マリアナ海域
影の艦隊の航空隊が上空を飛行している。十隻の空母十一型から発艦した戦闘機、艦爆、艦攻をあわせた大編隊だ。
その下方の海上では、必死に対空戦闘を行いながら撤退を続ける第一機動艦隊の姿があった。
「まずい…!このままじゃ艦隊が全滅する…」
瑞鶴が姉である意識を失っている翔鶴を抱えながら影の彗星の急降下爆撃を必死に回避していた。周りでは他の艦娘たちにも影の航空隊が襲いかかっている。
すでに旗艦大鳳が影の艦隊の潜母700型の雷撃により大破、航行不能の状態に陥っている。翔鶴も雷撃を受け、大破航行不能の状態となっている。
「…ず、瑞鶴…。大丈夫…?」
抱えられていた翔鶴がどうやら意識を取り戻したようだ。瑞鶴へ問いかける。
「翔鶴姉!?大丈夫!?」
「私は大丈夫よ…。でもこの状態じゃまともに反撃できないわ…」
翔鶴の言う通り第一機動艦隊の正規空母は二隻が行動不能、唯一行動可能な瑞鶴でさえ翔鶴をかばったままではまともに反撃できない。
「翔鶴姉!今は撤退することだけを考えよう!」
「っ…。そうね。分かったわ。瑞鶴、お願いね。」
「分かったわ翔鶴姉!」
二人はできるだけ身を寄せ合いながら、高速で海上を航行する。影の航空隊はまだ攻撃を続けているが、事前に瑞鶴たちが発艦させていた熟練妖精の駆る烈風により少しずつ撃墜されていった。
『コチラ艦爆第一飛行隊。敵艦ハ全力デ現海域ヲ撤退中。攻撃ヲ続行中ダガ損害拡大中。』
影の艦隊の彗星艦爆が旗艦の空母十一型へ打電をする。連絡を受けた空母十一型は弓をおろして返信する。
「分かった。全機撤退だ。これ以上深追いする必要はない。」
『了解シタ。』
司令を受けた影の航空隊は攻撃を停止。そのまま反転し空母十一型へと帰還を始めた。
「!?敵機が撤退していく…。」
瑞鶴がつぶやく。
「諦めたみたいね。それか戦果が十分だと思ったのかも…」
翔鶴も瑞鶴へ返事をする。二人はそのまま影の航空隊が帰還していく様子を見ていた。
艦隊が再集結するのにそれほど時間はかからなかった。全体的な被害は空母二隻大破、軽空母一隻大破、その他巡洋艦、駆逐艦中破小破多数だった。それに比べ影の艦隊の損害は軽微だった。
この戦闘の末、空母大鳳、翔鶴は艦娘としての力を失い、作戦終了後に除隊していった。これによりさらに影の艦隊の機動部隊との溝が広がっていったのだった…。
それから三日がたった。ついに大規模作戦、”捷二号作戦”が発令されようとしていた。三大鎮守府の精鋭艦隊が第一遊撃部隊を編成。第一部隊、第二部隊、第三部隊からなりそれぞれがレイテ湾突入、スリガオ海峡突破を目的としていた。
呉鎮守府 工廠
「十六夜、艤装の最終確認は大丈夫か?」
「うん。提督。問題ないよ。」
出撃の準備を進める第七艦隊の十六夜に提督は声をかけた。
「そうか。レイテ湾は敵潜水艦の潜伏が多い。対潜が高いお前でも十分に気をつけろ。」
「分かってるって。私は大丈夫。あの時みたいなヘマはしないから!」
十六夜が笑顔を作って提督の顔を見る。提督も少し顔緩めて笑顔を作った。
「出羽さん、一緒に頑張りましょうね。」
「はい、大和さん。」
呉鎮守府では第一遊撃部隊の主力を務めるために大和、出羽の編成が行われ、数少ない正規空母、瑞鶴を旗艦として蒼永、大永を新たに組み込んだ機動部隊を編成。三大鎮守府の全勢力を上げてフィリピンを守り抜く。これが三大鎮守府に課せられた大きな義務だった。
東京都 霞ヶ浦
海軍省
「元帥!ガキの寄せ集めのような鎮守府になぜこのような大切な作戦を任せるのですか!?」
「その通りよ!大した歳でもないくせになぜ歴戦の提督である私達にこの作戦を任せてくれないんですか!!?」
大会議室では各鎮守府の提督たちが元帥のことを詰め寄っていた。どうやら歴戦の提督(自称)である自分たちをさておいて、三大鎮守府の若手提督に捷二号作戦を任せたことが気に入らないようだ。
「とりあえずもう決まったことだ。これから変更は…」
「逃げるつもりですか!?この国の運命がかかってるんですよ!!」
「その通りよ!!今からでも作戦を中止しなさい!!」
提督たちの詰め寄りに流石の元帥も言葉が詰まる。どうすればいいものか。元帥が頭を抱えた。
その時
「ジジババは黙ってくれないかなぁ〜?」
大会議室中に大声が響いた。提督たちは声のした方を一斉に振り向くと、そこには二階にいるはずの”軍令部総長”が立っていた。
「ぐ、軍令部総長!?なぜここに?」
さっきまで元帥に楯突いていた提督たちが一斉に青ざめる。軍令部総長が左腰に携えた軍刀に手をかけながらゆっくりと提督たちに向けて歩いてくる。
「元帥を困らせてんじゃねぇよな?作戦は作戦だ。いまさら変更する気はない。」
「しっ、しかし!あのガキどもでは…」
「ガキども…、だと!?」
急に軍令部総長がキレる。腰の軍刀がカチッ、と音を立てる。提督たちが「ひぃ!!」と短い悲鳴を上げる。蒼海たちは知らないのだが軍令部総長はキレるとかなり怖いのだ。
「才能の無いカスたちに物を言う権利はない!!艦娘を使い捨ての道具としか思っていないお前たちはなおさらな!!」
「で、ですが…」
「じゃあ今までお前らが轟沈させた艦娘の数を言ってみろ?」
「そ、それは…」
「言えるわけねぇよな!艦娘よりも戦果、栄光、報酬を大事にしてるんだもんなぁ〜。そんなクソ提督共を大規模作戦に参加させる?ハァ!!笑わせるなぁ!!海軍にお前らみたいなのがいるから犠牲が増え続けるんだよ!!もう少し真面目に世の中のことを考えろよな!!自分の幸せはその後に考えろ!!」
軍令部総長はそう吐き捨て、扉を叩きつけて大会議室を後にした。大会議室内にはしばらく静寂に包まれていた。
「ふぅ〜。久しぶりにイライラしたわ〜。さて、蒼海君たちは大丈夫かな〜。」
先程の剣幕がまるで嘘のようにいつも通りヘラヘラした顔で軍令部総長は自室へと向かっていった。その様子を霞が壁から覗き込んでいた。
「なによ。ちゃんとできるんじゃない。」
霞は軍令部総長の先程の有志を目にした霞は、少し頬を緩めて笑っていた。
舞鶴鎮守府
「みんな!準備はできてる?」
「「大丈夫です!!」」
舞鶴鎮守府でも加藤は艦娘たちの準備確認をしていた。
「みんな。これだけは約束してくれる?…絶対に帰ってきてよ。」
加藤は真剣な面持ちで艦娘たちへ語りかける。すると艦娘たちから「もちろんです!」「当たり前じゃん!!」との返事が返ってくる。
「それじゃあ、無事でね。」
佐世保鎮守府
「庄内、ほんとは僕は君とは離れたくない。」
「提督、それは私も同じですよ。」
西沢と庄内は向かい合いながら話している。
「絶対に生きて帰ってよ。」
「もちろんですよ。提督。」
それぞれの思いを抱いて、三大鎮守府の若き英雄たちが大きな戦いへと挑む。この先にどんな絶望が待っていようと、彼らはひるまない…。
次回 影のレイテ
次回、レイテ戦開始!!