今回かなりネジのぶっ飛んだお話になっております。
シリアス君を期待されていたら申し訳なかとです……
―― 3
動画の中の数字がカウントダウンを始める。
―― 2
それに合わせて、コメントが待っていましたと言わんばかりに流れていく。
・おっ!始まるぞ!
・これこそが我が生き甲斐!
・今日も活力の源を見に来ました!
―― 1
始まる。
既に始まっているチャンネルだけど。
この動画の配信から真の意味で始まる、そう言っても過言ではないだろう。
―― 0
終わるカウントダウン。
そして開いた後に消失する幕。
その幕の向こうから出てきたのは――。
「は~い。初めての人は、はじめまして!常連さんは毎度ありがとう!シスコン漫画家のテンドーです♪」
・ウォォォォォォッ!!
・テンドー先生だ!
・俺たちの
・私たちの
・観賞用天然危険物!!
・生ける伝説
・イケる男の娘!
・ご飯三杯……いや、三倍はイケる!!
・自らシスコンを名乗っていくスタイル……キライじゃないわ!
「う~ん。相変わらずのカオス。みんなは僕に何を求めているのかなー?身の危険を感じるわー」
・その心配はない
・そうとも、我らは
・紳士だから!
・淑女だから!
・Yes男の娘、Noタッチ!!
「それって頭の上に【変態】とかが付く、紳士や淑女じゃないよね??」
・今日も空が青いですなー
・本日はお日柄も良く
・おかしい。今日は全国的に雨なのだが
・やましい奴らの目にしか見えない、そんな天気もあるんじゃね?
「やましい方は、その場で反省してください。ここから先は心の清い人だけが鑑賞できるフィルター付きなので」
・心の、清い人……?
・唐突に突きつけられるラーの鏡
・目が、目がぁぁぁぁぁ!!?
・醜い心がむき出しになるぅぅぅぅ
・そして誰もいなくなった
「流石にそれはマズいよねー?じゃあ、フィルター解除!戻っておいでー!!」
・ふぅ、危うく成仏するところだった
・涅槃が見えたわ
・死んだおじいちゃんが、川の向こうから手招きしていたのまでは覚えている
・ここはヴァルハラかな?
・いや天国でしょ?
・つまりテンドー先生は女神……?
・おかしい。見た目は完璧に女神でも良いのだが
・だがオスだ
「毎回思うけど、絶対初見さん置いてけぼりだよね?」
・そこはまぁ
・漫画家テンドー先生を見に来る
・⇒この場のノリに呑まれる
・⇒そして美少女っぽいナニカ(先生)の虜になる
・今更この流れは止められんよ
「……うん。初見さん、本当にごめんなさい。このチャンネルは終始こんな感じなので、真面目に漫画家テンドーを見に来たの方は、回れ右して下さい……」
・しかし視聴者数が減らない定期
・ようこそ新人、この無限地獄へ
・我々は君たち(新しい信者)の着任を歓迎する!
「……もう良いかな?今日は時間が押しているから、先に進むよー?」
・どうぞ、どうぞ
・そういえば、今日は化粧してないのね先生
・あ、ほんとだ!珍しくスッピンだ!
・しかしスッピンでも美しい……
・素の戦闘力が違うぅぅぅぅ
・これが女子のプライドをへし折る、対女子用の最終兵器か……
・こんなに可愛いなら、もう女子要らなくね?とまで思わせる、性癖クラッシャー
・女の敵であり、男の敵でもある
・だけど一周廻ってファンという名のお兄ちゃん、お姉ちゃんが多い
・だが男だ
・そして成人済みだ
・嘘だ……!
・人類を騙せる詐欺師であり、詐欺レベルの漫画家
・詐欺(誉め言葉)
「一部聞き捨てならないモノも混じっていましたが――ここから先はゲストをお招きして収録した、スペシャルコーナーをお見せします!」
・ガタッ!
・誰だ!
・男か!?
・彼氏が出来たのか……!?
「いや違うから。何でそうなるかね?」
・今までのゲストを振り返って考えてみろ
・両声類、ショタ、オネエさん
・偏り過ぎて草
「いや、それはたまたまだからね……?」
・たまたま……?
・切り抜け――!
・良い音源をありがとう!!
・今日もみんなヤンデるなー。通常運転過ぎる
「んんっ!そういうのはもう良いから!じゃあ、いくよ――!」
暗転。
そして切り替わる画面。
ここから先は収録映像。ちょっと前に撮った……と思わせて実際は昨日録画した映像である。
・で、ゲストは誰なん?
・今までのラインナップからすると――イケオジかな?
・いや、大穴でハクビシンとか?
・人外ワロタ
・ついに人間のゲストすら出なくなったのか
『はーい、初めまして!B小町のアイでーす!!』
ブラックアウトからの復帰。
その矢先に現れたのは、予想にすら入っていなかった美少女だった。
・なん、だと……?
・美少女、だと……?
・アイドル、だと……?
・あぁ……つまり百合だったのか
・百合(見た目)
・キマシタワー(見た目のみ)
・百合に見せかけた、ノーマル
コメントが高速で流れていくが、先程までとは異なり現在は録画映像。
映像が切り替わる前のように、ライブでコメントを拾うということはなくなっている。
『いやー、本当においで頂けるとは思いませんでしたよ――!』
『こちらこそ、まさか人気漫画家のテンドー先生からオファー貰えるなんて、思ってもみませんでした!』
既に面識があるというのに、この初対面演出。白々しさこの上ない。
だけどテレビとかって、そういうもの。
仮に面識があっても、その面識を明かせないのなら初対面を装うことくらい普通にある。
・あれ?アイって、体調不良で活動休止中じゃなかったっけ?
・これ録画映像でしょ?体調悪くなる前に撮ったやつじゃない?
・あ、な~る。
・納得
『ウチは妹共々アイさんのファンなので、ホントお会い出来て嬉しいです!』
『ホントですか!?すっごい嬉しいです!私も先生のマンガのファンなので、そういった意味でも嬉しいんですよ!』
・あ、妹の話が出た
・出て、しまったか……
・大丈夫かな?
・いや、流石に推しがいる前だぞ?
・それでも我々は忘れない。伝説の【24時間耐久妹自慢大会】を……
・あれはイヤな事件だったね……
・先生にとってアレは、罰ゲームではなくむしろご褒美です
『元々は妹がアイさんのファンだったんですよー!僕は妹から影響を受けて』
『そうなんですか!?ちょっと驚きですね』
『本当に可愛い妹なんですよ!もう世界一可愛いんですよ!!』
『っ、そうなんですね!』
・圧がつよーい
・先生、相手は引いてるぞー
・こんなの、ほんの序の口だぞ?
『そ、そうだ……先生!今日は何か企画があるんですよね!?』
・強引な軌道修正だね
・だけど仕方ないね
・だって先生のペースに任せたら、一日あっても終わらないからね
・一日経っても終わらない(経験済み)
『え、あーそうでしたね!本当、申し訳ないです……自分、妹のことになると周りが見えなくなってしまって……』
・知ってた
・いつものだね
・むしろこれくらいで止められたアイが凄いのでは?
・ぐう有能
・これは将来有望
『では気を取り直して。今回の企画はこちら……!!』
――【テンドーがアイさんに化けて仕掛けるドッキリ大会!!】
『そうです!今回は先生が私に化けて、ウチの社長や先生のアシスタントさんに仕掛けるドッキリです!』
アイの宣言に、これまでとは異なったベクトルで騒ぎ出すチャット欄。
・まって
・それはアカン
・洒落にならんやつや
・社長さん、下手するとトラウマになるぞ!
・これは見抜けなくても仕方ない
・アシさんもお可哀そうに……
・明日からみんな、自分の目を信じられなくなるぞ
・先生、人間不信製造機になるつもりか……
『では早速、メイクからしていきまーす!』
『お願いしまーす!……でも先生、何であらかじめ化粧しなかったんですか?今からだと大変じゃないですか?』
『あぁ、それはですね。変身前からリアルタイムで化けないと、みんなが納得してくれないからなんです!』
・それはそう
・だっていきなり完成体が来たら、テンドー先生だって証明できないから
・料理番組形式は通じない
・先生は【忍び】だと言われても納得の変装術の使い手
・変装術(美少女限定)
・本来男性が女性に化けるには骨格上……
・先生に常識が通じる訳ないだろ
『まあ、化粧しながらもトークしますので問題ないですよー!』
『すごーい!私が自分でやるよりも、全然はやーい!』
・この道4年だからね
・全て妹の為に覚えたこの手業
・メイクでも喰っていけるんじゃね?
・でも先生、妹絡まないとすぐポンコツになるから……
下地を整え、その上に色を落としていく。
それはさながら、一枚の絵画が完成していく道中を見ているかのようであった。
『よっし!お待たせしましたー!完成です!!』
宮崎でいつも行う鎮魂歌。
その為のスペシャルメイク。
それを衆目の前で披露する。
『……うそ。本当に、私がもう一人いる……』
先日の病院の屋上での邂逅。
目の前の光景は、まさにその焼き直しであった。
・?
・??
・???
・脳がバグった
・おかしいな。最初から見てたはずなのに……?
・気が付いたらアイが双子になってるんだけど?
『えへへ……ビックリしました?』
第二形態を見せたテンドーの、してやったりの問い掛け。
この美少女(オス)、確信犯である。
『本当にビックリしましたよ!でもこれなら、きっとみんな気が付かないですって!!』
その後行われたのは、アイの事務所の社長へのリアルドッキリ。
そして吉祥寺女史に対する、リモート会議ツールを使ったオンラインドッキリだった。
どちらも非常に良い反応をしてくれただけに、最高に良いリアクションが撮れていた。
・いやな、事件だったね……
・多くの人に爪痕を残したよね……
・社長さんとアシさん、可哀そうに……
『本当に面白かったです!今度は、【一日入れ替わり体験】とかやりません?』
・アイさんや、それはやめて差し上げろ
・人間不信を増やすのが目的かーい
『是非やりたいですねー!あ、でも僕同性じゃないので……入れ替われないところもありますけど』
・その子、とっても可愛いけど【オス】なんです……
・むしろこんな可愛い子が女の子の訳がない
・ん?
・( ,,`・ω・´)ンンン?
『テンドー先生、本日はありがとうござました!今度はこちらからご招待しますね!』
『こちらこそ、ありがとうございました!お呼び頂けるのであれば、すぐに馳せ参じますのでよろしくお願い致します!』
再度暗転し、画面に光が戻った時。
そこには冒頭と同じ背景の前に立ったテンドーの姿があった。
「はい。という訳でしたー!皆さん、大盛り上がりでしたねー!」
・あれは盛り上がらない方がおかしい
・盛り上がりというか、阿鼻叫喚というか……
・まぁ先生とアイが楽しそうで何よりということで……
・その裏に死屍累々だが
・物語の裏側を見てはいけない
「……この後なんですよね。アイさんが体調不良になったのは……」
憂いを帯びた瞳。
悲しみを湛えた表情。
非常に絵になる光景であった……本来の性別を忘れることが出来たなら。
「本当は公開するか迷ったんですが、アイさんとアイさんの所属事務所から許可を得て、今回の公開に至っております」
コメントが止まる。
いつものお祭り騒ぎが嘘のように。
割と無法地帯な住人たちだが、統率力とマナーはこれでも良かったりする。
きっと普段は真面目に学生・社会人していて、この場では発散しているだけかもしれない。
「アイさんの一日もはやい回復をお祈り致します」
コメント欄の沈黙は続く。
荒らしもなく、非常に穏やか。
だからこそ、その後に劇物は効くのだ。
「それでですね……そのアイさんから、一つミッションを頂いております」
・ミッション?
・流れが変わった
「アイさんが体調不良から復帰するまでの間、不定期でアイさんからのメッセージを読み上げる役目を仰せつかりました!」
・は?
・え?
・これ、絶対テンドー先生に得しかないじゃん!
・推しからのお願い……?もしかしてコレ、テンドー先生が無理にお願いしたんじゃ……?
・あり得る
・テンドー先生だしな……
「まぁ?確かにこちらから立候補しましたけどぉ?……それが何か?」
・ひでぇ
・開き直りよった
・流石は天上天下唯我テンドー!
・とうとう推しアイドルにまで、その手を広げやがった
・アイさんごめんね?ウチらのテンドー先生が……(姉目線)
・済まない、アイさん。テンドーの暴走を止められなかったよ……(兄目線)
・また見知らぬ兄や姉が増えているぞ?
・どんどん増殖してるからな……
・どうせ最後には皆、兄(姉)になる
「ともかく!テンドーは今後も、アイさんを推し続けます!皆さん、よろしくお願いします!」
・強引な締めだな
・何を今更
・これこそがテンドー先生
・いや~、先生を見ていると自分の悩みとかがちっぽけに見えてくるわ
・それは:錯覚
・勘違いから始まる変
・変っ!?
・ある意味先生にはピッタリな言葉だよな……
話題を振りまき、そして視聴者の思考の方向性をコントロールして盛り上げる。
それこそが大衆の望む
テンドー自身はアイドルではないが、皆が望む偶像ではある。
だからこそ、そこに秘められた意味は――意義は同じもの。
彼は振る舞う――眩き星のように。
彼は届ける――嘘という名で固めた愛ゆえに。
そして彼は祈り続ける――妹と妹の推しの為に。
テンドーの施策のおかげで、アイの存在は皆から絶妙な距離を置いて認知され続けるのであった。
彼の思惑通りに。
彼女とは別の光を持つテンドーだからこそ出来たこと。
だが忘れてはならない。
光が強ければ強いほど、その影もまた濃くなるもの。
感想、お気に入り登録、評価、誤字報告頂き、ありがとうございます!
とても励みになります!
今回、配信形式やチャット機能っぽい書き方を初めて致しました。
至らぬ所があるかと思いますが、ノリ重視でお読み頂けると幸いです!