偽物の仮面と真実のアイ   作:ななち

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大変遅くなりました。

2024/11/22
一部のセリフ・文章を修正しました。


☆36話

 

 昔に少しだけ見た、刑事ドラマのワンシーンを思い出した。あまり興味も無かったから詳しい状況は覚えてないけど、犯人から自白を吐き出そうと、お巡りさんの方が机を叩いて怒鳴ってる場面だったと思う。

 

 マナトに聞いたら「恫喝になってしまいますから、実際にこんな取り調べする事はないですよ」と言われて、所謂"盛ってるシーン"なんだな、って思ったのを憶えている。

 

 ……そして、私は今。そのシーンにおける自白を強要させられる容疑者の立場にいるらしい。事務所の会議室でソファに座った私の両サイドを、ニノちゃんとナベちゃんが腕を絡めて拘束していて。対面に座ったミネちゃんが顔の前で指を組んで、机に肘をつくポーズを取っている。天井の照明に反射して、眼鏡がキラリと光った気がした。1年振りの懐かしさを感じる余裕もないよ。

 

 

「それでは、これから尋問を執り行います」

「……じ、尋問?」

 

 

 仰々しい動作と声色で、ミネちゃんがそう告げる……なんか、物々しい言葉が入っていた気がする。尋問って何、尋問って。私、何されるの?

 

 ミネちゃんが、指先で眼鏡の位置を直す。会議室に流れてる空気が重々しい。経験した事はない……というかあってほしくないけど、まるで判決を言い渡される前の被告人みたいな心持ち。無罪を主張する人の気持ちが分かったかもしれない。

 

 

「アナタには黙秘権があります。答えたくない場合は答えなくても構いません」

「……あの、そもそも何で連れてこられたのか全然分かってな――」

「説明中よ、黙りなさい」

「あっ、はい」

 

 

 あの、黙秘権使わされたんだけど。というか、黙秘権ってこういう使い方するものじゃないよね。なんか困惑しすぎて、一周回って冷静になってきたような気がしてきた。

 

 

「それでは始めます」

「は、はい……」

 

 

 ごくり、と唾を飲んだ。いつもよりBPMの高い心臓の鼓動がやけに大きく聞こえる。緊張で手汗が出てきた。

 

 ……いや、何を聞かれるのかなんて、もう分かりきってるんだけど。私が緊張しているのは、それに対してどう答えるのが正解なのか、と迷っているからだ。きっと、"黙秘権"って前置きしたのも、ミネちゃんなりの優しさだろうから。

 

 沈黙が続いた。ミネちゃんも、聞くのをどこか躊躇っているように見えた。でも、その沈黙を破ったのもやっぱりミネちゃんで。

 

 

「……産まれたの?」

 

 

 神妙な面持ちで、こちらの様子を窺うような声色。疑問を解消するため、っていうよりは事実確認の為の、確信を得る為の問い掛け。

 

 ……まぁ、分かっちゃうよね。当時、月のモノが重いって言い訳して誤魔化してたけど……悪阻(つわり)だって事は、みんな薄々察してただろうから。それから1年以上も休養ってなれば、私が妊娠してたって想像もつくと思う。

 

 一番最初に気付いたのは……多分、ニノちゃんかな。いつもニコニコしていて、ほんわか癒し系みたいな雰囲気出してるけど、皆の事良く見てるし、良く気付く子だから。

 

 

「………………」

 

 

 私の口は、勝手に黙秘権を行使している。もうほとんどバレてるようなものだろうし、言っても問題ないんじゃないかって思う自分もいるけど……この秘密を共有するのは、ちょっとワケが違う。

 

 もしアクアとルビーの事がバレたら、私はアイドルを続ける事は出来なくなる、と思う……分からないよ? 分からないけど、少なくとも良い目で見られないのは想像がつく。だから、出来るなら秘密を共有する人は少ない方がいい。B小町の皆がバラすなんて思ってないけど、知らない方が都合が良いはずなんだ。

 

 この秘密を共有しちゃったら、万が一自分から公表するんじゃなくて、世間にバレちゃった場合に……悪意のある見方をされちゃった場合に。皆は優しいから、きっと「知っていました」って言うから。黙っていれば、皆は「アイに騙された、知らなかった」って言えるから。知らないわけないだろ、って見る人もいるかもしれないけど――それでも、それが嘘じゃないって事実は出来る。

 

 だから、黙っていた方がいい。黙秘権を行使してもいいし、何の事? って惚けてもいい。でも。

 

 

 ――――嘘、()きたくないなぁ。

 

 

 私の我儘だって事は分かっていても、社長から「親しい奴にも口を滑らすなよ」と釘を刺されていたとしても。友達に嘘は()きたくない。だから、私は小さく頷く。ミネちゃんがホッと胸を撫で下ろして。普段ダウナーなナベちゃんが目をキラキラさせてこっちを見た。

 

 

「……! 男の子? 女の子?」

「両方。双子なんだ」

「双子! ……写真とかある?」

 

 

 興味津々って感じで、ナベちゃんがグイグイ聞いてくる。そういえば、お姉ちゃんだから子供のお世話とか好きなんだっけ。ニノちゃんが片腕を開放してくれたから、私はスマフォを取り出して、ちょっと前に可愛すぎて撮っちゃった、スヤスヤ寝てるアクアとルビーの写真を表示させる。この二人、仲良くて寝てる時に手握りあってたのがすっごい可愛かったんだ。

 

 ナベちゃんとニノちゃんが覗き込んできて、ミネちゃんも「私にも見せなさいよ」って回り込んできた。さっきまでの、ちょっと硬かった雰囲気はどっかに飛んで行っちゃった。

 

 

「わ~……可愛い~……アイちゃんに似てるね~」

「……男の子の方は、目元はマナトさん似かな。柔らかい感じ」

「……今からでも美男美女になる雰囲気がするわね。名前は?」

「えっと、男の子が愛久愛海、女の子が瑠美衣」

「……すご……んんっ、良い名前ね」

 

 

 ……なんだろう。結構、意を決して話したつもりなんだけど、アッサリ受け入れられてて、ちょっと戸惑ってる。爆弾みたいなスキャンダルのはずなんだけどなぁ。それに、誰も私とマナトの子だって疑ってないのも、なんか……いや、マナト以外の人に身体を許す気無いけど。

 

 戸惑う私を取り残して、皆はいつの間にかいつもの緩い雰囲気に戻ってた。色々と撮ってあったアクアとルビーの写真を見て私に似てる、とか、マナトに似てる、とか。あまりにも普段通りすぎて、アクアとルビーの可愛さについて語りたい気持ちを差し置いて、疑問が口をついて出てしまった。

 

 

「……いいの? 自分で言うのもアレだけど、ものすっごいスキャンダルなんだけど……」

「そうね。まぁ今更すぎるけど、バレたら終わりね。B小町の解散待ったなしよ」

「う」

「……大体、それが分かってるなら一言ぐらい相談すればいいのに。友達なのよね、私達? 私の勘違い?」

「ぐぅ……」

 

 

 チクチクってミネちゃんに、言葉のナイフで刺される。なんか知的キャラを前面に出すようになってから、言葉の鋭さ増してきてるよね。

 

 ……相談って言っても、迷惑掛けたくなかったし、なんて言えばいいか分からなかったもん。皆の事は友達だと思ってるし、勘違いなワケないけどさ。

 

 思わず胸を抑えた私の肩を、「大丈夫だよ~」って言いながらニノちゃんが叩いた。

 

 

「大丈夫大丈夫~。ミネちゃん寂しかっただけだから~」

「おいこらニノ」

「ニノちゃん……」

「それにね~」

 

 

 何か言いたげにしているミネちゃんを無視して、ニノちゃんがピンって人指し指を立てる。自然とそちらに視線が誘導される。大事な事を話す時に、「今から話す事は重要だよ」ってニノちゃんが良くやる癖だった。ちょっとだけ佇まいを直す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アイちゃんに子供が出来たこと、去年の年明けぐらいには知ってたから~」

「…………? え?」

 

 

 

 …………?

 

 

 ……え?

 

 

 

 

 

 ……言われた事の衝撃が強すぎて、一瞬思考がフリーズした。去年の年明け、って事は……多分、宮崎の病院に入院してそんなに経ってないぐらいだと思う。えっと……秘密を隠す隠さない以前に、もうバレてたってこと? なんで?

 

 

「えっとね~、ミネちゃんが社長に状況証拠揃えて『アイちゃん妊娠してますよね』って突きつけて~」

「……トボけようとした社長にミネちゃんが『私達に秘密を共有する事のメリット』をプレゼン形式で力説して」

「最終的に『女子高校生(JK)の圧』で自白をもぎ取ったんだよ~」

「人聞きの悪い事言ってんじゃないわよ! アナタ達も協力したでしょ!?」

 

 

 そういえば、会議室に連れて行かれる私を見ても、社長の反応がやけに淡白っていうか。私がアクアとルビーの事をポロッと零さないか、みたいな不安な様子が全然無かった。つまり……最初から知ってたって事? え、じゃあなんで、わざわざ私に聞いたの?

 

 全然噛み砕けてなくて、困惑した表情を浮かべている私を見て、ミネちゃんがバツが悪そうに目線を逸らす。

 

 

「……ほら、なんか隠し事されてるの、モヤっとしたし。意趣返しっていうか。もっと頼れバカっていうか……」

「ニノちゃん、特別翻訳どうぞ」

「『アイちゃんが頼ってくれないのは悲しいけど、でも知られたくない事に踏み込んで嫌われたくもないしどうしようって思い悩んだ末の決断でした』」

「ニノォ! ナベェ!」

 

 

 顔を真っ赤にしたミネちゃんが、きゃーって言いながら逃げるニノちゃんとナベちゃんを追いかけ始めた。あの、あんまり騒ぐとまた怒られるよ。前に会議室で菓子パやった時に散らかして、ミヤコさんに雷落とされたの覚えてるでしょ。今日はいないけど。

 

 ……でも、そっか。もうバレちゃってたんだ……うん、隠し通せるわけないよね。ミネちゃんも、ニノちゃんも、ナベちゃんも、私の事をちゃんと見てくれてる人だから。

 

 なんか、胸の中につっかえてたモヤモヤが消えた気がした。隠し通さなきゃ、って思って重くなっていた肩が軽くなった気がする……結構、ストレス感じてたのかな。じわって、目が潤む感覚がする。瞬きをすると、涙が零れちゃいそうだった。

 

 

「……皆」

「捕まえたわよこのっ……ん?」

 

 

 ニノちゃんとナベちゃんをヘッドロックしてるミネちゃんの視線が、こっちに向けられる……あの、痛そうだから放してあげて。

 

 

「ありがとね」

「……良いわよもう。それより、1年間であった事、聞かせなさいよ」

「……うん、いいよっ!」

 

 

 ……今なら自分の気持ちが理解できる。きっと、私……寂しかったんだ。

 

 初めはお母さんと私だけがいた世界。それが崩れて、マナトと私だけの世界になって。アイドルになって、妊娠して、アクアとルビーが生まれて……私の世界は、気付いた時には私が思ってるよりずっと広がっていた。

 

 マナトがいれば、それでいいと思ってた。でも、今はそうじゃない。マナトだけじゃなくて、アクアやルビー、社長やミヤコさん、B小町の皆。ファンの皆。皆に居てほしいって、そう思えるようになったんだ。

 

 

「……えへへ」

「……何よ、急に笑ったりして」

 

 

 だって、なんか嬉しいんだもん。ミネちゃんだって、可笑しそうに笑ってるくせに。

 

 何から話そうかなぁ。やっぱり、アクアとルビーの事からかな。私だって、二人がどれだけ可愛いか、語りたくってしょうがなかったんだよ。1時間や2時間で終わると思わないでよね。

 

 そう言って笑った私を見て――ミネちゃんは、ちょっと墓穴を掘ったかも、みたいな表情を浮かべた。逃げられると思わないでね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「に、しても。まさかアイが経産婦になるなんてね」

「え~? 時間の問題だったと思うけどな~」

「……むしろなんで今までそうなってなかったのか不思議」

「ええー……? そんなに?」

 

 

 

 

 

 

「……そ、それで。初めての時って……その、痛かったの?」

「んーあんまり痛みは無かったかなぁ。マナト、優しかったし……」

「へ、へぇ~……」

「何々? ミネちゃん興味津々?」

「わ~ムッツリだ~」「……ムッツリだー」

「うっさい! アナタ達だって経験な……待ちなさい、ナベ。何で目逸らしたの? ねぇ。ねぇってば」

 

 

 

 

 

「でねでね! アクアとルビーってすっごい賢くて! まだ1歳なのに、私達の言葉みーんな分かってるみたいでさ! この前なんか、私のスマフォのパスワードのロック、解除してて!」

「わぁ~……賢いってレベルで済ましていいのかな~それ~……」

「……ギフテッドって奴かな? 厨二心をくすぐるね」

「……負けないわよ」

「なんで赤ちゃんに対抗心燃やしてるのミネちゃん~……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






あれこれB小町



ミネちゃん:色恋には興味マシマシの多感な時期。かなり初心でシモの話には耐性が無い。

ニノちゃん:色恋より食欲。アイドル活動よりグルメリポーターの仕事の方が楽しい。


ナベちゃん:六人兄妹の次女。下に弟と妹が一人ずついる。厨二の道に引き摺りこんだ幼馴染の男の子がいる。


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