魔法祖父ソルグランド ~TS転生した祖父は魔法少女の孫娘を見守る~   作:永島ひろあき

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ソルグランドか真上大我か

 ソルグランドが実らせた神饌を食べ、一息ついた魔物少女達はそのまま解放されて、ヒノカミヒメに半ば誘拐同然に拉致された精神が本来の肉体へと帰還していった。

 精神体とはいえ、彼女達の食した神饌は彼女達に更なる変化を促すかもしれない。

 ヒノカミヒメに悪意があってした事ではないのだが、巻き込まれた魔物少女達に対して、ソルグランドと夜羽音はそれなりに同情していた。

 

 元々、ソルグランドが真神身神社の神域に足を運んだのは、初めて苦殺那祇剣を実戦使用して消耗した神通力を迅速に回復させる為だ。

 境内に改めてキャンプ用品を広げてリラックスできる環境を作り、組み立て椅子に深々と腰かけて、インスタントだがお気に入りのコーヒーを淹れたマグカップを傾ける。

 

 ヒノカミヒメはソルグランドの傍らに設置したチェアに腰かけて、二杯目の緑茶と羊羹、醤油味にネギ味噌、唐辛子、ザラメと色んなせんべいをお上品に食べていた。

 上品だが次々と茶菓子を空にしてゆく食べっぷりからすると、尊敬するソルグランドに対して、魔物少女を相手に口喧嘩からの殴り合いを行い、取り繕うとしたのは遠い過去のことになったらしい。

 

「“ソルグランド”に対する信頼が寄せられたお陰で、ここも広くなりましたねえ。俺の回復も思っていたよりも速く済むといいですな」

 

 砂糖やミルクは入れず、ブラックでコーヒーを啜るソルグランドに、止まり木の上でクルミを啄ばんでいた夜羽音が応じる。

 こと神の理、知識についてならこの八咫烏の末席に連なる先輩が、もっとも詳しく頼りになる。

 

「貴方の中の知の神々の権能で、正確な期日を推測できているでしょうに。ですが、日に日に増してゆく貴方への友愛や信頼の情により、回復速度が増しているのは事実です。

 世界中の人々や妖精もそうですが、最近では特にカジンさんから向けられる情が格別ですね。あの方々からの情は、既にかの星の神々が失われた反動もあるかもしれません」

 

「カジンからの感謝ですか。口幅ったいようですが、俺が自分達の仇を討つ大きな役割を果たしたわけですから、そりゃまあ、感謝くらいはするでしょうが……」

 

「あの方は惑星ナザンの生き残った方々の意識の集合体。一人の個人のように接してこそいますが、その実態は無数の人々の重なりです。あの方からの感謝は、一人からのモノのように思えても、実際は桁違いの人数分なのですよ」

 

「はは、あの人達自身の仇討ちの手助けが出来ましたからね。魔物との戦いが終わった後も、仲良くやっていけるように頑張らないといけませんな。

 俺はともかく俺の子供や孫の世代は特に頑張ってもらわにゃ。異世界の侵略者をぶちのめしたら、今度は良き隣人である妖精さん達と同じように異星人とも仲良くならないとね」

 

 魔物の脅威があまりに大き過ぎた為に、人類は魔物の出現以降、国家間の戦争や国内での大規模な内紛や紛争といったものは発生していない。

 魔物の存在が無くなったなら、これまで抑制されていた人間同士の争いが勃発する可能性は十分にある。

 なんだったらこれまで肩を組んで支え合ってきたフェアリヘイムを相手に、悪意と欲望を向ける可能性も。

 

 そんな悪しき未来への可能性を摘み取って、惑星ナザンとカジンと新たな友情を紡ぐ未来こそが理想だ。

 ソルグランドでなくなったら、もうこの世からおさらばする真上大我としては、孫娘の燦を始めとした世代が道を誤らないのを祈るばかりである。

 夜羽音はすっかり覚悟を固めきっているソルグランドに、いや、大我に何も言葉が出ない様子だったが、ヒノカミヒメは彼の言葉をどう解釈したものか、こう提案してきた。

 

「でしたらソルグランド様がそのまま新たな神の一柱として加わればよろしいのでは? 私の身体を一時的にお任せしているだけの立場から、魔物共との戦いの功績と人々からの信頼と崇敬の念を以て、神と認めればよいのです。

 年経た器物、伝承を持つ道具、偉業を成した人間を神として認め、敬ってきたのがこの国の人々であり、歴史なのですからソルグランド様は充分にその条件を満たしておいでのはず」

 

「はははは、俺が神様か! いや、ヒノカミヒメが冗談で言っているんじゃないのは分かっているよ。でも、生まれてこの方、ずっと人間でやってきたんだ。他の何かになるってのは実感が湧かないな。魔法少女はやっているけどな。

 それに俺が神様ってガラかい? 違うだろう。魔物と戦えているのだって、日本の戦いの神様方のお力添えがあるからで、俺自身はただのじじいさ。俺に向けられている賞賛とか信頼だって、本来はヒノカミヒメが受け取るべきものだよ」

 

「む~、ソルグランド様は謙虚が過ぎます。神と崇め奉られてもよろしいのに。それに人間としての天寿を迎えられた後も、一緒にいられますし、人々が誤った道に進もうとした時に姿を現しになって、諫めれば御懸念を自らの手で摘み取れましょう」

 

「ヒノカミヒメが一緒に居たいのはソルグランドで、真上大我じゃないだろう? 俺は『ソルグランド』を演じるのは嫌いじゃないが、俺自身はやっぱり真上大我なのさ。良かれと思って俺に内緒で話を勧めたりしないでくれよ?」

 

「むむむぅ」

 

 とヒノカミヒメは不満を募らせている様子だが、黙って話を聞いていた夜羽音はまだ生まれて間もなく、人や他の神と接した経験も少ないヒノカミヒメの純粋さと短慮に危ういものを強く感じていた。

 もしかしたら夜羽音にも大我にも黙って、死後、ソルグランドとして自分の神域に囲いかねない。そんな未来だってあり得そうで、夜羽音は胸の中でだけ溜息を吐いた。

 ソルグランドを新たな神として迎え入れたい気持ちは彼自身にもあり、ヒノカミヒメに共感しないでもないのだが、やはり大我の意思を無視するわけにはゆかず、夜羽音自身はソルグランド以上に大我への信頼と好意が強いという違いがあった。

 

「ヒノカミヒメ、あまり大我さんを困らせるものではありませんよ。まだ魔物との戦いは終わっていませんし、この度、大我さんは消耗した神通力を回復させる為にこちらの神域に戻られたのです。心を穏やかに過ごしていただかねばなりません」

 

「はい、夜羽音様。ソルグランド様、いいえ、大我様、申し訳ございません」

 

 分かりやすく肩を落として落ち込むヒノカミヒメに、ソルグランドは笑って慰めの言葉をかけた。見た目は今の自分と同じ十代後半だが、生誕から一年も経っていないヒノカミヒメに対してソルグランドはとても甘い。

 

「ま、今回は大目に見るさ。頼むから断りもなく勝手に話を進めないでくれよ? こうして夜羽音さんやヒノカミヒメと出会って、あの世が本当にあるってのも分かったし、死後どうなるのか、興味がないって言ったら嘘になる。楽しみはとっておかなくっちゃな」

 

 夜羽音はソルグランドの言葉にかすかな嘘の響きを聞き取っていた。定命の者が死を恐れずにいられる者か。

 ましてや大我は一度、死を体験している。本来、一度だけで済むはずだった死の恐怖を、二度も感じているのだ。

 

(私達は罪深いことをしてしまった)

 

 夜羽音が例えようもない悔恨を味わっているとは知らず、幼く無垢なヒノカミヒメはせっかくの名案が断られてしまったと、残念がっていた。

 ある意味ではこの場において、ヒノカミヒメこそがもっとも幸福であったかもしれない。

 いずれヒノカミヒメも無垢な子供のままではいられなくなる時が来るとしても、だからこそまだそれが許される時間の価値を彼女自身が分かっていなかった。

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