偽物の仮面と真実のアイ   作:ななち

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とても恐ろしい投稿者心理である――

投稿が、遅過ぎるぞォォーーー!!(1年経過)

そう、投稿はまだされない……

早く……投稿してくれ……(2年経過)

なぜなら!! もうお分かりであろう!!!

(|)<投稿できるのは、アナタだけだからですよ

そう!投稿できるのは!筆者だけなのである!!!(2年半経過)



色々あってエタってました。原作終わって構想も大体まとまったので、ほそぼそと続き書いていこうと思ってます。


★37話

 東京、某スタジオ。番組の撮影準備が慌ただしく進むその場所は、スタッフやアシスタントの喧騒と足音に満ちていた。

 準備が進められているのは、毎週金曜日に放送される、芸能界において長寿番組の一つである音楽番組。今流行りの歌手やバンド、アイドルやジャニーズと司会が小粋なトークを挟みつつ、茶の間の視聴者に楽曲を届ける番組だ。

 

 スタジオが慌ただしいのは、別段珍しい光景ではない。この音楽番組は、収録した映像を編集して流す形式ではなく、生放送――一発撮りだからだ。

 編集によるカットが可能な収録形式と違い、生放送は放送事故が許されない。場合によっては機転を利かせてそれすら番組の味に変えることもできるが――できることなら、何事もなく放送を終えるに越したことはない。少なくとも、番組を支えるスタッフやプロデューサーはそう考えている。

 

 だからこそ、撮影現場には常に一定以上の緊張感がある。長寿番組ということもあり、スタッフも経験豊富な人材が揃っているが、弛緩した雰囲気は微塵もない。

 

 カメラ位置を調整するスタッフ、指示を飛ばすスタッフ。番組プロデューサーである"鏑木勝也"は、壁にもたれながらその様子を眺めていた。

 生放送番組の開始前は、何度経験しても緊張する――鏑木は心の中でそう独りごちる。懐からタバコを取り出そうとして、壁に貼られた禁煙マークに気づき、そっと戻した。

 

 昔ながらの体質が色濃く残る芸能界では、こうしたルールを意に介さず喫煙する者もいる。だが昨今は、嫌煙という言葉が示す通り、喫煙者には厳しい世の中だ。芸能界に限った話ではないが、マナーを守らない者への風当たりは強い――と、ニコチン不足の理性で思いとどまる。

 ……決して、娘に「パパ臭い」と言われたことが理由ではない。

 

 ――――……それに、今日は特別な日だからね。

 

 1年以上、表舞台に立つことなく活動を休止していたアイドル――"アイ"の復帰の晴れ舞台。それがこの番組だった。

 休止騒動自体は、"B小町"というアイドルグループが数年前に話題となっていたこともあり、ネットニュースに小さく取り上げられた程度の出来事に過ぎない。だが、まがりなりにも仕事の斡旋をしたことのある間柄だ。その晴れ舞台をヤニ臭くする必要はないだろう。

 

 ……休止が発表された当初は、投資先を誤ったか、とも少し考えたが。結果としてこの世界(芸能界)に帰ってきてくれたのであれば、縁を保ってきた甲斐もあったというものだ。

 天井から吊り下げられた眩しい照明に目を細めながら、鏑木は感慨に耽る。

 

 さて、小さな指示出しこそあれど、放送直前ともなればプロデューサーの仕事はほとんど終わったようなものだ。せいぜい放送事故が起こらぬよう祈り、起きた場合の対応を脳内でシミュレーションする程度。

 そんな手持ち無沙汰の中、鏑木の視界に――一人の男性が、軽く会釈をしながら近づいてくるのが見えた。見慣れたその顔に、軽く手を振って応じる。

 

「や、斉藤さん。アイくんの復帰、おめでとう」

「いやぁ、ご心配をおかけしました。今日はお世話になります、鏑木さん」

 

 タレントがいるのだから、その現場に所属事務所の社長がいるのは、不自然なことではない。

 金髪にヒゲ、サングラスにスーツ。下手をすれば夜の繁華街のキャッチと見間違われかねない風貌の男――壱護は、その外見とは裏腹に、低姿勢で頭を下げていた。

 

「本当に助かりましたよ。アイの復帰をどう演出したもんか悩んでいたところに、声をかけていただいて」

 

 壱護は喜色を隠さない声で言う。今回、"苺プロダクション"総出でアイの復帰をプロデュースしようと奔走していた折、番組出演を打診したのは鏑木だった。

 たとえ"アイ"が一時的に話題となったアイドルであっても、番組側は視聴率や興行的成果を重視する。営業も難航するだろう――そう考えていた矢先の打診は、まさに渡りに船だった。

 

 無論、鏑木にも打算はある。彼は自身を拝金主義(マンモニズム)だと自負している。どれだけ優れた脚本のドラマであろうと、凝った撮影技術の映画であろうと、話題性のあるドキュメンタリーであろうと、採算の取れない作品に意味はない。ゆえに出演者の選定には人一倍厳しかった。

 

 では、採算を取るには何が必要か。その問いに対する最も明快な指標が、『顔面の良さ(ビジュアル)』だ。

 テレビ越しでは、タレントの本質や内面までは見えない。だからこそ、まず人目を引く存在であることが求められる。顔面至上主義(ルッキズム)と捉えられかねない思想だが、鏑木はそれを誤りとは思っていない。

 

 さて、アイはそのビジュアルにおいて間違いなく一級品だ。鏑木にとって、これ以上なく分かりやすい「金を生む存在」でもある。

 その期待もあり、今回の番組セッティングのように様々な便宜を図っているのだが――――

 

「……僕もアイくんの復帰を楽しみにしていた一人だからね。こうして関われて光栄だよ」

 

 ――――それ以上に、業界人としてではなく、"鏑木勝也"個人として、アイドル"アイ"の復帰を待ち望んでいた。成長するスターを見守る、ただの一人のファンとしての感情だ。

 もっとも、その本音を滲ませぬまま発した言葉は、壱護には社交辞令にしか聞こえなかったが。

 

「ハハハ、ありがとうございます」

「……しかし、復帰早々センターか。他の子たちはいい顔しなかったんじゃない?」

 

 鏑木は内心の良心を誤魔化すように問いかける。

 アイが活動休止しB小町を離れていた間、グループを支えていたのは他のメンバーたちだ。それを復帰した途端、最も美味しいポジションを持っていかれるのは、気分の良いものではないはずだ――と。

 

 軽い揶揄のつもりだったが、壱護は頬を掻き、困ったように笑った。

 

「いやまぁ……逆ですね」

「逆?」

「ええ……」

 

 壱護は、以前の女子会(尋問)後、出演打ち合わせをしていた際のやり取りを思い出す。

 

 "今回"は、アイがセンター以外認めませんからね。私を据えようとしたらボイコットしますから。

 私~今回はサボ……げふん、引き立て役Bになるよ~。

 ……私は引き立て役Dが良い。Dの意志を感じるから。訳が分からない?ジャ◯プ読んで。

 

「あいつら、アイがセンター以外は認めないって言いまして。むしろセンター以外にした方が不満が出そうでした」

 

 困ったやつらですよ――と軽く笑う壱護。だが、その声音にはどこか誇らしさが滲んでいる。

 鏑木は一瞬目を瞬かせ、感心したように薄く笑った。

 

「へぇ……年頃の女の子のグループなのに、上手くやってるんだね」

「そうですかね? ナメられてるだけな気もしますが」

「いや、年頃の娘っていうのは難しいものだからね……ウチの娘はもう……」

 

 遠い目をする鏑木が思い出すのは、思春期を迎えた娘からの「パパ臭い」と「パパの服と一緒に洗わないで」だ。十中八九タバコが原因だろう。成長の証だと頭では理解していても、つい数年前まで「パパ好き」と言われていた身としては、少しばかり堪える。

 

 そんな哀愁を帯びた表情に、壱護は乾いた笑いを返すしかなかった。実の親子と、社長とアイドルグループの関係を同列には語れない。

 微妙な空気が流れかけた、その時――スタッフの一人が声を張り上げた。

 

「B小町さん、スタンバイ入りまーす!」

 

 その声と同時に袖の奥から可憐な衣装で身を包んだメンバーが姿を現す。壱護はちらりと視線を送り、遠目にその様子を観察する。

 なんだかんだ緊張しいなミネは、胸元に手を当てて深呼吸している。ニノは朗らかに笑みを浮かべながらスタッフに挨拶しているし、ナベは少し中空に視線を固定して、何かを考え込んでいる……多分ネタを考えてるな、と壱護はなんとなく察した。

 そして、一年以上の間を開けて、B小町の衣装に身を通したアイは。ブランクなどまるで感じさせない存在感で、瞬く星を宿した瞳から眩い光を放ち――誰よりも"アイドル"として完成されていた。

 

「……へぇ」

 

 感嘆の声を漏らしたのは、鏑木だった。休止前に見た時は幼い少女だった彼女は、艷やかな雰囲気を纏いながらも少女としての初々しさも残した、どこか危険な雰囲気すら感じる、惹き込まれる存在へと変わっていた。

 

 ――投資は成功だったね、これは。

 

 幾人かのスタッフも、業務をこなしながらもチラリチラリと目線を送っている。アイドルなど何度も見てきたであろう、目の肥えたスタッフたちが、だ。その様子に、これなら問題ないな、と壱護はニヤリと笑みを浮かべる。

 

(……そうだ、ブチかましてやれ、アイ。覚悟しとけよ、ミーハー共。うちのアイは――俺の"娘"は、すげぇぞ)

 

 幕が上がる。輝ける星は、こうして再び、夜の下に帰ってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 ★

 

 

 

 

 

 

 

「はい、その件につきましては……」

 

 星野家、あるいは宵谷家。そのリビングで、ミヤコはスマホを片耳に当てながら、カタカタとPCのキーボードを叩いていた。

 片耳で先方との打ち合わせをこなしつつ、両手で資料を作成し、視線は画面に固定。それでいて時折、リビングのソファでテレビを見ている双子の幼児――愛久愛海と瑠美衣へと目を向ける。そんなマルチタスクっぷりを発揮していた。

 

 アイは番組出演、壱護はその付き添い、マナトはドラマ撮影――誰もが家を空けざるを得ない状況で、双子の世話ができるのはミヤコしかいない。

 とはいえ、ミヤコ自身にも仕事はある。自宅でできる業務を優先して処理しているものの、状況は忙殺一歩手前だった。

 

 それでもどうにか回っているのは、ひとえに愛久愛海と瑠美衣が大人しい幼児だったからだろう。泣き喚くこともなく、ミルクが欲しくなれば小さく強請る。トイレ――もとい、おしめ替えも、あくまで邪魔にならないタイミングを見計らって呼ぶ。

 まぁそれもこれも、この二人が転生という常識外れの事象を経ているからなのだが。

 

「きゃーっ、ママ! 今日も最ッ高に可愛い……!」

 

 テレビの音量に紛れる程度の、小さな声で瑠美衣が叫ぶ。まだ1歳にも満たない幼児が喋るには、あまりにも流暢すぎる口調をミヤコに聞かれないためだろう。

 器用なもんだな、と愛久愛海は横目で興奮する瑠美衣をちらりと見て、すぐにテレビへ視線を戻した。

 

 画面の中には、自分たちの母――アイが映っている。司会者とトークを交わしながら、テレビ映えする笑顔を振りまいていた。

 

 意識の連続性だけを持ち、転生したという自覚のみを抱えている愛久愛海にとって、アイやマナトは「母」や「父」ではない。好きも嫌いもない、ただ近しいだけの他人のような感覚だった。

 記憶を持っているとはいえ、同じく転生しているはずの瑠美衣が、なぜあそこまでアイに熱を上げられるのか――正直なところ、不思議でならなかった。

 

 そうこうしているうちに、番組はB小町の歌唱パートへ入る準備のため、CMが差し込まれた。横で瑠美衣が「CMいらなぃぃ……ママを毎秒映せぇ……」と恨み節たっぷりに無茶苦茶なことを言っている。それ(CM)がなければ、そもそも番組として成立しないというのに。

 

「アクアも悔しがってよ!」

「なんでだよ……あと数十秒もすればCM明けるだろ……」

「その数十秒が世界の損失なんだよ……!」

「無茶苦茶だな……」

 

 愛久愛海の言葉通り、数社のスポンサーのCMが終わると、テレビは再び音楽番組を映し出す。司会者の数言のトークを挟み、シーンは切り替わる。

 暗い舞台が映し出され、曲名が表示され――スポットライトが輝き、舞台上が明るく照らされた。

 

 

 

 ――――そこには、星があった。

 

 

 

『サインは、B!!』

 

 夜空の中でいっとう強く輝く、一番星。周囲の星すら照らし出す、スーパースター。

 ひゅ、と愛久愛海は小さく息を呑んだ。

 

 瞬きするのを、忘れている。画面の中にいるはずの存在が、まるでこちらを見ているような錯覚。距離感が曖昧になり、テレビ越しだという認識が、ゆっくりと剥がれていく。

 視界の中心にあるのは、ただ一人。

 

 ――"アイ"。

 

 それ以外が、余計なもののように感じられていた。

 

「ねぇアクア、見てる!? ママすごくない!? ほらあのターンとか――」

 

 すぐ隣で弾ける瑠美衣の声が、どこか遠い。言葉としてうまく結ばれず、音だけが耳を通り抜けていく。

 

「……アクア?」

 

 呼ばれている事は分かった。だけど、まるで脳と身体が分離してしまったかのように、反応できない。

 

「ちょっと、聞いて――」

 

 咎めるような感情を乗せた瑠美衣の言葉が、不意に止まった。「え?」という、戸惑い混じりの声が聞こえて、視線がこちらに向いたのを感じる。

 

「アクア……なんで、泣いてるの?」

 

 ――ぽたり。

 

 頬を、何かが伝った感触と、瑠美衣の言葉で――初めて、愛久愛海は自分の視界が滲んでいる事に気付く。制御できない涙が、ポタポタと蒼い瞳から零れ落ちて、服を濡らした。

 どうして、と思考が遅れて浮かぶ。アイのパフォーマンスに感動した、わけではなかった。

 胸の奥が、ジワリジワリと軋んで、痛む感覚。後悔。悲哀。訳の分からない違和感が、内側から広がっていく。

 違和感の正体を探ろうとしても、()()()()()()()()()――何も浮かばない。それなのに、確かに“知っている”ような感覚だけが残る。

 

「う、あ……」

「え、ちょっと、アクア! なんで――う、ああああん!!」

 

 ……子供の感受性は、制御できないものだ。幼児であれば、なおさら。転生という経験があれども、身体はまだ幼く、周りで泣いている子がいれば――自然と釣られるように、涙が瑠美衣の紅玉のような瞳にも浮かんでくる。

 

「うわぁぁぁん!」

「うあ、うああ……」

 

 瑠美衣は泣いた。憧れの存在が、母が、アイがテレビの中で歌って、踊っていて嬉しいはずなのに。

 愛久愛海は泣いた。制御できない感情が、胸の中で暴れ狂って、締め付けられるような痛みが、心に走っている。

 

「ちょ、ちょっとどうし……! ああ、すみません、一度折り返させてください……!」

 

 泣き声が、電話越しに聞こえたのだろう。先方の問い掛けに、ミヤコは相手に見えもしない謝罪で頭を下げて、電話を中断した。

 困ったよう表情を浮かべたミヤコに抱きかかえられ、落ち着かせようと揺すられる。

 

 それが赤ん坊特有の睡眠欲にトドメを刺したのか、あるいは泣き疲れたのか。愛久愛海の視界は、ゆっくりと暗くなっていく。

 

 

 

 ――結局、何故泣いたのか、己自身でも分からないままだった。

 

 





推しの子原作、完結しましたね。小説「二人のエチュード」まで読みました。なんかもう……色々あったなぁ(小並感)

この二次創作を書いてる自分としては。色々想像していた設定などが噛み合ったり噛み合わなかったりで、複雑な心境でした。




こっから言い訳タイム


身内に不幸があったり、転職してブラック企業突入したり、そもそもログインできなくなったりと色々あって遅れました(震え)
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