推しのサイリウムは【紅玉色】   作:シンオオサカ

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テンドーの呪い(天童寺あり×のミスリード)

 

 

 

「作戦会議を始めます!」

 

 

 

見目麗しい少女……のような生物。

艶やか長い黒髪と、星のような眩い瞳を持つ少女……を模った生命体。

その魅惑的な、そして蠱惑的な笑顔で言い放った一言。

それが先述の言葉であった。

 

ここは、とあるマンションの一室。

その存在の背後には、およそ子育てをする環境には似つかわしくないホワイトボードなるものがあり。

そして目の前には赤ん坊が二人座らされていた。

実にシュールな光景である。

 

「「(……あれ?ものすごい既視感があるんだけど……??)」」

 

それともそのはず。

つい先日、双子の赤ん坊はこれと同じ光景を見たことがあった。

もっと言えば、その当事者であった。

 

ほぼ変わらない光景。

だが少なからず違いはあった。

 

一つ。部屋が異なっている。

先日は星野家であったが、本日は天童寺家である。

 

二つ。目の前の人物が異なる。

先日は双子の母親が居たが、本日は同じ容姿をしているが……母モドキである。

 

三つ。双子の背後には二人の人物がいる。

先日はいなかった、斎藤社長夫妻がそこには存在していた。

 

「……て、天童寺さん?これは一体何の作戦会議なんですか……?」

 

金髪にダークスーツを纏った男、斎藤壱護社長は口火を切った。

赤子が流暢に問い掛ける訳にはいかない。

だから双子は黙って見ているしか出来なかった。

そんな中での社長の質問。

「よく言った!」と心中でエールを送りながら、次の言葉を待った。

 

「ズバリ、アイさんの今後の戦略会議です!」

 

ホワイトボードに会議内容を記載し、そしてその文字に対して指差し棒でタップしていく。

家庭教師か塾の講師か。そうとしか言えない雰囲気がそこにはあった。

もしこれで、逆三角形のメガネを掛けて白衣を着ていたら完璧であっただろう。

 

「は……?」

 

――今、何って言った?

 

その場にいる全員マイナス1名の心が一つとなった。

社長とその事務所の一員であるミヤコは良い。

その二人ならば、そういった会議をするのは当然だ。

 

しかしなぜ部外者のテンドーが?

それもアイが居ないこの時に?

 

「実は、既に幾つか仕込みを済ませてあります」

「……え?仕込み、ですか……?」

 

突然告げられる言葉。

テンドーは別段、芸能プロダクションのメンバーではない。

素晴らしい楽曲を提供出来る訳でもない。

業界筋にコネクションがあるとも思えない。

 

では、この美少女モドキの言う仕込みとは……?

 

「よいしょっ……と!」

 

ホワイトボードの面をひっくり返し、予め文字を書いておいた裏面を表に持ってくる。

ボードの回転が止まり、記載された文字が見えた。

 

・① いちごプロへの金銭援助(●●億円)

・② テンドーの動画チャンネルへの出演、コラボ企画

・③ テンドー原作のアニメへの参加

・④ ③のアニメの監督が演出している、映画への出演

・⑤ 札束で引っぱたいて作らせた、超大物作曲家の曲の提供

 

「「(……突っ込みどころしかない!?)」」

 

双子はそれらの文字を認識した瞬間、頭が痛くなるのを感じた。

特に⑤。テンドーのビジュアルでそれをやったら、人によってはただのご褒美である。

後で分かったことだが、超大物作曲家の正体はテンドーのファンであった。

つまり本当にご褒美でした。ありがとうございます。

 

「天童寺さん……」

 

衝撃から立ち直り、ヨロヨロとテンドーに近づく斎藤社長。

今まで自分たちがやってきた路線と異なるからか。それとも呆れから来るものなのか。

テンドーの前に立つと、社長はその両手を前に突き出し……そして天童寺の両手を握った。

 

「ありがとうございます!神様、仏様、天童寺様――!!」

 

――あ、屈した。

 

世の中所詮はカネなのである。

お金が無くても創意工夫で出来ることも無論ある。

だがお金があれば、それらのステップを飛ばすことすらも可能なのである。

その有難みを嫌と言う程知っている(身に染みている)斎藤社長は、すぐさまその提案を受け入れたのであった。

 

「これなら最短ルートで駆け上がれる!ドームでのライブ開催だって、夢じゃないぞ……!!」

 

ドーム。

東京は水道橋駅付近にある、日本で有数のドーム型施設のことである。

そこに立つのは、アーティスト界と野球界では皆の夢と言っても過言ではない。

 

ほんの一握りの人間にしか出来ない偉業。

それを達成する。

達成する為に人は夢を見て、その夢に向かって走り続けるのだ。

 

「はい。それが(×××)の望みですから」

 

いつもほんわかとしていているテンドー。

だが今目の前の人物からは、力強さが感じられた。

別に誰かのマネをしているようには見えない。

 

ガワはアイの形を模倣しているが、その言葉はアイのものではなかった。

そこには確かに自分の意志があった。

だから分からない。それはただの推し活の延長なのか。

それとも――?

 

「(何かお兄ちゃん……ちょっと変?)」

 

妹は――嘗ての妹はその兄を見て、いつもの兄とイメージが異なるのを感じた。

ルビーに生まれ変わった後には見た覚えがない。

そんな(美少女モドキ)の顔。

 

「はいはい。それはで早速、テンドーチャンネルでの企画から考えましょうか?具体的には……また入れ替わりもので、社長の胃にダメージとトラウマを刻む方向で良いですかね?」

「えぇぇぇぇ――――!?ちょっと、勘弁してくださいよぉぉぉっ!!?」

 

シリアスパートから抜けた社長は、まるでダメなオッサン臭が酷かった。

そしてそんな斎藤社長をからかうテンドーの様子からは、先程の力強さは感じられない。

 

――気のせい、だよね?

 

見間違いだ。

ルビーは先程のテンドーの態度についてそう解釈し、再度赤ん坊の仮面を被ることにした。

 

 

 

 

 

 

 

*

 

 

 

アイの復帰戦が終わり、今日はライブイベントの日である。

とはいえ、そのハコのサイズは地下アイドルにふさわしいサイズ感であった。

幾らテンドーがいちごプロに援助を始めたとて、普段の活動が急激に変わる訳ではない。

 

地道な活動を続けていくことによってその道は開け、それを補助するのがテンドーのサポートなのだ。

故に自力を付ける作業こそが重要であり、如何にサポートが厚くても、本人がへっぽこでは意味がないのである。

だからこういう活動を疎かにするのは大変よろしくない。

 

ましてや、今はファンと距離が近いことが売りの時期でもある。

そうなれば当然、小さいハコでのイベントを外すことはできないのであった。

 

小さいハコ。

そう小さいライブ会場では、ちょっとしたことでも目立つのである。

それはホスト(アイドル)側でもそうであるし、ゲスト(ファン)側にも同じことが言える。

その場での失敗はあっという間に広がり、対称的に感動はじわじわと広がっていく。

 

だからアイ――B小町のステージパフォーマンスを見に来た観客が。

ましてやステージに立つ演者たちが驚嘆し、魅了されるパフォーマンスが。

それが客席側から飛び出してくるとは誰も夢にも思わなかった。

 

――バブ!バブ!バブ!バブ!

 

こんなん想像できる人は頭がおかしいに違いない。

今客席の最後端で行われているのは、金髪の赤ん坊たちによるオタ芸であった。

一糸乱れぬその様は、明らかに赤ん坊が到達して良いレベルではない。

 

仮に親が熱狂的なアイドルファンで、その英才教育をしたとしよう。

それでもこのキレや練度には到達できないであろう。

年月を掛けて蓄積された圧倒的な土台。

その上にこのオタ芸は構築されていた。

 

――え、なに!?あの子たち、すごくない!!?

 

その様子はステージ上のアイドルたちにも伝わり、そしてその魅力とキレにアイドルたちもが魅了されていた。

 

――うちの子たち、きゃわ~~!!

 

当然壇上の母親にもそれは伝わり、そして我が子の凄さ・可愛さに感激し、そこから自然な愛らしい表情が浮き彫りになっていた。

 

――あの赤ん坊たちは何者なんだ!?親は一体……?

 

驚きと興味。

双子の親以外は、その赤ん坊を連れてきた存在に興味が沸いた。

故に自動的に目で追ってしまう双子のパフォーマンスから、無理やりその横にいるであろう親に視線を移す。

 

――ナニカがいる。すっごく何処かで見たことがある物体が居る。

 

そこに存在していたのは、ステージ上に存在するはずの"アイ"だった。

いや流石にステージ衣装は着ておらず私服であったが、その容姿を間違えるハズがなかった。

……ただし、全力でオタ芸をしているのが唯一の違いであったが。

 

――アイドルが自分に向けてオタ芸をしてるぅぅぅぅぅ!?

 

もはやカオスだ。

こんなん、頭の中の常識が音を立てて崩れる他ないだろう。

ステージを見れば、演者の方が(ファン)よりも混乱しているように見えた。

 

――ざわ…、ざわ…

 

観客席から広がる動揺。

しかしアイのファンならば、同じアイドルを推すファンであれば、そのカオスの正体に行き着くのに時間は掛からなかった。

 

――アレは、もしや同志テンドーでは!?

 

ファンの誰かが言った。

そして波及的に広がる同意。

 

――そうか!アレはテンドー師か!

 

テンドー"氏"ではなく、テンドー"師"。

その言葉だけで、ファンの中ので奴の立場が窺い知れるというもの。

ファンクラブ名誉会長とか言われても、全く不自然ではなかった。

 

――テンドー師なら仕方ない!

――つまりあの赤ん坊たちのパフォーマンスは、テンドー師仕込みか……アリだな。

 

おかしい。

普通なら、推しのアイドルのライブ進行に支障が出るような事態だ。

その諸悪の根源について、もっと嫌悪感があってもおかしくない。

非常識人であるが、アイ(推し)の普及・販促に命を懸ける男?だからか。

推しとはベクトルが異なるが、そこには狂信的な安心感という極めて矛盾した言葉が横たわっていた。

 

――あれ、待てよ?

――じゃ、じゃあ。あの横にいる赤ん坊たちは……?

――ま、まさか……!?

 

広がる動揺。

一旦収まったはずのそれは、先程とは形を変えて再度広がりを見せていた。

 

――テンドー師の、子どもぉぉぉぉぉぉ!?

 

カオスだ。

阿鼻叫喚だ。

この世の地獄だ。

 

――いや待て、まだ弟妹という線も……!!

――それはない。テンドー師の弟妹は、後にも先にも"エターナルシスター"ただ一人のはず!!

――では本当に……テンドーチルドレンだと言うのか!?

 

ファンたちの行儀は行き届ていた。

だから推しのステージの邪魔をするような大声を出したり、リアクションをする者は居なかった。

ただその胸中は明らかに困惑していたが。

 

――確かに二人とも美形だし、何よりも面影がある!

――テンドー師が産んだのかっ!!?

――子どもの髪色から判断するに、相手は金髪のイケメンか!!?

 

双子とテンドーを見比べて、想像豊かに妄想は加速する。

そしてそれに待ったを掛けるが如く、真逆の意見も飛び出てきたのであった。

 

――いや、待て待て!いくらテンドー師がアイそっくりであっても、一応オスのはずだ!

――じゃあ金髪美女に産んでもらった、とでも言うのか!?

 

もはや爆発待ったなし。

流石にこれ以上は場を乱しすぎる。

そんな絶妙なタイミングでテンドーは、一瞬で赤ん坊を回収してその場から撤収した。

 

――な、何だったんだ……?

――自分たちは、夢を見ていたのか……?

 

まるで幻術から覚めたかのように。

後に残されたのはステージから流れる音楽と、誰もいなくなった座席だけがポツンと残されていた。

 

 

 

 

 

 

 

*

 

 

――これで良い。

 

美少女モドキの計略は成った。

 

――これからアイがアイドル活動をしていく上で、双子の存在は隠し通さなければならない。

 

だけどそれには限度がある。

この皆が手軽に写真や動画を撮れて、それを世間に送り出せる時代だ。

どんなに気を配り、そして厳重に管理しても、その秘密が漏れないとは言えないのである。

 

だから撒き餌を用意した。

双子とアイを結ぶ線に、一つ仕掛けを施したのである。

テンドーという、ターゲットから視線を逸らさせる為の目晦ましを。

それこそが美少女モドキの狙いであった。

 

これで万が一アイと双子を結び付けようとする者が出たとしても、その間にはテンドーが立ち塞がることになる。

つまりアイにはたどり着けない。

ダミーコードを用意した時限爆弾と同じ扱いとなるのだ。

 

人は見たものを信じる生き物だ。

そして周囲の環境に、周囲の人間に同調して生きるモノ。

決定的とは言えない。だが罠を仕掛けておくに越したことはない。

 

――推しの為に、出来ることは全てやっておかなければ。

 

そこにはステージ上のアイ(コピー元)とは異なった、漆黒の星を宿した双眼がはめ込まれていた。

 

 

 

 

 

 

 

*

 

 

 

「パンマ」

 

その物体Xをどう呼んだら良いか悩んだ末の結論。

パパではなく、ママでもない。

かと言って、お兄ちゃん・お姉ちゃん・オネエちゃんは違う。

 

暫定処置として双子はその物体Xに呼び掛ける時に、苦渋の決断の末にそう呼ぶことにした。

これなら誰かに聞かれてもパパ・ママのどちらにも聞こえるし、誤魔化すことが出来そうであったから。

 

ただし、その発動には制約が課せられていた。

それは生贄が必要であるということ。

その呼称を使う度に、それを口にした者にはダメージが課されるという制約が。

 

しかし乗るしかない、この(ビッグウェーブ)に。

テンドーが意図して引き起こしたのかは知らないが、アイと自分たちの身バレを防ぐには格好のスケープゴードだから。

だから仕方ない。仕方ないから……呼んでやろうではないか、その呼称を。

 

何、高々子供時代だけの辛抱だ。

大人になれば、そんな心配はどうにかできる技量を身に付けられるはず。

アイも今以上のスーパーアイドルかマルチタレント等になれば、最悪身バレしても逆風を吹かせることも可能ではなくなるはずだ。

 

だけどそれは今じゃない。

まだその段階に行くには時間が必要であった。

だからこれは必要な犠牲。

 

何かを得るには、何かを犠牲にしなければならない。

その代表格なのだから。

双子は自分たちの乗るバギーを押す存在(オス)について、そう結論付けた。

 

 

 

 

 

 

 

【余談】

 

双子をテンドーの子どもとミスリードさせた時、天下のアイドル様が思っていた一言。

 

――テンドーせんせに、うちの子たちが盗られた――――!!?

 

双子のオタ芸を見ていた時の愛らしい表情から一変して、その瞳は凄味があった。

口角を上げたままで笑顔にしか見えないが、目が全く笑っていない。

さらにその背後には、紅蓮の炎があるかのように幻視できた。

 

――あぁ。これも知らない。この感情も知らなかったヤツだ。

 

何だろう、これは?

そんな疑問が心中から湧いてきた。

分からない。分からない。分からないけれど……

この感情は、ヤツに一矢報いたら解消しそうな気がした。

 

――とりあえず今日は帰ったら、この前考えたバブバブ作戦を……いや、逆にこっちから甘える作戦でいってみようかな?

 

彼女は今日もまた、知らない感情に振り回される。

そして軌道修正した彼女の策は、意外なところでダメージを与えることとなる。

 

膝枕をされて、耳掃除をされる彼女。

そう、そのダメージは自分に返ってきたのであった。

 

――これも知らない!知らないって――!何でこんなにくすぐったいのぉぉ――!!?

 

テンドーの膝上で悶える彼女を見たお子様たちは、口から白い粉を吐いていましたとさ。

 

 

 

 

 




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とても励みになります!

今回、自分で書いていてブラックコーヒーが欲しくなりました(飲めないけど)。
これがてぇてぇ?それとも愉悦?
――こんなの知らない!誰か教えて――――!?

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