【長期更新停止】やはり俺の人間関係は中学時代からどこか可笑しい 作:Mr,嶺上開花
8月29日:小町が小学五年生になっていたのを六年生に訂正しました。
その後雪ノ下とは半時間前にあのファミレスで別れ、現時点では俺は自分の部屋で雪ノ下の悩みの解決法を模索している。
あの場では、「解った、後は任せろ」と見栄を張ってしまい、雪ノ下に策があるのだと思われてしまったが、その実何も考えてなかった。
というか本当にどうすんだよ俺。クラス内の関係とか一切合切無知だぞ?事前調査とかしてるんだったらともかく何もしてないからクラスのリーダー格とかカースト上位の人間とか全く知らん、名前も知らん。
それに、俺は俺自身で論点のすり替えやら問題の解消はしないと決めてしまった。これも手の打ち用が少なくなる一因である。
論点のすり替えが出来たなら雪ノ下の代わりを用意すりゃ良い話だ。問題の解消も同じような話で、グループの霧散化やら最悪は学級崩壊を狙えばお手軽簡単に雪ノ下を救える。
ただ、これは雪ノ下だけが助かる方法だ。他のクラスの連中は巻き添えをくらい、瓦解してしまう。
そしてそれを雪ノ下は望んでいない。あいつは周りを見下している様に見ているが、その周りを壊す事はしない、少し面倒な思考なのだ。
…まあ俺も似た感じだから否定の使用が無いが。
ともかく作戦成功の条件をまとめると、周りはいつも通り、雪ノ下はイジメの標的にならず、かと言って他の誰かもイジメの標的になってはいけない。…難易度ナイトメアだろこりゃ。
だが、やらなくてはいけない。
机上の空論でも良い、可能性が1%でもある公式を考えだして実行するのが俺の役目。
……何て考えていても中々考えつかないもので、時間は既に7時、そろそろ晩飯を作らなきゃいけない時間になっていた。
俺は目の前に広げていた真っ白なルーズリーフとシャーペンを取り払い、自分の部屋を出る。向かうはキッチン。小町は約束通り今日は大人しくしてるだろうから、また今日から俺が夕飯を作らなければいけない。
料理しながらも解決法について考える…が、全く思いつかない。
雪ノ下自身が輪に入る…は、ダメだろう。あいつが特定グループとかの7・8人で仲良くするなんて想像つかん。
次にクラス内のリア充グループの関心を雪ノ下から別の何かに変わらせる。…それも難しいだろう。何と言ってもその関心を人に向けるのはNGなのだから。
考えている間にも時間は過ぎ、既にフライパンの中のチャーハンは出来上がってしまう。それを皿に盛り付け、脇で作っていた中華スープが入った鍋の火を止める。そして器に流し込む。
リビングにそれを持っていく(リビングからキッチンは見えている)と、いつの間にか小町が椅子に座って待っていた。
「今日は早いな。いつもならお前呼ぶまで来ないだろ?」
「いんやー……、昨日ちょっとやっちゃったじゃん?だから同じ兄妹であるお兄ちゃんもやるんじゃないかと小町心配で」
「もう少しお兄ちゃんを信用しろよ」
「だってお兄ちゃん変なところで鈍感だし…」
失礼な、俺にはそんな事はないぞ。ちゃんと材料分量方法時間全てを守って調理してる。ゆえに失敗するなどあり得ない。多分。
「…お兄ちゃん何か目が腐ってきたんじゃない?」
「おい、そんな冷蔵庫に放置し続けた食材みたいなニュアンスで俺の目を表すな」
「まあお兄ちゃんなら心配ないかなー。…あ、これ小町的にポイント高い!」
「いや知らんし」
そんな会話を交わしつつもキッチンから料理を運ぶ。こういう時に楽だからキッチンとリビングが繋がってるのは重宝する。
ただ調理で火を使うと必然的にリビングの室温まで上がってしまうのは少し難だが。
食器を全て並べ終わったので俺と小町は料理を食べ始める。
「お兄ちゃんの料理って、何か学校の家庭科の味がする…、いや美味しいんだけどね?」
地味に俺のハートを抉る発言をするの止めてくれませんか小町ちゃん?
そんなこんなで食器を洗い、風呂に入るともう何もすることはないのがいつもの日常である。
だがしかし、まだ俺は雪ノ下対策法案を考え出していない。取り敢えず形骸だけ掴めれば今日は寝るつもりだが、まだそれには全然及んでいない。
シャーペンでルーズリーフをトントン叩きながら考える。考えれば考える程にど壺に嵌っていく気もするが、考えなければ思いつかない。故に解を出す為の要素を探すが、検討もつかないし逆転の発想も閃かない。もしあるとしたら、雪ノ下が転校する…などという逃げの発想くらいである。もちろんこんな提案は死んでもしない。
何か…、何か無いのか……?
そう考え、思考し、頭を捻るが、要素も形骸も解答も出ずに真っ白のルーズリーフを見つめる。
そうしていると必然的にか、俺の意識は段々と自分でも分かるくらいに沈み始め、遂にブラックアウトした。
まあ、簡単に説明するなら寝落ちである。
「……痛っ」
額の辺りがじんじんと痛みを発する。
上半身を起こすと、昨日はそのまま机の上で寝てしまっていたらしいと分かった。なぜなら目に映るのはルーズリーフだったからだ。
寝落ちと言うことはつまり、まだ何も考えついていない、昨夜何も要素が考えつかなかったのだろう。なのになぜかだろうか?頭の中がとてもクリアだ。まるで運動した後に極度の疲労で倒れこんでしまった時のようなーーーー
ーーーそこで俺は真っ白のはずであるルーズリーフに何か書かれている事に気づく。薄い字で分かりにくいが確かにこう書いてある
【事前調査は大切である。】
書いてある内容は俺自身に対する言い訳のようであったが。
と言うかなんで俺は明日までに解決するという脅迫概念に囚われていたんだ?普通に考えて明日までとか無理だろ。クラスに関しては誰よりも無知であることは俺自身が1番知っているはずなのに。
思えば少し舞い上がっていたのかもしれない。女子からの相談などこれまでの人生で一回も経験したことがなかったから、自分ならそれを解決出来ると過信していたのだろう。
それに雪ノ下は優等生とは言え、会って1日目の男子に悩みを打ち明けるような女子だ、恐らくはなから期待していないかあたふたする様を見て愉快に思っているのかのどちらかだろう。そう思うと昨日の自分が物凄く情けなく思える。
だが、確かに昨日の俺の決意は本物だった。ならば、突き通さなければ【比企谷八幡】という人間の心臓部の考えが変化してしまう。俺が俺でなくなってしまう。
ならば話は簡単だ。昨日の俺の構造通り雪ノ下の問題を解決して、その後俺はその出来事に触れなければ良い。雪ノ下の感謝が欲しくてやるわけではない、ましてや何かと等価交換したいわけでもない。俺自身のアイデンティティ、自己満足でしかない。解決したら俺はこの事を忘れ、雪ノ下との関係をリセットすれば良い。
となると、やはりこの問題を解決しなければならないのだろう。
欠伸と共に伸びを一つ、そして俺は机上にある時計で時間を見た。6時少し前だ。今から朝ご飯を作れば十分学校には間に合う。
そう考えた俺は、早速制服に着替えて台所へ行くことにした。
当然リビング兼台所には誰も居なかった。実は一昨日の深夜俺は親とリビングで会っていて今日まで泊まり込みで帰って来ないことを一応知っていた。小町は知らされてないが、まあ感覚で分かるのだろう。何せほもんどいつもの事だしな。
パンをトースターで焼き、洗った野菜を刻んでボールに放り込み、卵を割ってフライパンでぐしゃぐしゃに混ぜてスクランブルエッグを作る。
これで何時もの朝ご飯の完成だ。敢えて言うなら後は野菜を皿に飾ることくらいだろう。しかし、小町が
「流石にそれくらいは小町でも大丈夫だよお兄ちゃん!」
とかなんとか前言ってたのでボールに入れたまま放置だ。これだけ小町にやってもらおう。
起きて来ない小町は無視して先に朝サラダ以外を食べる。あ、コーヒー忘れてた。いや、お湯沸かしてないから無理か。まあ今日くらい牛乳で良いか。今からお湯沸かすのは面倒だしな。
野菜以外を食べ終わってテレビを眺めていると、廊下の方から足音が聞こえてきた。多分小町が起きてきたのだろう。まあいつもの時間だし、絶対そうだ。
そんな俺の予想は裏切られず、見慣れた姿で我が妹は現れた。
「お兄ちゃんおはよ〜」
「おう小町、昨日は良く眠れたか?」
「お兄ちゃんキモッ」
流石俺の妹なだけあって俺の弱点をピンポイントで知り尽くしている。そのおかげで今俺かなり傷ついたぞ。グリグリと包丁を突き刺されているような感覚だ。
「頼むから朝から誹謗中傷だけは止めてくれ」
「お兄ちゃんが気持ち悪いこと言わなければね」
理不尽だ。
「あれ?何で野菜の入ったボールが台所にあるの?」
「いや、お前が[サラダくらいは作れるよー]とか言ってたから」
「うっわ…冗談を真に受けるとか小町悲しいよ…」
「いやだからさっきから何なんだよ」
お前さっきから俺に当たり過ぎだろ。何?俺に構って欲しいの?構ってちゃんなの?さっきから罵倒してるのも俺のこと嫌いなんじゃなくて好きだからなの?
「…まあいいや!お兄ちゃんはゴミいちゃんだから仕方ないよね!…あ、これ小町的にポイント高い」
「俺の社会的地位が最下位なのは良いがそれに合わせて呼び名まで変えるな」
お兄ちゃん泣いちゃうよ?小6の妹にここまで言われて心に傷がつかない兄なんていないから泣いちゃうぞ?
小町はそんな俺の思考など当然のように総スルーして台所へ行く。…何かサラダの盛り合わせだけやらせるのに罪悪感が……。
「出来たからお兄ちゃん自分の持って行ってー」
いつから我が家の妹はこんなに逞しく成長したのだろう。何か負けた気分だ。
「はいよー」
劣等感を感じつつもしっかり返事をしてサラダ運ぶ俺偉い。なんなら100八幡ポイントは欲しいくらいである。
「…お兄ちゃん……」
「何だよ?」
「また目が腐ってきてるよ」
お前は俺を何回罵倒すれば気が済むんだ。
小学6年生である妹の将来が気になった俺であった
粗方の準備が全て終わると俺はバックを肩にかけて家を出る。ちなみに小町は俺より先に出ている。まあ小学生だしな、元気があるのはよろしい。
……ただ俺に家事を全て押し付けるな、少しはやってくれ。
そう思いつつ、玄関の片隅に置いてあったゴミ袋を利き手で持ち上げる。今日は燃えるゴミの日だからな、これ捨てないと家にゴミが溜まってしまう。ゴミが溜まりすぎてテレビが来るくらい世間で有名なゴミ屋敷とかになるのはゴメンだしな。
家の鍵を閉めると通学路を歩く。ゴミ回収の場所も通学路にあるからこういう時大変便利だと思う。
通学路を歩いていると、私服でランドセルを背負って歩く登校中の小学生が何人も見える。やはり中学に上がると制服になるから、小学生の私服で過ごせる点が少し羨ましかったりする。夏は短パン、冬は厚手の服を着ていたあの頃が懐かしい。まあその度に【比企谷またキモい服着てるー!キャハハハ!】と言った感じで蔑まれていたが。…そう考えると、中学になってからは服の事に関しての罵倒は無くなったな。
それ以外は大して変わんないが。
道中、ゴミ袋をゴミ回収の場所に置き、学校を目指す。もうほとんど距離は無いので同じ中学の制服を着ている連中もかなり増えている。だからと言って挨拶をしたりする仲の奴は居ないが。
無言で校門をくぐる。俺の周りには今青春をいかにも満喫しているような奴らが所狭しと並んで歩いている。俺のような完全無垢なぼっちはこの学校にはあまり居ないようだ。つまり数少ない俺みたいなエリートぼっちのは希少種、レアと言えるのではないだろうか。違うか、違うな。
下駄箱で上履きに履き替える。周りにクラスメイトらしき人物が数人ほど俺と同じことをしているが、当然挨拶はしないしされない。まあそもそもその彼ら彼女らはグループとして会話をしている。そこに俺みたいな奴が入る隙などないのだろう。
それは数学部でも一緒だ。上っ面では仲良くしたそうな態度をとっていても、心の内では何を思っているのか不透明だ。大抵のグループでは余所者がその輪に入ろうとすると、それまでのグループ内での関係の変化を恐れ、誰かがそいつは排斥される。
それは多分数学部でもそうなのだろう。
まあ気分としてはそこまで良くはないが、部活をこちらの落ち度ではなく相手のせいにして辞めれるというのはとても清々しい。そう考えればこれはこれで結構得な話だな。ちょっと俺のことハブってくれないかな?何なら【お前の席ねぇから!】とか罵倒されても良い。そうすれば俺は確実に部を辞めれる。
…おお、これぞ利害の一致か。
教室に入り、いつもの席に座ると俺は窓の外を眺める。テスト期間の番号順の席では出来ないことだ。なぜなら俺の番号だと真ん中よりになるからだ。なのでその時は安定のうつ伏せで過ごしている。そして[俺は寝てるから邪魔するな」オーラを発すれば完璧、寄って来る人物はほぼ居なくなる。因みに今の窓の外を眺めてるのもその応用で、ぼーっとしていて一見話しやすそうにしているがその実硬い空気を放っていて地味に話かけにくい、かつ存在自体が目立たないというような効果を発揮する。名付けて[ステルスヒッキー]。どうだ、ドラク○とかで使えそうだろ?敵とエンカウントしない的な効果有りそうだし。
そうして俺はチャイムの時間まで雪ノ下の問題を忘れて惚けていたのである。
今回主要キャラ比企谷家しか出てきてない( ˘ω˘)