推しのサイリウムは【紅玉色】   作:シンオオサカ

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役者たち(アクター&アクトレス)

 

 

 

――ッ

 

気が付いたのは必然だった。

それはこの撮影の責任者として――五反田泰志として、ごく自然のこと。

撮影後半になって、前半の注目株である"板上の監督"とも言える存在を確認した時であった。

 

パッと見の違いは見当たらない。

恐らく双子か何かなのだろう。

良く似ている。そして良くお互いのことを理解している。

 

理解し合っているからこそ、互いの真似が出来る。

否。相手に成り切ることが出来るのだろう。

 

――なるほど。大したもんだ。

 

普通なら気が付かないだろう。

だが分かる者には分かってしまう。

なぜならば、先程まで撮影に臨んでいた者よりも、"良い演技が出来ているから"。

 

撮影の中で花開くことはある。

それ自体は、数は少ないがあり得なくなはい。

それが出来るのが表現者なのだから。

 

だが違う。

あれはそれとは異なるモノ。

モノ自体が――器そのものが異なっているのだから。

 

先程までの演技に加え、さらに自分も出す。

その演技自体、先程のモノの成長ツリーとは異なった路線のものだ。

まるで下位のモノを上位互換によって補い、さらに価値を付加したかのよう。

 

――コイツは本質的に"主役タイプ"だな。だがさっきまでのヤツの演技を取り込んで、上手いこと処理していやがる。

 

結果的に撮影前半よりも良い仕上がりだと言えるだろう。

監督としても文句はない。

あの二人に引っ掻き回されたことを除けば、だが。

 

――今日は面白いことが続く日だな。

 

注目株が二人。

二人で一人のアイドルなんて代物だったら、それ以上に面白いことになるかもしれない。

後で本人たちに確認する必要があるが。

アレらは面白い素材になるだろう。

 

――流石にこれ以上の出物はない、よな……?

 

そんなものがあったら、心臓が飛び出てしまうかもしれない。

流石にそれは困ってしまう。精神衛生上、そんなものはないに限る。

そう思って撮影を引いた視点で確認しようと移動した時であった。

 

「(……ん?あれは確か――)」

 

休憩時間中に紹介された、注目株のいる事務所のマネージャー……の子ども。

二人いた内の一人であったハズだ。

 

「おい。見学するのは構わないが、邪魔だけはするなよ?」

 

大人げないと言うことなかれ。

ここは撮影現場であり、皆の仕事場なのだ。

故に釘は差しておく。相手がそれを理解出来る年齢かは不明だが。

 

「はい!委細承知しております!撮影の邪魔にならないよう最大限注意致しますので、何卒ご容赦の程を……!!」

「はぁぁぁ!?偉い流暢に、ビジネスマンしてるガキだな!!?」

 

――何だ、こいつは。まるで子どもの身体に、ビジネスマンが宿っているかのような仕上がりじゃねーか!?

 

驚愕。

そして強烈な違和感を感じざるを得ない。

現実として矛盾した存在が、眼下には存在している。

気味が悪いガキだな。だがこいつを使えば、面白い画が撮れるような気がする。

 

「おい、お前……子役か?」

 

その問い掛けに対し、少年から返ってきたのは否定の言葉。

子役でもないのに、ここまで仕上がった子どもがいる。

それはある種のブレークスルーなのかもしれない。

 

本人曰くY●utubeで覚えたと言っていたが、基礎がないのに高層ビルが立つというのか。

それとも親が教育熱心で、そこで培われた基礎の上にビルを築いたのか。

どちらにせよ、これまでの人間の常識からはみ出た存在であることは間違いないだろう。

 

「面白い。どっかで使ってみたいな……」

「い、いえ!自分などよりも当事務所の"アイ"を使って頂きたく……!」

 

不気味な程、大人びた立ち居振る舞いだ。

それもビジネスマンというか、社畜の匂いすら感じる。

余程前世で酷使され続けた社会人だったのか。

次の生でも魂レベルで刷り込まれているとは、凄いを通り越していっそ哀れですらある。

 

「ふーん?アイっていうのは、もしかしてアイツか?」

 

親指でクイっと撮影現場の中心を指す。

そこには主役と、それを盛り立てる少女――アイの存在があった。

それを少年は、ブンブンという音が聞こえそうな位の勢いで首を縦に振っている。

 

――"いちごプロ"っていうのは、皆が皆尖ってるのかねぇ……?

 

実に面白い。

アイを使うのは大いに結構。

今回のように場を盛り上げ、主役を更に輝かせることが出来るのであれば、

"どちらのアイ"であっても、使うのは問題ないと言えるだろう。

 

「まぁ、良いぜ。丁度映画の撮影もあるし、アイを使うのも吝かじゃない」

「本当に!?」

 

――ただし。

 

そう前置きを入れて、次の言葉を紡いていく。

口角を上げて、さも悪役のような笑みを貼り付かせた表情で。

 

「お前が出るのが条件だ」

「――えっ?」

 

想定外。

少年の表情には、まさにその感情が縫い付けられていた。

 

「な、何で自分が……」

「今のところ、アイは居なくても成立するんだわ。だけどお前さんにやってもらいたい箇所は、現状ちょっと力不足な感じでな?」

 

既にキャスティングは済んでいる。

そしてそのキャストならば、100点満点の答えを叩き出してくることは間違いない。

しかし――。

 

「(さっきのを見ちまったせいかな?100点以上を見たくなっちまうのは……?)」

 

最初から居た方のアイを見たせいか。

想定外の良さ、というのを表現したくなってしまった。

想定外と想定外をぶつけた末に生まれる、想定を超えた面白さ。

これを表現したくない奴は、表現者にはいないだろう。

 

「だからお前さんの方が、俺にとっては優先度は高いんだ。だがお前が出るのなら、交換条件としてアイを使ってやる」

 

――バーターって言うんだよ、こういうのは。

 

そう説明するも、心中は裏腹なことを考えていた。

最初からアイを使うと言ってしまえば、この早熟な子どもは出演しないと言い出すであろう。

だから逆アプローチ。先に早熟を釣ってやり、どちらも手に入れる。

これならば自分は優位に立ちつつ、一挙両得の一手となるのであった。

 

「ま、良く考えて返事するこった。撮影の後にでも時間を作るから、後の話はそこでしようぜ?」

 

自分の名刺を渡し、踵を返す。

あまり長居は出来ない。

そう演出して、相手に考える時間を与えないようにする為に。

 

「あぁ、それとな……?」

 

トドメとばかりに、最後の置き土産を設置する。

これで積みだ、と言わんばかりに。

 

――最初に居た方のアイも、ちゃぁぁんと連れて来いよ?

 

敷設されたトラップ。

蛇に睨まれた蛙の如く、凍り付いて固まる早熟な坊や。

如何に敬語を流暢に使いこなせていても、中身はそれに比例している訳ではない。

悪いが人生経験と、表現者としての経験の差だ。

そう胸中に秘めつつ、五反田泰志はその場を後にした。

 

だが彼は知らなかった。

その豊かな経験を以ってしても測れない存在が、この世の中には存在していることを。

 

 

 

 

 

*

 

 

 

彼の眼は確かであった。

アイとその類似存在の差に気が付き、それぞれの才能を読み取ったのは見事としか言えないだろう。

しかし忘れてはならない。

アイと美少女モドキの、どれだけ相似であっても覆すことが出来ない、決定的な差が存在することを。

 

「――――はぁっ!?嘘だろ、オイ!?」

「えぇ、誠に残念ながら。私テンドーを使いたいのでしたら、1千万円はご用意頂かないと……」

 

売れっ子マンガ家を拘束するのだから、それぐらいは当然だろう?

さも当然と言わんばかりのニュアンスを含んだ返し。

五反田泰志に差し出されたテンドーの名刺と、それに合わせて行われたダブルパンチ。

えぐい。この売れっ子、やることが大人げなさすぎる。

 

「ハッ!じゃあ、今回の撮影の違約金を払ってもらおうか?契約ではアイが一人で出るハズだったしな……?」

 

転んでもただは起きぬ。

この条件ならば、相手は引き下がらざるを得ないだろう。

そう見込んでの返す刀であった。

 

「え、それだけで良いんですか?良いですよぉー!」

 

――イチ。

――ニ。

――サン。

――ヨン。

 

「オイ。なんだその、いやな感じがするカウントアップは……?」

 

――ゴ。

――ロク。

――ナナ。

――ハチ。

 

「えっ?違約金の桁数のカウントですよ?どうします、まだアップしましょうか?」

「おまっ!?なんつー、トンデモないことするんだよ!!?」

「いやー、お褒め頂き恐悦至極」

「褒めてねーから!?」

 

この美少女モドキ。

敵に回すと恐ろしすぎる。

権力と金を持ったヤツ程恐ろしいものはない。

ただしこの場合は鬼に金棒ではなく、ナントカに刃物の方に準じるが。

 

「大人しく、あの二人の起用で手を打っておきましょうよ?」

「……分かったよ!」

「理解が早くて大変結構。それにですね……?」

「何だ。まだ何かあるって言うのか……?」

 

もう勘弁してくれ。

そんな言葉を隠そうともしない監督。

しかし運命は、彼を更に過酷な道へ誘うのであった。

 

「僕は……オトコですよ?」

 

雷鳴が轟く。

それは実際にあった光景か。それとも監督の心象風景の具現化だったのか。

どちらにせよ、彼の胸中には嵐が吹き荒れていた。

 

「うそ、だよな……?頼むから嘘だと言ってくれぇぇぇぇ!?」

「ウン、ウソダヨー」

「滅茶苦茶、棒読みじゃねーかー!?」

 

ぐあぁぁぁっ!と叫びなら頭を搔きむしる、後に"こどオジ監督"と揶揄される男。

それに対して、余裕の表情で相手をあしらう美少女モドキ。

同じ表現者でありながら、異なる道を往く二人の男性(一人には疑問符が付くが)。

この邂逅は、後の腐れ縁の始まりでもあった。

であるのであったが……。

 

「ウソだろ、おい!?俺が女装を見抜けないだとぉぉぉぉ!?」

 

自分の目は節穴である。

そう認定された気持ちになる。

今までの豊かな経験は何だったのか。

そこには、それを一瞬にして打ち砕かれた可哀そうな大人が一人存在していた。

 

「まぁ、その――ドンマイ?」

「やかましいわ!!」

 

また一人、テンドーの犠牲者が誕生した瞬間であった。

 

 

 

 

 

 

【幕間での出来事】

 

 

 

時系列はアイと美少女モドキが入れ替わった時まで遡る。

撮影の前半が完了し、昼休みを兼ねた休憩に突入した頃。

アイに扮するテンドーは、遠くから手招きしている存在たちに気が付いた。

 

――こっち、こっち!

 

明らかに呼ばれている。

どうやら今は入れ替わるのに最適なタイミングらしい。

素人の自分には良く分からないが、きっとそうなのだろう。

だからその指示に従って、撮影現場を後にした。

 

「いやぁ、どうなるかと思いましたよぉ?無事に来れたようで良かったです!」

「天童寺さん、本当にありがとうございました!撮影も何とか進めて貰えたようですし……」

 

マンガと芸能のプロダクション同士の会話。

テンドーからミヤコへの業務引継ぎは、滞りなく完了した。

 

「じゃあ、後はアイさんに入れ替わるだけですよね?」

「はい。あ、でも一つ……やらないといけないことがありましたね?」

「……?何でしょうか?」

 

当然のように沸く疑問符。

美少女モドキからすれば当然の反応であった。

慣れない影武者モドキを完遂し、ヘトヘトになっているところだ。

思考力が落ちていても仕方がない。

だから見落とした。こんなにも初歩的で単純なことを。

冷静な状態であれば簡単に気が付いた、やらなければならなかったことについてを。

 

「じゃあ、テンドーせんせ?行きましょうねー?」

「えっ?行くって何処へ……?」

 

推しからの言葉が理解出来ない。

心身ともに疲弊している美少女モドキは、その回答を導き出すことが出来なかった。

だけど感じる。これだけは分かった。あまり良くない類の感覚であることだけは。

 

「え?だってその衣装で、撮影したんだよね?じゃあ、ソレくれないと入れ替われないんじゃないかな?」

「……あ。そうでしたね」

 

単純。

至極単純な話であった。

今のテンドーの衣装は、出版社で用意された制服。

そしてアイの服装は、それとは異なる制服だ。

入れ替わりを成立させるには、両者の衣装交換が必須であった。

 

「あ、じゃあ自分が私服に着替えてくるので、ちょっと待ってて下さい!」

 

そう言ってその場を離脱しようとするテンドー。

しかしそうはならなかった。

他ならぬ推しの手によって、美少女モドキの腕が掴まれていた影響によって。

 

「……あの、アイさん?何で僕の手を掴んでらっしゃるのでせうか?」

 

分からない。

分かりたくない。

だってその先にあるのは、たぶんこの世の地獄(天獄)だから。

 

「そんな時間、ないよね?じゃあ、一緒に着替えた方が早いって!!」

「え、ちょ、ちょっとお待ちを!?何を口走ってらっしゃるのですか??」

「大丈夫だってー!ほら、早く行くよ――!!」

「え、ウソ?やだ、誰が助けてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」

 

凄い勢いで遠ざかるSOS。

しかしそのコールに応えるモノは誰もいなかった。

時間が惜しいのは当然のこと。

そしてそれを邪魔すれば、きっと良くないことが自らの身に訪れそうだと理解している面々。

つまり彼女らは――テンドーを生贄に捧げたのであった。

哀れ天童寺。君の献身はきっと忘れないだろう。

 

 

 

「え……?うそ!?」

 

その後の更衣室にて。

本物から出た驚愕の一言。

信じたくない。だけど直視しなければならない。

酷く残酷な現実。

 

「何でセンセの方が、ウェスト細いのー!?」

 

テンドーが身に付けていたスカート。

それを履いた時の感想がそれだった。

幸いだったのは、そのスカートはアジャスター付きであったこと。

そしてアイの方がやや広めだったのは、妊娠後の体型から僅かに戻り切っていないことによるものであったこと。

 

「むぅぅぅぅっ!」

 

だから納得はした。

納得はしたが……それで今の自分のムカつき具合が解消するかというと、そうではなかった。

 

「えぃ、えぃ!このウェスト、一体何が詰まってるんのよ!?」

「あ、ちょっと!?アイさん、やめて……やめてってば!?」

 

だから意趣返しにそのわき腹をつついて、引っ張る。

悔しいことに、ほとんど引っ張れなかった。

ちくせう。

 

この日。

偶像の少女は新たな演技方法の取得と引き換えに、プライドを少し削られた。

何かを得る為には、何かを犠牲にしなければならない。

それを強く学んだ少女の姿が、そこにはあったということ。

 

「ほら、私のウエスト!太くないよね、太ってないよね!?」

「やめてー、触らせないでー!(ファンにバレたら殺されるー!)」

「触りたくない程、イヤだっていうのー!?」

「そ、そうじゃなくて……!?」

 

喋れば喋る程ドツボに嵌まる。

回避策は無かった。

とかくこの世は無常である。

 

最終的に美少女モドキは、根負けしてオリジナルの腰回りをチェックすることになった。

バレたら間違いなく吹っ飛ぶ、己の社会的立場を生贄に捧げて。

 

一つだけ幸いだったのは、もしそれを第三者が見ていたとしても、双子か何かが仲睦まじくしているようにしか見えなかったこと。

それだけがテンドーにとっての幸運であったとさ。

 

 

 




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前回の投稿から間が空いてしまい、申し訳ございません!
業務でメンタルを削られ過ぎて、無気力症候群になっておりました……
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