スリガオ海峡に数々の爆発音が響き渡る。重巡二十一型後期型が砲撃を行う。さらに戦艦百十型後期型も砲撃を行う。時雨と最上は砲弾を必死になってかいくぐっていた。
「全然近づけない…!!」
時雨が肩で息をしながら砲弾、魚雷を回避し続ける。最上も同様に全力航行で砲弾を回避している。
上空では瑞雲隊が敵艦隊へ空襲を行い、戦闘を支援してくれているが、軽巡二十型後期型の激しい対空砲火により瑞雲隊の支援はもう長くは持たない。
さらに先程の第一波魚雷攻撃により扶桑が被雷、戦線離脱。山城も第四駆逐隊も被弾、被雷しこの時点で艦隊はすでに壊滅していた。
多勢に無勢。
まさに絶望的状況であった。
「時雨!!主力艦隊はまだかい!!?」
最上が時雨に向かって叫ぶ。時雨はまだ主力艦隊を視認していない。到着にはまだ時間がかかるだろう。
「(どうすれば…)」
「もういい。一斉攻撃だ。全力で奴らを海の底へ沈めろ。」
スリガオ海峡影姫が全艦隊に総攻撃を命令したのはその時だった。魚雷艇、駆逐艦、巡洋艦はもちろん護衛の戦艦やスリガオ海峡影姫自身も第三部隊への攻撃を開始したのだ。
「そうね…。このまま弄んでいても時間の無駄だしね。」
白髪がつぶやく。その声に黒髪が頷く。
「ああ、敵の増援が来る前にな…」
「報告シマス!!」
黒髪が言い終わらないうちに一隻の軽巡二十型後期型が、スリガオ海峡影姫に報告にくる。
「敵艦隊ニ新手ノ増援ヲ確認シマシタ!!十隻程度ノ艦隊デス!!」
「…もう来たのか。まぁ、主力艦隊ではないから怖がる必要はない。そのまま迎撃に出ろ。」
「遅くなったな。これより第二部隊、第三部隊の援護を行う!!」
限界を迎えそうになった時雨たち第三部隊に、那智率いる第一遊撃部隊、第二部隊がスリガオ海峡に到着したのだ。
「全艦、砲撃開始よ!!」
足柄が重巡二十一型後期型に向けて砲撃を行う。放たれた砲弾は重巡二十一型後期型の顔に命中する。
「ぎゃあああ!?」
そのまま足柄は魚雷を発射、魚雷は高速で進んでいき痛みに悶える重巡二十一型後期型に着弾して炸裂した。
「がああああああああああああああ!!!!」
重巡二十一型後期型は連続攻撃に耐えることができず、そのまま撃沈された。さらに阿武隈率いる第一水雷戦隊も攻撃に参加。
「惨めよね。群れないと攻撃できないなんて。」
「こいつらこそ本当のクソね!!」
霞と曙は襲いくる甲型改、乙型改、丁型魚雷艇郡の集団雷撃をたやすくかわし、砲弾を撃ち込んでいく。魚雷艇たちは霞たちに魚雷を当てることはおろか、かすらせる事もできずに一方的に撃沈されていった。
第二部隊の活躍により、大劣勢からなんとか同等に持ちこたえることができたのだ。
「来てくれた…。よ、よかった…。」
時雨と最上は次々に撃沈されていく影の艦隊を見て、少し安堵した。
しかし、まだ終わっていなかった。
「調子に乗るなよ、艦娘ども…」
直接頭に響いてくるような恐ろしい声が、時雨たちの耳に入った。
そして軍艦の残骸のようなものに囲まれた、二人の影姫が現れた。一人が黒髪であり、もう一人は白髪であった。
スリガオ海峡影姫である。軍艦の残骸を引き連れながら少しずつ時雨たちに近づいてくる。おそらくスリガオ海峡影姫が引き連れている残骸は、この海峡に沈んだ軍艦の残骸だろう。
「ここで終わりにしてあげる!!」
白髮が声をあげる。すると、軍艦の残骸に駆逐十六型後期型、軽巡二十型後期型、重巡二十一型後期型が飛び込んでいく。
「!!?」
影の艦隊が残骸に飲み込まれていき、飲み込まれていくにつれ、残骸が次々に形をなしていく。砲塔に、魚雷発射管に、そして艦橋に…。
巨大な異形の戦艦へとスリガオ海峡影姫は姿を変えたのだ…。
「こ、これは…。」
時雨たちが息を呑む。大量の砲塔が体から生えており、魚雷発射管も大量に装備されている。さらにはハリネズミのように対空砲が装着されており、艦橋部に二人の影姫が立っている。
スリガオ海峡影姫の能力…。深海から軍艦の残骸を引き連れ、影の艦隊を生贄にすることにより、武装増設、装甲強化、自らの身体を進化させる能力だ。
「お前たちにはここで死んでもらう!!」
黒髪がそう叫ぶと、増設された砲塔が一斉に動き出す。旋回を終えた大口径砲塔は時雨たちを狙い、射撃を開始する。続いて中口径砲塔も一斉射撃を開始する。
まるでミシン縫いのように放たれる砲撃に、時雨たちは必死になって回避するが、回避行動も虚しく被弾していく。
「くっ…!!」
時雨にも砲弾が命中し、右肩から血がしぶく。さらに最上の頭部に中口径砲弾が命中。そのまま最上は海面に転倒した。
「最上っ!!くそっ…!」
那智も足柄も攻撃どころではなく回避に手一杯だ。砲弾ばかりに気を取られていると、下方から接近してくる魚雷にやられてしまう。すでに足柄は魚雷を受けて中破している。
「まさか、ここまでの力だったとは…」
那智がひきつった表情でスリガオ海峡影姫を見上げる。砲塔は休むことなく火を吹き続けており、一時も隙ができない。
さらに戦艦百十型後期型も健在のため、そちらからも高火力の砲撃が飛んでくる。すでに瑞雲隊は壊滅しており、唯一の救いだった第二部隊も粉砕されている。
「なぁに、この程度なの?失望したわ〜。」
白髮がバカにしたようにあざ笑う。しかし黒髪は黙ったまま攻撃を続けていた。
『油断したときに足元はすくわれやすい。』
彼女たちの指導者、影浦提督に言われた言葉を黒髪は思い出していたのだ。
「もう、終わりにしよう…。」
そう言い黒髪は全砲門を第三部隊、第二部隊に向ける。さらに魚雷発射管も全て同方向へ向ける。
「お前たちはここを突破することもできずに死ぬ。」
冷ややかな表情を浮かべた二人のスリガオ海峡影姫は、手を合わせ合う。
「(そんな、またここで…。終わるの…?)」
時雨は苦し紛れに顔をあげる。肩から出血が止まらず、力がでない。攻撃することも回避することもできない。他の艦娘たちもほとんど同じ状況だ。
「(こんなところで終われないのに…。アイツは私がそばにいなきゃいけないのに…。)」
霞も同じだった。司令官…、軍令部総長のことを考えると胸が苦しくなった。
「(必ず帰る、って言ったのに…)」
スリガオ海峡影姫の砲門が明るくなっていく。まもなく砲弾が発射されるのだろう。その時が自分たちの最期だ。
「さらばだ。全砲門、発射!!」
スリガオ海峡影姫の砲塔が火を吹く。
瞬間に砲塔が爆発した。
「!!?」
さらに連鎖的に大口径砲が爆発していく。発射寸前だったため弾薬に引火し、内部爆発により砲塔は跡形もなく破壊されていく。
「どっ、どうしたのよ!!?」
「何が起こっている!!?」
二人のスリガオ海峡影姫は理由もわからず混乱している。それは時雨たちもそうだ。ほとんど誰も戦えない状態で一体誰が攻撃したのか分からなかった。
しかし、理由はすぐに分かった。
上空を高速で飛翔する飛行体があった。それはなんと対艦ミサイルのハープーンであった。しかも一発だけではない。何発も何発も飛んできている。
「なっ、なんなんだあれは!!?」
黒髪も慌てている。ハープーンは海面スレスレを飛翔しながら急に上昇、そのまま降下しスリガオ海峡影姫へと突入していく。
次々と砲塔が破壊されていき、爆発音が響いていく。
「ぐっ…、何がどうなっている!!?」
スリガオ海峡影姫はミサイルが何なのか全く持って検討がつかなかった。戦艦百十型後期型たちもハープーンの攻撃力に耐えきれずに撃沈されていく。
「…もしかして。」
時雨がハープーンが飛んできた方向を見る。そこには…
「第一部隊、スリガオ海峡に到着!!これよりスリガオ海峡影姫へ攻撃を行い、友軍を援護します!!」
主力艦隊、第一部隊の姿があった…。
「分かった大和!頼んだぞ!!」
「了解です、提督!!」
無線を介して大和は心強く答えた。
「き、来てくれた…。」
最上も頭を抱えながら立ち上がる。どうやら昏倒状態から立ち直ったようだ。
「全艦隊、一斉撃ち方、始めっ!!」
大和の号令により一斉に第一部隊が主砲を発射する。まとまって飛来した砲弾はスリガオ海峡影姫の周りに着弾、命中しさらに砲塔が破壊されていく。
「くっ、ふざけるな!!」
負けじとスリガオ海峡影姫も残った中口径砲で反撃を行う。しかし放ったはずの中口径砲弾は空中で爆発した。
「なっ!?なんだと!!?」
「一体なにが起こってるの!?」
スリガオ海峡影姫はなぜ空中で砲弾が爆発したのか全く分からなかった。それもそのはずだ。なぜなら…
主力艦隊の後方には、護衛艦改装を受けた響がいるからだ。響は艦対空ミサイルシースパローを発射し、砲弾に命中させ撃墜していたのだ。さきほどのハープーンも響が発射したものだ。
「司令官、なんとか間に合ったよ。」
「そうか!よかった。よし、そのまま敵艦隊を撃滅してくれ。」
「了解。」
砲弾を撃墜され、混乱しているスリガオ海峡影姫に高速で接近する影があった。
十六夜だ。
「よくもここまで暴れたね!!許さないから!!」
そうして十六夜は六連装酸素魚雷を投下する。さらに15.5cm三連装砲もこれでもかと撃ち込んでいく。
「駆逐艦の分際で…!」
スリガオ海峡影姫も大量の魚雷を発射する。しかし島風並みの高速を誇る十六夜はやすやすと魚雷を回避していく。
「ふざけた真似を!!」
ふっと十六夜の横に戦艦百十型後期型が現れた。どうやらハープーンの攻撃を逃れた生き残りのようだ。
「死ねっ!!」
戦艦百十型後期型は51cm連装砲を射撃する。ところが戦艦百十型後期型が次の瞬間、爆発を起こした。十六夜がこっそり投下した魚雷にやられたのだ。
「とどめは任せて下さい。」
そう言いながら、出羽が前に出た。
「はい。お願いします。」
大和がそう言うと、出羽は頷いた。
「まだまだぁ!!!!」
スリガオ海峡影姫はもうすでにほとんど動かなくなった砲塔をがむしゃらに射撃している。出羽はしっかりとスリガオ海峡影姫に照準を合わせる。狙うは弾薬庫…。
「全砲門、撃てぇ!!!!」
出羽の声とともに、51cm連装砲八門が轟音を響かせながら放たれた。
「「!!!!」」
スリガオ海峡影姫は目を見開いた。そして…
スリガオ海峡影姫の大口径砲弾薬庫に命中、閃光が走った瞬間、大爆発を起こした。海峡内に強烈な爆風が広がる。
「っ!!」
十六夜たちは負傷している時雨たちをかばいながら、爆風に飛ばされないように踏ん張る。
ようやく爆風が止み、スリガオ海峡影姫がいた場所を見ると、そこにスリガオ海峡影姫の姿は無く、巨大な黒煙が空に上っているだけだった。
「提督!!第一遊撃部隊旗艦大和より入電!!『我、スリガオ海峡ヲ突破ス。』です!」
「スリガオ海峡突破!?本当か!?」
提督が大淀からの戦果報告を聞き、椅子から飛び上がる。絶望的かと思われていたスリガオ海峡突破が成功したのだ。
「やったぁ!!加藤やったよ!!」
「痛い痛い!!わかったから西沢、首締めるのやめろ!!」
西沢は海峡突破に子供のように大はしゃぎしている。加藤も西沢の抱きつきに呆れているが、海峡突破はの連絡には嬉しそうな顔をしていた。
「お前ら、まだ終わってないぞ。このまま敵輸送艦隊の攻撃だ。気を抜くなよ。」
「分かってるよ〜。輪斗は神経質だな…。」
蒼海たち提督はその後、第一部隊、第二部隊に輸送艦隊攻撃命令を出し、第三部隊には帰投命令が出された。
スリガオ海峡 南東部
航行が不能になった扶桑は今だに海の上に浮かんでいた。
「(大きな爆発音があったけど、山城たちは大丈夫かしら…)」
山城たちの心配をしていた。無事に海峡を突破できるのか。主力艦隊と合流はできたのか。
「(そろそろ夜が明けるわね…。朝になれば救助が来るはず…。)」
そう思っている扶桑の背後で、何かが動いた。扶桑はとっさに振り返ると、そこには…
海面から大量の手が飛び出ていた。
「!!?」
そして手が扶桑の体をつかんでいく。
「なっ、なに!!?」
扶桑の顔が瞬く間に恐怖で歪む。さらに手はいくつも伸びていき、扶桑の体を海中へと引きずり込んでいく。
「嫌ぁ!!やめてっ!!!!」
振りほどこうとするが手は力を緩めない。水中に引きずるこまれるにつれ、声が聞こえてきた。
『助けてくれぇ…』 『まだ死にたくない…』 『天皇陛下、万歳…』 『お母ちゃん、会いてぇよ…』 『総員退艦…』 『嫌だぁ、死にたくない…』
悲痛な叫びが、薄れゆく意識の中で扶桑の耳に聞こえ続けていた…
次回 エンガノの若鶴
影化…影の艦隊により、艦娘が撃沈されることにより起きる現象。撃沈された艦娘は影の艦隊により、かつての乗組員たちの負の感情が流れ込むことにより、影の艦隊へと姿を変える。