東北地方日本海深海棲艦大空襲…今から10年前に起きた深海棲艦の空母艦載機による東北地方への大空襲。約3000人が犠牲になり、提督の家族も犠牲になった。この空襲は深海棲艦では説明し難い軍事施設への集中爆撃ではなく、市街地を徹底的に爆撃された。影の艦隊出現後は影の艦隊の爆撃機の可能性も考えられ始めた。
提督の過去が明かされる…。
提督はゆっくりと席につき、十六夜にこれまでの経緯を説明する。撃墜されたものの実際は救助され、生存が海軍により隠蔽されていたこと。数日前に意識を取り戻したこと。
そこまで話し終わると、十六夜は、はぁ、と息を吐いた。
「そうだったんだ…。よかった〜〜〜〜!!無事で!!」
緊張から解き放たれたのか、机に顔を突っ伏している。
「ていうか栗林さんも知ってたんだったら教えてくださいよ!!」
「黙っていてすみませんでした。しかし、元帥からの指示だったので。それに提督の生存が影の艦隊に知られたら今度こそ確実に提督の息の根を止めにくるはずです。それを防ぐにはこれしか方法はなかったんですよ。」
「むう〜〜〜。だったらしょうがないですけど…。」
十六夜は頬を膨らませながらも、渋々承諾する。すると次に提督が口を開いた。
「まぁ、とにかくまた今日から俺は執務仕事をしつつ艦隊の指揮をとる。捷二号作戦もあることだし、練度も上げないといけないからn」
「いや、提督は休んでください。」
提督が言い終わらないうちに栗林が遮る。
「え?」
「流石に提督でも左腕が使えないと色々なことが制限されます。なので普段は提督が行っていた倉庫内の整備は長谷川さんたち陸軍駐屯連隊の皆さんにお願いしています。」
「あっ、で、でも夜間の見回りが…」
提督がまた自身の仕事をだそうとする。しかし、今度は長門が言い出す。
「それなら私達秘書艦が交代制で行います。提督は三号作戦前から夜間も仕事や見回りに時間を費やしていたため、満足に睡眠がとれていないはずです。重大な作戦の前ですのでゆっくり休んでください。」
「でも、流石に執務仕事くらいは…」
「それなら私達がやるよ〜!!」
意気揚々と十六夜と響が手を挙げる。どうやら本気で提督のことを休ませたいようだ。
「ええ…」
提督は困惑した。結局、今日一日提督はペンを握ることも、倉庫に行くことも、夜回りに行くこともなくその日の役割を終えた。
…けたたましく空襲警報が鳴り響く。暗闇のなか、爆撃機から投下された爆弾が次々と建物を破壊していく。爆発音の中に紛れ込む悲鳴と絶叫。硝煙の匂い。逃げ惑う人々。目の前に跡形もなくなった自分の家…
「はっ!?」
提督は布団から跳ね起きた。窓からは朝日が眩しく射している。時計をみるとちょうど0630をまわったところだ。
「はぁ〜〜〜。どうしよ…」
昨日就寝前に栗林、大淀に言われたことを思い出す。
回想
「予定よりも早い退院なのでまだ体が前の水準に追いついていないはずです。なので大事を考えて明日一日は休んでください。」
「えっ?だが作戦の話し合いをしないといけないし…」
「提督!貴方の体のほうが大事です!作戦までまだ時間があるので休んでください!」
「でも…」
「「強制休暇です!!!!」」
回想終わり
そんなこともあり、今日は執務室に行くこともなく自室で過ごすことになったのだ。
「はぁ〜〜〜。何をして過ごせばいいんだよ…」
提督は休みよりも仕事が多いため完全に仕事優先の人間になっている。なのでまともに休んだことがないため、何もしないことにかなりの違和感を感じる。
「(落ち着かねぇな…)」
このまま何もせずに一日を過ごすわけにはいかないので、本でも読むことにした。航海術、砲撃術、雷撃術、海図の読み方、海洋学、風向標識、暗号一覧etc。ほとんどが訓練学生時代に使用した本だ。なのでほとんどが読み終わっており、内容を記録すらしている。読み返した本を読み返していき、ようやく1000をまわった。
「おっと。」
本を本棚に戻していると、一冊の本が落ちてきた。
「なんだ?」
しゃがんで落ちた本を手に取る。その時に懐にしまっていた懐中時計がすべり落ちた。乾いた音を立てて懐中時計は床に落ちる。
「何から何までついてないな…」
懐中時計を拾い上げ、蓋を開ける。中には提督があのすべてを失う日の前日に撮った家族写真が入っており、提督は写真を広げる。写真を撮ったその日は日本国防軍設立10周年記念日であり、海軍省を背景に父親がきっちり軍服を着こなし笑顔で、母は着物をまとい美しく、妹は兄に抱きつき照れくさそうに、自分は笑顔で海軍式敬礼をしている。
これ以外の写真は空襲の時に家ごと燃えてしまったため、残っていない。家族との繋がりは祖父を除くとこの写真だけだ。
「そういえば最近じいちゃんに電話してないな。久しぶりにしてみるか。」
スマホを取り出し、祖父に繋げる。一人暮らしでしかも80を超えているため少し心配だったが、そんな心配は無用だった。
『輪斗〜!!久しぶりだな!!どうした?急に電話なんてよこして。まさかいい人でも見つけたか!?』
「いや、じいちゃん…。流石にそれはないよ。どうしてるかなー、と思って電話しただけ。」
『な〜んだ。それでどうしたんだ?仕事中じゃないのか?』
「あぁ、それが…」
提督は今までの経緯を説明する。祖父は珍しく黙って聞いていた。話し終わると祖父が先に口を開いた。
『そうだったのか…。それは大変だったな。』
「じいちゃん、俺こんなので大丈夫かな?」
祖父はしばらく黙っていたが、静かに言った。
『お前と同じこと言ってたな、海人も。』
「?父さんが?」
海人、とは提督の父親の名前である。海軍では100年に一度の天才と言われるほどの艦娘の指揮能力を発揮した。
『ああ、海軍に入って間もない頃だったな。思うように訓練ができずにワシにも言ってたんだよ。』
「そうだったんだ…。」
あの何でもできてとても頼りになった父が、そのようなことを言っていたのは以外だった。やはり誰にでも悩みというものがあるようだ。
するとその時、私室のドアがノックされた。
「あっ、誰か来たみたい。」
『そうか。じゃあ切るからな。頑張れよ。』
「うん。じゃあ気をつけてね。」
そう言い提督は電話を切った。そしてドアの方に呼びかける。
「誰だ〜。」
するとドアが開くと同時に返事が返ってきた。
「提督〜!報告書まとめてきたよ〜。」
それは提督の秘書艦である十六夜だった。どうやら遠征の報告書を出しに来たようだ。
「おお。ありがとな。」
提督は右手で報告書を受け取る。最近は出撃もあまりないので、少しずつではあるが資材はかなりの量が備蓄されている。作戦に向けて備蓄は大切だからだ。
「そう言えば提督、最近元気ないけどどうしたの?」
十六夜が突然そんなことを聞いてくる。提督はいきなりの問いかけに面食らったものの、すぐに返事をする。
「どうした。そんなことないぞ。俺はいつも通りだろ?」
「そうですかー?…それにしても結構暇そうですね〜」
「本当にそれだよ。仕事以外にやることがないからな。」
すると十六夜が意外なことを聞いてきた。
「そう言えば提督はどうして海軍に入ったんですか?」
提督の動きがピタリと止まった。しかし、すぐに動き出し十六夜に座るように促した。十六夜は提督と向かい合うように座る。
「俺が海軍に入った理由か…。話せば少し長くなるが、始まりはあの日だった…」
20XX年 3月10日 東北地方日本海側
夜間に空襲警報が響き渡る。
「敵機接近中!!夜間のため目視困難です!!」
「皆さん!!陸軍兵の誘導に従って早急に避難してください!!」
警察官や陸軍兵の声が響き渡る。
深海棲艦の接近を日本海に展開し哨戒していた海軍の哨戒艇が発見、避難勧告が発令された。空襲を受ける可能性が高い沿岸部の住民たちを優先に避難を行っていた。
俺たちは沿岸部から少し離れていたから少し避難が遅れていた。ようやく俺たちの避難が開始された時は、沿岸部で海軍の駆逐艦が対空射撃を開始した頃だった。
駆逐艦が対空射撃を開始したことは、すぐそこまで深海棲艦の攻撃機が接近していることを意味していた。
俺は両親と妹と一緒に避難していたが、父さんは後ろに杖をついて避難している高齢者をみると、
「お前たちは先に逃げろ!!」
父さんはいきなりそう言った。父さんは当時海軍省の軍令部総長で、その日は休日のため家に帰ってきていた。父さんは軍人の役目は人を助けることだ、とよく言っていた。
「あなた!でも…」
母さんも叫んだ。いくら軍人でも俺たちにとっては大切な父親だ。
「安心しろ!!避難所で待ってろ!!必ず会おう!!」
そう言って背中を向けて走っていった姿が、父さんをみた最後だった…。
その後、三人で避難所に向けて避難していたが、ついに空襲が始まり周囲が爆撃され始めた。人々の絶叫や悲鳴を耳に挟みながら俺たちは走った。しかし、ビルの横を通り過ぎる時にビルに爆弾が命中した。ビルが轟音を立てて崩れ始めた。
俺はなんとか下敷きになる前に抜け出そうと妹を抱いて走った。
だが、現実は残酷だ。
爆音を響かせてビルは倒壊し、俺たちは全員押しつぶされた。
気がつくと、誰か見知らぬ人が俺の顔を覗き込んでいた。
「隊長〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!意識が戻りました〜〜〜〜〜〜!!」
彼は大声を上げて上司に知らせる。目を凝らしてよく見ると、彼は見覚えのある服を着ていた。それは海軍陸戦隊の救援隊の制服だった。
彼が後の元帥だったとわかったのは、海軍に入隊してしばらく立った頃だ。
彼の声に気がついたのか、上司らしき人物が軍医を連れてこちらに向かってきた。どうやらビルに挟まれた後、海軍陸戦隊の救援隊が駆けつけて俺を救出してくれたようだ。だったら母さんも妹も無事なはず。そう思い、まだ痛み続ける体を起こして周りを見渡す。
しかし、どんなに周りを見渡たしても母さんも妹もいなかった。
母さんが遺体で見つかったのは、それから少したってからだった…
空襲から三日がたち、俺は悲しさと悔しさ、怒りや苦しみなど入り交ざった感情で祖父と空襲後の家へ向かった。そこにあったのは、焼けただれた骨組みしか残っていない自分の家だった…。
幸せな日常があの日のたった一晩で、たった一瞬で理不尽に奪われ失った。空襲で受けた怪我よりも、大切な家族を奪われたことがもっと痛くて苦しかった。
そして俺はその時誓った。もう二度と大切なものを理不尽に奪われないように、戦うことを。奪われ続けたくはなかった。だから戦って守る道を選んだ。
海軍に入った理由はそれだ。地獄のような訓練を6年ほども受けたが、家族を失った苦しさに比べればなんてことはなかった。
訓練中にヲ級を発見した時は、何を考えたのか気がついたら小型艇に飛び乗り、手榴弾片手にヲ級に襲いかかっていった。重症を負ったものの俺はヲ級を撃沈した。それほどまで俺は当時深海棲艦と言う存在を憎み嫌っていた。この世から全て消し去りたいと思った。
だが、それはある日を堺に変わった。
「十六夜、お前に会ってからだ。」
「私に会ってから…?」
提督の話を涙ぐみながら聞いていた十六夜が聞き返す。
「お前は敵に対しても敬意を払っている。一度はお前を撃沈した影の艦隊にもだ。お前は優しい艦娘だ。俺はお前から優しさを学んだんだ。」
提督は立ち上がり、十六夜の頭をぽん、と撫でた。そしてそのまま提督は部屋を後にした。
残された十六夜はそのまま動かなかった。頭を撫でられたことに僅かな懐かしさを感じた。
「(そんなわけないよね…。そんなわけ…)」
十六夜の頭に誰かの顔が浮かぶ。前世の記憶だろう。顔はよくわからないが、提督が先程やったことと同じく頭を優しく撫でていた。
外に出た提督も頭にある顔が浮かんだ。すでに亡くなったはずの自分の妹の顔だ。十六夜の頭を撫でたときの顔を思い出す。
雰囲気や顔が非常に妹に似ている気がした。
「(そんなわけないよな。そんなわけ…)」
次回 半舷上陸
提督の過去が明かされました。提督の妹と十六夜には関係があるのか…?
公式You Tubeチャンネルにて十六夜の立ち絵を公開しました!
「蒼海輪斗」で検索してください!動画は「田中少尉はベル鎮を訪れるそうです。 後編」です!