第十一話 影のレイテ
捷二号作戦が開始され、三大鎮守府の各提督は海上自衛隊の協力のもと、前線基地であるリンガ泊地へと進駐。艦娘たちはここを補給基地としてレイテ周辺海域へ出撃する。留守の間は各鎮守府の提督補佐官、副司令が管理をすることになる。
提督たちは海軍丙事件の反省から、連山での移動から対艦、対空能力の高い海上自衛隊の護衛艦あきづき型での移動となった。
リンガ泊地
十六夜が司令室にて艦隊編成を確認していた。
「え〜と、配属艦隊は〜、あった!」
第一部隊
大和、武蔵、長門、金剛、榛名、出羽、愛宕、高雄、鳥海、摩耶、妙高、羽黒、能代、早霜、秋霜、長波、朝霜、岸波、沖波、島風、浜波、藤波、熊野、鈴谷、利根、筑摩、矢矧、浦風、磯風、浜風、雪風、清霜、野分、十六夜
第二部隊
那智、足柄、阿武隈、曙、潮、不知火、霞
第三部隊
山城、扶桑、最上、時雨、満潮、朝雲、山雲
第四部隊
瑞鶴、千歳、千代田、瑞鳳、蒼永、大永、伊勢、日向、五十鈴、多摩、初月、若月、秋月
十六夜の配属先は第一部隊、第一部隊だった。いわゆるレイテ突入のための主力艦隊だ。他に先制突入を行う第三部隊、敵機動部隊の誘引を行う第一機動部隊、第三部隊の援護突入を行う第二部隊に分かれていた。
「一緒の艦隊ですね。」
「ひゃう!?」
急に話しかけられた十六夜はびっくりする。振り返るとそこには出羽の姿があった。
「出羽さんですか〜!びっくりしましたよ…。」
「ごめんなさいね。同じ第一部隊として頑張りましょうね。」
出羽が十六夜に向けて笑顔を向ける。それに十六夜も笑顔で答えた。
「はい!お願いします!!」
リンガ泊地 指揮所
「司令官。今回の作戦大丈夫かな…」
「どうした響。ずいぶんと心配そうだな。」
提督は海図を眺めながら響に話しかける。海図にはレイテ周辺海域の影の艦隊出現海域やレイテ突入海域の敵艦隊の予想戦力が書き込まれている。
「なんだかよくない感じがするんだ…。司令官はそう思わないかい?」
響の一言に提督の手が止まる。確かにそうだ。大規模作戦とはいえなんだか違和感を感じている。かつての大戦のようにこのまま戦局が悪化しているのではないか?という不安が提督の心を支配していた。
「…確かによくない感じはするな。敵の戦力も強大なはずだ。だがここまできて止まるわけにはいかない。そうだろ?」
「…うん。そうだね。やるからには勝たないとね。」
「あぁ、フィリピンを守り抜けば日本も少し安全になる。」
提督は再び海図に書き込みを始める。できるだけ少ない犠牲で巨大な戦果を出す。それしかない。なぜならフィリピンの防衛失敗は日本の興亡に関わるのだから…。
スリガオ海峡
「〜〜影姫様。全艦隊の配置が完了しました。」
影の艦隊の戦艦百十型が〜〜影姫と呼ばれる艦艇に現状報告をしている。〜〜影姫のうち一人が戦艦百十型に答えを返す。
「…分かった。そのまま全艦隊に待機を命令せよ。」
するともう一人の〜〜影姫が声をかける。
「私達がいるからにはこの海峡を突破することはできないわ…」
「甘くみるな。奴らも本気だ。油断するんじゃない。」
「分かってるわよ…。奴らを沈めれば問題はないわ。」
〜〜影姫が薄気味悪い笑みを受かべる。…スリガオ海峡には五十隻を超える艦艇が集結しており、海が黒く染まっていた…。
翌日の早朝、四艦隊を含む第一遊撃部隊は霧に紛れて出撃を開始した。リンガ泊地を出ればそこはもう敵地だ。制海権がなければ制空権もない。
完全に敵の庭だ。
「大丈夫、絶対に…」
十六夜は航行しながら手を強く握りしめた。
スリガオ海峡 近海
第三部隊がスリガオ海峡を向けて出撃してから数時間後、最上が発艦させていた瑞雲が敵艦隊を発見した。
「瑞雲三番機より入電!敵魚雷艇郡多数を確認!!更に後方駆逐艦28隻、巡洋艦8隻、戦艦6隻確認!!」
「…提督が言った通り予想通りの大艦隊…。」
時雨がつぶやく。この七隻しかいない艦隊で軽く50隻を超える大艦隊を主力艦隊が到着するまで防げるだろうか。
「どのみちやるしかないわ…。」
山城が決意したような真剣な表情を受けべる。
「第三部隊、前に進みます!!」
スリガオ海峡 付近
その頃、瑞雲隊に発見された魚雷艇郡は気にすることなく第三部隊に向けて高速航行を続けていた。
「コチラ雷艇甲型改。敵艦隊攻撃位置ニツイタ。指示ヲ乞ウ。」
魚雷艇郡の司令官的位置である甲型改が本隊に向けて無線をつなげる。
「コチラ軽巡二十型。了解シタ。発見シ次第攻撃ヲ開始セヨ。」
「了解。」
影の艦隊の魚雷艇郡は進路をそのままに第三部隊の索敵を開始する。甲型改、丁型は四発、乙型改は二発の魚雷を携えながら、攻撃を今か今かと待ちわびていた…。
シブヤン海
その頃、シブヤン海にさしかかった主力の第一部隊ではすでに戦闘が開始されていた。遠方の影の艦隊の大規模機動部隊に第一部隊は補足され、合計千機にも及ぶ攻撃隊が襲来してきたのだ。
「三式弾、砲撃はじめっ!!!!」
大和たち戦艦が対空砲弾三式弾を射撃する。大編隊のど真ん中で三式弾は炸裂した。一度に数十機の敵機が火を吹いて墜ちていく。しかしそれはほんの一握りにすぎず、恐ろしい数の攻撃機が第一部隊に襲いかかる。
影の彗星艦爆は一斉に急降下爆撃を開始し、流星艦攻は一斉に雷撃を開始する。
「敵が多すぎる!!」
十六夜も15cm三連装砲を射撃する。第三改装により改三となった十六夜は対空能力が飛躍的に向上している。
しかし、その対空能力を持ってなお敵機の猛攻は止まらない。
「このぉ…!!」
他の駆逐艦娘も奮戦するが、放たれた対空砲弾は攻撃機にたやすくかわされ、虚しく空を切るばかりだ。
攻撃隊の主目標は大型艦であり攻撃力の高い戦艦だ。特に大和、武蔵、出羽へと攻撃が集中する。
しかしそこは三大鎮守府の艦娘。
「それで直撃のつもりなの!?」
「そんな攻撃、蚊に刺されたような物だ!」
「長門型の装甲は伊達ではないよ。」
というような余裕の声が聞こえてくる。さすがは歴戦な艦娘なだけあり、凄まじい対空砲火で敵機をバンバン撃ち墜としていく。
「すごい…」
十六夜が驚きの声を上げる。どちらかというと駆逐艦のくせに15cm三連装砲を搭載しており、一度に複数の敵機を撃墜している十六夜のほうがすごいと戦艦たちは思っている。
しかしいかに善戦しても、いくら敵機を撃墜しても次々と新手がやってくる。物量で押しまくる影の艦隊に艦娘たちは少しずつ苦しくなっていった。
「まだだ…まだこの程度で、この武蔵は…沈まんぞ!」
「敵艦隊もなかなかやるな…。全く、骨が折れる。」
とうとう戦艦たちも絶え間ない急降下爆撃、観測雷撃を前に中破小破が目立ってきた。特に武蔵への攻撃が激化し始めた。六隻の戦艦のなかで一番損傷が激しいため、狙いをつけられたのだ。
「っ、このままじゃ武蔵さんが…」
出羽が苦い表情を浮かべながら対空戦闘を続ける。武蔵が心配だがこの状態では助けに行くことはおろか、自身の身を守ることで精一杯だ。
「(私が頑張らないと…!!)」
十六夜は影の艦隊の攻撃隊に容赦ない弾幕を浴びせる。現状唯一の艦隊防空型駆逐艦だ。自分が頑張らないといけないと十六夜は影の艦隊の艦載機に対して激しい抵抗を続ける。
「出羽!!ここはこの武蔵が引き受ける!!お前たちは先に進め!!」
己の最期を悟った武蔵は出羽へと大声で伝える。
「武蔵さん!?しかしそんなことしたら…!」
「だめよ!!置いてけないわ!!」
出羽と大和の返信に武蔵は血が滴っている顔で笑みをつくって言う。
「フン、安心しろ。この程度で大和型戦艦は沈まない。大和、お前がそれをよくしってるだろ?行けっ!!お前たちは生き残れ!!」
「武蔵さん…」
「武蔵…」
しばらく無言でいた二人だが、決意し艦隊に司令を出す。
「全艦隊、レイテへ向けて全力航行!!前へ進んでください!!」
そのまま第一部隊は武蔵と護衛の駆逐艦娘を残して全力航行でシブヤン海を突破する。
「さぁ来るがいい!!全部叩き落してやる!!」
武蔵の怒声がシブヤン海に響き渡っていった。容赦なく影の艦隊の攻撃隊が爆弾を投下し、魚雷を放つ。
攻撃を受け続け少しずつ体が海に沈み込み始めるが、武蔵はそんなことを気にしない。目の前のことでいっぱいだ。
「まだまだぁ!!」
三式弾を射撃し、機銃で弾幕を構成する。影の艦隊の攻撃隊は沈みかけていく武蔵にまだまだ爆弾、魚雷、ロケット弾を撃ち込んでいく。
武蔵の体には傷ができ、艤装も損傷していく。それでも武蔵まだ対空射撃をやめない。
「うおおおおおおおおおおお!!!!!!!!」
そしてついに、大爆発が起きた。海上にさっきまで激しい戦闘をしていた武蔵の姿はもうない。
少しずつ海に沈んでいくなか、武蔵は手を伸ばす。
”皆の分まで、この武蔵が攻撃を受け止められたのなら…まぁ、私は…満足だ…”
この一言を残し、武蔵は暗い海の底へと消えていった。
「ありがとう。…武蔵。」
大和は涙をためながら、一人呟いた。
戦艦武蔵 舞鶴鎮守府所属 シブヤン海にて、”轟沈”
次回 絶望のスリガオ海峡
次回、スリガオ海峡海戦。果たして海峡突破はできるのか…。