もし、異聞帯のウーサー君がバグキャラだったら 作:北国の放浪者
「どういうことだ、これは!?」
ウーサーが王に即位した同日。
時刻で言えば、戴冠式の終了から1時間後のこと。
大聖堂があるものの時代的にまだ発展途上であるソールズベリーの街は――未曽有の混乱に叩き落とされていた。
「何なんだ、あの激しい嵐は!?」
「街を取り囲むように発生しているぞ!こんなことは初めてだ!」
「どうするのよ!?これじゃあ、街から出られないじゃない!」
突然起こった激しい嵐に、恐れをなしてパニックに陥るソールズベリーの住人達。その大部分が風の氏族であるが、他の氏族も存在しており、さらには一部人間も混じっている。
住人達の大半は風の氏族長オーロラの支持者であり、より詳しく述べるなら心酔者の類が多く、中には狂信の域に達している者も少なくなかった。そのため反ロンディニウムの考えを持っている者も多く、人間の王の即位に不満を抱いていた。
「ひょっとして……災厄が起きたのか!?」
「そんな、よりによってこんな所で……!どうして他の街じゃないんだ!理不尽じゃないか!」
「あんまりだわ!私たちが一体、何をしたっていうのよ!?」
状況が状況なだけに、身勝手なことを叫ぶ者も多い。それはロンディニウムの戴冠式における企てを知っている者だけでなく、知らない者も同様であった。
普通に考えると、『風の氏族』という種族名から嵐ぐらいなんとかできそうに思えるが、現実はそこまで優しくなかった。
その嵐は空気の層が恐ろしく分厚く、またその勢いはあまりに激しい。ソールズベリーに住まう風の氏族が総出で対応しても、どうしようもないほどの規模であったのだ。
彼らを襲っている不幸は、それだけではない。
「おい……『風の報せ』が使えないぞ!」
「な、何だって!?どうして使えないんだよ!」
「そんなこと、俺がわかるわけないだろ!?」
あろうことか、風の氏族の切り札といえる『風の報せ』が使えなくなっていたのだ。しかも嵐の外側に対してだけでなく、内側に対してもだ。
彼らお得意の通信手段が封じられたため、外界の状況が全く把握できず、それどころかソールズベリー内での連絡にも手間取る有様であった。
焦燥に駆られたオーロラ崇拝者の一人が、頭を抱える。
(これでは外部と連絡が取れない!ロンディニウムで何が起きているか、全くわからないじゃないか!
尊き御方を差し置いて、ブリテンの支配者になろうとする人間の王と楽園の妖精に、我らの仲間が裁きを下そうとしているのに……!)
そんな風に極めて一方的な事を考えるも、それで外界から孤立している現状が変わる筈もなく。
あまりの状況に、彼は他の者たちと同様に叫び声をあげる。
「一体、何が起きていると言うんだあ!?」
理解が追い付かないオーロラ信者の混乱に満ちた絶叫が、街を囲む嵐の轟音に溶けていった――
「――というわけで、ソールズベリーにいる彼らの目と耳と口は完全に塞いだ。物理的に封じ込めてしまえば、彼らは動きようがないからね」
「知略戦を仕掛けるかと思ったら、最初から容赦なく
若きブリテン王であるウーサーが打った一手に、やや突っ込みじみた反応を返すトネリコ。
ここまで来たら青年のぶっ飛び具合に驚きはしなかったが、それでも上記のような反応は避けられなかった。
彼らがいるのはロンディニウム城内の二人の自室だ。そこにウーサーとトネリコはもちろん、彼らの仲間であるエクターやトトロットも同席している。
現在の状況が状況なので今後について話をしていたのだが、ウーサーから伝えられた情報はインパクトが大きかった。
トネリコの反応に、ウーサーはどこか不敵な笑み――カッコいいと絶対に思いたくないのは何故だろうか――を浮かべて解説する。
「僕が術式を発案し、グリムがそれを魔術礼装として形にし、そこに僕が愛の覚醒パワーを込めて威力を強化した。それをあらかじめ一週間ほど前に仕掛けておき、つい先ほど遠隔で発動させたんだ。
魔術礼装は簡単に見つからない場所に仕掛けたし、術式の構成はあえて複雑にした。もし風の氏族が魔術礼装を見つけてたとしても、短期間で無効化することは絶対に不可能だ」
存在自体が神秘である妖精にとって、魔術は面倒くさくて不要なものであるため、その手の知識はほぼ無い。そんな彼らが術式を解析して解除するのは、至難の業だろう。
神秘のゴリ押し――ウーサーと違い正真正銘で――によって魔術礼装を破壊するという選択肢もあるが、ウーサーの圧倒的な力が込められているため、それこそ不可能であった。
「……『愛の覚醒パワー』とやらにこれ以上突っ込むのは止めておきます、聞くだけで恥ずかしいので。それよりも、ウーサー君が術式を発案したことに驚きです。魔術については専門外でしたよね?」
「そうだ!ウーサーがトネリコみたいに魔術を使うところ、ボクは見たことないぞ!」
「俺も見たことがないな。お前は基本的に、騎士としての能力に特化していただろう」
トネリコ、トトロット、エクターがそう疑問を口にすると、ウーサーから肯定の返答が返ってくる。
「みんなの言う通りだ。もともと僕は魔術に関して簡単な事しか知らず、トネリコから教えてもらった基礎知識くらいだった。初心者に足を踏み入れた程度だったと言っても過言ではないだろう」
「それがどうして、このレベルの術式を発案できたかなんですが……あの、ひょっとして」
トネリコは話している途中で答えに気づき、表情を引きつらせる。そんな少女の様子に、他の二人もつられて答えを察する。
三人の予想は外れておらず、ウーサーは誇らしげに答えてきた。
「ああ、それも愛の覚醒パワーだ。僕が目覚めた真なる力は、脳細胞をも活性化させたのさ!高度な術式を即席で発案することくらい、今の僕には造作もない!」
「これ以上突っ込むのは止めておくと言ったけど、本当に何でもありだよね!?」
「やはり愛の力は偉大だ!あらゆる限界、あらゆる理不尽を踏破できてしまう!」
「それが可能なの、ウーサー君だけだから!」
ここまで来たら驚きはしないと述べたが、訂正しよう。彼女の認識はまだ甘かったようだ。
若き王のバグキャラっぷりは、救世主の目をもってしても見抜けなかったようである。
ウーサーは最愛の妻の反応を微笑ましそうに眺めながら――これまたトネリコにとっては地味に腹立たしい――、自らの認識を口にする。
「確かに派手な現象ではある。けど、トネリコだってこれくらい出来るだろう?」
「あ、よくよく考えればそうだな!」
青年がそう聞くと同時に、糸紡ぎの妖精もそういえばと同意する。
少女は気を取り直し、頷きの言葉を返す。
「ええ、それはまあ。やろうと思ったら、難しくはありません」
自分でも実現可能と言う返答。ウーサーとトトロットの認識は間違っていなかった。
救世主トネリコは神域の魔術師だ。彼女がその気になれば、空想樹の魔力を使ってこの異聞帯を空想から現実に変えたり、水鏡を使って対象を遠い過去に飛ばしたりすることができる。激しい嵐を起こして街を封鎖することや、『風の報せ』の妨害または盗聴をすることくらい、特に難しくはない。
もちろん、大きな現象を起こすにはある程度の事前準備をする必要がある。しかし、嵐の発生や『風の報せ』の妨害・盗聴なら、準備にそこまで時間はかからないだろう。
風の氏族の侮れないところは、『風の報せ』を
まあ、それはそれとして。
「……私は長い間魔術の腕を磨いてきた上に、何度も巡礼の鐘を鳴らしてきたから、そういった大規模な術の行使が可能なんですけど」
自分が積み上げてきた長年の研鑽にあっさりと迫られ、トネリコは若干ジト目になる。
ウーサーはあくまで騎士であって、魔術師ではない。彼女がそういう反応をしてしまうのも無理からぬことだろう。
「そこはとても申し訳なく思う。けれど仕方のない事なんだ。これは、愛の覚醒による賜物なのだから」
「何度聞いても、釈然としないなあ……」
もはや恥ずかしく思うより、アホらしさ満載の理不尽に対するボヤキが口から洩れてしまう。
「ウーサーの出鱈目さは、とりあえず置いておくとして。街を嵐で物理的に封鎖か……同時に『風の報せ』も封じたことを考えると、単純だが有効な手だな」
これ以上不毛なやり取りをしても仕方ないので、話の方向を意図的に修正し、ウーサーが打った手に対する感想を述べるエクター。
彼は『愛の覚醒』とやらについて触れるのを早々に諦めていた。その話題に深入りすると、グダグダになることはわかっていたからだ。
「ずっと効果が続くなら、このままソールズベリーを封じた状態で放っておくという手もあるけど。その魔術礼装の効果って、やっぱり有効期限とかあるのか?」
トトロットの方はというと、ウーサーがソールズベリーに仕掛けた魔術礼装の効果がどれぐらい続くか気になったようだ。
仲間の疑問を受けると、ウーサーは首を縦に振ってこたえる。
「嵐の持続期間はだいたい1か月で、『風の報せ』の妨害術式の方は2ヶ月くらいだな。それが過ぎれば、術式の現象は自動的に終わってしまう」
「そっかー。結構長いとは思うけど、このままあいつ等を放っておくのは流石に無理だよな」
ウーサーの返答に、残念そうな表情を浮かべるトトロット。
糸紡ぎの妖精である彼女は、あまり戦いが好きではない。穏便に済ませられれば――オーロラと風の氏族を物理的に閉じ込めることが本当に穏便であるかは置いておいて――それに越したことはないと考えていたが、そう上手くはいかないだろうことも予想していた。
現実がわからないトトロットではない。ソールズベリーにいる者達への対処が必要な事は、彼女もわかっていた。
「ウーサー君なら、その……『愛の覚醒パワー』を魔術礼装に送って、効果を維持できるのでは?」
自分から口にするのは非常に、ひじょ~に抵抗があるワードであったが、トネリコは忍耐力を総動員してウーサーに質問する。
横でトトロットが「おっ!トネリコが一歩踏み出したぞ!」とテンションを上げ、続けてエクターが「さっさと慣れた方がいいぞ」とアドバイスするも、トネリコは「お願いです、余計な事を言わないで」と羞恥混じりで二人に抗議する。
最愛の妻が自分から口にしてくれたことに嬉しそうにする青年であったが、質問に対する回答はまともなものであった。
「可能ではあるよ。ただ、ずっと維持するのは
そう言った後、彼はその表情を真剣なものに改め、回答を続ける。
「さらに付け加えるなら、あまり彼らに時間を与えるべきではない。先ほど僕は『術式を短期間で無効化することは絶対に不可能』と言ったけど、あくまで『
風の氏族達は決して無能ではない。術式に詳しくなくても、自分達の力を駆使して状況の打開を図る筈だ。いつか魔術礼装の術式を破られる未来も想定するべきだろう。そう考えると、やはり早い段階でソールズベリーを攻略する必要がある」
「なるほど……確かにその通りですね」
ウーサーの意見に同意するトネリコ。戴冠式において警備を厳重にしたにもかかわらず、ウーサーの杯に毒を仕掛けてみせた風の氏族は決して侮れない存在だ。彼らを過小評価する愚は、絶対に避けなければならなかった。
同時に、彼女はいま聞いた内容から別の事も考える。
(今のところ、ということは……将来的には可能という事だよね)
青年の言葉から察するに、彼は今でも力を上昇させていると思われる。現時点でさえ非常識な存在だというのに。
(うーん……ウーサー君は一体、どこまで強くなるんだろう……)
トネリコとしては、その向かう先がとても気になるところであった。彼女の精神衛生上というか、心の安寧というとっても切実な理由で。
このままだと彼は将来とんでもない領域へ至り、自分はさらに振り回されそうな気がしてならない。
……なんかこれ以上考えても途方に暮れそうなので、ウーサーの力について考えるのはそこまでとし、トネリコは話の切り口を変えてみる。
「それにしても、あらかじめ魔術礼装を仕掛けておくなんて用意周到ですね。風の氏族に全く気づかれず成し遂げたことも驚きです。いまウーサー君が言った通り、彼らは決して無能ではないというのに」
「ボクも気になっていた!一体どうやったんだよウーサー!」
トネリコとトトロットがそう言い、エクターは言葉には出さなかったものの同じ疑問を抱いていた。
仲間たちの疑問を受け、ウーサーは待ってましたと言わんばかりに語りだす。
「よくぞ聞いてくれた!この仕掛が上手くいったのは、僕が築き上げた
「
オウム返しに聞き返すトネリコに、ウーサーは自信満々といった感じでネタ晴らしをする。
「そう、ロンディニウムが誇る秘密のスーパー情報機関――
その名は、『円卓情報局』だ!
「え……『円卓情報局』……?」
その名称を耳にしたトネリコは、戸惑い混じりの声を漏らすのであった。
「ブリテン中から国の安全にかかわる情報を集めて分析し、各種問題へ対処する諜報組織だ。最近は、風の氏族が行っている反ロンディニウム活動へのカウンターを担当してもらっていた。
ソールズベリーについて情報収集し、状況を把握した後に『円卓』のスパイが警備の穴をつき、今回の魔術礼装を仕掛けたんだ」
自らが築き上げた『円卓情報局』について解説するウーサー。ずっと温めておいたネタを披露するためか、その様子は嬉しげであった。
この日はウーサーに驚かされてばかりのトネリコ。唖然としてしまったのか、つい言葉を失ってしまう。
ちなみに、トトロットとエクターは素直に感心していた。
「今日に至るまで、『風の報せ』による連絡は
『風の報せ』で送られている情報であるが、現代の情報工学でいうところの『暗号化』はされておらず、いわゆる『平文』の状態であった。風の氏族はその必要性を感じる以前に、そんな発想など全くなかったのだ。
当然と言えば当然の話で、他の氏族は『風の報せ』で情報を送ることも受け取ることも出来ない。風の氏族が独占していた情報伝達手段なので、自動的に高い機密性を確保できていたのだ。『暗号化』なる発想が出てくる筈もなかった。
あるいは、妖精という生き物だとその発想に辿り着けず、人間の知恵が必要であったのかもしれない。まあ、この妖精文明の人間にその発想へ到達せよというのも無理な話だが。
しかし、『風の報せ』が機密性の高い情報伝達手段であったのは、もはや過去の事だ。ウーサーによってその前提が壊されたのだから。
すでにウーサーや円卓情報局のメンバーは風の氏族の手口を知っており、またウーサーが開発した盗聴術式による情報収集が可能となっている。
そうなると、ウーサー達にとって『風の報せ』はもはや自動的に情報をもたらしてくれるカモであった。風の氏族の情報は、すべて筒抜けとなっているのだ。
後はその収集した情報を用いて、適切な対処を取るだけであった。
「……円卓情報局とは、よく考えたものだな。俺には到底思いつかん」
ウーサーの解説を聞いたエクターが唸りながら、その発想力に舌を巻く。
同時に、気になった点を口にする。
「だがそうなると、今日の戴冠式で奴らはよく杯に毒を仕掛けられたな」
彼の指摘はもっともで、ウーサーは「そうだね」と頷く。
「エクターの言う通りだ。戴冠式で風の氏族を追い詰めた際の彼らの反応や、ソールズベリーに問題なく魔術礼装を設置出来たことから、こちらの盗聴術式がバレたというのは考えにくい。そういった情報も、こちらには全く上がってきてない。
考えられる可能性として、情報のやり取りを『風の報せ』ではなく口頭で行い、情報の機密性を高めたんじゃないかな。僕に対する毒殺を企てるのなら、用心に用心を重ねてもおかしくはないだろうし。あくまで推測でしかないけれど」
そう自らの考えを述べたウーサーは、さらに別の考えも付け足す。
「自分達の主であるオーロラに報いようとする執念もあるだろう。彼らの様子からして、相当心酔していたから。
結果的に彼らはロンディニウムの警備を掻い潜り、僕の杯に毒を仕掛けるまで至った訳だ」
「仮にそうだとしたら、奴らのオーロラに対する忠誠心は侮れないな……」
エクターが別の意味で唸るも、トトロットは異なる感想を口にする。
「その割には、ウーサーの追求であいつらボロを出していたよな。ボクはそっちが驚きだぞ」
「忠誠心の高さが、悪い意味でも発揮されてしまったようだ」
糸紡ぎの妖精の呆れを含んだ感想に、ウーサーは苦笑交じりで同意する。
「今日の一件は、円卓情報局にとって一つの課題だ。ブリテンの全ての情報を漏らさず把握する、というのは流石に不可能だからね。それを踏まえた上で有事に対処できるよう、組織体制のさらなる改善を図っていくべきだろう。
まあ、他にも整備しなければいけない組織は沢山あるけど」
「ウーサーが考えた組織、まだあるのか!?」
さりげなくウーサーが付け足した言葉に、驚愕するトトロット。
バグった青年はさらに、ノリノリで自分のアイデアを開示していく。
「円卓捜査局とか、円卓法制局とか。経済関係だと、将来的には金融機関の設立も考えている。投資関係も有りだね」
「マジか……ボクにはウーサーの言った組織が何なのか、ほとんど理解できないぞ……」
「俺もトトロットと同じだ。お前、本当に絶好調だな。悪いことではないんだが、少し自重しろと言いたくなるのは何故だ?」
「ふふ、エクターは僕のトネリコに対する愛の深さに戦慄しているのさ」
「それは絶対に違うと思うぞ」
しつこくトネリコへの愛を表明するアホに対し、反射的に言葉を返すエクター。
俺はこんな突っこみをする男だったか?と思わず首を捻らずにはいられない黒騎士であった。
「まあ、それらに取り掛かる前に、まずはソールズベリーの攻略を済ませる必要があるけれど。
ところでトネリコ。先程からずっと黙っているけど、一体どうしたんだい?」
ウーサーによる一連の説明や仲間たちの反応を、意外にもトネリコは黙って聞いていた。いつもの彼女なら何らかの意見や疑問を提示するのに、珍しいことである。
「……ウーサー君が色々と手を打っていたのは、よくわかりました」
やや静かな口調で話し出すトネリコに、トトロットとエクターは「ん?」と首を捻った。なんか不穏な気配が漂っていたからである。
そんな少女の気配に気づいてるのか気づいてないのか、ウーサーは「よかった。説明の甲斐があったよ」と朗らかに言う。まあこの男は、自分の妻が不穏な気配を漂わせようと怯むような性格はしていないが。
「まあ、それはそれとして。ウーサー君」
「なんだい、トネリコ」
「いま聞いた、その円卓情報局とか諸々の組織についてですが」
「ああ。何か疑問でも?」
そうのたまうウーサーに対し、トネリコは
「私がその話を聞いたの、『いま』が初めてのような気がするんですけど」
「ははは、トネリコの認識は間違ってないさ。
――だって、いま初めて話したから」
「なんでもっと早く言わなかったんですかあああ!?」
あまりにもナメた返答に、勢いよく吠えるトネリコ。途切れることなく文句が口から出てくる。
「ウーサー君はアホなんですか!?報連相は仕事の基本でしょ!『円卓』の組織構成なんて重要なこと、真っ先に私に話すべきじゃない!いや、戴冠式の直前まで各地を調査していた私も悪いんだけど!そこは言い訳しない!すっごく反省してる!それにしたって、式当日まで数日あったんだから話す時間くらいあったでしょ!?」
中々にご立腹な様子であったが、トネリコ大好き人間であるこの男が、この程度で堪えるはずもなかった。
「ああ……怒っているトネリコも、また可愛いなあ」
「いま惚気られても誤魔化されないからね!?一体どういうこと!?」
バカなことを言うウーサーに、食って掛かるトネリコ。普段の落ち着いた振舞いをここまでかなぐり捨てている辺り、これまで説明を
まあ、トネリコは新たなブリテンの立役者であり、『円卓』は彼女の集大成なのだから、こうして怒るのも無理はないだろう。
「まあまあ、落ち着いてくれトネリコ。君に言わなかったのは、極めて重要な理由があったからなんだ」
「極めて重要な理由?」
「ああ!こればっかりは、簡単に明かすわけにはいかなかったんだ!」
ちゃんと理由があって伝えなかったと主張するウーサー。やましいことなど何もないと、その態度が示していた。
そういう反応をされると耳を傾けないトネリコではなかった。戴冠式で助けられた身でもあるため、すぐに聞く姿勢へと入る。救世主は物分かりがいいのだ。
「まあ、それなら仕方ありません。ブリテンの王として組織運営をする以上、そういったこともあるでしょう。
――その重要な理由ですが、私がここで聞いても問題はありませんか?」
「ああ、もちろんだ。ここに至って、君に話さないという選択肢は僕の中にはない」
「ありがとうございます。それで、その理由とは?」
トネリコが神妙に耳を傾けると、ウーサーは言葉を溜めながら続ける。
「君に話さなかった、その理由は……」
「その理由は?」
「君を驚かせたかったからさ!!」
「ぶっ飛ばされたいのかあああぁぁ!!!!」
なんともアホらしい理由に、盛大に吠えるトネリコ。重要な理由がそれか!?と言わんばかりの叫びであった。
彼女はウガーッと気勢を上げながら、ウーサーを前後に激しく揺さぶる。そうされている当人はと言うと、「あれ?ひょっとして外してしまったか?」と言葉を漏らしていた。
その光景を見たエクターが、ふう~と息を吐いて独り言ちる。
「魔猪の氏族ここに健在、ということか」
「そこぉぉ!ちゃんと聞こえているからね!?」
仲間からの不名誉な呼称を聞き漏らさず、救世主の少女は猛烈に抗議する。「そんな氏族はどこにもいない!」と主張するも、エクターからしてみれば説得力皆無であった。
そんな彼女の前で、ウーサーはなんかショックを受けたような表情で語る。
「なんということだ……愛する女性にサプライズを届けたいという、僕の粋な計らいはわかってもらえないのか」
「ウーサー君、それで私が誤魔化されると思ったら、大間違いだから」
「ぐぬぬ……」
トネリコの塩対応に、ちょっと悔しそうにするウーサー。何故それで彼女を納得させられると思ったのか、トトロットとエクターは不思議でならなかった。
青年の誤魔化しにもならない言葉をバッサリ切り捨てた少女は、なんか怪しげな笑みを浮かべ始める。
「ふふふふふふふふふふふふ…………
ウーサー君にはどうやら、救世主の恐ろしさを、じっっっっくりとわからせる必要があるみたいですねぇ…………」
すっごく不気味な気配を発し始める妻に、ウーサーは内心で「むう、これは不味いぞ」とちょっぴり焦り始める。よくよく見てみると、頬に一筋の汗を垂らしていた
これは、最近頭に浮かんだ謝罪奥義『DO・GE・ZA』なるもの――なぜ汎人類史の日本のネタが浮かんできたかは深く考えてはいけない――を試す時かもしれない、などとトンチンカンな事を検討し始める。
……この期に及んで、この男はまだ余裕があるみたいだ。
そんな感じで、愉快な新婚夫婦が喜劇を繰り広げていると――
「そうウーサーに突っかかるなって。トネリコに喋らないよう真っ先に進言したのは、オレなんだからよ」
室内に響き渡る少年の声。
それは、先程までこの部屋にいなかった者の声だった。
その場の全員が部屋の入口へ目を向けると、人間基準で14歳くらいの姿をした妖精の少年が立っていた。
「グリム!?」
続けて室内に響く、トネリコの声。
彼女が救世主として活動し始めた頃、妖精の体に憑依する形で召喚された疑似サーヴァント。
魔術の師匠であり、長年旅を共にした頼りになる仲間。
彼の名を、『賢人グリム』と呼ぶ。
何らかの用事で戴冠式を欠席していた少年の登場に、思わず声を上げたトネリコ。
そして、その姿を目にした彼女は――
ほんの僅かにだが、驚愕で目を見開くのであった。
補足情報となってしまい恐縮ですが、当作品では原作より早い段階でウーサー君による告白が行われています。そのため、色々と仕掛けておく時間的余裕がありました。
ちなみにウーサー君が考案した諜報機関について、本来であればブリテン島という場所からして紳士の国の『情報部』を採用すべきなのでしょうが、響きが格好いいという実に安直な理由で米の国の『情報局』の方にしました。我ながらブリテン愛が足りない(汗)
最後に、初代『賢人グリム』が登場。原作では描写されていない人物なので、トトロットや二代目『賢人グリム』のキャスニキが言及した少ない情報をもとに、色々と発展させて描写していきます。