偽物の仮面と真実のアイ 作:ななち
(|)<「愛です。愛ですよ」
愛かぁ。それなら仕方ないなぁ。よろしくお願いします。
今回はちょっと短めです。
「佐藤社長、良い人だったね」
今日も日照りあっついなー、なんて思いながらスターボックスコーヒーからの帰り道を、マナトと並んで歩く。
マナトが日傘を差してくれてるから、ちょっとはマシなんだろうけど、それでも暑いのは暑い。
……傍から見れば相合傘だなぁ、これ。もし学校の子とかに見られたら、からかわれるかも。いや、私に話しかけてくる人はそんなにいないか。
「佐藤ではなく、斉藤さんですよ。アイさん」
「私、人の顔と名前覚えるの苦手だからなぁー」
マナトが困ったように笑う。名前を間違えるのは失礼、とは思うけど、覚えられないものは覚えられないんだ。そこは許してほしいな。
小さい頃に根付いた習慣は消えない。私は未だに周りの人の顔色を伺って、その場に最適な自分を演じるのに思考を割いちゃって。その結果、名前や顔が頭から飛んじゃう。
明確に覚えているのはマナトだけ。施設の子も、スタッフさんも正直に言って、全員が全員、顔と名前が一致する自信はない。
あ、でも帽子に缶バッジを付けてくれた子なら覚えてる。なんかぶっさいウサギ? みたいなの。結構気に入ってるんだ。
「しかし、まさか自分が芸能へ関わる事になるとは思いませんでした……運命とは数奇なものですね」
「えへへ、ごめんね?」
マナトには申し訳ない事をしたなーって今でも思ってる。いつも無茶言ったりしてる自覚はあるけど、今回は過去一で爆弾を放り込んだんじゃないかな。
それでも、私には――"星野アイ"が"星野アイ"である為には、君が必要なんだ。そうでないと、私はアイドルになんてなれない。
……そもそも、私はアイドルになる気なんてなかった。佐藤社長からスカウトされた時は、正直鼻で笑っちゃうような話だと思った。
だって、私は愛が分からない。誰かを愛するのが苦手、とか。そんなんじゃなくて、分からない。
お母さんに捨てられたあの日。お母さんから与えられていた愛は嘘なんだって理解してから、私は愛が分からなくなった。
マナトが私を愛してくれている、っていうのは分かる。分かるけど、その愛が嘘なのか、ホントなのかは分からないんだ。
それと同じだ。愛の分からない私がアイドルになって、ファンに対して愛してるなんて言ったら、きっとそれは嘘になってしまう。
嘘の愛なんて、与えられても傷付くだけなんだ。だから、私はアイドルに到底向いていない。そう思ってた。だけど。
――――良いじゃねぇか、嘘で。嘘にだって色々あるんだ。誰かを幸せにする嘘なら、いくらでもこいて良いと思うぜ。
佐藤社長は私にそう言った。誰かを幸せにする嘘なんてものがあるんだって思った。
――――結局の所、君も誰かを愛したいって思ってるんじゃないのか?
分からなかった。私は誰かを愛したいんだろうか、って考えても、結論は出なかった。だから、結局その場でスカウトは断ったんだ。
……佐藤社長が「名刺だけでも!」って迫ってきたのは、ちょっと気持ち悪かったけど。
一日、悩んだ。長風呂しすぎてのぼせた。マナトにずっと団扇で仰いでもらって、腕が筋肉痛になったって言ってた。ごめん。
悩んで、結論が出なかったから、相談した。あの日の公園で、マナトに付いてきてもらって、アイドルにスカウトされた事を言った。断った事も。
――――きっと、皆から愛される星になれます。
その言葉で、私は想像したんだ。たくさんのファンに囲まれて、愛を叫ぶ私。皆からの愛を、一身に受ける私。誰かを愛して、誰かに愛される私を。
きっと、私は嘘吐きになる。愛が分からないから。いっぱいいっぱい、嘘をつくことになる。でも、それでも、いつか、続けていればきっと――
嘘じゃない、真実の愛を理解できるようになる。
「ふーんふーん、ふふーん」
「……? 上機嫌ですね」
「そう?」
「ええ……アイドルになるの、楽しみなんですか?」
「んー……そうだねー、それもあるけど……」
……私は、不安定だ。時々、自分が嘘を言ってるのか、本心を言ってるのかも分からなくなる。その度に、マナトに愛をもらって、私は私を再確認するんだ。
だから、私のそばにいてほしい。嘘ばかりつき続けたら、きっと私は道を見失う。マナトは私に「星になれる」って言ってくれたけど、私にとっては君も道しるべの星なんだ。
いつか、その星に手が届くようになったら。私が愛を理解できるようになったら。
「えへへ、内緒!」
――私は、君に愛を返したい。他でもない、私を愛してくれた、君に。
アイって嘘をつき続けて、自分の中にある本物も全部嘘のフィルター掛けて見ちゃってるイメージあるんですよね。
その嘘を暴いてくれる人がいたら、ちょっとは変わってたのかなっていう妄想をこの小説にぶつけてます。