魔法祖父ソルグランド ~TS転生した祖父は魔法少女の孫娘を見守る~ 作:永島ひろあき
ボイドリアの視線は鋭く、そしてなによりも熱を孕んでいた。
ディザスター達よりも感情の起伏を抑えて製造された彼女だが、存在理由であるソルグランドを撃破した後、ヒノカミヒメによって敗北を刻まれた経験は、幼い情緒を過剰なまでに刺激した。
その結果がこの視線へと繋がっていたが、ヒノカミヒメからすればソルグランドを葬ったボイドリアは怨敵である。彼女から向けられる視線と同等かそれ以上の怒りと憎しみを越えて、睨み返す。
両者の視線が絡み合った瞬間、ボイドリアの周囲の床が腐った。最新の女神であるヒノカミヒメの憎悪が祟りとなってボイドリアに襲い掛かり。その周囲へと伝播した結果である。
視線一つで千人万人を呪殺する祟りを視線一つに込めるヒノカミヒメも大したものだが、それを弾いたボイドリアもまた只者ではない。
魔物少女の究極系として持たされた最高の性能に加え、改修によって神通力への耐性を得た結果であるにせよ、同じ神に属する者として祟りの強さにトウセンショウやサンダーハンマーは軽く目を見張ったレベルだ。
アンテンラがヒノカミヒメ迎撃用に選定した戦闘フィールドは、自己修復と自己学習機能を持った構造材は勿論、多様な力場によって保護されて、両者が全力で戦闘を行っても、最悪、ツイノエが半壊する程度で済む。
半壊で済めばアンテンラ達の意識が収められている中枢部は、被害を免れるという予測に基づいている。ヒノカミヒメの右手に炎ように輝く光が収束し、天滅之無羅苦莽剣が形作られる。
ただしツイノエに大穴を開けたように神通力を解放した状態ではなく、刀剣の形に留めている。
刃を通してのみ、その絶対的な破壊力を発揮する制限と引き換えに、味方を巻き添えにする危険性はなくなり、またプラーナの消耗を劇的に抑えることに成功している。
「あなたは所詮、アンテンラに至るまでの障害。大きめの路傍の石でしかない。ソルグランド様さえ、手にかけていなければ」
ツイノエを覆いつくしても足りない怒りと憎しみを呪いに変えて、ヒノカミヒメは虚空を蹴った。人型生物として最大効率の加速、空間を歪めた反動を利用し、重力の発生する方向を指定し──いくつも技術と権能を重ねて速度を得る。
同時にヒノカミヒメの存在を隠す為の幻術も多数展開し、ボイドリアの目のみならず感覚器官を眩ませるのも忘れない。
両者の間を二つの光が繋いだ。天滅之無羅苦莽剣とボイドリアが右手の中から抜き放った常夜だ。天滅之無羅苦莽剣と常夜の刃が噛み合った瞬間、凄まじい衝撃が周囲の空間へ伝播し、それだけで並大抵の魔物と魔法少女は木の葉のように吹き飛んだろう。
常夜は柄と刃が一体化したデザインは変わらず、魔法少女の肉体と意識の繋がりを破壊する機構は健在だろう。
ただこの機能はヒノカミヒメが相手だとあまり意味はない。ヒノカミヒメは生来の肉体を使って戦っており、肉体を破壊されたら他の魔法少女のように意識を脱出させる先がないのだから。
それでも天滅之無羅苦莽剣を真っ向から受け止められる物質、という点では価値はあったろう。
「ソルグランドが貴機を残していたのは不測の事態だったが、本機がソルグランドと同じように貴機を破壊すれば問題は修正される。本機はボイドリア。エゼキド監査軍統括機構アンテンラの製造した兵器としての任を果たす」
「遺言はそれで終わりですか?」
どこまでも冷徹な眼差しのままヒノカミヒメが煽る言葉を口にし、それが解けて消える前に両者の刃は別離して、容赦なく振るわれる。
天滅之無羅苦莽剣がボイドリアの首を左から刎ねんとすれば、それを常夜が受け止めると同時に刃の上で滑らせ、そこからボイドリアの右肩を突き出した体当たりがヒノカミヒメを襲った。
ボイドリアの体当たりよりも速くヒノカミヒメが上方に飛び上がり、ボイドリアの身体は空を切り、頭上を取った瞬間に天滅之無羅苦莽剣はボイドリアの頭部を割るべく振り下ろされる。
ボイドリアの右腕が関節を無視して動き、常夜がギリギリで滑り込んで、天滅之無羅苦莽剣を受け止めて、行き場を失った衝撃波とエネルギーが両者を吹き飛ばした。
ここまで一秒と掛からぬ攻防の中で、ヒノカミヒメはボイドリアのプラーナ無効・吸収能力が健在である事、そして天滅之無羅苦莽剣を通して流し込もうとした呪詛や祟りが悉く減衰された事実を認めた。
(この短期間で私の神通力をある程度は解析したと、そういうわけですか。地力を強化してきたのは、こちらばかりではなかった。やはりそう都合よくは行きませんね。ソルグランド様を破ったのです。この程度のことが出来ないのであれば、尚さら許せませんが)
ヒノカミヒメの周囲の空間が徐々に歪みはじめる。温存していた神通力と権能によって神域化による浸食の影響だった。
ボイドリアはヒノカミヒメさえ倒せればよいと判断している為、出し惜しみをせず、全身の細胞からプラーナを絞り出し、その周囲に青紫色に輝くプラーナの大槍を幾本も生み出す。
対ヒノカミヒメに特化した改修を受けたボイドリアの肉体は、変形や分裂などの機能と引き換えに、頑健性や敏捷性、膂力など基本性能を極限まで引き上げている。
肉体機能をシンプルなものに仕立て直し、ヒノカミヒメの神通力対策にリソースを割り振った結果である。
雷光の速度で動き回り、数々の権能と他神話から供与されたコピー神器を使うヒノカミヒメに対し、ボイドリアは完全に追従していて、常夜と膨大なプラーナを多種多様に操り、互角に渡り合う。
戦場はアンテンラの技術によって空間が拡張されており、半径十キロメートル超、高さも一キロメートルを超えている。必要とあればアンテンラの操作で、更に広げることも小さくすることもできる場所だ。
ヒノカミヒメはボイドリアのみを狙って襲い掛かったが、この決闘場にはボイドリア以外の戦力が配備されていた。およそ三メートルの銀色の人型である。刃のように鋭角の肩や胸部、脚部を備え、目鼻の無い兜のような顔立ち。
それはソルグランドが苦殺那祇剣で撃破した、小型化したラグナラクに酷似した魔物だった。最後にラグナラクがアンテンラに送った情報を元に、量産可能なレベルにまでコストと性能を下げた量産型だ。
プラーナを用いた生体兵器として魔物は製造されてきたが、量産型の最上位機種として、このラグナラクモドキが完成していたのである。アンテンラによってラグレックと命名されたこの魔物は、量産型でありながら当然のように特級相当の能力を備えている。
そのラグレックが二十体以上、姿を見せていた。ザンアキュートやソルブレイズ、サンダーハンマー、マーズグラディウス、スタープレイヤーにブレイブローズらは、ボイドリアの対処をヒノカミヒメに託して、ラグレックの排除に動いている。
ラグレック達はそれぞれが全身に銀色の突起物を作り出すと、その先端部から圧縮されたプラーナをレーザーのように撃ち出してきた。
青白いプラーナレーザーの眩い光が、戦場の一角を照らし出す、触れれば焼き切られる光の中を魔法少女達は、死の恐怖を噛み締めながら掻い潜って行く。
その中で真っ先に飛び出したのが、ネイバー達、神の入ったマジカルドールだった。
今回、ツイノエに突入した地球側戦力の中で、神々はいわゆる分け御霊に相当するモノをマジカルドールに封入して送り出している。
例え跡形もなく消滅されたとしても本体に影響はなく、他の魔法少女や妖精達と比べて倒されたとしても、最もリスクがないのがネイバーだったからだ。
「ここは我らが率先して盾になるべきタイミング! そうであろうな!!」
にんまりと大きく笑うサンダーハンマーは、手にした長柄のハンマーでプラーナレーザーを叩いて散らす、という神業を披露しながら他のネイバーらに問いかける。
元々、魔物達を相手にする人間達の窮状を見過ごせず、あれやこれやと屁理屈をこねまわして助成に来た神々だ。サンダーハンマーの煽るような言葉に、嬉々として笑い返す。
「そりゃまあ、そうだ。お嬢ちゃん達より先にやられる間抜けにだけはなりたくないねえ」
伸縮自在の棒を操るトウセンショウは、髪の毛を抜き取って息を吹きかけると、髪の毛は千々に千切れてそこから更に無数のトウセンショウ達へと変化して、他の魔法少女達のフォローに動き始める。
二頭の馬が牽く戦車に乗り込んだマーズグラディウスもいつの間にか大楯と長槍を手にして、重力を無視した三次元の動きでラグレック達へと果敢に接近戦を挑んでいった。
「あの星ではろくに相手をできなかったが、量産型相手とはいえ再戦のつもりで戦うとするか!」
自ら盾か囮になるかのようにラグレックに挑むネイバー達に対し、ザンアキュート達は彼らの事情を知らない為、戸惑いすらあったがマジカルドールに入っている大人達とはまた違う覚悟を決めている彼らを止める言葉はなく、その意気に応えるしかなかった。
なにより既にツイノエに突入し、ヒノカミヒメとボイドリアの戦闘も始まっているのだ。ネイバーを制止する声を出す暇があるのなら、一刻も早く敵を排除するべきなのだ。
故にザンアキュートも即座に攻撃を選択した。ラグレックの攻撃のほとんどを、ネイバー達が引き付けるか盾となってくれる間に、少しでもダメージを!
「ラグナラクの後継機というよりは、廉価版? 足を止めている暇は!!」
渾身の斬撃を右袈裟、横薙ぎ、斬り上げ、刺突と連続して繰り出し、連動する六振りの斬撃が固有魔法によって、八体のラグレックに距離を無視して襲い掛かる。
例え不可視の力場を纏っていようとも、それがザンアキュートの視界に映らない限り、ないものとして無視できる。
八体のラグレックに刹那の誤差もなく、銀色の巨躯に斬撃が刻まれる。斬撃を受けて露出した内側も、表皮と同じ銀色の金属質で、内臓や骨格の類は見当たらない。
断面にザンアキュートのプラーナが残留してダメージを与え続けていなければ、断面は液体金属のようにすぐさま修復されただろう。
肉体の修復が阻害されて動きを鈍らせるラグレックへと目掛けて、スタープレイヤーとソルブレイズ、更にディザスターとフォビドゥンが凶暴な肉食獣の如き迫力で襲い掛かる。
誰もがまだ少女であるのに、例外なく歴戦の風格を纏い、命懸けの戦いにも慣れてしまった悲しい子らだった。
フォビドゥンの両腕がバクリと割れて巨大な獣の口と化し、生え並ぶ牙がラグレックの頸部と腰に突き刺さり、動きを拘束する。
流れる血も無ければ感じる痛みもないが、牙を通して流し込まれるフォビドゥンのプラーナが、ラグレックの変形による再生を阻害している。
フォビドゥンの背中を跳び越したディザスターの振り被った右腕が、勢いよくラグレックの頭部を真上から叩き潰し、首が潰れて胴体へとめり込む。
「細胞レベルで破壊すれば、再生機能もバグるだろ、ギャハハハ!!」
ディザスターの一撃と同時にフォビドゥンの牙が離れて、五指を揃えた手刀がラグレックの斬撃で割れた左腰の傷口につき込まれて、体内で五指を開くと同時に莫大な熱量と電流が放射されて、ラグレックの全身に痛打を浴びせる。
「流石の耐性と耐久力。この程度では機能停止には陥らないようね」
フォビドゥンの言葉は体内から蹂躙したにもかかわらず、ラグレックが四肢の内側に無数の棘を生やして、自分を抱きしめようとしたからだった。即席のアイアンメイデンといったところか。
勢いよく閉じられるラグレックの四肢には構わず、フォビドゥンは高熱と電流の放射を続けた。全身に穴を開けるラグレックの棘は、自分の身体に開いた無数の口と、こちらも棘を生やした尻尾を使って、受け止めていた。
「やれ、ディザスター!」
「キキキ、ラグナラクモドキなんかで勝負になるか。あたし達の足元にも及びやしない!!」
飛び越した勢いのままラグレックの背後へと廻っていたディザスターは、両手の指を組んで背骨が折れんばかりに身体を反らして振り上げ、殺意ばかりを込めて振り下ろす!
凄まじい衝突音と共にラグレックの頭部が完全に胴体に埋もれ、腰のあたりまでディザスターの両手が埋もれる。例えソルグランドでも上手く受けていなければ、意識を数秒は刈り取られる破壊力だ。
ラグレックの動きがわずかに停止するのを、フォビドゥンは棘越しに感じて、妹分の言う通りラグナラクには遠く及ばないとほくそ笑む。その顔面に黒曜石の輝きを持つ切っ先が突きつけられた。
「フォビドゥン、離れろ」
いつの間にかラグレックの背後に忍び寄っていたスタッバーが、黒曜石の直剣を作り出し、スタッバーと言う名前に相応しくラグレックを背中から貫いたのだ。スタッバーの作り出す武器は儚いほどの脆弱さと引き換えに、爆発的な破壊力を持つ。
同朋としてそれをよく知るフォビドゥンは、返事をする間もなく棘を噛み止めているいくつもの口を蜥蜴の尻尾きりのように自切して、少々、体積を減らしながら脱出して見せた。
フォビドゥンがラグレックの拘束から逃れたのと同時、スタッバーは両手で握っていた黒曜石の直剣を崩壊させ、直剣を構築していた膨大なプラーナが超新星爆発のように煌めいて、容赦ない破壊をラグレックに齎す。
内側から爆ぜて五体が四散したラグレックを、フォビドゥンとスタッバーはつぶさに観察する。ディザスターはスタープレイヤー達の戦っているラグレックを次の獲物と定め、既にこの場に居なかった。
「ここまでやれば沈黙するようね」
自ら切り離した肉体の再生を進めながら、フォビドゥンは苦痛を噛み殺してようやくそれだけを言う。
ほとんど魔法少女総がかりで倒したラグナラクに比べれば、呆気ないくらいの結果だが、魔物少女三体掛かりでも無傷では倒せないとなると、このレベルの魔物が量産されている事実に気が遠くなりそうだった。
「数ではかろうじてこちらが上だ。ヒノカミヒメ達の流れ弾に巻き込まれないよう気を付けて、数で勝るように戦い続ければなんとかなるだろう」
普段使っているナイフよりも大きな直剣を作り出した分、スタッバーの消耗も相応に大きい。ラグナラクの脅威の記憶が真新しく、犠牲と消費を考慮せずに攻撃を仕掛けたが、その甲斐はあったと言っていいだろう。
フォビドゥンが千切れた肉体の再生を終えた頃、スタープレイヤーとソルブレイズの放った業火が百メートル以上の大輪の花を咲かせた。ネイバー達は宣言通り積極的に前に出て、魔法少女達への被害を減らす役割をこなしている。
ラグレックはなんとか排除できる、ただし、こちらはほとんどプラーナを消耗してしまうだろう、それがフォビドゥンの見立てだった。
(ヒノカミヒメがどれだけ余裕を残してボイドリアを倒せるか、それにかかっているな)
視線を転じればヒノカミヒメとボイドリアの戦いは激化の一途を辿っていた。空間を拡張された戦場に光の軌跡を縦横無尽に描き、時折、激突によって衝撃と閃光が炸裂しては、ツイノエを震わせている。
絶対的な破壊力を内包する天滅之無羅苦莽剣と対神通力に仕様を変更された常夜の激突は、天体同士の衝突を思わせる力の奔流を周囲に発し、フォビドゥンですら手出しのしようがない。
例外的にアンテンラを通じて、互いの戦闘情報を完全に同期しているラグレックのみが、誤射のない援護を行えるが、ヒノカミヒメもまたそれを巧みに利用していた。
彼女に集められた膨大な軍神や武神と言われる神々の戦闘経験と権能が、急速にボイドリアとラグレックの連携を学習しているからだ。
「はあっ!!」
黄泉の国の八柱の雷神を招来し、ボイドリアの周囲五十メートルへ雷電地獄を作り出す。
全能神の操る雷霆には及ばぬまでも、同じ日本神話の女神によって将来された雷は、ボイドリアの纏う力場を激しく衰退させる威力を発揮した。
足止めをしたところで天滅之無羅苦莽剣を真っ向唐竹割に振り下ろせば、両腕を刃に変形させたラグレックが飛び込んでくる。
空間そのものを振動させて、空間ごと断ち切る刃を、ヒノカミヒメは一瞥もくれずにしゃがみ込んで避けるや、ボイドリアに向けて振り下ろすはずだった刃がくるりと向きを変えて、ラグレックの胴を鍔元まで貫いた。
「思った通りに動いてくれるもの」
天滅之無羅苦莽剣が眩い光を発し、ボイドリアを援護したラグレックはその内側から素粒子レベルまで炎熱と衝撃波によって破壊しつくされた。
それをボイドリアもまた狙っていたのか、ラグレックの反対側からボイドリアが最短、最速で動き、真上大我の魂にかつて苦痛をもたらした常夜を右袈裟に振り下ろしている。
天滅之無羅苦莽剣から離された左手には、いつの間にか天覇魔鬼力が握られていて、それが常夜をかろうじて一瞬だけ受け止めて、そのまま砕けた。
切れ味を追求した結果、脆弱さを抱えた神器が砕ける中、祭具を思わせる常夜がヒノカミヒメの左肩を痛烈に叩き、巫女装束の下にある骨が軋み、肉がいくらか断裂した。
天覇魔鬼力で威力を殺していなければ、どうなっていたか。ヒノカミヒメの美貌に苦痛の化粧が施されるのを見て、ボイドリアはわずかに口元を緩めたようだった。
「ようやく一撃。貴機を粉砕するまで本機の任務は達成されない」
「ただの一撃でそこまでの喜びよう。思った以上に稚気に富んだ方でしたのね」
ヒノカミヒメの浮かべる嘲笑に、ボイドリアの口元は険しさを取り戻した。
*
ツイノエ突入口で脱出手段でもあるザンエイ周辺の戦闘は、新しい局面を迎えていた。
アンテンラが戦力の再編成によって、ツイノエに配置していたラグナラクが戦闘宙域に姿を見せたのである。
惑星ナザンでの戦闘開始のように、虹色に煌めく表皮の巨大な蛇を思わせる姿だ。加えてナザンでの戦闘データからプラーナ兵器への耐性も獲得しており、雲霞の如く涌いていた他の魔物、機械兵器と合わせて一挙に大攻勢へと出た。
ビクトリーフラッグによる強化支援を受ける魔法少女とマジカルドール、妖精達も結界並びにザンエイ防衛の為に死力を尽くして迎え撃つが、休眠していたナザンのラグナラクに対して、先日まで別星系の最前線で戦っていたラグナラクは、修理と補給を受けた上で万全の態勢を整えており、また一味違った強敵として、その猛威を振るっていた。
ザンエイ防衛に残ったアメリカのロックガーディアンが固有魔法で作り出した巨大隕石群ばかりでなく、周囲のスクラップと化した機械兵器までも岩石と見做し、雨あられと雷を纏った隕石群を攻め入るラグナラク達へと叩きつけている。だが──
「やっぱり前よりも硬くなっているか。こっちもハードトレーニングで強くなったつもりだったけど、インベーダーの方が一枚上手だった? 洒落にならないんだけどさ!」
また新たに質量数十トンに達する岩石が複数、無から作り出され、数十億ボルトの雷電を纏ってラグナラクへと降り注ぐ。
その周囲に展開する魔物と機械兵器を巻き込んで、無数の爆発を生み出すが、肝心のラグナラクは表皮に咲かせた銀の花から直径百メートルを超えるエネルギー砲弾を発射して、降り注ぐ雷岩を撃ち落してしまう。
かろうじて進行を鈍らせて、結界突破を防いでいるのは、こちらにジェノルインとスイートミラクルが残っていたお陰と言っても過言ではない。
固有魔法を発動し、最強形態になったスイートミラクルが、全身からプラーナを滾らせて、二度目のラグナラク退治に死力を振り絞っている。
あの時には居なかった味方と経験があるが、ソルグランドは居ない。それが死線を別つか否か、スイートミラクルの双肩にかかる重圧は果てしなく重い。
「魔法、お砂糖、スパイス、夢、希望、根性! 魔法少女は絶対に負けない!! プラネット・クロス!!」
ラグナラクの頭上に作り出されるのは、水星、金星、地球、火星、木星、土星、天王星、海王星、冥王星、これらの星々を模した直径一メートルほどのプラーナの塊。
十字に交差した疑似惑星群がラグナラクへと墜落し、見た目からは想像もつかない超質量で押し潰しにかかる。
「うんんんんん!!!」
スイートミラクルが気合を入れると疑似惑星の質量も増すのか、ラグナラクが質量に押し負けてツイノエの外装へとゆっくりと落着し、少しずつめり込んでゆく。
当然、ラグナラクを支援せんと魔物と機械兵器らがスイートミラクルを狙うが、人類と妖精側がソレを阻む。
ぐりん、とラグナラクの頭部らしき部位に浮かび上がった目玉らしき部位が、力いっぱい力んでいるスイートミラクルを見た。その視線、というよりは歴戦の経験が培った直感が、スイートミラクルの脳裏に不快な警戒音をかき鳴らした。
アンテンラが不完全ながら解析した『呪詛』の概念を応用した、光学センサーに乗せて放つプラーナ利用の概念武装だ。まだ完成しきっていなかったそれが、寄りにもよってこのタイミングで完成して、ラグナラクへとインストールされたのだった。
自身も膨大なプラーナの塊である魔法少女は、プラーナ兵器に自然と高い耐性を有するが、こと呪詛、霊的な力を相手となると話が変わってくる。つまり、呪詛は魔法少女にとっても、致命的な効果を発揮したのである。
「あ、あ、があっ」
どろりといやに粘ついた黒い液体が、スイートミラクルの目鼻や耳、口から零れだす。ラグナラクの視線に呪われたスイートミラクルのプラーナが、腐り果てた末にこのようにして、排出されたのだ。
ワールドランキング第一位の魔法少女が、体の中から呪われてぐらりと揺らめいて、崩れ落ちる。
「ま、まだあ゛あっ」
それでも薄れる意識を懸命に繋ぎ止めて、スイートミラクルは消えかかるプラネット・クロスを維持し続ける。最年長に近い魔法少女としての意地、使命からの解放に対する期待、言葉にできないそれらが、彼女の力となっていた。
ノイズが走ったように薄れて消えそうになる疑似惑星は質量を減らしながら、まだラグナラクの巨体をツイノエの上へと押し留める。それと同じようにラグナラクから贈られる呪詛が強まり、スイートミラクルに与えられる苦痛も増す。
「ゔゔっぐ……ああ!?」
ついに耐え切れずに杖を手放したスイートミラクルの身体が崩れ落ち、力なく漂うのと同時に疑似惑星を砕いてラグナラクが浮き上がる。ロックガーディアンが咄嗟に岩を作って、柔らかくスイートミラクルを受け止めて、流れ弾に飲まれるのを防ぐ。
呪詛によるダメージは深刻だが、結界内部に引き込まれたことでスイートミラクルを襲った呪詛は急速に抑え込まれて、荒れた呼吸が落ち着いたものへと変わる。
その様子を確認して、ロックガーディアンは小さく息を吐いた。かろうじて命は助かったが、再び戦闘に挑むのは無理だろう。
あまりにダメージが大きすぎる。呪詛への耐性がないのに即戦闘不能にならなかったのは、スイートミラクルの保有するプラーナによる頑健性と、彼女自身の心身の健やかさの為だろう。
スイートミラクルの無事は喜ばしいが、しかし、ラグナラク相手にワールドトップが抜け落ちるのはあまりに痛手だった。
どうする、とロックガーディアンばかりでなく、防衛戦に参加しているすべての魔法少女やマジカルドール、ザンエイスタッフの共通の脳裏に同じ単語がよぎったのは間違いない。
絶望と薄壁一枚を隔てた“どうする”が呟かれた瞬間、その言葉が聞こえたようにラグナラクが完全に浮かび上がり、結界を突破するべく速度を上げんと蛇体をくねらせる。
ヒノカミヒメの遺した結界が呪詛を阻むのは、不幸中の幸いであったが、それでもラグナラクが星間戦争でも戦略兵器として運用できる怪物なのは変わらない。
残るネイバーとマジカルドールが自爆特攻を選択肢に入れた時、結界の内部から朗々と虚空に響き渡る言葉があった。
「『目は赤く燃える鬼灯のごとく。その身は八つの丘、八つの谷を跨ぐ。それは強き水、猛る流れ、燃える岩、焼けた鉄である あめつちに轟くその名は
八つの頭に燃える鬼灯の如き十六の瞳を備え、八つの頭と八つの尾の先までが、八つの丘と谷を跨ぐ。故にヤマタノオロチと呼ばれたソレ。日本最大の怪異、脅威、妖怪、あるいは災害の化身。
プラーナと神通力によって形作られたヤマタノオロチ改め邪魔汰退悪呂土が、ザンエイの内部より出現してラグナラクの巨体へと絡みつき、その巨大なる牙をぞぶりと突き立てる。
「こりゃあ、ちょいと出遅れちまったか。痛恨の失敗だ」
ザンエイの艦首にその姿はあった。
「まだ挽回は叶いますとも。本当の意味で倒された味方はまだ居りません。これから中枢部へと突入し、アンテンラを吹き飛ばせば山ほどのおつりが出ましょう」
「ですな。さて、久しぶりの実戦だ。つまらない失敗をしないように気を付けないと。ヒノカミヒメとソルブレイズに格好がつかないからな」
膝裏まで届く純白の雪のごとき長髪、穢れなき白と鮮やかな赤に彩られた巫女装束、頭部から伸びる山犬の如き獣耳にふさりと揺れる尻尾、黄金に輝く瞳は夜に輝く満月を閉じ込めたかのよう。
その身を首飾りやヴェール付きの冠や腕輪、指輪で新たに飾り、一度は沈んだはずの太陽が再びそこに姿を見せていた。
「さて、新生、いや、再生ソルグランドのお披露目といこうか」
そうして新しい専用体の調整をようやく終えた真上大我は、ソルグランドとしてこの世に再び名乗りを上げるのだった。
再生怪人は弱体化がお約束。しかしこの再生怪人は一味違いますぜ。