「あらあら、いつの間にこんな良い男が」
「昨日からっす。どうですお嬢さん、うちのパンはモチモチしてるから、お嬢さんの肌もモチモチになりますよ!」
「まあ、お嬢さんなんて口が上手い。買ったわ」
「毎度」
「あ、お兄さん、こっちのクッキーは子供達ように分けてくれる? いつも綺麗にラッピングして貰っているんだけど」
「あいよ、お姫様。ご一緒にこのジャムもどうです?」
「なら頂こうかしら」
「毎度」
「あんちゃん、いつものパンばちょうだい」
「オフコース。……いつものってなんっすか?」
「あん? いつもの? ココはパン屋だろ? 孫がここのが大好きでね」
「ちょっと、お姉さん。ボケるのには早いでしょうが。こっちは昨日から入ったから分かんないの。どんなパン?」
「あ~そがんか。じゃあチョコかね。チョコが好きよ。嫌いなヤツはおらん。孫が大好きでね」
「毎度」
本日二度目のラッシュ。昼食を終えて、マダム達がアフタヌーンティーのためのパンやクッキーといったものを買っていく。大半は常連客なのか、こっちの存在を見ては物珍しそうにし、一人一人があれやこれやと話しかけてくる。
最初は適当に流す程度だったんが、あまりの客の入り用と対応に、熱が入り、口と頭と手が暴走状態にある。
あれ、昔見たアニメとかでこんな小粋な冗談交わすのって人の好さがある類と思ったけど、実際にやってみると、ああ、これって忙し過ぎてもうどうにでもなれ、ってやけくそ感で適当な言葉が出てくるんだな、って。
常連さんのマダムから何度も同じ質問と、細かい注文や変則的な注文をされると頭がパニッくるのなんの。もう、どうにでもなれって! って勢いですっ飛ばすしかないって感じだ。
バタバタと対応には勝手に口を動いてもらって、手先は慣れないレジ打ちとラッピングや包装に四苦八苦。動く頭は変則的な注文に対応するのに必死だ。
「溟さん、良い感じのお婿さんが来たわね」
「ええ、娘も昨日からずっとそわそわしちゃって」
「あら、朱月ちゃんが。私はてっきり邦充君とばかり。ご愁傷様ね。小さい頃からずっとアタックしていたのに」
「ねえ、邦充君は良い子なのにあの子全然気づかない鈍感娘だったのに。あの子が来た途端にお化粧とかオシャレに気を遣うようになるんですもの」
「幼馴染は負け役ってテレビだけじゃなく現実でもそうなのね」
「あらあら、奥さんの旦那さんは幼馴染じゃないですか」
「そうだったわ。あははは!(あの人、アンタに惚れていたけどね、この二世代ニブチン親子)」
店長よ、そんな呑気にお友達と世間話してないで少しは助けてくれ。こっちはいっぱいこっぱいなんだ。今にも頭弾けてしまいそうなんだ。
くっそ、こんなことなら大人しく仏霊会で適当な依頼をこなして小遣い稼いでいればよかった。面倒癖えな、接客業。……今度から新人のコンビニ店員が戸惑っている時には絶対に優しく温かい目で応援しよう。
そんな感じに悪戦苦闘しながらも昼のラッシュを過ぎ、一息が入れられる時間までやってきた。
「我一君、お茶にしましょうか」
「あ~い……あれ、でも店の方は」
休憩ということで家の方でお茶をしようと溟さんから誘われる。けれど、二人で同時にお茶になると店の方が開いてしまう。そのことに「朱月達が帰ってくるまで人来ないし、例え来てもドア鈴で分かるから」と言われ、納得して家の方へと上がる。
休憩のお菓子は失敗したものや昨日の余りもののパンとクッキー、あとコーヒー。
パクパクと食ってはコーヒーを流し込む、うん、めっちゃ美味い。
食べ方が豪快だったせいか、冥さんからは「男の子ね~、いっぱい食べていいわよ」と微笑ましく食べる様に勧めて、眺めている。
「我一君、ありがとう。そしてご苦労様。仕事覚えが早くて助かったわ」
「いや~、頭ん中はパンク寸前だったけど。朝の間はひたすらやり方を見て、後は勢いで口八丁だけど」
「ふふ、そうね、あんな風に口で商売するなんて、昔のこの商店街みたいだったわ」
どこか懐かしむような調子で楽しそうに微笑む。このシャッター商店街も昔は活気があった時代があったのだろうか。つい昨日来たばかりの身としては昔の事なぞ知らないので何も言えないが。
パクパクとヒビの入ったクッキーを食べる。
「我一君、コレを」
「? ナニコレ」
出されたのは二冊のノートだ。一つは厚くルーズリーフをファイルで挟んだタイプ、もう一つはどこにでも売ってあるノート。二つの中身をパラパラと捲って中身を確かめてみる。
「パンのレシピと、あと材料の仕入れ先とかそういう」
その通り厚いファイルの方はパンのレシピを挟まれた代物で、普通のノートは名前と電話番号材料が書かれた代物だった。
「なんで渡すん? 朱月ちゃんに渡せば?」
渡される意味が分からなかった。普通、この手のものは娘である朱月ちゃんの方に渡されるものだが。そう訊ねると、溟さんは少しだけ困った笑みを浮かべつつも答える。
「そうね、私に何かあった時このお店とあの子達のことをお願いしようって」
唐突に不穏なことを言い出されて、困惑する。向けてくる眼差しに嘘偽りといったものは感じさせないもの。只ならぬ雰囲気で冗談ではないことが伝わってきた。
「いやいや、わりぃけど。ここにいつまでも居座る気はないし。……え? どっか悪いわけ?」
「身体は健康そのもので無事よ。だからこそね」
「?」
何か言葉のニュウアンスに引っ掛かりを覚える。何かのひっかけか? と思っていると溟さんは穏やかな笑顔で言ってくる。
「……我一君、朱月との結婚本気で考えてみない?」
「……冗談、じゃねえな」
「ええ。本気よ」
向けられてくる視線におふざけや冗談といったものは感じられず、返ってきた言葉も芯のあるものに感じられた。
昨日も、なんか意味の分からない言い回しからも何となく察していたが、出会ったばかりなのにどうも朱月ちゃんと仲を結ばせたいようだ。
腕を組んで真面目に考えることにする。本気みたいだし、一宿一飯の恩って言葉がある、茶々入れたおふざけなしで考える。
「……正直、今は考えられねえ。年齢的なこともあるし、こっちもこっちでやってみたいことっていうか、もっと戯んでいたいって話。泊まらせてもらっといて悪いけど、なんか面白そうな興味があることがあったらすぐさまここから出て行くつもりだから」
本心を伝える。
こちとら子供の頃に、生まれ故郷を木端微塵にされ、町の皆を全滅してくれた《大儀式・百鬼夜行》を味わった身だ。あの時のスリルを忘れられず、この五体に、魂に、刻まれた。
死に掛けの生き地獄を味わってなお、もう一度アレで戯びたい、と思って誅禍に頭を下げて霊能力を身に着けた、正真正銘のド阿呆だ。
もう一度、アレか、あれ以上のドンキャン騒ぎで暴れ回りたいっていうの本心。夜名津我一が今生きている理由ってヤツだ。
もし、今この場でどこかであんなお祭りをやっているっていうなら速攻で飛び出して、そこに飛び入り参加して、戯び尽くす。
そのあと、まあここに帰ってくるかどうかはわからん。そのまま死ぬかもしれないし、また別のところでお祭りやっているならそこへ向かうだろう。
ココでバイトしているのも、言っちゃなんだが今はやることがないから、とりあえず、適当に暇を潰そうってだけと言えばその通りだし。
「朱月のことは嫌い?」
「好きか嫌いか、ってだけなら、まあ、好きだぜ。けど恋とか愛とかは分からん。からかって楽しいヤツだと思った。人をイジメたりからかったりが好きなんだ」
朱月ちゃんに関しては好きか嫌いかで言えば好きだ。美人だし、優しいし、可愛い。からかったら面白い反応してくるし、理不尽にキレたり、叫んだりしない。怒った時の顔も結構可愛かったし。
だけど、恋愛面で言えば別にそこまで好きじゃない。あくまでも仲の良い奴、友達のレベルだろう。
「まあ、色気よりも食い気や戯び心の方が強いってヤツだな。恋愛に関してはよく分かんねえってのが本音だ。まだまだ戯びたいお年頃なんで」
最後は茶化してしまったが、とりあえず言いたいことは言えた。ようは結婚する気はさらさらないって話だ。
さて、折角の縁談を棒に振ってしまった反応は如何に。残念と諦めるか、それともしつこく言ってくるか、あるいは理不尽に出て行けと言われるか。
溟さんの反応を窺う。
「それでこそ、郷村家に婿入りするに相応しい男の子ね」
「はい?」
ちょっとだけ予想外の反応にこっちは目を丸くする。
しつこく言ってくるというよりか、納得したような口ぶりというか、逆に気に入った、あるいはそれでこそ、と見直され、惚れ直したというような口の聞きぶり。
今のやり取りのどこに好感度が上昇する場面があったんだろうか? ……素直さ?
こっちが困惑していると、溟さんは活き活きと愉しそうにまるで夢を語る少女のようにして無邪気に語ってくる。
「おばさんね、初孫が見たいの」
「……それだけで娘を会ったばかりの男に誘う?」
それは如何なものか。こっちもこっちでただ暴れたいだけの問題児であるが、こちらも相当危ない類の人なのでは? そういえば雇ってくれた理由も占いどうのこうの言っていたし。
少し引いているとこちらに構わずに彼女は今の突っ込みを返してくれる。
「もちろん、人は選んでいるわ。朱月自身の気持ちもあるしね。朱月、あなたに対して満更でもないでしょう」
「まあ、うん。でも、知り合ったばっかだし、こっちの駄目なところ知って幻滅して振られるかもよ」
朱月ちゃんの反応見る感じこっちに対して好意的なものみえるが、同時に男性慣れしていない恥ずかしがり屋にも見えなくもない。あの手の娘は男に理想を抱いていて、現実を知って離れていくとかなんとか、誅禍の婚活の時に聞いたことがある。
そうでなくとも、友達や恋人はともかく、結婚やら子作りは少し話の段階がすっ飛ばしている。
「愛はね、愛する人の駄目な部分も受け入れられるし、愛しく思えるものよ。朱月なら大丈夫、あの子は私の娘ですもの」
「いや、どういう意味だよ」
愛はダメな部分も受け入れられるって話はこれまた誅禍の婚活で聞いたことくらいはあるが、そこから溟さんの娘の朱月ちゃんだから大丈夫って言われても文脈が繋がらねえっていうか、……溟さんは愛する人の駄目な部分を好きってことか?
一人、内容を読み解こうとしていると、パン、と手を叩いてさも名案とばかりに告げてくる。
「じゃあ、こうしましょう、我一が一緒にいる間におばさんに何か会った時は素直に朱月と結婚して、初孫を作って頂戴」
「……え? ん、まあ、いいけど」
これまたおかしな提案を訴えてきて、一瞬混乱するが、それには頷いた。
「勝手に、今この場から出て行くとかはなしよ」
「そんな揚げ足の取り方はしないから安心して。面白いことが起こるまでここに居座っていいなら居座らせてもらう予定だから」
考えてもいなかった手段を指摘されて、笑って返す。
「溟さんの体調自体に何もなく、無事なら大丈夫でしょう」
「ええ、私の体調は大丈夫よ、病気一つない健康体。そこは保障するわ」
確認のつもりでいったつもりはなかったけど、言葉を受け取った溟さんは繰り返して絶対に何もないことを告げてくる。
……本当は話すつもりはなかったのだが、愉しいことが会ったら出て行く、といった以上もはや隠す必要もないか、と思い、思いっきり素敵な笑みを浮かべて挑発するようにして告げる。
「悪いけど内緒にしていたが、実はこれでも霊能力者なんだぜ。しかもチョー強い。だからここに住んでいる間は溟さんも朱月ちゃんも、妹ちゃん達も全員護ってやるよ。だから何一つ起こることはねえから安心しな」
ここにいる間は郷村家全員護ってやることを誓う。
すると、その挑発を受け止めるようにして笑顔で応えてくれる。
「ええ、あなた強い霊能力者だってことは知っているわ。こっちは鏡越しに全てを見通す占い師なんですもの。未来や別の世界線を観ることができる凄腕の占い師」
冗談なのか本気なのか、イマイチ読み取れない台詞で頷く。
……おそらくだが、彼女も霊能力者類なんだろう。そして、それは占い系の特殊系統の能力。
……強いのかな?
瞬間、そんな戦闘意欲が湧いてくるがそれは戒めた。護ると告げたばかりの相手に戦意を燃やしてどうする、と自重。それにおそらく占いっていうとサポートとか支援、特殊な型だろうから戦闘力は皆無だろう。そんな相手と戦ってもしゃーない。
話を、休憩を終えて、仕事へと戻る。
店の方に戻るが一時間くらい客足はなかった。
「らしゃいませ。って、あ、おかえり。後ろのは友達?」
ようやく客が来たかと思ったら、朱月ちゃんだった。後ろの方に朱月ちゃんと同じ制服を着た男と女が二名も入室してくる。
男の方はなんかイキリ立っているというか、怒っている雰囲気を持っており、女の方は最初こそ男に対してやれやれといった感じだったが、こちらと目が合った瞬間瞳孔が開いた驚きの表情を浮かべている。
「う、うん、ただい、ま!?」
「お前が、おぶぅ!?」
「アンタ、……我一!?」
「? ああ、そうだけど」
朱月ちゃんが挨拶を返している最中に男が飛び出ては、その男は女にぶっ飛ばされる。
女の子が前へと立っては驚いたように名前を呼ばれて、それに頷く。
「…………アタシのこと覚えてない?」
「?」
言われてみればどっかで見たことがあるような気がしないでもないが。
彼女を見詰めながら記憶の中を手繰り寄せて思い出そうと努める。正面から見るとだいぶ良い顔立ちで、クール系ってヤツか。異性よりも同性にモテそうな、バンドとかやってそうな感じだ。
「二人は、……知り合い、なの?」
朱月ちゃんがどこか不安そうな調子で訊ねてくる。……もう少しで思い出せそうな感じもするが。
「ん~、どっかで見覚えがあるような……ないような…………なんて名前?」
「仙奈、尾古座仙奈。巫慎堂の、アンタの世話をした」
「せんな? ……ああ、思い出した。あんときはどうも」
ようやく記憶と一致……いや一致というか、記憶の中の姿と今の姿の繋がりが分かる。昔と違って、可愛さよりもカッコよさの方が伸びた感じだ。
「やっぱ我一だよね、うっわ、背伸びたし、声も変わったね、アンタ」
思い出してもらったことに喜び、懐かしむようにしてマジマジと興味深そうに見てくる。その感想に関してはこっちも同じ気持ちだ。昔は呪いで蝕まれたせいもあってあの時は同じくらいの背丈、声変わりも別れた後で始まったくらいだ。
「そっちも昔と違うな。昔はこう、お姉ちゃん風吹かしていたし、まあ世話になったけど」
「まあね」
と二人でしみじみと昔馴染んでいると会話の蚊帳の外だった朱月ちゃんが目をぱちくりと右往左往させて、気になってしょうがないのかおずおずと突っ込んでくる。
「お世話? え~と、二人はどういう関係かな?」
「ほら、昨日、昔、災害に遭って療養したって話したじゃん。そん時に看護して貰った人ン所の人」
「療養ってか闘病って感じだけど、アンタの場合」
百鬼夜行の呪いによって肉体と精神がボロボロになって死に掛けていたのを、その巫慎堂ってところで浄化と治療をして、一年と半年ほど世話になった。そのあと引き取り手として誅禍に弟子入りして、二年……三年か? まあおおよそそれくらい修行して、今に至るって話だ。
「ふぅ~ん、そうなんだ」
「あ、別に、その、なんかあったわけじゃないから。安心しな。ね」
「ああ、身体が動けないから食べさせてくれたり身体を拭いたり着替え手伝って貰ったり、しょんべんの始末とかしてくれて、動けるようになったら付きっきりでリハビリとかして貰ったくらいだ。なんもないな」
「いらんこと言うな!? 昔からアンタは!」
「昔からお前の困った顔が大好きなんだ」
「~~~っ、は、はああ!? やめろ~!!」
「…………だい、すき?」
「いや、違うから、コイツの大好きは昔からライク的な意味だし、人を困らせることが趣味の悪戯小僧っていうかなんというか」
「好きな娘には意地悪したくなるもんな」
「そういうのをやめろってっつってんだよ! どうしてそんな場を混乱させたいんだ、アンタは!」
「………………仲が、いいんだ……」
仙奈との昔馴染みらしい仲の良いやり取り交わし合う。すると、悲しそうな、あるいはどこか瞳孔の光を失ったような遠い目で乾いた笑みでこちらを見てくる。その声を耳にしてハッと気づいた再びあたふたとする仙奈。
と、その時。
「ハハハ、言う通り仲がいいんだな、お二人さん! 話を聞く限り二人は所謂幼馴染ってことか。やはり幼馴染とは強い絆で結ばれているもの。幼馴染が負け役なんて創作の中だけだな。現実はやっぱ幼馴染同士が結ばれるものなんだ、なあ、朱月」
ぶっ飛んでいた男の方がいつの間にか蘇っては高らかに笑いを出しては『幼馴染は負けない』、なんてこと主張してくる。
「……そんなこと、ないと思うな」
「!?」
「ほら、幼馴染って言っても子供の頃から付き合いだし、普通の人よりか情っていうか愛着? みたいなのは湧くと思うけど、それがイコール恋とか結ばれるとかは……私はないと思うの。ほら、保育園や小学生の頃から付き合いが長くても仲の良い友達のままもいれば。大人になって疎遠になる人も。私と邦充君がまさにそれだと思う。幼馴染だけどいい友達関係で互いに恋愛感情を一切持ってないし」
「ぐはっ!」
なんかあの男ダメージ受けてる。朱月ちゃんのこと好きだったんか? ……アレ? 昨日この手の事で何か思いつきがあったような気がするけど………忘れた。そもそもコイツとは仙奈と違って、初めて会った奴だし、そんな相手に言うべきことはない。
「恋愛占いとかで、ひ、一目惚れとか運命の赤い糸とか、子供っぽいけど私はあると思うな。全く知らない人同士がある日出会って、恋に落ちるって……そんなドラマとか恋愛小説みたいな恋が―――、
―――仙奈ちゃんもそう思わない?」
「……(こ、この娘、親友のアタシに対してめっさ牽制してきおるわ。ついでにあのバカはめっちゃ攻撃喰らって瀕死になっとる。まあこっちはどうでもいいや)」
チラチラとこちらへと頬を紅くしながら恥ずかしそうにしながらも言葉を紡いでは仙奈へと滅茶苦茶綺麗な笑顔を向けてくる。その笑顔は照れて恥ずかしそうにしながらも、裏ではどこか、否定は許さないよ、と告げているように見えた。(あと、ついでに男の方は涙して倒れている。コイツ面白いな。まだちゃんと喋ってないけど、後で絶対に友達になろう)
おっとり美人の朱月ちゃんは意外に強かな言葉を吐いてくる。
さ~て! この攻撃に仙奈選手はどう対処するのか! とワクワクと期待した目でその様子を眺める。事と次第によってはこっちからも援護射撃(燃料投下)も辞さない!
だが、想像以上に面白い反応はなく、仙奈が「誤解だってば! ほら、圧を出すな圧を」と朱月ちゃんに対して宥めている姿しかなかった。なんだ、つまらん。
玩具に飽きたので、結局のところこの三人はどういう理由でここに来たのかを突っ込んでみることにする。
「で、お前ら二人は何しきたの? 買い食い? いかんぞ、学校帰りの買い食いは。いっ~けないんだ、いっけないんだ♪ せ~んせえにいってやろ♪」
「小学生じゃあねえんだよ! なんで『俺関係ねえし』って面してんだ、アンタは!」
「まあ、実際関係ないし。恋愛の好きとか嫌いとかよく分からんし。幼馴染でも最近会ったヤツでも、好きなヤツ同士が付き合って、結婚すれば? って子供の感性だし。大人の恋愛事情は分からん、誅禍のことも分からん」
「あの人、まだ婚活上手くいってないのか……」
「うん」
「……やっぱり、仲がいいんだ」
共通の知り合いである誅禍の名を出して、相変わらずだな、と呆れる仙奈。そのやり取りを見て、悲しそうに不満そうな顔をする朱月ちゃん。仙奈は「もう、アタシが悪かったから、もぅ、アンタが一番困った子だね~」と頭を撫でて慰める。傍から見ると姉妹のようなやり取りだ。
……あれ、仙奈と友達で、さっきの匂わせた発言をした溟さんの娘ってことは、朱月ちゃんももしかして。
とある気づきを覚えていると、話声を聞きつけたのか、家の方から溟さんがやってくる。
「あらあら、どうしたの? 帰ってきたのはいいけど、お店で騒ぐのはやめなさい」
「ただの三角関係の縺れ」
「だから混乱させるようなこというな!」
「……ああ、邦充君。ごめんね、ご愁傷様」
「……そうとるか……いや、この場なら普通、一番に考えられるのってそれだし、ね」
溟さんが男の方へと視線を向けて納得したように呟く。その行為に仙奈は肩透かしを食らったように呆れ、頭を抱えた。
「お母さん、どっか出かけるの?」
朱月さんの一言で、溟さんの衣服が厨房服から普段着なのか、外出着なのかは分からないが普通の恰好になっていることに気付いた。アレ、さっきまではまだ厨房服だったのに。あの後着替えたのか?
溟さんは少し考えるように、ん~、と唸っては「まあ、そんなところね」と告げてきては、ゆったりとした動作で朱月ちゃんの正面見合っては爽やかで柔和な笑みを浮かべる。それは母親の愛が込められた笑みと呼べるものだろう。
「朱月、玲央奈や鐘凛のことを頼んだわよ。お店のことは我一君に言ってあるから」
「? え、あ、うん」
突然の母親の言葉に困惑しつつも頷く朱月ちゃん。その様子によし、と受け入れたようにして朱月ちゃんから離れて、店の出入口の方へと足を向ける。店から立ち去るようだ。
……なぜだろう、その背中から感じる哀愁のようなものは、……もう帰ってこない人の後姿に見えてしまうのは。
それを感じたのは朱月ちゃんも、いや、朱月ちゃんだけじゃなくてこの場に居合わせた全員だろう。代表として、娘として、朱月ちゃんが呼び止める。
「お母さん、どこ行くの? ……ちゃんと、帰ってくるの?」
その声は小さな子供のような不安と恐怖が入り混じった声色だ。今、この瞬間呼びかけなかったらこれが最後の姿と永遠に見納めてしまうんじゃないのか、とそんな心情が伝わってくるもの。
娘の言葉に立ち止まり、少し間を開けてからやがてこちらへといつもの柔らかな笑みで向けてくる。
「大丈夫、ちゃんと帰ってくるわよ」
そう、笑顔で応えると、朱月ちゃんから視線をこちらへと移しては、我一君、と名前を呼ばれる。
「―――約束、守ってね」
そう告げた瞬間、突如として竜巻を思わせる激しい旋風が店の玄関へと襲ってくる。
次回より本格スタート
『実はこれでも霊能力者なんだぜ。しかもチョー強い』
と我一は言ってますが、実力的には中級の下と中の間くらい、能力の型が出来上がったくらい。
例えるなら、ハンター×ハンターのグリードアイランド編終わってキメラアント編の序盤のゴンキルアくらいです。ピトーと出会う前くらい。