偽物の仮面と真実のアイ 作:ななち
文章もイチャイチャも継続こそ力なり。
愛久愛海と瑠美衣を産んで、一週間と少しを病院で過ごして、ようやく退院して。二人を連れて東京に戻るのにもう一日。やっとマナトの家まで戻れた私は、ソファの上で横になっている。出産が終わったら、何もかも元通りになると軽く思ってたけど、
……出産が終わった後、4日ぐらい経った時だったかな。周りがなんかザワザワし始めて、パトカーとかが病院の駐車場に停まってるのを見たりして。それが原因か分からないけど社長が、宮崎にいつまでも残ってるわけにもいかないから、って言って強行軍で帰ったのも拍車をかけてる気がする。
愛久愛海や瑠美衣のお世話はなるべくやってるけど、家事とかは全部マナトやミヤコさんに任せっぱなし。アナタは頑張ったんだから、旦那さんやお母さんに頼りなさいって助産師さんが退院する時に言ってくれたけど、やっぱりちょっと心苦しい。
「うー……ごめんね……」
「いえ、ゆっくり休んでください……良い子ですね、愛久愛海。よしよし……」
愛久愛海を抱っこしてあやしてるマナトに謝る。瑠美衣はお腹が減った時とか、オムツ変える時もあまりぐずらないけど、愛久愛海は良く大泣きするから、マナトも四六時中抱っこしてあげたり、あやしてあげたりしている。ホントは私がやってあげたいんだけど、身体の怠さがマシな時にしか出来ない。もし、これでマナトや社長、ミヤコさんの助けが無かったらと想像すると……手が回らないし、下手したら倒れてたかも……現在進行形で倒れては、いるんだけど。
「だぁー、だぁー」
「おっと……なんですかー瑠美衣」
愛久愛海を抱っこしたまま、マナトがベビーベッドにいる瑠美衣を見に行った。私も、ちょっと重い自分の身体を起こして、ソファに座り直す。声の感じからして、多分おっぱいだろうなって気がしてる。
「お腹が空いてるみたいです。アイさん」
「はーい……よっと……」
ゆっくり立ち上がる。マナトは愛久愛海を抱えてて両手が塞がってるから、私が瑠美衣を抱える……うん、やっぱりおっぱいみたい。マナトの観察眼って赤ちゃんでも通じるんだなぁ……今のところ、百発百中な気がするよ。
ソファに座って、服をはだけさせる──前に、マナトに視線を送る。苦笑しながら「分かってます」って後ろを向いてくれた。
……こう、全身の隅々まで見られてるし今更じゃん、って言われたらそうなんだけど。おっぱいあげてる所を見られるの……ちょっと恥ずかしいんだよね。なんでかなぁ。今だってずっと一緒に寝てるし、お風呂も一緒なのに……むぅ、いっそマナトにも飲んでもらえば良いのかな──って、なんか瑠美衣が変な目でこっち見てる気がする。ごめんごめん、おっぱい欲しいんだよねー。
「はーい瑠美衣。おっぱいでちゅよ~」
瑠美衣がおっぱいを咥えてごくごく飲んでる。はー……可愛いなぁ。お母さんになるって、ほんと想像以上に大変な事多かったけど……こうやって、二人の姿を見られるだけで、胸がポカポカする。産んで良かったって、心の底から思える。ホント、元気に産まれてくれてありがとね。
────……出来たら、先生にも見てほしかったな。二人の姿。
絶対駆けつける、って言ってたのに来なくて。病院の人に聞いたら、連絡が取れないって言ってて。パトカーや警察の人が来てるのを見たら、何となく察しがつく。その悪い予感は、当たらないで欲しいけど……不安。先生、ホントどこに行っちゃったんだろう。
「……お、ちゃんと飲めたねーえらいよ~瑠美衣」
「…………けふっ」
「お~ゲップも出来た~えらいえらい~」
おっぱいから口を離した瑠美衣を褒めながら、ゆらゆらと揺らす。赤ちゃんにおっぱいをあげる時、お腹の中に空気が溜まると苦しいからゲップさせてあげてね、って助産師さんが言ってたけど、瑠美衣は抱き方を変えたりしなくても自然とゲップしてくれる。ホント手が掛からない子だなぁ。
「あー! あー!」
「っと……アイさん。愛久愛海も欲しいみたいです」
「はーい。瑠美衣~愛久愛海と交代だよ~」
はだけた服を戻して、瑠美衣の口元をガーゼで拭ってあげて、マナトが連れてきた愛久愛海と瑠美衣を交代させる。愛久愛海はまだおっぱいに慣れてないのか、目が良く見えてないのか、ちょっと口元を誘導しないと咥えてくれないんだよね。瑠美衣は迷いなく咥えるし、あんまり零さないんだけど……双子でも、結構違うんだなぁって思っちゃったよ。
……最近は、おっぱいあげて、オムツ替えて、寝ての繰り返しだなぁ。愛久愛海と瑠美衣が可愛いから、全然苦じゃないんだけど、それはそれとして早く身体動かせるようになりたい。
「……けぷっ。あー、あー」
「ん~愛久愛海、もう良いの~?」
満足してくれたみたいだけど、ちょっと飲む量が少なかったかなぁ。ううん、もう一回ぐらい後であげた方が良いかも。はだけた服を戻して、愛久愛海を抱っこして立ち上がる。ゆらゆらさせながら、ベビーベッドまで連れてって……ありゃ、もう寝ちゃった。マナトの方を見たら、瑠美衣も寝ちゃったみたい。おっぱいの後は、二人とも寝付き良いなぁ……でも、これでやっと一息つける。ソファに座って、上を見ながらため息をつく。
「はー……」
「お疲れ様です、アイさん」
瑠美衣をベビーベッドに寝かせたマナトが、隣に座ってくる。いつもの流れというか癖で、その肩に頭を預けて脱力する……落ち着くなぁ。私の人生で落ち着ける場所ランキング第3位なだけあるよ。このまま寝ちゃいそうだなぁ……って思ってたら、ぐぅって音が私のお腹から鳴った。壁掛けの時計を見たら、もう夕暮れ通り越して夜で。一日過ぎるの早いなぁ……っていうか、私のお腹の時計、正確だね。
「私達も晩御飯にしましょうか。食欲はありますか?」
「うー……お腹は空いてるけど、気力は無いかも」
お腹は減ってるっていう感覚はあるし、食欲もあるんだけど、単純に食べる気力がない。身体を動かすのが怠い……今日は特に酷いかも。そしたら、マナトが「ちょっと失礼」って言って私の正面に回って──ああ、私の落ち着ける場所が──私を見つめてくる。
徐々に近づいてくる顔。え、え? キス? この流れで? ってドキドキしてたら──コツン、と額を合わせられた。
「……熱は大丈夫そうですね。消化の良い物……雑炊にしましょうか」
……熱測るためだったみたい。ちょっと期待しちゃったじゃん。もう。とか思ってたら、苦笑して頭を撫でられた。
キッチンに歩いていくマナトの背中を見ながら、ちょっとだけ唇を尖らせる。前々から思ってたけど、マナトって私に接する態度が……こう、妹とかに対するソレな気がする。家族になりたいって言ったのは私だし、別におかしな事はないんだけど……女の子としては見られてないんじゃないかなーって思う時があったり。子供まで作っておいて、何を今更って言われたら、そうなんだけど。
……不満なのかなぁ? 自分でも良く分からない時がある。むぅ。
まぁ、いいや。キッチンで楽しそうに冷蔵庫の中身を見て、雑炊に入れる物を決めてるマナトを見る。お言葉に甘えて……いつも甘えてるけど、のんびりしてよう。そう思って、私は横になる。ぐぅ、と鳴るお腹の虫に、もうちょっと我慢してねーって思いながら。
★
「はい、あーん」
レンゲに乗った、具沢山の卵粥を口に運んでもらう。細かく刻まれた野菜とか、生姜の風味が鼻を抜ける感じがする。病院食みたいな薄い味付けじゃなくて、出汁で作られてるみたい。うーん、美味しい。
食欲はあるけど食べる気力がない、って言ってた私に、マナトが提案したのは「私が食べさせてあげます」って事だった。流石にそこまでは良い、って思ったんだけど気付いたらあーんされてる。
……斉藤社長に「その内マナトがいないと何も出来なくなるぞ」って言われたのが頭に過った。あながち間違いじゃないかもしれない。
「熱くないですか?」
「うん、大丈夫」
マナトが念入りに息で冷ましてくれるから、私の口に運ばれる頃にはちょうどいい熱さになってる。こうしてると、まるで私が赤ちゃんになったみたいだ。
……昔を思い出すなぁ。施設を抜け出して、雨に打たれていた私をマナトが追いかけてきてくれた次の日。私は盛大に風邪を引いて、今みたいにマナトがご飯作って食べさせてくれたなぁ。あの時は、シンプルなお粥とリンゴの擦りおろしだったっけ。懐かしいって思うぐらい、ずっと一緒にいたんだね。
思い出して、笑っちゃって、マナトが首を傾げる。
「どうかしましたか、アイさん?」
「……ううん、幸せだなぁって。そう思っただけ」
私の言葉に、目を丸くするマナト。もー、なんでそこで君がキョトンってするのかな。私が幸せなのって、君のお陰なんだよ?
愛久愛海も、瑠美衣も。斉藤社長も、ミヤコさんも。B小町の皆も。私が、こうやって望むままに幸せを掴めているのは、君がその望みを叶えてくれたお陰。全部が全部、マナトのお陰だーって言うつもりはないけど、君がいなかったら、私はここまで幸せだなんて思えなかったって確信してる。
……だから、マナトにも幸せだって感じてほしい。君が心のどこかで、
ちょっとずつで良い。私は欲張りだから焦っちゃう事も多いけど、君は焦らなくていい。
「……マナト、あーん」
「はい、どうぞ」
……一緒に頑張ろうね。
色々過程すっ飛ばして「家族愛」が実っちゃってるので、ふとした時から「異性愛」を意識しちゃうの、可愛くないですか(性癖語)
周囲から「今更?」って言われるの好き。