偽物の仮面と真実のアイ 作:ななち
すげぇよナベちゃん、きみ今作で一番適切な例え生み出したぞ。
セミが鳴いている。
父を亡くしたのは、日の眩しい暑い日だった。穏やかな晴れ空に、立派な入道雲が浮かんでいた。今でも、血の臭いが鮮明に思い出せる。
母を亡くしたのは、雨が上がった後の晴れた日だった。虹が、母が死んだ事を祝福するように、憎々しいほど綺麗だったのを覚えている。
マナトにとって、夏は一番嫌いな季節だ。
「僕ね、好きな子が出来たんだ」
もし生きていたら、の想像の中の両親が、驚いたように思えた。
……父は「ほう、ほうほう。マナトも男の子ですねぇ」とニヤニヤとからかうような笑みを浮かべている。
……母は「良妻賢母でないと認めません」と言っていて。そういえば、母はやけに女性に求める基準が高かった気がする。厳しい家で育ったからだろうか。
全部、想像の中の話だ。返ってくるのは、煩いセミの鳴き声と、風が引き起こす、さざ波のような葉擦れの音だけ。
「お星さまみたいな子なんだ」
それが、マナトが両親にアイの事を伝えるのに喩えた言葉だった。
一番星の生まれ変わり。誰もが目を奪われる、誰にでも愛される輝きを生まれ持った子。
「でも、寂しい子なんだ」
友達がいない、とか。孤独だとか孤高だとか、そういう意味ではなく――輝きが強すぎる。強すぎる光は、周りの光を塗りつぶしてしまう。
きっと、このまま放っておけば。誰にも理解されず、誰の理解も求めない。輝きに群がる羽虫はいても、輝きを直視できる人はいない。そんな、寂しい運命を辿ってしまう。
「『愛』を欲しがっているのに、『愛』に怯えてる子なんだ」
理解してくれる人が欲しい。『愛』してくれる人が欲しい。そんな願いを持っているのに、理解されるのを恐れる。『愛』を恐れる。
自分が嘘なのか本当なのか分からない。強い輝きの中で、自分を見失ってしまっている。助けて、って泣いている。私を見つけて、と叫んでいる。
「…………放っておけなかったんだ」
きっと、初めて出会ったあの時から――”宵谷マナト"は"星野アイ”に焦がれている。瞳を焼かれている。
『愛』を求めているのは、見ればわかった。誰かに『愛』されたい、と望んでいる事はすぐにわかった。だから、"宵谷マナト"は望まれた通りに行動した。
……そのはずだった。"宵谷マナト"は、誰かに望まれない限り生きてはいけない存在だから。
なのに。
いつしか、眼で追っていた。その輝きに、魅せられていた。ブラックホールのように、瞳に吸い寄せられていた。
望まれたから『愛』するのではなく、マナト自身がアイを『愛』したい、と思うようになっていた。
……今思えば、彼女に恋をしていたのかもしれない。
――――私と家族になりましょう、アイさん。
施設を飛び出していったアイを追いかけたあの時、こんな事を言うつもりはなかった。彼女が求める『愛』に、自分の望みを載せてしまった。
その事に気付かされたのは――ずいぶんと、最近の事だったが。ようやく、"宵谷マナト"は自分の願いを、望みを知った。そして、愕然とした。
「……ごめん、父さん、母さん」
望んではいけない自分が、何かを望んでいた事に失望した。そんな事が赦されるはずがないのに。
でも、だからこそ。自覚したからこそ、ケジメはつけなければならない。そうでなければ――"宵谷マナト"は"星野アイ"を『愛』する事などできない。
「……赦してほしい。僕が、アイさんを『愛』する事を」
あの子が、『愛』を知れるまで。自分の『愛』に気付ける日まで。"宵谷マナト"が、"星野アイ"を支える事を。『愛』する事を、赦してほしい。
両親から応答は返ってこない。返ってくるはずがない。だから、これは、単なる意思表明にしか過ぎない。でも、もし。赦されるのなら、いつか、きっと。
「……報いは受ける」
きっと。
「いつか、そっちに逝くよ。その時は――」
きっと。
「――――どうか、僕を赦さないでほしい」
"宵谷マナト"は――罰を受ける事が出来るのだ。
★
正午を告げる鐘が鳴った。袈裟を着た一人の坊主が、境内の掃き掃除をしている。剃髪された頭に、強い日射が反射して鏡のようになっていた。
この坊主こそが、マナトの古い顔見知りである住職。正確に言うのであれば、マナトの父である"宵谷愛弥"の古い友人だった。
マナトが寺を訪ねてきた時、住職は驚いた。彼の母の納骨以来出会っていなかった、というのもあったが――久しぶりに出会ったマナトは、彼の父である"宵谷愛弥"が若返って蘇ったのではないか、と錯覚してしまうほどに瓜二つだったからだ。
……今でも、思い出す。"宵谷家"の墓に、彼の父を納骨した時は、マナトという少年は気丈に振舞って、嘆いていた母を守ろうとしていた。
その一年後。母が亡くなり、納骨をした時は――呆然と、涙を流していた。後悔を滲ませた慟哭が、響き渡った。ちょうど、今日のような、セミの声が煩い夏日だった。
「お疲れ様です」
「ああ、マナト君」
霊園から、マナトが出てくる……見れば見るほど、"宵谷愛弥"の生き写しのように見える。それは、親子だから遺伝的に似ているのだ、とかそういう事ではなく――マナト自身が、"宵谷愛弥"になろうとしている。そう、住職には思えてしまった。
「もう、いいのかい?」
「はい。ちゃんと、報告もできましたから」
晴れ晴れしい、というのだろうか。淀んでいた気が、憑き物が取れたような様子だった。
……だが、それでも。仏門を叩いた身であるからか、俗世から外れようとしているからか。住職には、マナトが――泣いているようにも見えた。
「マナト君」
「はい?」
帰ろうとしていたマナトを呼び止める。もし、彼を救えるのなら、それは自分ではないのだろう、とわかっていてもなお。
かつての友人の面影をなぞる少年を、放っておく事は出来なかった。
「その生き方は、辛くないのかい?」
「…………ありませんよ」
……望む事は、罪だ。"宵谷マナト"は、"宵谷マナト"を望んではいけない。
それでも、彼は望んだ。"星野アイ"を、望まれたからではなく、自分が望むままに『愛』する事を。
「僕が、望んだことですから」
マナトは笑っていた。今日の空の快晴とは程遠い、寂しげな笑みだった。
★
石段を下りる。よく手入れされているとはいえ、それでも石の間から草木がところどころ伸びている階段は、時の流れを実感させる。
子供の頃に訪れた頃は、もっと綺麗だったような気がした。成長して、見方が変わったのかもしれないが。
「…………?」
ふと、マナトは自分の靴音が二重に聞こえたように思えた。いや、立ち止まってみれば、すぐに分かる。
自分の靴音とは違う音が、石段の下の方から聞こえてきた。
珍しいな、とマナトは思った。このお寺は霊園を管理してこそいるが、そもそもが山中の辺鄙な所にある事もあって、人通りは極端に少ない。
住職もマナトの事を「久しぶりの来客だよ」と言っていたのだ――霊園に眠っている人が、あまり縁に恵まれぬ無縁仏が多いのも、その理由なのだろう。
だから、自然とその靴音に集中する。石段の中央辺りにある、少し拓けた踊り場のような場所にたどり着き、少しだけ待ってみる事にした。
「…………ん?」
すれ違えば、会釈程度の事はしようと思っていたマナトの表情が、固まった。それぐらい、石段を登ってきた人物は意外だった。意外すぎた。
霊園も、墓も、なんならこの炎天下すら似合わなそうな、涼し気な表情。
アイが、マナトに似ているね、と言った男。
「奇遇だね、こんなところで」
マナトとよく似た、柔らかな金髪。蒼の瞳。唯一の違いは、その目に昏い昏い星を宿しているか、否か。
「……カミキ、くん?」
"劇団ララライ"で共に演劇を学んだ、知人。"カミキヒカル"が、そこにいた。
"B小町"のステータス(ファンクラブ名誉会員"店長"調べ)
■ルックス
アイちゃん>ミネちゃん≧ニノちゃん=ナベちゃん
■ダンス
アイちゃん>ミネちゃん=ナベちゃん≧ニノちゃん
■歌
アイちゃん>ニノちゃん≧ミネちゃん=ナベちゃん
■スタイル(豊満→スレンダー)
ニノちゃん>アイちゃん>ナベちゃん>ミネちゃん
■知力
ミネちゃん>ナベちゃん≧ニノちゃん>アイちゃん
■食レポ
ニノちゃん>>>アイちゃん=ナベちゃん=ミネちゃん
■エンタメ属性
ナベちゃん>>>アイちゃん=ニノちゃん>ミネちゃん
あとなんでお前が出てくるんじゃい、と思った皆様。私もです。
(あと2話ぐらいでイチャイチャ再開すると思う)