もし、異聞帯のウーサー君がバグキャラだったら   作:北国の放浪者

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ソールズベリーでの戦いですが、今回と次回の2話分で終わります。そしてその後は、戦後処理へと移ります。
 


進撃の『円卓』達

 

 ソールズベリーの住人達のうち、人間や正気の妖精──悪妖精化していないという意味──を出来るだけ保護しようと動く、偵察部隊に扮するトネリコの分身達。『保護』という言葉だけ捉えると、とても慈悲深く聞こえるが……もちろん、そんな事はない。

 

 そのやり方は、実に豪快だった。

 

「どわあああぁぁぁぁ!?」

「うひゃあああぁぁぁぁ!?」

 

 魔術の行使で突風が吹き荒れ、周囲に散らばる者達が強制的に一箇所へ集められる。そのやり方は荒っぽく、ふんわり優しく運んであげようというような気遣いはなかった。

 考えてみれば当然の事で、ソールズベリーの住人達の大半が反円卓派だ。トネリコはその事実を忘れていない。街が丸ごと滅びるのは行き過ぎだと考えていたが、だからと言って過度に労わるつもりはなかった。

 それでも、頭や背中を打ち付けない程度の配慮はしている。打ち所が悪くて死なれたら寝覚めが悪いし、後々面倒な事態になるからだ。

 

 ある程度の数が集まったら、分身による魔術の行使で保護結界を構築。これにて、彼らの身の安全を確保する。

 これは同時に、良からぬ事──背後から攻撃するなど──を企むであろう者の行動を無効化するという意味合いもある。

 

「お、おのれ……これでは、奴らに一矢報いる事が出来ない……!」

「くそぉっ……俺たちの動きを封じて、何もさせないつもりか!?」

 

 とまあ、こういう輩──未だオーロラへの崇拝を捨てきれない者──が少数ながらいる訳だ。敵対者だからといって放置しておくと、後々厄介な事になる。動きを封じる必要性がわかるというものだろう。

 彼らは殆どが人間である。妖精もいない事はなかったが、その数は割合的にごく僅かであった。

 

 こういった敵意ある者達の保護結界には、『この者達は敵対姿勢あり。警戒心を持って対応にあたれ』としっかりラベリングされていたりする。

 

 また、暴動が起きた事への怨嗟を口にする者達もいる。

 

「奴らのせいで、ソールズベリーはこうなったのに……!」

「今更、保護者面する気か!?」

 

 確かにソールズベリーでこのような無秩序極まる暴動が起きたのは、『円卓』率いる討伐軍のプロパガンダが原因だ。しかしそこには、そうされる原因を作ったのが自分達であるという視点が抜けていた。

 

 こういった者達の保護結界にも、前述の要注意のラベリングがされている。

 

 

 このように、碌でもない反応を示す者達がいるわけだが……

 その逆の反応を示す者達の方が、圧倒的に多かった。

 

「た、助かった……!」

「もう、反円卓だなんて言ってられない……」

「街の妖精達が、あんな恐ろしい連中だなんて……」

 

 すでに心が完全に折れた者達は、助かった事に安堵していた。

 

 人間達の多くはオーロラへの感情を完全には切り捨てておらず、反円卓感情はあったが……状況が状況だ。『円卓』に敵対姿勢を示す気力はもう残っていない。

 

 そして、正気の妖精達はより顕著だった。

 

「ありがとうございます、ありがとうございます……!」

「私達は、オーロラ様──いや、オーロラではなく、ウーサー陛下に忠誠を誓います……!」

 

 感謝を示すのはもちろん、中にはウーサーへの忠誠を示す者もいた。風の氏族の妖精も同様である。

 

 心が折れた者達の中では、討伐軍はすでに敵対する相手ではなく慈悲に縋る相手へと変わっていた。圧倒的な戦力差──あるいは組織力の差──があるのだから、無理もないだろう。

 

 こういった心折れた者達の保護結界には、『ほぼ敵対姿勢なし。ただし、油断するべからず』のラベリングがされている。

 

 ウーサーの加護で強化された妖精眼は、存分にその効果を発揮していた。

 

 

 保護活動を行う偵察部隊──姿を擬装したトネリコの分身達──であったが、仕事はそれだけではない。

 

 

「殺してやる殺してやる!俺をこんな目に遭わせやがった奴らはみんな死ね!」

「私以外はみんな敵よ!全部いらないわ!」

「どいつもこいつも俺に迷惑かけやがって!全部駆除だ!」

 

 

 正気を失って無秩序に暴れる妖精達。すでに悪妖精化してしまった者達だ。

 ただでさえ妖精という存在は自分本位なのに、こうなってしまったら意思の疎通さえ成り立たない。

 

 分身を介してその光景を見たトネリコは、ウンザリした気持ちになる。

 

(言葉を口にしていても話が通じない、というのは本当に厄介だ)

 

 こうなってしまった妖精は、もうどうしようもない。正気に戻る事はないのだ。

 そもそも、彼ら彼女らに時間をかける訳にはいかない。出来るだけ早くソールズベリーの状況を整えなければいけないのだから。

 

 なので───

 

 

「「「ぎゃあああああああああ!!!!」」」

 

 

 姿を擬装したトネリコの分身達は、なんの躊躇もなく魔術による砲撃を放つ。その威力は凄まじく、さらには絨毯爆撃じみている。

 それでいて、保護した者達は一切巻き込んでいない。彼らに張った魔術障壁に、何ら傷を付けていないのだ。なんと精密極まるコントロールだろうか。

 

 そんな砲撃によって、容赦無く焼き払われる悪妖精達。自然の具現化だろうが神秘の塊だろうが、そんな事は救世主の力の前には無意味だった。

 

 トネリコの分身達の凄さは、それだけではない。

 

「畜生!ちっとも攻撃が届かない!」

「なんで!?どうして!?後ろから攻撃しているのに防がれるなんておかしいわ!」

「全部防がれる!なんなんだよあの障壁は!あんなの卑怯だぞ!?」

 

 妖精なので中には遠距離攻撃を放てる者もいる訳だが、そのことごとくが分身達を覆っている魔術障壁によって防がれている。

 それは全自動発動型の障壁で、術者が意識する事なく防御できる優れものだ。不意打ち対策にはもってこいだろう。

 この術式は、これまで悪意に晒されてきたトネリコの身を案じて、ウーサーが基礎を構築したものだ。それをトネリコ自身がさらに性能を高めて、現在の完成度となっている。

 

 余談だが、この魔術障壁は汎人類史の某魔術師殺しが使う起源弾のようなもの──魔術回路だけでなく妖精紋様まで効果を発揮するという前提──まで無力化する優れものだ。そのようなレベルの術式を構築する辺り、ウーサーだけでなくトネリコもバグキャラだと言える。

 

「動きが速すぎる!全然捉えられない!」

「あんなに速く飛ばれたら、どうしろって言うんだ!?」

 

 攻撃や防御に留まらず、機動力も凄まじい。飛行魔術を駆使して、空中を縦横無尽に飛び回る。とても速く、そして小回りが利いているため、悪妖精達は一向に捉える事が出来ない。

 

 

「「「う、うわああああぁぁぁぁ!!??」」」

 

 

 トネリコの分身達に苦戦の色など一切無い。狂気に身を落とした妖精達は、抵抗らしい抵抗など出来ず、一方的に焼き払われていく。

 そんな状況に、狂気に染まった身でありながら当事者達は焦燥と恐怖に苛まれてしまう。

 

 悪妖精化した者達の数は万単位で、すでに過半数どころか三分の二に届きそうなレベルであったのだが……

 それが、瞬く間に数を減らしていく。

 

 

 力の差は、圧倒的であった。

 

 

 その光景を見た住人達の多く──すでに『円卓』やウーサーへ忠誠を示す者達は除く──は、人間と妖精の違いを問わず戦慄に震える。

 

「お、俺達は……こんな()()()()()を、敵に回していたのか……!?」

 

 これだけの数の悪妖精を一方的に屠るなど、あまりに次元が違い過ぎた。自分達はなんて無謀な事を考えていたのだろうかと、今更ながらに後悔が押し寄せてくる。

 

 

 ソールズベリーの人間達はもはや、残っていたオーロラへの崇拝や尊敬を切り捨てねばならなかった。

 そして正気を保っている妖精だが、こちらはその移ろいやすさ──風の氏族であろうとそこは変わらない──からオーロラへの感情はとっくに切り捨てていた。

 

 

 戦慄に震えるソールズベリーの者達を分身越しに確認しながら、トネリコは厳しい表情を見せる。

 

(……人間達の遺体が多い)

 

 悪妖精化した者達のターゲットになったのだろう。街のそこらで人間達の亡骸が転がっている。

 何故このような光景が多く見られるかは……考えるまでもない。

 

 

「オーロラに従い続ける人間共を許すな!」

「奴らはオーロラ共々、俺達の敵だ!絶対に生かしておくな!」

「厄介な役立たず共を始末しろ!」

 

 

 自分達ほどオーロラを拒絶していない人間に対し、悪妖精化した者達が殺意を強く向けていたからだ。

 知性の欠片もなく、ただただ己の悪感情をぶちまけていた。

 

 その醜悪な有様に、分身にまで苦い表情が伝播する。

 

(予想はしていたけど……とても嫌な気分になる)

 

 繰り返しになるが、この暴動を引き起こした討伐軍のプロパガンダは、風の氏族が先に逆賊行為を働いたという前提がある。ウーサー率いる『円卓』としては、必勝のため打てる手を打ったまでの事だ。

 

 とはいえ……分身を通して見た光景に自分達が関わっているのは、紛れもない事実であった。

 

(その事実から、目を逸らしてはいけない)

 

 込み上がってくる不快感を真摯に受け止めて、トネリコは分身を使って悪妖精達を焼き払う。

 

 

「「「ぐぎゃあああぁぁぁぁぁぁぁ!!??」」」

 

 

 トネリコに思うところがあろうと、悪妖精達の末路は変わらない。断末魔の絶叫と共に、彼ら彼女らは今代を終わらせられる。

 

 重ねて言おう。苦戦の色など、一切無いと。

 

 ぶっちゃけた話、この一方的な展開を第三者が見たら、『もうトネリコ一人で充分じゃね?』と呆れた口調で言いたくなるだろうが……

 

(さて……そろそろ動いてもらいましょうか)

 

 まあ、討伐軍という体裁を考えると、そういう訳にはいかないのだ。

 

 ローブで身を包んだ見た目怪しげな偵察部隊だけで事を済ませたら、討伐軍の妖精達から疑念を抱かれるだろう。また、前線部隊である牙の氏族と、独自裁量を持った部隊である王の氏族、この2つの部隊の面目を潰す事にも繋がりかねない。

 

 なので、ここら辺で牙の氏族と王の氏族がソールズベリー内へ進軍し、続いて討伐軍の本隊──ウーサー率いる『円卓』の騎士達と鏡の氏族で進軍するのがベターだ。

 

 

 だから───

 

 

「ウーサー君!状況は整いました!」

「良し!これより前線部隊をソールズベリーへ進軍させる!ライネックとマヴに連絡してくれ!」

「了解です!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ついに進軍の時か!」

 

 トネリコから連絡を受け取ったライネックは、牙の氏族の部下達に進軍を宣言をする。

 

「司令部より指示が来た!これより我らは、ソールズベリーへ進軍する!!」

 

「「「おおおぉぉぉぉぉ!!!」」」

 

 訪れた『その時』に、雄叫びをあげる牙の氏族の戦士達。闘争心を燃え上がらせる。

 

「目指すは正門だ!本来なら罠を警戒せねばならんが、その必要がない事は偵察部隊が確認済みだ!また、ソールズベリーの連中にその余裕もない!一切油断せずに掛かれば、牙の氏族が遅れをとる事などないだろう!」

 

 暴動による大混乱やトネリコの分身達による鎮圧活動で、ソールズベリー側はもはや組織的な抵抗など不可能であった。正門から街の中へ進軍しても、なんら問題ない。

 

「獣のようにではなく、王の剣として振る舞え!!牙の氏族が、誇り高き戦士である事を示すのだ!!

 

 

 それでは、行くぞぉっ!!!」

 

 

 ライネックの号令と共に、雄叫びをあげながらソールズベリーへ進軍していく牙の氏族。

 いよいよ……ソールズベリーの街へ、討伐軍が足を踏み入れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ようやく、この時が来たわ!」

 

 そして、牙の氏族に届いたのと同時刻に、王の氏族にも進軍の指示が届く。それを受けて、マヴは戦意を燃え上がらせる。

 

(トネリコの分身達が暴れ回っていると聞いた時は、全部片付いてしまわないか心配したけど……流石にそこはわかっていたか。

 あの娘、聡明なんだけど猪でもあるから、そのまま勢いで終わらせかねないのよね)

 

 本人が聞いたら確実に遺憾の意を表明するであろうことを考えるマヴ。まあ、牙の氏族や王の氏族の面目を潰しかねないから、流石に配慮を怠らなかったようだ。

 

 マヴはトネリコの力をよく知っている。それがウーサーの眷属化で大幅に強化されたのだから、救世主の活躍だけで全て終わるのではと考えるのも無理はなかった。

 

(それにしてもトネリコったら、よくソールズベリーが滅びてしまわないよう動く気になったものだわ。あれだけの事をされたら、普通は見捨ててもおかしくないのに……

 ふふふ……そんな娘だからこそ、救世主なんて割に合わない事を続けてきたんでしょうね)

 

 長年に渡って好敵手であり続けた少女の在り方に賞賛の笑みを零した後、マヴは配下の者達を鼓舞する。

 

「ようやく王の氏族の出番よ!あなた達、準備は出来てるかしら!?」

 

「もちろんです!」

「我々『王の氏族』の力を、存分に示しましょう!」

「北の妖精たる我々に、怖気付く者などいません!」

 

 マヴに従う妖精達──彼女から力を分け与えられ『北の妖精となった者達』が、次々と勇ましい声をあげる。

 かつて『春の戦争』で根絶やしにされた北の妖精とは存在が異なるが、マヴの力を与えられ、その勢力を存分にアピールしていた。

 

 自分の配下達の反応に満足気にしながら、マヴは北の女王としての覇気を漲らせ、皆を鼓舞する。

 

「その意気や良し!我が手足である北の妖精に、弱兵など一人もいない!

 これより我らは、新たなブリテンに仇なす者達を打ち払うため、ソールズベリーへ進軍する!!」

 

 マヴの声に戦意を高揚させる北の妖精達。そんな配下の者達に、彼女は具体的な進軍の方針を示す。

 

「牙の氏族は正門から攻めるので、我らは副門から攻める!焦らず慌てず、これまでの訓練通りに秩序立って進軍しなさい!敵は大混乱しているから、慢心せずに挑めば、必ずや勝利を得られるでしょう!」

 

 その見通しは誇張でも何でもなく、順当なものであった。

 

「北の妖精ここにあり!!私達『王の氏族』には、それだけの力があるっ!!

 では、これより進軍を開始する!!みんな行くわよ!!!」

 

「「「オオオオォォォォーーーーーー!!!!」」」

 

 

 マヴの号令と共に、王の氏族の者達は副門に向けて進軍を開始する。その動きはこれまでの訓練だけでなく、マヴの統率力の賜物でもあった。

 

 部隊を進めながら、マヴはトネリコの分身を使った活躍ぶりを再び思い浮かべ、そしてウーサーによる『眷属化』に考えを巡らせる。

 

(それにしても……ウーサーの力は、私の力と似ている。私が妖精に血を与える事で力を分け与えて王の氏族とするのに対し、彼は特殊な権能と強大な魔力で相手を強力な臣下とする……)

 

 マヴの方が氏族という勢力を広げるものであるのに対し、ウーサーの方は強力な側近を増やすといったところだ。

 

(私の力を少数精鋭向きにした感じに近い、か。あくまで、『現段階では』と注釈がつくけれど)

 

 あのバグキャラと化した青年の事だ。後々で眷属化の対象となる範囲が拡大していく事もあり得る。

 

 あの青年はまさに、『王』に相応しい存在と言えるだろう。

 

(……不思議なものね。まさか人間で、私と似た力を持った者が現れるだなんて)

 

 もっとも、力の強大さはあちらが上なんだけれど。

 

 人間でありながら自分より強大な存在となった事に、若干の悔しさを覚えなくもないが……あの青年に関しては、競争意識を持つだけ無駄だろう。

 

(ま、後々考えることか。今は、ソールズベリーへの進軍に専念しましょう)

 

 そう考えてマヴは思考を完全に切り替え、部隊の指揮に専念し、副門に向けて進軍するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 前線で牙の氏族と王の氏族がソールズベリーへ進軍していく中、ウーサー率いる本隊──『円卓』の騎士達と鏡の氏族も、前進を開始する時がやってきた。

 

「──さて、僕達も動くとするか」

 

 ウーサーはそう呟き、前線でライネックやマヴが行ったのと同様に号令をかける。

 

「我が指揮下にある、『円卓』の騎士達と鏡の氏族の妖精達よ!前線にて、牙の氏族の部隊と王の氏族の部隊がソールズベリーへ進軍した!我らもその動きに続く!」

 

 若きブリテンの統一王が放つ声に、周囲の者達は真剣に耳を傾ける。

 

「すでに知っての通り、ソールズベリーの秩序は崩壊した!街では暴動が起こり大混乱に陥ったが、制圧するのに支障はない!先行していた勇ましくも強力無比な偵察部隊によって、状況はすでに整理されているのだ!」

 

 ウーサーの話にはさり気なくトネリコに対する賞賛が混じっているが、状況が状況なので、エインセルなどの事情を知る者達はもちろんウーサー当人も、あえて表情を緩めるような事はしなかった。

 さりげなく称賛された当の救世主も同様だ。もしこのような状況でなければ、むず痒いものを感じていただろうが。

 

「ソールズベリーにおける出入りを厳重にし、オーロラ一味の逃亡を防ぐ!偵察部隊によって鐘撞き堂がある建物には監視網が構築済みだが、さらに盤石にしてアリ一匹逃さない!

 そして、先行した牙の氏族や王の氏族と共に、街の要所を制圧していく!すでに秩序は崩壊しているが、トドメに街全体を掌握してこちらの支配下とするのだ!

 同時に、悪妖精となった者達を倒し、後々の憂いを断ち切る!」

 

 そう言いきるウーサーに、周りの者達は皆頷く。

 

 進軍の時が訪れるまでの間に、ソールズベリーの状況に対する心構えは済ませている。ここに至って逡巡を見せる者はいない。

 

 

「ブリテンの未来が、もうすぐ決まる!我々の手で勝ち取るのだ!『円卓』の騎士達と鏡の氏族の妖精達に告げる!

 

 前進せよ!!!」

 

 

 その号令を合図に、ついに動き出す討伐軍の本隊。王の氏族のような単一氏族ではなく、『円卓』の騎士達と鏡の氏族が合わさった部隊でありながら、その進軍はとても秩序立っている。

 本隊の威風堂々たる進軍は、他の妖精達にとって実に頼もしい光景であった。

 

 本隊がソールズベリーへ向かって進軍する中、トネリコは傍のウーサーへ改めて礼を言う。

 

「ありがとうございます。私の意見を取り入れてくれて」

 

 自分のために風の氏族へ怒りを抱いてくれたウーサーにソールズベリーの滅亡防止を進言するのは、トネリコとしても気が引けた。あちらの自業自得な面が強いから、意見を退けられても何らおかしい事ではなかったのだ。

 

 しかし、ウーサーはトネリコの意見を尊重してくれた。

 

「他ならぬ君の頼み事だ。そこに明確な理があれば、聞かない選択肢はないさ」

 

 そう答えるウーサーの顔に、異論の気配など無かった。むしろ自分が融通の利かない強硬派と思われないよう、言動だけでなく思考そのものを律しているくらいだ。

 

 ブリテンの統一王は、苦笑を浮かべながら語る。

 

「風の氏族がした事に対する怒りはある。だが、その感情に囚われて判断を誤るような真似はしない。してはならないんだ。

 

 君の夢を託されて、僕はブリテンの統一王になったのだから」

 

 青年にとって、自分の怒りなど二の次であった。それよりもずっと大事な事が、長年に渡って走り続けてきた妻の夢を叶える事だ。

 その彼女が今後を考えて提案したのだから、その案を採用するのは当然だった。

 

 すぐ近くでエインセルが穏やかな表情で見守っているのを、ウーサーは少し照れくさく感じながら、トネリコに言葉を続ける。

 

「逆賊行為の主犯達であるオーロラとその一派を排除し、風の氏族の組織構造──と言うほど体系化はされてなかったけど、それらを解体して無力化する。そして、二度と反円卓活動が行えないよう、戦後統治を行う。

 この辺りが、落とし所だろう」

 

 主敵の排除はこれからだが、組織構造の解体はすでに風の氏族の諜報網をズタズタにしているため、ほぼ達成済みだ。戦後統治の在り方もすでに見えている。

 あの戴冠式の日にウーサーは『徹底的にやってやろうじゃないか』と決意したが……ここまでやれば、充分に達成しているだろう。

 

 ウーサーの言葉に同意するトネリコ。近くで聞いていたエインセルも同様であった。

 ブリテンを乱す元凶の排除まで、あともう少しだ。

 

「行こう、トネリコ。新たなブリテンを始めるための、最後の仕上げだ」

「はい、ウーサー君」

 

 本隊を進軍させる中、ブリテンの統一王とその王妃は、ソールズベリーを見据えるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦いとは、始める前にどれだけ準備をしておくかで、結果が大きく左右される。

 

 もちろん、現実は不確定要因が絡むため、そのせいで上手くいかない事は多々あるが……最初に戦略的優位を築いた方が圧倒的に勝率を高められるのは、語るまでもないだろう。

 

 ウーサー率いる『円卓』は風の氏族の暗躍に対処するため、戴冠式以前から備えをしてきた。現在の討伐軍の主体となる『国軍』を構築して指揮系統を確立させ、また『円卓情報局』を結成して風の氏族に対するカウンターインテリジェンスを進めてきた。

 

 戴冠式後は逆賊討伐の大義名分を得て、彼らの本拠地であるソールズベリーを結界で封鎖し、同時に風の報せを使った諜報網を一網打尽にした。また、鏡の氏族を始め各氏族を味方につけて『円卓』側を完全なる多数派とし、風の氏族を政治的かつ軍事的に孤立させる事に成功した。

 

 そして、極め付けがソールズベリー到着時に行った情報戦だ。ウーサーや全氏族長による糾弾と、かつてオーロラの従者だった女性による告発が、逆賊達に実質的なトドメを刺した。

 

 

 だから……このソールズベリーの状況は、まさに必然だと言える。

 

 

「降伏しろ!もう抵抗は無駄だ!」

「風の氏族を主体とした反円卓派は終わりだ!」

「これ以上、無益な真似をするな!」

 

「わ、わかった、降伏する!もう絶対に逆らわない!」

「反円卓活動なんてしません!だから、い、命だけは、助けてくださいっ!」

 

 討伐軍の兵達に凄まれ、抵抗の意思がない事を必死に主張するソールズベリーの人間達。この状況ですでに心は折れていたので、無駄な抵抗をしようとする者は殆どいなかった。

 この期に及んで反抗の意思を見せる者は極めて少数で、そもそも彼らは保護結界で閉じ込められており、かつ結界のラベリングで注意喚起されているため、不意を突かれる心配はない。

 

「僕達妖精は、ウーサー陛下に忠誠を誓います!」

「新たなブリテン王、バンザイ!」

 

 人間と比べて妖精達は実に現金なもので、それは風の氏族の妖精であろうと変わらない。かつてオーロラを称賛しておきながら、今では手の平を返してウーサーを称賛している。

 良識ある者なら『数刻前の自分を振り返れ』と言いたくなる事、間違いなしであった。

 

「お、俺達は騙されていたんだ!そうでなかったら、は、反円卓活動なんてっ、する訳ないじゃないかぁ!」

「そうよ、そうなのっ!ぜ、全部全部、オーロラとあの女の部下達が悪いの!私は悪くないのよぉ!」

 

 ちなみに、逆賊行為に加担していた妖精達の中で未だ正気を保っていた者は、勝手な言い訳をしたり責任転嫁をしている。誠に見苦しい限りだ。

 そのみっともない有様に、まともな倫理観を持つ者達は怒りや軽蔑を抱いたり、あるいは呆れを感じていた。

 

 そして、悪妖精化した者達に対する対処はというと───

 

「悪妖精化した者達は、しっかり討ち果たせ!」

「新たなブリテンに禍根を残してはダメよ!」

 

「コノ野郎、コロシテヤ──ぎゃあああっ!?」

「お前らナンテ、処分シテヤ──ぐわぁっ!!」

 

 このように、順当に討伐されていった。

 

 すでに偵察部隊扮するトネリコの分身達によって多くが掃討されていたので、ライネックが指揮する牙の氏族やマヴが指揮する王の氏族が遅れを取る事など無い。

 

 そして、そこに本隊の『円卓』の騎士達や鏡の氏族の妖精達が加わり、掃討はさらに加速する。

 

「みんな!悪妖精達の排除を躊躇わないで!ああなってしまったら、もうどうしようもない!」

 

 エインセルは氏族の者達を鼓舞し、皆と共に悪妖精達を倒していく。

 ウーサーの眷属となった彼女を除いたら戦闘力は決して高くない鏡の氏族であるが、その足りない部分を強力な装備や仲間との連携で補って戦っている。

 

「悪妖精化した者達に、我ら『円卓』の力を示すぞ!ウーサー陛下が率いる騎士達に、弱兵など一人もいない!」

 

 そして『円卓』を構成する人間の騎士達も、その腕を存分に発揮していた。

 ウーサーによって鍛えられた騎士達だ。人間でありながらも、その強さは妖精に遅れを取るものではない。

 

 重厚な鎧に身を包んだ状態で迅速に動き、それでいて巧みに仲間たちと連携しながら、洗練された剣技を振るっていく。

 

「ナ、ナンデッ……コンナ──うがっっ!?」

「クソッタレ──ぎゃあっ!!」

 

 次々と討ち取られいく悪妖精化した者達。この流れは、もはや予定調和と言っても過言ではないだろう。

 

 その光景を目にしながら、ウーサーは討伐軍の者達に声を飛ばす。

 

「予定通り、悪妖精達を掃討しながら街の各要所を制圧せよ!鐘撞き堂がある建物は、監視下に置きながら遠巻きに包囲するだけで良い!街の安定化を最優先とする!

 本来であれば敵の首魁を真っ先に攻略するべきだが、すでにその信用は地に落ちた!暴徒達に囲まれ、逃げる事も叶わない!焦る必要はないのだ!」

 

 オーロラとその従者達が自滅するのはもはや確定事項だ。後は早いか遅いかの違いでしかない。ならば、街の混乱を収めることを優先すべきだろう。

 

 討伐軍の者達は悪妖精を駆逐しながら、街の広場や交通の要所、また物流の拠点などを制圧していく。

 

「──ウーサー君」

 

 指揮するウーサーに、トネリコは分身越しに確認した鐘撞き堂がある建物の現状を告げる。

 

「オーロラやその従者達ですが、やはり脱出した様子はありません。まあ、先ほどウーサー君が言った通り、あの状況だと逃げる事は叶わないのですが」

「建物を囲む暴徒達は自分達が助かるため、オーロラをこちらに差し出そうとしている。従者達に対しても同様だろう。その状況で外に出るのは、どう考えても自殺行為だ」

「はい。すでに暴徒達の大半が悪妖精化している。従者達が説得しようとしても、耳を貸すことは無いかと」

 

 そう述べた後、トネリコは補足情報を加える。

 

「それと……一部の人間達が、暴徒達より早く建物に到着しました。そのすぐ後に建物が囲まれたので、彼らも脱出は不可能となりましたが……」

 

「……オーロラに未だ忠を尽くす者達か」

 

 ウーサーの口からは、嘆息が吐き出される。

 

「その心の有り様は否定しない。今のソールズベリーで彼女への忠を失わないのは、尊いことなのだろう。ただ……この状況では身を滅ぼす選択だ。妖精達の悪意に、容易く蹂躙されてしまう」

 

 数で言えば暴徒達のほうが圧倒的に多いし、その多くが悪妖精化している。そんな者達に囲まれた状況でオーロラを連れ出すのは、人間には不可能だ。仮に従者の妖精達と協力し合っても同様である。

 

「全てを救う事など出来ない。だから……

 

 ここは、()()()()()()沿()()()()()をさせてもらう」

 

 ウーサーは統治者らしく……取捨選択をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああ……なんで、なんでっ……!」

 

 

 鐘撞き堂がある建物の最上階にある一室───この街の主の部屋では、一人の女が悲嘆の声をあげていた。

 

 

「こんなの、早すぎるっ……まだ、そんなに時間が経っていないのに……!」

 

 

 その女が誰であるかだが、考えるまでもないだろう。この部屋にたった一人でいられる者など、()()()()()()()のだから。

 

 

「どうして……一体どうして、こんなに早く色褪せてしまうの!?いくら誹謗中傷されたからといって……こんなに早くだなんて、あり得ない……!」

 

 

 その部屋の持ち主である、風の氏族の長オーロラは。

 ()()()()()()()()姿()を前にして……かつてない悲壮と絶望に染まった表情で、嘆きの声をあげていた。

 

 

「劣化するにしたって、()()()()()()()()!一体、何が起こっているというの!?」

 

 

 必死に現実を否定するが、言葉だけで何かが変わるわけがない。

 そのような権能、オーロラには存在しないのだから。

 

 

「嘘よ、こんなの嘘よ!?夢なら早く覚めて!!

 

 

 

 かつての輝きを……私に戻してぇっ!!!」

 

 

 

 そこにいたのは……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()姿()であった。

 

 

 




 戦略的に圧倒的有利を確保していたため、戦いが始まってしまえば勝負が決まるのはあっという間です。ましてや敵は烏合の衆と化していますから、この結果は必然でしょう。

 すでにソールズベリーの街はオーロラやその側近達の制御から離れており、また当人達の自滅は時間の経過を待つのみとなったため、戦後を見据えて街の安定化を優先しました。
 もちろん、仮にオーロラ達がまだ街を制御下に置いていたなら、真っ先に攻略します。

 それにしても……ようやくここまで話が進みました。


 次回、戦いはいよいよ決着へ。


 
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