魔法祖父ソルグランド ~TS転生した祖父は魔法少女の孫娘を見守る~   作:永島ひろあき

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ありがと

 ヒノカミヒメによる畏天の一撃で、明確な損傷を負ったツイノエだったが、行動に大きな変化は生まれなかった。

 距離を開ける、回避行動を取るなどの守りに転じることはせず、またヒノカミヒメに照準を絞って攻撃に偏重することもしなかったのである。

 

 ツイノエ内部に残っていた兵器全てを出撃させ、ザンエイと交戦していた部隊と合流後、再編成を済ませてザンエイへと向けて殺到させる。

 ヒノカミヒメとソルグランドを狙わせるのも手ではあったが、味方を守る為に力を割く習性がある、とアンテンラは学習していたからだ。

 

 一方で後退するザンアキュートら突入部隊を含めて、展開していた戦力の収容をあらかた終えたザンエイ内部もまた、ひとつの戦場と化していた。

 大急ぎで液化エーテルドリンクを飲んでエネルギー補給を行う者、緊張の糸が切れてそのまま失神する者、予備のマジカルドールへ意識を移して戦闘を継続しようとする者達で溢れかえり、殺伐とした雰囲気が作り上げられている。

 

 ツイノエの主砲と思われる砲撃は、ザンエイの全エネルギーをシールドに注いでも防ぎきれる代物ではない。

 おそらくヒノカミヒメの一撃で、すぐさま主砲の再発射とはなるまいが、ザンエイを預かるガルダマンはかつてない緊張に心臓が止まる錯覚を覚えたほどである。

 

「早く、早く!」

 

 揺れるザンエイの格納庫の片隅で、ソルブレイズはスタッフから渡されるプラーナドリンクのチューブを次々と空にして、傷ついた肉体の補修に回してゆく。

 焦る心もまた糧として、新たなプラーナを生産し、ボイドリアやラグナレクすら及ばない強敵との戦いに、参加する資格を得る為の力を補充する。

 焦る気持ちはザンアキュートも同じだった。一時的に強化フォームを解除し、魔法少女状態を維持できるギリギリまで戦闘能力を抑え込み、眼を閉ざして深い瞑想に入っている。

 

「ふーっ」

 

 ツイノエのような大質量を相手にしては、ソルブレイズやザンアキュートクラスの魔法少女にしても、後先を考えない全霊を込めた一撃でようやく通用するかどうかだ。

 ワールドランカートップクラスの自分達ですら、足手まといと大差のないこの最後の決戦で、しかし、本当に足手まといのまま終わるわけには行かないと、アンテンラに牙を突き立てる瞬間を、一秒を一年にも十年にも感じながら待ち続けている。

 

 そして実際に牙を突き立てようとしている存在が居た。

 あろうことかヒノカミヒメに庇われた形になった邪魔汰退悪呂土である。

 決死の覚悟でザンエイの盾になるはずだったのが、創造主ソルグランドの姉妹機に助けられたのは、邪魔汰退悪呂土にとってその存在意義を根底から揺るがすもの。

 彼ないし彼女はソルグランドと彼の守らんとするすべての者達の助けとなる為に、存在している。その自分がヒノカミヒメに守られるなどと、あってよい話ではない。

 

 邪魔汰退悪呂土の首がそれぞれ宇宙の闇に叫び声を轟かせて、その巨体からは信じがたい速度でツイノエとの距離を詰めて行く。

 ツイノエはすぐさま邪魔汰退悪呂土に対応することは出来なかった。

 なぜなら、その表層を今もソルグランドが飛翔し、迎撃のミサイルや光線、重力波、空間歪曲砲の数々を掻い潜り、破壊の限りを尽くしているからだ。

 

 そしてま、ヒノカミヒメもまた両手で天滅之無羅苦莽剣を握り締め、ソルグランドとツイノエを挟み込むように、ツイノエへ斬りかかっている。

 太陽と錯覚するほどの高熱を秘めた天滅之無羅苦莽剣の斬撃は、ツイノエの構造材でも耐えがたい高熱でもって、大きな斬撃と融解の痕を次々と刻んでいた。

 

 それでも所詮、ツイノエの表面にいくらかの傷をつけているに過ぎないと、ソルグランドとヒノカミヒメ双方が理解している。

 創造主とその姉妹機のじりじりとした焦燥を感じ取って、邪魔汰退悪呂土は決死の覚悟でツイノエと食らいつく。七つの首とツイノエの巨体の衝突によって、凄まじいスパークが両者の間に生じて、四方へと散っていった。

 

 ツイノエの両腕を邪魔汰退悪呂土の首が二本ずつ挑んで締め上げ、首へ一本、胴へ残る二本が絡みついて、全力で締め上げる。ウロボロスの首は変わらずエネルギー生産に全霊を注いでいる。

 ツイノエは長い蛇体をくねらせ、力任せに邪魔汰退悪呂土を振りほどこうとするが、後先を考えずに出力を全開にする邪魔汰退悪呂土の拘束は固く、時間を掛ければともかく、今すぐにとは行かない。

 

 邪魔汰退悪呂土も牙を突き立てて、猛毒を流し込もうと狙ってはいるのだが、ツイノエの表面に張り巡らされたバリアと硬度を前に攻めあぐねていた。

 邪魔汰退悪呂土の意図を組んでいたソルグランド達は、その献身に報いるべく動き出している。ヒノカミヒメは損傷を与えた顔面の水晶柱に狙いを定め、更なる破壊を齎して内部攻撃の糸口にせんと目論んでいた。

 

 一方、ソルグランドはがむしゃらな攻撃を控え、苦殺那祇剣にプラーナと神通力を注ぎ込んで、渾身の一撃を見舞う機会を虎視眈々と狙い定める。

 アンテンラの宿る核、あるいはサーバーとでも言うべき部位を一撃で破壊できなくとも、損傷を与えればヒノカミヒメや魔法少女達が必ず破壊してくれるはずだ。

 

「敵仮想生物兵器の排除開始」

 

 ツイノエからアンテンラの宣言が公開通信で、戦闘宙域に広がる。

 邪魔汰退悪呂土とツイノエの力比べはかろうじてツイノエが勝る程度で、一息に邪魔汰退悪呂土の首を千切れるようなものではない。

 だがツイノエの大きく広げられた翼が今度は手を思わせる形となり、左右合わせて十本の指先にある鋭い爪が邪魔汰退悪呂土の首の付け根を目掛けて突き込まれる。

 そうして、信じがたいことにこれまで無敵を誇った邪魔汰退悪呂土の鱗が、貫かれるではないか。

 

「ギャァオオオオ!?」

 

 たまらず邪魔汰退悪呂土の首から苦悶の声が溢れる。

 ツイノエの襲撃に際して用意したとっておきの苦境に、さしものソルグランドも声を大にして、邪魔汰退悪呂土の名を叫ぶ。

 

「邪魔汰退悪呂土!」

 

 ツイノエは鱗を突き破った指を通じて、膨大なエネルギーを邪魔汰退悪呂土の体内に流し込んでおり、その巨体を内部から蹂躙していた。

 邪魔汰退悪呂土の保有する数々の権能と加護を、強引に突破するそのエネルギー量の凄まじさには、ソルグランドも臍を噛む思いであった。

 

「流石に恒星間を行き来できる文明の兵器かよ。エゼキド星人さんよ、自分達が滅びた場合の安全装置くらい、用意しておけってんだ!」

 

 おそらく既に滅んでいるだろうエゼキド星人に向けて、悪罵を放つソルグランドの周囲に、無数の砲身が形作られた。

 ソルグランドばかりではない。

 ヒノカミヒメと邪魔汰退悪呂土の周囲にも、同じようにツイノエの表層が変形した砲身が形作られて、指向性を持たされた重力砲弾や高出力のレーザー、荷電粒子砲、プラズマ……ありとあらゆる兵器が叩き込まれる。

 これまでソルグランドとヒノカミヒメが、他の魔法少女と比較して多種多様かつ特異な防御方法を持っていることから、それに負けない多様な攻撃を用いてきたのだ。

 

 半身半蛇の怪物と化したツイノエの周囲が、色鮮やかな光に包み込まれて、ザンエイの計器を振り切る膨大なエネルギーが乱舞する。

 さしもの邪魔汰退悪呂土もウロボロスの生み出すエネルギー供給が追い付かず、徐々にダメージの積み重ねによって巨体のそこかしこに崩壊の前兆が見え始める。

 

 なりふり構わないツイノエの猛攻の最中、状況を変えたのはついに創造主と決定的な決別を果たした魔物少女だった。

 ツイノエの顔面を攻めあぐねているヒノカミヒメの傍らに、ディザスターがにやけ面で並ぶ。数えるのも馬鹿らしい攻撃の中で、その怪力とタフネスを頼りにヒノカミヒメに追従しているのだから、呆れた脳筋ぶりだ。

 

「あはははは、お前でも焦ることがあるんだな。良いざまだ! ば~か」

 

「あなたは、そんなことを言っていられる状況ですか。あなたもアンテンラと袂を分かったのでしょう? それともこの土壇場でやはり寝返りますか」

 

「そんなことわけないじゃん。バカなの? 今更、自分可愛さにそんなダサい真似はしない。アンテンラ様に作ってもらった恩はあるけど、勝手に捨てたんだからその分のお返しはしなくっちゃね」

 

「あなた……」

 

 気持ちよさそうにヒノカミヒメを煽るディザスターの小生意気な顔に、なにを見出したのか、ヒノカミヒメの美貌から怒りの色が引いて、代わりにディザスターを案じる色が浮かび上がってくる。

 

「あんたとソルグランドは死ぬほど嫌いだけど、面白かった。他の魔法少女やネイバーの連中も、嫌いだけど嫌いじゃない。でも勘違いしないで。あたしはあたしがそうしたいから、アンテンラ様の邪魔をする。あたし達を捨てたのが大失敗だったって、分からせてあげんの!」

 

 ディザスターの心臓から、いったいどこにそんな力が眠っていたのか、ソルグランドやヒノカミヒメを彷彿とさせるプラーナが一気に溢れ出した。

 数多くのヨモツヘグイモドキの神饌を食べ、徐々に地球側の存在へと変質させられていた肉体に、限界の超越を命じることで生命を燃やしているのだ。

 ただそうしているだけでも、寿命を縮める暴走行為に、ヒノカミヒメが制止の声を上げるよりも早く、ディザスターが加速してアンテンラの顔面を目指す。

 

「はははっはははは! 創造主様! アンテンラ様! あなたが失敗作と決めつけたあたしがあ! どれだけのものか、教えてあげる!!」

 

 もはやディザスターは止まらないと理解したヒノカミヒメは、ディザスターの援護へと意識を無理やり切り替えた。噛み締めた唇を歯が食い破り、真っ白いソレが血の赤に濡れた。

 ディザスターの未来を考えない覚悟に答えるべく、ヒノカミヒメは回避行動を控え、被弾を許容しながら援護の為に、天滅之無羅苦莽剣へと神通力を流し込む。

 

「我が剣の先に雨の叢雲は晴れ渡り道が開く!」

 

 天滅之無羅苦莽剣の力を完全にではないが、ある程度解放する為の文言を発し、あらゆる雨と叢雲を晴らす権能を強く表す。この場合の雨、そして叢雲とは今も間断なく降り注ぐツイノエからの攻撃である。

 振り下ろされた天滅之無羅苦莽剣からディザスターの背を追うように神通力が放たれ、不可視の神通力に触れたあらゆる攻撃が弾き飛ばされる。そうしてディザスターを邪魔するもののない道が開かれた。

 

「お行きなさい! ディザスター」

 

「ははは、お節介焼き! でも、ありがと!」

 

 ヒノカミヒメを振り返らずにディザスターは、開かれた道をまっすぐに飛び続ける。その終わりに向けて飛ぶ背中に、ヒノカミヒメが悲しみを隠し切れずに零す。

 

「ようやく、お礼を言えるようになりましたね。……こんな時に」

 

 ディザスターの瞳は数キロメートル先で、邪魔汰退悪呂土の首に絡みつかれているツイノエの頭部に注がれていた。

 ヒノカミヒメの一振りの影響で、邪魔汰退悪呂土の首を襲う砲撃も一時的に弾かれたから、邪魔汰退悪呂土はディザスターの為にあらんかぎりの力でツイノエの首を締めあげている。

 

「よくやった。そのまま固めとけ、デカ蛇!!」

 

 邪魔汰退悪呂土の首を飛び越えて、ディザスターは眼前にひび割れた巨大な水晶柱を映す。畏天による一撃はいまだに修復が始まっておらず、砲撃を発射するメカニズムに甚大なダメージを負ったままだった。

 

「やっぱり、凄い奴だな、ヒノカミヒメ」

 

 これまで自分達を散々にしごき抜いたヒノカミヒメは、何度考えても嫌いという結論になるが、ソルグランドに次いで付き合いの深かった魔法少女でもある。

 お互いに当初は敵対心剥き出しの間柄だったのに、それが今は戦場で背中を預けるまでになった。どうしてそうなったのか、ディザスターにはさっぱり分からなったが、悪い気分ではない。

 

「アンテンラ様、あたしみたいなのを、地球じゃこう言うんだってさ」

 

 赤い水晶中の奥底に光が宿る。破損したまま、ディザスターを撃ち落す為に砲撃を無理に撃とうとしている。それはディザスターの暴走するプラーナが集約する両腕を、アンテンラが危険視した証左だ。

 元より膂力だけなら初代ソルグランドの肉体、つまり今のヒノカミヒメを上回るディザスターが、自らの存在維持を放棄して放つ一撃は、変形したツイノエにさえ脅威なのだ。

 

「反抗期ってね!!」

 

 ディザスターが両腕を前に突き出した姿勢で、躊躇なく水晶柱へと突撃し、赤い光が溢れ出すその寸前に巨大な水晶柱を叩き割り、中へ、中へ、その中へと突き進む。

 アンテンラが放とうとした砲撃はディザスターの特攻によって阻まれて、行き場を失ったエネルギーが荒れ狂い、数秒の間を置いてツイノエの首から上を吹き飛ばすこととなる。

 

 ツイノエの首に絡みついていた邪魔汰退悪呂土の首が離れた直後に、不吉な赤い花のように砲撃のエネルギーが炸裂し、周囲へ血の噴水のようにエネルギーの残滓が溢れて行く。

 首から上を失い、体内もまた荒れ狂うエネルギーに焼かれたツイノエだが、それでもまだ終わりではない。ディザスターの命懸けの特攻は大きな傷をツイノエに与えたが、機能停止に追い込むには至らなかった。

 その代わりに、ディザスターの見せた覚悟と命の輝きが、ソルグランドとヒノカミヒメの魂に火を着けた。ツイノエの破壊に次ぐ、ディザスターの齎した戦果であった。




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