偽物の仮面と真実のアイ 作:ななち
めっちゃくちゃアイを甘やかす文章を書いた後は、とても幸せになれます。
・アイドルMV視聴
・アニメ1話再視聴
・原作1巻再読
わァ……ぁ……あ……
(|)<「喜びしか知らぬ者から祈りは生まれません」
アイドルは思った以上に大変だ。昼はレッスンにボイストレーニング、夜は家でもダンスの振り入れ。体形の維持や健康にも気を使わないといけない。
特にそれが重なった時は、もうへとへとだ。お風呂に入るのすらだるくなるくらい。
それでも何とか気力を振り絞って、お風呂から上がって寝間着をつけて……佐藤社長がマナトと入るのを禁止しなかったら、こんな疲れなくていいのに、って今でも思う。
洗面化粧台の前で、鏡に映る私を見る。明らかに疲れた表情をしていて、こんなの絶対表じゃ見せられないって顔してる。
アイドルは、嘘吐きだ。鏡を見て、笑顔を浮かべて。口角や目の細め方も、全部計算して。一番喜んでもらえる笑顔を振りまいてる。それが楽しくないわけじゃないけど、正直に言えば、少し疲れる。だから、こういう時は──
「マナト~!」
「はい、呼びましたか?」
甘えるに限る。ってかやっぱすごいや。洗面所の外にあらかじめ待機してたんじゃないかってぐらい、反応が早かった。愛されてるなぁ、私。
マナトは呼ばれた理由が分かったのか、ちょっと困った表情を浮かべて。いそいそとヘアケア用のグッズを用意してる。流石マナト。私がしてほしい事分かってる。
「スキンケアは自分でやってくださいね。斉藤社長に怒られます」
「はーい」
マナトが柔らかいタオルで、私の髪を優しく拭いてくれる。その間に、私は化粧水や乳液を顔に塗っていく。肌はアイドルにとって命だ。ニキビなんか出来ようものなら、一瞬で商品価値が下がっちゃう。コンシーラーとかで隠せなくはないけど……出来るならやりたくないし。
「ヘアオイル塗りますね」
「は~い」
髪に艶を出すには、寝る前のケアが一番大切……らしい。なんだっけ、"なんとかオイルトリートメント"? を、優しい手付きで塗ってくれる。
うーん、髪の毛は女の命だって誰かが言ってたけど、じゃあ今私はマナトに命を握られてる事になるね。うん、良いかも。
「ドライヤーあてますよ」
「おねが~い」
頭をマッサージされながら、ドライヤーをあてられる。温かい風が疲れた体に染み渡る。この時間が一番幸せかもしれない。
そんな事を考えてたら、足音が近づいてるのを私のスーパー聴覚が捉えた。昔は嫌だったけど、今だとちょっと便利かも。
「マナトくん、どこに……って、はぁ。アイ、また?」
「にへぇ~……今日は頑張ったから許してよ~ミサエモ~ン」
「ミヤコ。ドラ〇もんみたいに呼ばないで……しかも、ミしか合ってないし」
ミサエ……ごほん、ミヤコさん。佐藤社長の奥さんで、すっごい若い。"B小町"のメンバーも、社長の若い子贔屓にマジで引いてる。
一応は、戸籍上のお父さんである佐藤社長の奥さんだから……お母さんになるのかな? ちょっと歳の離れたお姉さんぐらいの差しかないけど。
「はい、終わりましたよ。ほら、部屋に行きましょう」
「だっこ~」
「ダメよ。ちゃんと立ちなさい」
マナトにお姫様抱っこを要求してみたけど、ミサエさんに止められた。なんでも、出来る限りマナトに甘えずに行動するようにしてくれって、佐藤社長に言われてるみたい。
私がマナトに甘えるのは、自然の摂理で当然の権利のはずなんだけど。おっかしいなぁ。
仕方ないから、歩く事にする……正直、ダンスレッスンで足を酷使したから、歩くのも辛いんだけどね。
☆
ベッドに飛び込む。思いっきり息を吸い込む。マナトの匂いがする。幸せ。
佐藤社長は、部屋を貸してくれる時にマナトと私の分の二部屋を用意してくれたんだけど、私の部屋は実質物置になってる。
だって私、マナトと一緒に寝るから。施設の頃からそうだったし、これからもずっとそうだと思ってる。
「飛び込んだら危ないですよ、アイさん」
「大丈夫だよー柔らかいし。ほら、マナトも来て」
マナトの部屋は、本だらけだ。海外の小説、古い小説、新しい小説。中にはライトノベル? っていうのもあるみたいだし、雑多だなぁって思ってる。
たまにマナトからおススメされる事もある。前は……なんだっけ、"電気鼠はサイボーグの夢を見るか"だっけ。読んでみたけど、2ページ目で挫折した。
本から漂う紙の独特な匂い。その中に混ざる、マナトの甘い匂い。この部屋の雰囲気が、私は大好きなんだ。
マナトがベッドに入ってくる。優しく布団を掛けてもらって、私はマナトに包まれながら眠るんだ。
鼓動の音が聞こえる。優しい音。ああ、今日はホントに疲れてるんだなぁ。いつもは三十分ぐらい起きて、マナトと話したりしてるのに。マナトの腕に抱かれるだけで、もう眠くなってきちゃった。
……ああ、でも。最後に、これだけは。
「……あいしてるって、いって」
「……はい。愛してますよ、アイさん」
……うん、今日も良い夢が、見れそうだ。