偽物の仮面と真実のアイ   作:ななち

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引っ越ししたばっかりなので、物理的に執筆時間が取れない。けど、脳内では文章が組みあがっていくジレンマ。

物書きあるあるだと思います。

ちょっと今回は短いです。
あと、今更ですけど感想ありがとうございます。お陰で頑張れてます……!


☆22話

 

 言葉を失う、っていう表現があることは知っていた。それぐらいビックリした、とか感動した、とか。そういうレベルを表す言葉。きっと、今の私はその表現がピッタリ嵌る表情をしている。

 少し薄暗い室内。外の暑さから隔絶された、ひんやりとした空気。ほのかに香る潮の匂い。聞こえてくるさざ波のような水音。今、私は海の中にいるんだって錯覚する。

 まるで別世界にエスコートされたみたいに感じた。思わず、マナトの手を握る力をぎゅって強めちゃうぐらいに、ワクワクとドキドキが止まらない。

 

 

「わぁ……」

 

 

 水槽の中をトンネルみたいに通る廊下。見たこともない魚が、綺麗なサンゴや、大きな岩の周りを泳いでいて。水面から光が差し込んで、キラキラって輝いてる。

 海の底を散歩してる気分だった。ブルブルって身体が震えて、胸の中が熱くなっていくような感じ。これが感動してるって感覚なんだろうな、って分かる。

 

 マナトも、言葉を失ってた。いつも「なんでも知ってますよ」みたいな顔してる君も、知らない事があったんだねって、ちょっとクスっとしちゃった。

 水槽の近くを、大きな魚が泳いでいった。多分、エイかな。自分よりも大きい魚がすぐ近くを通って、驚いた私は思わずマナトの腕を抱き込んで。それに驚いたマナトがビクッって反応して、お互いに目を合わせる。なんか、そのやり取りが面白くて、笑っちゃいそうになった。いつも、もっと大胆な事してるはずなのにね。

 

 

 

 

「へー……クラゲのうねうねしてるやつ、足じゃなかったんだ」

「腕なんですね……」

 

 

 クラゲがたくさん泳いでる水槽があった。ふわふわ漂っている白色が、ライトの光に合わせて鮮やかに色を変えていくんだ。

 水槽の前に展示されてるクラゲの豆知識みたいなのに目を通して、一緒に驚く。そもそも腕とか足の概念があったんだって所に驚いた。

 

 

「マナト、知ってた? クジラとイルカが同じって」

「一応は。サイズで分別されるみたいですね」

「同じ魚なのに、不思議だよね」

「……クジラとイルカは哺乳類ですよ、アイさん」

 

 

 大きな水槽の中を悠々と泳いでるイルカを見てたら、多分ツアーか何かで来てる人達に解説してたスタッフさんが「クジラとイルカは同じ生き物」って言っていた。

 へーって思いながらマナトに聞いたら、知ってたみたい……え、魚じゃないんだ、イルカとクジラって。

 

 

「あ、アザラシだ……鳴き声あんな感じなんだ?」

「……思ったより野太いですね」

 

 

 陸の上にあがってたアザラシが、凄い声で鳴いてた。お腹空いてたのかな? いやでも、なんか……イメージと全然違う鳴き声だったなぁ。

 前に、酔っぱらって潰れちゃった佐藤社長のイビキみたいな声だった。もうちょっとこう、可愛い声かなーって思ってたんだけど。

 

 

 

 

 …………楽しいなぁ。今、私とマナトは一緒の感覚を共有できてる。自分の世界が広がっていく感覚。それが、たまらなく嬉しい。

 

 

 

 

 私とマナトは、距離的には近いけど、心の距離は遠かった……と思う。私が望めば、君は望んだ通りに返してくれる。私が愛を望めば、君は望んだ通りに愛してくれる。その愛に、私はずっと救われていた。愛されてるんだ、っていう実感が、私を形作っていったんだ……まだ、愛するって感覚は分かってないし、怖いけど。

 

 初めは、それで満たされていた。マナトがいれば、それだけで良いんだって思ってた。でも、だんだん私は欲張りになっていった。

 人の欲望は際限がないって、誰かが言ってたけど、その通りだと思う。私は満たされれば満たされるほど、幸せだって実感すればするほど、どんどん次は、次はって欲しくなっていった……いつか痛い目見そうだなぁ。

 

 

「イルカショーが始まるみたいですね。行きましょう、アイさん」

「うん!」

 

 

 館内に流れたアナウンス。マナトが私の手を取って、引っ張ってくれる。

 望むだけじゃない。望まれるだけじゃない。お互いに、求めあっている事が、この手の温もりで感じられる。

 

 ……ねぇ、マナト。私、君にも幸せになってほしいんだ。だから、私を──"星野アイ"を望んでほしい。私が、君を幸せにしたいから。

 

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 

 イルカショーが終わって、餌やり体験をやって。これ以上ないってぐらいに、水族館を楽しみ終わった時には、もう日が傾き始めてた。

 夏だから日の出てる時間は長いけど、夕暮れになったらあっという間だ。水族館から出ていく家族連れの楽しそうな声が、カラスの鳴き声に混ざって響いてる。

 

 

「んー! 楽しかったぁ……イルカショーすごかったね!」

「ええ、大迫力でした……自然の神秘を肌で感じましたね」

 

 

 悠々と海中を泳ぐイルカ。水飛沫を立てながら、2メートルも3メートルもありそうな高さのボールに、タッチしちゃうぐらいのジャンプ。上手い言葉が見つからないけど、凄い迫力だった。

 マナトもそれを思い返してるのか、声色にもちょっと熱が籠ってて。いつも大人びた姿しか見てなかったから、新鮮さの方が先に来ちゃう。

 ……まぁ、私は。水飛沫からマナトが庇ってくれた時に、胸元に引き寄せられた辺りで1回記憶が飛んでるんだけど。

 

 

 

 ────ぐぅ。

 

 

 

 ……何の音だろうって思ったのは、私のお腹の音だった。夢中で気付かなかったけど、もう時間帯的には夕飯の時間が近づいていて、私の身体はやけに時間に正しく「おなかすいたよー」って言ってくる。

 思わずお腹を押さえて、マナトの方を見る……ちゃんと聞こえてたみたいで、困った表情で笑ってる。恥ずかしくて、顔が熱くなるのが分かった。

 

 

「何か食べて帰りますか?」

「……うー。いい。マナトのご飯が食べたい」

「……時間掛かりますよ?」

「いいの。私がマナトの作ったご飯が食べたいんだから」

 

 

 軽口を叩きながら、手を繋ぐ。指を絡めあう。どちらかが望んで、とかじゃなくて、自然とそうなる。身を寄せ合って、お互いがお互いを求めてる。

 身体の熱を共有する感覚。君と私が、心から繋がってるんだって思える瞬間。

 

 でも、私は欲張りだから。もっと欲しくなる。もっと求めてほしい。もっと繋がりたい。一緒になりたい。依存したいし、してほしい。

 

 

「何が良いですか?」

「マナトは?」

「うーん……パスタですかね」

「じゃあ、カルボナーラ食べたい」

「ふふ……はい、承知しました」

 

 

 夕日が地平線に落ちてく。オレンジの光が広がって、私達の影を伸ばしていく。

 こんな時間がずっと続いてほしい。伸びていく影みたいに、時間が引き延ばされてほしい。

 ずっと、ずっと一緒に。私はそう願っている。きっと──君も、同じように願ってくれているんだって、思ってる。





ちょっと中途半端な所で切りましたが、デート回続きます。

昔から死別とか家族愛に触れる作品に弱かったので、推しの子はずっと心に棘が刺さりっぱなしなんですよね。はたして書ききった時に抜けてくれるかな……返しついてそうなんだけど……

あと全然関係ないけど、欲張りな子と望みがない子の相性って良い気がします。
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