偽物の仮面と真実のアイ 作:ななち
し、進行が遅い……!プロット通りなんだけど、遅い……!
あと、イチャイチャ成分が欠乏し始めてて辛い……!
5/28追記 一部セリフ修正 広島公演無くなりました
その物語は、とある一人の研究者が薬によって善悪の人格を分ける事を考えたのが始まりだった。
研究者は「なぜ人間には善悪が存在するのか?」という哲学めいた研究テーマがあった。
世界平和を願い、貧富の格差を是正する事を願い。ただひたすらに他者を救ってきた、聖人のような人間であっても、ふとした瞬間に悪逆を成す事がある。
自分の欲のままに生き、世界を壊し続け。ただひたすらに他者を貶めてきた、吐き気を催すような邪悪な人間であっても、ふとした瞬間に善行を成す事がある。
これらは全て、人間という存在の内面に、善と悪が等価値に混沌の如く渦巻いているからだ。善と悪が混ざり合っているからだ。であれば――それらを完全に分ける事が出来たのであれば。善は善のままに、悪は悪のままに出来たのであれば。人間は、新たなステージへ――1つ先の存在へと、進化出来るのではないか?
人間の善悪の完全なるコントロール。研究者は、人間性の否定とも言えるその最終目的を、ひどく魅力的に感じた。何故ならば、彼自身もまた、己の内に潜む抗いがたい悪逆への誘惑を感じていたからだ。
幾年の年月を経て、ついに薬は完成する。そして、この薬を服用する事になる人物に焦点を当てたのが――この演劇。三部構成からなる『ジキルとハイド』だ。
第一部。服用者、貴族街に住まうとある紳士。彼は私財を投げうって、貧民街に住まう貧民達に食料や衣料を与える聖人だった。その行いにより、彼は貧民には慕われていたが、貴族には嫌われていた。だが、そんな彼が――突然、一人の娼婦を殺した。
魔が差した、あるいは気の迷い。彼がそんな事をするはずがない、と擁護する人々。所詮、彼も貧民を人間と思ってない貴族なのだ、と毒づく人々。反応は様々だったが、果たしてそれが彼の本心から行われた行動だったのか? 本当に"魔"が差しただけなのか? 研究者は、拘束された紳士に薬を飲ませ、その真偽――彼の善悪をハッキリとさせる事を提案した。
「きっと、彼は己が内の悪に惑わされたんだ。その悪をしっかりと理解し、把握する事が出来たのなら、彼はこんな過ちを犯さなかった」
第二部。服用者、連続殺人鬼。彼は夜に紛れ、合計で6人もの人間を殺した。そのどれもが首を切り裂き、背中に×印の切傷を刻むという特徴的な殺害方法だった。6人目を殺した後、ついに彼は警察に捕まる事となる。無論、死罪となる判決が下されたが――そんな彼の減刑を求める声があった。年端もゆかぬ、少年少女たちだった。
曰く、彼は悪漢や虐待をする親、あるいは犯罪の手に巻き込まれそうになった所を救ってくれたのだ、と。むしろ、裁かれるべきは殺された人物たちであったと、少年少女は訴えたのだ。だが、人を殺している事は重罪だ。法の下、それを許すわけにはいかない。故に、研究者は彼にも薬を飲ませる事を提案した。
「きっと、混沌とした善悪に惑わされたんだ。境目が明確であれば、こんな悪の手段に頼らずとも救えたかもしれない」
第三部。服用者――ジーキル博士。
柔らかい金髪を揺らめかせる二人の青年。雰囲気も、顔立ちも似ている二人。唯一違う所は背丈ぐらいだろうか。その二人が、舞台上で向き合い、ステッキを回し、硬質な音を立てながら歩き、互いを見る事なく語り合っている。青年が、くるりとステッキを回した。
「紳士の善悪は分かたれた。では、彼の内面は果たして善性に満ちたものだったのか? それとも悪性に染まったものだったのか?」
「善だろう。彼の行いは称賛されるべきものだった」
くるり、と青年がステッキを回す。床に打ち立てた音が、会場中に響き渡った。
「否! 彼は貧民街の皆に施しを与える事で、優越感に浸っていた! 自分より価値のない人間が存在する事に喜びを感じていた! これは悪である!」
「反論する。その内面は、行動で評価されるべきだ。偽善であろうとも、それは善だ」
「では、紳士は善悪を分かたれた結果――もう一度、殺人を犯した。なぜなら、彼の内面は悪だったからだ」
カンカンカン。ステッキを打ち付ける音が、響く。メトロノームのように正確に、一定のリズムで。
「殺人鬼の善悪は分かたれた。では、彼の内面は果たして悪性に満ちたものだったか? それとも善性に染まったものだったか?」
「悪だろう。彼の行いは忌避されるべきものだった」
くるり、と青年がステッキを回す。床に打ち立てた音が、会場中に響き渡った。
「否、否、否! 彼は幼い少年少女を救うために殺人を犯した! それ以外の解決策を知らなかった! これは善である!」
「反論しよう。その内面は、結果で評価されるべきだ。殺人という大罪を犯した時点で、それは悪だ」
「では、殺人鬼は善悪を分かたれた結果――もう一度、殺人を犯した。なぜなら、それが彼にとっての善だったからだ」
青年が対峙する。正面から、互いの瞳に自分を映し出す。昏い星の宿る視線が、交差する。
くるりとステッキが回される。カン、と床に打ち付けられる。
「己を慰める為に行う善は悪か?」
くるりとステッキが回される。カン、と床に打ち付けられる。
「他者を救う為に行う悪は善か?」
くるりとステッキが回される。カン、と床に打ち付けられる。
「では――俺は
★☆
宮崎の病院にやってきて、はや数カ月が経った。私のお腹は、日に日に膨らんできていて、赤ちゃんがいるんだなぁって実感させられる。お腹の中から蹴っているような感覚は、まだしない。そろそろトントンって感覚がする頃だって、ゴロー先生は言ってたんだけどなぁ。
斉藤社長が手回ししてくれたみたいで、私の宮崎での活動拠点はこの病院になった。極秘入院ってやつだけど、言い換えれば病院へ缶詰状態になってるわけで。この身体じゃ激しい動きは出来ないから、マタニティヨガとか、歌とか、笑顔の練習とか。後は雑誌を読んだり、テレビを見たり、エゴサしたり、B小町の皆やマナトの活躍を見たり。正直に言えば、少し暇。
……特に辛いのが、マナトと会えてない事。マナト
「…………」
大きくなってきたお腹に手を当てる。この中には、二つの命が宿ってる。ゴロー先生は今の所異常はない、って言ってくれているけど、それでもちょっと不安がある。
ちゃんとこの子達を元気に産んであげられるだろうか。
お母さんに捨てられた私が、お母さんになれるんだろうか。
…………愛の分からない私が、この子達を愛してあげられるのだろうか。
頭を横に振る。マタニティブルーって言うんだっけ、こういうの。ホント、気分が落ち込みやすくなってる気がするし、普段じゃ考えないような事も考えちゃう。
こういう時は――何時もだったらマナトに甘えたりしてたんだけど、それも今は無理だから。仕方なくスマフォを取り出して、暇潰しのエゴサをし始める。検索欄に"マナト"って入れて……これってエゴサって言わないんだっけ? まぁいいや。
そういえば、今日が確かマナトが主演の演劇の初公演だったはずだ。どうなったんだろう。どんな劇だったんだろう。気になって、劇の名前とかも入れて検索してみる。
藤之丞 @F_J_1994・〇月〇日
ジキハイ面白かった。善悪っていう難しいテーマであそこまで惹き
込まれるとは思わなかった。何より、演者さんの熱演がすごかった
。#ジキルとハイド
やきもの @FireBomxxxx・〇月〇日
あれ結局どっちが生き残ったんだ?ジキルなのか?ハイドなのか?
っていうかジキハイ役のマナトとカミキすごかったな。もう途中ど
っちがどっちなのか分からなくなった。
#ジキルとハイド
白犬担当大臣 @SBdogwow・〇月〇日
「善は上澄み、悪は原液。混ざり合ってようやく人になる」
「上澄みだけじゃ味気ない。原液だけだと濃すぎる」
ってセリフめっちゃ好き。結局、どっちも人間には切り離せない要
素って事だよねぇ……考えさせられた。
#ジキルとハイド
……んふー。そうでしょ、すごいでしょ、私の旦那様は。ふふん。こうやってマナトが褒められてるのを見ると、私も嬉しくなっちゃうなぁ。ねー、お腹の中の赤ちゃんたち。お父さん、頑張ってるよー。えへへ。
演劇も好評だったみたいで、初公演なのにすごい入場者数だったみたい。嬉しくってタイムラインをスクロールする指が早くなる……そうしてると、いくつかの呟きが目に留まった。
詩歌 @songsong1100・〇月〇日
は~~マジでマナト様の顔面よ~~~一生推せる~~~いやもうめ
っちゃ好き~~~~~~
#ジキルとハイド
「…………」
うじゅうあん @unjuuuuuu・〇月〇日
演劇中に目が合った!間違いない!あの目は私を見てた!
最高過ぎる……え、どうしたら……惚れちゃう……
#ジキルとハイド
「…………ふーん」
ねばねば黄金期 @IamNatokura・〇月〇日
退場した時に見送りでマナトさんに握手してもらっちゃった~~~
#ジキルとハイド
「………………へー」
そっと、アプリを閉じる。そのままLINEを開いて、流れるような指捌きでマナトとのトーク画面を開いて、通話を――掛けようとした所で、指が止まった。いや、公演終わったばっかりで忙しいだろうし……うん、大丈夫。我慢だ私。とか思ってたら――マナトから、通話が掛かってきた。
「わ、わ! ……えっと、もしもし?」
「もしもし……何かありましたか?」
こ、声色だけで察しないでくれないかなー。相変わらず鋭いっていうか、鋭すぎるっていうか。咄嗟に「私も電話掛けようって思ってたから驚いた」って返したけど、多分バレてるよね、これ。いや、話したかったのは事実だから、嘘でもなんでもないんだけど。
一呼吸して、気持ちを落ち着かせる。よし、普段通り。
「公演お疲れ様! エゴサしてたけど、好評みたいで良かった」
「ありがとうございます。アイさんの方はどうですか?」
「順調順調! 見てわかるぐらいに、お腹大きくなったんだよー」
ここ数カ月、私とマナトはこうやって声と文字だけでしかコミュニケーションを取ってない。仕方ないのは分かってるけど、それでも寂しい。でも、私はその感情をマナトに言えない。なんでだろう。いつもだったら、素直に寂しいとか、会いたいって言えるのに。こんな嘘、つきたくないのに。私の口は、いつも通りの声色で、いつも通りの口調で話す。
あはは、不安定だなぁ、私。嫌になるぐらいに情緒不安定。マナトが私を嫌うはずないのに、嫌われたらどうしよう、みたいな思考が頭をよぎっちゃう。
「…………アイさん」
「っ……何?」
電話越しのマナトの声が、少し低くなったように感じた……やっぱり、マナトには分かっちゃうよね。携帯電話の声ってさ、本人の声じゃないんだって。それでも、分かっちゃうんだね。
「この公演は、一週間は東京で。その後、名古屋、大阪へ移動して公演します。それが終わったら……そのまま、宮崎まで行きます」
「っ、ホント?」
自分でも、声が弾んだのが分かった。やっと会えるんだって思うと、全然自分を取り繕えなくなる……チョロいなぁ私。
「はい。それからは……ずっと一緒です。お待たせして、すみません」
「……あ、はは。ホントだよ。この子達、斉藤社長がお父さんだと思っちゃうよ?」
「それは……困りますね」
私だって嫌だよ。斉藤社長には悪いけど。
ああ、でも。そっか、やっと会えるんだ。安心より先に……おかしいな、ちょっと涙が出てきちゃった。嘘っていう鎧が、どんどん剥がれてく。
「……ね、マナト」
「はい」
「…………寂しいよ。寂しい……会いたいよ」
ずっと寂しかった。いつも隣にいる君がいないだけで、心にポッカリ穴が開いたみたいだった。社長もいるのに、独りになっちゃったみたいに、心細かった。やっぱり、私が私でいる為には、君が必要なんだよ。
「……私も同じです。私も、寂しい。だから……宮崎に着いたら、すぐそちらに向かいます」
「……うん、待ってるね。約束だよ」
「はい、約束です」
待ってる。信じてる……早く、会いたいな。
拙作のアイちゃんは原作で言うところの「秘密主義と暴露欲求」で、暴露欲求が基本大きめになってます(隠さないで良い人がいるから)
逆に不安定になってくると秘密主義(嘘)に傾いちゃう感じで、割と反転してますね。