偽物の仮面と真実のアイ   作:ななち

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慈しみ合う心こそがヒトを家族たらしめる。血はその助けに過ぎない。

じゃあ、血が繋がっていても、心が離れていたらどうなるんだ?


☆15話

 

 時が過ぎるのはあっという間だ。最近、特にそう感じるようになった――とは言っても、私はまだ16年しか生きていないのだけど。

 高校という、ある意味青春の最後のステージに入ったからなのか。それとも、アイドルの仕事が増え始めて、忙しい日々を送っているからなのか。

 その辺りを深く考えることはないけど、ひとつだけ確実な事はある。

 

 

 ――私が今日で16歳になる、という事だ。

 

 

 いわゆる誕生日。生誕を祝う日。その16回目を、私は今日迎える。

 小さい頃――お母さんと過ごしていた頃に、誕生日を祝われた事は無かった。もしかしたら、私の記憶にないくらい小さい時には、祝ってくれていたのかもしれないけど。

 明確に誕生日を祝ってもらったのは、施設にいた時。マナトが「アイさんの誕生日は何時ですか?」と聞いてきて、答えた時だ。

 

 ……誕生日が、4カ月以上も前に過ぎていた事を知ったマナトが、晩御飯のおかずを分けてくれたのが、一番最初。「遅いかもしれませんが、生まれてきてくれて、ありがとうございます」って。あの時は驚いたなぁ。誕生日って祝うものだったんだって初めて知ったから。

 マナトは、それから毎年、誕生日の度に祝ってくれた。もちろん、豪勢なパーティをやったとか、ケーキを買ってくれたとかじゃない。施設だったから、そんなに経済的な余裕があったわけでもなかったし。

 でも、晩御飯のおかずを増やしてくれたり、手編みのマフラーをくれたり……まぁ、マナトの事だから、施設の子や、なんならスタッフさんの誕生日も祝ってたんだけど……嬉しかったなぁ。誰かに生まれた事を祝ってもらえるのが、嬉しいなんて考えた事もなかった。

 

 社長の家に移ってからは、社長が祝ってくれるようになった。シャンパンは飲めないから、シャンメリーを用意して。マナトが料理を用意して。初めて誕生日のケーキの蝋燭を消した。

 ……マナトが張り切りすぎちゃって、料理の量が多すぎてケーキ食べきれなかったのは、今じゃ笑い話になるなぁ。頑張りすぎだよ。

 

 だから私は誕生日が好きだ。もちろん、美味しい物が食べられるとか、プレゼントがもらえるかも、っていう現金な面がある事も否定しないけど……誰かに「私は生きていて良かったんだ」って言ってもらえるのが、好きなんだ。

 

 

「ふふーんふふふーん」

 

 

 鼻歌を歌いながら、駅前のショッピングモールの前を進む。一応、簡単に変装っぽく、帽子を付けて、制服の上からパーカーを羽織ってる。社長が「今日は18時以降に帰ってこい」なんてメッセージを送ってくるもんだから、暇潰しがてらウィンドウショッピングを楽しんでいるところだ。

 さっきまではマナトと一緒だったけど、先に帰っちゃった。まぁ、いつも「一緒にマンションに入るなよ」って社長に言われてるから、そんなに珍しい事でもないけど。

 別に一緒に入っても良いんじゃない? って思うんだけど、社長曰くこれは練習だとか。人の目を気にしとけって事かな。

 

 ショッピングモールの中に入って、気の向くままにブラブラする。服を見てみたりとか、マナトに倣って本屋に行ってみたりとか……十分ぐらいでリタイアしちゃったけど。

 甘い匂いに誘われて、ケーキ屋さんに入ったりとか。流石に食べちゃうと晩御飯も入らなくなっちゃうから、冷やかしになっちゃうんだけど。

 

 

「あ、これ美味しそう」

 

 

 店頭に並べてあったケーキをスマートフォンでパシャリ。そのまま"B小町"のグループLINEに投稿する。速攻で既読がついた。

 ミネちゃんからは「糖質制限中の私によくこんなもの見せられたわね。覚えておきなさい」って怒りのスタンプ付きのメッセージ。うん、ごめん。

 ニノちゃんからは「わー美味しそうー食べたいなー」っていうメッセージ。相変わらず食べるの好きだなぁ。

 ナベちゃんからは「ザッハトルテって響きかっこいいよね」っていうメッセージ。何のことかと思ったら、撮ったケーキがザッハトルテだった。そこなんだ、注目するところ。

 

 

 お買い上げになりますかーって言ってくれた店員さんに謝って、お店を出る。

 もうそろそろ帰り始めたら、ちょうどいい時間になるかな――って思って、ショッピングモールを出ようとしたところで。

 

 

 誰かが、くいっと私の服の袖を引っ張った。なんだろう、って思って袖の先に視線を向けてみると、そこには黒髪の小さな――多分4~5歳ぐらい? の男の子がいて。なぜか、潤んだ眼で私を見つめていた。アメジストみたいな色の眼から、涙がこぼれ落ちそうになってた。

 

 

「……おかーさん?」

 

 

 ……私ってそんな大人っぽく見えるかなぁ。大人っぽい顔立ちってよく言われるけど、自分ではそう思った事はないんだけど。

 ただ、なんとなくだけどこの子の事情は察した。多分、この子は迷子だ。お母さんと間違われるのは、ちょっと複雑だなぁ。

 屈んで、目線を合わせてあげる。このぐらいの子って、自分よりおっきい人ってみーんな巨人に見えるんだよね……。

 

 

「んーん、違うよ? ボク、迷子?」

「わかんない……」

 

 

 まぁ、そうだよねぇ。まだ小さいし、自分が置かれてる状況とか正確に把握なんて出来ないよね。

 

 

「お母さん探してるの?」

「うん」

 

 

 受け答えがしっかりしてる。良い子だなぁ。ちょっと泣きそうだったけど、ちゃんと自分がやりたい事も言ってくれてるし。

 そうしたら、迷子センターに届けるのが良いのかな。あんまり経験ないけど、それぐらいなら私でも出来そう。

 

 

「じゃあ、お姉ちゃんと、お母さんが見つけやすい場所にいこっか。手繋ぐ?」

「……! うん!」

 

 

 キラキラした眼で笑った。可愛いなぁ。年下の子とか、同年代ぐらいの子だったら、割と顔覚えやすいんだよね。気を遣わなくていいからかな。

 男の子と手を繋ぎ、ゆっくりと歩き出す。ちょっとした冒険みたいで、私は不覚にもわくわくしていた。

 

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 

「ご協力ありがとうございました!」

「いえいえー」

 

 

 迷子センターに男の子を連れて行くと、爽やかなお兄さんにお礼を言われた。良い事した後は気分がいいなぁ、うん。

 ……ちなみに、このお兄さんは"B小町"のファンだったみたいで。最初に「"アイ"ちゃん!?」って驚かれた。サイン書いた方が良いのかな。

 

 

「ボク、名前言えるかな?」

「あまはら、だいち。5さいです」

 

 

 お兄さんの質問に、しっかりとした言葉で返す男の子。立派な子だなぁ。

 そのあと、お兄さんが館内放送を流しに行った辺りで、私も帰ろうかなーって思ってたんだけど。

 

 

「おねーちゃん……」

「……お母さん来るまで、おしゃべりしよっか!」

 

 

 あんな寂しそうな顔されちゃったら、流石に「はい、さようならー」ってわけにもいかないや。

 男の子のお母さんが来るまでの間、男の子とちょっと駄弁って。お兄さんの手帳にサイン書いてあげたりして。私はアイドルなんだよーって男の子に教えたりして――5分くらいかな。

 遠目で、ちょっと慌てた様子の女の人が、迷子センターに向かって走ってるのが見えた。黒髪だし、目の色も一緒。この子のお母さんかなーって思ってたら、男の子が「お母さん」って言って走って行っちゃった。

 

 

 出会えてよかったねーって、思ってたんだけど。

 

 

「ああ、ダイチ! 心配したのよ!」

 

 

 ……あれ?

 

 ……女の人の声を聴いて、ちょっと頭痛がした。なんだろう、どっかで、聞き覚えが、あるような、ないような。

 そんな私のちょっとした気持ち悪さをよそに、男の子――ダイチ君とお母さんは抱き合って。

 

 

 

「おかーさん、おかーさん!」

「もう、一人でどこかに行っちゃだめよ…………私の()()()ダイチ」

 

 

 

 

 

 

 

 ――――ごめんねアイ。

 

 

 ――――貴方の事、ちゃんと愛しているのよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……あ。

 

 ああ。

 

 あああああ!

 

 痛い。頭が、痛い。靄がかかってた記憶が、ズキズキって鮮明になっていく。

 

 いっぱい叩かれた。いっぱい、蹴られた。思い出そうと思っても、思い出せなかった"お母さん"の顔。ああ、そうだよ。そうじゃん。

 

 

 私の、髪も、瞳の色も――――お母さん譲りだったじゃん。

 

 

 

 

「貴女がダイチを送ってくれたの? ありがとうございます……!」

「ッ、いえ! 無事に会えてよかったです!」

 

 

 女の人に話しかけられて、咄嗟に笑顔で返す。アイドルとして磨いた笑顔の作り方、声の作り方に、今までで一番感謝したかもしれない。

 

 勘違いかもしれないって、思いたかった。でも、少し記憶にあるお母さんより歳を取ってるかもしれないけど……確かにお母さんだった。顔も、声も、全部一緒。

 

 ……いや、もう気付いてる。この人は、私と血が繋がっているって――感じてしまった。

 

 ……聞きたい。なんで、迎えに来なかったの、って。でも……目の前で、男の子――ダイチ君に慈しむような眼を向けている"お母さん"は、もう、幸せそうで。私の事なんか、すっかり忘れてしまったみたいに、幸せそうで。

 

 吐き気がした。内臓が全部ひっくり返るような、気持ち悪さ。多分、今の私は笑顔で隠せないぐらいに顔色が悪くなってる。

 それに気付いたのか、"お母さん"が、心配そうな表情でこっちを見てきて。

 

 

「あら……貴女、大丈夫? 顔色が――」

「――大丈夫です! ごめんなさい、私用事があるので行かなきゃ! ……良かったね、ダイチ君! お母さん見つかって!」

「うん!」

 

 

 やめて。そんな表情で私を見ないで。"お母さん"、私をそんな表情で見た事なかったじゃん。

 帽子を目深に被って、逃げる。後ろから呼び止める声を無視して、一目散に逃げて、見つからないようにトイレの個室に逃げ込んだ。

 

 

「……う、ええっ!! げほっ、げほっ!!」

 

 

 嘔吐(えず)く。何も入ってない胃から、逆流してきた胃液がボタボタってトイレの中に落ちていく。気持ち悪い。気持ち悪い。

 なんで、そんなに幸せそうなの。私の事、本当に愛していなかったの? 考えれば考えるほど、気持ち悪さが湧き出てくる。

 

 

「げ、ほっ……はぁ……はぁ……」

 

 

 きっと、アイドルとして絶対見られちゃいけない顔になってる。涙でメイクはボロボロだし、げっそりしてるのが鏡を見なくてもわかる。

 

 

 いやだ。いやだ。寒いよ。寒い。心が、冷たい。

 ……マナトに会いたい。会いたい。

 

 

 

 ――――私を、愛して。

 

 

 




最近、黎明卿のボイス集を聞きながら寝てます。
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