責任をとれ、流竜馬!! ~竜馬の不注意で負傷した號が色々あって女の子になっちゃう話~ 作:ほいみん
格納庫の中空に巡らされた足場のひとつから、流竜馬はぼんやりと階下を見下ろしている。その先には、真ドラゴンに搭乗するゲッターチームの三人──號、渓、凱の姿があった。
近頃はこうやって三者が揃っているのを、格納庫でたびたび目撃することができる。歓談に興じているのは渓と凱の二人で、號はもっぱら聞き入っているだけのようだが、これでも大した進歩だ。以前はといえば、號は戦闘が終われば姿をくらましてしまい、仲間と顔をつきあわせることなどほとんどなかったのだから。
今は亡き早乙女博士の遺児、渓。そして、博士とミチルの細胞をベースに生みだされた人工生命体、號。二人とも、多くの謎を残して世を去った早乙女博士の忘れ形見だ。
そんな二人が、博士の死にまつわる悲劇を乗り越え、こうして穏やかな時を過ごせているというのは、尊いことのように思える。
二人の持つ複雑な来歴に戸惑うことなく、肩を並べて語りあえる仲間もいる。チームの三番手、凱の果たしている役割は大きいだろう。
竜馬の胸中に懐かしいような暖かいものが湧き上がる。研究所での日々が去来するのに任せ、しばし心を傾けたのち、ふと現実に意識を戻すと、
「……?」
忽然と號の姿が視界から消えていた。
「竜馬」
「うおっ」
振り返ると果たして、そこには號が立っていた。
彼我の距離はそこそこあったはずだが、號の脚力の前には無いも同然であるらしい。
「ずっと見ていたろう」
「……まあな」
「たまの息抜き、という奴か」
「そんなところだ」
しばしの沈黙。
「……混ざらないのか?」
「!」
以前、こんなやりとりをしたことがあった。その時とは、立場が逆転しているが。
「俺は、いい」
博士を手に掛けた負い目がある、などではない。ただ、青春時代を過ごした早乙女研究所──今となっては失われてしまった──そこへの思い入れは変わらずに残されている。
號たちが最後の係累であるというのなら、その平穏が損なわれることのないよう、手の届く間は見守ってやりたいなどと思う。
とはいえ、その中にわざわざ割って入る気になるかというのはまた別の話だった。
自分勝手なのは重々承知だ。
「……」
「そんな目、するなよ。お前らだって歳の近い同士でつるんでる方が楽しいだろう」
「歳の近い」という表現が妥当かどうかは怪しかったが、號はしばし思案げに瞼を伏せたあと、納得したように頷いた。
「そうか」
僅かに残念そうな響きに、罪悪感がちくりと刺激される。それを紛らすように、背でも叩いて追い返そうと右手を持ち上げると、
「俺は、お前がいる方が面白いと思うが」
「……」
予想外の二の句に、戸惑う。
見上げてくる面にいつもの射抜くような視線は影も形もなく、やわらかな微笑みが浮かんでいた。
どういうわけか、竜馬はすっかり言葉を失ってしまった。
「……渓たちにも聞いてみるか」
「バカよせ、そんな真似しなくていい!」
號がくるりと背を向けたところで我に返り、慌てて両肩を取り押さえる。先ほどまで追い返そうとしていたのにどうしてこうなっているのか。
「……」
何故、と口に出すことはなかったが、號も同じ疑問を抱いたらしい。怪訝な様子で竜馬を見返している。
「……お前がいいんなら、それでいいんだよ。だが、今日のところはナシだ。この辺りで納得しとけ」
「……」
號が頷いたのを確認して、今度こそ背を押してやる。號は要領を得ないといった様子で一度振り返りつつも、大人しく渓たちのもとへと戻っていった。
なんとか一人で考える時間を確保した竜馬は、欄干に背をもたれさせて、自身の心境の変化に思いを馳せた。
(……面白い、と来たかよ)
何処が、などと呆れながらも、向けられた無邪気な笑みを思い出すと口元が緩んでしまう。
あの號が、自分の気持ちを素直に口にした──それが喜ばしいというのは勿論あるが──なんのことはない。號に気に入られているらしきことに、竜馬は機嫌がよくなっているのだ。
それがなんとも気恥ずかしく、とてもすぐさま渓たちの前に出られる気などしなかった。