魔法祖父ソルグランド ~TS転生した祖父は魔法少女の孫娘を見守る~   作:永島ひろあき

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本音

 ザンエイを囲うエゼキドの戦力はソルグランドの出現直後から、凄まじい勢いで数を減らしていった。これには他星との戦線から呼び戻したラグナラクの撃破を含んでおり、エゼキド監査軍を統括するアンテンラにとって、想定を超える被害と言ってよかった。

 そしてソルグランドはザンエイ防衛の為に邪魔汰退悪呂土を残し、夜羽音を伴いヒノカミヒメ達の突入路を追う形で、ツイノエ内部へと突入していった。

 

「行き掛けの駄賃だ! 余さず貰ってくんな!!」

 

 ソルグランドは自分を先導する夜羽音を巻き込まないよう配慮しながら、全身から神通力とプラーナを漲らせ、四方の壁から姿を見せる異星生物を模した魔物と機械兵器群へと向け、森羅万象が襲い掛かる。

 葦原の中つ国の各地で見られる天災の数々が、八百万の神々の手掛けた女神によって、破壊と殲滅の為に、そのスケールを拡大して遠き宇宙にある侵略者の要塞内で巻き起こった。

 

 ソルグランドの通過した軌跡に沿って、宇宙空間でも問題なく活動できる魔物や機械兵器でも耐えられない超高出力の物理法則を無視した雷──厳つ霊が密林の如く林立し、触れた不遜なる者どもを神罰として粉砕してゆく。

 世界中の神話において雷を司る神は、おおむね神格が高い傾向にある。雷とは天空に発するもの。人の手の及ばぬ天空を支配する神を、より高く貴き存在と信奉するのは当然だったかもしれない。

 

 そしてソルグランドの向かう先には、宇宙空間に吹くはずもない暴風が吹き荒れていた。魔物や機械兵器の放った荷電粒子ビームや空間歪曲砲弾、空間震動波といった攻撃の全てが、まとめて吹き飛ばされてゆく。

 形の無いもの、膨大なエネルギーの塊、あるいは空間そのものに作用する震動すら、ソルグランドの放つ暴風の前には、一枚の木の葉同然となって吹き飛び、形を保てずに無へと帰す。

 世界の法則を解き明かし、それを応用するのではなく、世界の法則や理そのものに干渉して世界の在り様を変える。それが神の持つ権能であり神通力と呼ばれる“不思議”の力だ。

 

「まずはシンプルに蹂躙させてもらうぜ、エゼキド監査軍!」

 

 一秒さえソルグランドの足を緩めることも出来ず、ソルグランド迎撃の為に出撃したガードは見る間に全滅し、更なる副作用がアンテンラに齎されて、復活したソルグランドの危険評価が一気に跳ね上がる。

 ソルグランドはシンプルに蹂躙と言ったが、実のところ、彼が神通力を通過した空間に強い神通力が残留して、そのままツイノエを構成する素材の原子核にまで浸透して、支配権を強奪しているのだ。

 

 具体的に言えばソルグランドの神通力に掌握された区画は、アンテンラからの指示と操作を一切受け付けなくなり、魔法少女達には危害を加えられなくなる。

 これはツイノエの構造そのものを自由自在に組み替えて、戦力を送り込むアンテンラの迎撃方法の瓦解を意味し、ソルグランドは直接的な戦力以外の面でも、アンテンラにとって最悪の敵となっていた。

 

 ソルグランドの進撃速度の速さはアンテンラの迎撃を上回り、エネルギーシールドや物理的な隔壁すらも彼の振るう金剛轟鉄鎚によって、一撃で粉砕され、またあるいは闘津禍剣によって切断されて、なんの役にも立ちはしない。

 ならばと空間そのものに干渉して、進む先を元来た道へと繋げてループさせる迷路を作り出したが、導きの神である夜羽音の存在によってループを即座に看破され、空間を繋いでいる箇所を正確に把握された挙句、そこを闘津禍剣によって切断。

 空間迷路ですら足止め出来ないソルグランドは、恐るべき速度でヒノカミヒメ達突入部隊とボイドリアら迎撃部隊の激突する戦場へと、到達するのだった。

 

 

 そしてソルグランドの到着前から戦闘を開始していた突入部隊は、文字通り命懸けの戦いをより激しく、重ね続けていた。

 分身のトウセンショウ達がラグレックの四方から如意棒を上下から叩きつけ、その動きを刹那の間だけ拘束する。

 攻撃を受けた瞬間から如意棒を解析し、分解しようとするラグレックに対し、その思考リソースが如意棒に咲かれた瞬間を狙いすまして、マーズグラディウスがチャリオットの速度と質量を乗せた突撃が叩き込まれる。

 

「こっちにゃ構わず突っ込んできな、火星の旦那」

 

「最初からそのつもりだとも。おおおおお!!!」

 

 分身のトウセンショウ達の言葉に、笑顔で答えたマーズグラディウスの突き出した長槍がラグレックの首元に叩き込まれて、そのまま勢いよく貫いた。当然、チャリオットの勢いは止まらずに、トウセンショウ達を弾き飛ばしながら戦場の彼方へと走り続ける。

 ツイノエの機構によって空間を拡張された戦場は、チャリオットが百キロ、千キロを駆けても果てに達することはない。

 

「貴様が壊れるまで我が疾走は止まらんよ!」

 

 ギリシャの地に名高き戦神の宿るマジカルドールは、ラグレックの四肢が変形した湾曲した刃に臓腑を貫かれても、笑顔を変えなかった。口元を溢れる血潮で濡らす血染めの笑みの凄絶さは、戦争の狂気を司る神に相応しいものだった。

 ラグレックの装甲をぶち抜いた長槍は、刺突と同時に与えた衝撃によって、星喰いの怪物の亜種に大きなダメージを与えていた。

 

「ふん!!」

 

 チャリオットの速度をそのままに戦場の床へとラグレックを叩きつけ、そのまま床の構造材を抉りながら疾走を続ける。

 マーズグラディウスの肉体をラグレックの刃が絶命させるのが先か、マーズグラディウスの突進がラグレックを崩壊させるのが先か。

 

「肉を切らせて骨を断つ、でしたか。地球人類はエゼキドの接触した知的生命体の中でも、特に高い闘争本能を持っていますね」

 

 そこへ呆れ半分賞賛半分の言葉と共に姿を見せたのは、フォビドゥンだった。器用に長槍とマーズグラディウスを避けてラグレックに馬乗りになると、尻尾と手足に大きな口を開いてラグレックの五体へと噛みつく。

 

「そのまま拘束しておいてください」

 

「任せい!」

 

 密着した距離からラグレックの傷ついた身体へ、火炎放射ならぬプラーナ放射が注ぎ込まれて、マーズグラディウスによって大打撃を被っていたラグレックの機体は、再生もままならずに崩壊していった。

 マーズグラディウスの胴体を貫いていたラグレックの四肢の刃も合わせて消滅し、マーズグラディウスは緩やかにチャリオットの速度を落として、直に停止した。それと同時に血に染まる全身からは、生命の炎が消え始めている。

 

「マーズグラディウス、どことなくヒノカミヒメのような気配を纏うマジカルドール。お見事でした」

 

 意外な気遣いの言葉を口にするフォビドゥンに、マーズグラディウスは、ほう、と軽く目を開いて驚きをあらわにする。フォビドゥンがほぼ人類側に立場を変えたからの言葉であると、察したのである。

 

「ふふ、お前達の行き着く先に興味が出て来たぞ。この戦いが終わった後、居場所がないと感じたら我が名を叫べ。どこであろうと真にお前が、いや貴公が望むのなら、必ずやその声を聞き届ける。今日はここまでだがな」

 

 マーズグラディウスにどうやら気遣われたらしい、とフォビドゥンが気付くのには数秒が必要だった。

 ソルグランドからは飴と鞭を、ヒノカミヒメからは厳しさを与えられてきたが、戦友を称えるが如き敬意と思いやりの込められた戦神の言葉は、フォビドゥンにとってどこかむず痒さを覚えるものだったのだ。

 

「……感謝、します」

 

 ソルグランドにかつて受けた社会常識講座を思い出しながら、フォビドゥンがなんとか言葉を紡ぐ姿に、マーズグラディウスは笑いながら消えていった。

 

「ははははは、初心だな! なんだ、人の子らと変わらぬ愛らしいさもあるではないか。はははは!」

 

 一方、吹き飛ばされたトウセンショウの分身達は咥えられたダメージの大きさに、即座に音と煙と共に元の毛髪へと戻ってしまう。本体たるトウセンショウは、その位置をラグレックの一体に見破られて、執拗な追撃を受けていた。

 ラグレックの左半身にいくつかの砲身が形成されて、そこから一ミクロンほどの無数の針が間断なく射出されている。ニードルマシンガンといったところか。

 発射される弾丸がラグレックの一部である為、一発でも命中すればそこからプラーナを吸って急速に成長し、被弾者の肉体を崩壊させるか、傀儡へと変えてしまう。

 

「目端の利くやっちゃな!」

 

 瞬間、風船のようにトウセンショウの胸が大きく膨らみ、鋭く尖らせた唇から猛烈な勢いで風が吐き出され、迫りくる針の全てを吹き飛ばした。それとほぼ同時に如意棒がグンと勢いよく伸びて、ラグレックの頭部を打ち付けて首を百八十度へし折って見せた。

 

「これでくたばってくれりゃ楽なのによ」

 

 液状に変化したラグレックの頭部が如意棒に絡みつく光景に、トウセンショウは愚痴を零しながら唇をにいっと吊り上げて、好戦的に笑った。

 伸ばした如意棒をラグレック側に縮小させて、凄まじい高速でトウセンショウはラグレックへと迫り、尻から伸びる尻尾も交えた徒手空拳による殴打がラグレックに音を立てて打ち込まれる。

 

 命中の瞬間、ラグレックの機体に取り込まれる前に拳や足刀を引き戻す、神速と神技の組み合わさった武術の粋であった。

 アンテンラがこれまで滅ぼしてきた幾多の星々との戦闘記録と照らし合わせてみても、極めて希少とランク付けする高等戦闘技術である。

 

 一撃ごとにラグレックの末端に至るまで衝撃が行き渡り、機体を構成するナノ単位の金属細胞にダメージが通る。

 これによって液体化によるダメージの無効化が阻まれて、ラグレックの耐久力をわずかずつ削っている。それでもあのラグナラクの量産型として、撃破には山脈を砕くような根気が必要だ。

 

「焼いちまいな、嬢ちゃん!!」

 

 ただし、突入部隊には山脈一つ消し飛ばしかねない超火力の主の数が、少なくはなかったが。トウセンショウの背後から拳に黄金の炎を燃やすソルブレイズが、流星の如く飛んでラグレックへと拳を叩き込む。

 ラグレックの全身が雲丹か栗のように棘を生やして、そこからニードルマシンガンを一斉に発射するが、それらは全てソルブレイズの炎の前に、瞬時に蒸発させられた。

 元より数十万度の高熱を操るソルブレイズだ。天の羽衣フォームによる強化とソルグランド喪失後の鍛錬、精神性の変化により今やソルブレイズの操る炎は一千万度超の高熱に達している。

 

「いっけえええ!」

 

 トウセンショウと位置を入れ替えたソルブレイズの右拳がラグレックの頭部を抉り、灼熱させると同時に融解させ、拳を引き戻す動作に連動して腰が回転し、左のフックがラグレックの腹部をど真ん中から貫いた。

 

「跡形も、残さない!!」

 

 ソルブレイズは蓄えたプラーナを一気に燃焼して、更なる熱をラグレックの内部へと注ぎ込む。ニードルマシンガンによる迎撃から、機体の冷却に切り替えるラグレックだったが、それよりも速く超高熱が機体を焼き尽くす方が早かった。

 一機を倒すのに費やした膨大なプラーナと体力に、ソルブレイズはその場で肩を大きく上下させ、呼吸を整えようと大きく息を吸っては吐くのを繰り返し、背後から聞こえてきた呻き声に汗まみれの顔を振り向かせる。

 

「トウセンショウさん?」

 

 振り返った先には腹や胸から銀色の棘を生やすトウセンショウの姿があった。一ミクロンの針を数本、避け切れずに受けた結果だ。見る間にトウセンショウのプラーナを吸って大きくなってゆく銀色の棘に、ソルブレイズの瞳に憎悪と怒りが渦を巻く。

 孫娘がこんな顔をしていると知ったら、あの爺さん、悲しむな、とトウセンショウは真上大我の顔を思い出しながら、心の中でだけ苦笑する。まあ、もうじき再会する二人だけどよ、と付け加える。

 

「おうおう、そんなおっかない顔をするもんじゃあないぜ。なに、まだ死ぬわけじゃないからな。ヒノカミのお嬢ちゃんはちょっと苦戦しちゃいるが、ま、旗色は悪くはねえ。おいらの分身達はまだいくらか残っているか、せいぜい、こき使ってくんな。けじめは自分でつけるから、心配しなさんな。さ、前を向きな」

 

「ッ、はい!」

 

 歯を食いしばって前を向き、次の敵を目掛けて飛んで行くソルブレイズを見送って、トウセンショウは笑った。人間が緩やかに追い詰められてゆく光景に歯がゆい思いをしていた頃からすれば、このプラーナを吸われ、血肉を啜られる苦痛すら心地よいくらいだ。

 

「御同輩! トウセンショウはここまで、後腐れなくお先に行くぜ!」

 

 生き残っている数少ないネイバーらに呼び掛けた後、トウセンショウは如意棒を手放して、いくつかの印を結び虚空の果てより一つの炎を呼び出す。

 

「昔の嫌な思い出も今じゃ克服したんでね。五行召喚、八卦炉!!」

 

 トウセンショウの足元を中心に太極図が広がり、一度はほかならぬ斉天大聖孫悟空の手によって破壊された八卦炉の炎が召喚され、トウセンショウごとラグレックの悪あがきの棘を飲み込んで燃やしてゆく。

 トウセンショウの本体ならばそもそも不死身の肉体と火避けの術をもって、無傷で凌げたろうが、ラグレックに浸食されたマジカルドールの肉体では自分の後始末を着けるのが精一杯だ。

 

 そして呼び出した八卦炉の炎に焼かれるトウセンショウは見た。一度は沈んだはずの太陽が、再び人の意識を宿した女神が、八百万の神々の精髄たる魔法少女が、莫大な神気とプラーナを滾らせながら、突入口から飛び込んでくるのを。

 ソルグランドの復活が魔法少女達に与える影響を恐れたアンテンラが、これまで入念にジャミングを重ねて、突入部隊にはこの情報が届いてはいなかった。そこへ満を持してソルグランドが在りし日よりも更に力に満ちた姿を見せたのだ。その効果たるや……

 

「まったく、美味しいところを持って行く、じいさんだぜ。……悪いな、後は任すぜ、人間」

 

 それが燃え尽きる直前に、トウセンショウが遺した最後の言葉だった。

 戦場への到達と同時にアンテンラのジャマーはもはや効果を失くし、果てしなく広がる空間をソルグランドの神気が満たし、がらりと空気が変わる。

 それまで縦横無尽に戦場を駆け抜けて、数千に及ぶ激突を重ねていたヒノカミヒメとボイドリアでさえ、それまでの激しさを忘れたように足を止め、互いに傷ついた姿でソルグランドの姿を仰ぎ見る。

 

「あいつ、ソルグランドの野郎、やっぱり生きていたな!!」

 

 獰猛に笑うのはディザスター。その有り余る腕力に物を言わせて、ザンアキュートと共にラグレックの一体をどうにか叩き潰したところだった。頬に走る切り傷から血を流しながら、痛みなど知らぬ風に笑う。

 対して七つの刀剣で数千の斬撃をラグレックに叩き込んだザンアキュートは、一度は失われたはずの太陽が、女神が、傷一つない完璧な姿で再臨した姿を、魂の抜けたような顔で呆然と見ていた。今なら子供でさえ彼女に一撃を入れられるだろう。

 

「ソルグランド様……ああ、なぜ、お戻りになられてしまったのですか」

 

 ヒノカミヒメはソルグランドの復活、すなわち真上大我が戦場に戻ってきたことを嘆き、ボイドリアは表情に乏しい彼女には珍しく目を大きく見開いて、愕然とした顔つきになっていた。

 この時ほど、ボイドリアが創造主アンテンラと意思を通じ合わせたことはなかったろう。

 多大なリソースと引き換えにして、ようやく撃破したはずの最大の強敵が万全の姿で、いや、かつてを上回るエネルギーを蓄えているではないか。

 ヒノカミヒメという後継機の出現でさえ予期せぬ非常事態だったのに、排除したはずの敵が復活するなど、エゼキド側からすれば理不尽の一言に尽きる。

 

「ソル、グランドっ」

 

 そしてボイドリアの表情は亀裂が入ったように歪み、憤怒に染まった。ボイドリアにとってソルグランドの撃破、誕生してから唯一の功績であり、存在理由を果たした最大の名誉でもあった。

 それがソルグランドの復活によって覆され、ボイドリアはなにも為していない、役立たずの烙印を押されたようなものだ。

 

 ボイドリアから向けられる宇宙嵐のような視線は無視し、ソルグランドは視線を巡らせて、大まかに状況を把握。

 神々の宿るネイバー達の数が多く減らしている一方、彼らに庇われた魔法少女達はダメージこそあれ、まだほとんどが残っている。

 ラグレックもまたその数を減らしているが、それと引き換えに多くの魔法少女達はプラーナが枯渇寸前になっている。

 

「間に合ったってところですか」

 

「ええ。最悪の事態には至っていません。しかし、ヒノカミヒメがまだボイドリアを倒しきれていないとは、あちらも想定を超えた強化を果たしているようです」

 

 突入口付近で滞空するソルグランドの傍らで、夜羽音は身体のあちこちに傷を負いながら、常夜を手放さずにいるボイドリアの姿に警戒を深めたようだった。やはりこちらが用意した分、エゼキド側も相応の準備を整えていたのだ。

 

「やることに変わりはありませんが、倒された味方が少ないのに越したことはありませんやね。さて、まずは久しぶりの挨拶でもさせてもらいましょう」

 

 ソルグランドの登場によって、敵味方の動きが停まった奇妙な停滞状況だからこそ、呑気に夜羽音と言葉を交わす余裕があった。そして状況を動かすアドバンテージを、ソルグランドは手放すつもりはなかった。

 

「わけあって戦場を離れていたソルグランド、恥ずかしながら舞い戻って参りました! 久しぶりの皆々様も初めて顔を合わせる皆様もどうぞよろしくお願いいたします。さて早速ではございますが、いわゆる決戦てぇやつでございますので……遠慮も容赦もなしでいくぜ! 破殺禍仁勾玉、破断の鏡!!」

 

 言霊という概念がある。言葉には力があり口にしたそれが現実に影響を及ぼすという概念だ。これをソルグランドが威圧と鼓舞を意識して口にすればどうなるか?

 ボイドリアやラグレックの動きがコンマ数秒とはいえ委縮し、味方の魂には熱をもたらし精神を震わせる激励となる。

 

 言葉一つで戦況に好影響をもたらすと同時に、ソルグランドの胸元から分離した破殺禍仁勾玉が飛び立ち、破断の鏡もまた自在に戦場を舞い始める。

 真上大我用に調整の施された新たな肉体は、最大出力こそヒノカミヒメに劣るが、大我との親和性を重視されている為、あらゆる動作の精緻、精密さ、大我の意識が生み出すプラーナとの相性は旧ソルグランドとは比較にならない。

 

 破殺禍仁勾玉はまさしく翡翠色の光と化して、ラグレッグに取り込む暇も許さずに神通力とプラーナの籠った打撃を加えて、大きな罅を入れて行く。トウセンショウの打撃と同じく、ラグレックを構成する素材全体にダメージを与えているのだ。

 破断の鏡にしてもこれまでとは違った機能を見せる。単に鏡面から膨大な数の光線を放つのみならずラグレックを映すと、鏡の中のラグレッグが不自然なほど微動だもしなくなる。

 

 すると現実のラグレッグもまたなんの動きも出来ず、鏡の中の自分と同じ姿勢のまま微動だにできなくなる。

 鏡に映ったモノを支配し、動きを強制する──破断の鏡の新たな機能であった。そうして動きの止まったラグレックに破殺禍仁勾玉が襲い掛かり、滅多打ちにする構図の出来上がりだ。

 

「まだまだ、まだだ!! 闘津禍剣、天覇魔鬼力、悪滅勅琴、金剛轟鉄鎚!」

 

 ソルグランドの手ではなく、その周囲にこれまで愛用してきた神器の数々が浮かび上がり、苦殺那祇剣を除くそれらがソルグランドに扱われているような動きを自発的に行い、次々とラグレックへと襲い掛かって行く。

 そのどれもがボイドリアとの戦闘時よりも速度、正確さ、威力が数割増していて、ラグレックをしても片手間に相手をできる代物ではなかった。

 

 登場して十分も経っていないというのに、ソルグランドの齎した影響は計り知れなかった。魔法少女達の間には強い安心感が溢れ出し、勝利への不安が確信へと変わり始めている。

 一度は敗北したボイドリアにリベンジマッチの時だ、と秘かに意気込むソルグランドだったが、それよりも先にこちらに転びそうになりながらやってきた二人に向き合う事を優先した。

 

「そ、ソルグランドさん!? いったいどうして、ヒノカミヒメさんはもう二度と会えなくなったって、言っていた、のに」

 

 心が落ち着かず、しどろもどろになっているのはソルブレイズだった。すっかり消耗しきっているが、そんな事よりもとにかく目の前にいるソルグランドを簡単には受け止めきれない様子。

 大我は可愛い孫娘が今も戦場に居ることに一抹の悲しみを覚えながら、あくまでソルグランドとして振舞った。にっこりと太陽も笑い返すような明るい笑みを浮かべる。

 

「久しぶりだな。戦場で元気そうもなにもないが、まあ、ひとまずは安心したよ。俺の退場については、ちょっとヒノカミヒメが言葉選びを間違えただけの話さ。

 恥ずかしながら負けちまったんで、ちょっと八百万の拠点に引き籠って鍛え直してきたんだよ。思ったよりも長引いたが、この戦いに間に合ってよかった」

 

「そ、そうなんですか? 私達みたいに元々の肉体に戻っていただけなんですね? ソルグランドさんがそのままヒノカミヒメさんになったから、私達とは違うのかって、だから本当にもう会えないのかって……」

 

 戦場の中で戦いを忘れ、その場で涙ぐむその姿は歴戦の戦士などではなく、年相応の姿だった。改めて孫娘を悲しませた事実に、ソルグランドは過去の自分の非力さを呪いたいほどであったが、何もならないと割り切った。

 いくらソルグランドでも過去は変えられない。変えられるのは、今とこれからの未来なのだから。

 

「ま、ヒノカミヒメも俺が派手に負けちまったもんで、回復する前に戦いが終わると思ったんだろうさ。後は、まあ、俺が二度と戦場に出ないで良いようにと気遣ったんだろう。その気遣いは無碍にしてしまったけどよ」

 

 ヒノカミヒメの誤解を招いた発言にフォローを入れつつ、ソルグランドは自分に向けて跪いているザンアキュートを見た。

 少しばかり見たくない気持ちがあったが、こうまで強烈な信仰を向けてくる相手を粗雑に扱っていいわけもない。ましてや孫娘と同じような歳頃の少女なのだから。

 

「特に君には心配をかけたと思う。今日まで辛い思いをさせたんじゃないか?」

 

 ソルグランドの声を耳にした瞬間から、ザンアキュートは顔を上げてハラハラと落涙し始めた。泣き笑いながらソルグランドに胸の内を明かす。幼さを残した美しい顔立ちは、涙でぐしゃぐしゃだ。

 

「とても、とても信じがたい思いを胸に今日まで生きて参りました。ソルグランド様の目指された世界をなんとしても私の手で成し遂げようと、それだけに縋っていましたが、こうして御身にお目にかかれれば全ては些末なこと。

 やはりソルグランド様は永遠不滅の御方。永久に我ら心弱き魔法少女をお導きくださる女神様に他なりません」

 

「う~ん、そこまで言われると俺も困るくらいなんだが、心配をかけた分についてはこれからの戦いで帳尻を合わせるさ」

 

「どこまでもお供いたします!」

 

「気持ちはありがたいが、二人とも消耗が激しい。これから先は俺が引き受けるから、今は他の皆と一緒に下がって、回復に専念しな。ザンエイの方にも手は打ってあるから、安心しとき」

 

 そして、ソルグランドはいつでもこちらの寝首を掻けるように隙を伺っているボイドリアを視界の中に収めながらゆったりと歩を進めて行く。ヒノカミヒメの隣で足を止めた。

 

「待たせたな、ヒノカミヒメ」

 

 かつては圧倒したボイドリアを相手に、ヒノカミヒメは想定外の苦戦を強いられて、誰にも穢されざる無垢な衣装に傷と汚れが付き、彼女自身も少なからず手傷と疲労を与えられている。

 

「申し訳ございません。二度とソルグランド様が戦場に立たずに済むようにと、このヒノカミヒメ、全身全霊を尽くしましたが、力及ばず御身に再び戦いを選ばせてしまう結果となりました」

 

「ソルグランド自体には、気付いたらなっていたんで選択肢はなかったが、ソルグランドとして戦ったのも、もう一度戦う道を選んだのも俺さ。つまり気にしなくていいってことだよ。それに一度くらいは二人で肩を並べて戦ってみたかっただろう?」

 

 ソルグランドの問いかけに、ヒノカミヒメははにかんだ。手に天滅之無羅苦莽剣さえ握っていたなかったら、恋す少女のようだと誰もが認めただろう。

 

「はい、本音をもうしますと、一度くらいはと」

 




突入部隊のネイバーは大部分が積極的に盾になったこともあり、ほぼ壊滅してしまいました。
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