魔法祖父ソルグランド ~TS転生した祖父は魔法少女の孫娘を見守る~   作:永島ひろあき

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失言

 ツイノエの変形に合わせて布陣を変えていた魔物と機械兵器達は、本拠地を中心に渦を巻くように動き回り、次の命令を待っているようだった。

 変形するツイノエから離脱していたザンエイも、邪魔汰退悪呂土のエスコートを受けながら、出撃していたマジカルドール、魔法少女の集結を終えている。

 これにはザンエイの移動に合わせて、天魔禍反刺戈による結界も追従してきたのが幸いした。堅牢な防御機能と回復機能は今も残り続けているのだ。

 

『ソルグランド君、突入部隊の皆は無事かね?』

 

 ツイノエから飛び出た氷柱の先に転移したソルグランドへと向けて、ザンエイのマルザーダからの通信が飛んできた。

 大急ぎというべき速度だが、マルザーダの声音に動揺や焦りはない。指揮官たるもの、自身の態度や振る舞いが味方にどんな影響を与えるのか、彼はよく理解している。

 

「ええ。ネイバーが何ちゅ……いえ、何人かやられて、そちらに戻っていると思いますが、その他は負傷と損耗こそあれ、問題はありません。俺もヒノカミヒメもまだまだエンジン全開で戦えますよ」

 

『そうか、それはなによりの朗報だ。消耗している人員はいったん、こちらへ戻してくれたまえ。こちらも消耗の激しい魔法少女達を収容し、立て直しを図っている。君の残してくれたヤマタノオロチ君のお陰で余裕が出来た』

 

「はは、よくできた奴でしょう? 休憩が必要な人員はそちらに戻します。それとボイドリアの撃破には成功しましたが、その直後にツイノエの異変が始まりました。切り札の敗北を悟って、切らずに済ませたかった最後の手札を向こうが切ったのでしょうな」

 

『こちらとカジン君達の見解も一致しているよ。ザンエイを超える巨大な異形こそ、追い詰められたエゼキドの最後の希望なのだとね』

 

 はは、とソルグランドは短く笑った。エゼキドの最後の希望とは、マルザーダも皮肉な言い方をするものだ。確かにエゼキド、そしてアンテンラにとっては、袋小路の奥に追い詰められたのと同じ状況なのだ。

 ツイノエごとアンテンラを始末してしまえば、地球とフェアリヘイムは平和になるだろう。エゼキド本国が存在するかどうか次第で、新たな戦いの幕は開くだろうが、とりあえず今は目の前の元要塞の始末に取り掛からねば。

 

「希望、パンドラの箱に最後に残っていたものですか。それならその希望ごとまとめて叩き潰して、自分達のしてきたことへのケジメをつけさせてやりますよ」

 

『君達にばかり重荷を背負わせて済まんが、よろしく頼む』

 

「望んで背負った荷物ですのでね、お気になさらず。さあ、聞こえていたな? 『まだ戦える』と考えているんなら、それは『しばらく戦えない』に変えて、ザンエイで休息してくれ。その間に俺があのデカブツを片付けるかもしれないが、そんときゃ、最後の戦いはのんびり見ていたなんて、笑い話にしときな」

 

 これを孫想いの祖父の中身と神々の造りたもうた美貌と女神の威風で告げるのだから、ザンアキュートやソルブレイズのようなわずかな例を除いて、突入部隊の魔法少女達から反論の言葉は出なかった。

 おまけに振り返りながらのウインク付きだ。至高の芸術品のひとつと言える外見に、茶目っ気のある動作が組み合わさって、破壊力は倍増していた。

 

「五分で戻ります!」

 

 ソルブレイズがそれだけ告げて、ザンエイに大急ぎで向かえば、ザンアキュートは張り合うように声を大にして叫ぶ。

 

「それなら私は三分で!!」

 

「カップラーメンじゃないんだ。きちんと休んどきな。流石に俺とヒノカミヒメでも、瞬殺は難しそうな相手だ」

 

 ソルグランドはひらひらと手を振りながら、ザンエイへと向かう孫娘達を見送り、前方三キロメートルの距離で弾ける光に向けて、振り返る。

 ザンエイとの通信が繋がったあたりで、こちらへ攻撃を再開した魔物達を破殺禍仁勾玉と破断の鏡が迎撃し、生じた爆発の光である。

 ソルグランドの視界一杯に広がる無数の光は、それ自体が星々の如く無数に瞬いては消えてゆく。だが、これを今後、一つも生まれなくするのが、ソルグランドの戦う理由だった。

 

「それで、ヒノカミヒメ、あいつの頭の水晶、あからさま過ぎるが弱点だと思うかい?」

 

「弱点兼危険地帯では? アンテンラを保存する記録庫と心臓、攻撃器官、この程度は兼ねていてもおかしくはないかと。不要に近づけば、あの水晶からなにかの攻撃が放たれるのは、簡単に想像できます」

 

「地球ベースの考え方だとそんな感じだな。これまであちらさんの送り出してきた兵器を考えると、そんなに外れていない予想だろう。後は攻撃を引き付ける為の餌で、本当に重要な器官は他所にあるかもな」

 

「全身、残さず微細に砕き、消してしまえばどこが核であろうとも変わりはありませぬ」

 

「はは、勇ましいな! ざっと目算で頭から尻尾まで七十キロってとこか。神域化しておいた区域は組み込めていないようだが、流石のデカさだ。それでも元のツイノエの大きさを考えると、いくらか小さい。構造材を圧縮して密度を高めているな。みっちりと詰まっていて、内部へ侵入する隙間は無さそうだ」

 

 破殺禍仁勾玉達の奮闘で時間を稼いでいる間に、ソルグランドは言葉こそ呑気なものだが、冷徹な瞳でツイノエの詳細を分析に掛かっていた。言葉遣いは世俗的でも、ソルグランドに宿る知恵の神々の権能が、ツイノエの全貌を暴かんと全力で稼働中だ。

 隣に立つヒノカミヒメもまたソルグランドと同じく、ツイノエの持つ機能や弱点、特徴を把握するべく、神の眼と知恵を働かせ続けている。

 

「単純な装甲厚、膨大な質量による堅牢性、戦闘形態への移行によるエネルギー経路の効率化は最低でもありましょう。最後の戦いに相応しい大物でございます」

 

「的が大きくなって当てるだけなら、正確に狙わなくともようやりなました。あちらにとっては私どもより過去の襲撃者を退けた、成功体験の再現といったところでしょうか」

 

「自分達の判断が間違いだったと、俺達が教えてやるか」

 

「はい。アンテンラは最後にそう学ぶでしょう」

 

 ツイノエの顔面中央に鎮座する赤い水晶柱は、囮兼攻撃器官と分析を終えた二人は、まずは外装を剥いで核を探すと決断した。

 ツイノエ内部から飛び出てきたこともあり、現在、ソルグランドとヒノカミヒメは、既にツイノエの懐に潜り込んだ状態にある。これだけの質量差だから、下手に当たればいくらソルグランド達でも吹き飛ばされてしまう為、その点だけは注意しなければなるまい。

 

 ツイノエの表層を這うように飛ぶソルグランド達に合わせて、邪魔汰退悪呂土も虚空を這い進む。ツイノエの注意を、ザンエイに戻る突入部隊から自分に引き寄せる為だ。

 体当たりだけで有象無象の魔物達を引き潰し、キロメートル単位の巨大な敵も邪魔汰退悪呂土から見れば小粒な敵だ。

 半永久機関を兼ねるウロボロスの頭を除く七つの頭が、射程に入る端から敵を蹴散らしてゆく。単体での戦闘能力は人類側でソルグランド、ヒノカミヒメに次ぐ第三位と言っていい。

 

 神話で、伝承で、漫画で、映画で、アニメで、小説で、多くの媒体で描かれてきた数だけ、ヤマタノオロチは信仰を集めてきた、そして、その数だけこの邪魔汰退悪呂土もまた信仰を受けて、強化されている。

 ソルグランドが最終決戦にひっさげてきた邪魔汰退悪呂土(とっておき)もまた、アンテンラにとっては理不尽を叫びたくなる要素の一つだったのは間違いない。

 新たな戦闘の輝きが周囲の虚空の闇に灯る中、変形を終えたツイノエからオープンチャンネル方式で大出力の通信が発せられた。

 

「我らはエゼキド監査軍、統合統括意思アンテンラ。地球人類並びにフェアリヘイムの妖精、惑星ナザンの残党戦力に対し、通達する」

 

 ソルグランド達は知らない事だったが、かつては三種類あった声色が統合されたことにより、アンテンラの音声は透き通った女性に近いものへと変化していた。

 

「諸君らの監査軍保有戦力、保有施設に対する数々の破壊行為により、これより殲滅行動に移る。対話の意味はない。交渉の余地はない。速やかに抵抗を止めて殲滅されるべし」

 

 アンテンラはツイノエを殲滅形態へと移行させたことから、ただただ、死刑宣告を告げるばかり。実に自分勝手で一方的な言い草だ。

 元々、妖精とも人類とも意思疎通の素振りすら見せなかった相手だ。対話も交渉も最初からなかったくせに、自らを棚に上げて好き勝手を言うものだと、人類側は口をそろえて怒りと共に吐き出すだろう。

 

「消滅せよ」

 

 ツイノエの巨体が動く。間近の距離に迫っていた──それでも百キロメートルは離れているが──邪魔汰退悪呂土へと向けて、ずいっと上半身を突き出し、顔面をまっすぐに向ける。

 顔面の水晶柱がにわかに輝きを増す。ツイノエ内部を血流のように巡るエネルギーが集約され、ザンエイのセンサーが膨大なエネルギーを検知してアラートを発していた。ソルグランドの首筋の産毛が逆立って、アレが恐るべき脅威だと訴える。

 

「分かりやすいが、邪魔汰退悪呂土が避ければザンエイを直撃する射線を取ったか!」

 

 ツイノエにまずは一撃と、苦殺那祇剣を振りかぶっていたソルグランドが忌々しげに吐き捨てた、その矢先にツイノエの顔面から鮮血を思わせる赤黒い光が奔流となって溢れ出し、邪魔汰退悪呂土を目掛けてまっすぐに突き進む。

 ヴリトラの特性と生来の頑丈さ、巨体ならではの耐久力を持つ邪魔汰退悪呂土でも、下手をすれば行動不能になるか、即死しかねない威力は地球型惑星を破壊して余りある威力だ。

 

 しかし、避ければザンエイを直撃する以上、邪魔汰退悪呂土に回避の選択肢はなかった。

何が何でもこの攻撃を受け止めて、ザンエイと魔法少女達を守る。それだけが邪魔汰退悪呂土に許された、いや、邪魔汰退悪呂土が自分に許した選択肢だ。

 ウロボロスの生み出す全エネルギーを防御に回し、邪魔汰退悪呂土が受け止める準備を整えるその刹那、両者の間にソルグランドと別れたヒノカミヒメが飛び込んで来た。

 

「好きにはさせません!」

 

 ヒノカミヒメが両手を捻り、甲を突き合わせた状態から襖を開くように左右に広げると、その眼前に巨大な鳥居が浮かび上がり、ツイノエの砲撃が鳥居へと吸い込まれてゆく。

 これまで幾度か披露してきた、空間を神域へと繋げてそこに敵や攻撃を隠すことで無力化する”神隠し”を応用した防御法だ。ただし、流石に惑星破壊級のエネルギーが対象では、神域そのものが崩壊しかねない。

 

「ミノスの迷宮といえど、これは……!」

 

 神域内部に構築されたミノスの迷宮が膨大なエネルギーによって蹂躙され、迷宮の外に溢れ出したエネルギーが異次元にある神域を蹂躙し始めている。

 せっかくソルグランドと共に育み、広げた神域が壊されてゆくのに、ヒノカミヒメは涙がにじむほど怒り、そして悲しかった。

 

「隙だらけだぜ、おい!」

 

 ヒノカミヒメの怒りと悲しみに共鳴し、こめかみに青筋を浮かべるソルグランドが苦殺那祇剣に圧縮していたプラーナを一部開放し、ツイノエの表層へと叩きつける。

 何重にも積み重ねられた圧縮装甲とその間に張り巡らされたシールドの手応えに、ソルグランドはかすかに眉をしかめたが、苦殺那祇剣による攻撃の手は緩めない。

 

「だらあああああ!!」

 

 ひと際強烈な光と炎が炸裂し、命中地点を中心に半径三キロメートルが吹き飛ぶ。

 そのダメージが伝播して、ツイノエの砲撃がようやく止んだ。まだ赤く明滅している水晶柱を収めた顔面が、ぐるりと自分の身体の上をはいずり回るソルグランドを向く。

 

「狙いはよくても優先順位を間違えてりゃ、お笑い草だぜ。お前らに散々煮え湯を飲ませてきたのは誰だ? 俺だろうがよ!」

 

 ツイノエを睨み返し、啖呵を切りながら、ソルグランドは視界の端にヒノカミヒメと無事な邪魔汰退悪呂土の姿をきっちりと映していた。神域に神隠ししきれなかったエネルギーによって、鳥居の幻影は吹き飛んでしまっている。

 ヒノカミヒメ自身にダメージはなかったが、今にも唇を噛み破ってしまいそうな形相だ。その唇を自分の血で濡らしてしまっては、あまりに痛々しく、ソルグランドは場違いかもしれないがソレを心配していた。

 ソルグランドに、真上大我にとってヒノカミヒメは手のかかる妹のようであり、愛しい娘でもあるのだ。愛し子が怒り、悲しむ姿に心が痛まない筈がない。

 

「ソルグランド。地球における最大のイレギュラー。我らの監査行動において例を見ない抵抗因子。エゼキド本星より命じられた危険因子の排除による積極的防衛活動を、これ以上、停滞させるわけにはゆかない。消えよ、イレギュラー」

 

 淡々と語るアンテンラの言葉に、わずかな怒りと苛立ちを聞き取ったのはソルグランドの勘違いではなかったろう。

 地球で言えば思いの込められた器物が時を経て、付喪神と呼ばれる存在になるように、高度に発達した人工知性であるアンテンラが長年の活動と生体エネルギーであるプラーナの研究によって、プログラムを超えた自我や知性を発芽させていてもおかしくはない。

 

 ソルグランドの破壊痕が変形し、瞬時に無数の砲身が形作られて、視界を埋め尽くす光弾が乱射される。苦殺那祇剣の一振りでまとめて光弾を消し飛ばし、ソルグランドの左手に稲妻を纏う鉄鎚が握られた。

 

「なにが積極的防衛活動だ、ああん!? つまり、そりゃ、なにもしてない相手が将来、自分達の脅威になるかもしれないからって、宣戦布告もなしに攻撃を仕掛けるってことだろうが。それまでそうやって、ナザンみたいな星をいくつ作った、貴様ら!!」

 

 振り下ろされた金剛轟鉄鎚が破壊痕をさらに広げ、迸る黄金の稲妻がツイノエの内部へと襲い掛かり、精密な機械部品を吹き飛ばしていった。

 

「答える義務はない。我らエゼキド監査軍。エゼキドの為に存在する。エゼキド以外の全てをエゼキドの栄華の為とする。全ての資源を、全ての技術を、全ての知恵を、監査対象の文明の持てる全てを徴発する。宇宙にはエゼキドのみ存在せよ」

 

「それが貴様らの至上の命令かい。分かってはいたが、相互理解はおろか妥協のしどころもねえ主張をしやがって。貴様ら監査軍を片付けたら、次に出てくるのはなんだ? 懲罰名目の艦隊か? それとも粛清だのなんだのと(のたま)う大部隊か? あんまりこっちを舐めるなよ。あの窮状からここまで盛り返した人類と妖精だ。ぞろぞろと大軍引き連れてやってきても、ひとつ残らず灰にしてやる」

 

 山犬の耳が後ろに倒れ、苦殺那祇剣と金剛轟鉄鎚を縦横無尽に振るうソルグランドの表情は憤怒で染まっている。

 不動明王は憤怒の表情と共にもっとも救い難き愚かな衆生をも救うが、ソルグランドは違う。この怒りに相応しい力を持って、攻め寄せるエゼキドの軍勢を滅ぼす。

 

「……」

 

(ん? 反論してこない。答える気にならなかった? いや、違うと勘が言っている)

 

 アンテンラからの返答がないのを、返答の価値がないからではないと、ソルグランドの勘訴えている。これが真上大我の勘であったら、ソルグランド自身、信じなかったかもしれないが、ソルグランドの勘となると話が違ってくる。

 ツイノエからの砲撃や量子魚雷を捌き、その合間に襲ってくるフォーガンズやブロックスネークを雑に処理しながら、ソルグランドはわずかに思考に耽る。エゼキドとの今後の戦争に大きく関わると、これも勘が訴えかけていたからだ。

 

「貴様ら、最後に母星から指示を受けたのはいつだ?」

 

「敵対勢力に返答の義務はない」

 

 ツイノエの表層を稲光となって駆けるソルグランドが、苦殺那祇剣を振るう度に斬撃がバリアと衝突して、被害を数キロメートルの斬撃痕から数百メートル程度にまで抑え込む。

 表層の構造材が砲身ばかりでなく、鋭い刃や棘を備えた鞭、あるいは手へと変化してソルグランドを四方から囲い込む。それらを破殺禍仁勾玉で弾き飛ばし、苦殺那祇剣と金剛轟鉄鎚によるツイノエの破壊を継続する。そしてもちろん、疑問を埋める為の問いも。

 

「最後に貴様らの創造主かあるいはエゼキドの関係者がツイノエを訪れたのはいつだ?」

 

「定期報告を継続中。ツイノエに来訪する必要はない」

 

「本当にそうか? 貴様らが搾取した資源は全てエゼキド星に送っているのか?」

 

「返答の必要性を認めない。対話に価値はない。ソルグランド、その戦闘能力を構成する要素に価値は認めるも、捕獲の危険性を鑑み、破壊を決定している」

 

 ソルグランドをふっと、巨大な影が覆った。ツイノエの左手が長細い蛇体の中ほどにいたソルグランドを目掛けて、振り下ろされている。あまりに巨大であるから、ひどくゆっくりと見えるが、実際には高速でソルグランドへと迫っていた。

 その質量と表層を覆う高密度エネルギーのバリアを考慮すれば、仮に地球に落ちれば天変地異を巻き起こすレベルの破壊を齎すだろう。

 

「母星からの返答はないんだろう? 昔はあったかもしれんが、今となっては音信不通。返答はない。訪れる者もいない。どれだけ積極的防衛思想とやらで、星々を荒らしまわっても、それを推奨する声も制止する声もない。違うか?」

 

 ツイノエの左手がツイノエ自身の巨体を叩いた時、凄まじいバリア同士の衝突で反発したエネルギーが嵐のように四方へ吹き荒れる中、ソルグランドの姿はその左手の肘の辺りにあった。

 

「……」

 

「痛いところを突かれて動揺したか? 都合の悪い時にはだんまりを決め込むのは、他所の星でも変わらないんだな。貴様らの主人、エゼキドの連中は、さてはもう滅んでいるな?」

 

「エゼキドは永遠不滅である。宇宙の終焉を越えて繁栄する為の方策の一つとして我らエゼキド監査軍は創設された。我らがある限り、エゼキドもまた滅ばぬ」

 

「対話を重ねてこなかったツケが出てんぞ。そいつはつまり、自分達はエゼキドの遺産ですって言っているようなもんだろう。自分達がエゼキドの存在を証明する迷惑極まりない遺品だってな」

 

 呆れさえ交えて告げるソルグランドに、いよいよアンテンラは返答をしなかった。彼らが事実として認めていたのか、いないのか。エゼキド人と呼ぶべき知的生命体が、既に滅亡しているのかいないのか?

 少なくともソルグランドとしては、滅亡説の信ぴょう性が各段に増したやり取りだった。

 ケジメをつけるべき相手が滅んでいるのなら、それはそれでやるせないものではあるが、逆に言えばこの監査軍さえ片づければ、エゼキドの脅威はほとんどなくなったも同然となる。

 

「情報収集に付き合ってくれてありがとよ。冥途の土産のつもりでペラペラと喋ったのかもしれんが、その礼は弾むぜ。俺じゃなくて悪いがな?」

 

 ソルグランドを吹き飛ばすべく、左腕を全力で振るうツイノエから飛び退き、天津甕星神の権能で流星となって自在に宇宙を飛ぶソルグランドは、好戦的な笑みと共にヒノカミヒメを振り返った。

 ヒノカミヒメは怒りの形相の代わりに能面のようにすべての感情を取り払った、非人間的な美しさを湛える表情で、右手に握る矛を全力で投擲する姿勢を取っている。

 

「日本神話と他国の神話で語られる槍のミックスだ。あれは痛いぞ?」

 

 ソルグランドの好戦的な笑みは、ヒノカミヒメの槍を見てすぐにひきつった。

 名高いところで言えば北欧の主神オーディーンのグングニル、ケルト神話におけるゲイ・ボルグやゲイ・ジャルグ、日本では天逆鉾や蜻蛉切、ギリシャ神話の海神ポセイドンのトリアイナ、シヴァ神のトリシューラやインドラ神の槍、アーサー王のロンゴミアント等々。

 

 世界に名高きこれらの槍や鉾のエッセンスを抽出し、一つの槍として鍛え上げたのが、今、ヒノカミヒメが携えたる槍『畏天(いてん)』である。

 穂先と柄が一体となった白銀の槍で、丸い石突から穂先までは三メートルほど。波打つ真ん中の刃と左右から捩じれた刃を伸ばす三叉の槍だ。

 

「私とソルグランド様の神域を壊した報い、その神罰を降す!!」

 

 両脚を広げて踏ん張り、腰を捻り、背を捩じって理想的な投擲フォームを取ったヒノカミヒメの身体が限界まで引き絞った状態から畏天が解き放たれて、ツイノエに向かって投擲される。

 ツイノエの巨体からすれば小枝にもならない小さな槍の一撃を、しかし、ツイノエを制御するアンテンラは、かつて撃ち込まれた惑星破壊用のミサイルと同等の脅威と見做した。

 

 ツイノエの顔面中心を目掛けて投擲された畏天は白銀の流星となり、顔面を庇おうとしたツイノエの右手を、何重にも展開された重力場、歪曲した空間を、薄紙の如くまとめて貫いた。

 右手を犠牲にした甲斐はあり、軌道を逸らされた畏天は赤い水晶柱のど真ん中ではなく、右半分を抉って宇宙の彼方へと飛んで行った。

 破壊の衝撃によって見る間に罅を広げて、再び砲撃を放つのはほぼ不可能であろう。畏天の挙げた戦果を確認して、ヒノカミヒメは表情に相応しい冷徹な声で淡々と話す。

 

「外したか。それにやはり目立つソレは貴様の核ではなかったな、アンテンラ。小賢しい真似をするが、やはり跡形もなくすべてを破壊しつくすのが良いか」

 

 威力の高さと引き換えに基本的に一度の戦闘で一度しか使えない畏天は、数百万キロメートルの彼方で自壊し、ヒノカミヒメは再び右手に天滅之無羅苦莽剣を握る。

 全力を込めた一撃ならば、ツイノエの表層程度なら容易く破壊できる。しかし、跡形もなく吹き飛ばすとなれば、苦殺那祇剣と天滅之無羅苦莽剣の全力解放でも足りるかどうか。

 問題は破壊する為の手段をどのように確保するか? これさえクリアできれば、ツイノエごとアンテンラを葬れると、ヒノカミヒメは確信した。

 




対話をせずに一方的に破壊と搾取ばかりしているから、ポロっと重要情報を零してしまうんですね。んーポンコツかな?
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