「ぐぎゃぎゃ、今日も人間を誘拐だー!!ぐぎゃぎゃ」
路地裏、それは大体危ない類いの奴が集まる場所である。それは平和なこの街でも変わらない。
とはいえ流石に異世界の来訪者がこんなところにいるとは思わなかったが。
「……分かりやすいぐらいの悪党ですね」
私は屋根の上から大きなとかげのような怪人を見下ろして思わず呟く。神様から力を貰い、試運転もかねて軍服ドレスの姿に変身して巡回していたら見つけたのがあの不審者である。怪しすぎる。
ちなみに変身すると魔法少女や悪の組織の敵以外には姿を見えないようにできるので、正体を隠しながら活動するのは楽である。
まあ、そんなことは置いておくとして、怪しいあいつへと意識を戻す。
「ぐぎゃぎゃ!!」
全くもって分からない。何故、あんな風にはしゃげるか分からない、これは戦争だというのに。
そして、何故あんなに油断できるのか。不意打ちを何故警戒していないのか。疑問は尽きない。何せ――
「みなごろし」
――実際に今から不意打ちを受けようとしているのだから。
私がみなごろし、と呟いた次の瞬間怪人の足下からニュルリと太くて黒い、粘性のある液体が付いた八本触手が生えてきた。
みなごろし、それは自分の半径五キロメートルまでの範囲に触手を生やす能力だ。触手には粘性の液体がたっぷりと付着しており、並みの攻撃では破壊できない。私のメインウェポンになるであろうなるであろう魔法である。
「グギャ?」
触手は八方から怪人を包み込んだ。もちろんこれだけでは何にもならない。だから、二つ目の魔法が必要だ。
「こどく」
そう言うと、触手はグシャッという音を立て八枚の壁に変化し、立方体になった。よし、怪人を箱の中に入れられた。
「グギャ? なんだこれは?」
怪人は困惑したように声を出す、安心してほしい。すぐに殺すから。
「みなごろし」
私は、箱の中へ触手を発生させた。もちろん全ての方向から発生させている。
「グギャ? グギャ!? グギギギ!!グギャアアア!!!?」
箱の中からドタバタと何かが暴れる音が聞こえる。絶叫も聞こえる。もうじき終わるだろう。
今、箱の中には触手が大量に発生している。触手は生やすだけでなくある程度動かすことができる。何かを掴め、とかは難しいが、前方向に進ませることや曲がらせるぐらいの操作は可能だ。つまり、中に発生させた触手を前にさせれば、怪人を巻き込んで進み続ける。そしてその質量から圧死させられる。もし、圧死させられなくても酸素を体内に取り込むことができないから酸欠になる。どうあがいても死ぬ。どちらが死因でも構わない。だから死んでいてくれ。
そんなことを考えていると音が聞こえなくなった。一応、それから十分程待ったが、反応がそれ以降ない。……念のためだ。本当に死んでいるか確かめよう。
「こどく」
私が箱に対し圧縮の魔法を唱えるとどんどん小さくなり一辺が二メートル近くあったのが一センチ四方の立方体へと変化した。
……ちゃんと死んでいるな。こどくは私が生み出したものか生きていないものにしか使えない。要するにここまで小さくできたということは死んでいると見ていいのだ。
「確かここら辺、っ!?」
……そんなことを考えていると、今の私のような奇抜な格好をした少女がやって来た。おそらく彼女も魔法少女なのだろう。しかし、私を見るその表情は警戒しているように見える。
理由は分かる。何せ今は私のすべてを分からなくする認識誤認の魔法、くろまくを使っている。つまり、彼女から見た私は正体が分からず、ノイズがかかったかのように見え、発している言葉すらも分からないとても怪しい奴である。
正体を敵にも味方にもばらさない方がいいので、誤解を解くわけにもいかない。と言うわけで今やるべきは一つ。
「あっ」
逃げるんだよォ!逃げこそが今の最適解、魔法少女は華麗に逃げるぜ。
そんな感じで私は彼女を撒いたのであった。