多分NTR系エロゲだと思うので、寝取られないように頑張る   作:胡椒こしょこしょ

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前夜

あの地獄みたいな夜。

一族全てが集まる日だったのが、一族郎党の最期の日となったあの日。

黒い雲が空を覆って、月の光はわたしたちには届かない。

周りを見れば、それまで話していた人たちが人ならざる者の遺骸と共に血に塗れて倒れていた。

それはわたしたちの父上も同じで、父上は裏口付近で凶刃に倒れたのか知らない女性と寄り添うようにして息を引き取っていた。

 

そんな父上を見て、胸の中に冷たい芯入れられたような感覚。

当時の幼いわたしの目には、いつもいつもわたしたち姉妹に真神家としての将来の姿などを詰めるように言って厳しい鍛錬ばかり課してきた父上、それも自分達に愛情を注いでくれて忍としても凄い母上に対して嫌事を言うくせにただの一度も忍としての姿を見たことがなかった。

今となっては忍としての父上の姿を見なかったことは当然だと思う。

 

父上は真神家の嫡男でありながら、才能がなかったのだから。

それなのに娶った女は直ぐに真神家の教えを修め、自らの為せなかったことを為している自分よりも優れた女性。

そして見合いによる結婚。

父上には...その事実を受け止めるほどの器はなかった。

それだけだろう。

 

そんな父上の終わりが、自分達を捨て置いて裏口で人知れず知らない女と身を寄せ合って死んでいる。

当時子供のわたしたちにとって、どれほど残酷なことか。

自分の支えの一つを失ったかのような、そんな気分だった。

母上が居なければ、今まで身に着けてきた真神の術を嫌になっていたかもしれない。

 

唯一、この家で生き残っているのは稽古中で武器を持っていたわたしと久遠。

そして母上だ。

私たちを庇うように戦って返り血に塗れた母上

そんな母上に続くように私たちも武器を振るっていた。

 

人ならざる者の血肉の感触。

母上と同じく赤黒く染まっていく、わたしたちの白袴。

けれどそんな袴の気持ちの悪い感触ですら、私たちには感じる余裕がなかった。

はっ、はっ、と息を荒げて肩で息をする。

今も生を確認するように。

間近に死を感じていたから。

 

そんなわたしたちの前に、一人の女性が現れる。

巫女服に身を包んで、札を敷地中に飛ばして隠れていた魔を討滅した女性。

一条澪...つまりは師匠だな!

師匠が先導するかのように、彼女の背後を付いて回る微かに光を帯びた駕籠....式神が引くそれを見てわたしは母上が幼い頃に稽古の合間に読んでくれたシンデレラのかぼちゃの馬車のように見えた。

 

けれど同時に、まだ師匠の事を知らないわたし達は一瞬警戒して武器を握る力を強めてしまう。

目を細める師匠。

それを察してか、母上は手でわたしたちを制した。

 

「はるばるここまで援護に来て下さり、感謝致しますわ。現状、真神家はこのような状況でして....。」

 

「...何か勘違いなされているかもしれませんが、我々『鎮守』は貴方がたの支援に赴いたわけではありません。あくまで、かかる魔による今案件とその処理。...そして我々の目の届かぬ場所で魔と繋がった結果、この事態を招いた真神家当主と真神家への処遇の言い渡しで赴いたに過ぎません。自らで首を絞め絶命せんとする者を助ける義理は、我々鎮守にはございません。それは、ご自身でも分かっていらっしゃるのでは?」

 

「...真神も一枚岩でございません。魔と通じたのは我が夫の独断によるものでございまして...わたくしの夫の不徳の致すところでございます。...けれど、真神家全体で行ったことではございません。妻として、止めることが出来なかった...止める力をこの家で持っていなかった。全ての責任はわたくしが取りましょう。...されど、後ろの二人...娘たちには関係のないこと。二人には....家がまだ必要です。どうか、処遇の程を再考しては頂けないでしょうか....?」

 

「そのことは我々も承知です。そして責任を取るべき真神家当主がもういないことも。別に貴女に責任を取っていただくのは構いませんが、それとこれとは話が別です。そもそも嫡男が居なければその家を続けることが出来ない。それは分かりますね?そもそもそのような空っぽの家を息女に残して何になるのでしょうか?...これでも、我々は貴方がたの境遇の踏まえて判断したのです。寧ろ散々不穏な動きを見せた家に下される処遇としては破格の物。受け入れなさい。」

 

「...何卒、お願いいたします。」

 

「...そのように額を地面に擦りつけようが何も変わりはしません。...主に傅き、命令されれば何者であれどその凶刃に掛ける一族。...その在り方は理解できないわけではありませんが、貴方がたは如何せん散らばり過ぎた。いずれは付く相手を間違える者が出ても至極当然。....哀れですね。嫁の貴方は真神家に仕えるのでしたっけ?真神家が誰かの奴隷であるのなら、貴方は奴隷の奴隷というわけだ。...この事態について何も知らなくてもこうして地面に額を付けざるを得ない。...微塵程度には同情致します。」

 

師匠は地面に額を付ける母上を変わらず冷たい目で見る。

そして、それはわたし達に対して向ける目も同じだった。

 

まぁ、師匠の立場から見れば当然だ。

私たち真神家は自らを主の為だけに刃を振るう下僕と自称し、それぞれ仕える主が違うそんな集まりの一族だ。

 

秩序よりも主人、均衡よりも忠誠。

 

だからこそその中でも鎮守にとっては魔や人を隔てる秩序を乱す要因となったり、真神の人間であろう者が鎮守と繋がりがある人物を襲撃したり、敵対者に与していた事例があったらしい。

 

寧ろ、今回のように一族郎党消えたのであれば喜ばしいことだっただろう。

なにせ、役目に付いたばかりの当時の御屋形様を苛む可能性のある勢力が一つ消えたのだから。

家の取り潰し程度で済ませているのも、本当に優しい物だったに違いない。

...多分幼い御屋形様の存在の手前、鎮守自体も変わっていたのだろう。

御屋形様の傍に居る今なら、そうだとはっきり分かる。

 

そうして見放されて、打ち捨てられるはずだったわたしたち。

そんな時に、師匠の後ろの駕籠の扉が内側から叩かれた。

 

師匠はわたしたちに目線を少し向けつつ、駕籠の方へと向いて扉を少し開けるとその扉の向こうに居る人物と話し始める。

 

「はい、申し訳ありません若様...一人駕籠の中で退屈ですよね?仕事の方は早く終わらせますのでもう暫くお待ちを....え?い、いえ...そんなっ、虐めなどではありませんよ?彼女らがこのような処遇になるのは鎮守で決められておりまして下手な情けは....そもそも真神家は碌な家系ではなくてですね.....あ、ダメ、いけません。お外は見るに堪えない有様ですから隙間から覗くのは....な、聞いてたのですか....?ダメ、ダメです。それは鎮守の決定に背くことで...お父様に怒られますよ....私を困らせないでください。...そんな目で見てもダメなことはダメ....あ~~~も~~~~!」

 

その時のことは今も目に焼き付いている。

あんなに母上やわたし達に冷たい視線を向けていた女の人が、ふにゃっと表情を和らげていたのだから。

 

「分かりました、分かりましたからぁ!も~...私がなんとか致しますから、大人しくなさってください?良いです、それで良いですからぁ。も~....それじゃ、はい。お外出るのにだっこしないとですから...だ~め、仮にも危ない所なんですから。だっこじゃないとお外には出しませんよ?これ以上我儘言わないでください?...はい、わかっていただければ良いのです、分かっていただければ...ふふっ♪」

 

師匠の表情は和らぐどころかまるで溶けていた。

そして師匠が駕籠の扉を開くと、一人の少年を抱きかかえてこちらに向き直った。

 

わたしはその少年に眼を奪われた。

かぼちゃの馬車のような駕籠から出てきた一人の年下の幼い男の子。

周りをキョロキョロと見回している短い綺麗な黒髪をした男の子。

その子を見た瞬間、わたしの中で何か普段感じたことがないような感覚が渦巻いた。

腰が浮くような、膝辺りがふわっとするようなそんな不思議な感覚。

 

そう、御屋形様。

これがわたし達と御屋形様が初めて顔を合わせた瞬間だった。

 

「控えなさい。鎮守次期総領の御前です....ふんっっ!!」

 

「いや...いちいちそんな声高に言わなくてもいいから....って何やってるの!?」

 

師匠は声高らかにわたし達に言うと、そのまま左腕で御屋形様を抱きかかえながら右腕で空を切る。

その瞬間、周囲から紙が集まってきてわたし達を縛り上げた。

 

「これは譲れません。このような手合いを前に若様の姿を晒すなど本来あってはならないのですからね?これは最大限の譲歩です。」

 

「えぇ....そ、それじゃ縛っているのは良いや...いやよくはないけど。取り敢えずこの人達縛られてるし、もう危なくないんでしょ?その..離してもらえると.....。」

 

「....まだ何が起きるか分かりませんから。...すんすん....。」

 

困惑した様子の御屋形様。

そして煮え切らない反応を返す師匠。

今思えば、師匠はあの時御屋形様を抱きかかえて後頭部に鼻を埋めていたような気がする。

まぁ...今でもたまに見る光景だし、その立場であったならわたしだってやるから別に言う事はないなっ!

 

ただ、わたしは目の前の御屋形様を気にしている場合ではなかった。

目の前の男の子を見るだけで、尾骨の辺りがむずつく。

そしてこれは父上から聞いていた真神家の在り方としての話しで心当たりがあったのだ。

これじゃ....目の前の男の子が....。

 

「えっと上からだし、こんな縛った状態で言っても信じてもらえないかもしれないけど...皆さんを傷つけるようなつもりは一切ないです!その...家がなくなってご家族が魔にやられる。その痛みは僕には想像できなくて...だからそのっえーと...今はどうなるか分からないんですけど、絶対に悪いようにしませんから!だから、...僕の家、来ま....せんか?」

 

御屋形様はこちらの様子を伺いながらも、色々と考えながらも私たちに問う。

確かに御屋形様が想像できないと言っている痛み...家がなくなったことはそうなのだが、父上が亡くなったことに対しては別の感情が湧いてきた辺り、御屋形様が思っている物とは違うかもしれない。

ただ、目の前の年下の男の子が私たちの気持ちを完全に分かっていなくても、その眼を見るだけで確かに目の前の彼はわたし達を掬いあげようと...救いあげようとしていることがすぐに分かった。

 

その瞬間、父上が言っていた「真神家は将来仕えるべき人間に傅く為に在る」。

その意味が分かった。

 

下腹部が熱く、締め付けられる。

すぐにでも目の前の御方に膝を突いてへつらえと私たちに迫るかのような発熱。

幼いながらに、この人なんだと。

そう理解するや否や、弾かれるようにムズムズとした感覚と共に仰向けで目の前の男の子にお腹を見せていた。

 

「へっ❤へっ❤きゅぅぅ...クゥ~ン....❤」

 

「はっ❤はっ❤キャゥ...キャウウゥゥゥゥ...❤」

 

はやる衝動を抑えられずに縛られながらも、疼く身体の赴くままに声を出した。

自分のこんな甘ったるい声を聞いたのは初めてだった。

そして自分の隣からも甘い声が聞こえて来た。

横を見れば久遠もわたしと同じく仰向けで蕩けた表情で声を上げていた。

 

三つ子の魂百までとはよく言ったもので、身体が仕えるべき主を知っていた。

本能が目の前の少年を尊いと感じ、傅き媚びていた。

 

「寛大な処遇、感謝致します....そ、それで、そのっ...あ、貴方様のお名前を知れたらな....なんて。」

 

「...なんなんでしょうかこれは。若、やはり先ほどの言葉撤回なさった方が良いと思います。」

 

母上は顔を赤らめてモジモジとしながらその男の子の名前を尋ねる。

その時は衝動からか気にしてはいなかったが、改めて思えば母上のそんな熱っぽい表情を見たのは生まれて初めてだった。

そんなわたし達を冷たい目つきで見ながらも、御屋形様にそう進言する師匠。

そしてそんなわたし達と師匠の間に挟まれて御屋形様は何とも言えない表情をしていた。

 

雲の切れ間から月の光が差し込む。

あれほど届かなかった月の光が今、わたし達を照らしている。

幼かっただけあって、きっと御屋形様はこの時のことを忘れているだろう。

けれど、わたし達にとっては決して忘れられない一夜だった。

 

 

 

夜。

月の光が青白く闇を照らし、微かに辺りも見回せる。

そんな木々が鬱蒼と生い茂る山の中を駆けていく二つの影。

 

股噛結戌に股噛狗遠。

出雲祀里の子飼いの狗であり、私兵でもある双子の姉妹。

母娘にして『畜生道』と呼ばれし3人のうちの二匹が森を駆け巡る。

 

雨が降りしきったことで山の中は地面がぬかるみ、木々の枝もてらてらと輝いている。

お世辞にも足場が良くない場所でありながらも、残像が残る程の素早さで木々の合間を縫うように跳ぶ。

 

辺りはしとしととした雨の音にゴロゴロ轟く雷鳴。

そして獣のような唸り声が所々から微かに聞こえる。

そんな音など意識にないかのように、真っ直ぐにある所へと向かう。

 

そして、暫く森を駆けていくと雨以外の音が聞こえなくなる。

その瞬間、二人は足を止めた。

 

目の前にあるのは大きく空いた洞穴。

暗く先が見通せないが、蝙蝠などの気配がなく妙に小綺麗に整えられている。

そして何よりも穴の両脇に置かれている小さな無縁仏のような彫刻が、そこが普通の洞穴ではないということを示していた。

 

二匹の猟犬が獲物を嗅ぎつけ、主の居場所を突き止める。

洞穴の中へと歩みを進める。

二人は言葉一つ発さない。

洞穴の中は暗く、月の光が届かない。

 

あの日垣間見た地獄の原因である魔から、今度こそ自分達の寄る辺を守る。

これより二人が行うのは、その為の『狩り』なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

主なき屋敷の中。

訪れるであろう夜。

そんな中、二人の女性が本殿の中に居る。

 

「...すぅー....はぁー.....。」

 

表情からどこか冷たい雰囲気を受ける眼鏡をかけたショートカットの女、一条澪。

彼女は本殿の祭壇、まるで家の壁を突き破るかのように根を下ろしてその巨大な幹の一部をありありと見せている大樹。

『鎮守』の根幹を担っている神木。

その幹に彼女は右手を添える。

 

幹は長い時間在り続けたことを表しているかのように太く、表面はまるで荒れた海のようにぼこぼこと波立っている。

そして、澪が手を触れると幹自体が緑色に光る。

その光はゆっくりと澪の右手へと流れ込む。

 

すると、澪の右手にまるで蔓のような紋様が現れる。

その紋様は緑色に輝いたかと思えばすぐに色褪せ、まるで焼き印のように黒い色へと変化した。

 

そんな彼女を後ろから心配げに見つめるおどおどとした様子の女、二条和。

そのまま振り返って本殿から出ようとする澪に心配そうに声を掛けた。

 

「や、...やっぱり行くの?澪ちゃん....?」

 

「当然です。何の為に今まで若様の申し出に対して陰陽道を教えることで応えてきたと思っているのですか?全てはこの時の為....その為に符術による付与しか教えていなかったのでしょう?....いつかやらねばならぬことですから。」

 

「それは...そ、そうだけどぉ.....。」

 

煮え切らない様子を見せる和。

そんな彼女に澪は呆れたように眉根を下ろすと、少しだけ微笑を見せた。

 

「...貴女が心配せずとも、考えてあります。それよりも、分かっているでしょうね?...この後、もしかしたら若様の意向によっては必要になるかもしれない。...いや、まず考えられるあの狐の背景が正しくてそれを若様が知ればまず間違いなく必要になるでしょうね。」

 

「あ、あはは....若くん、や、優しい...もんね。うん...大丈夫。いつもと同じ、蔵書院でのお仕事だもんっ!ふ、普段と違って...探す物が決まってるなら....すぐに、探し出せる...多分、きっと....!」

 

澪の視線を向けると、和もたどたどしいながらも珍しく自信ありげにはっきりと答える。

その言葉を聞いて、澪は笑顔を見せると前を向いて本殿の外へと和を引き連れて歩み出る。

 

「ひうっっ....!?」

 

本殿の外へと出た瞬間、和は引き攣ったような声を出して澪の背中の後ろへと隠れる。

そんな彼女を見て澪は再度呆れた表情を浮かべつつも、和のことを知る以上はその反応をするのも無理もないというようにすぐに視線を外して前へと向き直った。

 

本殿から真っ直ぐ正門へと伸びる石畳みの道。

その先で目を閉じて、仁王立ちしている妖艶な雰囲気の女性。

股噛姉妹の母親にして三匹居る『畜生道』が一人、股噛孕貴。

彼女が一本の刀を携え、立っていた。

 

「...意外でしたね。貴女が自分で行かずに、あの二人に任せるとは。...私からすれば、貴女に行ってもらえる方が確実で助かるのですが。」

 

「...本音を言えば、わたくしが行きたい気持ちもありますわ。けれども...わたくしは女である前に親ですから。あの子達がその気になっているのなら、その気持ちを尊重してあげたい。...それに、結戌は自分の好きな人が攫われた。今行かなければ、あの子はずっと心に助けに行けなかったことが残り続ける。...そうでしょう?」

 

「...そう、まぁ“狐の嫁入り”の影響で起きた“百鬼夜行”現象...それによって活発化した魔の殲滅を貴女がやるというのですからそこに関しては構いません。」

 

和は驚いて澪を見る。

あの澪が、孕貴の言葉に対して嫌味や皮肉を言うことなく受け止めた。

 

澪にとってもあの二人はある意味では自分の生徒のような物。

自らが主の狗としての作法を叩きこんだ子供。

だからこそ、結戌の心を慮った孕貴の選択を彼女は黙認した。

澪自身も決して認めることはないが、心配していたのは事実だから。

 

「それに、戦力的な不安があるのであればお気遣いなく。あの子たちは、強い。それに...万が一があってもわたくしがさっさと魔を殲滅して二人の方へと向かうつもりですので。」

 

「...百鬼夜行によって出現している魔の数はそれこそ膨大なのですが。」

 

「えぇ、ですから“わたくし”ならそれが可能と言っているのですけれど....?」

 

「...」

 

澪は彼女の言葉に黙りこくる。

澪自身、孕貴の力を知っている。

だからこそたとえ甚大な魔を相手にしようが、時間が掛かることはあれど倒しきれないことなどありえないことが分かる。

澪はそういう意味では彼女を信頼している。

故に何も言えなかったのだ。

 

ただ彼女の口ぶりからか、澪は眉を顰める。

そんな表情を見て、やっぱり根本的な所で相容れないんだなぁと和は察する。

 

「それよりも、外に出る前に貴女に聞かなければならないことがありますから....。」

 

「聞きたいこと?今この状況で?私から言わせれば殲滅以外に優先すべきことなどないと思うのですが...。」

 

孕貴の言葉を受けて、澪が言葉を紡ごうとする。

しかし、次の言葉が口から出ることはなかった。

 

孕貴が抜刀。

澪にその切っ先を向けた。

 

「ちょっちょっちょちょっ!!?な、にゃにゃ、にゃにやってるの孕貴さん!!?」

 

「...この機に乗じて気に食わない私を排除するつもりですか?お生憎様。今ここに居る私は、拉致された若様へ効率よく接触する為の式によって再現されて遠隔操作されている現身。この私を殺したところで離れの方に、私自身は居ます。獣らしい醜悪な本性を晒しただけになりますが?」

 

「えっ!?み、澪ちゃ...そうだったの!!い、いつの間に!!?」

 

「...貴女は少し黙っててください。」

 

背後で動揺から噛みまくる和を他所に、澪はまるで挑発するかのような口調で孕貴へと語り掛ける。

しかし、和は先ほどまで話していた澪が澪本人ではなく式神だということに気づかなかった和は驚きのあまり声を上げる。

そんな和の様子を見て、頭が痛そうにこめかみを押さえつつ和に口をつぐむように言い聞かせた。

 

「勘違いなさらないで?わたくしは御屋形様の狗。御屋形様が、あの御方が悲しむことはしない....。」

 

孕貴の視線は真っ直ぐに澪の眼へと投げかけられる。

そんな視線を澪は目を逸らすことなく受け止める。

 

「わたくしはただ、何を企んでいるのかと聞いているのです。その右腕の刻印のような物...わざわざ自分の写し身を使って御屋形様の所へ向かおうとしている。....貴女の御屋形様への想いは知っている。けれど、貴女は所謂“鎮守”に仕える者。いざとなれば、御屋形様ではなく“鎮守”を優先せねばならない。だからこそ、私や結戌、狗遠を“御屋形様”の狗とした。自分がもし“鎮守”を優先せざるを得ない時の為に。...違います?」

 

「....貴女は要するに、今回がそうなのではないかと言いたいのですか?」

 

「.....。」

 

孕貴は黙っている。

その沈黙は肯定を意味していた。

 

「わたくしが行おうとしていることは、確かに“鎮守”に関係があります。...けれど、若様を第一に思った故の私の判断で行おうとしていること。それでも信用できないのであれば....。」

 

澪は一歩前に出て、孕貴が突きつけている刀を掴んで自分の喉へと突きつけさせる。

 

「み、澪ちゃ!!?」

 

何か言おうとする和を手で制す。

刀を握っている左手からは血は出ない。

あくまで彼女の写し身であるから当たり前のことである。

 

「叛意があるとして、拝殿の中の私自身の首を斬り落としなさい。この身は既に若様に捧げた。私自身が若様の脅威となっているというのなら、この命...投げ出すことなど厭わない。」

 

「....そう。それなら、もう言う事はありません....。」

 

そう言って孕貴は目線を外す。

澪が刀から手を離すと、孕貴は刀を納める。

そして彼女達に背を向けると、まるでフッと消えるかのように一瞬で跳躍して門の外へと飛び出していた。

 

「この身を捧げた...か。」

 

「澪ちゃん..?」

 

澪はそんな孕貴を後ろ姿を眺めながら、ぽつりと呟く。

その表情はどこか物憂げな表情。

そんな彼女を見て、和は覗き込みながらも首を傾げる。

そんな和を見てハッとしたのか、澪は直ぐに我に返った。

 

「なんでもありません。私も若様の下へと向かわなければ。とにかく私たちもお互いに出来る事を致しましょう。よろしいですね?和。」

 

「う....うん!澪ちゃんも頑張ってね!....あれ、でも写し身を使っているなら頑張ってるのは澪ちゃんじゃなくて澪ちゃんの式神さん....?」

 

「...色々並行しながらも、私直々にこの式を動かしているんだから頑張ってるのは私で良いでしょう?まったく、貴女はいつも一言が多いんですから....。」

 

やれやれと言わんばかりに肩を竦める。

そして和に背を向けると、このまま数歩歩み出す。

すると足の方からペリペリと人型の紙が剥がれて山へ飛んでいく。

そして遂に最後の一枚の人型の紙が飛んで行った頃には、そこに澪の姿はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「んん....ん~....んぁ....」

 

深く沈んでいた意識が覚醒していく。

それと同時に夢見心地な中でモコモコふわふわと心地の良い感覚が全身を包み込んで、あったかさと同時に何か...そうだ、生前におばあちゃんの家で嗅いだような樟脳のような特徴的な匂いを感じる。

ゆっくりと目を開けた。

 

「ふふふ~ん♪...おっ、起きたか旦那様よ!ん~?何やら寝ぼけ眼と言った様子じゃなぁ~どうじゃ~儂の尻尾の感覚は~?とても気持ちが良いじゃろう?うりうり~♪」

 

僕が起きたのに気づくと、彼女はニコニコと笑顔を浮かべながら僕の両頬を指で軽くグリグリと弄る。

起き抜けなのでどうすることも出来ずに為されるがまま、僕はただ弄られていた。

 

何がどうしてこうなって....?

そんな疑問符が頭を埋め尽くす中、その疑問を解消しようとして周りを見回す。

 

するとそこは古ぼけたような、倒壊寸前の小さな社。

その縁側で僕は狐の魔の尻尾に包まれて寝ていた。

彼女は僕の顔を覗き込みながら、愉快そうに笑っている。

 

起き上がろうとすると、意外にもすぐに尻尾をどけてくれる。

起き上がって初めて分かったが、どうにもこの社...洞窟...ってか鍾乳洞みたいなそんな感じの空洞の中にあるのかどこか薄暗くてひんやりとした空気が漂っている。

 

「キミ、は......?」

 

覚醒したばかりで寝ぼけ眼なまま、思ったことを口に出していた。

僕は、そもそも目の前の魔について何も知らない。

にも関わらず、彼女はまるで僕の事を知っていると様子だ。

それも、旦那様とか呼んで。

だからこそ、つい聞いてしまった。

 

そんな僕の質問を受けて、眼を丸くするも得心を得たようにポンと手を叩く。

...なんかリアクションが古いな。

 

「そう言えば、お互い初対面であるな!儂はうぬのことをずっっと見ていたし、知っておるから頭から抜けておったわ!それにしても...ふふ、伴侶の名前をすぐに知りたいだなんて、いじらしい奴じゃのぉ~。」

 

「え?いや、その....。」

 

「けれどそうじゃな...ここらでこの月の出ている夜、二人きりでお互いの名前を初めて教え合うというのも中々ろまんちっく...って奴じゃな!...使い方合ってるよな....?」

 

ボソリと彼女は呟きながらも、直ぐに僕の方へと視線を向けた。

そして胸に手を置いて、口を開く。

口の端からは鋭い犬歯が見えた。

 

「儂の名前は八重、本当は八重尾金剛御前と言うのじゃが....長いし、八重で構わん!それで、旦那様の名は?」

 

「え...あぁ、僕の名前は出雲祀里ですけど....。」

 

「まつりか!うむ!良い名じゃ!お互い伴侶の名前も分かったことで、これで心置きなく契れるというものじゃ!」

 

そう言って狐の魔は...八重はニコニコと本当に楽しそうに笑った。

契る....伴侶....。

彼女の言葉が、まったく心当たりがない為に要領を得ない。

だからこそ、つい言ってしまった。

 

「あの...契るとか、旦那様とか....一体何のことですか?」

 

僕がそう口に出すと、一瞬八重の動きがピタリと止まる。

しかし、直ぐに彼女の頬が赤く染まった。

 

「な、なんじゃ....わ、儂の口から言わせるつもりか?まったく...旦那様は悪い男じゃの....っ!そ、その....それは当然!わ、...儂とうぬの婚姻のことに決まっておろう....!」

 

「え、こ...婚姻!?」

 

「何を今更驚いておる!儂も今日の為に準備を行っておったが、旦那様だって色々と儂の事を口伝されて花婿修行、手習いを受けたじゃろ?」

 

「い、いやいやしてないですし!知らないんですけど...。」

 

そりゃ、名家にあたる家に生まれたのだから将来はなんか決まった人と結婚することになるだろう。

けれど、既に許嫁が居てそれも魔であるなんてことは聞いたことがない。

それに相手が魔なら澪であれば確実に明言するはずだ。

 

「え...な、何を言って...も~まったくつまらん冗談じゃのぉ~!とぼけんでもよい!ほら、儂じゃ。八重じゃ!5代前の出雲家当主に力を貸したことで現在の出雲家の繁栄に寄与したあのっっ!!」

 

「いや...知らないし、伝えられてないですね....。」

 

そう言うと、八重はまるで信じられないといった表情になる。

そして僕の肩を突然掴んだ。

痛い...それに、魔に突然掴まれて一瞬身構えてしまう。

本性を出したのかと。

けれど、そんな気持ちは直ぐにどこかへと消えて行った。

 

「う、嘘じゃ...わ、儂は出雲家に力を貸したのじゃ...それでその見返りに5代先の当主との婚姻と聞いて長い年月寝て...も、もしそれがなかったら儂は一体何のために...儂の時間は、契約は....のぉ!冗談であろう...?わ、儂の事...知っておるよな....?な?揶揄っておるだけ...そうじゃろ....?」

 

「...っ。」

 

何も言えなかった。

それは、僕が彼女のことなど知らないというのもそうなんだが。

それよりも、僕の肩を掴んでいる八重の顔がまるで焦燥に駆られたような...それでいて縋るような眼で僕に問いかけてくる。

僕にはその表情が、どうしてもこれまでの人を襲うような魔とは重ならなかったのだ。

 

5代前の当主。

僕が知らないご先祖様。

その人との間で、何かあったのだろうか.....?

 

「な、なにを黙っておる!黙ってないで、今のは嘘だと.....っ!?」

 

刹那、視界の端で一瞬人影が現れる。

それは露出度の高い忍衣装に、口元だけの犬の面。

 

股噛狗遠。

手には二本の小刀を持ち、そして目つきはまるで冷たい刀の切っ先のよう。

まるで残像が見えるような、そんな速さで彼女は....僕に詰め寄っていた八重を蹴り飛ばした。

 

大きな破砕音と共に、社をぶち抜いて八重が吹き飛ばされる。

音もなく、気配すらもなく狗遠は僕たちに肉迫していた。

理解が追いつかず唖然としていると、パラパラと横から盛大にぶち抜かれた社から砂埃が落ちる。

 

倒壊する。

そう思った瞬間、僕の身体や視界は細かい紙吹雪のような紙に包まれる。

がっしりと包み込まれて、身動きが取れない。

そして、ふっと紙吹雪の拘束する力が弱まったと思えば紙吹雪がゆっくりと結合してそこから澪が現れた。

 

「無事でしたか、若。良かったです....。」

 

「え、あぁ...うん。」

 

澪は僕を抱きかかえたまま、笑顔を見せる。

それですぐに状況を理解した。

僕は魔に攫われた。

だからこそ、みんなが助けに来てくれたのだと。

 

周りを見やれば、割と移動したようで先ほどが少し遠くに見える。

八重が蹴り飛ばされたことで横からぶち抜かれた影響か、社は哀れにも屋根が落ちて倒壊していた。

それと同時に、蹴り飛ばされて岩壁に激突したことで埋まったのか壁から手を突き出して這い出して来る八重。

そして、そんな八重に今まで見たことがない程に冷たい目つきを向ける狗遠、結戌の二人...股噛姉妹が対峙していた。




今回は戦闘が始まる前の準備パートです。
次回から戦闘が始まります。
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