もし、異聞帯のウーサー君がバグキャラだったら   作:北国の放浪者

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その結末を見届けて───

 

 ソールズベリーの街の鎮静化が完了した後、ウーサー達はこの街の中心である鐘撞き堂がある建物へ訪れていた。

 先程まで悪妖精化した暴徒達が大勢いた場所であるが、すでに討伐軍によって掃討が完了している。そのため、喧騒はなくなり落ち着いた状況となっている。

 

 討伐軍の兵士に案内されて、足を進めるウーサー。そんなブリテンの統一王に、王妃であるトネリコをはじめ各氏族の長達──当然ながら風の氏族を除く──が続いていく。

 入口から距離があるわけでもないため、すぐに目的の場所へと辿り着く。

 

「陛下、王妃様、氏族長の皆様方。こちらになります」

 

 大聖堂の扉の横に立ち、左手で室内の方を指し示す兵士。そんな彼にウーサーは労いの言葉をかけ、そして扉を開く。

 

「ここが、()()か……」

 

 そのような呟きを漏らしながら、ウーサーは他の者達を連れ立って大聖堂の中へと入る。

 

 ……先ほど暴徒達が暴れた影響で、大聖堂の内部は荒れていた。

 

 座るためのイスはその多くがひっくり返り、天井を支える柱は大小さまざまな亀裂や粉砕跡が見られる。本来なら美しい彩色を見せてくれる奥のステンドグラスは無残に割られ、その外観が台無しとなっていた。

 そこかしこに血の跡が残っているが、それらは暴徒達が流したものだ。討伐軍によって掃討される前はお互いに攻撃し合っていたから、その時に流れたものである。まあ討たれた当人達の亡骸はすでに自然物へと姿を変えたから、残された血の量は少ないが。

 

 もっとも……それらは大聖堂の中央にある光景と比べれば、まだ序の口だろう。

 

 

 この場に訪れたなら、否が応にも()()()()が視界に入ってくる。

 

 

「……オーロラ」

 

 最初に声を発したのは、トネリコであった。

 静かに、名前だけを呟く。

 

「…………」

 

 そんな妻の様子を、ウーサーは沈黙のまま静かに見ている。

 

「──っ!……酷い、光景です……」

「うわっ……やった事がやった事とはいえ、この結末は気分が悪くなりますね……」

 

 息を呑み、辛うじて声を漏らすエインセル。トネリコとウーサーの二人の傍にいた彼女はすでに()()()()()()を知っていたが、実際に目の当たりにすると衝撃を受けずにはいられなかった。

 

 そんな鏡の氏族の長の横で、ムリアンは引いた表情を見せながら心底嫌そうに感想を零す。彼女は酷い光景だと耳にしていたが、その具体的な描写まで聞き及んだ訳ではなかったため、内心で受けた衝撃はエインセルより大きい。

 

「最終的に、自分を持ち上げていた妖精達に裏切られたということ……」

「この女に同情するつもりはないが……後味が良いとは、決して言えんな……」

 

 マヴとライネックは比較的落ち着いていたが、それでも後味の悪さを覚えずにはいられない。

 

 そして、最後尾をやや離れて歩いてきた土の氏族の長──彼は『現地を見れば分かる事だ』と考えて詳しく聞いていない──が、大聖堂の様子を観察しながら声をかけてくる。

 

「大聖堂はかなり荒らされていますなぁ……まあ悪妖精化した暴徒共が暴れた後だから、こうなるのも仕方ありませんが。

 それにしても、何やら奥の方から嫌な気配が漂ってきますが……そちらのオーロラの遺体があるのですかな?通常なら鐘にでもなってそうですが、一体どのような状態で───

 

 うぅっ!?」

 

 前を歩く他の者達に視界が遮られ、気づくのが遅れた土の氏族の長であるが……足を進めると()()()()が視界に入り、驚愕と恐れを含んだ呻き声をあげる。

 

「こ、これは……なんと、ムゴイ……っ」

 

 風の氏族と折り合いが悪かった彼であったが……大聖堂の奥に広がるオーロラ()()()()()を目にしたら、戦慄せずにはいられなかった。

 

 

 

 大聖堂の中央には、かつて妖精の肉体を形作っていた()()()()()が散乱していた。

 

 

 

 グチャグチャにされた挙句、所構わずブチまけられたアカ、アカ、アカ───

 

 バラバラなんて()()()()()()()ではない。液状化するまで蹂躙され尽くしている。

 

 原型など全く留めていない。こんな状態で、留めていられる筈がない

 

 

 

 そして───

 

 目を背けたくなる惨状の辺りには、負の想念が漂っていた。

 

 

 

「うぐぅっ───」

 

 氏族の長ともなれば、その想念に気付かないなどあり得ない。

 悍ましき()()を感じ取った土の長は怖気が走り、うめき声を漏らさずにはいられなかった。思わずよろけそうになるが、なんとか踏みとどまる。

 

 

 本来であれば、妖精はその命を終えたら別のモノへと形を変える。一般的な妖精なら自然物へと変化するし、氏族長ならば『巡礼の鐘』──楽園の妖精が鳴らすモノ──へと変化する。

 そして、その存在目的が次代へと引き継がれるのだ。

 

 しかし、その末路があまりにも恐怖と絶望に満ちたものであったためか───

 遺体は『巡礼の鐘』どころか自然物へ変わる事もなく、グチャグチャにされ液状化した血濡れの肉片が散乱したままであった。

 

 

 確実に……次代は誕生しないだろう。

 

 

「風の、氏族とは……犬猿の仲でしたが……」

 

 かろうじて口を開く、土の氏族の長。

 

「このような凄惨な末路を目にすると、流石に……」

「……そうだね。私も同感だ」

 

 青くなった顔色で口にしたその感想に、ウーサーは静かな表情で同意する。

 異論など、なかった。

 

「風の氏族の長オーロラに逆賊行為の報いを受けさせるため、我々はソールズベリーまで遠征してきた。この結末を引き起こしたのは、紛れもなく我々『円卓』だ。

 けれど……」

 

 彼は5秒間の間を空け、そして続ける。

 

「ここまでの惨状を、喜ぶことなど出来ない」

 

 重い息を吐いて、そう述べるウーサー。

 

(これは、勝者の独善なのだろうけど……)

 

 己が人道家を気取れる立場にないことは重々承知していたが、それでも思わずにはいられない。

 トネリコを陥れた怨敵を討ち果たすため行動してきたが、このような重苦しい気持ちを味わうことになるとは……

 

「……意外ね。あなたが、そんな慈悲を見せるだなんて」

 

 そんな反応を見せる青年に意外さを覚えたのは、マヴであった。

 

「オーロラ当人に自覚があったかはともかく、この女はトネリコを陥れようとした主犯と言っていい。あなたにとって許し難い怨敵の筈でしょう。あの女の凄惨な末路を歓迎とはいかなくても、もっと冷淡な反応を見せると思っていたのだけれど」

 

「……マヴがそう思うのは尤もだ。もしオーロラが身内から討たれただけなら、私もこんな気持ちにはならなかっただろう。君の言う通りもっと冷淡な、あるいは淡白な反応をしていただろうさ。

 ただ、流石にこの惨状を目にすると、流石にね」

 

 ウーサーの慧眼は、蹂躙され尽くした肉体だったアカイモノだけでなく、断末の際にオーロラが抱いた恐怖と絶望を見通していた。

 流石に、それに喜びを覚えるような悪趣味など持ち合わせていない。

 

 ただ、同時にこうも思う。

 

(こんな事を言えるのは、トネリコが無事だからなんだろうけれど)

 

 もし彼女が陥れられ、間違って命を落としていたら、果たしてどうだろうか。

 あるいは、全てを奪われて彼女の心が壊されていたら、どうなっていただろうか。

 

 ……目の前の光景に暗い感情を覚える可能性を、完全には否定できなかった。

 

(それを知る機会が永遠に訪れないよう、今後の動きを心掛けないと)

 

 頭に浮かんだIFをすぐに消去し、ウーサーはブリテンの王として判断を下す。

 

「すでに逆賊行為の報いは受けた。遺体を入念に浄化したうえで、丁重に自然へと帰そう」

 

 このまま放置しておけば、後々になって怨霊化しかねない。最悪の場合、災厄と化すこともあり得る。

 そうならないよう、ウーサーの言葉の通り丁重に葬らなければならない。

 

「浄化は私がやります。入念に行うのなら、私が適任でしょう」

「頼む。トネリコの魔術なら、後々のリスクを完全に断てる」

 

 名乗り出たトネリコに頷くウーサー。別に浄化作業ぐらいは規格外の彼なら問題なく行えるが、こういうのは魔術の天才である妻に任せるに限ると思った。

 実際はどちらがやっても結果に違いは無いのだが、そこは彼の妻に対する贔屓目が多分に混ざっていた。

 

 そのように二人が言葉を交わしていると、土の氏族の長が申し訳なさそうに申し出てくる。

 

「……申し訳ありません。外で、風に当たらせていただきます……」

 

 言葉少なにそう言って、大聖堂の入り口に戻っていく土の氏族の長。その足取りは弱々しく、顔色を青くしており、見ていて心配になってくる。

 

「……かなり気分が悪そうでしたね。この光景を目にすれば、仕方ありませんが」

「正直、私もキツイですねぇ……別にグロ耐性がないわけではないですが、率先して見ていたいとも思いません」

 

 気遣わし気なエインセルの言葉に、自分も同様に気分が良くないと返すムリアン。氏族長なので冷静さを失うような醜態は見せないが、鋼の精神を持ってるわけでもないので、メンタルに負荷はかかるのだ。

 口には出さないムリアンはであったが、内心では少しだけ嘆いていた。

 

(とはいえ、私までこの場を外す訳にはいきませんし……はあ~、遠征の最後にケチがつきました……)

 

 なにせ自分達(翅の氏族)は『円卓』結成当初から協力しているのだ。土の氏族の長と同じように、浄化の現場に居合わせず外で風に当たっている、という訳にはいかないだろう。

 ムリアンは憂鬱な気分になりながらも、すぐに浄化で終わることだと気を取り直す。

 

 ウーサーと氏族の長達が見守る中、トネリコは浄化作業へと取り掛かる。

 神域の魔術の使い手である少女にかかれば、負の想念が宿った現場の浄化など造作もない事だ。

 

 程なくして凄惨な現場から赤い色彩は消え去り、その中央には草花が生い茂る。

 新緑のような初々しい緑色と、咲き誇る花々の鮮やかな色彩は、ここで惨劇が起きた事など嘘であったかのような印象を与えてくれる。

 

 その光景に、この場に居合わせた氏族の長達はホッと一息つく。

 

(……やはり、鐘には成らなかった)

 

 生い茂った草花を見ながら、内心でそう独り言ちるトネリコ。

 オーロラの辿った末路が末路だ。浄化したところで『巡礼の鐘』にはならないと思っていたが、予想通りの結果と言える。

 

 そこまでの蹂躙が起きた事実にトネリコは重苦しさを感じながらも、それを除去するようにウーサーへ報告する。

 

「これで、浄化は完了です」

「ありがとう、トネリコ」

 

 ウーサーの言葉を皮切りに、氏族長達からも労いの言葉があがる。それに対して礼を返すトネリコ。

 6氏族全てでないとはいえ、各氏族の長達が楽園の妖精を労っている光景は、今代の長達の多くが人格に恵まれた点を差し引いても、彼女の長きにわたる頑張りが実を結んだと言えるだろう。

 

 

 大聖堂から凄惨な光景が消えたことで、『オーロラがどうなったか』というこの遠征の結末を見届ける行為はいち段落付いた。

 とりあえず、氏族の長達がこの建物に留まり続ける理由はもうない。

 

 

「さて、用が済んだから俺はこの場を後にする。エインセルはトネリコとウーサーの傍に付いていてくれ。今になって何かがあるとは思えんが、念のためにな」

 

 ライネックは内心で『何かあっても、この規格外の男(ウーサー)が後れを取るとは全く思えんが』と思いながらも、念のためエインセルに護衛を頼む。

 牙の氏族の長からの言葉に、最初からそうするつもりだった鏡の氏族の長は快諾の返事を返す。

 

「了解です、ライネックさん。引き続き、お二人の身辺警護はお任せください」

「頼む。油断しないに越したことはないからな」

 

「それじゃあ、私も北の妖精達の許へ戻るとしましょうか」

「私も戻らせていただきます。最後の最後で、少々疲れてしまいました」

 

 マヴの言葉に同調するムリアン。後半に苦笑い交じりの感想を付け加えたところが、翅の長の心境を物語っていた。

 似たような心境をみな抱きながら氏族の長達は大聖堂の外へ退出し、建物を出ようと去っていく。

 

 残ったウーサー達には、建物内で生き残った人間達から話を聞くという用事が残っていたが、この建物はともかく大聖堂に居続ける理由はもうない。なので、この場を後にしようと扉の方へと歩いていく。

 

 ウーサーとエインセルが足を進める中、トネリコはふと立ち止まり、先ほど惨状が広がっていた方に視線を向ける。

 

「…………」

 

 そんな少女の様子に気付いた青年は自分も足を止め、振り返って声をかける。

 

「どうしたんだい、トネリコ。何か気になる事でも?」

「……ウーサー君。いえ、少し思うところがあって」

 

 答えるトネリコの声は、神妙と言うには些か以上に精彩さに欠けるものであった。

 どうしたものかと耳を傾けるウーサー。傍でエインセルも同様の姿勢を見せる。

 

「オーロラは、私達が成そうとしている事を台無しにしようとしました……ブリテンの未来のためには絶対に排除しなければならない敵でしたし、その目的を達成したこと自体になんら後悔はありません」

 

 彼女の言葉に偽りはないが、同時にそれだけでない事も明白であった。

 

「しかし、彼女が()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という事も、恐らく事実でしょう」

 

 オーロラが欲深い人間のように打算で利益を得ようとした訳ではない事を、トネリコは理解していた。

 

「最初から生きる目的が決まっている妖精の性質を考えると……果たしてオーロラを全否定して良いのかと、今になって思ってしまいまして」

「トネリコさん……それは……」

 

 すぐ傍で話を聞いたエインセルは、その言葉にすぐ異を唱えることが出来なかった。

 妖精が基本的に生き方を変えられないのは、紛れもない事実だからだ。彼女も妖精だからこそ、その事実を無視できない。

 

 ウーサーは何か言おうとするも、トネリコが続けて口を開こうとしていたので、そのまま耳を傾ける。

 

「そして私は、楽園の妖精としての使命に背を向けています」

 

 彼女の言葉が意味するところは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()との対比であった。

 

「そんな私にとって、先程の凄惨な光景は……他人事だと思えません」

 

 たとえその在り方が邪悪であったとしても、オーロラは妖精としての本分を全うしていたのだ。

 そんな彼女でさえ、あのような末路を遂げてしまった。

 

 

 ならば、本来の使命を放棄している()()()()がああならないと、何故言えるだろうか?

 

 

 トネリコのそんな考えが、ウーサーとエインセルに伝わってくる。

 

 

 

「先ほどの惨状は、ひょっとしたら……いつか私が辿る───」

()()()()()()()()()

 

 

 

 トネリコの言葉を、ウーサーは間髪入れずに遮った。

 

 驚きの表情を見せる救世主の少女。そんな彼女に、青年は己の中で湧き上がる衝動に身を任せて言葉を続ける。

 

「君にあんな末路など、()()()()()()()。そのためなら僕は、どんな困難だって打ち倒して見せる」

 

 勢いのままにトネリコの手を両手で握りしめるウーサー。そうされた少女が見せる戸惑いは、聡明な彼女らしからぬものだった。

 

「僕が分不相応な寿命を手に入れられた原因はまだわからない。けれど、その命をどう使うべきかは心得ている」

 

 トネリコの目を真っすぐ見つめ、ウーサーは断言する。

 

 

 

「トネリコ。君が求める星を掴み、その旅路を完走できるよう手助けする事だ」

 

「ウーサー、君……」

 

 

 

 言葉を失う救世主の少女に、青年はさらに続ける。

 

「遠征前の夜に君と約束を交わしたあの誓いを、僕は一時たりとも忘れていない」

 

 ウーサーの脳裏に蘇る、ロンディニウム出発前夜にトネリコが言った言葉。

 

 

『ずっと、ずっと……一緒にいてね……』

 

 

 あの言葉に、自分は是と返した。

 是と、返したのだ。

 

 

 それはつまり、トネリコを守り続けることと同義だ。

 

 

「この命がある限り、君の傍にずっと居続ける。そして、君に降りかかる災いを、全てねじ伏せてみせる」

 

 

 それは、ウーサーにとって決定事項だ。

 目の前の少女に非業の死など、断じて訪れさせはしない。

 

 

「たとえトネリコが楽園の妖精としての使命に背いていたとしても……その生き方は間違っていない。

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 その生き方を、否定などさせない。

 これが主観交じりの見方だと批判する者がいたらしてみるがいい。胸を張って『それがどうした』と、開き直ってやろうではないか。

 

 無論、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 ウーサーの宣言に。

 少しばかりの沈黙を経て、トネリコは口を開く。

 

「…………私は、もう星を掴んでいるよ」

 

 ほんの微かに。

 気づかず流してしまいかねないほど、僅かであるが。

 

 その声は、確かに震えを伴っていた。

 

「いま……こんなに傍で、いてくれているから」

 

 少女はその額を、青年の胸に預ける。

 体は僅かに震わせながらも、目から流れ落ちるモノは無い。

 

 救世主として駆け抜けてきた、トネリコなりのプライドなのだろう。

 もはや彼女は、雨の氏族に育てられていた頃の───図書室で雨音を聞きながら読書をしていた夢見る少女ではなかった。

 

 そんなトネリコの誇りを、ウーサーは尊重する。わざわざ指摘するような野暮な真似はしない。

 青年はただ、表情を柔らかくして告げる。

 

「そうか。まあそれでも、僕のやる事は変わらないんだけど」

 

「……じゃあ、私もくよくよしている訳にはいかないよね」

 

 そう応じる救世主の少女の顔つきは、普段のソレに戻っていた。

 

 伊達に何度も折れながら再起してきた訳ではない。

 頼りになるパートナーがいるのなら、その心意気に答えるのが救世主トネリコであった。

 

 

 

 それまで黙って見守っていたエインセルが、一歩前に身を乗り出して口を開く。

 

「私も、ウーサー陛下と同じ思いです」

「エインセル……」

「これからも引き続き、お力にならせてください」

 

 己の決意の再表明を行う、鏡の氏族の長エインセル。

 

「悲観ばかりで身動きが取れなくなっていた私達『鏡の氏族』ですが……トネリコさんとウーサー陛下のお蔭で、ようやく前へ進めるようになりました。

 その歩みを、ここで止めるつもりはありません」

 

 これまで未来視という能力があっても悲劇を覆せず、無力感や悲壮感に苛まれてきた鏡の氏族だが……初めてそれが覆されたのだ。

 千載一遇の転換点を無下にするほど、エインセルをはじめ鏡の氏族は耄碌していなかった。

 

 それに……トネリコの救世主としての歩みに力を貸したいという思いは、エインセルの中でずっとあった。

 

 

 妖精の誰もが、貴女を認めていない訳ではないと。

 妖精の誰もが、貴女を否定している訳ではないと。

 妖精の誰もが、貴女を排斥したい訳ではないと。

 

 貴女に寄り添いたい妖精は、ここにいるのだと。

 

 

 

 過酷な道を歩んできた少女に、示したかった。

 

 

 

「たとえトネリコさんの旅路が、本来の使命とは異なっても……私は、あなたの助けになりたい」

 

「……ありがとう、エインセル」

 

 

 トネリコは再確認した。

 救世主の旅に同行した仲間達やウーサー以外にも、自分の味方がこうしている事を。

 

 

 この事実は、とても掛け替えのないものだ。

 

 

「すいません、最近は悲観的なことを考えていなかったのですが……久しぶりにやっちゃいました」

 

 トネリコの顔に、ほんのちょっぴり自虐交じりの苦笑が浮かぶ。

 如何せん、ずっと上手くいかない妖精生を送ってきたのだから、トネリコがそうなるのも仕方がなかった。

 

 まあ、それを言うのなら、程度の差はあれエインセルも同様な訳であって。

 

「それについては私も偉そうな事は言えません。最近ようやく抜け出したばかりですし」

「ふふ、そうでしたね。それでは、お互いにポジティブシンキングといきましょうか」

 

 方向性は微妙に異なるにせよ、後ろ向きな感情に囚われていたのは双方で共通していた。

 そう言った意味では、トネリコとエインセルは似た者同士なのかもしれない。

 

 そんな両者を、ウーサーは温かい表情で見守っていた。

 

 

(そうだ。トネリコは一人じゃない。君には、寄り添ってくれる妖精がいる)

 

 

 たとえそれが大多数の一部であろうと、決してゼロではない。

 加えて、その寄り添ってくれる妖精は一騎当千の強者が多いのだ。

 

 救世主トネリコは、一人ではないのだ。

 

 

 

 

(みんなで共に歩もう。僕達全員で……君が望む未来を実現しよう)

 

 

 

 

 そして、歩き出す三人。

 もう、後ろを振り返ることはしない。

 

 

 

 

 残されたのは、浄化後の初々しい草花のみ。

 大聖堂の中央で、風に揺られる事なく………静かにあり続けていた────

 

 

 

 

 

 




 次回は、本格的な戦後処理となります


 
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