰も言葉を発しないのを良い事に立ち止まって言う。
「『自分を乗り越える』ってのは大変な事だ。何せもっとも『むずかしい事』だからな。特に君の場合、「自分の精神」に関する事だから、余計むずかしいだろうよ。「何から手をつけたら良いか、サッパリわからない」って感じだろう……」
露伴は続ける。
「ま、君は「常識」って奴が欠けてるからな。勉強するって意味でも、「本」を読んだりする事から始める、ってのも悪くないと思うよ。知識ってのは大事だしな。まあ? いきなり全部活字ってのも大変だろうからなァ……『
露伴はそこまで言うと、振り返ってニヤリと笑う。
「『
そう言って露伴は、意気揚々と楽屋を後にした。
この後、
*
「ククッ……」
楽屋を後にした露伴はホテルへの道すがら、さっきの出来事を思い出して笑いだす。
「カッハッハッハーーーッ!! いや最高の気分だね。周り騙せてると思ってる
露伴は最高に気分が良かった。
「大体なあ、高々17年──いや、16年だったか? まあいい──しか生きてないヤツが、何一丁前に「人生」わかった気になってんだって話だ。まあ? ぼくは
ここまで気分がいいのは久しぶりだった。それが理由だったのかもしれないし、もしかしたら別の理由があったのかもしれない。
とにかく、露伴は背後から忍び寄る
「お前ェ……
男が露伴の背にナイフが突き立てようとする。
「グッ!」
すんでの所で気付いた露伴が、振り向きながら左腕を盾にする。
(な、何だ
露伴は何とかして男を引き剥がそうとするが──
(何だこの「パワー」はッ! こんな痩せ形の男の、どこにこんな「パワー」があるって言うんだ! これが「火事場の馬鹿力」ってヤツなのかッ!!)
「いいよなァ……成功した
(コイツ! さっきのアイドルの「厄介ファン」ってヤツか! 言動がめちゃくちゃだッ! だが──)
「この岸辺露伴をなめるなよッ……『ヘブンズ・ドアー』ッ!!」
露伴が叫びながら右手をかざすと、
「はあッ……! はあッ……!」
息を荒げながら、露伴は男を見る。
男は、顔が
「『人間を本にする』。そういう能力がぼくにはある。名を『ヘブンズ・ドアー』といい……本にした人間の「経歴」や「本心」を読むことができる」
露伴は本になった男に近づきながら、誰にともなく説明する。
「そうそう使うもんじゃあないんだ
息を整えて露伴は続ける。
「君はぼくを刺したんだ! このぼくをだ! なら「こうなるに至った経緯」ぐらい見たって許されるよなァ!」
そう言いながら露伴は、本のページをめくり始めた。その手は「
「リョースケ……何だ? 苗字がない? そんな馬鹿な……いやそれを考えるのは
露伴はさらにページをめくる。
「む、ここか……なになに? 「アイ」に「子供」がいるとわかった。許せない。ファンに好き好き言っときながら、自分は他の男とガキつくりやがって。オイオイ、えらく急だな……情報源はどこなんだ? 「男子中学生」ィ? オイオイオイオイ、何でそんな簡単にガキの言うこと信じるんだ全く……」
こっちは危うく死にかけたんだぞ、と呟きながら露伴がページをめくっていると、内容がおかしくなってくる。
「この辺のページから、さらに輪をかけて内容がめちゃくちゃだな……ほとんど「許せない」しか言ってないじゃないか」
そう言って露伴が読み進めていくと──
「な、なにィーーーッ!! 何だこれは! ページが黒く塗りつぶされて…… いや違うッ! これは「黒く塗りつぶされている」んじゃあない!
このままではもっと恐ろしい何かに取り憑かれるのではないか。
そこには、そう感じさせるだけの『
何だかとんでもない
「………………」
しばらく──と言ってもほんの10秒ほどだが──そうしていると、ハッと我に返る。
このままではいけない。
そう考えた露伴はある
「「アイへの関心をなくす」「自首した後、この数年間のことを全て話す」。ま、こんなもんだろう。にしても、全く酷い目にあったな……いやこんなことをしてる場合じゃあない」
そう言って露伴は、応急手当てを始めるのだった。
──
──
まあ『人間の怨念』ってヤツなんだろうなァ……あれは。行き着くとこまで行った人間は
──
全く……どっから仕入れてくるんだかねェ、「そういう情報」。
ま、でも最初に会った頃と比べりゃあ、随分「まし」になったんじゃあないの、彼女。
妙に馴れ馴れしいのは変わってないけどな。
──『
だがやめたよ。
──
──
『
カミキヒカルは(加速した世界)においてきた。はっきり言って、ここから先の戦いにはついて来れそうもない。
初めて書いたので、なんか間違ってても「優しく(ここ重要)」教えてね。あと特殊タグめんどすぎワロタ。
感想評価待ってます。
ちなみに原作知ってる?
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どっちも知ってる
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推しの子だけ
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岸辺露伴だけ
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どっちも知らない