もし、異聞帯のウーサー君がバグキャラだったら   作:北国の放浪者

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救世主へ贈られる幸せのサプライズ(前編)

 

「明日、逆賊討伐の軍事行動を開始する」

 

 戴冠式から数えて15日目の夜。

 ロンディニウムの城における会議室にて、ウーサーは仲間たちに宣言する。

 

「いよいよですね……」

 

 逆賊討伐の開始を翌日に控え、真剣な表情を浮かべるトネリコ。他の仲間たちも同様だ。

 彼らは現在、軍事行動に関する事前確認を行っている。

 

 会議室に集まっているのは、以下のメンバーだ。

 

 この国の主であるブリテン王ウーサー、彼の妻である王妃トネリコ。

 糸紡ぎの妖精トトロット、黒騎士エクター、元賢人グリム、牙の氏族長ライネックといった救世主一行。

 そして、王の氏族長マヴと、鏡の氏族長エインセル。

 

 まさに、ブリテンの重鎮メンバーが勢ぞろいである。

 

「国軍の準備は万端だ。足を引っ張りそうな反円卓派共は排除済みで、攻略対象たるソールズベリーは行動と情報収集を完全に封じられている。

 俺達が軍事行動を開始するのに理想的な状況だ」

 

 ライネックが簡単に現状を述べると、周りの者達はみな頷く。

 

「ロンディニウムからソールズベリーまでの距離は140キロ前後だ。1日当たりの移動距離が25キロ前後と想定して、6日以内に到着できる計算になる。あくまで順調に進めればという話だが、そう何度も異常事態は起きないだろう」

 

 如何せん、ソールズベリーはこちらが仕掛けた礼装により嵐で封鎖され、加えて風の報せが封じられている。こちら側の動きを把握するどころかソールズベリーからは出られないので、組織的な妨害行為など不可能だ。

 風の氏族とは無関係の者達が妨害してくることも考えられるが、『円卓』は万単位の大軍を動員するのだ。数で少ない彼らに、正面切って邪魔するような度胸はない。

 

「途中で遭遇する可能性のあるモース共は、牙の氏族が先陣を切って蹴散らす。部下の奴らには、戴冠式での汚名をしっかりと返上してもらわなければな。

 無論、俺も存分に力を振るわせてもらう」

 

 さりげなく部下達への辛らつな言葉を混ぜつつ、自らも先陣を切ると言うライネック。

 本来であれば軍の指揮をする立場であるが、今回はウーサーが総司令官なので、前線で率先して戦っても問題は無い。

 

「鏡の氏族は『円卓』の騎士の方々と共に、ウーサー陛下とトネリコさんの周りを固めます。良からぬことを企む妖精に、一切の手出しはさせません」

 

 続けて自分達の役割を述べるエインセル。こちらは、妖精達の思い付きによる暴挙を防ぐ重要な役目を負っている。

 こちらの勢力内における不安要素はしっかりと対策してきたが、それでも信用してはいけないのが妖精という存在だ。用心に用心を重ねるに越したことはない。

 

 ちなみに彼女が留守にしている鏡の氏族の街だが、つい先日にウーサー特性の魔術礼装による大規模な防御結界が張られた。なので、変な気を起こした反円卓派の襲撃があっても大丈夫な状況になっている。

 

 鏡の氏族長の発言に続いて、今度はグリムが自分達の役割を口にする。

 

「お前たちの留守中は、オレ達がしっかりとロンディニウムを守るさ。だから、帰る場所の心配はしなくていい。存分に暴れてこいよ」

「ありがとうございます、グリム。主戦力が抜けた本拠地が襲われるというのは、充分にあり得ることですから」

 

 ロンディニウムに残るメンバーは、グリム、トトロット、そしてエクターだ。主人の居ぬ間に漁夫の利を得ようとする者達への対処は、救世主一行メンバーが行う。

 また、何かあった時の()()()もすでに終わらせていた。抜かりはない。

 

 かつてのトネリコの境遇であれば、自分の傍から仲間たちを離れさせる選択は大きなリスクを伴ったので現実的ではなかった。しかし、現在の彼女は大きく状況が改善されているため問題はない。

 もしトネリコに良からぬ事をしようと考える者が現れれば、たちまち傍にいるウーサーとエインセル、そして周囲を固める『円卓』の騎士達や鏡の氏族に排除されるだろう。

 

「あなた達が『王の氏族』にある程度の自由裁量を与えてくれたこと、北の女王として感謝します。勝利のために、私達の力を存分に発揮させてもらうわ」

 

 マヴが率いる王の氏族は別動隊とまでは言わないものの、それなりに独自の裁量をもっている。牙の氏族と並ぶもう一つの先陣といっても過言ではない。

 一応は師団に分類されているのだが、その規模はむしろ軍団に近いだろう。もし横っ腹から殴りつけられたら、敵は悲惨な目に遭うこと間違いなしだ。

 

 基本的な役割分担の事前確認──これまで決めてきたことの再確認の意味合いが強い──を話すと、ウーサーは現地に到着してからの作戦方針を述べる。

 

「ソールズベリーに到着したら、まずは降伏勧告を行う。向こうは逆賊だが、有無を言わせず攻め落としたら禍根を残すことになるからね」

 

 戴冠式でやらかしたのは向こう側だが、街の住人すべてが意思統一して行われたという訳ではない。そのため、一緒くたに扱うという()()()()をする訳にはいかず、彼らの身の安全の余地をある程度は残しておく必要がある。

 また、事情を知っている者だったとしても、己の身の振り方を考えればという()()()を用意しておくのも必要な事だろう。

 

 こちらは配慮を見せたという()()()()()()は、とても重要だ。

 

「オレが行った()()()()については、こないだ話した通りだ」

 

 そして、青年の言葉を聞いたグリムが言葉を繋げる。

 その表情は真剣そのものだ。陽気な雰囲気など欠片もない。

 

「ソールズベリーには戴冠式より以前から、流言飛語をバラまいておいた。妖精の移ろいやすさは風の氏族も同じだからな、効果はてきめんだ。

 こちらが仕掛けた礼装の嵐で街が封鎖された状況だ、その異常事態が疑心暗鬼に拍車をかけている事だろうさ」

 

 ウーサーの眷属となったことで、グリムの隠密行動および工作活動のスキルは大幅に向上した。そのため、ソールズベリーの風の氏族に一切悟られる事なく、世論工作を仕掛けることが出来た。

 戦闘能力の向上よりも、こちらの方が敵対者にとっては脅威的だろう。

 

「オレもウーサーも、この世論工作はあまり気乗りはしなかったが……確実に相手を攻略するためだ。決着が早まれば敵味方双方の被害を減らせる。

 そもそも風の氏族はこれまで風の報せで情報操作をして、気に食わない相手を排除してきた。今になってオレ達に謀を仕掛けられるのは、まさに因果応報という訳だ」

 

 グリムがそう言葉を結ぶと、再びウーサーが後を引き継ぐ。

 

「降伏勧告を聞き入れればそれで良し。もし敵がそれを跳ね除けても、相手が混乱状態であれば制圧がしやすい。また、敵の内部分裂を引き起こして離反者を出すことも出来る。そうすれば、要らぬ犠牲を減らせるだろう」

 

 一通り話したところで、青年は話の締めに移る。

 

「以上がソールズベリー攻略の基本方針だ。明日に出発する際は、改めて全軍に軍事行動の方針を伝える。もちろん、謀略関連の内容は除いてだ。

 各部隊における細かい行動についても、出発前に再確認する必要がある。ライネックとマヴの方で、部隊レベルの指揮官に通達しておいてほしい」

 

 こうして、ブリテンの重鎮メンバーは本番を前にした事前確認を終えるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「それにしても、最近はモースの出現が落ち着いていますね。これまでのブリテンを考えればとても不思議だ」

 

 打ち合わせを終えた後は、自然と雑談へ移行したブリテンの重鎮メンバー。

 その最中に、トネリコは何気なく最近の疑問を口にする。

 

「確かに最近は少ないな!ブリテンにとっていい事なんだけど、なんでだろう?」

「ふむ。そうなった要因は特に思い当たらないが……しかし、ここ最近の慌ただしさで気付かなかった。我ながら盲点だったな」

 

 トトロットとエクターは少女の疑問に同意を返し、そして疑問を付け足した。

 二人の言葉を受けたトネリコは、傍らの夫に問いかける。

 

「ひょっとしてウーサー君、何かしましたか?」

 

 もはや彼女の中でウーサーは『何かおかしい事があったらこの男性(ひと)が原因では?』と考えるクセがついてしまった。これまでにおける青年の行いの賜物というヤツだろう。

 しかし、流石に今回は考えすぎであったようで、青年は穏やかに否定する。

 

「いや、そちらは時間が無くて手を付けていないな。そもそも出現を抑える手段が、現時点では思いついてないし」

「……なんか時間が経てば思いつきそうなのが、あなたの恐ろしいところだなあ」

 

 返答からして、将来何かやらかしそうに思えるのは気のせいだろうか?

 誠に、日々の行いの賜物というヤツだろう。

 

「ははは、流石にそれは買いかぶり過ぎだよトネリコ。というか、妻に『恐ろしい』と言われてしまったら、僕は夜に枕を大量の涙で濡らしてしまうのだけれど」

「え?それは流石に引きます」

「ああ、なんということだ。僕の妻が容赦ない」

 

 ちょっとした軽口を応酬するトネリコとウーサー。随分とくだけた雰囲気になっていた。

 周囲の者達は、その様子を穏やかな雰囲気で眺めている。

 

「トネリコさんとウーサー陛下のああいう会話を見ていると、嬉しくなります」

「ふふ、見ていて悪い気はしないわね。ウーサーの方は他所だと『理想の騎士』とか言われてるから、見る者によっては違和感を覚える光景でしょうけど」

「あいつが『理想の騎士』か……信じている奴を捕まえて、何時間もかけてじっくりと真実を教えてやりたいくらいだ……」

「あはは。まあ、ライネックさんもそこは慣れだと思います!大丈夫、慣れれば大丈夫ですよ!」

「エインセル……俺は慣れたくないなあ……」

 

 鏡と王と牙の三氏族の長も、和やかに言葉を交わしていた。その一人であるライネックは途中で遠い目をしていたが。

 

 為すべきことは残っているものの、それでも平和なひと時が流れていた。

 

 

「ふふふ……戴冠式はケチがついてしまいましたが、それでも無事にここまで来れました。とても感慨深いですね。

 まだ大きな山場は残っていますが、ここにいる皆となら乗り越えられそうです」

 

 

 トネリコは決して気を緩めたわけではないが、彼女の見通しは明るいものだった。

 

 

「ソールズベリーを何とかしたら、ウーサー君による本格的な統治が始まります。今度こそ、新たなブリテンの幕開けです」

 

 

 救世主として何度も苦難に見舞われてきたが、その苦労がようやく報われる。

 ようやく……ようやくだ。

 

 

「この新たなブリテン──理想の国は、末永く続いていかなければいけません」

 

 

 そして、せっかく叶った夢がすぐ壊れてしまっては駄目だ。これからも続くよう、盤石にしなければならない。

 

 

「ウーサー君に残された寿命は10年にも満たない……この問題を、放置はしておけないでしょう」

 

 

 だから……()()()()の解決は必須であった。

 

 

 自分が夢見た理想の国が、末永く続いていくために。

 そして──()()()()()()()()()()()()のために。

 

 

 

「ウーサー君の寿命の問題……それは、この私がしっかりと解決します」

 

 

 

 トネリコの宣言が会議室に響き渡った直後。

 仲間の一人が、大歓声をあげる。

 

「おお!トネリコ、ついに決めたのか!」

 

 そう言ってテンション高く反応したのはトトロットだ。その勢いで嬉しそうに続ける。

 

「たった10年未満で夫婦生活が終わるだなんて、ボクは勿体ないと思ってたぞ!トネリコが本気を出せば、ウーサーの寿命を延ばして夫婦生活を続ける事くらい出来ると思ってたんだわ!」

 

 ……トネリコが密かに抱いていた()()()()()()であるが、トトロットにアッサリと見抜かれてしまう。

 隠し切れなかった少女は、頬をほんのりと赤くする。

 

「……なんで、()()()がわかってしまうかなあ」

「わからないわけないでしょう。あなた、そういうところは抜けているのね」

 

 呆れた顔を見せてくるマヴ。

 その表情は、女ならわからないわけないだろうと物語っていた。

 

 そんな北の女王に()()()()()()()()()を見せるトネリコ。

 実は救世主の少女なりに、あえて幸せオーラを全面に出さないよう気を遣っていたのだが……

 

「あはは……私も流石に、『10年は短すぎる』と思ってしまいまして……」

 

 見抜かれてしまったのだから仕方ない。トネリコはかなり控えめながらも照れた表情を見せる。

 

 結婚が決まった直後は、ウーサーの寿命について『そういうものだ』と受け入れていた。それがこのブリテンに生きる人間の寿命だから、仕方のない事だと。

 だが、一緒に過ごしているうちに『そんなに早く終わるのは嫌だ』という想いが強くなり、解決策を練ることにしたのだ。

 

「今までブリテンを救うことに邁進してきましたが……私も、その……まあ女だということで」

「いいと思います!トネリコさんは頑張ってこられたのですから、もっと我儘を言っても良いかと!」

 

 トトロットに続いて歓迎の声をあげたのはエインセルだ。その言葉の通り、トネリコの頑張りが報われることを願ってくれている。

 

「ありがとうございます……まあ、ウーサー君の寿命対策が新たなブリテンに必要というのは、本当の事なんですけど」

 

 トネリコの個人的な願望とは別に、ウーサーが10年も経たずに寿命を終えてしまうのは色々と問題があった。

 

「ウーサー君抜きのブリテン統治を考えると、様々な問題が発生することが予想されます。タガが外れた妖精達による争いの勃発や、反円卓派による反体制活動の活発化など……それらの問題を発生させないよう対策するのに、10年未満だと些か心許ない。なので、寿命問題を解決して先手を打ちます」

 

「なるほど。個人的な理由と公的な理由、そのどちらも兼ねてということね」

「そういうことです」

 

 マヴの言葉に頷くトネリコ。妖精達の()()()を知っているだけに、先を見通して手を打っておくに越したことはない。

 

「そんなわけで、ウーサー君の寿命を延ばしてブリテン統治の安定性を確保します。そして──」

「ウーサーとの結婚生活を続けて幸せになるんだな!凄くいい事だぞトネリコ!」

「えーと、トトロット……そう直球で言われると、恥ずかしいというかなんというか……」

「なんだよー。今更恥ずかしがる事ないだろー」

「そ、そうは言うけど……」

 

 自分で言って恥ずかしがるトネリコに、軽くからかうトトロット。心温まるやり取りである。

 

「今の話を聞けて安心したぞ!かなり以前に『新しいブリテンを見届けたら楽園に帰る』とか言ってたからな!ウーサーと結婚したから、流石にその考えは変わったと思っていたけど!」

「えー!?トネリコさん、そんなことを言ってたんですか!?」

 

 かつての発言を聞かされて驚愕するエインセル。その様子を見ながら、トネリコは苦笑せずにはいられなかった。

 

 あの頃は妖精達に裏切られ続けたことの積み重なりで、精神状態があまり良くなかったのだ。それゆえ発言内容に明るくない要素を含むことが多かった。

 それと、ウーサーへの想いをあまり自覚していなかったことも要因としてある。

 

「流石に、新郎を放って楽園に帰るだなんてしませんて。私って欲張りなんですよ?こう見えても魔女なので」

 

 現在ではそのような事はない。せっかくウーサーと結婚したのに楽園に帰るだなんて、そんな選択は絶対にあり得なかった。

 

「それにしても、人間の寿命を解決だなんてとても興味深いことね。北の妖精を統べる女王として、ぜひその具体的な方法を聞いてみたいわ」

 

 興味津々といった様子で聞いてくるマヴ。その態度に、不自然さは全く見られない。

 

(やっぱり、マヴは気になるよね……)

 

 ただ、内心では人一倍興味を持ってそうだ。表情や仕草に現れていなくても、それは予想できる。

 

(ウーサー君の寿命問題は大事な話だから、マヴに言わないという選択肢はなかったけど……)

 

 ブリテンの統治にも関わるから、むしろ黙っている方が良くないだろう。

 とはいえ、気遣いをしないわけにはいかなかった。

 

 なにせ1600年目の『夏の戦争』で、()()()()()が起きたのだから……

 

「どうしたの?いきなり考え込んで」

「ああ、いえ。なんでもありません」

 

 当人が何事もなさそうに振舞っているのだから、こちらから触れるべきではないだろう。

 トネリコはそう判断し、話を解決策の説明へと入る。

 

着名(ギフト)の術式を改良したもので、妖精の長寿要素のみをウーサー君の肉体に付与します。着名の機能そのものは、不要なので削除しました」

 

 ブリテンの統一王であるウーサーに真名の隠匿など不要だし、当人のバグっぷりから強化のための着名も必要ない。むしろそれらの機能はウーサーの弱体化を招いてしまう可能性があるため、トネリコは不要だと判断した。

 

「単に纏わせるだけだと剥がされたら効果が無くなるので、肉体の細胞に馴染ませて()()()()()()寿()()()()()()()()()

 

 生物の設計図に定められた寿命を()()()()()──そんな高等スキルを、何でもない事のように口にする救世主の少女。

 ウーサーのバグっぷりばかり目立つが、トネリコの天才ぶりも相当ヤバい次元だろう。

 

「それをこの忙しい合間にやっていたのか。お前は本当に大したものだ」

「やっぱりトネリコは凄いな!魔術を使わせたら右に出る者はいないんだわ!」

 

 エクターとトトロットが感心すると、トネリコは少しだけ照れた表情を見せる。

 

「ベースとなる魔術はすでに使えますからね。そこに多少のアレンジを加えれば、これくらい短時間で出来ます」

「その手腕は流石ね。私が同じような事をしようとしたら相当苦労するでしょう」

 

 マヴとて力ある妖精だから、自分にあった方法さえ見つければ実現できるだろう。トネリコよりも難易度は高いだろうが。

 

「伸ばせる寿命だけど、一体どれぐらいなの?」

 

「現段階の術式で300~400年は軽くいけます。術式にさらなる改良を加えれば、1000年以上にすることも難しくありません」

「すでにそのレベルを実現していると。本当に大したものだわ」

 

 ソールズベリー攻略前にそこまで済ませているとは。

 トネリコの仕事の早さに、舌を巻かずにはいられない。

 

「ただ、あまり肉体寿命を長くすると、魂の疲弊をどう防ぐかという問題が発生します。数百年くらいなら大丈夫ですが、1000年以上となると対策は必要ですね」

「あなたのことだから、それも対策は考えているのでしょう?」

「もちろんです!まあ、ウーサー君がどこまで長生きすることを良しとするかですね……そこはしっかりと確認しますし、尊重します」

 

 ウーサーはブリテン異聞帯の人間だから、本来の人生観は30年くらいだ。それ以上に見積もっても、数十年くらいだろう。いきなり寿命を数百年レベルに出来ると言われても、心情的にあっさりと受け入れるのは難しいかもしれない。

 トネリコはウーサーに長生きしてもらいたいが、自分の願望を過剰に押し付ける気はなかった。

 

(とは言っても、流石に数十年は短いから……最短でも300歳以上は生きて欲しいなあ。

 ……うん、そうだ。それぐらいは、我儘を言わせてもらおう。

 それだけの期間があれば、ブリテン統治を盤石に出来るし、私も納得できる。あとは……自分の寿命をコントロールすればいい)

 

 場合に依っては、()()()()()()()寿()()()()()()()()()()()()という選択肢もある。自分の願望を持ちながらもそこら辺は柔軟に考えていたし、その決断をするだけの愛情を青年に抱いているのだ。

 

 まあ、結局のところはウーサーがどう考えるかなので、青年の意思を確認したうえで自分の願望と上手く調整しようと、トネリコは考えていた。

 

 救世主の少女から説明を受けたマヴは、うんうんと珍しい仕草で何度も頷く。

 

 そして……()()()()()()()()()()()()()()()、ウーサー達の方へと顔を向ける。

 

「──で、トネリコはこう言っているけど。ウーサー、あなた何か言う事があるんじゃなくて?」

 

「マヴ……?」

 

 思わせぶりなマヴの態度に、トネリコは頭の上に疑問符を浮かべる。

 そういえば他の男性陣がやけに静かだなと疑問に思い、彼女は視線を動かしてみると───

 

 

 頬に汗を垂らしながら気まずそうに視線を逸らすウーサーと、それを呆れた表情で眺めるライネックやグリムの姿が目に入った。

 

 

「……うん??」

 

 その様子を見たトネリコは、思わず疑問の声を漏らす。

 おかしな光景が広がっているけど、これは一体どういうことだろうか?

 

「だから言っただろう。別に悪くない内容なのだから、早めに報告した方がいいと」

 

 その表情と同様に、呆れた声をあげるライネック。そんな友人に、ウーサーはやはり気まずそうな様子で言葉を返す。

 

「いや、その……この後、ちゃんとトネリコに報告しようとしてたんだよ?ただ、仕事が忙しかったから……このタイミングまで後ろにずれてしまっただけで……」

「……今は大事な時だから、その優先順位付けは間違ってないが……言い訳が駄目な男の典型例だぞ」

「は、ははは……面目ない」

 

 この男は有能なのに、どうしてこう抜けているところがあるのだろうか。ライネックはため息をつきたい気分になってしまう。

 そのやり取りを見たグリムが、同じく呆れながらも軽口を交えて言ってみる。

 

「流石に『実はまたサプライズを考えていた』とかいうオチじゃないよな」

 

 それは彼なりにウーサーを和ませるための軽いジョークたったが、聞いた当人は「とんでもない!」と慌てだす。

 

「いくら何でもやらないよ!?こないだトネリコに怒られたし!僕だってデリカシーくらいある、筈だ……多分!」

「そこは断言しろよ……」

 

 青年の答えは実に格好のつかないモノであった。グリムは「今の軽く流せば良かったんじゃね?」と再び呆れてしまう。

 続けてマヴが、恋愛経験が豊富な女性として軽く忠告する。

 

「女へのフォローは甘く見たら駄目よ。しっかりやっておかないと、どこで地雷が爆発するかわからないんだから」

「ああ、うん……肝に銘じておこう……」

 

 この女性からそう言われてしまえば、ウーサーとしては頷かざるを得なかった。

 

「なんだなんだ、ウーサーどうしたんだよ」

「やけに気まずそうだな。何かあるのか?」

「ライネックさんとマヴさんとグリムさんは、すでに事情をご存じのようですが……」

 

 事情を知らない他の三人は、頭の上で疑問符を浮かべていた。

 

 同じく訳が分からないトネリコは、戸惑いの声をあげる。

 

「あのー、これは一体どういう事なんでしょうか?」

 

 愛する妻から聞かれたら答えないわけにはいかず───というか、仕事に区切りがついたら言おうと思っていたので。

 ウーサーは遅くなったことを申し訳なく思いながら、トネリコに打ち明け始める。

 

「あー、うん。トネリコが僕のために色々と考えてくれてる事はわかった。本当にありがとう。いくら感謝してもし足りない。

 だから今から言う事は君の頑張りに、すこーーしだけ、水を差してしまうというか……いや、悪気は断じて、これっぽっちもないし、僕の報告が今になってしまったのが悪いというか……」

 

「ええと、何かの報告が遅くなったと見受けられますが……忙しい状況が続いていたから、多少の遅れは仕方ありません。なので、出来れば今から事情を教えていただきたいのですが」

 

 自分に伝えるべき事があってそれが遅れたようだと正しく解釈し、トネリコは返答を待つ。

 気まずそうではあるが別に暗い雰囲気ではなく、悪い情報だから言い出せなかったという訳ではなさそうだ。

 

(今の流れだと……寿命関連だよね?様子からして悪い話ではなく、どちらかといえば良い話みたいだし……ひょっとして、ウーサー君も何らかの対策を練っていた?)

 

 トネリコがそんな予想をして答えを待っていると……ウーサーはとんでもない事を言い出す。

 

 

 

 

「すまない、実は僕の寿命問題とっくに解決しているんだ。

 すでに10年どころか数千年レベルで長く生きられる」

 

 

WHAT(ホワット)????」

 

 

 

 

 

 ブリテンの統一王ウーサーからの報告を聞き───救世主トネリコは、思わず片言になるのであった。

 

 

 




 トネリコさんの予想を上回るのがウーサー君です。その方向は斜め上ですが。


 
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