魔法祖父ソルグランド ~TS転生した祖父は魔法少女の孫娘を見守る~ 作:永島ひろあき
ヒノカミヒメ達が攻め立てる用意を整えたころ、攻められる側のアンテンラは数百年ぶりにツイノエに侵攻を受けた事態を受け入れ、即座に有効な手立てを模索して実行に移していた。
アンテンラの意識と言うべきものは、このツイノエ全体に及ぶが頭脳は中枢部にある。天井まで三百メートルほどの空間の中心を、ねじれた金属の大樹のような物体が貫いており、その表面に幾何学模様が時折明滅している。
その中心部に同心円状の模様があり、それがアンテンラの心臓かつ頭脳と呼べる代物だった。地球人類があと数百年をかけて到達するべき技術の産物である。
『敵艦ザンエイ、ツイノエの侵入を確認。ならびに敵プラーナ兵器が展開。待機中の全兵器を起動し、これを迎撃する。第七層から第四層まで隔壁を閉鎖』
熱を知らない冷たい女の声に呼応して、ツイノエのもっとも外側である第七層から第四層まで実体とエネルギーによる隔壁が一斉に降ろされて、侵入者の足を鈍らせる手筈が整ってゆく。
プラーナを利用した生体兵器すなわち魔物も、ツイノエで待機していたモノから、近隣の基地からも支援の為の部隊が出撃を始めている。時間を掛ければ掛けるほど、人類側に不利となる。
『敵戦力にヒノカミヒメを確認。目的はツイノエ中枢部。我々と推測。ボイドリア、改造の進捗状況を報告せよ』
ねじれた大樹の前に光の粒子が集まり、それはやがて人の形を取った。対ソルグランドから対ヒノカミヒメへと仕様を変更し、改修を受けていたボイドリアである。
外見に大きな変化は見られない。白かったジャケットやフレアスカート、ボディスーツに赤いラインが走り、眩く輝く紫の長髪から、小さめの黒い角が斜め後ろに向かって生えていた。おそらく体内にも変化は及んでいる筈だ。
「ボイドリアより報告。本機の改修は八十八パーセントまで進行。神通力への耐性、干渉能力付与ならびに基本性能の向上に関しては予定通り工程を終了。いつでも出撃命令に応じられる」
アンテンラを見上げるボイドリアの瞳に、ヒノカミヒメに対する恐怖はなかった。ほとんど一方的に敗北を喫したにも関わらず、フォビドゥンやディザスターのように恐怖を刻まれずに済んだようだ。
製造にあたって、アンテンラが感情の付与と抑制機能を絶妙に持たせた成果と言うべきだろう。
感情の機能を一つも与えなかった場合、プラーナの増幅に支障が出る為に与えないわけにはゆかず、しかしあまりに情緒豊かにすれば強固な自我の発露に繋がり、フォビドゥン達のように反旗を翻す可能性を高める。
魔法少女やソルグランドを参考とする魔物少女の開発において、もっとも難題となるのがこの感情という代物だった。
幸いボイドリアは製造間もないこともあって、アンテンラにどこまでも従順だ。熾火のように小さいが感情もあり、元より強大なプラーナをさらに増大させることも叶っている。
『重畳である。第三層、十六区画に戦闘フィールドを設定する。ヒノカミヒメを誘導し、撃滅せよ』
ボイドリアに命令を下したのは、性別も年齢も混ざり合った声だった。ボイドリアは粛々と命令を受け入れつつ、それ以外について問い返した。自主性の発露であろうか。
「任務了解。ヒノカミヒメ以外の敵戦力については?」
『通常戦力にて対応する。敵勢力はヒノカミヒメを可能な限り消耗の無い状態で、ツイノエ中枢まで送り届かせる作戦を採択する可能性が高い。帰還を前提としなければ全戦力で、帰還を予定しているのなら精鋭を抜粋してヒノカミヒメと行動を共にすると予測している』
「直掩の減った敵艦を撃沈した後、ヒノカミヒメに前後から挟撃を掛ける、あるいは本機がヒノカミヒメを先に撃破した場合には、敵艦の撃沈に本機が加わるものと理解して相違はないか?」
『相違はない。ボイドリアは直ちに出撃、指定した戦闘フィールドでヒノカミヒメを待て』
「承知した、創造主アンテンラ。本機はこれよりヒノカミヒメ破壊任務に従事する」
再びボイドリアの身体が無数の光の粒子へと変わると、彼女の姿はもうそこにはなかった。アンテンラからの命令に従い、そして自分の意思でもってヒノカミヒメを全力で迎え撃つだろう。
*
ツイノエ突入後の行動について、アンテンラ側の推測に間違いはなかった。
ザンエイの自沈によるツイノエに対する悪あがきも選択肢に入れられてはいるが、人類としては作戦に参加した全員の生還を大前提としている。
ツイノエに大きく開いた破壊孔に向けて、ヒノカミヒメに先んじて飛び込んでいったのはファントムクライのように式神や使い魔といった、消耗しても問題の無い戦力だ。これ以外にもカジンが必死に生産したドローンも含まれる。
導きの権能を持つ神々の入ったマジカルドール“ネイバー”と、占いや千里眼、透視系統の固有魔法を持つ魔法少女達によるツイノエの内部構造の把握も並行して行われている。
ザンエイのブリッジを通じて内部構造の情報は共有・更新され続けており、ドローンや式神達には調査の他に敵戦力を分散させる為の囮役も担わせている。
そして両陣営がもっとも注目するヒノカミヒメは、ワイルドハントの仲間達以外にワールドランカークラスの魔法少女とネイバーの半数で構成された突入部隊の集結を終えていた。
突入自体はいつでも可能だが、アンテンラの居る中枢へ至るルートはまだ確定していない、という状況だ。
「中枢へ向けて破壊しながら進む選択肢は、少々、無駄が多いですね。有象無象を蹴散らしながら参りましょう」
自然と突入部隊の中心に居るヒノカミヒメは踏みしめた床の下へと視線を向けて、ボイドリアの存在を考慮して、再びの天滅之無羅苦莽剣の使用を選択肢から除外した。
ボイドリア以外にも中枢部を守る機構か番人は配置しているに違いない。これまで貯蓄したプラーナは使ったから、これから先はヒノカミヒメの自前のプラーナと神通力を消耗することになる。やはり、温存しながら地道に中枢を目指すのが得策だ。
「とりあえず向こうは痺れを切らしたようだぜ。来やがった」
ワンダーアイズが顎をしゃくって、破壊孔から繋がるいくつもの通路の無効から、無数の気配が姿を見せつつあった。
自動車ほどのサイズに玉虫色のカブトガニを思わせるガードメカ、それに原型がなんなのかも分からない生物型の魔物達まで、実にバラエティに富んだ敵が、本拠地に殴り込んで来た異物の排除に殺到してくる。
つい、と前に出たのはジェノルインだった。天の羽衣への適応こそ叶わなかったが、広域殲滅能力はフォビドゥン戦時よりも一段も二段も上昇していた。
二メートル近い杖の先端を特に大きな敵一団へと向けて、ジェノルインはいつもとは違う戦場で、いつものように魔法を行使した。
「僭越ながら私から先方にご挨拶させていただきましょう。……私の目に命は映らない。私の指先は命に触れない。私の耳に死の足音は聞こえない。私の心臓に死の指先は届かない。私の世界に命も死もいらない。『
ソルブレイズをはるかに上回るプラーナ量のジェノルインが、かつてフォビドゥンのデビュー戦で前座の魔物達を台風ごと吹き飛ばした攻撃魔法だ。
あの時は天地を繋ぐ直径一キロメートルの光の柱だったが、今度はジェノルインの杖の向けた先から伸びる光の柱として発せられた。直径は一キロメートルから二キロメートルへ、射程も二十キロメートルから三十キロメートルまで延長している。
ツイノエの構造材を巻きこんで放たれる黄金の光の暴力を、かつてと同じようにワンダーアイズがこちらに届く光だけ決して、味方の目が眩まないように配慮しておく。
たっぷり七秒間をかけて放たれた光の後には、亀裂が走るなど大きなダメージを受けたツイノエだけがあり、接近中の魔物達の反応は綺麗に消し飛んでいた。だが、ジェノルインは喝采を上げずに、溜息を吐いた。
「どうやら私の魔法でこのツイノエを破壊するのはほとんど無理のようね。『滅亡世壊』が直撃する前にバリアのようなものが張られていたし、それを貫通しても崩壊させるまでには至らなかった」
そう、ジェノルインの大火力をもってしてもツイノエそのものには、大して被害が及んでいないのだ。流石に魔物やガードメカなら破壊できたが、そう都合よく中枢まで、あわよくばこの位置から中枢ごと破壊する、とは行かない。
「ジェノルインさん、あなたはこちらに残ってザンエイの防衛に予定を変更してください。敵陣内部へ侵入させるには、広く破壊をもたらすあなたの力は勿体ない」
ヒノカミヒメからの要請に、ジェノルインは後ろ髪を引かれる思いを抱きながら、すぐに応じた。内心では魔物達の生みの親をこの手で抹殺したかっだが、皆で生きて帰る為にはザンエイの防衛がどうしても必要なのだ。
「ええ。死力を尽くして皆の帰る為の船を守って見せましょう。その代わり」
「御懸念なく。アンテンラの首級はこのヒノカミヒメが必ずや」
ソルグランドとは比べるべくもないが、それでもヒノカミヒメが魔物の討伐を命懸けで成し遂げる覚悟があるのは、間違いなと認めていた。彼女だけでなく、この戦いに参加した全ての人間と妖精がそれは認めるところだった。
ジェノルインを始め、彼女の一撃を見て自分が突入組に向いていないと判断した幾人かは同じようにザンエイへ連絡を入れて、布陣の見直しを始める。
「さて、皆さん、私はまずはボイドリアの下へと向かいます。前回の戦闘で彼女との間に縁を結びましたから、彼女の位置ならばおおよそ把握できます。また向こうもまずは私の排除を考えているでしょう。おそらく私とボイドリアが遭遇するように仕向けてくるはず」
「ボイドリアを撃破して更なる情報の引き出しを考えているのですか?」
ザンアキュートの問いかけに、ヒノカミヒメは頷き返す。間違いなく前回よりも改良されてくるだろうボイドリアの相手は、自分が務めなければ甚大な被害をもたらすのは、目に見えている。
アンテンラがザンエイや魔法少女の排除を優先した場合、目にも当てられないこととなる。それはヒノカミヒメにとって、なんとしても避けたい事態だった。
「はい。もちろん、その最中に中枢部への突入路が確認されましたら話は変わりますが、まずは敵の最大戦力を削るところから始めましょう」
ヒノカミヒメは自身に与えられた無数の権能を駆使し、目的を果たすのに最も適した進入路を選択し、ジェノルインなどが抜けて少し数を減らした突入組の先頭に立つ。
「ではマルザーダ司令、そして皆様、参ります。今こそ、魔物との戦いに終止符を打つ時!」
ヒノカミヒメは特に大きな通路の一つに向かい、突入組もまたそれに続いてゆく。
彼女らの背中を見送るザンエイ側にも新たな脅威が迫りつつあった。ツイノエの無事だった港湾部から次々と魔物と機械兵器が出撃し、ザンエイとの距離を見る間に縮めている。
元より敵本拠地に突撃を仕掛けたのだ。敵が雲霞の如く涌いて群がってくるのは想定済みだ。マルザーダはブリッジで矢継ぎ早に指示を出す。
「天魔禍反刺戈による防衛ラインの構築の進捗は?」
ヒノカミヒメが予め鍛造しておいた天魔禍反刺戈四本をザンエイの四方五キロメートルに突き刺し、ツイノエ外部からの侵入を阻害する結界を展開。
これを防衛線として、ツイノエ内外から襲い来る敵を迎撃し、中枢破壊までの時間を稼ぐ予定だった。
「結界構築終了、結界強度百五十パーセントを維持しています。敵、百八十度から半球形に包囲陣を敷いて接近中」
「よろしい。突入部隊が目標を達成するまで、なんとしてもザンエイを沈めるわけにはいかん。予定通りマジカルドールとキグルミ、ヌイグルミを前面に出して対応する。
消耗率が規定レベルBに達した部隊から順次交代をさせろ。予備のドールは山ほどある。意識を保てるものは予備機に意識を移し換えられるように、準備を進めておくんだ」
マジカルドールの長所は同じ性能、同じ武器、同じ操縦性を備え、大量生産可能な点にある。今、使用しているマジカルドールが破壊されても、元の肉体に戻ってから再び新たなマジカルドールに入れば、すぐさま戦線に復帰というゾンビ戦法が可能となる。
今回、ザンエイ内部に意識の帰還場所を固定している為、いわば専用機である魔法少女には出来ない戦いが戦場ですぐさま行えるわけだ。魔法少女ほどの爆発力はないが、兵器としての完成度はマジカルドールの方が優れていると言えよう。
マルザーダの指示が行き渡る頃には、無数の魔物と機械兵器の群れは自分達の棲み処への被害を無視して、一秒でも早くザンエイを宇宙から消滅させようと攻撃を加え始める。
プラズマの砲弾から高出力のレーザー、荷電粒子砲から次元渦動砲に至るまで、攻撃もまた多々に及び、天魔禍反刺戈による半透明に輝く白銀の結界へと激突し、膨大なエネルギーがザンエイを包み込む。
結界とザンエイの多層バリアで守られていると分かっていても、その内側で控える魔法少女達は、いや、誰であれ恐怖を感じていた。
それはそうだ。これまで彼女達が戦ってきた魔物達は、プラーナを搾取する為に惑星に大きな傷を与えないように攻撃能力に制限を設けられていた。しかし、今、ザンエイに襲い掛かる敵にその制限はない。
アンテンラがツイノエのある程度の損害を許容したした結果、攻撃力においては一段も二段も上なのだ。それがかつてない密度での攻撃で襲い掛かっている状況は、生存本能を激しく怯えさせるには十分すぎた。
だが一時的にザンエイがヒノカミヒメの神域となっていること、そしてソルグランドの遺した天魔禍反刺戈の特性、ザンエイのエンジンが生み出す莫大なエネルギーの組み合わせは、四方八方から浴びせられる攻撃を確かに受け止めた上で、ソレらを跳ね返してみせた。
ソルグランドが惑星ナザンに構築した迎撃システムでは、風と土と水とが矛の形になって襲い掛かるものだったが、今回のヒノカミヒメ式防衛機構は戦場が宇宙空間であることもあり、加えられた攻撃をほとんどそのまま反射するシステムに変更が加えられていた。
厳密に言えば結界表面に迷路を形成し、その中に敵の攻撃を取り込んで“迷子”にさせた上で、攻撃してきた方角へと出口を作って導くわけだ。単純な防御ではなく、空間操作による高度な防御システムである。
送り返された攻撃の数々が魔物側に届き、無数の爆発がツイノエの周囲を彩って、攻撃の手が緩んだ。その隙を見逃さずにガルダマンがブリッジクルーに指示を飛ばす。火を噴くような声音だった。
「全武装使用許可、全砲門開け! 直掩部隊に弾道を開かせろ! 地球に帰還する時に残弾があったら笑いものになると思え。撃てぇ!!」
既に照準は半球形にこちらを覆う敵群を捕捉していた。
ザンエイの持っている巨大なエネルギーと神域化によってヒノカミヒメの神通力がプラスされたビーム砲やリニアキャノンにレールガン、プラズマミサイルが景気よく放たれる。
ガルダマンの指示に通り、戦闘終結時に残弾を残してはならない。その勢いで放たれた数々の兵器は、ここが惑星だったら丸ごと粉砕する勢いでその暴威を吐き出した。
ツイノエの外と内とで最後の戦いが大きくゴングを鳴らした瞬間だった。そしてその瞬間に、ソルグランドの姿はまだなかった。
うーん、もっと、ばーっと進めたいのですが、うーむ。