推しのサイリウムは【紅玉色】   作:シンオオサカ

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重なる想い(チーム・ワークB)

 

 

 

――以下、とある日に存在したスレッドより抜粋。

 

朗報:テンドー師の事件の真犯人と目される人物、逮捕される。

→しかし実名報道がされてないことを見るに、どうやらテンドー師の"お願い"通りになりそう。

 

――さて皆の衆……布教の準備は十分か?(私は出来ている)

 

・覚悟完了。

・言うに及ばず。

・何を今更。

・我々の魂は、常にテンドー師と共に在る。

 

――宜しい。ならばクリーk……もとい、教育だ。

 

後世の記録では、"その日とある元俳優は(精神的に)生まれ変わった"、という記録だけが残っていた。

どうやって?とか、誰の手によって?等については記載がない。

一切の記述がなかった。

その為真偽の程は不明。

しかし一つだけ分かっていることは、以降「命の重みが何とか」と語る不審者は出現しなかったという。

 

 

 

 

 

 

――ガバッ!

 

「……今のは、夢、だよな……?」

 

ナニカやばい夢を見た。

その日のアクアの目覚めは最悪だった。

 

――いや最良、なのか?

 

内容的には良いモノだったはず。

しかし何というか……一言で言えばカオスであった。

自分の信じる世界が歪むような。

有体に言えば、信じらないない内容であったというか。

 

「本当になって欲しいような、そうでないような……すごい複雑な気分だな」

 

誠に残念なことに、テレビやネットを確認してもそういった情報はなかった。

だからアクアはそれを夢の中の出来事だと割り切った。

しかしその夢は、本当にただの夢だったのだろうか?

 

だが忘れてはならない。

テンドーの同志たちの行動力と団結力を。

そして、覚悟せねばならない。

本来アクアが対峙(退治)すべき存在は、その同志によってどうなってしまうのかを。

 

巨悪という悪役(ヒール)となるのか。それとも三枚目半の悪モドキに堕とされるのか。

それによって、アクアがその存在についてどういう気持ちを抱くようになるのかは……同志諸君の働きによって決定するのであった。

 

 

 

 

 

 

*

 

 

 

ここは天童寺家のリビング――ではなく、斎藤社長が急遽用意したマンションの一室。

先日の事件以降、その事件現場として有名になってしまった天童寺保有物件のあるマンション。

そこを取り急ぎ引き払い、当座の宿として身を寄せているのがこちらであった。

 

本音を言えば、想い出が多数残るあの家を出たくはなかった。

しかしそうも言っていられない状況となってしまったことも事実。

その為、泣く泣くあの部屋を出てきたという経緯であった。

 

もっとも、あれらの部屋は天童寺から継承された資産に含まれる。

なので、ほとぼり冷めた頃にまた赴くのもありだと、星野家の人間は思っていた。

 

閑話休題。

ともかく、その新星野家リビングのソファ。

そこでは大人気アイドルである星野アイが、ファンにはお見せ出来ない状態でダレていた。

 

「あぁ、"アリマニウム"が足りない……」

 

室内着を緩く着こなし、ソファに横たわった状態で、頭だけソファの外に出して垂らしている。

あまり健康上やって欲しくない姿勢。

しかしそんなことはお構いなしと言わんばかりに、天下のアイドル様は意味不明な格好からこれまた意味不明な発言を垂れ流してた。

 

「そんな化学物質、聞いたことがないぞ」

「あるんだよー!ママが活動する為には、それが必要不可欠なんだからねー」

 

元医師としてそんな化学物質が人間の体内で生成されるとか、外部から取り込めるなんて聞いたことがない。

アクアは断言出来た。そんなモノは地球上の何処を探しても存在しないと。

分かっている。分かっているのだが、目の前のアイドル(母上)様は頑なにその未知の物質を欲していた。

 

「ルビーなら、分かってくれるよね?」

「え?うーん……昔パンマが『"サリナニウム"が不足してくると、どうも調子が悪くてねー?』って言ってたから、あるんじゃないの?」

「ねーよ。そんなモノあってたまるか。相変わらず自然の法則に喧嘩を売ってる人だな、あの人は」

 

流石は人間を止めている美少女モドキ。

そもそもの構造とロジックが、常人と異なり過ぎていたとは。

だからって、妹を洗脳するんじゃない。

キミの妹は普通の人間なのだから。誤った知識を植え付けないで欲しい。

 

「ぶー、アクアは夢がないなぁ」

「夢見るだけで体調が良くなる物質があったら、医者要らずで商売上がったりだろうな」

 

――世の頑張っている医師たちに謝れ。

 

そんな物質クソ喰らえだ。

そんなものがあって、皆が健康になれるのなら……さりなとて死ぬことはなかっただろうに。

その場合は"アイニウム"とでも呼べば良いのだろうか。

天童寺さりな程、アイドルのアイを推していた存在はいないだろう。

そんな彼女にはきっと"アイニウム"が良く効く薬であっただろうに。

 

「(……いや逆か?アイを推していた、さりなちゃんと自分が転生してるんだ。本当に"アイニウム"は存在する……?)」

 

段々自信が無くなってきた。

転生なんていう超常現象が起きているのだ。

そこに未知の物質や、既存とは異なる法則が働いていても不思議ではない。

 

普段なら一笑に付す案件だが、強ち間違っているとは言えなくなってきた。

アクアはその明晰な頭脳が、自らが明後日の方向に回転させていることに気が付かなかった。

 

「うーん、"アイニウム"か……」

「え、何それ?おもしろそうな響きだね?」

 

ぼそっと言った独り言を拾われていた。

流石ドームでの大音響の中で、同じグループの人間の声のマイクオフ音声を聴きとれる聴力だ。

あまりこんなところで無駄遣いして欲しくなかったが。

息子のそんな胸中を知らずか、母はそのまま突っ走った。

 

「良いねー。それがいっぱいあったら、生まれ変われたり出来るのかな?」

「……一概に否定出来ないのが癪だけどな」

 

仮説を補強する存在こそ、アクアとルビーなのである。

その説が正しいとするのなら、テンドーもその例に漏れないということだろうか。

その場合、"斎藤ありま"="天童寺ありま"という式が成り立つ可能性が高くなるのだが。

 

「どっちにしろ今の"ありま"は、まだ目や耳が発達し切っていないんだ。外部(こちら)から確かめる手段はないんだよ」

「えー?この前確認したのは?」

「あれはただの偶然だろ?」

「そんなぁー!?」

 

赤ん坊の視力と聴力は、生まれたばかりでは殆ど機能していない。

正確に言うと、目は焦点があっておらず、耳も大きな音に反応する位、という未分化なものだ。

ここから数か月~年単位で大人と同じレベルにまで発達するのだ。

従って、現時点赤ん坊の中の人が本当に天童寺か判定する術はない。

 

「まあ大丈夫でしょ!ありまにも私のおっぱいを飲ませたからね!きっとアクアやルビーみたいに成長がはやいって!」

「……」

 

ノーコメントとさせて欲しい、

アクアは自分の意志で動けるようになってからは、授乳を拒否して哺乳瓶で飲んでいたが、それまでは強制授乳の刑であった。

だから否定は出来ない。

だからと言って、それが成長要因だったかと言うと疑問符が残るが。

 

「でもさママ?そのありまだけど……しばらく戻ってこないよね?」

「あ~!?そう、なんだよね……」

 

ルビーからの指摘に対し、思い出したかのように発狂するアイ。

現在いちごプロは、絶賛大忙し。

何せ大口スポンサーであった天童寺が死亡した為、その対応に追われているのであった。

そんな状況下では社長への負担が大きく、ミヤコと共に育児をすることなど夢のまた夢と化すというもの。

 

仕方なしにミヤコは自身の実家に身を寄せることとなった。

そうなれば当然そのお世話される対象である"ありま"もセットでの移動となる。

アイは自分も一緒に面倒を見るから、斎藤家で一緒に育てようと最後まで譲らなかった。

しかし彼女は頭に"スーパー"が付くアイドル様なのだ。

結果としてそれは、当然棄却された。

 

「こんな状況下だからね。数か月は戻ってこないんじゃないかな?」

「いやぁ~~!!そんなのやだぁ~~~~!!」

 

――これじゃあ、どっちが子どもか分からないな。

 

元々精神年齢の話をすれば、アイよりも自分の方が圧倒的に上である。

しかし最近はアイも大分母親としてしっかりしてきたはずなのに。

下手するとこれは赤ちゃん返りのようにも見えるという恐ろしさ。

アクアはなるべくその胸中を漏らさないようにしつつ、しかし今生の母親を冷めた目で見ていた。

 

「むむむむ……そうだ!逆に考えれば良いんだよ!これは勉強するチャンスだって!!」

「……ちなみに何の勉強?」

 

何となく予想は出来る。

しかし一応聞いておこう。

……聞かなかったら、きっと拗ねるだろうし。

持ち前の明晰な頭脳――を駆使しなくても予想出来てしまうのは、母の思考の単純さ故か。

 

「今の内にありまのことを勉強しておけば良いんだ!そうすれば、帰ってきた時にリード出来る!!」

 

予想通りだ。

悲しいかな、予想の範囲内であった。

アクアは隣にいる妹を見やる。

すると、そこには視線を明後日の方向に逸らして現実逃避をする姿があった。

 

「二人とも、ありまの一番好きなものって何だと思う!?」

「「……」」

 

その問いを投げるか。

答えが分かっている、分かり切っているコメントを。

妹と目線を合わせる。

死んだ魚のような眼をしている。

でも推し(今生の母)に嘘は通じないし、吐きたくない。

だから二人で言う。それ己が母親を地獄へ突き落すものだと理解しながら。

 

「「妹(さりなちゃん)」」

「うぁ~ん!やっぱり~~!?」

 

多分一縷の希望を込めての問いだったのだろう。

しかしそのご希望には沿えかねる。

だって答えは分かりきっているから。

 

「待って、まだ慌てる時じゃないよね……?」

 

――あ、立て直した。

 

今までには見られなかった変化だ。

推しのアイドルの成長振りに、双子の胸中は一つになった。

まるで成長していない……なんてことはなかったのだ。

 

みんなの無敵のアイドルは、常に成長し続けている。

だからこそのドーム公演に繋がるのだ。

それは決して飾りなどでない、真性の実力によるものなのだから。

 

「さりなちゃんみたいになれば良いんだよ!――つまり、ありまを女装させて私の再現をさせれば良いってことだから……」

 

何か不穏なセリフが母親から発せされた。

 

――違う。そうじゃない。

 

確かに”天童寺さりな”が”天童寺ありま”に施したことは、内容的にはその通りである。

文字に起こしてもそれは変わらないし、言葉で発しても相違ない。

口にして。言葉にして。確かにそこに誤差はないのだが……致命的なまでにナニカが異なっているのであった。

 

「アレ?もうその状況になってるような気が……?」

 

ルビーに似ているということは、それ即ちアイにも似ていることを示している。

この時点で条件はクリアされている、と言っても過言ではない。

 

「(人のこと、兄に女装をさせて楽しんでたアヤシイ奴みたいに言わないで~~!!事実だけ積み上げると、確かにそうだったけど!?)」

 

あの時は、兄を生かすのに必死だったのだ。

限られた時間・環境・自分に許された範囲で最大限やれたこと。

だったのだが、改めて事実だけ列挙されるとただの変態ブラコン少女でしかなかった。

その事実はルビーを凹ましてあまりあるものであった。

 

「(……もしかしなくても、ウチの母親と妹はヤバい人間なのでは……?)」

 

妹の前世での行いと、今生での母の言動を顧みる。

そうすると、明らかに異常と思える情報が渋滞を引き起こしていた。

しかし忘れてはないならない。その2人の影響を受けたアクア――前世での雨宮吾郎がどうであったかと言うと――。

さりな亡き後では、アイについて患者に啓蒙活動(布教)をする、ただのヤバい医者であった。

 

結論:星野家にマトモな人間はいなかった。

 

 

 

 

 

 

*

 

 

 

「はぁ……単独育児がこんなにも大変だとは思わなかったわ……」

 

憂いを帯びた表情の美女――斎藤ミヤコは愛息子が生まれてからこれまでの生活を振り返り、そう呟いだ。

B小町のドーム公演。その当日までは全てが順調であった。

しかしその当日に、思いもしない――全く想定外の出来事の発生。

 

天童寺ありまの死亡という誰にも予想が出来ない、非常にセンセーショナルな出来事が全てを変えてしまった。

本当なら夫と共に育休や時間休みを駆使して育てる予定が、その夫は会社の対応に追われることとなるというルートになってしまい。

結果として自分は実家に戻っての育児となった。

 

ミヤコの母親は子育てを手伝ってくれるものの、元々想定外の事象であることもあり、受け入れ態勢は整い切れていない。

母親は元々パートで働いていることもあってか、いきなりシフトに穴を開ける訳にもいかず。

結果としてミヤコの単独育児タイムは、想定よりも大幅に多くなるという結果となった。

 

元々アイの子育てを手伝っていて、さらに自分の子は双子ではないという想定から、もっとスマートに出来るつもりだったが……。

そう想定通りいかないのが子育てというもの。

 

「フルにワンオペ育児じゃない分まだマシだけど……それでも育児ノイローゼになる人の気持ちが分かってきたわ」

 

一人目の子どもが手が掛からなかったから、二人目も大丈夫だろう。

そう想定していたのに現実は全く異なるものであった。

そういう人は多いのではないのだろうか?

 

アクアとルビーという双子は、基本的に手が掛からない部類の赤ん坊であった。

だからミヤコは無意識の内に、二人を標準的な赤ん坊だと試算してしまった節はある。

さらに言えば、二人よりも一人の方が圧倒的に楽だという試算もあったに違いない。

 

だから彼女の誤算を攻めるのはお門違いである。

強いて言えば、アクアとルビーという規格外に出会ったのが運のツキであった。

 

――!

 

泣いている。

我が子が何かを訴えている。

でも分からない。

 

おむつではない。

ミルクでもない。

単に機嫌が悪いのか?それとも何かを訴えているのか?

 

わからない。

ワカラナイ。

分からない……。

 

「……ちょっと環境を変えてみようかしら?」

 

我が子を抱き上げ、庭に出てみる。

日の光が良かったりしないだろうか。

そんな望みも込めて移動してみたが……結果は芳しくなかった。

 

――!

 

「お願い、泣き止んでぇ~~」

 

むしろこっちが泣きたい。

子どもが泣き止まない時の、親の心境はそれに尽きるだろう。

 

「あの……大丈夫ですか?」

「え……?」

 

そんな極限状態に追い込まれたミヤコに掛けられる声。

それは、実家の庭の外側から聞こえたものであった。

正確に言うと、お隣さんの庭から聞こえた声。

つまりお隣の奥さんだと思われる人物からの問い掛けであったのだ。

 

「あ、ごめんさい。うるさくしてしまって……」

「いえ、それは良いんだけど……もしかして育児疲れしてるのかなと思って、声をお掛けしたんです」

「……分かります?」

「えぇ。ウチの子が赤ちゃんだった時の自分と似てたので、何となく……」

 

経験者は語る。

というよりもかつて通った道なので、今その道を歩く者は分かるのであろう。

だから先駆者は気付く。現在進行形でその道を歩む者のSOSを。

 

「ウチの子が今3歳なんですけど、やっぱり赤ちゃんの頃は同じような感じでしたよ?」

「そう、なんですね……」

 

同じ境遇の人が居た。

そして同じ感じの子どもが居た。

その事実はミヤコを安堵させた。

それも仕方のないことである。

 

彼女にとって赤ん坊のサンプルはアクアとルビーしか居なかった。

故にそれらのケースから離れた我が子に問題があるのか。

それとも自分にあるのか。あるいは両方か。

その堂々巡りから抜け出せなくなっていたのである。

 

「ちょっと抱かせて貰っても良いですか?」

「あ、はい……」

 

その申し出に、ミヤコは思考が纏まらない状態で返事をしていた。

その腕の中にいた我が子を、お隣の奥様に託す。

 

「おー、ヨシヨシ!良い子でちゅねー?」

 

――

 

止んだ。

泣き止んだ。

火の付いたように泣いていた赤ん坊が、泣くのを止めていた。

 

「……すごい」

「慣れですよ。実は……久しぶりだったので、ちょっと自信なかったんですよね」

 

そう言うが、その抱き方は堂に入っていた。

悔しい。でも有難い。

ミヤコの中には相反する感情がせめぎ合っていた。

 

平時の彼女ならそんなことは思わないだろう。

しかし今は、毎日が初めての経験である育児の真っ最中。

思考のバランスが崩れるのも無理からぬことであった。

だが同時に、頭の中の靄が晴れていくのも感じる。

子育ての先達者が居ることが、こんなにも頼もしく感じるとは思わなかった。

 

「あの、もし良かったらですけど……少しお邪魔しても良いですか?力になれるかもしれないので」

「ほ、本当ですか!是非お願いします!」

 

地獄に仏。

まさにその言葉が相応しい状況であった。

その為、ミヤコはお隣の奥様の申し出を迷うことなく受け入れた。

 

「ついでにウチの子も連れていきますね。まだきちんとご挨拶出来ていなかったと思うので」

「あ、そうでしたね……申し訳ございません。バタバタしていたものですから」

 

そして待つこと数分。

ミヤコの実家に、お隣の奥方とその子どもと思わしき少女がやってきた。

 

「ようこそいらっしゃました、散らかっていて申し訳ないのですが……って、あら?」

 

玄関口で出迎えたミヤコ。

出迎えの口上を述べている最中に、とあることに気が付いた。

 

「あの、もしかして……"有馬かな"さん?」

 

その子どもは赤髪のショートカットで。

気の強そうなクリクリお目目が特徴的な、スーパー子役様であった。

 

「あ、分かります?ごめんなさい、ちょっと驚かそうと思って……!」

 

この母親、実に良い性格をしている。

隣の家の新米母親を助けようという意図は嘘ではないが、自慢の娘を披露したいという意図も含まれていた。

 

「そう、だったのですね……実は私も芸能プロダクションの仕事をしておりまして、以前ウチのアイドルがかなさんと共演させて頂いたんですよ」

「あら、そうだったんですね?何という方だったのかしら……?」

 

有馬母からの確認。

そこには確認以上のナニカを感じられた。

見込みのありそうな子であったのならば、恩を売って後て回収したい。

そんな意図が隠されているかのようであった。

 

「えぇ、いちごプロのア「あー!アンタは、アイのマネージャー!!」イと申します……かなさんがご存じのようですね」

 

差し込まれる幼女からの絶叫。

その幼女の発言から、是非とも恩を売って回収したい相手筆頭が現れたと目が光る有馬母。

 

「ねぇ!"ありま"がアイの代わりに死んだって、ウソよね……!?」

 

幼女からの問い掛け。

それはまだ癒えない傷に対しての攻撃であった。

もちろん本人にとっては攻撃のつもりはない。

だがしかし、それはミヤコにとって――いちごプロにとっては強烈な攻めに転じるもの。

 

「と、取り合えず……どうぞお上がり下さい」

 

パワフルな幼女に押されながらも、とりあえずゲストをもてなすモードに入ったミヤコ。

彼女にとって幸いだったのは、今の有馬かなの絶叫で我が子が起きなかったことだけであった。

 

 

 

 

 

 

*

 

 

 

リビングソファに有馬親子を座らせ、お茶を出した後。

一拍置いてミヤコは切り出した。

 

「かなさん、さっきの話は――本当よ。天童寺さんは、アイと間違って殺されてしまったの……」

 

本来まだ片手で数えられる程の年齢の子に聞かせる話ではない。

しかし目の前の子どもは――有馬かなは、普通の子どもではなかった。

サスペンス物のドラマに出演した経験があり、同世代の子どもたちの中では誰よりも生死について理解している。

理解させられてしまっている、という少女であった。

 

「ウソ……だって"ありま"言ってた!『大きくなったら、ありまの話に出てもらおうかな』って!」

 

正確にはもう少し異なった言い回しで合ったが、概ねその通りである。

台本などを覚える要領で、当時の話を覚え、そして引き出したに違いない。

 

「……」

 

何も言えなかった。

本当に悪いのは襲って来た犯人である。

しかしそんなことは、この子にとっては関係ない。

どう説明したものか。どうすればこの幼子に納得してもらえるのか。

瞬時には答えを導き出せないミヤコであった。

 

――!!

 

その瞬間、これまで沈黙を守っていた我が子が泣き始めた。

これ幸いとばかりにその場を離脱するミヤコ。

今だけは、我が子の鳴き声が救援に駆け付けたレスキュー隊の呼び声に聞こえた。

 

「ごめんね、ありまー?どうしたのかなー?」

「「……ありま?」」

「あ……」

 

窮地を脱するはずが、却って混乱を招いてしまったかもしれない。

再度窮地に陥った状態を、どうやって乗り越えたら良いのやら。

育児疲れで低速状態の頭脳を、何とか回転させようとするミヤコ。

 

「かなさん、この子はね……?」

 

必死に振り絞る。

だが現実は無常である。

咄嗟に良い考えは浮かばないのであった。

 

「もしかして……この子って"ありま"の生まれ変わり!?」

 

――え?

 

この時。

確かにミヤコと有馬母の胸中は一つになった。

そしてミヤコの脳裏にある存在たちが浮かび上がる。

 

大天使ルビーエルと堕天使アクアエル。

所謂"天使と悪魔"に類する存在のご降臨であった。

 

――乗るしかない(よ)、この波に!

 

通常天使と悪魔は、互いが別の意見(もっと言うと逆サイドの意見)を言うのが殆どであった。

しかしこの二人組は、全く同じことをのたもうた。

全く意味がない。二人で出てきた意味は、どこにあるのだろうか?

甚だ疑問であるが、混迷の中にいるミヤコにとってはどうでも良いことであった。

 

「そうよ!この子は"斎藤ありま"、天童寺さんの生まれ変わりなの!!」

「本当!?」

 

振り切れたミヤコ。

驚愕と喜びを表す幼女。

そして……それを若干引いた目で見る幼女の母。

 

しかし思い直す。

ここで話を合わせてあげれば、ミヤコに――ひいては"いちごプロ"に貸しを作れるのはないか?

そう考えた末に、目の前のカオスな状況をスルーすることとした。

 

「ありま……かなよりも、小さくなっちゃったのね?」

 

それはまるで、ドラマの中のワンシーンのよう。

陽光に照らされた彼女(かな)は、さながらスポットライトに当たったヒロインのようであった。

赤子の小さな小さな指を軽く握る。そしてその小ささと儚さを子供ながらに感じ取るヒロイン(かな)

 

「じゃあ今度は……危なくないように、私が守ってあげるわ!!」

 

不思議な気分だ。

その言葉には説得力があった。

生まれ変わりなどない。そんな常識を否定する発言。

しかしその言葉には――その言動には虚構を現実と思わせる"ナニカ"があった。

 

それこそが大衆が求める巨星の演技。

眩い光に求められるものであった。

 

 

 

 

 

 

*その頃のマリア様*

 

 

 

――!

 

「あ!何か"ありまの姉ポジション"が奪われたような気がする!!」

「アイ……疲れてるんだよ?今日はもう休もう?」

「うぅ、我が子からの視線が痛いよぉ」

「分かってるのなら、もっとしっかりしてくれって」

 

突如電波を受信したアイ。

それに対して冷静に対処するアクア。

いつも通りの展開であった。

 

「そもそもアイって、姉ポジションなのか?姉のような母親のような……」

「う~ん。じゃあ"お姉ちゃんママ"ポジションにしよう!これなら被る心配、ないもんね?」

 

――ニッチだな。確かにアイの状況的にはそんな感じで合ってるけど。

 

母親が無意識に導き出した自らのポジション。

その様を見て、やはり天下のアイドル様はスゲーなとあきれ目のアクア。

 

「じゃあ、じゃあ!姉ポジションはルビーに期待ってことで!!」

「え?私……!?」

 

突然呼び掛けられて、驚くルビー。

さらにその内容も驚愕ものであった。

 

「そうだよ!戸籍的にもお姉ちゃんだからね!お姉ちゃんモドキなんか、蹴散らしてくるんだよ!!」

「ちょっとママ!?え、私が……お姉ちゃん!?」

 

前世では。弟妹など居たことがない(・・・・・・・)

もしかしたら存在しているのかもしれないが、それをさりなが知ることはなかった。

だから自分にはそんな存在を持ったことも、接した経験もない。

それなのにいきなり"姉になれ"と言われても、対応に窮してしまう。

 

「(お姉ちゃんって、何をすれば良いのかな……?)」

 

分からない。

分からないからこそ考える。

とりあえず、約束を破るのや嘘を吐くのはご法度だ。

それは家族に限らない話だが。

 

「(そういえば……お兄ちゃんは、最後の最後に約束破ったよね?)」

 

早死にするな。

約束したのに。

それ以外の約束は全て叶えてくれたが……一番大事な約束を守れなかった"大ウソ吐き"であった。

 

「(むぅぅぅぅ……今度こそぜぇぇぇぇったいに、それだけは守らせないとね!)」

 

この嘘だけは吐かせない。

それこそが今後の"ありま"への教育方針の柱となるだろう。

否。柱にしてみせる。

ルビー(さりな)は、そう心の中で意気込んだ。

 

この時。

後年ユニットを組む二人のアイドル。

その胸中が一つとなり、共通の目標が出来た瞬間であった。

 

"斎藤ありま"という共通のターゲットを挟んだ連携が、今始まったのである。

 

 

 

 




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※有馬家及び、ミヤコの実家は都内のイメージです。
(重曹ファミリーが重曹ちゃんを残して田舎に引っ込む前なので)

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