ナイトクラウド   作:三概井那多

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深淵鏡変11

 勝利宣言を告げると途端に周囲の景色が映り替わっていく。これまで陸上競技場だった場所から倉庫のような戦闘場のような暗い広大な場所に変わっていく。

 

 ……ん~、《間道》っぽくない。っつーか、やっぱコイツ本当に霊能力者だったのか?

 

 戦いの中でもちょくちょく感じていた違和感。今まで何人者の霊能力者と戦ってきたが、霊力や呪力といったものを一切感じられなかった。いや、霊力だけじゃない。他の異能者、今まで戦ってきて知っている限りでの血統者や星導士ともまた違っていた。

 

 コイツなんだったんだ?

 

 死に絶えたヤツを見る。死んだ以上何者だったのか正体は二度と知れないが。元々喋んねえ、人見知りの陰キャ野郎だったっぽいし。ま、こっちは愉しかったからいいんだけど。

 

 などと、倒した相手のこと思うのをやめると。

 

「おい、お前」

 

 突然知らない声が背後から飛んでくる。

 

 振り返ってみれば青みのある髪をした軍服のような学生服のような、腰に刀を下げた同い年くらいの男がこちらへとやや緊張した趣で語りかけてくる。

 

「お前は、―――っ!?」

 

「おかわり!!」

 

 そう叫んでヤツへと即座に斬りかかった。

 

 ヤツは驚いた顔をみせるがしかし、その一刀に対抗して学生服も腰の刀を抜いて刃が交じり合う。

 

 ヤツの刀は澄んだ青空を思わせる空色の刀身をし、鯉口の先の刀の腹に天ノ命と彫られた一品。

 

 大してこちらはさっきまで霊大剣呼べるほどの厚さと大きさを誇っていたものが、普通の刀木刀と遜色のないほどに細々とした霊剣である。さっきまでの闘いによる霊力の消費で普段の成形が維持できず、省エネモード。本体端末と同じくらいか、やや細いくらいの幅と厚さ。

 

〝ゲェム・ブレイク〟もあと数発も撃てないだろう、ギリギリの状態。

 

「ハハ、良いぜ、とことんやってやろうじゃん!」

 

「なっ、お前、……狂っているのか!」

 

 自己分析に意味はないと結論づけて新たな敵へと吐きつける。ヤツはヤツで意味不明だと叫ぶ。

 

 馬鹿か、テメエは。こっちとらもう限界寸前だ、狂わなきゃあ、やってらねえんだろうが!

 

 そう気迫と共にヤツの刀を押し上げようとする。が、青髪は困惑した状態ながらも、上手い具合に剣を捌かれる。

 

 いつもなら押し倒しているところだが、疲労具合とヤツ自身の剣の腕自体が確かなものなのか。

 

 速い奴の次は剣が強い奴か。いいぜ、とことんやろうか。

 

 大地を蹴り、突っ込んでいく。一刀を放って切り裂こうとするが、戸惑いつつもヤツは対処してくる。ぶつかり合う金属と霊剣の甲高い音と火花が飛び散る。

 

「おい、待て、……話を、聞け!」

 

「負けた時の言い訳なんざ興味ねえ!!」

 

「何を言ってやがる!?」

 

 剣を交えながら何か口走るのを無視して、構わず襲い掛かる。

 

 握り締める《ゲーハード・ギア》が滑り落ちそうになるのを必死で食い止める。手が痺れて握力が込めるのも必死だ。腕が棒で、足も震えて踏ん張りも効かない。

 

 関係ねえ! どうせ疲労で死ぬか、コイツに負けて死ぬか、のどっちかだ! なら疲労無視してコイツをぶっ殺して死ぬ! それが夜名津我一の生き方だろうが!!

 

 限界を超えた力を無理矢理引き出して、目の前のヤツに食らいつく。

 

「……(さっきのヤツとの戦いで相当疲労しているんだろうな、のくせにここまで暴れる元気。相当な戦闘狂か。―――仕方ない、悪く思うなよ)」

 

 何か、同情するような、見定めるような憐みの視線を向けられる。……その目気に入らねえな、どうして今日の敵はどいつコイツもこっちをどうでもいい奴を見るような目を向けてきやがる。―――アイツと同じように無視できなくしてやらぁ!

 

「その上から目線やめやがれ!! 〝ゲェム・ブレイク〟!」

 

 霊剣に霊力を流して白刃と化した霊破衝を放つ。

 

 対してヤツは、その握り締めていた空色の刀身の鋼の色を変えて、雨を思わせる青へと変色させて、水を纏わせてはまるで雨乞いの如く剣を舞うように震わせた。

 

 

 ―――雨之太刀〝沫く雨(しぶくあめ)

 

 

 ヤツの使う振う剣技は、まるで大雨の中にできた水たまりに車の勢いによって激しい飛沫を起こさせて、白刃の霊破衝を防ぐ。

 

「なんだと!? ―――っ!」

 

 必殺技を掻き消されたことに驚くも束の間、ヤツは青に変わった刀身が新たに緑色へと変色させては鋼に風を纏わせて、一瞬でこちらへと距離を詰められる。

 

 

 ―――風之太刀〝旋風陣(せんぷうじん)・峰打ち〟

 

 

《空間鬼ごっこ》を発動させる前に奴の風を纏わせた鋼が奔る。こちらも舞うような剣技だが、さっきのが洗い流す柔の型なら、こちらはこちらは叩きつけるような豪の型と呼べるもの。

 

 旋風が吹き荒れるように素早く何刀ものが叩きつけられる。

 

 されるがままに一方的に打ち付けられて地面へと倒れ伏せる。

 

「話を聞け」

 

 首元に刀を充てられて、少し冷徹な声色で告げてくる。次暴れれば容赦なく首を切り落とすと言わんばかりの覚悟が伝わってくる。

 

 この野郎……下に見やがって! 上等だ、なめんなよ、そっちが首切り落とすんならそのまま切り落とされた首を飛ばしててめえの首を喰い殺してやる。

 

 コケにされたまま気が済まず、そう反発心込めた瞳でヤツへと睨み付ける、反抗的な態度に眉を顰めてはやれやれと言わんばかりに肩を竦める。

 

 ホント、腹立つな、コイツ! 首を斬られる覚悟で本気で―――

 

 そう思っていた瞬間、《ゲーハード・ギア》が着信音が響き渡っては自動通話が開始される。

 

『おい、我一! いつまで遊んでいるつもりだ!』

 

「うっせえな、タタラ、今お愉しみ中だ! ……って待ってタタラ!? お前なんで連絡とれてんだ!?」

 

 突如《ゲーハード・ギア》から来た着信の相手はタタラだった。最初怒鳴りつけて無視しようかと思ったが、相手がタタラだということにハッとさせられてどういうことだと、一周回って血に上っていた頭が冷静さを取り戻す。

 

《ゲーハード・ギア》の《怪物図鑑》は契約交わした識神の家である。家にいる際はこうやって連絡を取り合うことができるが、朱月の護衛として外に出払っている状態のはずが、こうして連絡が取れている。つまり、召喚術が解けて《ゲーハード・ギア》に還ってきたことになる。

 

 しかも還ってきているのが戦闘担当のタタラだと!?

 

 一体どういうことだと冷静になったはずの頭が混乱する。こっちの事を気にせずにタタラ簡潔に要件を伝える。

 

『急げ、あの女敵の親玉に捕まった。オレもやられてしばらく回復に努める。ノンヘイとすけこましが残っているがアイツらもアイツらで瀕死だ』

 

「お前が負けたのか!? って、あ、切れた。……あ~、クッソ、ああ、そうだった、戯ぶのに夢中で忘れてたわ」

 

 言うだけ言ってタタラとの連絡が切れる。アイツもアイツで相当切羽つまった言い回し「しばらく回復に努める」なんて告げてくるってことは相当なダメージを受けたことを予想される。

 

 クソ、戯びに夢中なあまりここに来た理由を完全に失念してしまっていた。あ~、そうだ、ここに来たのって溟さんが連れ去られたからで、それを追って、朱月を先に行かせてたんだった。

 

 ここまでの経緯を今更ながら思い出す。……タタラ達がいれば大抵のこと何とかなると思ったんだが、……溟さんとの約束もある。―――パッパッと行くか。

 

「おい、何の話―――!?」

 

 寝転がった状態で上半身に力込めて、無理矢理下半身を起こしあげる、逆立ちする要領の青髪の刃から逃れて、新体操の連続技の如く距離を取る。

 

「わりぃな、お前とはまた今度戯んでやる」

 

《ゲーハード・ギア》を弄る。《空間鬼ごっこ》のもう一つの能力というか、応用技を発動させようと設定を弄る。

 

 陣地交換。離れている相手との場所を互いに入れ替える。制約としては使役している識神のみ。つまりタタラ、ムツ、ノンヘイの三体なら《ゲーハード・ギア》の中以外ならどこでも場所交換の移動できる。

 

 場所特定、座標をセットしてムツと移動しようと―――、

 

「おい、待て! まだ話は終わってない!」

 

 青髪が逃がさないと言わんばかりに手を伸ばして肩を掴んでくる。

 

 ―――あ、

 

 瞬間、目には見えなかったが《ゲーハード・ギア》のセット対象がムツのはずが、追加でノンヘイも含まれて、転移が発動される。

 

 軽くジャンプでもしたような体感の揺れが起きては周囲の景色が移り変わる。

 

「なっ!?」

 

『ふぉ、ふぉ、ふぉ。これは、コレは、興味深い』

 

「―――我一君っ!」

 

 その場にいた三者三様それぞれの言葉を漏らす。一人は移動に驚き、一人は登場に関心したように、一人は待ち人が来たことに弾んだ、安堵を漏らす。

 

 だが、そんな三人の言葉はこっちの耳には聞こえない。なぜならば。

 

 

 

「あああああああああああぁぁぁぁ~~~~~!!!!!」

 

 

 

 絶叫する。

 

 全身に爆ぜてしまいそうな激痛が奔り、たまらずその場に倒れて蹲る。

 

 霊力の限界と設けた制約において違反による罰則のダメージが全身に響き渡る。頭が割れる。脳がぐちゃぐちゃに混ぜられる感覚。体内血管やら内臓がひっくり返ったような強烈な不快感。何もかもをぶちまけたい嘔吐感。全身の神経が焼き切れるあまり、そこから筋肉の繊維から肌へと、内側から徐々に外へと傷が開いていく感覚。

 

 さっきまでの戦闘は肉体的疲労と外的ダメージの感覚が強かったけど、コレは違う。最初から内部からくる苦痛。防ぐことも、耐えることもできないどうしようもない激痛に襲われる。

 

「我一君!? 我一君!! どうしたの!? 我一君!!!」

 

 朱月の言葉がきこえる。―――煩わしい、喋んなバカ女、頭に響くだろうが!!

 

 朱月の悲鳴にも似た呼び声に殺意が湧くが、その殺意もこの苦痛にすぐさま消え去ってしまう。

 

 〝―――癒す雨〟

 

 降り注がれる安らぎを与える恵みの雨が肉体へと落ちてくる。痛みは緩和され、傷が癒えていく。

 

 顔を上がると、あの青髪がまた刀身を、雨を思わせるくすんだ青の刀身へと変えて、水を纏った剣を振っていたのだ。

 

「とりあえず傷は癒した、ぞぉお!?」

 

 感謝しろと言わんばかり態度を示してくるところにヘッドバッドを喰らわしてやった。

 

 予想外の攻撃に頭を眩ませる青髪に襟元を捕まえて釣り上げる。

 

「テメエ、人がお愉しみの末に折角手に入れた新能力消えたじゃねえか!! もう二度と戯べねえじゃねえか、どうしてくれる!!」

 

「は、はあ!?」

 

 こちらの真っ当な怒りに対して青髪は理解できないと困惑した声を漏らす。~~~この野郎!

 

「だ~か~ら~、テメエが割り込んだせいで新技が一個消えたんだよ! テメエも異能者なら霊能力者の魂の契りくらい知ってんだろうが!」

 

 あの野郎との死闘で折角手に入れた《空間鬼ごっこ》が《ゲーハード・ギア》から消えた。裏技である陣地交換は使役識神のみに対してだけの場所交換の制約を設けたが、移動の直前でコイツが乱入してきたことでコイツ事移動してしまったことで、制約違反による罰則で《空間鬼ごっこ》が消滅してしまった。

 

 つまり、もう二度と《空間鬼ごっこ》は使えない。

 

 細かいことはともかく意味を察して理解したのか、青髪は気まずくなりながら反論してくる。

 

「不可抗力だ、お前が空間術を使うとは思わなかった。というか、このくらいで罰の対象を設けるそちらがどうなんだ」

 

「うっせえな、習得したばっかで細かい設定弄っている最中だったんだよ。朱月ん所に行くのに、……ってああ、そうだ。また忘れるところだった。朱月!!」

 

 青髪と言い争っている場合ではないと押し上げて、朱月の方へと身体を向ける。

 

 そちらへと向けると謎の黒い宇宙服が背中から生える触手で朱月の首根っこを捕まえて拘束している。

 

 宇宙服はパンパンと拍手喝采をこちらへと送ってくる。

 

『素晴らしいです。異世界より来た勇者ブルーレイブN.T.を、埜本豊和をたお、―――ふぉ、ふぉ、ふぉ、せっかちな方ですね』

 

「人の必殺技、あっさり弾いてんじゃねえよ」

 

 喋っている隙を見て朱月の掴んでいる触手を切り落としてやろうと〝ゲェム・ブレイク〟を放ったが、宇宙服野郎は別の触手で虫でも払うようにして打ち消しやがった。隣で「お、おい」と青髪から注意の声が聞こえるが無視する。テメエとはまた今度戯んでやるって言っただろうが。

 

 今は、朱月を捕えている目の前のこの胡散臭い宇宙服が先だ。

 

 朱月と視線が合う。不安そうだが、こっちを信じてくれているような光を宿した瞳を向けてくる。……待ってろ、今助けてやっから。

 

 っつーか、こっちのことせっかちって言ったが、お前の手下のヤツこっちの話一切聞かずに蹴ってくるヤツだったぞ。

 

「深淵卿!」

 

 内心でそんな突っ込みを入れていると、隣で青髪が刀を構えて宇宙服へと敵意を向ける。なんだ、知り合いか? 味方同士かと思ったけどどうやら青髪と宇宙服は敵同士のようだ。

 

 ま、こっちには関係ない話か。どうせ両方倒すんだから。

 

 青髪に合わせるわけじゃないが、《ゲーハード・ギア》の霊剣……相変わらず普通の棒サイズ霊力の状態を宇宙服へと向ける。

 

「お前が親玉でいいんだな? とりあえず、朱月を放せ。溟さんも返せ。そしたらぶっ殺してやる」

 

 宇宙服に堂々と勝利宣言噛ますと隣で青髪が突っ込みを入れてくる。

 

「おい、お前じゃあ無理だ、下がってろ。あの娘のことなら俺が助けてやる。経緯はどうであれ、お前―――」

 

「うっせえ、テメエこそすっこんでろ。お前はお前で後で戯んでやるって言っただろうが。アイツぶっ殺して朱月と溟さん取り戻して家に無事に帰したら、ちゃんと相手してやっから待ってろボケ」

 

「なんでそんな好戦的なんだお前は!? ……ここは大人しく俺に任せろ、傷は癒してやったが霊力は限界なんだろう」

 

「知るか、五体満足でまだ生きてんだ。まだ死んでねえんだ。全然イケるわ。ゲームでも画面が真っ暗なゲームオーバーにはなってねえ」

 

「……なんなんだ、お前は」

 

 訝しげな視線をこちらへと送ってくる青髪。なんだ、その顔は当たり前の事言っただけだろうがそんな意味不明って顔されるいわれはない。

 

 ふぉ、ふぉ、ふぉと呼吸困難みたいな笑い声が割って入られる。

 

『素敵な漫才ですね、お二人さん。見ていてとても楽しい気持ちになって、是非ともこのままお二人やり取り眺めていたものですが、残念ですが私も忙しい身。こうゆっくりしている暇ももう五分もありません』

 

「なら安心しろ、速攻でぶっ殺してやるから」

 

『それは怖いですね。ですがか弱い女性に対して紳士が吐く言葉でありませんよ。我一君』

 

「なんで名前知って……え? お前女なの?」

 

 なぜ名前を知っているのかと疑問に思い返そうと思ったが、それ以上に無視できない発言が返ってきて思わず素で訊き返してしまう。宇宙服はええと頷く。

 

『見ての通り、女性専用の衣服を纏っているじゃないですか』

 

「そうなのか」

 

「馬鹿、宇宙服にサイズ別あっても男女別はない(たぶん)」

 

「騙したな、この野郎! 小学校中退だからって馬鹿にすんなよ!」

 

『本当に面白い方々だ』

 

 ちなみにお名前に関しては郷村朱月さんが先ほどから何度も連呼していましたよ、と丁寧に教えてくれる。完全におちょくられている。楽し気に笑う宇宙服に「お前のおかしな声程でもねえよ」とだけ軽口を返しておく。というか本当に変な声だなコイツ、ヘルメット越しの声ってだけじゃねえな。なんかアナウンス的な声。

 

 どうでもいいこと思っていると、こっちが口にする言葉では拉致がいかないと思ったのか、青髪が一歩前へと出る。

 

「深淵卿、その娘を放せ」

 

『そちらの方と違って勇敢ですね、私相手に対して唯曇千寿君。昔、あなたの御爺様にはこっぴろくやられたことを思い出します』

 

「祖父を知っているのか!?」「こっちのことを無謀なバカみたい言ってんじゃねえよ」

 

 青髪と台詞が被る。青髪からお前は黙ってろ、と言わんばかりの視線を送られる。宇宙服はふぉ、ふぉ、ふぉ、と相変わらずおかしな笑い声を上げて告げてくる。

 

『非常に興味深いお方で研究に手伝って貰おうと思いましたが、残念ながら酷い目を見ることになってしまいました。いや、アレは本当に痛かった。私痛覚の機能が残っていないのですが。あの方の剣はそれはそれは。……あなたには御爺様の代わりに私の研究の手伝いをして貰えないでしょうか? 貴方もあの〝蒼碧〟の通路を通って来られたならば、十分に可能性が秘めていると思われます』

 

 宇宙服が告げた途端、ヤツの手が動く。

 

 まるでジャングルに潜む蛇が獲物目掛けて飛ぶかのように黒いグローブが青髪へと襲い掛かる。青髪はそれに反応して剣を振って弾き飛ば―――いや、弾き飛ばせずに打ちのめされて無様に地面に転がる。

 

「ギャハハハ、だっせ」

 

「……斬り伏せるぞ、お前」

 

 カッコつけて斬ろうとして失敗して逆にボコられた青髪を嘲笑う。なら、あなたはどうでしょうか、と宇宙服はこちらへと切り返してくる。

 

「まあ、そこで無様に見とけって。こんなもんはこうして―――っ!?」

 

 飛んでくるグローブを弾き飛ばそうと霊剣でかち合わせると、想像以上の衝撃。まるで巨大な鉄球かスピードに乗ったトラックでも飛んできた時の強力さに踏み込みが足らず押し負ける。

 

「こんなもんは、なんだって?」

 

「……見た目に騙されるなって言葉を知らねえのか?」

 

 青髪との軽口を叩きながら理解する。なるほど、だからコイツがあっさりぶっ飛ばされたのか、野球かと思ったら、放ったピッチャーの肩が砲台だったってわけか。

 

 本当に愉快な方々です、と宇宙服が言う。

 

『見た目通りの重さと硬さだと思わない方がいいですよ、まあ、あなたの御爺様ならこの程度容易く斬って捨てましたか』

 

「……!」

 

 宇宙服の挑発するように言う。話の中でちょくちょく出てくる、青髪のジジイは宇宙服と戦って、この初見殺しが容易く破ったってことか。そいつはまた、愉しそうなヤツがいたもんだ。

 

 と、いい加減、戯びに集中しねえとな。

 

 朱月が不安そうな目で「我一君……」と呟いてこちらを見てくる。分かっているって、さっさとコイツぶっ殺して助けてやるから。

 

 二度目の助けてやるの誓いを立てて《ゲーハード・ギア》の霊剣を構え直す。もう油断しねえ。例え攻撃が岩盤のロケットだろうと、激流の氷だろうと、なんだろうと全部気合でぶっ壊す気でぶっ叩けばいいだけの話だろう。

 

 握り締める《ゲーハード・ギア》。

 

 形成される霊剣はまだ細い。込める握力は普段よりやや弱い。青髪が傷を癒してくれたが、疲労感が消えたわけじゃない。霊力も空にガス欠気味。〝ゲェム・ブレイク〟も残り一発だろうな。

 

 

 ―――渾身の一撃で、秒で決めてやる。

 

 

 霊剣に霊力を流し込んで白刃と化す。

 

 朱月の方に視線を向ける。

 

「朱月、ちょっと危ねえけど信じろ」

 

「う、うん! 我一君のこと信じてる」

 

 朱月は放たれた言葉か、あるいはこっちが向けている迷いのない強い瞳を見てか、どちらにしろ、腹をくくったご機嫌な返事をしてくる。

 

 ……覚悟完了。―――この一撃で決める。

 

「おい、お前まさかさっきみたく霊破衝を撃つつもりじゃないだろうな」

 

「……お前な、手の内バラすなよ」

 

 折角、良い感じの空気とテンションになって、気力だけでベストコンディションでボルテージが上がったというのに、隣から空気を読まず茶々入れてくる青髪。呆れた目を向けると、怖い顔して今にも襟元掴んで頭突きをかましてきそうな、低い声で言ってくる。

 

「お前、あの子が大切じゃないのか!? さっきも軽率に放ったがもしあの子に当たったらと考えないのか!?」

 

「狙うのはアイツだけだ。朱月に傷一つ付けねえ。朱月信じてくれるよな!」

 

「うん!」

 

「ほら」

 

 本人からもこうして信頼して許可を貰えたんだ。何の問題もない。

 

 だが、青髪は戸惑ったように朱月へと「君分かっているのか!」と注意するように叫び、構え直すこちらに「おい、だからやめろ」と止めてくる……なんなんだよ、コイツはさっきから本当に。難癖ばっかつけてきやがって。

 

 ……こっちもこっちで余裕はねえんだよ。

 

 蓄えて維持している霊剣握り締めている握力がプルプルと痙攣を起こし始めている。額やら背中に嫌な汗がじわじわと湧いてくる。……まだイケるだろ、おい、しっかりしろ。

 

 青髪は真剣な眼差しでこちらに向けてくる。

 

「俺と共闘しろ、あの娘を助けて、深淵卿からこの場を切り抜けるにはそれしかない。お前だって分かっているはずだろ?」

 

「やなこったね、折角愉しい戯びなんだ。テメエと組むくらいならテメエまとめてぶっ殺してやる」

 

 っつーか会ったばかりの知らねえ奴と共闘するわけねえだろうが。お前が宇宙服の敵って分かってもこっちの敵ではない証明にならないだろうが。いつから仲良しこよしの関係になったんだって話だ。

 

 全くのナンセンスな話の提案を突っぱねると、青髪は聞き捨てならないと言わんばかりの激怒し叫ぶ。

 

「あそび、だと! お前、あの娘のことが心配ではないのか!? あの子を助けたいとそう思っているじゃないのか、それを遊びだと、この状況をゲームか何かだと思っているのか!?」

 

「じゃあ、殺し合いって言えばいいのか? それとも喧嘩か? 別に言葉なんてどうでもいいだろう、こっちのテンションが上がる言葉ならそれで。……余裕がねえのにイチイチ他人に気を使った言葉選びなんてできるかよ」

 

「……お前え!」

 

 今に殴りかかってきてそうな勢いの青髪。本当にコイツごとぶっ殺してやろうかとイラつきが湧いていると、割って入るあのおかしな声が聞こえてくる。

 

『青春ですね。仲善きことは美しきことかな。喧嘩するほど仲がいい。その言葉らはあなた達ためにあるようなものですね。薔薇の間に入る女性にはなりたくないのですが、申し訳ありませんそろそろ進めてもらっても構わないでしょうか? あるいは研究の方に戻っても?』

 

「いや、わりぃなこっちのヤツがぐずるガキみたいに癇癪起こしてな」

 

「なっ!」

 

「この一撃で決めてやるから大人しくぶっ殺されてろ」

 

 溜めに溜めた白刃の霊剣が限界にまで膨れ上がる。いつもの大剣の形よりはるか大きさを成形される。解き放ては最大火力であり、まともに喰らえば一溜りもないだろうと安易に想像ができる代物。

 

 剣を解き放つ型を取り、叫ぶ。

 

 

「〝ゲェム〟!!」

 

 

 瞬間、こっちの姿は消える―――《弾弦》!

 

 宇宙服の背後を取り、朱月を捕えている触手を狙って刃を奔らせる。

 

 

「〝ブレイク〟!!」

 

 

 かち合う触手。グローブ同様ひ弱な見た目とは打って変わり、鋼だとか岩盤だとかの頑丈さを感じさせる硬さ。さっきグローブの攻撃で学習して、とりあえず、全部死ぬ気でぶっ叩く気合でイケ、の考えは間違ってなかった。

 

 今にも強く抵抗して弾き飛ばそうとする触手に全力でねじ伏せるようと渾身の力を込める。

 

『(移動術で接近して、近距離からの必殺技ですが、考えましたが……おや?)』

 

 最初は抵抗していた触手だったが徐々に刃が食い込んでいくのを感じる。流し込む霊力が白刃の輝きを増していく。

 

 今引き出せる、ありったけのチカラを……世界をぶっ壊すつもりの気持ちでイケえええ!!

 

 

 

「こんな価値観ぶっ、壊れろぉおおおおおお!!!」

 

 

 

 雄叫びと共に触手は食い込みが増していき、そして触手を両断することに成功した。

 

 

 ―――まだだ!

 

 

 白刃を完全に解き放たずに維持して、身体を強引に曲げて軌道を曲げる。視界に宇宙服を捕えた瞬間、ここだ! と霊破衝を解き放つ。

 

 放たれた白刃は宇宙服へと直撃する。

 

 どうだい、そのまま両断されて地獄に落ちろ!

 

 かましてやったぞ、とそう嘲笑う気持ちになりながら地面へと倒れ込んだ。

 

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