偽物の仮面と真実のアイ   作:ななち

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なぁ、なんでだ。なんでこんな話を書いた?

それは……情緒が破壊されたからだ。

何故、情緒が破壊された?

……前話を書いた後に、原作を見たからだ。

そうか……そりゃあ、仕方ないよな……



ほんと何で書いたんだろう。よろしくお願いします。


★14話

 

 その日、株式会社"苺プロダクション”の事務所には見慣れない人がいた。

 

 全身をきっちりとしたスーツで包み。

 ネクタイをシンメトリーに装着し。

 黒髪を七三分けにし、眼鏡の奥から鋭い赤い眼を覗かせる、社会人になりたてぐらいで通用しそうな男性。

 

 男性は、深呼吸をする。大きく吸って、大きく吐く。彼の手に持たれているのは、帯に「B小町♡LOVE」と書かれたハチマキ。

 まるで神事に使う祭具を扱うような、そんな慎重さで頭上に掲げたソレを──一気に額に巻いた。

 

 

「──装着。行ってきます」

「待て待て待て待て待て待てマナト、待て」

 

 

 そのままビジネスバッグを片手に事務所を出ていこうとする男性を、壱護が必死に止める。

 振り返った男性の顔──少し輪郭に丸みが出ていたり、体型が違ったりするが、本当によくよく見れば、顔立ちはマナトだった。

 とりあえず止められた事に壱護は安堵の息をこぼしながら、男性──マナトを見る。

 

 

「まず、だ。なんだその恰好」

「変装です」

 

 

 ……まぁ、そうだろう。

 黒髪はウィッグだろうし、瞳の色はカラーコンタクト。身長も微妙に高くなってる辺り、シークレットブーツでも履いてるのかもしれない。体型が絶妙に違うのも、タオルでも巻いてるんだろう。ついでに顔の輪郭は、頬に綿を詰めて補正してあるようだ。

 もうほとんどコスプレの域だ。が、壱護が聞きたいのは「その恰好の意図はなんですか?」ではなく「なんで変装してんだよ」である。

 

 

「……なんで変装してんだ」

「"B小町"のライブに行こうと思いまして」

 

 

 ……それならせめて、そのハチマキは現地で付けてほしい。"苺プロダクション"の事務所から明らかなファンみたいな人が出てきたら、それはそれで騒ぎになるだろう。

 

 と、いうか。

 

 

「事務所の関係者枠で行こうと思ったら行けるだろ、お前」

 

 

 所謂スタッフ枠であったり、仕事関係であると明示されていれば、事務所の関係者としてライブは見られるはずだ。わざわざ変装する必要も──いやまぁ、マナトも役者として有名になってきたし、多少の対策は必要かもしれないが。そんなにガチガチに変装する必要はないはずだ。

 

 

「前で応援したいので、一般枠で参加したいんですよ」

 

 

 別に応援は関係者枠でも出来るんじゃねーか、と思いつつも──とりあえず譲る気は無さそうなのが分かった。

 だが、それよりも──壱護には気になる事があった。

 

 マナトが「応援したい」と言ったのだ。今まではアイや"B小町"のメンバーに「暇あったら見に来て!」と言われてから行ってた、マナトが。

 今まで自主的に見に行った事が無かったわけではない。仕事の手伝いや、アイのサポートで行ってた事は何度かある。

 だが、そんな事情など関係なしに──自分の意志で、純粋に応援して行きたいと言っているように見えた。

 

 ……一人暮らし(アイと同棲)をするようになった辺りから、マナトは少し変わったような気がする。そう壱護は感じていた。

 

 親心、とでも言うのだろうか。壱護は胸中に暖かいモノが広がっていくような感覚を覚えて──それはそれとして、あんまり目立つなよとは思う。

 

 

「……まぁ、身バレしないようにな。次、金田一さんから舞台の主演の話、貰ってるんだから」

「分かっています。大丈夫ですよ、抜かりはありません」

 

 

 ……本当に大丈夫かなぁ。そんな壱護の思いとは裏腹に、マナトは軽快に「行ってきます」と事務所を出ていった。

 

 

 

 

「……いや、ハチマキは現地で着けろって!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ★

 

 

 

 

 

 

 "B小町"は、活動歴としてはそろそろ四年目に差し掛かる。それだけやっていれば固定客は付くし、全体的なパフォーマンスの高さもあって人気自体も出てきている。

 まさにスターダム街道を突き進みつつあるアイドルグループ。そのライブ会場に──歴戦のファンからすると、見慣れないスーツ姿の男がいた。いやまぁ、マナトなんだけど。

 

 

「あ、あいつは……!」

「知ってるんですか店長!?」

「い、いや……知らねぇけどすげぇ気迫だ……!」

 

 

 スーツ姿というだけでも目立つのに、メンバーそれぞれのカラーに合わせたサイリウムを、両手に爪のように持っている。

 腕を組み、仁王立ちで開始を待っているその姿は、まさしく阿修羅像。整った顔立ち、額のハチマキも含めて、めちゃくちゃ目立ってた。

 

 

「それでは、”B小町"で歌って踊って頂きましょう! "サインはB"!」

 

 

 MCの合図と同時に、会場全体にポップス調の楽曲が流れ始める。観客のテンションは一瞬でマックスとなり、歓声が響き渡る。

 スモークが焚かれたステージの奥から、可憐な衣装に身を包んだアイドルが、一斉にその身を走り出す──! 

 

 

「アナタのアイドル──ッ!? サインは"B"! chu!」

 

 

 ほんの一瞬。それこそコンマ数秒のレベルで、センターの少女──アイの動きが固まった。いや、そりゃ分かるもの。目の前にいるもの、サイリウム振り回してるマナトが。

 だが、流石にそこはプロ。一瞬の動揺も、高度な技術で磨かれた嘘で覆い隠して、可愛い自分を演出する。

 

 

「B小町! (ふっふー!)」

「B小町! (ふっふー!)」

 

 

 ────なんだあのキレの良いオタ芸!? 

 

 ────あ、あれが真のオタ芸……俺たちがやってたのは、今まで一体……? 

 

 ────て、店長! しっかり! ま、負けんな! 俺たちも盛り上げるぞ!! 

 

 ────うおおおおおぉぉぉぉぉっっ!!! 

 

 

 いや、無理。無理無理。元々の身体能力と、演技能力で身に着けたであろうマナトのオタ芸は、すさまじいキレで。それを意識の外へ持っていって、踊り続けるなんて無理。

 アイの完璧だった笑顔は、段々と突き崩され。他のメンバーも、マナトのキレッキレのオタ芸を見ながら内心「やっば」と思っていた。

 

 

 

「アナタのアイドル! サインは"B"! chu!」

 

 

 

 ステージは、大盛況の中で幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 ★

 

 

 

 

 

 

 場所は変わって、マナトの自宅。当たり前のようにソファに座っているアイが、マナトに向けてジト目を送ってる。

 どうにかこうにか、ライブは成功に終わったけど。途中でミスでもしたらどうする気だったのか、と。

 

 

「ねぇー今日のライブなんだったのー笑い堪えるの大変だったんだけどー」

「すみません。ホットミルクいりますか?」

「飲む。あ、甘くておいし」

 

 

 買収完了である。まぁ、アイもマナトが自分から応援に来てくれてる事が嬉しいので、そんなにせっつくような事でもないのだが。

 ポチポチと、ライブ後の習慣でもあるエゴサを行う。"B小町"がどれだけ話題になったかの指標となるそれは、まぁ案の定「なんかすっげぇキレッキレのオタ芸やってる人いたんだけど」という話題ばっかりだ。

 

 ……その中に、一つ気になる呟きがあった。

 

 

フォックステイル @Fox_tail2001

 今日のアイ、めっちゃ可愛かった~。

 普段も可愛いけど、今日はもっと自然な笑顔? っぽくて……推せる~~ #B小町

 

 

「……へー。なるほど……」

 

 

 ────……完璧じゃなくてもいいんだ。

 

 その日、ホットミルクを啜りながらマナトの肩に頭を預けたアイは、終始ご機嫌だったという。

 

 

 




引っ越し作業とかがあるので、更新が少し止まります。
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