偽物の仮面と真実のアイ 作:ななち
物書きあるあるだと思います。
ちょっと今回は短いです。
あと、今更ですけど感想ありがとうございます。お陰で頑張れてます……!
言葉を失う、っていう表現があることは知っていた。それぐらいビックリした、とか感動した、とか。そういうレベルを表す言葉。きっと、今の私はその表現がピッタリ嵌る表情をしている。
少し薄暗い室内。外の暑さから隔絶された、ひんやりとした空気。ほのかに香る潮の匂い。聞こえてくるさざ波のような水音。今、私は海の中にいるんだって錯覚する。
まるで別世界にエスコートされたみたいに感じた。思わず、マナトの手を握る力をぎゅって強めちゃうぐらいに、ワクワクとドキドキが止まらない。
「わぁ……」
水槽の中をトンネルみたいに通る廊下。見たこともない魚が、綺麗なサンゴや、大きな岩の周りを泳いでいて。水面から光が差し込んで、キラキラって輝いてる。
海の底を散歩してる気分だった。ブルブルって身体が震えて、胸の中が熱くなっていくような感じ。これが感動してるって感覚なんだろうな、って分かる。
マナトも、言葉を失ってた。いつも「なんでも知ってますよ」みたいな顔してる君も、知らない事があったんだねって、ちょっとクスっとしちゃった。
水槽の近くを、大きな魚が泳いでいった。多分、エイかな。自分よりも大きい魚がすぐ近くを通って、驚いた私は思わずマナトの腕を抱き込んで。それに驚いたマナトがビクッって反応して、お互いに目を合わせる。なんか、そのやり取りが面白くて、笑っちゃいそうになった。いつも、もっと大胆な事してるはずなのにね。
「へー……クラゲのうねうねしてるやつ、足じゃなかったんだ」
「腕なんですね……」
クラゲがたくさん泳いでる水槽があった。ふわふわ漂っている白色が、ライトの光に合わせて鮮やかに色を変えていくんだ。
水槽の前に展示されてるクラゲの豆知識みたいなのに目を通して、一緒に驚く。そもそも腕とか足の概念があったんだって所に驚いた。
「マナト、知ってた? クジラとイルカが同じって」
「一応は。サイズで分別されるみたいですね」
「同じ魚なのに、不思議だよね」
「……クジラとイルカは哺乳類ですよ、アイさん」
大きな水槽の中を悠々と泳いでるイルカを見てたら、多分ツアーか何かで来てる人達に解説してたスタッフさんが「クジラとイルカは同じ生き物」って言っていた。
へーって思いながらマナトに聞いたら、知ってたみたい……え、魚じゃないんだ、イルカとクジラって。
「あ、アザラシだ……鳴き声あんな感じなんだ?」
「……思ったより野太いですね」
陸の上にあがってたアザラシが、凄い声で鳴いてた。お腹空いてたのかな? いやでも、なんか……イメージと全然違う鳴き声だったなぁ。
前に、酔っぱらって潰れちゃった佐藤社長のイビキみたいな声だった。もうちょっとこう、可愛い声かなーって思ってたんだけど。
…………楽しいなぁ。今、私とマナトは一緒の感覚を共有できてる。自分の世界が広がっていく感覚。それが、たまらなく嬉しい。
私とマナトは、距離的には近いけど、心の距離は遠かった……と思う。私が望めば、君は望んだ通りに返してくれる。私が愛を望めば、君は望んだ通りに愛してくれる。その愛に、私はずっと救われていた。愛されてるんだ、っていう実感が、私を形作っていったんだ……まだ、愛するって感覚は分かってないし、怖いけど。
初めは、それで満たされていた。マナトがいれば、それだけで良いんだって思ってた。でも、だんだん私は欲張りになっていった。
人の欲望は際限がないって、誰かが言ってたけど、その通りだと思う。私は満たされれば満たされるほど、幸せだって実感すればするほど、どんどん次は、次はって欲しくなっていった……いつか痛い目見そうだなぁ。
「イルカショーが始まるみたいですね。行きましょう、アイさん」
「うん!」
館内に流れたアナウンス。マナトが私の手を取って、引っ張ってくれる。
望むだけじゃない。望まれるだけじゃない。お互いに、求めあっている事が、この手の温もりで感じられる。
……ねぇ、マナト。私、君にも幸せになってほしいんだ。だから、私を──"星野アイ"を望んでほしい。私が、君を幸せにしたいから。
☆
イルカショーが終わって、餌やり体験をやって。これ以上ないってぐらいに、水族館を楽しみ終わった時には、もう日が傾き始めてた。
夏だから日の出てる時間は長いけど、夕暮れになったらあっという間だ。水族館から出ていく家族連れの楽しそうな声が、カラスの鳴き声に混ざって響いてる。
「んー! 楽しかったぁ……イルカショーすごかったね!」
「ええ、大迫力でした……自然の神秘を肌で感じましたね」
悠々と海中を泳ぐイルカ。水飛沫を立てながら、2メートルも3メートルもありそうな高さのボールに、タッチしちゃうぐらいのジャンプ。上手い言葉が見つからないけど、凄い迫力だった。
マナトもそれを思い返してるのか、声色にもちょっと熱が籠ってて。いつも大人びた姿しか見てなかったから、新鮮さの方が先に来ちゃう。
……まぁ、私は。水飛沫からマナトが庇ってくれた時に、胸元に引き寄せられた辺りで1回記憶が飛んでるんだけど。
────ぐぅ。
……何の音だろうって思ったのは、私のお腹の音だった。夢中で気付かなかったけど、もう時間帯的には夕飯の時間が近づいていて、私の身体はやけに時間に正しく「おなかすいたよー」って言ってくる。
思わずお腹を押さえて、マナトの方を見る……ちゃんと聞こえてたみたいで、困った表情で笑ってる。恥ずかしくて、顔が熱くなるのが分かった。
「何か食べて帰りますか?」
「……うー。いい。マナトのご飯が食べたい」
「……時間掛かりますよ?」
「いいの。私がマナトの作ったご飯が食べたいんだから」
軽口を叩きながら、手を繋ぐ。指を絡めあう。どちらかが望んで、とかじゃなくて、自然とそうなる。身を寄せ合って、お互いがお互いを求めてる。
身体の熱を共有する感覚。君と私が、心から繋がってるんだって思える瞬間。
でも、私は欲張りだから。もっと欲しくなる。もっと求めてほしい。もっと繋がりたい。一緒になりたい。依存したいし、してほしい。
「何が良いですか?」
「マナトは?」
「うーん……パスタですかね」
「じゃあ、カルボナーラ食べたい」
「ふふ……はい、承知しました」
夕日が地平線に落ちてく。オレンジの光が広がって、私達の影を伸ばしていく。
こんな時間がずっと続いてほしい。伸びていく影みたいに、時間が引き延ばされてほしい。
ずっと、ずっと一緒に。私はそう願っている。きっと──君も、同じように願ってくれているんだって、思ってる。
ちょっと中途半端な所で切りましたが、デート回続きます。
昔から死別とか家族愛に触れる作品に弱かったので、推しの子はずっと心に棘が刺さりっぱなしなんですよね。はたして書ききった時に抜けてくれるかな……返しついてそうなんだけど……
あと全然関係ないけど、欲張りな子と望みがない子の相性って良い気がします。