偽物の仮面と真実のアイ   作:ななち

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ざけんなや

(執筆)時間が取れん

ドブカスが


ななち、春の残業祭り突入――


☆40話

 私の腕の中には、可愛い寝息を立てながら眠るルビーがいる。すやすや、って音が聞こえてきそうなくらい穏やかな寝顔を見ていると、思わずにやけちゃう。

 生まれてから何百回と思ったけど……私とマナトの子供達は、本当に天使だ。

 

 ニノちゃんが開催した突発的な女子会は、ただお菓子を食べるだけでは終わらなかった。

 ちょうどミネちゃんが出ていたクイズ番組が放送されていて、みんなで一緒に見たり……私は結局ひとつも分からなかったけど、選択肢問題になると、アクアが指さした答えが全部正解だった。

 偶然かなぁとも思った。でも、なんだか分かってて指してるみたいで。最後の方は、ミネちゃんが答えられるかより、アクアが当てるかどうかに注目が集まっていた気がする。

 

 それから、私が復帰した番組の録画もみんなで見た。ライブ映像で盛り上がったニノちゃんとナベちゃんが、テレビの前でミニライブを始めて……ルビーは目をきらきらさせて見ていた。

 ちょっとそれが悔しくなって、私も途中参戦したんだけど――近所迷惑だから静かにやれって、ミネちゃんに怒られた。始めたのニノちゃんたちなのに。もう。

 

 結局、踊ったり歌ったり、ライブ映像を見るたびにルビーがはしゃぐもんだから、最終的にはミネちゃんもやってた。

 

 

「……ふふ」

 

 

 ちょっと思い出し笑いをしながら、寝る時用の明るさにした部屋で、ベビーベッドへそっとルビーを下ろす。女子会の途中で先に眠ってしまっていたアクアの隣へ、なるべく音を立てないように。

 私の体温が離れたのが分かったのか、ルビーが少しぐずるみたいに手足をもたつかせる。けれど、ベッドに下ろした途端――あら不思議。

 

 アクアのおててを掴んで、大人しくなった。

 

 

「かっわいー……」

 

 

 ほんっとに、うちの子達は可愛い。目に入れても痛くないって、こういうことを言うんだろうなぁ。

 衝動のままポケットからスマホを取り出して、フラッシュを焚かないように一枚。暗い部屋だから少し見づらいけど、アクアとルビーの可愛さはちゃんと伝わる写真。

 

 それを、そのままマナトのLINEに送る。

 最近のマナトはドラマ撮影で外に出ずっぱりなことも多いから、こうして写真を送ることが増えた。私とマナトのスマホの写真フォルダは、ほとんどがアクアとルビーの写真だ。

 

 スヤスヤ眠る二人を起こさないよう、そーっと足音を消して部屋を出る。

 窓の外はもう暗い。結局、女子会は日が暮れるまで続いた。遅くなる前に帰りなさいって言いに来たミヤコさんまで巻き込んで、みんなで夕ご飯を食べることになって――……あ、キッチンから水を流す音が聞こえた。慌ててリビングに戻ると、ミヤコさんが夕飯の洗い物をしてくれてる。

 

 

「ごめんミヤコさん、手伝う」

「もう洗い終わるから大丈夫よ、座ってなさい。美味しいご飯作ってくれたお礼」

 

 

 ……まぁ、確かに夕飯作ったの私だけど。仕事でへとへとなミヤコさんに洗い物までさせるのもなぁ、と思ったけど、多分手伝わせてくれないだろう。ソファに座って待つことにした。

 さっきまで笑い声でいっぱいだったリビングには、テレビの音と、食器を洗う水音だけが残っていた。あれだけ賑やかだったぶん、急に静かになると少し寂しい。

 でも、みんな一応学生だし――私は中退組だけど――さすがにお泊まり会ってわけにもいかない。ニノちゃんは「泊まっていい~?」って言ってたけど、ミネちゃんが引きずって連れて帰った。

 

 テレビに流れてるドラマでは、クライマックスのシーンに入っていた。追いかけてたわけじゃないから、あまり前後の話は分かってないけど、ちょっと面白い……そろそろ最終回だっけ、このドラマ。これが終わったらマナト主演のドラマになるのかな――なんて思ってたら、キッチンから水音が途絶えて。

 

 

「アイ、コーヒー……は飲めないわね。ホットミルク飲む?」

「あ、うん。えーっと」

「砂糖多め、ハチミツ少しでしょ。マナトくんから聞いてるわよ」

 

 

 ……なんか、マナトを通じて私の好みとか、全部共有されてるんじゃないかって気がしてきた。多分、ミヤコさんだから教えてるんだろうけど、ちょっと恥ずかしいかも。と、いうか。

 

 

「ミヤコさん、今の時間からコーヒー? 寝られなくならない?」

「ちょっと仕事のことでやりたい事あるのよ」

「……もしかしなくてもウチの事務所ブラック……」

「ふふふふふ」

 

 

 ミヤコさんが乾いた笑い声をもらす。口元は笑ってるのに、顔全体がまったく元気じゃない。表情が死んでる。美人が無表情なの怖いってば。

 

 

「ウチみたいなタレントの数も少ない弱小事務所は、ブラック上等でやらないと生き残れないのよ」

「……うーん、そうだよねぇ」

 

 

 淹れたてのコーヒーの苦い香りと、はちみつのやさしい甘さが混ざった匂いを感じながら、天井のライトを見上げる。

 今の苺プロって、実質B小町とマナトでもってるようなもの……というか、ほとんどそれしかない。その分一人ひとりが強いんだ、って言えばそうなんだけど……。

 

 ミネちゃん達は、アイドルがメインなのは変わらないだろうけど、個人でやっていっても活躍できるんじゃないかって思う。

 マナトも今回の月9ドラマの主演の話で、もっと出演が増えていくんだろうな。今回は『ジキルとハイド』を見て惚れ込んだプロデューサーの大抜擢だったらしいけど……私のマナトだもん、人気出ないわけがない。

 

 ……現状で、前に進んでないのは、私だけ。一年以上の休止って、そりゃもう皆忘れちゃうよね……もうちょっと跳ねると思ったんだけどなぁ。見込み甘かった。

 置いていかれてる、なんて言うつもりはないけど。でも、立ち止まっているのが自分だけに思えちゃう。

 

 

「どうしたのよ、百面相して……」

「うーん……色々考える事があって……」

「……当ててあげる。復帰であんまり話題が跳ねなかったの、気にしてるんでしょ」

 

 

 ミヤコさんが、私の前にホットミルクが入ったマグカップを置きながら、呆れたように言う……私そんなにわかりやすい?

 

 

「そういうのは、あなたが売れるプロデュース出来なかった芸プロ側の責任よ。あんまり気にしないの」

「……でも、ちょっと焦っちゃうよ。全部上手くいく、って思ってたわけじゃないけど」

 

 

 口に出して、改めて思う。私、ちょっと焦ってる。だって。

 

 

「――今は私だけじゃないんだもん。アクアとルビーがいる。あの子達を幸せにするには、私が止まってちゃダメなんだ」

 

 

 眠ってるアクアとルビー。あの子達の事を思えば、もっと頑張らなきゃって気持ちが生まれてくる。だから、逆に焦っちゃってるのかもしれない。

 熱いミルクをふーふー冷ましながら、チラリとミヤコさんを見たら……なんか、微笑ましいものを見るような表情してた。

 

 

「……変わったわねぇ、アイ」

「え?」

「子供が生まれると女は変わるって言うけど……そのとおりね。あなた、お母さんの顔してる」

 

 

 ……ニノちゃんからも言われたけど、そんな顔してるのかなぁ。私、もうお母さんの顔も思い出せないから、よく分からないんだけど……。

 

 

「まぁ、あんまり焦らないことよ。しゃちょ……壱護さんとマナトくんが、あなた向けの仕事獲ろうって頑張ってるわ。信じて待ってあげなさい」

「むぅ……分かってるけどさぁ……映画とかCMとかドラマの仕事来ないかなぁ」

「だいぶ欲張ったわね……まだ復帰して1か月も経ってないのに」

 

 

 欲張りなのが私のアイデンティティなんですー。そう言って、ミルクをひとくち。うん、甘くて美味しい。

 ……そういえば、社長とマナトと言えば。

 

 

「マナトと社長って今何してるんだろ。マナトはさすがにもう撮影終わってそうだけど」

「二人は"男の付き合い"だそうよ。早い話がお酒ね」

「あー……連絡きてた気がする。お酒かぁ……美味しいの?」

「まぁ、私は嫌いじゃないけど……飲みたい?」

「興味ある」

「ダメ」

「えー」

「あと2年待ちなさい」

 

 

 まぁ、流石にルールを破る気はないけど。それにしても、マナトももう20歳なんだなぁ。成人式とか出るのかなぁ……うーん、出なさそう。あ、でも袴姿のマナトは見てみたい。絶対カッコいい。

 脳内で想像しながら、ミルクをすすってると……ピンポーンって、インターホンが鳴った。もう結構夜も更けてきてるんだけど、誰だろう。

 

 

「私出るね」

 

 

 マグカップを置いて、玄関までちょっと小走りで行く。鍵を開けようとして――その前に、ミネちゃんから言われた通りドアチェーンを掛ける。そーっと玄関を開ける。

 

 ……始めに感じたのは、鼻をつくツーンとした匂い。次の瞬間、ドアが乱暴に引かれて、張ったチェーンが金属音を鳴らした。

 思わずドアノブから手を離して、後ずさる。ドアの隙間から見えたのは、見慣れた金髪とサングラス……ってあれ?

 

 

「……社長?」

「おう、アイか……これ開けてくれ。マナト連れて帰ってきたから」

 

 

 その言葉に、慌ててドアを閉めてもらって、ドアチェーンを外す。今度はなんの引っ掛かりもなく開いたドアの先には、見知った顔が二人。社長とマナト――のはずなんだけど、マナトは社長に肩を貸され、ぐったりとうつむいていた。

 普段見ないマナトの姿に、胸の奥がきゅっと詰まる。

 

 

「マナト、大丈夫……? とりあえず、入って!」

 

 

 社長とマナトを入れて、支えられてない反対側のマナトの腕を支える。身長差があるから、あんまり支えになってないけど……至近距離でもう一度見るマナトの顔は、玄関の明かりの下だとわかりやすいぐらいに赤くなってる。

 ……っていうか、お酒臭い! 近づいて分かったけど、さっきドアを開いた時に感じた匂い、マナトの方だ!

 

 

「アイ、どうし……マナトくん?」

 

 

 バタバタやってたからか、ミヤコさんがリビングから駆けつけてきた。すぐにマナトの異変に気づいたみたい。まぁ、わかりやすくフラフラしてるもんね。

 ミヤコさんが、マナトの靴を脱がせてくれた。そのまま中に入ってもらおうとして――私が支えきれずに、マナトが壁に衝突した。そのまま、ズルズルと背を預けて座り込んでしまう。

 

 

「ちょっと壱護さん、どれだけ飲ませたの……!」

「いや、すまん……顔に出ねぇタイプみたいで、気づいたらこうなってた……」

 

 

 ミヤコさんが社長に怒る声を聞きながら、マナトの様子を見る。普段、しっかりしていて全然隙がないように見えるマナトがこんなんになるなんて……お酒って怖い。

 どうすればいいんだろう。お水飲んでもらった方が良いのかな。色々と思考は巡るけど、行動に起こせない。まずい、私も混乱してる。

 

 

「ん……」

「マナト?」

 

 

 マナトの半分以上閉じられてた瞼が開く。その中から見えた碧い目は、いつもと全然違って、トロンとしてて……不覚にも、可愛いと思ってしまった私がいた。マナトの口元が、にんまりって感じで弧を描く。普段見せてる笑みとは全然違う種類の、子供っぽい笑顔。

 

 

「アーイさんっ」

「へっ……? きゃっ!?」

 

 

 次の瞬間、視界がぐるりと揺れて、気づけばマナトの腕の中だった。ぎゅうっと抱き込まれて、びくともしない。いつもとは違う、力任せに抱き締めてる感じ。

 いつもはドキドキする距離なんだけど……お酒臭さでちょっと正気に戻る。

 

 

「……ふふふ」

「マ、マナト……?だいじょ――ひゃんっ」

 

 

 不気味な笑い声をあげ始めたマナトを心配してると――首筋に熱い息が掛かる。顔を埋められて――ざらり、と舌先が肌をなぞったのが分かった。変な声が出ちゃって、顔が熱くなる。

 身体をよじらせるけど、抱き込む腕はびくともしない。それがキッカケなのか、今度は耳たぶを吸われて――ゾクゾクって、背筋が震えた。

 どうしようもなくて、助けを求めようと社長とミヤコさんに視線を向けた……んだけど。

 

 

「へぇ……」

「あらまぁ……」

 

 

 ……なんで二人して、感心したみたいな顔でこっち見てるの! 変な声出たのはわざとじゃな――ひゃっ!

 

 

「――見てないで助けてってばぁっ!」

 

 

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 

 

 社長とミヤコさんに手伝ってもらって、なんとかマナトをリビングのソファに座らせることができた。その頃にはマナトの拘束も緩んで私も身動きできるぐらいにはなっていた……けど、 離れようとするたび、ぎゅっと抱き寄せられる。結局、私はマナトの膝の上に収まったままだ。

 二人には帰ってもらった。同じマンションだし、呼べばすぐに来てくれるって言ってたけど……私の大好きな人の可愛いところを、あんまり見られたくないから、呼ばない。今頃、社長がミヤコさんに怒られてる頃だと思う。

 

 にしても、意外だったなぁ。マナトがこんなに酔っ払っちゃうなんて。普段しっかり自制してるから、逆にはっちゃけちゃったのかな……私は20歳になったら、あんまり飲まないようにしよう。多分、マナトよりもひどい事になりそう。

 

 

「……アイ、さん」

「んー?」

 

 

 頭上から降ってくる声に、短く返事する。さっきから、うわ言みたいに私の名前を何度も呼ぶのだ。多分、寝言みたいなものなんだろうけど、それでも私の名前を呼んでくれるのが嬉しい。ちゃーんと、私がマナトの中にいるんだって実感する。

 

 

「マナト」

「……」

 

 

 だから、私も名前を呼ぶ。返事はないけど、きゅって、お腹の前に回された腕が締まるのが分かった。こうやって反応してくれるのも可愛いんだよね。

 

 

「大丈夫だよー。ここにいるよ」

「……」

 

 

 返事はない。でも、また腕の力が強くなった。なんていうか、甘えん坊って感じ。いつも甘えてくれないから、すごい新鮮。

 

 ……こういうの、良いなって思う。私がただマナトに甘えるだけじゃなくて、マナトも私に甘えてくれて。

 でも、アクアとルビーの前ではお父さんとお母さんになって、こんな顔を見せるのは二人きりの時だけで。うん、家族って感じだ。

 

 

「……ずーっと一緒だよ」

 

 

 回された腕を撫でて、全身を包んでくれる体温に安心する。慣れちゃったら、お酒の匂いも嫌じゃない。じわじわと眠気がせり上がってきて、頭がぼんやりしてくる。

 どうせ、私じゃマナトをベッドまで運べないし、このまま寝ちゃってもいいかなって。床に敷いてあるのはふわふわしたラグだから、もしずり落ちても、ちょっと身体が痛いくらいで済む……はず。

 うとうとして、瞼が重くなって。 意識が沈みかけた、その時だった。

 

 

 

 

 

「…………ごめん」

「――――え?」

 

 

 

 

 

 耳に届いた、マナトの小さな声。それに、意識を戻される。ぱっとマナトの表情を見るけど……完全に寝落ちしちゃったらしく、穏やかな寝息を立てていた。

 ……誰に謝ったんだろう。私? 男の人が急に謝る理由……浮気? なわけないか。マナト、私の事大好きだし。

 

 

「……ふああ」

 

 

 おっきな欠伸が出ちゃった……ダメだ、多分ホットミルクがトドメを刺したんだ。気になるけど……今日はいいや。

 視界が暗くなって、意識が落ちる。最後の一瞬、抱き締める腕だけが少し強くなった気がした。

 

 

 

 ……おやすみなさい、マナト。

 




普段しっかりしてる人が酔っ払って甘えてくるのって可愛いよね(性癖語り)
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