「星野アイ。私の好きなアイドルです」 Alternative   作:アンチメシア

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序章 私が推しの光に焦がされるまで①

この星の知的生物……ホモ・サピエンスを観察して、半年ほどが経過した頃だろうか……

脆弱なタンパク質の肉体と微弱な電気エネルギーで思考するホモ・サピエンスは物質世界の理に囚われた不完全で未成熟な存在。

 

不完全な肉体という器を脱ぎ捨ることで思考が思考として純粋に独立し、進化した種となった自分たちは既に三次元世界の頸木を外して、己という生命を育んだ母星から巣立ち漆黒の闇と極寒の宇宙に平時は身を置くことが当たり前となって、幾星霜……

 

調査目的等以外で一つの星、ましてや辺境のまともに宇宙空間にも出ることのできず、自分達のような外星人を未だにフィクションの産物としかその存在を捉えていない未熟な知性体が支配する惑星に降り立つことなど自分たちのような三次元世界から既に高次元世界の域に手を届かせるに至っている種族の常識からすれば通常はあり得ない話だ。

 

そんな常識を破ってこんな星で過ごしているのには理由は、自分達が失ってしまった何かを求めてなのかもしれない。

今後の為すべきことを決めていくためにも、こうなるに至った経緯から振り返るとする。

まずはこの星に来ることなった話から行こうか───

 

現在この宇宙という世界で最も強大な力を持つ勢力の一つとされる光の星の敷く星間協定に基づく統制に疑念を持ち、異を唱えたが、案の定「宇宙の摂理に反することは認められない」と頑迷な彼らは耳を貸さなかった。

 

他の外星人よりも先んじてタンパク質の肉体から意識を分離独立させ、原子番号133に位置し、三次元に属する宇宙世界には存在できない超重元素スペシウムで構築された情報生命体として進化した彼らの知恵と力に並べる種族は片手で数える程しか存在しない。

高次元の超元素で構成された体にはその辺の外星人の異能や技術を用いても傷つけること自体困難であるし、スペシウムエネルギーを用いた彼らの超能力はその気になれば、惑星すら容易く木っ端みじんにできる。

単身でもここまで強大な力を持つというのに、三次元空間の直径200光年を消失させる恒星間制圧兵器や我々でさえ、地球における土葬文化圏のホモ・サピエンスが用いる棺桶ほどのサイズようやく実用化したベーターシステムを彼らは既に懐に入れられるスティック状のサイズにまで小型化している科学技術においてもほとんどの先進種族を引き離している始末、だからこそ光の星の出身者たちはこの次元宇宙の調停者にして裁定者としての役割を自らに課した地位を確立した先導者として、数多くの種族にその威光を轟かせている。

 

それはいいのだが、種族内の諸問題に関しては彼らも干渉してこないし、内輪に留めた事であれば自由と安全といった権利の保障も手厚くしてくれるというありがたいと言える一面もあるのだが、他種族間との間でいざこざや宇宙の秩序に重大な変化が起きてしまうような問題となれば途端に、いろいろと口出しをしてくる。

今回、我々が異を唱えた問題というのも他の種族がベーターシステムの前世代であるアルファシステムを用いてる中、光の星製のものには及ばぬとはいえ我々が独自に解析・発展させることで完成させたベーターシステムの取り扱いについて制限を掛けられた件だった。

我々の内で使う限りにおいては何も言わないが、光の星の検閲を通さず、友好を結んでる種族への技術供与はおろか貸与すら許さないことやこれ以上のシステムの発展と改良を禁ずるというものだった。

 

要は宇宙の秩序よりも自分たちの地位を脅かしかねないような真似はするなということだ。

このように光の星の顔色を一々伺わなければならず、そのせいでイノベーションやパラダイムシフトといった外星人社会の革新が停滞して久しい。

安定の大事さは分かるが、あまりそれに固執しすぎては生命と宇宙の発展も進化も止まってしまうと我々は他の種族と共に抗議活動を行ったのが事の始まりだ。

 

しかし、先に述べたように光の星の力が強大すぎてまともに挑んでは勝ち目がないのは明白だった、悩み抜いた果てに光の星を中心とした現体制に基づく宇宙の秩序に変革をもたらすべく、力を集めるべく、光の星が最も警戒し130億以上にも及ぶ宇宙の知的種族の中から唯一正面から彼らに対抗しうる力を持つことから長年の宿敵である種族と接触を図ることになる。

 

なぜ最初からそうしなかったのか?その種族は出生から歪であり、目的に必要と判断すれば既存のモノを躊躇いのもなく破壊、あるいは先進途上関係なく目を付けた他種族の問題に介入して時としてその種族の社会やあるいは種そのものを都合よく作り変えることをも厭わない危険な一面とそれでいてあれほど進化した光の星の者達でさえ、迂闊に手出しできない強大な力と知性を力を持ち、独立独歩の地位を築き上げている無視の出来ない厄介者でもあったのだ。

 

その為、接触するのにも躊躇したのだが、地球で言うところの背に腹は代えられない状況にあった私たちはその種族の元に交渉に赴き、その知恵と力を借りることにした。

外星人たちにも色々な種族がいるが、ことさら異形とも呼べるその種族はあった時点で一かけらも油断できない相手であることを確信させ、交渉は難航するに思えたが、意外なほどあっさり通って思わず拍子抜けしてしまった。

彼らから提示された条件というのは、現在観測・監視している辺境の恒星系の途上種族に対する実験に協力することであるとされた。

途上種族への干渉を禁じる光の星とその同盟種族をそもそも疎んでいた彼らからすれば渡りに船だったらしい。

我々は彼らの協力を得て光の星に直接攻め込んだ。

長年に渡って全面戦争を挑まれたことなかった彼らも直後は瞠目したようだが、流石は先導者なだけあってそれ以上揺らぐことなく、自分たちに牙をむいた我々に対して強大な力を迷いなく振るって来た。

しかし、味方に引き入れたあの種族がそれに劣らぬどころかそれ以上の力で猛威を振るい、初戦は光の星を相手に初めての完勝を寸前の際に我々は湧き上がっていたが、事はそう上手くは運ばなかった。

 

なんと、おおよそ兵器と呼べるものなのか否かというものを光の星は持ち出してきたのだ、それが地球を訪れ際に分かったのだが、鐘のようなものに近かった。

それを振るわれると、真空には伝わらないはずの音色を全宇宙に響き、私はそこで意識を失ってしまった。

そこからのことはあまり記憶にない、何せ意識を取り戻した時には我々は半壊状態になり、バラバラに逃げ延びるしかなかったのだから。

 

あの時いったい何が起きていたのか、全く理解できない、どうにか宇宙を漂う遊星に残った仲間と共に命からがら潜伏して、生体内蔵情報端末の記録を漁ってみたがどういうわけか何一つあの戦いの出来事が記録もされていなかったのだから。

ただ一つ分かるのは、あれが光の星の切り札であったことは推測できることだ。

それも、これまで光の星の力の象徴とされてきた恒星間制圧兵器でさえ、あれの前では玩具以下のものに等しい程の。

 

光の星を本気で敵に回すとどうなるかという恐ろしさは我々の生命の源と言えるプラーナまで揺るがしかねない程の衝撃を与えたと言っていい。

あの種族に渡された高次元間生体端末を使って救難を要請した。

すると、途端に我々の潜んでいた遊星そのものが動き出したかと思うと、ワームホールが開き星ごと誘導されていく。

これも、彼らの力なのだろうか……あの光の星の戦士たちを初戦で圧倒し、驚愕させた力といい彼らの力もまだこれだけのことができる余力があるのか彼らの科学力もそこが知れない。

 

ワームホールを抜けるとそこは我々のいた超銀河団の外、通称超空洞(ヴォイド)と呼ばれる星々の存在しない暗黒の空洞……そんな無の世界に本来なら存在しないはずのいくつもの外星人や宇宙船の姿があった。

どうやら、我々と同じように散り散りに光の星からの追撃を逃れていた所を、高次元間生体端末を通したワームジャンプシステムによって導かれたらしい。

そして、我々の中央にあの種族の代表の外星人がワームホールの中から姿を現す。

 

その外星人もやはりあの兵器の存在は流石に想定外だったようで、その点については素直に謝罪してきたものの勝利を確信させておきながら、一転してこの有様に追いやられたこちらの立場としては流石に不満の声も出る。

 

そこで、彼らからのアフターケアとして、落としどころを探るまでの当面は光の星の手の届かない潜伏先を紹介し、しばらくの安全を保障することと我々の負った痛手を癒せるだけの支援を約束されたことでどうにかその場は収まった。

 

そこで、私たちのグループに割り当てられたのが、意識体を独立させ、情報生命体あるいはエネルギー生命体として宇宙を生身で飛び回れるに至っている私たちと違って恒星間を移動するのに宇宙船という金属質の乗り物に頼らなければならないほどレベルの低い途上種族ばかりの天の川銀河だった。

 

そこに当面の安住の先を見つけ出せたのは、よかったのだが、そこの先進文明圏の星間国家(といっても、我々の基準からすれば鉄器時代に毛の生えた程度の文明にすぎなかったが)にメガ・コーポを築き上げることで、その文明を乗っ取り政治的にも経済的にもその文明の支配を終えた矢先、その支配権を求めて権力闘争が勃発、ここまでに至る経緯からこれ以上の争いに携わるのに疲れていたので、所有していたメガ・コーポ権利を信頼できる外星人に譲ると、ほとぼりが冷めるまで疲れを癒せる手ごろな星はないかと探していた矢先にこの地球を発見し、こうして訪れたというわけだ。

 

以上が、地球を訪れるまでに至った私の経緯だ。全てを思い返したわけではないが、それはまたの機会に取っておくことしよう。

 

そして、事前に情報を収集して、この星の現生人類の社会に降り立っても不自然に思われないように立ち振る舞いや常識は必要最低限のものは身に着けた。

あとは、適当な身分を取得すれば、完璧に潜り込めるだろう。

さて、この社会に最も影響力を持ちつつ、必要以上に干渉されずに済むところから探すとするか。

 

「ん?」

 

広告として展開されている巨大なディスプレイが目に入る、男にとって非常に興味深い映像を目にする。

 

「偶像崇拝?」

 

自分の種族を含め面識のある外星人達の文化には既に時代遅れとされ、捨て去られた文化だ。

この星のホモ・サピエンスの精神レベルはまだ未成熟だという証と言っていい。

 

「ほう、この星の生命は偶像に夢を抱くのですか」

 

 『アイドルグループB小町』そう呼ばれるアイドルグループのライブ映像だ。

 

多くの人々が彼女達に魅了され、熱狂している映し出されていた光景が、男には奇妙に見えた。何故、この星の現生人類はこのような嘘を重ねる偶像に魅了され、夢を抱くのか。既に人類からすれば途方の無い年月を宇宙で生きてきた男には理解出来なかったが同時に興味が湧いた。

 

「『郷に入っては郷に従え』私の好きな言葉です」

 

男は懐の端末をスイッチを入れるとその姿が消える。

潜伏用に支給されている遮蔽システムだ。

この星の人間の技術、ましてや政府の重要施設でもないここにそれを見破る装置など存在はしないだろうから、これで十分。

 

「我々が既に捨て去った概念。私の心の疲れを癒すに足り得るような、良い退屈しのぎになれるといいですが」

 

そうして、男───メフィラスはB小町のライブの行われている会場へと向かっていった。

 

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