魔法祖父ソルグランド ~TS転生した祖父は魔法少女の孫娘を見守る~ 作:永島ひろあき
真上大我が本人の望む通り、魔法少女ソルグランドの正体であったと知られぬまま、この世を去った直後のこと。
魔物ことエゼキド監査軍、その首魁アンテンラの撃破後、地球圏を旅立った魔法女神ヒノカミヒメと魔物少女、一部のマジカルドールを乗せた巨大母艦ザンエイは、天の川銀河内に存在する星系に滞在していた。
ヒノカミヒメらがこの星系を訪れたのは、この地に恒星間航行可能な文明が複数存在し、アンテンラとは異なる指揮系統に属するエゼキドの残党を相手に、連合軍を結成して抗っていたのを捕捉した為である。
現地の人々がシンラテンと呼ぶ星系を襲うエゼキド残党は、自らをエゼキド外征教導艦隊と名乗り、エゼキドの統治外に存在する他文明を教え導くことを目的としている、と自称している。
アンテンラ同様に滅びた創造主からの命令の更新がないまま、任務を継続し続けている人工知能の類と目されている。
アンテンラとは情報のやり取りは行っていなかったようで、教導艦隊にはプラーナを利用した生体兵器、つまりは魔物の類は存在していなかった。
教導艦隊は外文明との戦闘の中で独自に発達させた兵器群を大々的に戦線に投入し、シンラテン星系連合軍もまた、各文明が独自開発した兵器を持って対抗し、地球時間でおよそ一世紀に渡る防衛戦争が繰り広げられていた。
一進一退を繰り返す終わりの見えない戦争の中で、現れた特大のイレギュラー、それが地球とフェアリヘイム、ナザンの連合部隊“ERF”。エゼキド・ルイン・フォース、端的に言うと“エゼキド・滅ぼす・部隊”である。
シンラテン星系で行われていたエゼキド教導艦隊とシンラテン連合軍の激突に、ヒノカミヒメを先頭とするマジカルドール部隊が、横合いから突撃を敢行し、この時、戦闘に参加していたエゼキド側の戦力の三割を撃破するという目覚ましい戦果を挙げる。
突然の乱入者に対して、連合軍側は警戒と戸惑いを隠さなかったが、ERF側のエゼキドに対する殺意と侮蔑の念の強さはすさまじく、共通の敵を持つ同胞として認めるのに然したる時間はかからなかった。
この時、シンラテン星系にはエゼキド教導艦隊によって、母星を奪われて行く宛を失った人々が星の垣根を越えて集まっており、よく知らぬ他人を受け入れるのに慣れていたのも、スムーズに行った大きな要因だったろう。
百一年目を迎えようとしていたシンラテン星系に於ける戦いに、ヒノカミヒメ達と言う特大のイレギュラーが関わったことで、エゼキド教導艦隊はこれまで以上の攻勢に打って出ており、百二年目を迎えるつもりがどの勢力にもないのは明らかであった。
いくらかの戸惑いと少しの恐怖と、大きな興奮と歓喜を持って迎えいれられたヒノカミヒメらは、完全にシンラテン連合軍の指揮下に入ったわけではなかったが、それでも協力者として最大限、配慮して多くの敵を葬った。
その原動力となったのが、この星系の防衛線には存在しない魔法少女やマジカルドールなどの、プラーナを利用した戦力だ。そしてもう一つ、この地の戦いでヒノカミヒメが知ったことがある。
(どうやら地球における“神”と呼ばれる存在は、他天体にも存在はしますが、それほど強力ではありませんね。地球の神々が異例であって、この地の神々のような在り方が普遍的であるのか。それを調べるにしても教導艦隊とやらを粉微塵にしてからですが……)
ナザンにおける神と呼ぶべき存在は既に滅び、ディザスターやフォビドゥンや魔物少女を構成するプラーナの中に、わずかな残滓を残すのみだった。
フェアリヘイムの妖精達は上位存在かというと、地球人類と同レベルの異世界生物であり、神々と同列に見做すのはまた話が違ってくる。
ソルグランドと夜羽音に送り出されてから半世紀以上が経過し、ヒノカミヒメは美しさをそのままにより凛々しく、たおやかでありながら勇ましさを兼ね備え、より神々しく、より魅力的な女神へと成長していた。
そんなヒノカミヒメの姿は対エゼキド教導艦隊を目的として、シンラテン星系に建造された全長八百キロメートルを超す六角柱型の要塞、ヘイドンカの一角にあった。
ザンエイ並みの巨大艦艇を複数収容できる、超特大の要塞だ。流石は複数の星間国家の連合軍だけはあると、ヒノカミヒメも素直に賞賛するところ。
五メートル級の人型生物が連合軍の一角を担う為、要塞内部の通路は地球人類からすると過剰なくらいに巨大で余裕がある。
文字通りシンラテン連合軍の救い主として崇められつつあるヒノカミヒメは、現地の神ないしは上位存在との折衝も行わなければならず、人知れず苦労を重ねていた。
「ふう、これが大人になるという事なのでしょうか。ソルグランド様」
ただ味方を鼓舞して敵を葬ればよかったころとは、まるで勝手の違う戦いに、ヒノカミヒメはついつい唇から溜息を零してしまう。
本物の八百万の神々の力の結晶であるヒノカミヒメだから、溜息からなにがしか新たな神が生まれる可能性を馬鹿に出来ない。その為に溜息一つとっても簡単には出来ないのが、ヒノカミヒメ独特の悩みだった。
輝く幾何学模様のラインが走る通路を進むヒノカミヒメの目的地は、ドックの一つに係留されているザンエイだ。四日前にエゼキドの小艦隊を蹴散らしたのだが、戦闘後のメンテナンスと乗員の休息の時間となっている。
連合軍を構成する軍人にはそれぞれ腕時計やバッチ型の小型端末が支給され、それぞれの生態に適した重力が自動で付加される。
万が一、端末に異常が生じた時の為に、要塞全体は全種族が生存可能な重力に設定されていた。
どの種族の重力や大気設定にしても生存可能な万能性と頑丈さに、連合軍の軍医達に少し引かれた時を思い出すヒノカミヒメの足が止まる。
曲がり角の向こうから、魔物少女のラストモデル、ボイドリアが姿を見せたからだ。ERFの女性用軍服に身を包んだその姿は、初めて魔法少女と交戦した時とはまるで別人のように映る。
ヒノカミヒメが装飾を省いた簡素な紅白の巫女装束に身を包んでいるのに対して、深緑色をベースにしたジャケットとパンツ姿のボイドリアはひどくちぐはぐ、あるいは対照的だった。
あの決戦で敗北したボイドリアが鹵獲されてから数十年。今のボイドリアはその立場だけでなく、心境にもなにかしらの変化があったのだろう。そうでなければ創造主の敵の用意した衣服に、袖を通さないだろう。
「ヒノカミヒメ、艦長がお待ちだ」
「ご苦労様、ボイドリア。ザンエイの具合はいかがですか。損傷は大きくなかったはずです」
一体と一柱が肩を並べて、通路を進み始める。お互いに戦意はなく、またそれを隠しているわけでもない。どうやら数十年間の付き合いで、険悪なこうして肩を並べて穏やかに歩ける関係を構築できたようだ。
その過程で言葉と拳と刃とプラーナを何十回と交わしたのは、想像に難くない。
明確にアンテンラに反旗を翻したフォビドゥン達と違い、ボイドリアはアンテンラに廃棄こそされたが、創造主への攻撃には参加していない。その一点の違いは非常に大きい。
ま、今となっては過去の話である。
「ザンエイの補給と整備、人員の休息も終了。命令があり次第、いつでも出航できる状態にある」
「準備万端というわけですね。喜ばしい報告です」
この数十年あまり、地球人類にとってオーバーテクノロジーだったザンエイも、地球側の尽力のみならずシンラテン星系の協力もあって、改修に次ぐ改修が施されている。
今や単独でラグナレクの討伐が、大損害は受けるものの可能となっている。マジカルドールも能力の底上げが行われていて、中身の練度次第では一級の魔物と互角以上に渡り合えるレベルだ。
「予想していたとはいえ、監査軍以外の戦力がこれほど広く銀河に散らばっていたとは、エゼキドの全盛期はどれほど凄まじかったのでしょうね。それでも銀河の覇権は取れていなかったようですが」
「過去にも伝えたが、本機に創造主アンテンラと更なる創造主エゼキドに関する詳細なデータは与えられていない。貴機らに開示した以上のデータはない」
「もう、今更、尋問するつもりはありません。先ほどの言葉をそのように穿った捉え方をしなくて大丈夫ですよ。あなたは教導艦隊と戦いはしませんが、私達の邪魔はしませんし、戦闘以外の行為でなら手助けもしてくれている。それで充分です」
他の魔物少女がヨモツヘグイの性質を持った食事を重ね、製造に使われたナザンのプラーナに促され、アンテンラに廃棄され、といくつもの要素を重ねた結果、地球人類に協力する事となった。
現在も教導艦隊の戦力を相手に、まったく躊躇も遠慮もない戦いをしており、ヒノカミヒメ同様、シンラテン星系の人々から頼もしい友軍として受け入れられている。
その一方で最高性能を誇るボイドリアは鹵獲され、虜囚の身となった後、フォビドゥンらと同じようにヒノカミヒメの眷属扱いとなっていたが、エゼキド系の敵とは一貫して不参加を貫いている。
それでもヒノカミヒメが口にした通り、戦闘での負傷者や遭難者の救出、戦闘時のエネルギー供給や日常時の雑務を文句ひとつ言わずこなしている為、ザンエイ内部でも今は問題視されていない。
「鹵獲された兵器の使い方を決めるのは、鹵獲した側である地球人類並びにフェアリヘイムにある。本機は兵器としての在り方を全うしているに過ぎない」
「かつてアンテンラにそう命じられたわけでもないでしょう。あなたが苺大福やかりんとうまんじゅうがお好きなのも、兵器のさだめですか? 最近は乳酸菌飲料がお気に入りでしたね」
「本機の状態を最良の状態で維持する為の数ある試みの一つに過ぎない。アンテンラは本機をメンテナンスフリーの兵器として完成させたが、百二十パーセントの性能を発揮する為の試行錯誤は、時間が足りていなかった。それを今、試行している」
(試す行いの試行ではなく、自分の嗜好を探求しているように見えますけれど、それを指摘して拗ねられても仕方ありませんね。ディザスターなら考え無しに指摘して、口喧嘩になりそうですけど)
ヒノカミヒメと魔物少女達は決して同一の存在ではないが、類似した存在ではある。その戦闘能力を見ても、全力のヒノカミヒメと肩を並べられるのは、シンラテン星系を含めても魔物少女達くらいのものであった。
つまりは魔物少女達が地球人類に絆されたように、ヒノカミヒメも長い付き合いによって魔物少女達に友愛の情を抱くようになっている。
「あなたのその変化を私は好ましく思いますよ、ボイドリア。アンテンラの戦いの時、あなたを拾い上げたソルグランド様のお考えは、間違いではなかった」
親愛と心酔の溶け合う甘美な微笑を浮かべるヒノカミヒメに、ボイドリアはシンプルな疑問を伝えた。
「ソルグランドは間違いを犯さないのか? かの機体は自身の絶対性については、常に疑っていたと記録している」
「もちろん、ソルグランド様とて完全でも完璧でもありません。今のあなたの姿から逆算した上で、私がそう感じたというだけのこと。あなたを戦力に加えられる可能性があるから、ではありませんよ。あなたという一つの命が、多くの可能性を得られることが、喜ばしいからです」
「本機は貴機らの子機ではない」
「それでもです。共に長い時間を過ごしたでしょう。良いことも悪いこともありました。思い出せば笑みの浮かぶ記憶、思わず顔をしかめてしまう記憶も。それらすべてを踏まえた上で、私は今のあなたを見て、助けてよかったのだと思いますし、好ましくも感じるのです」
「相変わらず貴機らのそういった思考形態は、本機にとって不可解で理解するには困難を極める」
アンテンラが生み出したにしては、人類から見ても美の結晶と賞賛できる美貌をわずかにしかめて、ボイドリアは学習困難な事象に対する印象を、隠さずに伝えた。この魔物少女に見栄を張るという機能は備わっていなかった。
「理解しようとしてくれるだけでも、確かな前進です。いつかソルグランド様によいご報告が出来るでしょう」
ソルグランドの名を呟くヒノカミヒメの声色がいつもの親愛とは違うのに、ボイドリアは気づいていたが、それがソルグランドの中身である真上大我が、既にこの世を去って久しく、今生では会えない事実に対する寂寥とまでは分からなかった。
ボイドリアよりも先行開発である為、人間的な感性を多く残していたフォビドゥンやディザスターなら、もう分かったかもしれない。
ドックに係留されているザンエイに到着した後、ERFはシンラテン連合軍の要請により、星系外ぎりぎりで戦っている友軍の救援に向かう事となった。
エゼキド側が二百隻の艦隊で攻め寄せたのに対し、連合軍は三百隻の艦隊で迎撃していたのだが、その背後から更に二百隻の敵援軍が出現し、三次元的に包囲された友軍が窮地に陥ったのだ。
ザンエイ以外にもすぐに動ける友軍が向かう中、完成して久しいワープ機関を使い、戦闘宙域の近傍にワープアウトした時、事態は大きく変化していた。
友軍を包囲していたエゼキドの伏せていた増援の艦隊が壊滅していたからである。戦闘宙域に原型をとどめない残骸が浮かぶ中、ヒノカミヒメに匹敵する恒星級のエネルギー源が存在していた。
魔物少女、マジカルドールと共に甲板に立って、警戒をしていたヒノカミヒメにザンエイから緊急で通信が回されてきた。立体映像による通信画面には、敵艦隊を蹴散らした張本人の姿が映し出された。
『久しぶりって言うべきなんだろうな。ヒノカミヒメ。ニュースで頑張っているのは知っていたけど、やっぱり直接顔を見ると、安心するな』
「たい……ソルグランド、様。夜羽、コクウ様も? どうして?」
通信画面に映し出されていたのは、両手に闘津禍剣を握り、左肩に妖精姿の夜羽音を乗せた紛れもないソルグランドに違いなかった。ヒノカミヒメと瓜二つでありながら、まるで異なる雰囲気の持ち主は、再会を喜ぶ満面の笑みを浮かべている。
『なあに、地球を任せられる後輩が十分に育ったし、手も空いたから遠くで頑張っているヒノカミヒメを手伝いに行こうって話になってね。コクウさんやその他の皆様方に話を通して、ようやくやってきたのさ』
おそらくソルグランドこと大我の言う皆々様とは、死後、日本神話群の管理する根の国などの冥府を司るかの大女神を含む日本神話の神々であろう。ともすればネイバーとして共に戦った、他の神話群の神々も含むかもしれない。とんでもない人脈? 神脈である。
大我が生きている間は万が一、地球とフェアリヘイム、ナザンが襲撃を受けた場合に備えて、ソルグランドとして地球から離れなかったが、今しがた口にした通り、技術の向上によって防衛戦力は整ったし、まあいいか、と開き直ったわけである。
アンテンラとの決戦後、ソルグランドの出番はなかったが、魔物との戦いを終わらせた英雄として知られ、ザンアキュートによって創立された宗派によって、その知名度は絶大だ。
ソルグランドが自ら自分を崇めても恩恵はない──人々の信仰を糧に本人がパワーアップする、神々の権能で食物、鉱物、反物など様々な産物を生み出せるが──と、わざわざ声明を出しても、少なくない数の信者が誕生したほどである。
そのソルグランドが遠い地球からやってきた上に、自分達の到着前にエゼキドの援軍を綺麗さっぱり片づけた事実を前に、ザンエイのブリッジや待機していたマジカルドール達、なんなら助けられたシンラテン連合軍もプチパニック状態だ。
ましてや通信画面に、もう一人、やや巫女装束の意匠が華美なソルグランドが映り込んで来たとあっては。
「ソルグランド様、そちらは?」
ヒノカミヒメの声音が平坦だったのは、驚きの度が過ぎて逆に落ち着いてしまったからだろう。
『俺もソルグランドだよ、一応ね』
二人目の少し華美なソルグランドが通信画面越しに、ヒノカミヒメに向けて茶目っ気たっぷりにウインクをする。本物のソルグランドに比べると、なんだか雰囲気が軽いというか、落ち着きが少しないか?
ヒノカミヒメの背後で食って掛かろうとしたディザスターを筆頭に、魔物少女達が目を丸くして驚いていた。それはそう、とヒノカミヒメも心の中で同意した。
残るエゼキドの艦隊を片付けて、友軍の救助が一通り終わった後、ソルグランドはザンエイにあるヒノカミヒメの私室に通された。尋問、いや、事情聴取、いや、情報共有の為である。
社殿を思わせる部屋に畳や鏡台、文机などが置かれ、シンラテン連合構成国家の土産物が置かれた部屋には、ヒノカミヒメにも嗜好が生まれたのが分かる。
ヒノカミヒメが手ずから淹れた異星の黄金色の湯呑みを手に、まず一番目のソルグランドが口を開いた。
「ふふ、通信や手紙でのやり取りはしていたが、面と向かい合うのは本当に久しぶりだな。活躍はいつも耳にしていたぜ」
「ソルグランド様にそのようにおっしゃっていただけるのは、光栄でございます。その、私の知るソルグランド様は今、口を開かれたソルグランド様ですね。ではそちらのソルグランドは?」
ヒノカミヒメが、真上大我が中身を務めるソルグランドには『様』を付け、二番目のソルグランドは呼び捨てたのは、二番目のソルグランドには敬意を抱く理由がなかったからだろうか。
説明は二番目のソルグランド自らが行った。自己紹介もかねて、というわけだ。
「いいぜ、自己紹介をさせてくれるかな、ヒノカミヒメ先輩。ご指摘の通り、真上大我が動かしている本物のソルグランドがソッチ。そんで俺は何かっていうと、地球の人達の信仰と言霊が寄り集まって出来た、幻想のソルグランド。中身を担う誰かはいなくて、無数の人々の無意識によって形作られた、人々の思い描くソルグランドが実体化したのが、この俺というわけ」
声だけを聴いているとどちらのソルグランドにも違いはない。ただ話し方に落ち着きがあるのが、大我の方で、二番目のソルグランドは見た目通りの若い話し方をしている。
ここで夜羽音が二番目のソルグランドの説明に捕捉を入れる。
「この子が誕生したのはほんの一年前になります。数十年の短期間で大我さん並みの力を持った新たな女神が誕生するとは我々にしても想定外でしたが、同時に誕生するのも納得の偉業を果たしていますからね」
「ソルグランド様、いえ、大我様が三つの世界を救ったのは紛れもなく事実でございますからね。なるほど、実態を知らずともその偉業を知れば、人々が思いを集め、信仰を寄せるのも納得いたします。私が神々の生み出した女神であるのなら、人々の想いが生み出した女神がそちらのソルグランドというわけですか」
理解の早いヒノカミヒメに、二番目の──幻想のソルグランドは嬉しそうに笑顔を浮かべて、ペラペラと喋り始めた。大我は別に寡黙ではないが、それにしても饒舌な方だろう。
「そうそう。言葉には力があるって昔から言うけど、信仰も力があるってことだよね。正直、俺がソルグランドを名乗っていいのかって悩まないでもないんだ。みんなに知られていなくても、やっぱり本物はソッチなわけだし」
本物である大我のソルグランドは、なんとも言えない顔を浮かべる。彼にしてもまさかソルグランドのコピーともまた違う新たなソルグランドが誕生するなど、どう反応すればいいか困る。
世界の人々が想うソルグランドであるから、もちろん、人類と妖精を守ることを至上としている。人格の方は直接、ソルグランドと接したことのない人々からの信仰が大部分を占めているから、おおよそソルグランドのパブリックイメージが、そのまま反映されている。
「でも皆の思う“ソルグランド”が形になったのが俺なわけだし、“ソルグランド”って名前を変えたくはないんだ。だから、こうソルグランド二号みたいな名前で呼んでくれない?」
両手を合わせてお願いと頭を下げる幻想のソルグランドに、大我のソルグランドが苦笑した。ここまでネーミングセンスは悪くないと筈だ。
「いくらなんでも二号は駄目だろう。幻とか、影とか、そういうニュアンスの名前を付けるのも余計な邪推を招きそうだし、お前さんはみんなの想いが集まって形作られたんだから、綺麗な名前の方がいいだろう」
大我に続いて、夜羽音が嘴を開く。
「地球人類にとって魔法少女は希望であり、救いでした。罪悪感の根源でもありましたが、大我さんの仰る通り、せっかくなのですから綺麗な名前の方がよいでしょう」
本家ソルグランドとその相棒である夜羽音から存在を肯定されて、幻想のソルグランドはこれまた嬉しそうに笑う。
「ありがとうございます。そう言ってもらえると俺も嬉しいです。やっぱりというか、俺は本家の方とは違いがあるんですよね。本家はあくまで大我さんが核だから、身体はともかく自認は男でしょう? でも俺は“ソルグランドは魔法少女”だっていう認識から成り立っているもので、本家は男だって分かっていても自分を女だと認識しています」
なるほど、だから所作の一つ一つが女性的なしなやかさなのですね、とヒノカミヒメは納得した。大我のソルグランドの動作が男性そのものであったから、この二人が横に並ぶと細かな所作の違いがよく分かるのだ。
ソルグランド・ラ・ピュセル、ソルグランド純、ソルグランドキュア、幻想ソルグランド、ミラージュ・ソルグランド……と思いつく端から名前が列挙されてゆく。
本家ソルグランドと夜羽音がああだこうだと意見を口にし始める中、ヒノカミヒメも学問や知恵の神々の精髄を寄せられた頭脳で考え、案を出した。幻想のソルグランドは、自身を確立する最後の欠片が埋められる瞬間を期待して、ウキウキとしている。
「私からもよろしいですか? 人々の純粋な信仰と想いから生まれたのであるなら、ソルグランドピュアでいかがでしょうか?」
「ふむふむ、ソルグランドピュアか。名づけの理由もいいと思うぞ。俺は一票入れておこう。夜羽音さんはどう思われますか」
大我は将来、ソルピュアって省略されそうだなと日本人的な感想を抱いていたが、ソルグランドピュアの名前に不満はない。なにより幻想のソルグランド自身に不満がないのが、最も大きな決め手だ。
「ある意味で純粋なソルグランドと言える存在なのは確かです。本人も納得している様子ですし、ソルグランドピュアを正式採用としてよいかと」
これでヒノカミヒメ、ソルグランド、夜羽音の三名が賛成票を投じたことになる。新しい名づけを受けたソルグランドピュア──ソルピュアは、にこにこと笑顔を浮かべてうんうんと頷いている。
「ふふふ、ふふ、これで俺はソルグランドピュアとして認められたわけですね。これからは堂々と名乗れて嬉しいです。これまではソルグランドだけどソルグランドじゃないって、手間のかかる説明をしないといけなかったし、負い目もあったから」
「これからは堂々と名乗っておきなよ。ソルグランドが二人いる事情については、説明も大変だけど、ここは地球から遠く離れた場所だし、気にする人は少ない。それにこっちで戦っているエゼキドの迷惑な遺産は強敵なんだろう、ヒノカミヒメ」
「ラグナラクに相当する機械兵器が複数存在しておりますし、単純に数も多く、伊達に星間国家の連合軍を相手に一世紀以上に渡って戦い続けているわけではございません。私どもERFという異分子によって、ようやく優勢に持ち込めました。ソルグランド様とピュアが加われば、戦況は一気に傾くでしょう」
ここまで喋ってから、ヒノカミヒメは自分の湯呑みに口を付けた。お茶は少し冷めていたが、飲みやすい温度だった。ソルグランドは先ほど片づけた教導艦隊の戦力を思い出しながら、分析を口にした。
「アンテンラより実戦向けのコンセプトなんだろうな。魔物みたいな新兵器を作るリソースを、既存の技術を伸ばす方向で戦力を増強している感じだな。エゼキド星が居る気配はないんだったか?」
「少なくともシンラテンの方々はこれまでエゼキド星人の姿を目にした事はないそうですし、アンテンラと同じ事例かと。フォビドゥンやボイドリアに対して、なんの反応もありません」
「やれやれ、またアンテンラの時みたいなしんどい戦いか。でもま、ヒノカミヒメにばっかり任せる方が心苦しいからな。これからは俺も夜羽音さんもソルグランドピュアも一緒だ。苦労は分かち合っていこうや」
ソルグランドからそう笑いかけられて、ヒノカミヒメは鼻の奥がツンとするのを堪えなければならなかった。久しぶりの再会にずっと泣いてしまうのを堪えていたのに、相変わらず不意を突くのが上手い。
「ふふ、では、喜びもまた分かち合いましょう。ソルグランド様達と一緒なら、エゼキドの艦隊など塵芥も一緒でございますから!」
ヒノカミヒメの言う通り、ソルグランドとソルグランドピュアの加わったERFの戦力は倍増と言っても過言ではなく、エゼキド教導艦隊は見る間に壊滅の憂き目に遭うのは、遠い未来の話ではなかった。
天の川銀河に遍く広まるソルグランド信仰、その始まりの一幕であった。