偽物の仮面と真実のアイ   作:ななち

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あまり需要が無さそうな弊小説内"B小町"メンバーを紹介します。


ミネちゃん … しっかり者。苦労人。
ニノちゃん … ほんわか系。食べるのが好き。
ナベちゃん … 中二系。難しい言葉使いたがる。
アイちゃん … マナトが好き。


よろしくお願いします。


★12話

 

 マナトが目を覚ます時、いつも視界に映るのは穏やかに眠るアイの姿だ。

 施設でも、斉藤家に住居を移した後も。マナトより先にアイが起きた事は一度もない。

 

 ……それは当然とも言える。なぜなら、マナトは寝たふりをしているだけだからだ。いや、正しくはこうだ。

 

 

 眠るのが怖い。何時でも起きられるように、身体の疲れだけが最低限取れるように、わざと浅い眠りで留めている。

 

 

 だから、マナトは夢を見た事がない。ただただ、漆黒の帳が落ちた意識の上で、浮上しているだけ。

 

 

「ん~……」

 

 

 アイの幸せそうな笑顔を見て、マナトは微笑む。今日も、良い夢を見られたんだな、と安堵する。

 施設に入りたての頃は、誰かがトイレに行く足音だけでも起きていた事を考えれば、アイの睡眠状況はほぼ完全に改善された事になるのだろう。

 

 サイドテーブルに置いてある目覚まし時計を見る。時刻は7時30分。今日は土曜日で、学校は休日。アイもマナトも、レッスンもトレーニングもない、完全にフリーな休日だ。

 もう少し、惰眠を貪らせてあげてもよいのだが――甘やかすな、と家主に言われている以上、マナトはアイを起こす義務がある。

 

 

「アイさん、アイさん。起きてください」

「んん~……」

 

 

 優しく肩を揺らす。だが、あまりにも力のないそれは逆に眠気へ誘う手段にしかなっていないようで。アイは、布団を巻き込みながら更に深い眠りに入ってしまう。

 こうなっては仕方ない。マナトは、心を鬼にして――アイが被っている布団の端へと、手を掛けた。

 

 

 

 

 

 ★

 

 

 

 

 

「おはようございます」

「おう、おはよ……おいマナト。あんまり甘やかすなって言っただろ」

 

 

 壱護が朝のコーヒーを飲みながら、寝室から出てきたマナトとアイを見る。サングラスは付けていない。外ではあまり見られない貴重な姿なのだが、おそらく需要はないだろう。

 マナトは正常だ。目も冴えているのだろう。が、問題はアイだ。

 

 

「まなとぉ……」

 

 

 マナトに背負われている。おんぶされている。木にしがみ付くコアラみたいになってる。

 まず間違いなく目が覚めてない。なんなら現在進行形で深い眠りにつこうとしている。

 

 

「甘やかしていませんよ。ちゃんと起こしました」

「起こしたけど、起きなかったから背負いました、だろ。行間を読ますな」

 

 

 つくづく思うが、マナトはアイに弱い――というか甘いな、と。壱護は苦いブラックコーヒーを飲みながら、そう内心でごちる。

 「起きてくださーい」とか言いながら、ゆらゆらと背を揺らしているが、逆に首元へ回ってる手や、腰に回ってる脚が強く締まっただけだ。それはな、おんぶ紐で背負った赤ちゃんをあやしてる動きなんだぞ、と壱護は言ってやりたかった。

 

 全然起きないので、ついに諦めたのか。更に言えば、手も脚もマナトに絡みついたままなので、ソファなどに座らせる事も諦めたのか。マナトは窓の外を見て「いい天気ですね」とつぶやいてる。問題の先送りである。

 

 壱護は、呆れるようにため息をつきながら――ああいや、この状況は好都合かもな、とマナトへと視線を向けた。

 

 

「マナト」

「はい?」

「お前、家出る気か?」

 

 

 壱護の言葉に、マナトは珍しく目を見開いた。アイには後ろから覗き込まれてバレてしまっていたが、まだ壱護にはその意向を伝えていないのだ。

 図星みたいだな、と壱護が呟いてコーヒーを飲む。

 

 

「なぜ分かったんですか?」

「お前、俺はこれでも数多のスカウトをやって失敗してきた男だぞ。お前ほどじゃないが、観察眼ぐらい持ってる」

「失敗なのにですか」

「酸いも甘いも知ってるって事だ」

 

 

 壱護が立ち上がり、リビングに設置されている戸棚へと歩いていく。その内の一つを開くと、中から冊子のようなものを取り出して、机の上に広げて見せた。

 

 冊子の中にあったのは、病院の案内パンフレットだ。都内だけではなく、東北や名古屋、大阪――宮崎に至るまで、様々な病院のパンフレットが取り揃えられている。

 それを見て、共通点が分かる者は少ないだろう。だが、マナトはこの冊子を掃除の際に偶然見てしまっていて――その病院に共通する事柄が、分かっている。

 

 

 ――――不妊治療で高い実績を残してる病院。

 

 

 それが、共通点だった。

 

 

「気、遣わせたろ」

「……いえ」

 

 

 子供を作る気が無いのではなく、作れない。斉藤夫妻に子供がいない理由はそれだった。

 マナトは鋭い。それこそ、人の一挙動を見て十の事情を把握するほどには、観察眼がある。そしてそれを知るからこそ――望まれたように、動けるのだ。

 気にするなと言うのは容易い。だが、結局それは心にしこりの残る結果になる。だから――壱護は、マナトが家を出る気なら、それを止める気はなかった。

 

 

「……なぁ、マナト」

「はい」

「この世界に入った事、後悔してるか?」

 

 

 壱護は、目線を合わせず、そうマナトに聞く。

 壱護だって、バカじゃない。"宵谷"という苗字。卓越した――異質ともいえる演技。点と点を繋ぎ合わせていけば、いずれ辿り着く結論がある。

 もしそうなら、マナトにとって芸能界とは――憎悪すべき対象なのではないか。そう、思えてしまう。

 

 アイとマナトを見ていれば、分かる。アイは、異性としてマナトが好きだ。本人は分からないと答えるだろうが、周囲から見ればバレバレも良い所だ。

 

 もし、アイをアイドルにスカウトしていなかったら。アイはいずれマナトと相思相愛として、周囲に隠す事なく幸せな毎日を送れたかもしれない。

 

 もし、アイをアイドルにスカウトしていなかったら。マナトは芸能界に関わる事なく、安穏な日々を送れたかもしれない。

 

 もし、たらればの話なのは分かっている。だが――こうやって、幼い少年少女の夢を食い荒らしていく芸能界に、彼らを引き込んだのは、果たして正解だったのか。壱護は、その答えを出せていなかった。

 

 

「していませんよ」

「――!」

 

 

 だが、そんな逡巡を吹き飛ばすように。マナトは、はっきりとそう答える。

 

 

「私は、望まれた通りに動きます。そうするのが得意なんです。だからこの世界に入った。でも、それでも、()は――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まなとぉ……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 言葉は最後まで続かなかった。マナトの背の眠り姫が、意識を取り戻したからだ。

 すぐに切り替えたマナトが「ああ、起きましたか」とアイをソファに座らせる。

 

 

「おはようございます、アイさん」

「おはよぉ……」

「朝ごはんは何がいいですか」

「まなとぉ……」

「はい、わかりました」

 

 

 訳するなら「マナトの作った物ならなんでもいい」だ。料理をする側からすれば困った発言だが――アイのこの発言は文字通りである。マナトの作った物なら安心して食べられる、という信頼の言葉なのだ。

 

 

「斉藤社長も朝ごはんいりますよね。簡単に作りますよ」

「あ、ああ……」

 

 

 あまりの切り替えの良さに、少し戸惑いながらも返事を返す。

 

 ……芸能界に入った事を後悔していない、と言ったあの瞬間。壱護は、マナトの何かが剥がれるような音が聞こえた気がした。

 一瞬だけ見えた、あの親を探す子供のような、不安げで泣きそうな表情。あれが、もしかしたら――マナトの、素の姿なのかもしれない。

 

 小さく、机の下で拳を握る。まだ、壱護にはマナトという人間は、理解できていない。

 

 

 




前話の感想見て「業が深い」と思いましたが、脳内に黎明卿を宿してる自分が言えた義理じゃないな、と思いました。
前話は、多分感想返すにも黎明卿が「おや、おやおやおや」としか言わないので返せません。申し訳ない。
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