もし、異聞帯のウーサー君がバグキャラだったら   作:北国の放浪者

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4話目となるのに、作中の日付が変わっていません(汗)
戴冠式と同じ日の出来事は今回までとし、次回は日付を進めさせていただきます。


賢人として歩んできた少年の選択

 

「グリム!?」

 

 何らかの用事で戴冠式を欠席していた仲間の登場に、思わず声を上げたトネリコ。

 そして、その姿を目にした彼女は、ほんの僅かにだが驚愕で目を見開いた。

 

 そんなトネリコの様子に構わず、グリムは快活に話しかけてくる。

 

「よおマスター!久しぶりだな!以前にも増して随分と荒ぶっているじゃねえか。ついにエクターの言う『魔猪の氏族』として完全覚醒したか?」

「久しぶりに会って早々、『魔猪の氏族』呼ばわりされた!?」

 

 エクターだけでなく、グリムにも『魔猪の氏族』扱いされてしまうトネリコ。地味に衝撃を受けており、ガビーンという幻聴が聞こえてきそうだ。

 

「あのー、グリムせんせー……再会の挨拶がいつもの嫌味なのはどうかと思うんですけどぉ……?」

「おいおい、今のは嫌味じゃねえって。しっかりとトネリコへの親しみを込めて言ったんだからな。『魔猪の氏族』って呼び名、力強くて格好いいだろ。もっとポジティブに受け取れよ」

「ええぇ……出来れば、『魔猪の氏族』は勘弁してほしいなー……」

 

 トネリコの口から洩れるぼやき。彼女的には、その呼称は女の子としての名誉にかかわる気がしてならなかった。

 私は魔猪の氏族では断じてない。ないったらないのだ。まあ誰も信じてくれないんだけど。

 そんなことを考えて、ちょっぴり切なくなるトネリコさん。

 

 頼りになる仲間との再会に、トトロットも話しかける。

 

「グリム!今日の戴冠式はすごく大変だったぞ!風の氏族の奴ら、トネリコとウーサーに酷いことしたんだ!」

「みたいだな。オレもここへ向かっている途中に話をざっくり聞いた。あの連中、とんでもない事やらかしやがって」

 

 そう言いながら、表情を真剣なものへと改めるグリム。

 

「円卓情報局の『極秘任務』を済ませて、意気揚々とロンディニウムに戻ってきたら……ウーサーに対する毒殺未遂とトネリコへの濡れ衣騒動と来たもんだ。

 ウーサーのぶっ飛び具合を知っていたとはいえ、流石に肝が冷えたぞ」

 

 言葉と共に、軽くため息も吐き出すグリム。わんぱくな彼にしては珍しい仕草であったが、それだけ心配だったという事だろう。

 

「オーロラとその取り巻き連中のヤバさは知っていたが、ウーサーが強化したロンディニウムの警備を掻い潜って毒を仕掛けるとはな。つーか、そこまでしてオーロラを一番にしたいのかよ。妖精のくせに、忠誠心高すぎるだろアイツら」

 

 室内に響く少年の苛立たし気な声。それにエクターも同意の声を上げる。

 

「グリムの言う通りだな。俺も流石にあそこまでとは思わなかった。まあ、ウーサーによって事は上手く収まったが」

 

 黒騎士が語る言葉の後半には、安堵の色が現れていた。

 今日の戴冠式の様子を思い出すと痛快だったのか、トトロットはハイテンションになる。

 

「本当に凄かったよな、ウーサーの『愛の覚醒パワー』!ボクも見ていてビックリしたんだわ!」

「……ふと思ったんですけど、その恥ずかしいワードは面識ある相手と会うたびに繰り返されるんでしょうか?」

「いいじゃん、事実なんだしさ!トネリコもさっき一歩踏み出したんだら、そろそろ慣れようぜ」

「うう……慣れなければ……慣れなければいけないのは、わかっているんだけど……」

 

 仲間内で語られる分には慣れてきたが、もしそれ以外の相手――マヴだとかマヴだとかマヴだとか。あと他の氏族長だとか――に対してとなると、まだ恥ずかしさが抜けないトネリコであった。

 そんな彼女の様子をウーサーは微笑まし気に眺めながら――少女の羞恥心の元凶であるが――、彼もトトロットと同様に戴冠式の光景を思い出す。

 

「ブリテンの妖精はいつも想像の斜め上、いや斜め下を行くけど。今回の風の氏族については極めつけだった」

 

 室内にいる仲間たちの視線がウーサーへと集まる。

 今日の出来事を思い出していたため、彼の表情は微笑まし気なものから真面目なものへと変わっていた。

 

 続ける青年の口調は、重々し気である。

 

「他の氏族達も同様だ。もし僕が押さえつけなければ、彼らは風の氏族に扇動されて、その思惑通り凶行に走っていただろう」

 

 戴冠式で風の氏族を追い詰める際、他の氏族達を味方にするため彼らを意図的に持ち上げたが、彼らに対する実際の評価はかなり厳しいものであった。妖精達の移ろいやすさや、その魂に刻まれている悪性を、ウーサーは冷徹に見据えている。

 トネリコのこれまでの歩みを考えると、その見方は妥当と言えるだろう。

 

 ウーサーによるIFの未来予想に異論を唱える者は、当然ながらこの場にいなかった。

 

「……お前が訳の分からないパワーアップしてなけりゃ、マジで全部台無しになっていたな」

 

 グリムの口から自然と洩れたのは、そんな感想だ。

 少年は内心で思う。今こうして皆で言葉を交わしている状況は、失われていてもおかしくなかったと。

 

 そんな風にしんみりとした空気が流れるものの、シリアスは長続きしなかった。

 グリムが漏らした言葉の一部がスルー出来なかったのか、ウーサーが訂正を加えてくる。

 

「何を言ってるんだグリム、訳が分からなくはないさ。僕の覚醒の源は――」

「あー、うん。わかってるわかってる。愛の力だな。オレはよーくわかっているとも」

「それは良かった。仲間に理解してもらえて、僕は嬉しい限りだ」

「そうだなそうだな……コイツなんでこうなっちまったんだ?

 

 相変わらずなウーサーの様子に、グリムは若干遠い目をせずにはいられなかった。当人の言う覚醒とやらで力が大幅に上昇し、知力も強化されたようだが、なんで性格までハイテンションになってるのか。ひょっとして覚醒の副作用なのだろうか。

 脳細胞が活性化したんじゃなくて、頭のネジが緩んてしまったんじゃないか?とつい失礼な事を考えてしまう。

 

「そんだけパワーアップしたら、もうただの人間とは言えねえな。いっその事、スーパーブリテン人とでも名乗ってみるか?」

「おお、それは良い!とてもカッコいいじゃないか!早速今から――」

「お願い、これ以上私の心の平穏を奪わないで」

 

 グリムの投げやりな提案にウーサーは乗り気であったが、トネリコが盛大にストップさせる。ブリテン異聞帯に『中二病』なる単語はないが、今のウーサーはそれに近いだろう。妻としては、出来ればやめてほしいところであった。

 

 そんな感じで会話を交えてから、トネリコは先程のグリムの言葉を思い出す。

 

「ところで、先ほどこの部屋に入ってきた時のグリムの言葉ですが。どうして、『円卓』の組織構成について私に黙っているようウーサー君に進言したんですか?」

 

 彼女としては、そのような重要事項をなぜ自分に黙っていなければいけなかったのか、ハッキリとさせたかった。

 

 トネリコに問われたグリムはというと、何故か困ったような表情を浮かべる。

 

「あー、さっき言ったことだな。なんでかって話だけどよ……」

 

 先ほど自分から言い出した割に、少年の歯切れが悪かった。その先を続けるべきか、迷いが見られる。

 その様子に、彼女は不満そうな表情を浮かべる。

 

「む。私には打ち明けられない理由だと?」

「いや、そういう訳じゃねえんだけど……なんつーか、お前の名誉にかかわる話であってだな。オレとしても、言いづらいというか……」

「私の名誉、ですか?悪い情報を受け止められないほど、私は狭量ではありません。どうかハッキリと言ってください」

 

 そう答えを急かすトネリコに、グリムは「仕方ねえか」と呟いて逡巡するのをやめる。

 

 少女の問いに対する少年の返答であるが――

 なんというか、その内容は身も蓋もないものだった。

 

「まあ、ハッキリ言ってしまうとよ――

 

 

 トネリコ、お前すっげえ幸薄いだろ」

「ぐはあっっ!!??」

 

 グリムの指摘が、トネリコの繊細(?)なハートに容赦なく突き刺さる!

 

「言うのはかなーり気が引けるんだけどさ……これまでトネリコは、不幸街道を全力疾走してきただろ?こうして話すことに物凄く罪悪感を覚えるくらいにな……いやマジな話で。

 円卓情報局について話したら、その運の無さが災いして情報が洩れるかもしれないと危惧したんだ。この手の概念は馬鹿に出来ないからな。

 だから念には念を入れて、お前に話さないようウーサーに進言したんだが……」

 

「がはっ!?ぐふうっっ!」

 

 長年の仲間による言葉は、彼女の心に何度もクリティカルヒットし、その度に体が思いっきり痙攣する。その光景を、トトロットとエクターは「うわあ」と本気で引いた表情で眺め、ウーサーは「トネリコ、大丈夫か!?」と慌てだす。

 

(ひ、否定できない……!今日の戴冠式でも嵌められかけたし……!)

 

 今日の件も含め、これまで何度も辛酸を舐めてきた経験上、「そんなの考えすぎです」などとは到底言えなかった。

 我ながら自らの歩みに遠い目をしてしまいそうだ。ああ、いくら人理に背いて自分の夢を追い求めてきたとはいえ、何故こんな世知辛い思いをしてこなければならなかったのか。凄く頑張ってきたのに。

 

 ……深く考えるまでもなく、すべてクソッタレな妖精どものせいだね。うん、本当にどうしようもないや。

 

 つい思考が荒んだ方向へ向かうも、だからといって現実逃避になるかといえば無論そうはならない。口から思わず「ふ、ふふ……ふふふふ……」と自嘲交じりの怪しげな笑い声が漏れてしまう。

 そんなトネリコのやられ具合に対して、グリムは「思った以上にダメージ大きいな……」と思って気遣わし気に声をかける。

 

「えーと……大丈夫か?」

「ふ、ふふふ……わ、私は、この程度で……心が折られることなんて、絶対に有り得ません……!」

「いやお前、生まれたての小鹿みたいに足が震えているぞ」

「ご心配なく……!これはただの、武者震いです……!」

「その言い訳は無理があるだろ……」

 

 不憫なものを見る表情でそう言うグリム。当のトネリコはというと、愛用の杖で体を支えながら「ふふふ……負けるな、負けるな私……!」とブツブツ独り言ちている。表情に縦線が走っており、思いのほかダメージが大きかったようだ。

 

 ……このままにするのは可哀そうなので、ウーサーはもちろんエクターやトトロット、そしてグリムの総がかりで慰める。

 

「コホン……みっともない姿を見せました」

 

 その場にいる仲間たち全員から慰められ、救世主の少女はなんとか持ち直したようだ。わざとらしく咳をして、空気を切り替える。

 

「身も蓋もない理由でしたが、わかりました。ウーサー君が『君を驚かせたかった』なんて言ったのは、私への気遣いによる建前ということですね」

 

 先ほどグリムが口にした理由を聞かせたら自分が凹むと判断し、あえてアホっぽい答えをしたのだろう。そう考えると、トネリコとしては申し訳ない気持ちが湧き上がってくる。

 

 だが、そんな彼女の言葉に、当のウーサーはキョトンとした表情を浮かべた。彼にとって意外な言葉だったようで、不思議そうに告げる。

 

「建前?いや、トネリコ。先ほど僕が口にした言葉は、まじりっけなしの本音なんだけれど」

「やっぱり殴っていいですか?」

 

 青年のアホな返答に、トネリコは目を座らせながら愛用の杖を構えるのであった。

 

 

 

 

 

 

「すいません、先ほどの醜態は忘れてください」

 

 その場で素振りを始めそうな勢いのトネリコであったが、周囲の執り成しで沈静化し矛を収めた。その際にエクターが本当にイノシシを宥めるような素振りだったため、地味に少女を猛らせていたが。

 トネリコは照れ隠しに、再びわざとらしく咳をする。

 

「この件はもういいです。ところでグリム、一つ確認なんですが……」

「おう、なんだ?」

 

 先ほど耳に入った『極秘任務』とやらも気になったが、それより先に聞いておかなければならないことがあった。

 彼女は意識を切り替えて、グリムへと問いかける。

 

「部屋へ入ってきた時にグリムを視て、すぐに気づきました――

 

 

 今のあなたは、()()()()()()()()()()()()()()()ですね?」

 

 

「えっ!?」

「なんだと!?」

 

 トネリコの発言に、トトロットとエクターは驚愕しながらグリムを凝視する。

 ウーサーはというと、驚いている様子は全くなかった。()()()()()()()()()()()()()といった感じで、平静を保っている。

 

 確認の言葉を向けられた少年は、どこか愉快そうな表情を見せる。

 

「はは、やっぱり気づかれたか。

 見ての通りだ。()()()()()()()()()()()()()()()ってことさ。つい10日前のことだけどな。今のオレは『賢人グリム』じゃあなく、正真正銘ただの妖精だ」

 

 彼を『賢人グリム』たらしめていた『権能』は、すでに失われている。

 そう述べる少年――かつて賢人グリムであった妖精は、口にした内容の割にその表情は晴々としていた。『智慧の神』との契約が切れたことを悔いる様子は全く見られない。

 

「神サンの力がオレから無くなっただけで、トネリコとのサーヴァント契約は維持されている。お前がオレのマスターだってことに変わりはない。

 ただ、神サンとの繋がりの切れ方が特殊だったのか、力を失う際に少々パスがおかしくなっちまってよ。こっちの力の変動はお前に伝わってないから、今になって伝える事になったわけさ」

 

 かの神霊がどういう契約の切り方をしたか定かではないが、トネリコとのサーヴァント契約自体は未だ維持されている。そのため、第三者からは少年の変化がわかりづらくなっており、それ故にトトロットとエクターはトネリコが言及するまで気付かなかった。

 二人もグリムをよく見みてみると……確かに以前のような神性が感じられなくなっていた。

 

「……10日前、確かにグリムとの契約のパスに僅かな乱れがありました」

 

 そういえば違和感を覚えたと、当時のことを思い出すトネリコ。

 

「ややノイズが走っているような、魔力の通りが悪いような感覚でした。ただ、その時は戴冠式の方に意識が向いていたから、『グリムと距離が離れているからだろう』と軽く考えていましたが……」

「マスターらしくないな。お前そういうの結構用心深いだろ?普段ならちゃんと原因を調べていただろうに」

「我ながら、戴冠式を前に浮かれていたようですね」

 

 戴冠式前における自らの思慮の浅さに、彼女は反省せずにはいられなかった。

 

「それで、どうしてそんなことに?何の理由もなく『智慧の神』が退去するとは思えません。

 

 ……ひょっとして、私が『楽園の妖精』の使命を果たさないことに対する抗議でしょうか」

 

 彼女に心当たりがあるかといえば、確かにある。

 救世主トネリコはこれまで、妖精達を救おうとはしてきた。決して楽園の使命を軽視したわけではない。それでも、使命を果たす事より自分の夢を優先してきたのは間違いなかった。今日に至るまでずっとだ。

 そんな彼女に、かの神霊が肯定的でない感情を持ったとしても不思議ではないだろう。

 

 彼女自身、それは仕方ないことだと思っている。自らの夢を追うという事は、人理に背を向ける事と同義なのだから。

 同時に、長年力を貸してくれていた神霊に申し訳なさも感じていた。

 

 もちろん『智慧の神』であれば、トネリコが使命より夢を優先するところを最初から未来予測に含めてもおかしくないため、別の理由かもしれないが。

 

「あの神サン、オレの体から去っていくとき何も言わなかったからなあ。当人なりにトネリコの事は気にかけていたから、お前への抗議ってのはあまりピンと来ねえけど。

 ただ、もしトネリコの推測通りだとしたら、オレに対する抗議もあったかもしれねえ」

「グリムに対して?それはまたどうして」

 

 あの神霊が自分に対して肯定的でない感情を持つのは分かるが、グリムに対してもとは一体どういうこと?

 少女は頭に疑問符を浮かべると、すぐに少年から答えが返ってきた。

 

「そりゃあ、オレはお前の味方をし続けてきたからな。神サンからしたら、オレだって本来の役目を果たしているようには見えなかったんじゃねえか」

「本来の役目……」

 

 トネリコが呟くと、グリムは明るい口調で続ける。

 

「もともと賢人グリムの役目は、楽園の妖精に使命を果たさせることだろ?そういう観点だと、確かにオレは役目を果たしてないな!」

 

 そう快活に話す妖精の少年は上機嫌で、恥じ入る事など全くないと物語っていた。

 

「ん?どうしたんだよマスター。そんな鳩が豆鉄砲を食ったよう顔をして」

「いえ、その……」

 

 トネリコの戸惑っている様子にグリムは疑問を抱く。少年としては、何もおかしなことは言っているつもりはないのだが……

 とはいえ、少女とは長い付き合いだ。彼女が何を思っているか概ね当たりを付ける。

 

 グリムの予想は、外れていなかった。

 

「あなたが、賢人としての役目より……私の仲間であることを優先したことに、驚いています」

 

 そんな救世主の少女の返答に、少年は呆れた表情で指摘する。

 

「……トネリコって、意外と観察力に抜けてるところあるよな」

「うぐっ……そう言われると返す言葉がありません」

 

 グリムの指摘に、ばつが悪そうな顔をするトネリコ。まあ、少年は呆れただけで、特に気にしてはいなかったが。

 

 一体どういう理由で『智慧の神』が少年から離れたのか、断定することは出来ない。全く何も言わずに去っていったので、現時点のトネリコ達には知りようがなかった。

 現実に残ったのは、少年が賢人グリムでなくなったという事実だけだ。

 

 とはいえ――

 

「まあ、ただの妖精になったからといって、だから何だって話だ。別に姿や性格が変わった訳じゃねえし。オレのことは今まで通り『グリム』と呼んでくれて構わない。疑似サーヴァントになる前の名前は、もう忘れちまったからな」

 

 長年の間、賢人グリムとして生きてきたのだ。その始まりは妖精歴2000年からであり、今が妖精歴400年なので、その年月は1600年に及ぶ。

 元々ただの妖精だったのはかなり昔の事で、そして賢人グリムとしての活動期間に比べれば遥かに短かった。今更その頃の自分に戻るのは無理で、そして彼自身、戻るつもりもなかった。

 

「……『賢人グリム』ではなく、ただの『グリム』ということか」

「ま、そういうことだ」

 

 エクターの言葉に頷くグリム。

 

「結局のところ、グリムは今まで通りグリムってことなんだろ?じゃあ、これまでと変わらんじゃん!」

「はは、トトロットの言う通りだな!これからも引き続きよろしく頼むぜ!」

 

 当人がそんなポジティブな感じなので、この話はここで終わりかと思われた。

 

 しかし。

 

「今のグリムの状態はわかりました。わかったのですが……」

 

 トネリコの慧眼が、話をここで終わりにさせなかった。

 彼女としては、現在の少年の状態についてサラッと流せない部分があるからだ。

 

「ただの妖精になったと言う割には……()()()()()()()()()()()()気がするんだけど……」

 

 そう。グリムの力は、なんと以前より強くなっているのだ。

 

 しかもちょっと強化されたというレベルではない。強さの次元が一つ変わっており、大幅なパワーアップを果たしていた。

 トネリコが内心で「ひょっとして私より強くなってません?」と思いながら頬に一筋の汗を垂らしていると、グリムは新たなネタ晴らしをする。

 

「最初はオレもビックリしたぜ。なんせ、()()()()()()()』になったら前よりずっと強くなってんだからな」

 

「……なんですと?」

 

 グリムの言ったことに理解が追い付かず、やや間抜けな声色を漏らしてしまうトネリコ。

 そんな彼女の傍で、ウーサーがうんうんと頷きながら少年のネタ晴らしに言葉を繋げる。

 

「神霊としての『権能』が失われたのなら、別の力を身につければいい。長い間、トネリコを手助けしてきたグリムだ。更なる高みへと至れる方法があるのなら、実行しない選択肢はない」

「ウーサーがぶっ飛んだやつになったのは重々承知してたけど、眷属化は流石に驚いたぜ。先ほども言ったけど、マジでただの人間には収まらねえな」

「ふむ。やはり今後は、スーパーブリテン人と名乗るべきだろうか?」

「あー、トネリコが反対しないならいいんじゃねえか」

 

 ははははは、とやたら爽やかな笑い声をあげるウーサーに、呆れと感心の入り混じった微妙な笑みを浮かべるグリム。

 そんな二人を眺めながら、改めて青年のバグキャラっぷりにポカーンとした顔になっているトトロットとエクター。

 

 そして、トネリコの方はというと――

 

「え、ちょっと待って!『眷属』、眷属うぅ!?ウーサー君いつの間にそんな事していたの!?」

 

 二人の言葉に理解が追い付いた瞬間、素っ頓狂な声を上げる。

 

 ちなみに、ウーサーがそれを実行出来ることに関しては――もう疑問を抱くことはなかった。

 

 

 

 

 

 

「思いのほか驚いていたな。アイツのことだから、冷静な反応をすると予想してたんだが」

「今日は大変な一日だった。トネリコも色々と疲れていたんだろう」

 

 あれから時間が経過し、すでに夜を迎えたロンディニウム。

 暗くなった空において星々が輝く中、城のバルコニーでウーサーとグリムは先ほどの様子を思い出しながら言葉を交わしていた。

 

「その疲れの幾分かは、お前が原因だと思うぞ」

「むう。現実とはままならないものだ。僕はトネリコへの愛でひたむきだというのに」

「それは別にいいんだけどな。そのぶっ飛び具合のおかげで、風の氏族のやらかしを乗り切れたわけだし」

 

 以前から多少天然で考え方が型破りなところはあったウーサーであるが、トネリコに想いを伝えてからの彼は物凄い勢いで限界を突破していた。

 

(そもそも『愛の覚醒』でパワーアップとか、オレだってビックリしたっつーの。賢人として生きた経験が『有り得ない』ってガンガン訴えてるぞ)

 

 そんな風に呆れた感想を抱きはしたが――

 

 同時に、痛快さも感じていた。

 ある種の感動を覚えたと言っても良いだろう。

 

「さっきの神サンの話だけどよ」

 

 少し間を空けてグリムの口から出た話題は、いま内心で独白していたのとは別の事であった。

 

「オレの勝手な推測だが――ひょっとしたら、未来が変わったのかもしれない」

 

 語るのは、グリムから離れた神霊についてだ。

 ついこないだ聞いた内容を思い出し、ウーサーは再確認の意味を込めて聞き返す。

 

「……グリムに力を貸していた神霊は、『ここでこうしておかないと詰む』と先読みしてこのブリテンに関与していた」

「ああ。あの神サンは『智慧の神』だからな。昔から多次元的な目でこの()()()()()()()に目をかけ、そしてトネリコの召喚に応じた」

 

 現地人であるウーサーに『ブリテン異聞帯』という言葉を使うも、彼は全く驚かなかった。

 なぜなら、グリムは()()()()()()()()()()()()()()()

 

「その『智慧の神』の未来予測が変わったから、グリムから離れたと?」

「可能性としてはあるんじゃねえか。それで方針を変えたのかもしれない」

 

 作戦変更ってな、と呟くグリム。

 トネリコへの抗議という理由よりも、こちらの理由の方が、少年にはしっくりと来た。

 

「何が原因でどういう変化が訪れるか……神サンとの繋がりが無くなったオレには、わからねえけどよ」

 

 そして、少年は冗談めかした口調で言う。

 

「もし本当に未来が変わったのたら、ウーサーが関係していたりしてな」

 

 確証がないことなので軽口の範囲内であったが、ウーサーのぶっ飛び具合を考えると、有り得ないと断言はできないだろう。

 

「なるほど。トネリコへの愛は未来さえ変えるという事か。やはり愛は偉大だ。この想いをさらなる次元へと昇華していかなければ」

「……そのセリフを聞いて無性に前言撤回したくなるのは、なんでかなあ」

 

 目の前の青年を眺めながらも、視線を遠い先へ向いてしまいたくなってしまう。

 彼はこんな調子で今後も突っ走っていくのだろう。そして、あらゆる理不尽を粉砕していくに違いない。

 そんな未来を、グリムは確信せずにいられなかった。

 

 軽く頭を掻いて、少年は気を取り直す。

 

「ま、今のはあくまで単なる推測だ。明確な根拠があるわけじゃない。だから、()()()()()()()()に思っていてくれ」

 

 ただの推測ばっかで悪いな、と軽く詫びるグリム。それに対し、考える際の参考になると応じるウーサー。

 この件については判断材料が足りないので、考察するのはここまでとするべきだろう。

 

 

「今日を境に、アイツの人生は変わりそうだ」

 

 青年に色々と振り回されていた自らのマスターの姿を、改めて改めて思い出すグリム。

 

「本人は気付いてないようだけどよ。以前まであった諦観っつーか、悲壮感みたいなものが、だいぶ無くなっていた」

「そうだね。さらに言うなら、丁寧口調の崩れる頻度が増えたと思う。感情的になったときの彼女の特徴だ」

 

 ウーサーが同意の言葉を返すと、グリムは軽口の意味合いで突っ込みを入れる。

 

「感情的にさせているのはお前だけどな」

「はは、そうかもしれない。ただ、彼女を振り回している僕が言うのもなんだけれど、元気は出てるんじゃないかな」

「それは間違いねえ。アイツがあそこまで騒がしく振舞うの、本当に久しぶりだ」

 

 それを一時的に振り回されているだけと見ることも出来るが――

 

 二人は、明るく考えていた。

 そしてそれは、間違っていない。

 

 かつてないほど爽快な気分で笑うグリム。そんな少年につられて、ウーサーも笑みを零さずにはいられなかった。

 

「あの調子なら、大丈夫そうだな!」

「ああ。トネリコは大丈夫だ」

 

 季節は春・夏・秋・冬と移り変わっていくものだが、かつてない陽光に照らされて冬は訪れない。

 次の季節は――春に決まりだ。

 

「こらーっ、ウーサー!」

 

 唐突に建物内から、仲間の怒り声が聞こえてくる。

 そちらに顔を向けてみると、二人がいるバルコニーへ向かってトトロットが走り込んできた。

 

 糸紡ぎの妖精は両手を上げながら、ウーサーに説教するが如く声を上げる。

 

「新婚の花嫁を放っておいて、なに男二人で語ってんだーっ!お前はトネリコの傍にいなきゃダメだろー!?」

 

 今日の戴冠式は二人の結婚式も兼ねていた。その最中に事件が起きたとはいえ、二人が結婚したことに変わりはない。今日は新婚初日なのだ。

 それで花嫁から離れて男二人で何やら語っていたら、糸紡ぎの妖精たるトトロットが抗議してくるのは当然だろう。

 

 グリムは思わず可笑しくなり、ウーサーは苦笑しながらもこれは不味いと反省する。

 

「トトロットに怒られてるぞ、ウーサー」

「これは全く言い訳できないな。愛に生きるなら、すぐに花嫁の傍へ行かないと」

「おう、行ってこい行ってこい」

 

 トトロットに急かされて、反省したウーサーは城の中へ向かおうと足を踏み出すも――

 いったん立ち止まり、グリムの方へと振り返る。

 

「……グリム」

「ん?どうした」

 

「これからも引き続き――トネリコの力になってくれ」

 

 その願いを口にしたウーサーの眼差しは、真摯の一言に尽きる。

 それを受けたグリムの反応は、いまさら水くさいこと言うなというものであった。

 

「こないだ、お前と話したと時に言っただろ?オレは()()()()()ってな。

 もう一蓮托生だ。どこまでだって、ついていくさ」

 

 そんなグリムの返答を受けたウーサーは、感謝の気持ちを込めて頭を下げ、そして城の中へ入っていった。

 そんな青年の様子を見た後、トトロットはこちらに顔を向けるも、グリムは手をひらひらと振って「オレはもうちょっとここにいる」と告げる。

 

 少年の答えを確認した彼女は、ウーサーに続いて城の中へと戻っていった。

 

(ウーサーのやつ、変な覚醒をして規格外の存在になったけど、トネリコに関して心配性なところは変わらないな)

 

 

 一人でバルコニーに残ったグリム。

 見上げた夜空には、相も変わらず星々が輝いている。

 

「……かつてアンタから与えられた役割の大切さは、よくわかっていた。これからオレが歩もうとしている道は、ひょっとしたら、それに反することなのかもしれない。

 けどよ――」

 

 すでに自分からは離れた『智慧の神』に向けて、少年は呟く。

 

「決めたんだ、アイツの力になり続けるって。夢を追い求めて突っ走る、世話の焼けるマスターの力にな。

 だから、悪い。

 

 ――オレは、自分の決めた道を進ませてもらう」

 

 かつて『賢人グリム』だった少年の決意が、ソラヘ向かって響くのであった――

 

 

 




 初代グリムの性格については、二代目『賢人グリム』のキャスニキ曰く「初代(ガキ)の俺は甘かったようだがな」というセリフと、FGOアーケードコラボ「螺旋証明世界 リリムハーロット」でのセタンタの描写を参考にさせていただきました。

 ちなみに、グリムに力を貸したオーディンは『智慧の神』なので、トネリコの使命より自らの夢を優先するという行動を、最初から未来予測に含めていてもおかしくないなあと個人的に思っています。


 
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